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その１・ドラマの件 ちょっとした頭の体操です。 以下の文章を読んで、その理由を推理してみましょう。 そんなに難しくない（はず）です。 うす暗い部屋。俺はベッドに寝そべっている。 窓を開ければ秋の夕暮れ。そろそろ、虫たちの大合唱が聞こえてくる時間である。 都会から引っ越して正解だった。 くたびれたアパートだが、ここでは時間がゆっくりと過ぎるような気がするのだ。 近くにはスーパーもあるし、一人暮らしの男には十分な広さもある。 気の利いた喫茶店も本屋もある。 中堅どころの作家には、ちょうど良い環境であろう。 今日の分の原稿を片付け、そろそろ始まるお気に入りのドラマの事など考える。 このドラマは『朗らか家族』という。 男勝りのカーチャン、うだつの上がらないトーチャンと、３人の賑やかな子供たちが主役のドラマである。 大抵は子供たちの誰かがちょっとした事件を起こし、すったもんだの末に解決する。 涙と笑いの黄金のパターンだ。 ３０年近く昔にそこそこの人気があったドラマであり、今、再放送をしているのだ。 この時間帯は、どこのテレビ局も皆、ニュースばかりで面白くない。 この年齢で漫画を観るのも気が引ける。 そういうわけで、何となく観始めてしまったドラマなのだが、これがなかなか面白いのだ。 まず、懐かしい設定が良い。 今となっては手垢の付いた設定だ。手垢が付くとはすなわち、それがスタンダードであるからだ。 ちょうど執筆中の作品と登場人物の背景が重なる事もあり、思いがけない勉強にもなる。 大御所の俳優ではない所も良い。 やや大げさな演技が自然なのだ。 つい流れで観てしまう。そんな感じのドラマなのである。 このアパートは壁が薄い。 隣の家のテレビの音も、微かに聞こえてくるのである。 「…ちゃんと野菜も食べなさい…」 「…カーチャン、おかわり！」 「…まだ残ってんじゃないの…」 やれやれ、と苦笑しながら、俺はタバコに火をつけた。 残念ながら、俺は今日、『朗らか家族』を観られないらしい。 さて、ここで問題である。 俺はなぜ、ドラマを観られなかったのか？ もちろん俺の部屋にはテレビがあり、故障もしていない。 『朗らか家族』はごく普通の地上波で、アンテナも良好である。 最終回はまだ先だし、スポーツなどで潰れたわけでもない。 急用も入っていないし、病気や怪我もしていない。 答が分かった方は、以下に進んで答合わせを。 分からない方も、じっくりと考えた後にご確認いただきたい。 back home |