テーブルトーク(TRPG)シナリオ


■SINGER■


2010.03.01

 ■システム:ファンタジー物である事
 ■プレイ人数:大人数が吉、男性PC必須
 ■適したPC:戦闘系のPCは多くて吉
 ■基本の流れ:お姉さん達と冒険活劇
 ■プレイ時間:3〜4時間程度



 久方ぶりにTRPGシナリオです。
 システムは汎用ですので、お好きなファンタジー物のシステム・舞台にてご使用いただけると思います。
 今回はごくストレートな物語を目指しました。・・・が、やり様によってはいくらでも延ばせるという感じになりました。
 お姉さん達の魅力をたっぷりご堪能願います。

 注:はっきり言ってそのまんまエロゲーのシナリオに使えます(笑)。それでも中身は、相当にほろ苦い要素も含んでおります。一応。

 プレイに関して注意する所はただ一つ。
 どれだけお姉さんや美少女を魅力的に語れるかにかかってます。
 それではご賞味ください。


■ページ内検索


 ■登場人物
 ■アオリ
 ■動機付け
 ■導入
 ■決死の救出
 ■救いの女神(?)
 ■修道院へ
 ■手厚い? 歓迎
 ■楽しい夕食
 ■忘れ得ぬ記憶
 ■仕事の依頼
 ■夜の修道院
 ■図書室、その他
 ■小さな絆
 ■孤立
 ■悪夢、再び
 ■戦闘
 ■叫び
 ■勝利へ
 ■旅立ちの朝
 ■そして未来へ
 ■終わりに



■登場人物

【盗賊団の女頭目】
 20代。生涯語り継ぎたいほどの素晴らしい巨乳。豪放磊落な姉ちゃん。

【盗賊団の構成員】
 年齢はそれぞれ。いずれも屈強そうな男達だが全員適度にバカばっかり。

【盗賊団のゲイ男】
 ヒゲの剃り跡も青々しい、筋肉質のオッサン。男性PCは要注意。

【身寄りの無い少女】
 幼女でも可。可憐で儚げな、人見知りの激しい子。実は口が聞けない。

【修道院のマザー】
 まだ20代。神に喧嘩を売ってでもゲットしたい巨乳。高貴で清楚な美人。

【新人シスター】
 10代後半。元気いっぱいの可愛い娘。いわゆる典型的なドジッ子。

【その他シスター達】
 年齢はそれぞれ。いずれもすこぶる付きの美女達(ゲームですから)。


■アオリ

 雨に閉ざされた修道院。各々の運命に導かれて人々は集まる。
 そして扉が開かれた時、第二の恐怖がやって来る・・・。
 PCたちは、数奇な天の采配に翻弄される。
 まったく立場の違う者たちの奇妙な絆と、残酷な偶然から未来を勝ち取るための物語。
 明日をチップに、冒険者は賭けに挑む。


■動機付け

 最近のTRPGでは、PC一人一人に『冒険する上での動機付け』を前もって配布する事が多くなっています。システムによってはハンドアウトなどと呼ばれています。
 今回のシナリオに関しては、以下のようになります。

 PC1・推奨職業:戦士系
 君は強敵を追い求めている。君が今回旅する先には、かつて邪悪な力で何人もの命を奪った魔族の伝説がある。
 すでに退治されて久しいらしいが、その伝説を辿っていけばきっと真の敵に出会えるだろう。


 PC2・推奨職業:学者または魔法使い系
 君は真実を追い求めている。君が今回旅する先には、どのような目的で建てられたのか分からない石碑がある。
 それには古代文字が刻んであり、不気味な廃村に建つという。その謎を解き明かすのは君だ。


 PC3・推奨職業:吟遊詩人系(サブ技能可)
 君は失われた人々を探している。君が旅する理由は、何年か前に故郷の村で出逢った楽隊に今一度逢うためだ。
 彼らの歌と音楽が今の君を造った。成長した自分を見て欲しいが、今はどこを旅しているのか。


 PC4・推奨職業:僧侶系(サブ技能可)
 君はある修道院を目指している。いくつかの大事な手紙を携え、山奥のどこかにあるというその場所を目指す。
 手紙は修道院のシスターたちの家族から、その肉声を伝えるものだ。必ず彼らの声を届けたい。


 PC5・推奨職業:戦士または盗賊系
 君はかつての好敵手を探している。それは女性で、当時の君が遠く及ばなかったほどの技量の持ち主だった。
 彼女はどうも盗賊のようだったが、今は何をしているのだろう。ぜひまた手合わせをしてみたい。


 ひとまず5人分のみ紹介します。PCの人数が増える場合は適度に自作するか、「PC1」以降を増刷して配布願います。
 逆にPCの数が少ない場合は、数字の小さいものを優先して使用するか、以降の章を読んで必要と思われるものを採用してください。
 ただし、PCの数があまりに少ない場合は非常に厳しいミッションと成り得るので、その点はご留意願います。

 GM注:なお、これら動機付けがなくても問題なくプレイできます。
 以降の章は、動機付けを配布しない場合を想定して記載してあります。
 動機付けを配布する場合はPCたちの意向を汲みつつ、密接にNPCと絡ませたストーリー展開を意識してマスタリングしましょう。
 より充実した達成感を得たいなら、ぜひ挑戦してみてください。


 動機付けを採用する際は、必ずシナリオを始める前に全PCに上記を配布し、よく読んでもらった上で開始します。
 PCたちの準備が整い次第、いよいよ物語は始まります。


■導入

 舞台は険しい山道で、ものすごい土砂降りの中です。
 PCたちはごく普通に旅していたのですが、1時間ほど前に突然の雨に見舞われてしまったのでした。
 状況は以下の通りです。

 ・ 道はゆるやかな下りで、小さな馬車がすれ違える程度の幅。道の片側は山、もう片側は底が見えない程の谷底。
 ・ PCたちは山をぐるりと越えて来た。今さら後戻りはできない。
 ・ 道の先に何があるかはPCたちの誰も知らない。
 ・ 雨は突発的で、どんどん激しくなっている。そして道はすでに川のようになっており、踏み外したらヤギでも命が無いだろう。


 今さら引き返すわけには行かず、またテントなどを張る場所も時間も無いので、仕方なしにPCたちは山道を急ぎます。

 GM注:いきなり豪雨のシーンから始めてください。典型的な巻き込まれ型のシナリオです。

 この時、はるか上方で何かの音が聞こえます。知覚系ロールを全PCに要求してください。
 音の正体は「地響き」で、どんどん大きくなっていきます。早く逃げないと大変な事になりそうです。

 GM注:山の上で地滑りが起きています。適度に不安と緊張を煽りましょう。

 敏捷系ロールなどを行い、PCたちはその場から逃げ出します。
 その時、盛大な音を立てて大量の土砂が降ってきます。
 ここでPCの最低一人は土砂に飲まれる事を選択(強要ですが)するようにお願いします。

 GM注:今後の展開上、そのPCは男性のキャラとした方が良いでしょう。女性キャラの場合は若干の修正が必要となります。


■決死の救出

 まだ死んでません(笑)。
 埋まってしまったPCは、奇跡的に道端に引っかかっています。ですがこの豪雨の中、放っておいたら確実に死ぬという事も伝えてください。

 GM注:怪我の度合いは序盤なので軽めにしてあげましょう。ですが、このままでは生き埋めか転落死が待っています。

 逃げ遅れたPCには大量の土砂が覆い被さり、極めて危険な状態です。全員の力で救出作業を始めましょう。
 筋力系ロール、またはある種の魔法などが役に立つかもしれません。しかし土砂の量からして、救出は絶望的に見えます。

 生き埋め状態のPCには生命力ロールなどが必要になるかもしれません。その辺は状況によって使用させてください。
 雨は無情にも降り続け、道は濁流となってPCたちを襲います。また、土砂崩れの第二波がいつ来るか分かりません。
 数ターンに分けて協力ロールを行い、緊張感を演出するのも良いでしょう。

 ここでGMは、逃げ遅れたPC以外のすべてのPCに知覚ロールを要求してください。
 PCたちが来た方角から、馬車が近付いて来るのが見えます。


■救いの女神(?)

 現れたのは、2頭立ての馬車が数台。
 馬車に乗っているのは実は盗賊団なのですが、もちろんまだPCたちにはその事は分かりません。

 GM注:盗賊団の人数は、全部でPCたち×2名とします。馬車の台数はそれに合わせて前後させてください(3台程度かと思われます)。

 PCたちは助けを求めるかもしれません。そうでなくても土砂のおかげで馬車が通れないので、彼らは停止します。
 すぐに先頭の馬車から一人の女性が現れます。
 ロール無しで以下の情報が分かります。

 ・ その女性は背が高く、遠目にもはっきりと分かる美人で、なおかつその下で雨宿りができそうなメーター超え確実の暴力的な巨乳である。
 ・ 他に数人、ガラの悪そうな男たちが馬車から顔を出している。
 ・ 総勢10人前後はいるように見える。


 PCたちの声が聞こえたか、その女性はすぐに馬車の男たちに土砂の撤去を命じます。
 男らしく気風のいい、アネさん的な雰囲気を出せれば最高です。

 GM注:外見に関して多くは語りませんが、例えば「眼帯をしている」とか「顔に傷がある」とかそれらしい特徴を付けてあげても良いでしょう。
 ただし、巨乳だけは絶対に譲るべきではありません(笑)。


 男たちの作業中、その女性は言います。

 「人が埋まってやがんのかい? そいつぁ大変だ、おう野郎共! キバッて仕事しな! グズグズしやがったら承知しないよ!」

 男たちは50メートル先からでも山賊と分かるような風貌の者ばっかりですが、女性の叱咤に答えるかのように熱心に土砂を撤去します。
 嫌々やっている節はなく、みな真剣です。本気でPCたちを助けようとしているのです。
 やがて埋まっているPCを押し潰すかのごとくに巨大な岩が現れますが、その女性は軽々と岩を抱えて谷底にブン投げます。

 GM注:強烈な印象を残すため、しっかりと演出しましょう。
 バイオニック・ジェミーと腕相撲やって勝利するくらいの勢いが出せると良いでしょう。


 ここで埋まっているPC以外は知覚ロールを行ないます。
 達成値の低い順に、以下の情報が分かります。

 ・ 今しがた女性のブン投げた岩は、自然石ではなく人工的に切り出された物のような感じを受けた。
 ・ その岩には、何かの文字が彫られていた。
 ・ その文字は、古代の呪文のようだった。


 GM注:もちろん以降の伏線ですが、今はそれどころではありません。あっさりした描写に留め、どんどん進めて構いません。

 埋まっていたPCは辛くも生還します。あと一歩遅かったら、谷底に1回限りのフリーフォールをしていたでしょう。
 そんなPCを軽々と抱き上げながら、女性は優しく言います。

 「無事かい、兄ちゃん? おっと、体が冷え切ってるじゃねぇかい。おう野郎共、バンバン火ィ焚きな! あと毛布だ! 残りの奴らは馬車が通れるようにしな! 5分で終わらせるよ! グズグズすんな!」

 GM注:死にかけたPCへのご褒美というわけでもないのですが、今度はその感動的に巨大な柔らかい胸にたっぷり生き埋めとなってもらいましょう。

 ここまで来ると、その女性とPCたちの間で会話もできるでしょう。
 もちろん女性は盗賊団の女頭目なのですが、自分からそれを明かしたりはしません(当たり前です)。
 名前を名乗り、商売については適当に誤魔化します(行商人など)。そしてPCたちを自分の馬車に同乗するよう誘います。

 GM注:ここは渡りに船でしょう。徒歩で行くとなると、いつまた土砂崩れに巻き込まれるか分かりません。
 折りを見てまた頭上に地響きを起こすなど、GMは必ず馬車にPCたちを乗せるようにしてください。
 慎重すぎるPCがダダをこねるかもしれませんが、そういうなぜ冒険しているのか分からないような臆病者には、もし物取りだったとしてもこれ以上状況は悪化しない事を伝えてください。


 ここで分かる状況を列挙します。

 ・ 男たちは彼女の事を「アネさん」または「お頭」と呼んでいる。
 ・ 「お頭」と呼ばれると彼女は怒る。
 ・ 馬車は不揃いで、製造番号やら製造者の名前が削り取られている(つまりおそらくは盗品である)。
 ・ てか明らかに盗賊だろこいつら。
 ・ しかし気概に満ち、作業は組織立っていて素早く、そして何より埋まっていたPCの命の恩人である。


 瞬く間に馬車が通れるほどの道が開き、そして生き埋めにされたPCは彼女の馬車で手厚い看病を受けます。
 PC全員が馬車に乗ったら以下に進みます。


■修道院へ

 先頭の馬車には何とかPCたち全員(生き埋めになったPC含む)と女頭目、そして一人の御者が乗り込めました。
 残りの男たちは後ろの馬車に詰め込まれています。
 生き埋めになったPCは毛布にくるまれ、かたくなに女頭目に抱っこされています。

 GM注:女頭目みずからスープを口に運んでくれたり、脱いで暖めようとさえしてくれます(さすがに男たちが止めますが、シャッターチャンスは逃さないようにしてください)。
 一瞬、一条の大きな古い傷跡がその豊かな胸の谷間に見えます。これも伏線ですので忘れずに演出しましょう。


 ちなみに、御者はゲイです(笑)。
 突然ボーントゥ・ラブユー歌いそうな雰囲気に溢れています。
 女頭目の代わりに自分が脱いで暖めようとし、女頭目に派手にブン殴られたりしています。

 GM注:別に必要ないシーンです(笑)。ただし、この手の細かい演出の積み重ねが、テーブルトークの醍醐味とも言えます(クドくならない程度に)。
 今後もこの男は、事あるごとに男性PCの尻を撫でたりします。


 豪雨の中、馬車に揺られて女頭目と会話をします。他にも色々と揺れていますが先へ進めます。
 以下にここで分かる事を挙げておきます。

 ・ 彼女たちの人数が分かる(PC×2)。
 ・ 彼女たちは、仕入れた品物を遠くの街まで売りに行く所である(おそらく盗品である)。
 ・ 馬車の戸棚から仕入れの品がはみ出している。かなり高級なドレスの類のようだ。知識ロールなどをすると分かるが、明らかに彼女たちに買える額ではない。
 ・ この道を抜けた所に教会だか何かがあるはずだ。そこだけは開けた土地だから、雨が止むまでそこに軒を借りようかと思う。


 こうして話をするうちに、激しい雨にも負けず、後続の馬車から陽気な男たちの歌声が聞こえてきます。
 歌は別に何でも良いのですが、一例として以下を挙げておきます。


Hi ho, Hi ho

It's home from work we go

(whistles)

Hi ho, Hi ho

(more whistles)


(以下、日本語版)

ハイホー ハイホー

声をそーろーえー

みんなで楽しく いざー

ハイホー ハイホー

ハイホー ハイホー

ほがーらかにー

楽しく歌えば いざー

ハイホー!



 GM注:実はこれも伏線です。必ず何らかの歌を挿入してください。
 生き埋めにされたPCは、次のシーンまでにHPを復活させて構いません。


 こうして嵐の中、ひとまず和やかに馬車は進みます。
 しばらくすると開けた場所に出て、その先に何やら建物が見えてきます。時間はもうとっくに夜になっているでしょう。


■手厚い? 歓迎

 そこは小さな修道院で、申しわけ程度の畑と羊小屋が見えます。窓はよろい戸が閉まっていますが、その奥から微かに光が漏れています。
 周囲には誰もいません(豪雨なので)。
 女頭目は馬車を停めると、修道院の入口を派手にノックします。

 知覚ロールなど行なっても構いませんが、怪しいモノは何一つ感じられません。単なる修道院のようです。

 ノックの音に答えて鍵が外され、入口の扉が開きます。中から現れたのは、赤い服を着た小さな少女でした。
 手にはオカリナを持っており、奥からはオルガンの音が聞こえてきます。
 その少女は、PCはともかく女頭目と男たちの姿に肝を潰して(当たり前です)、中にそそくさと逃げて行ってしまいます。

 GM注:悲鳴は上げません。この少女は喋れないのです(耳は聞こえるようです)。
 オカリナとオルガンは重要な伏線です。さりげなく演出してください。


 女頭目も手下たちもバカなのでなぜ少女が逃げたのか分かりませんが、ともかくズカズカと中に入って行きます。
 中は小さいながらも整頓された礼拝堂になっていて、奥に古いオルガンが見えます。その先に左右二つの扉があります。
 ほどなくしてその二つの扉が開かれ、中からワラワラとシスターたちが出てきます。
 その手にはもちろんホウキやら角材やらが握られています。

 GM注:一人、登場時に思いっきりコケるシスターがいます。ドジッ子シスターですが、先ほどのゲイ男と同じく、適当にPCたちと絡ませてください。
 この場面を女頭目たちに任せているとラチがあきません(バカなので)。
 ここはPCたちが自発的に間を取り持つような形が理想です。


 誤解が解ければ、シスターたちは安心して武器を置きます。
 先頭に立つシスターがPCと女頭目たちに話しかけます。

 「あらあらあら、これは失礼を致しました。何もおもてなし出来ませんけれども、どうぞお体をお休めくださいませ」

 どうやらこの女性は、シスターたちを束ねる立場(マザー)のようです。
 女頭目に負けずとも劣らない神をも畏れぬ凶悪なバストを持ち、凛として清々しくそこに立っています。
 マザーの背後には、先ほどの少女がまだ疑わしそうな目をこちらに向け、しっかりとマザーの服を握って隠れています。
 マザーがひと声かけると、シスターたちが夕食の準備に扉へと消えて行きます。しかし先ほどのドジッ子シスターだけは去る事を許されず、「山賊が攻めて来た」という勘違いについてお叱りの言葉を受けます。

 GM注:山賊で合ってます(笑)。彼女は今後も事あるごとにマザーに優しく怒られ、その度にさめざめと泣きます。
 また件のゲイ男は女だらけのこの場所が気に食わず、何かにつけてPCやシスターに絡んで女頭目から張り飛ばされます。


 マザーによる、優しいけれど背筋が凍るようなお説教が済んだ後は、夕食まで礼拝堂内にて休むように言われます。
 ここで分かる事を以下に記載します。

 ・ 見た所、修道院にはPC+2名のシスターたちがいる。
 ・ マザーの説明によると、修道院の構造は1Fが礼拝堂(3Fまで吹き抜け)と控えの間、風呂、食料の貯蔵庫。2Fが広間と厨房、シスターたちの部屋。3Fがマザーの部屋と書庫(上階ほど狭くなる)。
 ・ オルガンを弾いていたのは実はドジッ子シスターであり、マザーいわく唯一の取り得であるらしい。
 ・ 赤い服の少女は孤児で、この修道院にて預かっている。いずれはシスターとして立派に育って欲しいが、色々と問題があって今は自由に育てている。


 GM注:少女の問題の中身についてはマザーは語りません。知性・教養ロールなどで、少女が喋れない事に気付かせても構いません。

 宗派なども分かりますが、システムによって差し障りのない一般的な宗派にすると良いでしょう。
 休んでいる間、女頭目は手下に命じて仕入れの品(ドレス等)を馬車から持って来させます。軒を貸してくれた恩に報いるため、それらを修道院に寄贈しようとの事です(盗品ですけど)。
 手下たちも誰一人文句は言わず、その命令に従います。

 しばらくすると、夕食の準備が整います。


■楽しい夕食

 何しろ人数が多いので、夕食は礼拝堂にて採る事になります。その事に対してマザーはとても申し訳なさそうに頭を下げます。
 余談ですが乳が凄い事になります。
 女頭目はまったく気にせず、むしろ押しかけてしまった事について軽い口調で謝ります。
 手下の一人が酒を出し、女頭目にブン殴られたりしています。
 もちろんドジッ子シスターは派手に転んで大変な事になったりします。

 食事が始まる前に、女頭目は例の仕入れ品のドレスをマザーに贈ります。
 シスターたちは大歓声です。

 GM注:ここだけは普通の女の子にしてあげましょう。ただし、マザーだけは微動だにせず立っています。
 この事を説明した上で、PCたちに知覚ロールを薦めましょう。目ざといPCなら、マザーの表情が一瞬だけ光り輝き、その後ちょっとうつむいて首をプルプルと振ったのを見つけられるでしょう。


 マザーに優しくたしなめられると、シスターたちは素直に謝ります。ちょっと残念そうですが、みんな真面目なシスターのようです。
 マザーは受け取れないと言いますが、女頭目の押しの強さに最後には受け取ってくれます。
 控えの間に贈り物をしまわせると、いよいよ楽しい食事の時間です。

 食事は質素で量も少なめですが、それでも心のこもった暖かい食事です。
 マザーも含め、シスターたちは食事の間は姿を消します。

 GM注:PCの中に僧侶などがいる場合は、食事の前のお祈りなどをしてもらいましょう。盗賊たちに任せておくともう食ってる奴とかが出ます(そしてブン殴られます)。

 食事の間に、会話も楽しく弾むでしょう。大抵はうさん臭い武勇伝ですが、重要な話も出てきます。
 その中で分かる事を以下に列挙します。

 ・ 女頭目は、何かというと手下に歌を歌わせるらしい。また本人も、どうしてこんな仕事をしているのか不思議なくらいの美声だ。
 ・ その事を言うと怒る(恥ずかしいらしい)。
 ・ 女頭目の傷跡の事を尋ねると、最初は「熊と戦った」などと答える。しかし知覚・知識系ロールなどで嘘だと分かる(明らかに熊ではない)。
 ・ なおも問えば、数年前(少女の年齢マイナス4年)に、ある恐ろしい魔族に襲われた名残りである事を教えてくれる。
 ・ 魔族の正体は分からないが、確か村を一つ全滅させた後、どこかの聖職者だか高僧だかが退治したという話らしい。


 GM注:PCが傷跡について忘れていそうな場合は、さりげなくその豊満な胸の谷間からチラリと傷跡が覗く演出を入れましょう。
 そういう場面に事欠かないほど色々と危ない服装をしています。


 どんな魔物だったかは、女頭目も憶えていません。ただ無数の怪物を引き連れ、そして山のように大きかったと言います。
 嘘を言っているようには見えません。ただ何年も前の事なので、誇張されているかもしれません(彼女自身にも分かりません)。

 その話をした時、奥の扉の絨毯の上で何かを落とした音がします。知覚ロールをしても良いでしょう。
 そちらに注意を向けると、小さな足音が走り去って行きます。
 もちろん音の正体は少女ですが、姿は見えませんでした。
 そして薄く開いた扉の下には何かが落ちています。

 GM注:PCの誰かに拾わせましょう。それはオカリナであり、少女が落としていったものです。
 PCは、少女にオカリナを届けようとするかもしれません。その行為自体は良い事なので止めなくても構いません。


 女頭目は、そのオカリナを見て一瞬固まります。知覚ロールでそれが分かるでしょう。
 理由を聞いても答えません。あるいは「何でもない」と言います。
 心理学ロールなどを行なった場合、彼女が激しく動揺しているのが分かります。ただしその後一切態度には表しません。

 PCがオカリナを届けようとするか、食事が終わった事を報告するなどして奥の扉を覗くと、そこにはマザーがいます。
 後ろ姿であり、大きな鏡に向かっています。
 そっと贈り物のドレスを出し、それを肩に当てて揺れながら、楽しそうに鼻歌など歌い出します。
 PCが鏡に映れば、急に動きが止まります(笑)。

 パサリと落ちるドレス。
 人間がこれ以上赤くなれるだろうかというレベルにまで真っ赤になり、しどろもどろにマザーは弁解を始めます。
 「ち、違うんです! ・・・お願いですからシスターたちには内緒にしてくださいませ・・・。わたくし、何でも致しますから・・・」などと頼まれます。

 GM注:「そのまんまエロゲーのシナリオに使える」と書いた理由がお分かりでしょうか(笑)。
 されど、あんまりアレな事はさせないでやってください。今のところ悪人は一人も出ていないのに、PCがその最初になるのは避けた方が無難です。


 マザーも相当アレですが、やはり気になるのは走り去った少女です(お願いだから気になってください)。
 マザーに聞けば、この部屋に入る時にマザーとすれ違い、そのまま上階に走って行ったとの事です。
 控えの間より先に立ち入る事は(男女の別なく)やんわりと断られますが、オカリナはマザーが届けてくれるそうです。

 GM注:押し入ってはいけません。不法侵入になります。

 オカリナを受け取ったマザーは、ふと気付いて尋ねます。

 「普段は走ったりしない子なのに・・・。一体、何があったのですか?」


■忘れ得ぬ記憶

 ここで先ほどの女頭目の話になるでしょう。
 その話を聞くと、マザーの顔は蒼白になります。明らかにその事件を知っている様子です。
 場所を礼拝堂に移し、マザーは話し始めます。先ほどの女頭目の話を併せて、分かる事は以下の通りです。

 ・ あの少女こそ、例の事件の生き残りである。女頭目も同じ境遇と聞いて、マザーはその偶然に驚く。
 ・ 女頭目はそれが元で孤児になり、盗賊、もとい行商人(と言い直す)に身をやつしてしまった。
 ・ 女頭目と同じく、あの少女も4歳の時にその事件で家族をすべて失った。そしてその事が元で言葉を失ってしまった。
 ・ 伝説では、ある高名な吟遊詩人が命と引き換えにその魔物を倒したそうだ。どのような方法によってかは分からない。


 そして最後に女頭目が付け加えます。

 ・ 魔族の手下共には肉体があった。だから村人でも戦えた。
 ・ だが親玉は山のように大きく、心の底まで響く声で話す。そして奴の手に掴まれた瞬間、何も見えなくなってしまった。


 ここまで話した時、再び奥の扉が開かれます。
 そこに立っているのは先ほどの少女と、ドジッ子シスターでした。
 ドジッ子はさすがに空気を読んでか、おずおずと皆に尋ねます。

 「あの…。この子のオカリナ、ご存知ありませんか…?」

 PCまたはマザーがオカリナを渡そうとすると、女頭目が進み出てオカリナを手に取ります。
 そして少女の目線までしゃがみ、ちょっとオカリナを吹いてから少女に手渡します。頭を撫でてもいいでしょう。
 実は女頭目も自分のオカリナを持っています。

 GM注:少女と女頭目の二つのオカリナは、色も形もそっくりに見えます。

 二つのオカリナを見比べて、びっくりした表情の少女に女頭目は優しく語りかけます。

 「よォ、お穣ちゃん。素敵なの持ってんなあ。よし、ちょいとお姉ちゃんが教えてやるよ。お姉ちゃん、音楽が大好きなんだよ」

 少女がきょとんとしていると、すかさず女頭目は手下に向かって「おら、お前らも歌えよ!」と命令します。
 一瞬目を見合わせる手下たちですが、頭目のご命令とあっては仕方ありません。最初は小声、叱責されるたびにどんどん大きな声で歌い出します。
 やがて馬車の後ろから聞こえてきたあの歌声が、礼拝堂に響き渡ります。

 ここで女頭目が、PCとマザーに向かって「あっちへ行け」とジェスチャーで伝えます。

 GM注:女頭目なりに、少女に気を遣ったのでしょう。あるいは自分のかつての姿と少女を重ねたのでしょうか。いずれにしろ、PCたちは控えの間にて話の続きができます。
 PCたちがジェスチャーに気付かない、あるいは行こうとしない場合は、マザーがPCたちを促します。どうしてもこの場に残りたいPCがいる場合は、それを許可しても構いません。ただし最低何人かはマザーと一緒に控えの間に行くように誘導してください。


 ドジッ子も一緒に出ようとしますが、女頭目に首をむんずと掴まれます。
 「お前さんはコレな。景気良くやってくれ!」
 かくして、ドジッ子のオルガン伴奏による夜の合唱大会が開かれます。
 しばらくすると、最初は控え目に、そして次第に大きくオカリナの音が二つ伴奏に加わるのが聞こえてきます。

 控えの間に移動してほどなく、マザーから感謝の言葉が聞かれます。

 「最初にお姿を拝見した時、もしや本物の山賊かと思ってしまいました。神よお許しください。あの方は、芯から清らかで優しいお心を持っておいででありましたわ」

 GM注:本物の山賊です(笑)。まあ、わざわざ訂正する事もありません。
 歌声を聴いてシスターの何人かが様子を見に来ますが、マザーが「心配ない」と追い返します。
 扉を閉めれば普通に話ができる程度になります。


 そして、同じ魔物に襲われた女頭目がここにいる偶然について、神の思し召しと表現します。実際そうかもしれません。
 マザーの話は続きます。分かった事は以下です。

 ・ 滅亡した村は、ここからすぐ近くの山頂付近にある。今では訪れる者もなく、どうなっているかは誰も知らない。
 ・ 伝聞だが、確か大きな岩か何かで魔物を封印してあるらしい。大体このくらいの大きさで、表面には古代の呪文が彫ってあるらしく・・・。


 ここまで来れば、PCたちもあの岩について思い出すでしょう。あるいは記憶力ロールを行なっても良いでしょう。
 状況から考えると、女頭目のブン投げたあの岩こそ、魔物を封印したその岩のように思えるからです。
 その事を聞くや否や、マザーの顔は青ざめます。どうしていいか考えあぐねている様子です。

 GM注:ここはPCたちに考えさせて吉でしょう。もっともベターだと思われる案は「雨が止んだらor朝になったら村へ確認に行く」というものでしょう。そうした意見が出るまで、PC同士の議論によって決定させるのが良いでしょう。
 思考停止したり堂々巡りしているようなら、さりげなくマザーに意見を出させても構いません。
 ちなみに、谷底へは危険すぎて行けません。またそれほどの高度から落とされたなら、岩も原形を留めていないでしょう。


 上記の案が出たなら、マザーはPCたちに懇願します。

 「このような事をお願いできる立場ではございませんけれど、どうかよろしくお願い申し上げます。蓄えが少ないもので、皆さんのご満足できる金額をご用意できるかどうかは分かりませんが・・・」


■仕事の依頼

 という事で、マザーより正式な仕事の依頼です。内容は以下の通りです。

 ・ 明日の朝、もし雨が止んでいたら、山頂にある滅びた村まで様子を見に行くこと。雨が降り続いていた場合は後日に順延しても可。
 ・ 封印の岩がその場にあれば、何事も無し。補強の必要があれば報告、もしくはその場で対応のこと。
 ・ もし封印の岩がなければ、その時は急いで知らせること。その後、この先の街の大教会なり魔術学院なりに通告すること。
 ・ さらに、もし何か危険があれば・・・。無理はせず、まず何よりも無事に戻ってきて欲しい。


 報酬については、あまり大した額は出ません。交渉しても無駄です。しかし、この修道院で用意できる精いっぱいの額を提示されます。
 もちろん、受け取るか否かは自由です。されどマザーはどうしても渡そうとするでしょう。

 GM注:無下に断るPCはいないと思いますが、どうか依頼を受けさせてください。そうしないと続きません。ある程度の条件の譲歩は有り得ますが、ともかく「村に行く」という一線だけは守らせてください。
 ちなみに先ほど「何でも致します」と言ってしまったマザーですが、さすがにアレやコレは無理です(笑)。その手前までなら可能性がない事もありません(一体何を書いているのでしょう私は)。


 ここで全員に知覚ロールを要求しましょう。達成値の低い順に、以下の情報を与えます。

 ・ 雨音が弱くなってきている。
 ・ 奥の扉で誰かが聞き耳を立てている。扉を開けると、残りのシスターたちがそこにいる。
 ・ 礼拝堂から聞こえるオカリナの音が、先ほどから一つだけ。


 見つかってしまったシスターたちは、恥ずかしそうに謝ります。
 そして、女頭目が礼拝堂から姿を現します。伴奏と歌声は相変わらず続いています。
 ここで顔を合わせた一同は、今の依頼の話を聞いてしまったようです。女頭目は言います。

 「おう、水臭ぇじゃねえかい。ありゃあ元はと言えばあたしの責任だろ? だったら、あたしらも手を貸すよ。それが盗賊の流・・・『行商人』の流儀って奴さ。それに・・・」

 この後、急に無言になります。問い質しても「いや、何でもない」と言います。

 GM注:おそらくX年前の事件、その時の恐怖を思い出したのでしょう。
 しかし表情からは、それを読み取る事はできません。ただ固い決意のようなものが一瞬だけ伺えます。その後すぐに元の陽気な表情に戻ります。


 こうして、女頭目とその手下たちも同行する事が決定します。
 マザーは報酬が払えないと言いますが、女頭目はまったく気にしません。無償で行なうようです。
 シスターたちは不安そうですが、村を放置するのはもっと不安です。よって控え目ながら、口々に激励の言葉を言います。

 「あの…。私からもお願いいたします」
 「どうかご無事で…」
 「私、お弁当をお作りします!」


 そうこうしていると、礼拝堂の歌声も聞こえなくなります。
 女頭目がいないので、ドジッ子シスターやゲイ男、それにあの少女までが遠慮がちに礼拝堂から顔を出します。
 女頭目は適当にその場を取り成し、手下たちの背中を押すように礼拝堂へと戻ります。戻り際、PCとマザーに向けて親指を上げウインクします。

 いよいよお膳立ては整いました。時刻はもう夜遅くになっています。
 布団が全然足りず、その事についてマザーが乳を寄せながら謝ります。しかし冒険者であるPCにとって、雨風をしのげれば何も問題ないでしょう。
 同じ事は盗賊団にも言えます。とっくに寝息を立てている猛者もいます。
 当然、PCたちと盗賊団は礼拝堂でザコ寝となります。

 また例の少女は、女頭目から離れようとしません。
 同じオカリナ奏者、そして同じ事件の被災者として、何かのシンパシーを感じたのかもしれません。これにはマザーも驚きますが、誰にも懐かなかった少女の変貌にむしろ喜んでいます。

 最後に、マザーの喜びの踊りを見てしまったPCに対し、ぎゅっと手を握りながらマザーは囁きます。

 「あの・・・。本当に、内緒にしてくださいましね・・・?」

 GM注:もちろん視線は合わさずまっ赤っ赤です。お約束は大切です。

 こうして、長い一日が終わろうとしています。
 されど運命は、まだその仕事を終えてはいませんでした。


■夜の修道院

 ひとまず、約束事を以下に記しておきます。

 ・ 本来、控えの間より奥には立入禁止だが、3Fの書庫だけは出入りしても良しとする。
 ・ 当然それ以外の部屋にはすべて鍵をかけておく。信用しているが、ゆめゆめ妙な考えは起こさぬように。神はすべてお見通しです。
 ・ 羊小屋の手前の井戸(室内から行ける)と風呂は自由に使って良い。ただし風呂は自分たちで沸かすこと。一度に入れる人数は3人程度。
 ・ 正面扉の他、井戸からも外に出られる。もし遠出をするなら、夜中でも構わないのでひと声かけて欲しい。
 ・ その他、何かあればすぐ呼ぶように。


 時刻はすっかり夜更けです。
 明日行なう予定の仕事内容は、すでに盗賊たちにも伝わっています。もちろん全員が女頭目の過去と傷の成因を知っているので、非常に乗り気になっています。
 盗賊たちの何人かは自分の武器を磨き、何人かは英気を養うために早寝をし、何人かは馬の様子見や筋トレなどをしています。

 風呂については、もしPCに女性がいれば女頭目と一緒に入るかもしれません。
 驚愕の3D立体映像が大迫力で迫ります。
 ただ風呂に入るだけなのに、なぜか乗り物酔いを起こす危険性があります。
 なお、シスターたちはすでに風呂を済ませています。残念ながら。
 少女は女頭目と一緒に風呂に入ります。

 GM注:男だったらやる事は一つですが、女頭目よりむしろ盗賊の手下や仲間のPCから何をされるか分かりません。旅をここで終わりにしたくなかったら我慢しましょう。
 どうしても行動に移したい時は、隠密対抗ロールなどで決着しましょう。終わり良ければすべて良しという言葉もあります。


 風呂に入っている間、女頭目は少女と一緒に湯に浸かりながら、気持ち良さそうに歌を歌います。
 冗談抜きで目茶くちゃ上手です。
 歌は例によってGMの好みで決めて良いかと思われますが、一例として以下を挙げておきます。


Some day my prince will come

Some day we'll meet again

And away to his castle we'll go

To be happy forever I know


Some day when spring is here

We'll find our love anew

And the birds will sing

And wedding bells will ring

Some day when my dreams come true



(映画・白雪姫より)

実際の歌へのリンク



 GM注:もちろん伏線です。必ずここで歌わせてください。

 ちなみに、例のゲイ男は虎視眈々とPCを狙っています。
 女性の気持ちを少しは理解できるでしょうか。

 楽しいお風呂(?)が終わったら、PCだけで話せるチャンスです。
 今夜の行動を決めましょう。


■図書室、その他

 まずは図書室です。小さいながらも、きちんと整理されています。
 宗教関係の書類がほとんどですが、知覚・知識・検索系ロールにて、この地方の歴史書というか事件簿のような日誌を発見できます。
 ごく一般的な知識を持っていれば普通に読めます。
 例の事件について、新しく分かる事を以下に記載します。

 GM注:魔族の正体に関する類推も載っていますが、汎用システム対応のため割愛します。
 各GMが「これぞ」と思えるモンスターを登場させてください。
 ただし、書きすぎは興を削がれます。あくまで中心点をぼかしつつ、せいぜい「おそらくアレではなかろうか」程度の記述に抑えるべきと心得ます。
 さらに良いのは、いっそオリジナルのモンスターを登場させてしまう事です。そうすれば設定にも無理がなくなります。既存のモンスターを改造するのも良い手段だと考えます。


 ・ 魔族の王、軍勢を引き連れ現れり。村は一夜にして死に包まれ、動くものすべて絶えぬ。
 ・ 魔族が死を口にすれば、それを聞く者すべて生を奪われり。
 ・ 夜明けの淵に勇者あり。ただ一人、生を歌い、喜びを歌い、仕事を歌い、それを聞きし魔族、いと怖れおののけり。
 ・ そして人々、(※汚れていて判別不能)、ついに魔族、その生まれ出でし地獄の穴に追い落とされり。
 ・ 勇者、息絶えるも、残された人々により大岩もて封ず。
 ・ 大岩には生者の言葉刻みけり、これを以って磐石とせむ。


 また、他の書物には以下のように記載されています。上記にある「勇者」の末期の言葉として紹介されています。

 ・ 僅か残つた忘れもの、魔族決して忘れ得ぬ。とりにくるぞ、とりにくるぞ、静かになつたらとりにくる。

 これら以外には、目ぼしい情報は手に入りません。どう解釈し、どう扱うかはPCたちの自由です。
 図書館で手に入れられる情報は以上です。

 GM注:上の文章を写し、渡してしまって良いでしょう。その方が早いです。
 ちなみに図書室以外の場所では、特にイベントは起きません。もちろんあえてイベントを起こすという無鉄砲な荒業もありますが、できれば皆ゆっくり寝させてあげてください。


 当然シスターたちの部屋には鍵がかかっています。耳を澄ませば、寝息くらいは聞こえてくるかもしれません(意味はありませんが)。
 マザーの部屋にも鍵がかかっていますが、知覚ロールに成功すれば、マザーがまだ起きていて聖書を朗読しているのが聞こえます。
 控え目に声などかければ、マザーはドアを開けます。
 マザーは胸に下げているロザリオ(またはそれに類するもの)を外し、PCの胸に付けてくれます。

 「なかなか寝付けなくて・・・。どうか神のご加護がありますように」

 GM注:マザーという立場のくせに無防備すぎます(笑)。理性というのが何だったかを思い出す事すらも困難な状況ですが、さすがに突然ロマンスになったりはしません。どうか野性に帰らぬよう。
 ロザリオには、ある種の魔法的な効果を持たせると良いでしょう。


 この時のマザーの言葉は旧約聖書の「出エジプト記」の節で、以下のようになります。
 ただしほとんどのシステムではキリスト教のキの字も出ないはずですから、適度にアレンジしてご使用願います。

 「これは勝利の叫び声でも/敗戦の叫び声でもない。私が聞くのは歌を歌う声だ」

 GM注:実はこの言葉こそ、例の大岩に刻まれていた呪文なのです。もちろんマザーはその事を知りません。
 ひょっとしたら本当に、神の導きによるものかもしれません。
 この言葉を聞いたPCが知識・教養・語学系ロールなどに成功すれば、その事に思い当たるでしょう。



■小さな絆

 一方その頃。
 礼拝堂では盗賊たちのほとんどが寝静まり、動くものはありません。
 女頭目と少女はオルガンの前で、同じ毛布にくるまっています。二人は何やら筆談をしているようです。
 これほどの短期間でここまで仲良くなるという事は、女頭目の人柄に加え、同じ過去を持つ者同士で何か惹かれ合うものがあったのかもしれません。

 知覚ロールにて、筆談の内容の一部を見る事ができます。

 『The dream in the future?』 (将来の夢は?)

 『Musician』 (音楽家)

 『Wonderful! Do your best!』 (そいつぁ凄い! 頑張れ!)

 (※かなり長い沈黙。少女、悲しそうな顔)

 『?』 (どうした?)

 (少女、「Musician」の文字を荒々しく消す)
 (その下に書く)

 『 S I N G E R 』 (歌い手)

 (少女、肩を震わせて泣く)
 (女頭目、少女を抱きしめる)

 傍らには、二人のオカリナが寄り添うように置かれています。
 少女の声なき慟哭はやがて寝息に変わり、すっかり雨の上がった夜の静寂が二人と世界を包んでいます。
 やがて女頭目はそっと静かに毛布から出て、一人無言で井戸の方へと去って行きます。

 GM注:このシーンはぜひ入れてください。重要な伏線です。
 TRPGの成功とは、いかに敵を倒すかではなくいかに心に残るかだと豪腕は強く考えます。


 女頭目の近くに行けば、ロールの必要なく彼女は語り始めます。その内容の要点を以下に記載します。

 ・ 昔、ある音楽一座があった。家族全員で村から村へと旅して、そこで歌を歌ったり楽器を演奏したりの生活だった。
 ・ ある村では、まだ幼い子供が音楽一座を毎日のように観に来ていた。
 ・ その子は一座の娘の持つ、小さな楽器が気に入ったらしい。
 ・ 娘は、観に来てくれたお礼と友情の証に、小さな楽器をその子に譲った。
 ・ 大きくなったら、私も歌手になる。幼い子供は娘とそう約束した。
 ・ そしてその夜。村は死んだ。魔族たちの手によって。


 GM注:女頭目と少女の過去の繋がりを示す、重要なシーンです。少女の持つオカリナは、この時に女頭目から手渡されたものです。
 X年前の悲しい記憶が蘇ります。


 あれほど降っていた雨は嘘のように上がり、雲間から星空が見えています。
 大きな月を背に、女頭目は立ち上がります。
 やおら胸をはだけ、豊かな胸に走る一条の深い傷跡を夜気に晒します。

 「こいつが疼くんだよ。奴が近くにいるって。この傷は一生消ねぇんだ、一生な。でも、心の傷はどうなんだ? なあ、一生歌を歌えないなんて、そんなバカな話があるか?」

 GM注:彼女の台詞のすべてをここでは書きませんが、ぜひ彼女になったつもりで演じてください。
 PCたちにも格好いい台詞を期待したい所です。


 人の一生とは、逃げ続けるために引かれたレールではありません。
 彼女は運命に立ち向かうつもりでいます。
 自分自身と、そして何より少女の悪夢を打ち払うために。

 その時。
 山全体が、不気味な唸り声を上げます。


■孤立

 ここでPCは全員知覚ロールを行ないます。
 ファンブル以外はみな聞こえますが、修道院のすぐ近くで何やら巨大な地響きの音がします。建物も揺れます。
 盗賊たちやシスターたちも外に出てきます。
 外に出るPCがいれば再度知覚ロールをしましょう。夜の雨の中でもうっすらと見えます。

 道が、土砂崩れによって塞がってしまっています。

 雨は止みましたが、地盤が緩んでいたのでしょう。
 明らかに撤去不可能な量の土砂が、完全に道を塞いでいます。馬車を通れるようにするのは数日かかるでしょう。
 簡単な模式図を記載します。





 GM注:適度な絶望感を演出しましょう。
 なおこのイベントは、多少前後させても構いません。例えばPCたちが先手を打って山に行こうとした時など、適当なタイミングで入れるべきでしょう。


 混迷を極める中、畳みかける様に以下のイベントに続きます。


■悪夢、再び

 さらに大地は震え、地響きが夜を貫きます。即座にPC全員で知覚ロールを行ないましょう。
 達成値の低い順から以下の事が分かります。

 ・ 突然地面が揺れ、すぐに止まった。余震は一切無かった。
 ・ 山の方角から一瞬、強い風が吹いた。
 ・ 虫の声が一切聞こえない。静寂が辺りを包んでいる。
 ・ 空気が変わった気がする。重く、苦しく。


 すぐに羊や馬たちが暴れ出します。修道院の中も騒がしくなり、外へ出た盗賊団やシスターたちも顔を見合わせます。

 何か邪悪なものが目覚めようとしています。

 女頭目は声を張り上げ手下を集めます。そしてシスターたちに「建物から出るな」と叫びます。
 マザーは率先してシスターたちを院内へと誘導します。そこにドジッ子の声が響きます。

 「あっ、あの子がっ! あの子がいないんです!」

 それを聞き、女頭目とマザーは修道院の中へ駆け出します。PCたちも急いで次の行動を決めねばなりません。

 GM注:少女が山に向かったのではない事はほぼ確実です。

 修道院に少女を探しに行く場合、数分の時間がかかります。ターン制の場合は数ターンから10数ターンはかかるでしょう。
 ここで迎え撃つ場合、PCたちはともかく盗賊団の統制がまったく取れていません。女頭目がいないので無理もない事です。
 彼らを無視するか、統制を取るかはPCに任されます。

 GM注:以上の事を伝えて、後はPC自身で考えさせましょう。当然あまり考える時間はありませんが、急かすのもよくありません。
 PC全員の行動指針が決まった所で、再度確認を入れてください。
 盗賊団の混乱を鎮めるのはロールではありません。より強い意志を持った言葉でのみ事態は収拾できます。


 修道院の中には、必死に少女を探す女頭目とマザーの声が響き渡ります。
 もしPCがいる場合には知覚ロールなどで探しましょう。
 少女はオルガンの影に隠れて、ガタガタと震えています。オカリナをお守りのように握ったまま、こちらの言う事も分からない様子です。
 PCが立たそうとしても、オルガンの脚に掴まって動こうとしません。無理やり引き剥がすなら筋力ロールが必要です。
 最終的にはマザーが抱きしめ、保護する事になります。

 修道院の中には、安全な場所などありません。
 強いて言えば、なるべく高い所に登って鍵をかけるくらいしか無いでしょう。シスターたちは混乱しているので、PCの誰かが指示する必要があります。
 女頭目はシスターたちの避難を助けるため、PCに対し「すぐに合流する、しばらく外を頼む」と叫びます。

 修道院の外にいるPCは、全員知覚ロールを行ないます。
 山の方角から「何か」が近付いて来るのが見えます。
 深い森から何体も、湧き出るように現れます。

 GM注:森までの距離はシステムによって変動してください。あまり遠すぎると範囲魔法などで一網打尽にされかねません。
 またなるべく広い範囲から断続的に現れる、走って出てくるなど、あまり戦闘が複雑化しない程度に調整するのも良いでしょう。


 それはこの世にいる事を許されない、または人間の天敵のような存在の「魔物」です。戦いは避けられないでしょう。

 GM注:各システムにおけるモンスターを配置してください。ゴブリンでもトロールでも何でも結構ですが、熊や狼などの動物系より魔物系の方がより良いでしょう。
 このモンスターたちはいわゆる「前座」です。ただしある程度の被害が出るようレベルの調整を願います(PCのうち何人かが怪我をする、盗賊団のうち何人かが重傷を負うなど)。
 数は「PC+盗賊団」とし、状況によって前後させてください。
 また、後方に一体だけ体の大きな魔物を配置すると、PCたちが勘違いしてくれて良いかもしれません。


 戦いが始まろうとしています。
 されど今はまだ、あの頼れる女頭目は建物に入ったままです。しばらくはPCたちと、統制の取れていない盗賊団で対処するしかないでしょう。


■戦闘

 いざ戦闘です。魔物たちは修道院めがけて襲いかかって来ます。
 盗賊団は逃げ出す者、破れかぶれで突撃する者、PCにお伺いを立てる者の三者に分かれます。
 ただし、例のゲイ男だけは惚れたPCの前に立ち、気持ちの悪いウインクをしてこう言います。

 「あなたの事はアタシが守るからね♪」

 GM注:このゲイ男はやたら強い設定にしても良いし、簡単にノックアウトされても面白いでしょう。
 戦況を見ながら臨機応変に対応しましょう。


 魔物たちは真っ直ぐ修道院の明かりを目指しますが、間にPCなり盗賊団が入れば戦闘になります。
 魔物が防衛ラインを突破した場合、よろい戸の締まっていない窓や井戸に続く扉などから内部に侵入しようとします。

 GM注:必ず何体かは建物内に進入するようにします。まともに戦える盗賊団は現状では数人しかいないはずなので、十分可能と思われます。
 必要なら時間差で魔物の増援をしましょう。


 絶体絶命の危機の中、突然修道院の2階の窓を突き破って魔物が降ってきます。
 その窓には背後から光を浴びつつ女頭目が立っていて、山をも揺るがす大声で叫びます。

 「ぅおら野郎共ーっ! 男を見せろーっっ!!」

 そのまま豪快にジャンプし、魔物に殴りかかって行きます。
 これに盗賊団は歓声を上げ、逃げ腰だった者も戦闘に加わります。
 シスターたちも3階の窓から応援しています。

 GM注:ここから劇的に戦況が変わります。いっそ数ターンで魔物を全滅させるくらいで良いでしょう。

 魔物たちが全滅すると、盗賊団は勝どきの声を上げます。
 しかしそれも束の間、地獄の底から響くような不気味な声が轟いたかと思うと、山全体が動き出したかと錯覚するほど巨大な影が現れます。
 これこそは真の敵、X年前に山頂の村を壊滅させた魔族の首魁です。

 GM注:雰囲気を重視した演出を心掛けましょう。
 見た瞬間、「絶対に勝てない」と思わせるくらいで良いと思います。


 巨大な影は、そこにいる全員の心の中に直接語りかけます。

 「コノ世ハ我ト共ニアレ。永遠ノ静寂ヲ」

 そして、黒い触手のようなものが暗闇から伸びてきます。
 見れば森全体から黒い触手がうねうねと溢れ出ています。
 それはすでにPCたちの目前まで迫っています。
 再び盗賊団は騒然とします。逃げ出す者や腰を抜かす者、触手に叩かれ気絶する者などが出るでしょう。

 乱戦極まる中、PCたちに駆け寄る者がいます。
 あのドジッ子シスターです。
 マザーの制止も聞かず、盛大に転がりながらPCたちに駆け寄ります。

 「あのっ、焚き付けの中にっ! こんな物が・・・っ!」

 見ると、それは古い紙の束です。
 標準的な言語で書かれており、どうやら吟遊詩人などが持っている『歌本』のような物のようです。
 その中の1枚だけに、赤いインクで囲まれた歌があり、その横に以下のような注釈が書き込まれてあります。

 ・ 彼の詩人、これを歌いて退魔せしめり。

 そこに書かれた日付は、まさに例の事件があったその年に符合します。
 そしてその歌とは、PCたちが馬車の中で聞いたあの歌。
 何度も礼拝堂で聞いたあの歌がありました。

 GM注:触手が出てからは、戦闘にするのではなく言葉による説明に留めれば、このシーンへの移行がスムーズにできるでしょう。
 魔族は静寂を好み、歌を嫌います。そうした因果関係に気付けば勝利は目前です。


 女頭目は声を張り上げ、盗賊たちに歌を歌わせます。
 もちろん恐怖で声が出ない者も多く、ほとんど歌には聞こえません。
 ドジッ子シスターはまだオロオロしているので、PCが気付いたならオルガンに向かわせるべきです。
 ただし戦闘は続いているので、戦いながら歌う事になります。

 女頭目は必死にオカリナで伴奏します。
 やがてその音は二つになります。
 いつの間にかあの少女が修道院から歩み出て、オカリナを吹きながらゆっくりと進んで来たのです。
 不思議な事に、少女の周囲からは触手が引いて行きます。

 GM注:少女の神性が解放される重要なシーンです。

 同時に、PCたちの心で響いた不気味な声が、はっきりと分かるくらいに苦悶します。触手の勢いもなくなっていきます。
 盗賊団にも聞こえているのでしょう。勇気付いた彼らは、ますます声を張り上げて歌います。
 修道院からはオルガンの後押しが聞こえてきます。
 触手のうちのいくつかは弾け、震えながら闇に溶けて行きます。
 頭に響く苦悶の声はどんどん大きくなります。

 しかし魔族の首魁は、最後の賭けに出るのでした。


■叫び

 勝利は目前かと思われたその時、触手が絡まり合います。
 それは瞬時にして巨大な手となり、女頭目を鷲掴みにします。

 GM注:PCには止められません。すべては瞬時に行なわれます。

 女頭目の口から鮮血が吹き出し、オカリナが落下します。
 それを見た少女が、女頭目の名を叫びます。

 「○○○ーーっっ!!」

 GM注:口の聞けない少女が初めて叫ぶシーンです。

 この時、叫びは闇を裂き、代わって静寂が辺りを支配しました。
 女頭目はまだ辛うじて生きています。しかし最後に残った力を必死になって振り絞り、少女に向かって微笑むのです。

 「聞こえた、よ・・・。いい、声、だ・・・。なれる、よ・・・きっと・・・。歌手、に・・・」

 少女の悲鳴が山に木霊します。
 巨大な黒い手はそのまま巨大な人の形を取り、ついに真の敵が肉体を持って現れます。
 ここから最終戦闘に入ります。

 GM注:もはや歌っている場合ではありません。相手は肉体を持っているので、物理攻撃も有効です。
 ただし最初のうちは片手に女頭目を握っているので、範囲魔法はかけにくいでしょう。中盤から女頭目を投げ捨て、両手で戦います。


 ここから先は多くを語りませんが、女頭目の生死によって結末は大きく変わるでしょう。
 特に少女のまだ幼い心にとって、女頭目の死までも乗り越える事は不可能かもしれません。
 それでも心を鬼にして毅然としたエンディングを目指すのも、一つの方法論だと思います。その際はご自身でブレンドしてみましょう。
 今回は、女頭目が辛うじて生きていた場合のシナリオを記載いたします。


■勝利へ

 戦いの様相は壮絶を極めました。
 投げ捨てられた女頭目は口を利くのも不可能なほど瀕死の状態ですが、それでも少女を庇って必死に立ち上がろうとします。
 盗賊団も一人、また一人と倒れる中、シスターたちが身を盾にして女頭目と少女を守ろうとします。

 マザーを筆頭に、彼女たちの祈りの声が天に通じたのか。
 修道院の背後から、朝日の最初の来光が空を染め始めます。
 その中でただ一人、絶望の淵より立ち上がった戦士がいます。

 あの少女です。

 旭日の中で魔族に立ち向かい、魔族の内に直接響く澄んだ歌声によって果敢に戦いを挑むのです。
 少女にとっては、大切な人を守るための戦いです。そして大切な人を二度と失わないための戦いです。
 絶対に負けるわけにはいきません。

 GM注:ここで歌われる歌はもちろん女頭目が風呂で歌ったあの曲です。

 少女の歌声の前に、魔族の首魁は再び苦悶します。
 チャンスは今しかありません。
 たった一人の少女も守れずに何が冒険者なものか。PCたちは、最後の決戦に挑みます。

 GM注:魔物の首魁は触手などを使って、周囲にまんべんなく攻撃を仕掛けます。魔法などを使用しても良いでしょう。
 両手の打撃と触手で多段攻撃なども有り得ます。


 ついに魔族の首魁も塵と果てるか、と思った瞬間。
 漆黒の爪が少女に向かって疾ります。

 GM注:一瞬の出来事です。止められません。

 その瞬間。
 血まみれの手がその爪を掴みます。

 「歌は最後まで・・・聴きやがれ・・・っ!」

 女頭目の手の中で、黒い爪は断末魔と共に朝もやの中に溶けて行きます。
 完全なる勝利。魔族の首魁の崩壊です。
 すぐに以下の状況となります。

 ・ 空気が澄み渡った気がする。
 ・ 鳥の声が戻ってくる。
 ・ 盗賊団は今やボロボロだが、勝利に気炎を上げている。
 ・ ゲイ男はさらにボロボロだが、惚れたPCが近付くと目覚めのキスを要求する(元気じゃねえか)。
 ・ シスターたちは泣いて喜んでいる。
 ・ ドジッ子はヘナヘナと倒れ込む。
 ・ マザーは「幸せの踊り」を目撃したPCに抱きつき、飛び跳ねて喜んだ後、真っ赤になって謝っている。
 ・ 少女は女頭目を抱きしめ、女頭目の名を呼び続ける。


 そして、女頭目は。

 「夢は・・・。叶ったかい・・・?」

 少女がうんうんと頷く中、がっくりと気を失います。
 誤解した少女と盗賊団が大騒ぎを始めるので、PCたちはどうか彼らを安心させてあげてください。


■旅立ちの朝

 しばらくは、怪我人の治療に専念する事になるでしょう。
 動ける人間は例の滅びた村に向かい、かつて大岩があった場所に新たな封印を施します。

 GM注:あっさりと説明してしまって構いません。
 流れを重視するため、上記を伝えた後は「そして数日後」でいいでしょう。


 PCたちと盗賊団の働きによって、いよいよ土砂の撤去が終わりました。
 明日でこの修道院ともお別れです。
 滞在中のPCは、少なくとも数回は女頭目からスカウトされるでしょう。そしてゲイ男に惚れられたPCはその10倍くらいは誘われているでしょう。

 そして旅立ちの前の夜。
 女頭目の横綱級の圧力に寄り切られ、ついにマザーが折れました。

 「そ、そんなにおっしゃるのなら・・・。ああ神よ、どうか今宵だけは目をつぶってくださいまし・・・」

 というわけで。
 きらびやかでちょっと大胆なドレスに身を包んだシスターたちとの、夢のような晩餐会が開かれました。

 GM注:もちろん一番嬉しそうなのはマザーなんですが、必死にそれを悟られまいと頑張って無表情を装うその姿がなかなか可愛いです。
 ドジッ子シスターはもちろん裾を踏んづけて転んだりしています。
 その拍子にマザーのドレスをアレしたりして大変な目に遭ったりしてます。


 この頃になると、シスターたちとも仲良くなっているでしょう。
 彼女たちは浮世から離れていますので、PCや盗賊団の冒険譚をとても熱心に聞いてくれるでしょう。
 旅立ちの朝にも、こんな言葉をかけられます。

 「旅のご無事をお祈り申し上げます」
 「いつかまた、お立ち寄りくださいね」
 「思い出したら、どうかお手紙をしたためてくださいませ」
 「一生懸命作りましたので、ぜひ道中でお食べください」
 「できれば一緒に行きたいんですけど・・・。ああ、嘘です嘘です! ごめんなさいぃ〜!」


 そして少女は。
 毎日、件の『歌本』をめくっては、新しい歌を披露してくれます。
 ずっと喋れなかったせいで最初はか細い声でしたが、今ではまるで天使のように澄んだ美声になりました。
 女頭目はどうしても照れくさいようでなかなかデュエットは聴けませんが、それでも少女に促されると嫌々ながらも歌います(本当は歌いたいようです)。
 盗賊団の評判どおりの、素晴らしい歌声です。
 少女もいずれは本当に、歌手への道を歩むのかもしれません。

 今日は旅立ちの日です。
 楽しかった日々にも別れを告げねばなりません。
 盗賊団も名残り惜しそうにしていますし、シスターたちの中には涙を流す者までいます。
 少女は健気に涙をこらえていますが、それでも女頭目とお互いのオカリナを交換した時についに泣きじゃくってしまいます。

 その時、不意に女頭目が言います。

 「そういや、まだ報酬をもらってなかったっけねえ・・・」

 この言葉にマザーは平謝りに謝って、約束の報酬を用意させます。
 しかし女頭目は納得しません。
 こんな報酬では少なすぎる、こっちは命を賭けたのだからと言って、修道院にある蓄えをかき集めろと言い捨てます。
 さすがに手下たちも困惑しますが、女頭目は頑として譲りません。

 GM注:PCが苦言を呈しても聞く耳を持ちません。「これはこっちの問題だ」などと切り捨てられます。

 贈り物のドレスはなぜか受け取ろうとしませんが、それ以外のものはすべて受け取る気でいるようです。
 マザーは困惑するシスターをなだめ、これも清貧に対する神の思し召しだと納得させてしまいます。
 ついには、なけなしの羊や食料までも差し出す事になりました。

 そこで女頭目は言います。

 「あんたたちの気持ちが分かったよ。ここにある全部と、それに馬車も馬付きで丸ごと全部出す。・・・それで、売ってくれないか」

 そして、真っ直ぐ少女を指差します。

 少女の表情が一気に晴れやかになり、期待を込めたまなざしでマザーを見つめます。
 盗賊団も得心して歓声を上げます。この際、馬車がなくなる不便など瑣末な問題なのでしょう。

 マザーは凛として答えます。

 「お断りします。この子の価値は、そんなものでは足りません」

 途端に一同は落胆し、シスターたちは疑問の声を上げます。
 もちろん少女はマザーに詰め寄りますが、マザーは微動だにしません。

 さらにマザーは続けます。

 「ですから、この報酬はお持ち帰りください。人の価値は、物などで決められるものではありません」
 「ただ、どうしても、とおっしゃるのなら・・・。お金では決して買えないような価値のあるものを、今この場で払っていただきます」


 そして女頭目に、最高の歌を所望します。

 GM注:二人の女性による、奇妙な友情の駆け引きです。女頭目は盗賊としての矜持を通し、マザーは神との誓いを守りました。
 プライドなどという小さなものではありません。どちらも少女の事を心から愛し、その夢を、その未来を祝福したいがための駆け引きだったのです。


 今こそ晴れやかに、伸びやかに女頭目は歌います。
 少女の澄んだ声がそれに続きます。
 やがては盗賊たちの大合唱に繋がり、シスターたちもそれに合わせて歌います。
 朝日の中に、最高の歌が響き渡ります。それははるか未来に続く希望の歌であり、いつか大きく実を結ぶ大樹の歌でもありました。


■そして未来へ

 さて、馬車はついに走り出します。
 陽気な盗賊たちともお別れの時間です。
 いつかどこかで巡り逢う事もあるでしょう。
 遠い旅の空で、素晴らしい歌声の二人の女性と、それを守る屈強な男たちの噂を聞く事もあるでしょう。

 冒険の空は、どこまでも続いています。
 この空に流れる美しい歌声をバックに、今回のお話は終了とさせていただきます。
 どうかよき旅路を。


■終わりに

 ・・・という事で。
 やるべき事は無茶くちゃ単純なんですけど、結局めっさ長々と綴ってしまいました。
 とりあえず豪腕の趣味を半分くらい押し出したシナリオになっちゃいましたけど(これでも半分以下ですけど)、楽しんでいただけたら幸いです。
 プレイそのものに難しい所はそれほど無いと思います。
 問題は魅力あるキャラ造りただ一点のみですし、プレイヤーがNPCたちに魅力を感じてくれたら85%くらいは成功です。
 どうせ逃げ場もないですし。
 お約束を守りつつ、楽しくプレイして吉と存じます。

 マザーのロザリオとか昔の退治方法とか、別に出さんでも成功します。
 あくまで味付けであり、そういう所にちょっとは凝りたいのがGMとしての人情だと思います。
 さらに言うなら、ゲイ男やドジッ子シスターなど出さなくても成立します。
 それでも出したい。それだと単なる戦闘シナリオで終わりですしね。

 また本文では省略しましたが、こんな設定も一応考えておりました。

 ・ 戦闘時、ゾンビたちが現れる。それを見て女頭目は悲鳴を上げる。
 ・ それは、彼女の家族の変わり果てた姿だった・・・。


 効果的だとは思いますけど、少女の覚醒へのプロセスにおいてやや焦点がぼやけるのと、あまりに悲惨すぎるので割愛いたしました。
 彼女の気持ちを考えると、大団円で元気に歌うなんて心情的に無理なんじゃないかと思いまして。
 まあその辺は好みの問題でもあるでしょう。ここに書かれている事がすべてではありませんし、好きなようにアレンジして使っていただければ良いのです。

 ただ正直、ハイホー歌うと退散する魔族って何じゃいとも思いましたけど、適当な歌が思いつかなかったので勘弁してつかぁさい。
 もうちょい違う歌でも良いかと存じます。
 ただ豪腕はディズニーが好きなので、女頭目と盗賊団が一緒に歌うならば『Beauty and the beast』辺りはガチで鉄板ではないかと思います。

 ちなみに、あなたのマスタリングがあんまりに素晴らしすぎて、修道院の下働きとして残りたいとかドジッ子シスターと駆け落ちしたいとか盗賊団に入団して毎日ブン殴られたいとか少女のパパになりたいとかゲイ男と新しい扉を開きたいとか、そういう結末を迎えたいと言い出すプレイヤーがいるかもしれません。

 もちろん全部OKです。

 それがテーブルトークです。

 私がプレイヤーなら85%くらいは女頭目について行きますし、残りの15%はチンチン切ってシスターになります。
 それが豪腕のジャスティスです。
 ぶっちゃけ毎月のように我が家でゲームやってますし、同好の士の方はぜひメールや拍手ボタンでご連絡ください。そのうち一緒に遊びましょう。

 すべての冒険者の栄光を祈りつつ。







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