テーブルトークRPG汎用シナリオ


■シャモの都市■


 ■システム:ファンタジー物である事
 ■プレイ人数:GM含め4〜5人が望ましい
 ■適したPC:戦闘系が最低1〜2人
 ■基本の流れ:笑いの中にも本格推理
 ■プレイ時間:4〜5時間程度



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 ■登場人物
 ■あらすじ
 ■導入
 ■人助け
 ■都市へ
 ■到着
 ■頭巾姿の娘
 ■宿屋
 ■不審な人影
 ■市内の様子
 ■市長の屋敷
 ■監獄
 ■元締めの事務所
 ■闘技場
 ■市内で情報収集
 ■市長に会う
 ■魔法使いに会う
 ■市長の娘に会う
 ■元締めに会う
 ■馬車を追う
 ■大詰め
 ■真相
 ■大団円
 ■終わりに




■登場人物

【剣闘士】
 20代中頃。筋骨隆々。みすぼらしい格好。次の試合に勝てば自由を得る。

【市長の娘】
 10代後半。美人。身分を隠して金策に走る。

【娘の付き人】
 10代前半。メイドまたは従者(プレイヤーの男女比によって変更の事)。

【元締め】
 40代。いわゆるヤクザの親分風。都市の実質的な支配者。

【新団長】
 20代中頃。そばかす顔。立派な装備。騎士団長になって2年足らず。

【市長】
 初老。恰幅が良い。厳格な性格。

【魔法使い】
 老人。典型的な魔法使いの外見。


■あらすじ

 ギャンブルが盛んな都市にやって来たPCたち。
 悲運の騎士団長、隠された事件の真相。そして闘技場の奥では「何だかやたら高い所に光る目」…。
 純粋に正義の為に。あるいは巨万の富の為に。PCたちは、それぞれの思いから剣を取る。


■導入

 PCたちは、舞台となる都市を目指して旅しています。
 都市の情報は記憶力・伝承系ロールで事前に知っていても構いません。その場合、達成値の低い順に以下の情報を手に入れます。

 ・ 大きな闘技場がある。
 ・ 闘技場は現在も現役であり、腕自慢が集まって来る。
 ・ それ以外にも数多くの賭け事が行われており、中でも闘鶏が有名である。
 ・ 闘技場には『無敗の化け物』がいるらしい。

 その後PCは、路上で立ち往生している大きな馬車を見つけます。
 馬車には市長の娘と付き人が乗っており、PCに助けを求めて来ます。

 知覚・観察系ロールを使って、この二人または馬車を観察できます。

 ・ 市長の娘と付き人は、二人とも(特に付き人の方がより多く)すり傷だらけです。
 ・ 市長の娘は普通の町娘の装いです。右耳に綺麗なピアスをしています。
 ・ 付き人は生成りの既製服ですが、左耳に綺麗なピアス(市長の娘のものと同じ品)をしています。おそらく二人で分け合ったのでしょう。
 ・ 馬車は見事に車輪の一つが外れています。
 ・ 鶏のような鳴き声が聞こえ、鳥の羽毛がたくさん周囲に舞っています。
 ・ 羽毛は鶏のものとは違い、黒またはこげ茶色をしています。


 GM注:「町娘の装い」「ピアス」はともに伏線です。適度にさりげなく口述しましょう。
 「町娘にしては高級なピアス」「付き人はその娘をお嬢様と呼ぶ」等。



■人助け

 付き人から事情を聞けます。
 馬車が岩に乗り上げた拍子に脱輪してしまい、直せなくて困っている。
 それよりも、その騒ぎで仕入れた鳥たちが逃げてしまった。これが露見したら市長に怒られる。
 皆さん、どうか一緒に逃げた鳥を集めてください。そしてできれば馬車を直すのを手伝ってください。

 GM注:この願いはなるべく聞き入れるよう、PCを促してください。

 馬車には鶏に似た鳥がケージに収められています(一部が破れ、そこから逃げたようです)。
 その鳥たちは鶏に似ていますが、色は黒っぽく、羽根は小さく、そして脚が丈夫そうに見えます。
 PCが近付くと凄い勢いで威嚇し、長州の真似をして翼をぐるぐる回したりします。
 知識・観察ロールによると、この鳥はシャモ(軍鶏)です。

 GM注:通常、シャモは個別輸送です(複数いると喧嘩するので)。念のため。

 馬車の修繕はそれほど難しくはありませんが、力仕事なので娘と付き人の二人では手に余るようです。力自慢のPCが手伝うべきでしょう。

 以下、鳥を探すには知覚・敏捷系ロール、馬車の修繕には筋力・器用度系ロールにて解決します。
 逃げたシャモの数はPCの人数と同数です。
 知識系ロールに成功したPCには、以下の情報を与えましょう。

 ・ シャモは知能が高く、大変に敏捷であり、また忍者のように隠密に長けているので、まともに追ってもまず捕まえられない。
 ・ ただし闘争本能が強いため、強そうな相手だと認めれば襲って来る。


 GM注:嘘っぱちです。そんな事は有り得ませんが、この世界のシャモだけは別なのです。

 よって、戦闘で勝利する(ただし殺さない)方法が有効です。
 シャモの能力は敏捷度が非常に高く、火力と防御力は低めです。大体1〜2撃できれば昏倒するか、己の敗北を認めて男らしくケージに入ります。

 GM注:序盤なので、軽目の戦闘にすると吉でしょう。

 シャモを集め、車輪を修理すればこのイベントは終了です。


■都市へ

 PCは盛大に礼を言われ、大変おいしい料理を振舞われます。
 この料理は「特製」だそうで、特に疲労回復には魔法のように効き目があるそうです。ここで怪我をしたPCはHP回復をしましょう。
 ちなみにシャモ肉ではありません。

 ところで、この料理にニンニクは入っていません。
 この地方でニンニクは珍しい食材というのもありますが、道中なぜかシャモがニンニクの匂いを異常に怖がったので料理には使わなかったそうです。

 GM注:この世界ではそうらしいです。この事実はまだ市長の娘と付き人しか知りません。ちなみに十字架は大丈夫なようです。

 また、武器はなるべく隠すように忠告されます。
 都市の内部にもシャモは多く、武器や強そうな人間を見るとすぐ勝負を挑んでくるらしいです。

 GM注:この世界では(略)。

 PCの予定では昼頃に都市に着くはずでしたが、上記の件で夕方くらいにずれ込みました。
 その事で娘は謝罪し、ぜひ宿泊場所を世話させてくださいと申し出ます。

 都市への道々、娘と付き人から以下の情報を聞く事ができます。

 ・ 娘は市長の一人娘である。
 ・ 付き人は孤児だが、娘とは姉妹(兄弟)のように暮らしてきた。
 ・ 集めたシャモは闘鶏に使う。これに限らず賭け事は公認であり、様々な場所で行われている。
 ・ 闘技場には自主参加の自由市民と罪人が出場する(奴隷制度は廃止されている)。中には借金を苦にした者も多いとの噂。
 ・ しかし、罪人を裁くために剣闘士として闘わせる事にはあくまで反対する。


 この辺りから、娘はだんだん激昂してきます。
 裁判は信用できるのか。免罪だったらどうするのか。無実の人間があんな場所で命を賭けて殺し合うなんて…。
 付き人またはPCがなだめると、娘は真っ赤になって謝罪します。

 そうこうするうちに、馬車は都市に到着します。

 GM注:肝心な所は適当にボカして到着させましょう。特に『無敗の化け物の正体』辺りは引っ張りで。
 以降、市内の誰に聞いても「まだ見た事無い」「ともかく凄いって噂だぜ」「私は闘技場には反対です。そもそも人間同士を争わせるなど…」等、実際に目にするまで頑張って引きましょう。



■到着

 都市の周囲には城壁またはフェンスがあり、周囲に畑や牧場が広がる大規模な構造です。
 堀と跳ね橋(現在は下りています)の向こうに詰め所があり、その先に町並みが見えます。
 馬車はもちろん顔パスです。娘は衛兵に慕われているようです。

 しかし、そこには新団長もいます。
 彼はイヤミな口ぶりで、市長の娘の行動と帰りが遅い事を当てこすります。
 PCたちにも「馬の骨」など失礼な言葉を吐きます。
 どうやら娘と新団長は犬猿の仲のようです。

 GM注:はっきりと分かる悪役ですので、ぜひ腕によりをかけて嫌な男を演じてください。

 イヤミな新団長と別れ、市長の屋敷に向かいます。
 その前に一旦シャモを卸しに行きます。

 その間、娘は一人で市内に向かうようです。
 着いて行きたいPCがいても「すぐ戻るから」と言って走り去ります。

 GM注:娘の後を追うPCがいたら、知覚・敏捷系のロールで適度に振り回しましょう。
 何度か見失った後、後述の「■頭巾姿の娘」に遭遇できます。


 都市の様子は知覚・観察系ロールで判断できます。

 ・ 常時数千または数万の人々を養える規模である。
 ・ 大通りの先に巨大な闘技場が見える。
 ・ 人々には活気があり、芸人や吟遊詩人の数も多い。シャモも普通に歩いているが、大通りでは紳士的である。
 ・ 道端でよくチェスやジェンガのようなゲームをやっており、本人同士は言うに及ばず、周囲の観客も明らかに賭けをしている。
 ・ 小さな子供まで虫のレースや石投げの賭けをしている。
 ・ 「花占い専用」の花を売っている。
 ・ 広場には巨大なオッズ表がいくつも貼ってあり、闘技場の予想から雑草の引っ張り相撲に適した品種まで書いてある。


 やがて馬車は外壁沿いの大きな建物(倉庫)に到着します。
 ここはシャモ専用の養鶏所で、入り口には大きな文字で『Tange−Gym』と書いてあると面白いですが別にこれはどうでも良いです。
 中から経営者のおじさんが出てきて、付き人と価格交渉を始めます。

 GM注:関西弁を使うと説得力が増します。

 PCに代わって交渉してもらうのも手でしょう。おじさんとの対抗ロールで、オープンダイスをお薦めします。

 こうして、付き人は悪くない額を得ました。
 なぜ市長の娘がこんな事に加担しているかと聞けば、この時点ではただ「お金が必要ですから」としか答えてくれません。
 それ以上聞くと誤魔化されてしまいます。

 ここで、以下「■頭巾姿の娘」イベントを終了した市長の娘と合流します。


■頭巾姿の娘

 市長の娘を追うPCがいた場合のみ発生するイベントです。
 娘はやおら頭巾を被り、顔を隠します。
 そして市中の賭け屋に向かい、何枚かの券と引き換えに相当のお金を受け取っています。

 GM注:ここで娘を問い詰めると「お互いやっかいな立場になる」とし、なるべく見守るだけにさせましょう。

 その後、娘は馬車組と合流します。
 ここで手に入る情報は以下の通りです。

 ・ 娘が入ったのは「賭け屋」の一つで、それなりに怪しい(娘が一人で入るような場所ではない)。
 ・ 娘はどうやら「ある罪人」に大金を賭け、そして勝ったらしい。
 ・ 賭け屋は娘が誰だか知らないし興味も無い。


 馬車と娘が合流したら以下のパートへ進みます。


■宿屋

 PCたちは娘から、かなり高級な宿屋を紹介されます。この時点で夜です。
 お金に関しては立て替えてくれるそうです。
 何度も礼を言い、娘と付き人は市長の屋敷へと帰って行きます。

 なお、前途「■頭巾の娘」について質問すると、どうか内緒にしておいてと口止めされます。

 GM注:おそらく、この宿代の立て替えは口止め料も入っているのだろうと匂わせてください。
 また、しばらく自由な時間になるので、PCたちには積極的に情報を集めるよう仕向けましょう。


 PCたちが積極的に動いた場合、以下の順で情報が入ります。

 ・ この都市の表向きの支配者は市長だが、実質は元締めが支配している。
 ・ 元締めはヤクザ者で、あらゆるノミ行為をやっている。未だに逮捕されないのは、きっと市長に賄賂を贈っているからだ。
 ・ 元締めも昔はケチなチンピラだったが、ここ2年ほどで急に大物になった。何か秘密でもあるのだろうか。
 ・ 騎士団の団長が変わってから、この都市も治安が悪くなった。あの新しい団長は無能だ。
 ・ 明後日に闘技場で大規模な大会があり、よって市内が活気付いている。
 ・ 相当に強い剣闘士がいて人気も高いが、次はさすがに無理だろう。相手が悪い。その相手とは『無敗の化け物』である。


 GM注:『無敗の化け物』に関しては、「観れば分かるよ」「おっと、客だ」などして語らせず、さらに引っ張ると効果的でしょう。

 ・ どうやら市長とその娘は仲が悪いらしい。
 ・ あの娘が賭け事? そんな馬鹿な。住む世界が違う。
 ・ 時々、あの娘の姿を監獄の近くで見かける。


 さらに、情報交換で再集合したPCに対し、宿の主人が以下の情報を伝えてくれます。

 ・ あれは確か2年前、ある魔法使いの持ち物が盗まれた事があった。その犯人は未だに捕まっていない。
 ・ 「魔法使いの持ち物」とは、魔法が封じられた指輪らしい。
 ・ その魔法使いは市長の子飼いであり、今も市長の館に住んでいる。
 ・ 当時の騎士団長が責任を取らされ解雇された。その男は今でも闘っている。今人気の剣闘士、それがその元団長だ。


 市長の館での事件なので、警備責任者たる騎士団長が処分されたのはある意味当然です。
 しかし、この都市の人々は皆、騎士団長に罪があるとは考えていません。中には狂言呼ばわりする者もいます。

 この情報を入手した後、適度な頃合いで「元締め」が宿に訪れます。
 三人ほどの屈強な従者を連れ、PCに念書のような物を渡して言います。

 「おめぇさん方は冒険者かい。丁度いい。仕事が欲しいんなら、そこの能書きを読んでうちの事務所に来な」

 以下、念書の概略です。

 ・ 明後日に闘技場で大会が開かれる。その警備または雑務を募集する。
 ・ 前日(つまり明日)正午までに念書にサインの上、事務所にて処理の事。


 日当はそこそこに高く、魅力的な仕事です。

 GM注:受ける・受けないは別にして、ともかく魅力的な仕事であると伝えてください。
 またPC自身が賭け札を手に入れたい場合、元締めを通すのが一番であると言っておきましょう。


 元締めは何を聞いても適当にしか受け応えしません。
 この時点ですでに夜更けです。これ以上の情報は、今晩中には手に入りません。
 特に何事も無ければ次のイベントに続きます。


■不審な人影

 人々が寝静まった頃、窓の外でかすかな物音がします。
 知覚系ロールにて判定し、高い数値のPCはそれに気付きます。
 音の主は、屋根伝いに歩く不審な人影でした。

 PCが気付くと同時に人影もPCに気付き、人影は逃げ出します。
 追う場合は器用度・敏捷度系ロールが必要です。
 ただし残念ながら人影を捕らえる事はできません。
 PCが攻撃を仕掛けた場合は、確かな手応えを感じますが、打ち倒すまでは行きません。
 PCが攻撃を仕掛けない場合、何かの拍子で人影は派手に落下し、派手な音を響かせます(それでも間一髪で逃げ切ってしまいます)。

 GM注:適度にスリリングな演出をし、あと一歩感が出せれば最高です。

 人影を追ったPCは、以下の情報を得ます。

 ・ 人影は小柄で身が軽く、そして一切の攻撃を仕掛けなかった。
 ・ (PCが攻撃を仕掛けた場合)人影は手傷を負っている。しかしすぐに傷をカバーしたらしく血痕は追えない。
 ・ (PCが攻撃を仕掛けなかった場合)人影はおそらく怪我をしただろう。
 ・ 逃げた方角は(城壁がすぐ近くにあるにもかかわらず)都市の中心部。


 そしてさらに知力・記憶力系ロールをすれば、以下の事に思い至ります。

 ・ 人影が逃げている時、頭部で何かが光った。
 ・ あれはきっと月明かりの反射だろう。
 ・ そしてそれは左の耳の辺りだった。


 今夜はこれ以上のイベントは起きず、朝を迎えます。


■市内の様子

 夜以外での市内のイベントです。
 PCが歩いていると、足元を何かがかすめ通ります。それは極めて素早く、黒い影のように見えます。
 その正体は野良シャモです。この都市の内部には、ごく当たり前のように多数のシャモが市民ヅラして歩いているのです。
 足元を通られたPCは、何かの光り物(無ければ金貨など)を一つ奪われています。

 GM注:これは常に起こり得るイベントです。
 都市に着いたら最低1回は必ずどこかで入れるようにしましょう。


 人間にも良い奴と悪い奴がいるように、シャモも色々いるのです。
 挑発すれば向かってきますので、取られた物品を取り返すのは容易です。
 近くの市民が「シャモは光る物が好きだから気を付けな」とアドバイスをくれます。

 また、以下の情報を耳にします。

 ・ 最近、市内で行方知れずが増えているらしい。きっと誰かが人買いをしているに違いない。
 ・ 大きな声では言えないが、元締めが一枚噛んでいるらしい。



■市長の屋敷

 もしPCが市長の屋敷に向かうなら、以下を参考にしてください。

 都市の中央部に建つ大きな屋敷。そこが市長邸です。部屋数はおそらく20以上あるでしょう。
 細かい描写は省きつつ(頑張ってください)、表口には騎士団による衛兵が二人ほど立っていて、なかなか一筋縄では通れそうにありません。
 衛兵の中にはあのイヤミな新団長もいます。見つかったら事でしょう。

 また裏口もあり、そこでは中年の太った家政婦が掃除をしています。

 GM注:表側から行っても無駄です。裏口の家政婦は普通に話ができます。
 また、あえてPCたちを新団長に見つけさせ、さらに悪い印象を与えておくのも良いでしょう。


 PCたちが家政婦に話を聞いた場合、以下の順で情報が入ります。また知覚・観察系ロールをするのも有効です。

 ・ 屋敷は3階建て。市長や娘の部屋は3階に、使用人(付き人含む)や衛兵、魔法使いの部屋はそれぞれ離れにある。
 ・ 昨夜の事は寝つきが良いので何も知らない。
 ・ 今朝、付き人が腕に包帯を巻いていた。
 ・ 最近のお嬢様はよく出かける。
 ・ 『魔法使いの指輪窃盗事件』については、「真相は知らないが騎士団長は可哀相」との答が返ってくる。


 さらに、秘密を打ち明けるように以下の内容を伝えます。

 ・ 市長の娘はかつて、騎士団長に恋心を抱いていた。
 ・ 今でもきっと気持ちは変わっていないはずだが、父親の市長がそれを許すわけが無い。
 ・ 何しろ騎士団長はもう罪人なのだから。妹(弟)の付き人も浮かばれない。


 GM注:という事で、ここにきて初めて剣闘士=市長の娘の恋人にして付き人の兄、という構図が出てきます。適度にドラマチックに行きましょう。

 ここまで情報を集めた所で、新団長に見つかります。
 真夏のアスファルトのような小言を言われ、家政婦は退散します。
 もちろん新団長の小言はPCにも容赦がありません。ただし斬るのは我慢しましょう。
 市長の娘や付き人には会えません。時間も正午に近いため、次のイベントに進みましょう。


■監獄

 PCのうちの誰か、あるいは全員がここに来た時のために、監獄とその周囲で起きるイベントを記載します。

 監獄は、裁判所および小さな教会とセットになった建物です。闘技場の向こう側、都市の外れにあります。
 かなり広い土地を使い、周囲を大きな堀に囲まれ、またその堀は柵で囲まれています。出入りには1ヶ所しかない跳ね橋を利用します。
 建物そのものは大きな体育館サイズです。

 GM注:忍び込むには相当な技量が必要と思わせましょう。衛兵たちの訓練も見えるし、犬の鳴き声も聞こえます。

 跳ね橋のこちら側に衛兵がいるので、話を聞く事ができます。
 その場合は以下の情報を得ます。

 ・ 市長には内緒だが、お嬢様はよくここに来て、団長殿…元団長殿と話をされている。元団長殿も喜んでおられる。
 ・ 我々は法の番人ゆえ、決定された事には従う。されど、元団長殿に対するこの仕打ちはいかがなものかと考える。
 ・ 新しい団長殿は、何と言うか…。まあ、非常に繊細な所はある。あれで腕も立つし、ああいう上司も必要かもしれない。
 ・ これは独り言だが、最近夜になるとネズミが出る。たかがネズミ1匹、我々も無視していたが、昨夜は珍しく現れなかった。
 ・ ネズミの目的など知らんが、噂話が好きらしい。色々と情報を集めているのだろう。昔の事件やら何やら…


 残念ながら、罪人(剣闘士含む)には面会できません。
 教会までは入れますが、これ以上の情報は手に入りません。


■元締めの事務所

 元締めの事務所は大変立派な造りで、市長の屋敷に勝るとも劣りません。
 入り口には受付があり、念書を見せれば奥の部屋に案内してくれます。
 ちなみに賭け札は適当な値段で売っています。元団長である剣闘士のオッズは3倍程度というラインです。
 幸運系ロールによって、ある程度上下しても良いでしょう。

 GM注:賭け札については枚数制限を設けると良いでしょう。また、元締めを巻き込んでの大騒動などで、賭け自体が成立しなくなる可能性も伝えておきましょう。

 奥の部屋では、屈強な男たちを両サイドに配し、何羽ものシャモに囲まれた元締めがソファーに深々と座っています。
 元締めはPCの念書を確認し、「明日のメインは元団長の剣闘士vs無敗の化け物だ」と言います。

 GM注:もちろん『無敗の化け物』の正体は明かされません。いっそGMから「試合まで謎です」と宣言するのも手です。

 PCたちは元締めから、後は闘技場に行って説明を聞けと伝えられます。
 しかし、ここで事件が起きます。

 何やら部屋の外が騒がしくなったと思いきや、付き人が部屋に突入します。
 手にはもちろん包帯を巻いています。
 そして元締めの目の前に、お金がぎっしり詰まった皮袋を置いて話します。

 「これで見受け金は満額のはず。文句は言わせない。今すぐあの人を解放しなさい」

 元締めは手下にお金を数えさせ、薄笑いを浮かべて言います。

 「利息が足りねぇなぁ。これじゃあ無理だぁ。残念だったな、お嬢(お坊)ちゃん」

 GM注:もちろんこの後、適度な修羅場になるのですが、PCたちには決して本気で戦闘させないようコントロールしてください。
 心情はともかく、現段階では明らかに元締め側に理があります。


 結局この場は付き人が引いて終わります。その目には悔し涙が浮かんでいます。
 事務所を出るまでに多少の話はできるでしょう。以下に情報を記載します。

 ・ 昨夜は大変失礼した。怪我は大した事は無い。
 ・ 元団長は私の実の兄で、そしてお嬢様の恋人でもある。
 ・ 魔法使いの指輪は確かに誰かが盗んだ。しかし未だに犯人は分からない。市長も魔法使いも怪しいけれど、共謀したわけでは無いと思う。
 ・ 元締め、あるいはその手下の可能性も考えた。けれど兄がそれを見逃すはずは無い。
 ・ その指輪には何かの呪文が込められており、普段は封印が必要なほど強力であるらしい。
 ・ まさかとは思うが、兄は誰かを庇っているのだろうか。昨夜はそれを問いただしたかった。
 ・ ピアスは兄のプレゼントである。一人分しか買えなかったので、お嬢様と自分で分け合った。


 この辺りになると、勘の良いPCなら犯人の予想が付くかも知れません。
 その場合には知力系ロールの上、付き人にこう語らせましょう。

 「例えば野良シャモが指輪を盗んだのなら、兄に闘いを挑まないはずは無い。あの兄を見て闘わないシャモがいるとは思えない」

 この後、付き人は市長の娘に報告するため、屋敷に帰ります。


■闘技場

 闘技場の外見はまんまコロッセオです。ノリで味の素スタジアムそっくりとかでも良いでしょう。
 管理の役人がPCたちを迎えます。役人は闘技場各所を案内しながら、色々とPCに説明します。
 以下に入手できる情報を列挙します。

 ・ 警備は朝一番から日没まで。闘技場内外を行き来しつつ、防犯・防災に努める事。
 ・ 基本的にどの場所でも出入り自由。ただし剣闘士控え室は立ち入り禁止。
 ・ この闘技場は貴重な外貨を稼ぐ優れた施設だが、近年は奴隷制度が消えて参加者も減少し、存亡の危機だった。そこで人気者(=付き人の兄)が出たのは大きい。
 ・ ただし、次の試合はさすがに勝てないだろう。相手が悪い。だが、もし勝てれば無罪放免だ。


 闘技場の地下は薄暗く、何やら不気味な鳴き声が響きます。
 一番奥の牢屋に何かがいます。
 それは異常に高い位置から、不気味に光る二つの目をPCに向けています。

 GM注:多くは語りませんが、情感たっぷりに演じて吉です。

 これこそは「無敗の化け物」。
 明かりが点くと、そこにいるのはでっかいシャモです。
 ダチョウよりも巨大であり、まるで北国の馬のような迫力があります。
 地獄の底から響くような声でPCたちを威嚇します。ぶっちゃけモビルスーツ着てても勝てる気がしません。
 役人がさらに情報をくれます。

 ・ この化け物は1年ちょっと前にここに来たが、その前は闘鶏の横綱だったらしい。さらに前となると分からない。
 ・ 来た当時は今の半分以下の大きさだった。今では誰も勝てない。
 ・ たまに大きなシャモを見るが、ここまで大きいのは珍しい。


 GM注:珍しいどころの話では無いわけですが、こんなのとタイマン張ったら確実に5回くらい死ぬと印象付けましょう。

 観察系ロールなどで判定する場合、この都市のシャモをそのまま大きくしたようにしか見えません。魔法がかかっているかどうかも良く分かりません。

 以下、集合時間を決めて一旦解散とします。PCたちは明日まで自由に行動できます。
 この時点での時間は夕方前くらいです。


■市内で情報収集

 相変わらず活気に溢れています。大抵の人は喜んで話に応じます。
 話術・交渉系ロールがあれば、さらに良いでしょう。
 ここで集まる情報は以下のようなものです。

 ・ 罪人には罪に応じて見受け金が決まっているが、今まで見受けに成功した奴など見た事が無い。
 ・ あの『無敗の化け物』は、元締めが魔法を使って操っているに違いない。
 ・ 元締めはきっと相当な悪人だが、みんな怖くて黙っている。


 GM注:なるべく元締めが怪しい方向で行きましょう。実際、元締めは相当な悪人です。


■市長に会う

 屋敷に行くと、やはりあの新団長が当てこすりをしてきます。
 市長に会うなら適当な理由を考える以外にありません。また純粋に大会前で忙しいので、数分程度しか話せません。
 話術・交渉系ロールをしても良いでしょう。

 GM注:市長は誠実ですが、変化を望まない小心者のイメージです。元騎士団長の剣闘士に対しては、娘をたぶらかした憎い男と捉えていた事もありましたが、今では反省しているようです。

 ここで手に入る情報は多くはありません。

 ・ 指輪盗難事件に関し、誰かが責任を取らねばならなかった。
 ・ 自分を含め、屋敷中すべての者に対し、魔法使いが『検知系の呪文』をかけた。結果は全員無実(嘘は言っていない)だった。
 ・ 魔法使いはかつてこの市の魔術学院長であり、現在は名誉職(助言者)である。この屋敷の離れで一人暮らしをしているが、それは静かな環境で安全に研究がしたいとの希望から。


 魔法使いに会う算段は付けてくれますが、娘に会いたいと言うと難色を示します。
 PCがあくまで娘に会いたいと押す場合、もっともな理由をひねり出す必要があるでしょう。言いくるめ系スキルによる判定をしても良いかもしれません。

 GM注:別に市長を通さなくても、娘に会う方法はいくつかあると伝えましょう。無用な衝突は避けるべきです。

 また元締めとの癒着の噂など聞こうものなら、真正面から否定します。
 元締めのような人間も必要だろうが、政治とは一切関係無いという事です。
 なお、市長が嘘をついているかどうかは検知系の呪文・魔法で確認できます。市長(と新団長)は正直に語っているようです。

 去り際に、新団長の大変うざい謝辞を聞けます。


■魔法使いに会う

 市長屋敷の敷地の奥、静かな庭の中に魔法使いの住む離れがあります。
 何度か呼び鈴を鳴らせば魔法使いに会う事ができます。
 いわゆる典型的な魔法使いの風貌です。浮世離れしていますが、他人と話すのは嫌いでは無さそうです。

 GM注:学校の先生のようなイメージで演じると良いでしょう。出来の悪い生徒に教え諭すような口ぶりです。

 ここでは以下の情報が手に入ります。

 ・ 指輪盗難事件は、たまたま離れを留守にした時に起きた。それも白昼堂々、衛兵や家政婦の目を盗んで。
 ・ 指輪に込められた魔法の内容は、まだ研究途中だったので分からない。
 ・ 指輪の価値は確かに高いが、当時離れには指輪よりさらに高価なものがたくさんあった。なぜ指輪一つだけが盗まれたのだろう。
 ・ 最後に指輪を見たのは私で、最初に盗難に気付いたのも私だ。だがもちろん私は犯人ではない。何一つメリットが無い。
 ・ 騎士団長が誰であろうと、市長の娘が誰を好こうと、私の研究には何の関係も無い。賭け事や闘技場にも興味は無い。


 魔法使いは、事件当時の状況を細かく説明してくれます。
 当人は母屋(屋敷)に出向いて市長と茶を飲んでいた。
 庭の先に自身の離れが見え、そして警備の兵(元団長含む)が巡回しているのが見えた。新団長は城門警備で不在だった。
 ずっと眺めていたわけではないが、視界には常に誰かがいた。
 離れの裏や木々の向こう側は死角になるが、それでも人が通れば絶対に警備の兵に気付かれるはずだ。
 よって、何者かが不可視の魔法を使ったと推理する。

 GM注:それでも足跡は残りますが、検出されていないようです。
 魔法使いは頭が良いくせに、そういう所が少々足りないようです。


 一通り話をした後、魔法使いは指輪の精巧なスケッチをしてくれます。
 盗難の何週間か前に行商人から買ったらしく、由来も何も不明との事。
 ちなみに検知系の呪文・魔法を使うと即座にバレます(当たり前です)。ただし小言は言われますが、素直に応じます。嘘は言っていないようです。


■市長の娘に会う

 市長の娘はまだ屋敷にいます。付き人はいません。
 家政婦に交渉系ロールをする、娘の視界で手を振る、窓に小石を投げる、あるいは市長に頼み込む等にて、市長の娘と再会できます。
 お金で元騎士団長の身柄を買うという計画が暗礁に乗り上げた今、さすがに打ちひしがれた様子です。

 図書室や庭の隅のテラスなど、市長に見つかりにくい場所にPCたちを招き入れます。
 ここでは以下のような情報を入手できます。

 ・ いっそ家のものを売ってお金に換えようかと思ったが、元団長にきつく止められた。それをしたら指輪泥棒と一緒になってしまうからと。
 ・ あと半日程度では、とても金策は不可能だ。
 ・ 指輪泥棒は一体誰なのだろう。ああ、明日の試合までにその正体が分かれば、きっとあの人も助かるのに。

 GM注:ここでPCが立ち上がれば最高でしょう。正式な依頼ではありませんが、助ける意思表示をすれば相応の謝礼も期待できます。

 もしPCが事件解決に力を貸すと申し出るなら、娘は涙ながらに感謝します。
 必ずお礼をする、でも今は付き人がお金を持っているので、あの子が帰り次第きっとお礼はすると申し出ます。
 なお、娘は最後にこう付け加えます。

 ・ 付き人は「最後の策がある」と言って出て行った。

 これを聞けば、勘の良いPCは付き人の意図に気付くかも知れません。知力系ロールをしてみましょう。
 何も持たない付き人にとって、売り物はもう一つしか残っていません。


■元締めに会う

 時刻はすっかり夜になっているでしょう。
 堂々と正面から行くも、裏口から忍び込むも自由です。どちらの場合も元締めに会えます(後者の場合は見つかります)。
 屈強な男たちはいますがシャモはいません(夜なので)。
 元締めは悪びれた風も無く、自身満々でPCたちと対峙します。

 「さぁて、どうだったかねぇ? どこかで見たような気もするわなぁ。それより、権限も無しに人の家を嗅ぎ回ると罪になるぜ?」

 検知系の呪文・魔法を使う、または知覚・観察系ロールをすると、元締めの機嫌が極めて良い事が伺えます。
 何を聞いても元締めはのらりくらりと応じ、すぐに奥に引き込みます。

 GM注:ここでPCが力押しにならないよう注意してください。もし付き人がここにいる場合、その命は元締めが握っています。ここは一旦引く(と見せかける)のが有効でしょう。

 事務所の内部に忍び込むのは可能です。隠密系スキルのあるPCはここで活躍できます。
 ただし、夜中過ぎまで何の動きもありません。また付き人の姿も見当たりません。

 夜中を過ぎると、なぜか新団長が尋ねてきます。
 元締めと小声で会話をした後、どう見積もっても相当な額のお金を新団長は受け取ります。

 GM注:100%賄賂です。新団長は金を受け取るとすぐに退場します。
 実は馬車を取りに行ったのですが、後を追うPCがいたとしても気付く事はありません。


 また、深夜に以下のイベントが発生します。
 裏通りに4頭立ての馬車が訪れ、事務所の裏門の前で停まります。知覚系ロールをしておきましょう。
 すると裏門が開き、中から大きな麻の袋を抱えた男たちが現れます。
 男たちは袋を馬車に積み、そのまま馬車で移動して行きます。人数は御者も含めてPC+2名です。元締めはいません。
 新団長がいるかどうかは、以下「■馬車を追う」のA案B案で変わります。

 GM注:あからさまに怪しく演じましょう。麻袋は「ちょうど人間一人分くらいの大きさ」などと言っておくと効果的です。
 ただし、もしその中身が付き人だとしたら、その命を握っているのは相変わらず相手側だという事を忘れないようにしましょう。


 先程の知覚系ロールの値が高かったPCは、馬車の跡にピアスが落ちているのを発見します。もちろん見覚えがあります。
 馬車の後を追うなり、ここで戦闘に入るなりすればこのイベントは終了です。


■馬車を追う

 馬車の後を追うなら急がなくてはなりません。ただし馬車も慎重に進んでいますので、PCの脚でも何とか追う事が出来ます。
 城壁を出た馬車は、街道脇の森に向かって静かに走ります。そして森の入り口で停車し、何やら作業をしているようです。
 時刻はそろそろ明け方です。

 GM注:ここで2通りの考え方があります。
 じっくりとプレイしたい場合は以下A案を、畳み掛けたい場合はB案を採用すると良いでしょう。


 A案
 実はこの馬車は「おとり」でした。
 麻袋には新団長が入っており、不意打ちを仕掛けてきます。うるさいPCたちを都市の外で始末してしまおう、というのが元締めの魂胆です。
 PCは馬車の刺客(PCの人数+3人)を倒した後、すぐさま事務所まで戻らなければなりません。

 B案
 人身売買の受け渡しの現場です。しばらくすると、街道の先から新たな馬車がやってきます(戦闘になったら逃げ出すでしょう)。
 この場合、最初から新団長がいた方が良いでしょう。
 麻袋の中身は明らかに小柄な人間です。PCたちは迅速に行動する必要があります。

 GM注:中盤の重要な戦闘ですが、相手はラスボスではありません。時間短縮をしたいなら、「数人斬ったら逃げ出した」などとするのも手です。
 ただ、新団長だけはボコボコにしてやりましょう。
 しかし証人として必要ですので、命だけは助けてあげましょう。


 いずれの場合も戦闘になるでしょう。どちらの案でも元締めを攻める口実になります。
 新団長もしくは手下は、以下の情報を持っています。

 ・ 元締めは確かに人身売買でのし上がった。
 ・ それができたのは、前の騎士団長が剣闘士として拘束されたからだ。奴は切れ者だから、奴の現役時代はシノギにならなかった。
 ・ 元締めの悪事は賄賂で握り潰してきた。
 ・ しかし、指輪事件を起こしたのが元締めかどうかは分からない。
 ・ (付き人がいない場合は)付き人は事務所の酒蔵にいる。


 そして時刻はもう朝です。悲劇の剣闘士の命運は、今やPCたちの手にかかっています。


■大詰め

 付き人がここにいる場合、衰弱してはいますが元気です。
 すぐ都市に戻って市長に報告、城壁封鎖の上、元締めを逮捕する案を進言します。
 PCたちはこの通りにしても良いし、自分たちの手で元締めを逮捕しても良いでしょう。

 付き人がいない場合、急いで取り戻すべきです。
 どちらにしても馬車で一旦市内に戻りましょう。

 GM注:闘技場のメインエベントは正午過ぎなので、まだ間に合うと伝えてください。
 本当はギリギリですが。


 付き人がいない場合、元締めの事務所で大立ち回りをするのも良いでしょう。元締めは完全に油断しているので、まな板の上のカニのようなものです。
 市長に報告するにしても、元締めの事務所には向かう事になるでしょう。存分に戦ってください。

 ただし、元締めは『指輪事件』に関しては何も知りません。
 検知系の呪文・魔法を使っても、嘘は言っていないようです。
 最後に以下の情報を入手できます。

 ・ 目の上のコブだった元団長が投獄され、剣闘士になったので、これ幸いと事業を拡大した。
 ・ 新団長が賄賂と引き換えに黙認していたので、結果として市長も知る所ではなかった。
 ・ 『無敗の化け物』は元団長の逮捕と同時期に手に入れた野良シャモで、当時は普通のシャモと変わらぬ大きさだった。
 ・ 指輪事件を聞き、最初はそのシャモが指輪でも飲み込んだのではないかと思ったが、そのシャモが衛兵に闘いを挑まないとは考えられない。


 こうした情報を手に入れるうちに時間は過ぎ、やがて闘技場から大歓声が聞こえてきます。
 そろそろメインの試合のようです。急ぎましょう。
 しかし市長の権限をもってしても、試合を途中で止める事は出来ません。

 GM注:一度最高裁で決まった事が覆らないのと一緒です。勝つしかないのです。

 ここで市長の娘が重要な事に気付きます。

 「…そう、あの日の朝! 指輪事件の朝、私とあなたで作った…」

 ここまで聞くと、付き人はお尻にジェットエンジン積んでるみたいに駆け出します。行く先は屋敷の厨房です。
 何事かといぶかるPCたちに、市長の娘は急いで馬車を用意してくれと頼みます。
 戻った付き人は何やら包みを抱えています。
 そして娘と付き人は馬車へ飛び込み、PCたちを連れ立って闘技場へと向かいます。

 GM注:この辺はなるべく質問を挟ませないように、畳み掛けるように進行するのがベストでしょう。
 いずれ謎はすべて明らかになります。



■真相

 馬車の中で市長の娘は語ります。
 あの指輪事件の朝、娘と付き人は、衛兵たちのために朝食を作った。
 その材料の中に、この地方では珍しいニンニクを使ってみた。
 その匂いが原因でシャモは衛兵に近付かなかった。
 つまり、犯人は『無敗の化け物』だ。

 GM注:文章で読むと誰でも気付きそうな簡単お手軽推理モノですが、テーブルトークRPGではこの程度が良いと思います。
 条件付けをするため、シャモは必ず「強敵を見たら立ち向かう」と何度も強調してください。


 シャモは光り物が好きでニンニクの匂いを嫌う。
 そしてあの指輪には、おそらく巨大化系の魔法が封じられていたのだろう。
 野良シャモが屋敷に迷い込み、衛兵たちを避けるうちに離れに入り、そして指輪を飲み込んでしまった。きっとそれが真相だろう。

 そうこう話すうちに、闘技場の大歓声が近付いてきます。
 市長の娘はここぞとばかりに立場を強調し、人ごみをまるでモーゼの十戒のように叩き割りながら進みます。

 GM注:「普段はおとなしい娘が…」のパターンでも、「ドSっぷりがさらに突き抜け…」のパターンでも良いでしょう。

 闘技場はまさしく興奮のるつぼ状態で、今まさに元団長の剣闘士と『無敗の化け物』が対峙しています。
 そして高らかにドラが鳴らされます。
 試合開始のその瞬間、PCたちは同じ闘いの場にいるのです。

 ここから先は多くを語りません。
 付き人の持つニンニクを使ったり、助太刀したり、ともかく派手にエンディングを迎えましょう。
 観客席になだれ込んだ『無敗の化け物』と闘ったり、ケージが破れて逃げ出した猛獣たちと闘ったりも良いでしょう。
 ここではPCたちも「剣闘士」です。

 GM注:もちろんニンニクがあろうが無かろうが『無敗の化け物』はウルトラマンタロウに出てきたバードンのように強いです。
 ラスボス戦なので気合を入れて行きましょう。


 やがて元団長の剣が『無敗の化け物』の体を貫きます。
 突き抜けた剣の刃先には指輪が光っています。
 静まり返った会場の中、2年余りも無敗を誇ってきた巨獣の、断末魔の雄叫びが響き渡ります。

 そして割れんばかりの大歓声の中、一人の罪人がついに栄光を勝ち取り、『真の剣闘士』として生まれ変わります。
 大団円に向かっての最高のエンディングを、GMとPCたち全員で創り上げてください。


■大団円

 闘技場の終了セレモニーです。市長が剣闘士たちにメダルを渡します。
 最後の元団長の番になって、市長はどうやら謝罪したようです(歓声が凄すぎて聞こえません)。

 自由になった剣闘士は褒賞を選べます。ここで元団長は褒賞を断り、都市と人々に対して代わらぬ尽力を誓います。
 それでも市長は褒賞を与えようとします。

 GM注:お約束です。市長は「何でもそなたの望むものを」などと言いつつ、自分の娘に微笑みかけたりします。

 そして元団長は、自分の愛する女性と愛する妹(弟)を見て言います。

 「では、新しいピアスを」

 こうして伝説は生まれ、PCたちはその証人になるのでした。


■終わりに

 元団長は、いずれまた騎士団の団長に返り咲くでしょう。
 不正なノミ行為もなくなり、人々は安心して暮らせるようになるでしょう。
 闘技場の行く末は不明ですが、そこは管理の役人がPCに釘を刺します。

 「仕事をサボりやがったんだから、次はお前らが出場しろよ!」

 PCたちへの報酬は、娘と付き人が一所懸命に集めたお金がそのまま支払われます。
 いくら断っても押し付けるでしょう。娘は言います。

 「もう私たちには必要ありませんから」

 豪腕注:書いててイラッと来ました。いやそれだけ。

 そして例のおいしいスタミナ料理が振舞われます。
 今度の料理はもちろんニンニクたっぷりです。

 ちなみに付き人ですが、ひょっとしたらPCの誰かとロマンスが生まれるかも知れませんね。
 そこはもう無礼講ですので、好きに行っちゃって良いと思います。

 そういうわけで、長々とお送りして参りました今回のシナリオ。

 まず間違いなく付き人はメイドさんになると思います。

 分かる人は早い段階で分かっちゃうかも知れませんが、そこはGMのマスタリングでどうか頑張ってください。
 その分ピアスが何か怪しかったりとか色々と枝葉も茂らせてみましたので、あとは皆さんのアレンジで美味しく召し上がっていただきたく存じます。
 賭け事やら何やらは、GMとPCのダイスの振り合いなどで再現すると良いでしょう。そうやって楽しむ事こそ最高のゲームですとも。

 それでは、良き旅路になる事を祈りつつ。









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