『沙耶の唄』








あなたは、生き抜くために何をしていますか?

仕事をしていますか? 夢を持っていますか?

それは、いずれも素晴らしい事です。

では。
もっと根源的な事をお聞きしていいですか?

食っていますか?

貪るように食っていますか?

何かを食う。
この行為を、あなたは本当に理解していますか?

その行為とは。

自分以外の他の生命を終わらせる行為です。

こんばんは。
焼肉大好き豪腕はりーです。

今回のレビューは、人が「人として」生きるための根源的な意味、そして、「人ではない他の何かとして」生きる意味を探っていきたいと思います。

そう。この物語は、変わります。

日常が非日常に。

人が肉に。

肉が人に。

人が人でないものに。

まったく別の物に…。






  
同一人物です。




今回ご紹介する『沙耶の唄』は、いわゆるホラーです。

パッケージにはしっかりと、サスペンスホラーアドベンチャーゲームと書いてあります。

「燃えません! 凍えます。」というキャッチと共に、並々ならぬダークな雰囲気を醸し出しているわけで。

アドベンチャーというより、純然たるノベルですね。

選択肢3つしかないし。

では、その内容です。

交通事故で生死の境をさまよった匂坂郁紀(さきさかふみのり)。
奇跡的に回復するも、その目に写る物すべてが異形の世界に変貌していた。

具体的には、肉塊です。

人も、建物も、乗り物もすべて不気味にうごめく肉塊に見えてしまう。

親しい人でさえみんな化け物。

聞こえる声は化け物のうめき声。

想像できます?

山手線は肉電車。

トイレは肉便器。

北海道は肉塊道。

幕張メッセは肉張メッセ。

ハンバーガー屋はニクドナルド。

桜庭和志はニクラバ和志。

目に見えるものは全部「肉」。

耐えられない。
こんな悪夢は耐えられない。

だってアレですよ?

「PRIDE」観に行くと、肉と肉とのぶつかり合いなんですよ?

…あれ? 合ってるなあ。

「PRIDE」出場者は、みんな人間じゃないんですよ?

…あれ? 合ってるなあ。

いや、ともかく。

そんな恐ろしい状況に投げ込まれ、一時は自殺も考える主人公。

そりゃそうでしょう。






いままでこう見えていた物が…。





事故によって…。




こう見える。




しかし、そこに現れたのが、「沙耶」という少女です。

美しい少女です。

この物語の根幹を成す美少女です。

そう。
すべてが肉まみれの異臭漂う世界に、見目麗しい少女が現れたのです。

なぜこの少女だけ普通に見えるのだろう。

その謎が明らかにされた時、あなたは稀有な体験をするはずです。

私は感じました。

肉が愛しいんです。

今までゲームや映画を問わず、ホラーのジャンルにおいて「肉を食うのが嫌になる」という経験をした方は多いと思うんです。

私だってそうです。

「バイオハザード」を観た後で焼肉を食おうと言われた時は、全身全霊で抗ったものです。

しかし、この作品は違いました。

あれだけグチョゲロな肉汁したたる強烈な映像を「これでもか」と見せられたのに、その肉を愛してしまっている自分に出会えたんです。

これは「洗脳」ではないんです。
「転換」なんです。

主人公の世界、沙耶のつむぎ出す異様な世界。
それを知れば知るほど、根源的な肉を知らされてゆくんです。

それは主人公の変換に通じます。

主人公の嫌悪を受け入れ、主人公が受け入れた時に嫌悪し、そしてラストで主人公と共に認めてしまう自分がいました。

これは不思議な作品です。

良い・悪いではなく、ひたすらに不思議な作品なんです。

「食う」という他の生命を終わらせる行為が、ある意味崇高なラストに繋がります。

まずはプレイしてみましょう。

そういうのが苦手な方は、グロ映像にフィルターかける事もできます。

肉の転換が体験できます。






いままでこう見えていた物が…。





転換されると…。




こう見える。




まあ、不満もなくはないです。

あれだけ神秘的イメージで引っ張っていた沙耶の正体。

その辺のB級SFに成り下がってしまった感は拭えません。

グレッグ・ベアの『ブラッド・ミュージック』に似たカタルシスがありますね。

ぜひ、ご自身の目で確かめて下さい。
値段もプレイ時間も手ごろです。

しかし。

これだけは伝えたい。

女医って素晴らしい。

「Joy」ですよ。

joy second to no other.

【対訳】何物にも勝る喜び。






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