短編小説「さそり座の女」



 あたし、嫉妬深いのよ。
 何たってさそり座生まれだしね。
 でも、アタマだっていいのよ。ホントに。
 一応大学院生だから。
 ちょいと学術調査なんかで、地方を訪れたりもするワケよ。
 そしたらさ。よくあるパターンの一目惚れ。
 カレ、ここの地元で漁師の見習いやってんだって。
 たまたま一人で漁に出てる時に、あたしたちを乗せた調査船とバッタリ。運命って信じちゃうな。
 予定つまってたけど、教授に頼んで、無理やりカレと話す時間を作っちゃった。さそり座ってのは行動派なのよ。
 あたしらの船に乗せてあげたの。
 カレも相当びっくりしてたけど、そこは愛の力。なーんてね。なかば強引だったけどさ。
 でもさー、やんなっちゃう。
 奥さんがいるんだって!
 だから「早く帰してくれ」なーんて言うのよ。
 チョムカだよね。「はいそうですか」なんて言えるワケないじゃん?
 だからカレ、今も実験室の中。
 下等生物のくせに、あたしに逆らうのがいけないのよね。
 はあ〜。せっかく星がキレイなのに。カレと二人で見たかったわあ。
 あたしたちの故郷もよく見えるのに。
 確か、地元の言葉でアンタレスとか呼ばれてたわね。
 あたしはさそり座の女。
 触手のお手入れしなきゃ。



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