短編小説「金の斧」



 きこりのハンスは働き者。今日も森へ出かけます。
 木が倒れるぞ。ヘイヘイホー。
 ところが今日は手が滑って、大事な斧を泉へ落としてしまったのです。  するとびっくり。
 泉の中から、美しい女神様が現れたのです。
 目をお皿のように丸くするハンスに、女神様は言いました。
 「お前が落としたのは、この鉄の斧か? それともこの金の斧か?」
 そこでハンスは言いました。
 「おら、あんたが欲しい」
 そして二人はめくるめく愛の日々を…


 …はっ、すみません。間違えました。
 「そっちの、鉄の斧です」
 ハンスが答えると、女神様は答えました。
 「正直者よ。では、お前の鉄の斧を返そう」
 こうして鉄の斧を返してもらったハンスは、また森のしがないきこりとして、慎ましい一生を送りました。


 きこりのケビンは怠け者。ハンスの話を聞き、錆びた斧を持って泉へと向かいました。
 泉に斧を投げ込むと、あの美しい女神様が現れました。
 「お前が落としたのは、この鉄の斧か? それともこの金の斧か?」
 ごくりと唾を飲み込んで、ケビンは言いました。
 「金の斧です!」
 すると女神様は答えました。
 「正直者よ。では、こちらの金の斧を渡そう」
 こうして金の斧を手に入れたケビンは、すぐさまそれを売り渡し、豪勢に遊んで暮らしました。
 でも、バブルははじけ、気が付いたら借金だらけの暮らしになりました。
 もう斧がないので、きこりには戻れません。
 弁護士に遺書を管理させ、ケビンはまた、泉に向かいました。


 ここでまた女神様が聞くのです。
 「ハンスとケビン、どちらを選ぶ?」


          < 完 >


 おまけ。
 ハリーが斧を泉に落とすと、女神様が現れました。
 両脇に、屈強な二人の男がいます。
 「お前が落としたのは、こちらの斧か?」
 巨体のレスラー、大森の右腕がうなりました。
 「それとも、こっちの斧か?」
 ハルク・ホーガンの往年の右腕が火を吹きました。
 「どっちかね…おい、死んでいる場合ではなかろう」



back

home