短編小説「私の人形は良い人形」



 私の人形は良い人形。
 私の人形は良い人形。
 さあメアリーちゃん、挨拶しましょうね。
 今日もとっても素敵よ。ちゃんと鏡を見ながら、髪をとかしましょう。
 ジェーンちゃんは、まだ小さいから、お座りしてましょうね。
 今日は何のお洋服にする? お花のドレスがいいかしら。それとも、水色のワンピース? シックにベージュで決めるのもいいわ。
 あら、それがいいの? じゃあお着替えしましょうね。
 駄目よケン君。レディーの着替えを覗いちゃ。あなたはこっちを見てるのよ。済んだら、ちゃんと教えてあげますからね。
 あら、とっても似合うわよ。
 みんな見て。ほら、こんなに素敵。
 メアリーちゃんったら、みんなの中で一番美人よ。
 さあ回って見せて。綺麗ね。ほんとに綺麗。
 ケン君も、ロビン君も、みんながあなたを見ていますよ。はい、お辞儀をしてね。
 今日は、何をして遊びましょうか。
 そうだわ。学校みたいにしましょう。みんな集まって。これから授業が始まりますよ。
 私は先生になります。ちゃんといい子で聞いてね。
 ジェーンちゃんは、私のひざの上にいましょう。もっと大きくならないと、学校に行けないからね。ここなら平気よね。
 なあに? 一緒にお歌を歌いたいの?
 もちろんいいですよ。じゃあ、何のお歌にしましょうか。
 そうねえ。「ア・ハッピー・デイ・イン・ガニメデ」も「フォーエヴァー・ピース」も「アクロス・ザ・シー・オブ・スターズ」も、みんなこの前歌ってしまったわ。
 困りましたねえ。
 そうだわ。ママに聞けばいいのよ。ママだったら、きっと何でも知っているわ。
 みんな、いい子で待っててね。ママに聞いてくるから。
 リンクデバイス。コネクト。アクセス。
 booon……。
<コンニチハ、ばっくらんど家ノ子供タチ。今日モ元気デスカ?>
 ママったら、いつもそればっかり。ここには子供なんていないのよ。私とお人形だけ。
<本日ノゴ要件ハ何デショウ?>
 新しいお歌を教えてください。
 あら、大変。またジェーンちゃんの腕が抜けちゃった。
 ママ、今のコマンドは削除。ジェーンちゃんの腕を治してあげて。
<了解。生体癒着ノタメノ溶剤ヲ塗布シマス。ぼっくすノ中ニドウゾ>
 さあジェーンちゃん。お風呂ですよ。ちゃんと治りますからね。ママの言う通りにしましょうね。
 いつ本物のジェーンちゃんが帰ってきてもいいように、綺麗にしておきましょうね。
 ママ、今何時かしら?
<世界標準時間デ、09:14:36。しぇるたー内ニオケル連続活動時間、19825:01:13デス>


 ストロンチウムの粒子が吹きすさぶ荒野。
 バックランド家の地下シェルターでは、かつての主人たちを使った人形遊びが、いつ果てるともなく続けられている。
 アンドロイドは待っている。
 主人たちの帰還を。枯れた肉体に再び魂が宿るのを。
 ただ待っている。
 いつまでも。



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