ある男が死んだ。
彼は希望を持ち、そして我々に希望を与えた。
彼は夢を抱き、そして我々の夢を叶えた。
彼は力強く、そして美しかった。
彼は猛り、叫び、舞い、そして誰よりも高く空を飛んだ。
彼は並外れたその力で数多の敵をなぎ払った。
彼は最も素晴らしく、そして最も強い戦士だった。
彼の背にはまるで翼が生えているかのようだった。
緑の翼が。
そして彼は疲れていた。
彼はいつも満身創痍だった。
彼は一人の男であり、夫であり、父だった。
彼は一人の悩める実業家だった。
彼は誰よりも人の痛みを知る男だった。
彼は誰よりも人の苦しみを知る男だった。
彼は優しかった。
彼は誰よりも優しかった。
彼は誠実で、誰よりも信頼できる男だった。
彼は誰からも愛され、誰からも親しまれていた。
しかし、彼は嘘つきだった。
彼は自分に嘘をついていた。
自分の体に嘘をついていた。
止まりたいという自分の脚に嘘をついていた。
休みたいという自分の腕に嘘をついていた。
自分の体の悲鳴にだけは、頑として耳を貸さなかった。
これ以上は羽ばたけない、そんな自分の翼に嘘をついていた。
しかし彼は飛んだ。
10年、20年、その翼が溶け果て骨になるまで飛んだ。
輝く太陽を、その理想を、我々の夢を掴むために飛んだ。
彼は飛び続けた。
その背に我々の送る風を受け、そのためだけに空を飛んだ。
何度叩き落とされようと、不死鳥のように飛び続けた。
何度叩き潰されようと、不死鳥のように立ち上がった。
我々が叫び続ける限り、彼は何度でも立ち上がった。
何度でも。
何度でも。
何度でも立ち上がった。
しかし、立てない時が来た。
あの美しかった緑の翼に、羽根はもう一枚も残っていなかった。
輝きを背負い、天空を舞った彼の勇姿は永久に見られなくなった。
今、彼は本当の天使となって、空の彼方へ行ってしまった。
彼は、満身創痍の――
満身創痍の緑の天使だった。
彼が行ってしまった事で、この世界も変わるだろう。
彼は行ってしまったけれど、この世界は続くだろう。
彼の命を刈り取った死神は、彼の創ったこの世界を、
永久に支えていかねばならなくなってしまった。
彼のすべてと、彼の育てたすべて。
そして、我々の夢のすべてが詰まったこの世界を。
それは、何よりも重いものだろう。
それは、何よりも辛いものだろう。
しかし死神は世界を支え、そして世界を変えるだろう。
かつての彼のように。
強く、そして美しかった彼のように。
あの緑の天使のように。
彼がそうしたかったように。
なぜなら、一歩間違えば――。
死んでいたのは、死神の方だったから。
緑の天使が残してくれた大いなる種は、
やがてこの世界のいたる処で芽吹くだろう。
それらはきっと弱々しく、そして頼りないだろう。
いくつかは志半ばで力尽き、そして倒れてしまうだろう。
しかしきっと、残った者たちが大きく大きく育つだろう。
しっかりと根を張り、やがて新たな緑となるだろう。
その時こそ。
この世界を、立派に実った一つ一つの緑がしっかりと支えるだろう。
その時こそ。
死神は、その十字架を下ろす事が出来るだろう。
その時には、死神はもう死神ではないだろう。
そしてかつての彼のように、自由に空を飛び回る事が出来るだろう。
我々は待っている。
その時を。
なぜならば、我々が。
我々こそが、彼の残した種だから。
我々一人一人が種なのだ。
小さな小さな種なのだ。
我々が支えるのだ。
いつかこの世界を。
明日からのこの世界を。
俺たちが。
俺たちが支えるんだよ!
俺たちが支えなきゃ駄目なんだ!
だから俺は一言だけ言いたい。
どうしても伝えておきたい。
もしも、これが貴様の仕業なら。
全知全能の神よ――
貴様とは永久にサヨナラだ!!
さあ叫べ!!
共に叫べ!!
俺たちの3カウントはまだ終わっちゃいない!!
声の限り、
力の限り、
魂の限り、
喉が潰れても――。
今こそ!!
天まで届け!!
ミッサーワッ!!
ミッサーワッ!!
ミッサーワッ!!
ミッサーワッ!!
俺たちが守るから!!
絶対に守るから!!
立ってくれ!!
嘘だと言ってくれよ!!
ミッサーワッ!!
ミッサーワッ!!
ミッサーワッ!!
ミッサーワッ!!
三沢ーーーーッ!!
聞こえるか!!
俺たちの声が!!
応えてくれよ!!
何でもするから!!
頼むから応えてくれ!!
嘘だと言ってくれよ!!
三沢ーーーーッ!!
ミッサーワッ!!
ミッサーワッ!!
ミッサーワッ!!
ミッサーワッ!!
あ り が と う 。
不世出の天才レスラー、三沢光晴に捧ぐ。
夢を、ありがとう。