短編小説「巨乳の星」



 おっぱい世紀0079、巨乳連邦政府とプニロリ公国の間に、惑星間戦争が勃発した。
 巨乳側の主席たる「爆乳王」キタジマンは、増え続ける貧乳人口に激怒した。
 大きな乳には母なる希望。この旗印のもとに、おりしも首脳会議が開催されようとしていた。
 この星では選りすぐりのエリート、すなわち心の底からの巨乳好きが、今、一同に介している。
 たわわに実ったおっぱいの国旗を背に、キタジマンは立った。
 まさに会議が始まるその時。
 衛兵が、不審な人物を捕らえたとの報告をもたらした。
 「そやつが女ならば、連れて来るがよい。…えぐれパイなら、死罪」
 荘厳な声でキタジマンは告げた。
 しかして、連れてこられたのは、どう見積もってもAカップがせいぜいの貧乳である。年の頃は20歳をやや越えていよう。
 この星の女性は、中学卒業までにCカップ、成人までにDカップを越えていないと、法律によって罰せられる。すなわちこの女は犯罪者である。
 しかし首脳たちの驚きを呼んだのは、その外見ばかりではない。この女は、さる有力な貴族の令嬢だったのである。
 立場故に外見で逮捕される身分ではない。キタジマン王とも面識がある。だが、自由に動けるものではないはずだ。
 「そなた、マリーか。なぜここに?」
 キタジマンが訪ねると、マリーと呼ばれた女はその無い胸を精いっぱい張って、答えた。
 「王様。いえ、子供の頃のように、あえてキタジーと呼びましょう。聞いていただきたい。こんな無意味な戦争は、今すぐやめるべきです」
 会議室の空気が凍った。この女、とても生きては出られまい。
 みるみるうちに真っ赤に染まるキタジマンの顔。爆発寸前の一瞬に、マリーは手に持ったどんぶりを差し出した。
 「ごらんあれ。この牛丼を」
 目を丸くしてキタジマンは言った。
 「吉野屋か?」
 「いえ、松屋です。…そんなことはよろしい。聞きなさい、キタジー。女の胸なんて、この…」
 今度は小鉢を出した。
 「おしんこみたいなものなのです」
 途端に、会議室はざわめきが支配した。
 「よいですか。あなたは牛丼を食べに来た。そして、おしんこが付いてきた。もちろん、おしんこは無いよりあった方がいいでしょう。しかし、あなたの目的は、あくまで牛丼。おしんこではないはずでしょう」
 この言葉の衝撃が、王宮を揺るがした。
 しばしうろたえたキタジマンだが、すぐに取り直して言った。
 「余に説教をするかマリーよ。では聞かせてやろう。女の乳はな、カレーライスのカレーなのだ!」
 この言葉は喝采をもって迎えられた。
 「カレーライスからカレーを取れば、それはただのライスなのだ。そんなものは、余の口に合わぬわ!」
 そして腰の剣を抜いた。殿下の宝刀、スピニングToフォイルである。
 「命乞いをすれば助けてやらんでもない。このペチャパイめ。あれほど巨乳の母を持ちながら、お前は…」
 しかし、マリーは下がらない。かたくなに牛丼を抱えながら、ずんずん前に出る。
 キタジマンも、こうなっては剣を引けない。
 切っ先がマリーの腹に当たる。思わずキタジマンの手がためらう。その手をマリーはしっかりと握り、一気に剣を自分の腹に突き立てた。
 「お前…」
 「キタジー。手を…」
 マリーの手が、キタジマンの手を取る。その手をマリーは、自分の小さな胸に押し当てた。
 「…暖かいでしょう? 大きさなんて関係ないの…」
 そして、マリーは笑った。
 牛丼が落ちる。容器の割れる音が、はるか廊下のかなたまで響いた。
 「マリー!!」
 くずおれるマリーの体を、キタジマンはしっかりと抱きしめた。巨乳しか知らないキタジマンの手に、その体は、折れてしまいそうなほどに細かった。
 そして、暖かかった。


 好みは所詮十人十色。もしそうでなかったら、きっと世界中の男たちが、一人の女を巡って殺し合いが始まるだろう。


 新世紀0001。戦争は終わった。


 結婚初夜。
 初めて肌をさらすキタジマンが、照れ臭そうに言った。
 「俺ってさあ、実はコンプレックスがあるんだよね」
 そして、ローブを落とした。
 「…小さくない?」
 クスッと、マリーが笑った。



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