『痕』リニューアル版






温故知新、という言葉があります。
「古きを尋ねて新しきを知る」という意味ですね。

あまたのプレイヤー達に雷鳴の如き衝撃を与えたこのゲームには、なんとも地味に似合う言葉だと思いませんか。

「フォルクスワーゲン・ゴルフ」という車を知ってますか(唐突)。
これは、FF2ボックスのその後の歴史を決定付けた車として、稀代の傑作と歌われた小型車の名前です。
その居住スペースは他の追従を許さず。

「パッケージングの鬼」と異名を取った車です。

1974年に生まれたその偉大なる父を越えるべく、2代目ゴルフは1983年に登場しました。

ノッポさんが空き箱で作れそうなそのフォルムを残しつつ、洗練されたスタイルになって生まれ変わったのです。

しかし。
父の背中は高かった。

セールスにおいて先代を越える事ができず、最後まで「よくできたファミリーカー」の地位を覆す事はできませんでした。

さて。
私がこれから話すのは、もうひとつの「鬼」の話です。




あの衝撃の前作から6年。
模倣作が未だにふえるわかめちゃんみたいに生み出される中、『痕〜リニューアル版』は発売となりました。

一体どこがどう変わったのか。
パッケージを手に取ってみると。

一目瞭然です。

なんだかすごい前衛的な絵画が描かれています。

おそらく前作のファンのうち、148%くらいがため息をついた事でしょう。
それが感動のため息ではないという事は、以下の説明を読んでいただければお分かりになるかと思います。

まず、長女の千鶴姉さん。

東北地方の「こけし」も逃げ出すくらいに肩がありません。

まるで爬虫類かと見紛うような流麗なフォルムです。
Cd値は0.3くらいでしょうか。

南無阿弥陀仏。

続いて次女の梓さん。

まだ10代なのに絶望的におっぱいが垂れています。

地球には確かに重力があります。
もっと早く宇宙時代が来ていれば。

南無妙法蓮華経。

そして三女の楓さん。

いや、これ、ギリギリです。
ほんとギリギリ許せそうです。
可愛いんです。確かに可愛いんです。
だがしかし。

一度転んだら自力で起き上がるのは不可能な程にすごいバランスです。

まるで頭から手足が生えているかのようです。
ここの姉妹はどういう生態系に属するのでしょうか。

南無観世音菩薩。

最後に、末っ子の初音さんです。

やっぱ常に頭に笹みたいなのが刺さっているんですけど、カユくないんでしょうか。

このくらい幼くなると。
もう等身がどうのとかは、本当にどうでもよくなります。
そんな事より釣りにでも行こうよという気分です。

…色即是空。




さて、ここまでひどい事を書き連ねてきましたが、この作品の真価はそんな瑣末な所にはありません。
そう。「瑣末」と書きました。
エロゲを名乗る以上ビジュアルは重要視せねばなりませんが、こと『痕』に関しては、そんな事は2次的な要素に過ぎないのです。

ここに書かれている物語は、ビジュアルが絶対的な主題なのではなく。
骨太の良質なミステリなのです。

誤解を恐れずに言うのなら、これは『かまいたちの夜』などに代表される「サウンドノベル」の骨格に、美少女という外装をまとったハイブリッドな作品なのです。

96年という昔に「ゴルフ」のパッケージングを有した「プリウス」が走っていたのですよ。

これが、偉大なる先代です。
今回取り上げたリニューアル版も、先代のいい所はすべて残されています。
というよりも。

変わらないのがいいんです。

たかがゲームで、肌に粟立つあの感覚が幾度となく楽しめます。
パッケージを見てすぐ挫折したチャレンジャーorダイのダイの側の人は、どうかもう一度手に取ってみてください。

「…あなたを愛したくなかった。…愛してしまえば、きっとまた、胸が引き裂かれるほど…苦しくなる…」

ここには「鬼」がいます。
愛と家族と命のために、心を凍らせた鬼がいるのです。

あの公園で最初に鬼に変わるシーンに何度震えた事でしょう。

ビジュアルノベルのひとつの到達点であるこの作品が、今でもすぐに手に入る喜びを噛みしめたい。
だからこそ、リニューアル版はいい作品なのです。

「…耕一さん。…あなたを、殺します」




ゴルフのパッケージングは変わり、そして『痕』のパッケージも変わりました。
しかし変わらない良いものがあるのですよ。

ところで。
いつまであなたはこんなつまらないレビューを読んでいるんですか。

とっとと秋葉原にでも行きなさい。




あ、でも。
例の盗作騒ぎのエンディングは消えましたね。
やっぱり先代は偉大かと(笑)。




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