『彼女の願うこと。僕の思うこと。』







1999年 5月23日。

ミズーリ州カンザスシティ、ケンパー・アリーナ。

こんばんは。プロレスファン歴27年の豪腕はりーです。

冒頭の日付は、コアなプロレスファンなら「ああ、あの日か」と思い出す事でしょう。

ヒットマン、ブレット・ハートの実弟。

ブルー・ブレイザー。

偉大なるプロレス界のサラブレッド。


オーエン・ハートの命日です。



世界最大のプロレス団体「WWE」の、過剰になる一方の演出が生んだ悲劇でした。

この日、彼はアリーナの天井からワイヤーに吊るされて、華麗にリングに舞い降りるはずでした。

しかしそれは起こった。

金具が外れ、15メートルの高さからコーナーポストに激突。

帰らぬ人となったのでした。

必殺一人モズ落とし。

私は今日、そんなオーエンの無念を晴らすべく、この『彼女の願うこと。僕の思うこと。』のレビューを書きたいと思います。

どこが関係あるんだ、とか思います? これが関係あるんです。

見ていてくれ、オーエン。

ちょうどお盆の時期だしな。

ということで。

いきなり書きます。

伝えようという気があるのかこの作品は。

うちのレビューをお読みになってくださっている皆さんは、おおむねきっつい突っ込みあふれた笑える文章に期待なさっているんじゃないかと思うんですが。

今回のは自信ないです。

きっついだけで終わりそうな気がしています。

いみじくも、文章書きの端くれとして言っておきたい事があるんですよ。

三人称を選択した時点でこのゲームは敗北しています。

本編スタート直後から否応なしに見せられる、見栄えだけかっこ良さそうな単語の羅列。

詩や散文ともつかない小奇麗な単語を散りばめた、哲学的表現でも目指したんじゃないかと思えるような文章。

はっきり言って大失敗です。

純粋に読みにくいだけです。

あのですね。
ノベルという形態を持ち世界に魅力を感じさせる上で、読み手側に労力を強いるのはマイナス以外の何ものでもありません。

救いがないのは、どうもその文章を書き手側が悦に入っている感がある事ですね。

まるで新しい語録を憶えたての中学生が、自慢げに披露している姿のようです。

そこに共通するのは、圧倒的な文章力の欠如です。

見てくれのいい形容詞を並べ立てれば、名文になるとでも思っているんでしょうか。

レストランでは料理を食べたい。

ここにあるのは、単なる高級食材を並べた物にすぎません。

その上。

えっちシーンまでこの調子。

エロゲでこれは致命的なんじゃないでしょうか。




…それはこっちのセリフだ。


ともかく全部がこの調子で進むので、まだるっこしい事この上ありません。

例えば序盤、旅のお付きのクソガキが慌てて報告しに来るシーンがあります。

すっげえガタガタ震えています。
今にも倒れそうなくらいに。

でも。

「おされ」な文章に酔った書き手(キャラではありません)はいつまでたっても放置です。

本当に、ぜんぜん気付いてあげないんです。

そのクソガキすら、あんなに慌てていたのに平気の平左で会話に参加しているんです。

そしてようやく「おされハリケーン」が収まった頃に、「ああっ、そうでした!」と取って付けたように気付くという…。

これが、「生きている」人間の会話と言えますか?

生まれてくる子供が親を選べないように、物語も書き手を選べないという事なのでしょうか。

さらには、世界構築の甘さが追い討ちをかけています。

例えばこの世界、蒸気機関車という物が知られていません。

主人公達が蒸気機関車を発見した際、その用途がまったく分からなかった事から推測できます。

これは、この世界のルールの一部だと、読み手側は受け取るはずです。

物語の背景の絵が、廃墟を思わせる感じですからね。

例えばここは未来世界で、旧世紀の遺物的な存在は忘れ去られているんじゃないか。

例えばここはパラレルワールドで、機械的な物に代わって他の何かが台頭しているんじゃないか。

そういった謎を含ませるのに、こういう手法は効果的なんです。

でも。

観覧車とかジェットコースターとかは知っているんです。

変でしょ?

主人公がごく自然に「ジャングルパーク」とか言い出した時は、卒倒しそうになりましたよ。

いや、作品におけるネタそのものは悪くないんです。

素材が良くても料理を知らなきゃ無意味ですけど。

語るべき所で必要な説明が、すっぽりと抜け落ちています。

そのくせ無意味な修飾詞だけが闇雲に多いんです。

果てしない自己満足の結晶と言っていいでしょう。




さて。そろそろ「良かった探し」をしてみましょうか。

この作品のすごい所は、もう無闇やたらに凝りまくった視覚効果でしょう。

ノベルとは思えません。

立ち絵が動く動く。
本当に良く動きます。

表情もころころ変わって、えらく努力してるなあと思わせます。

なおかつ背景まで効果のカタマリです。

その上なんと活字まで動き回ります。

すごい美術の頑張りです。

ことノベルゲームに関して言うなら、演出面ではおそらく最高峰に位置するでしょう。

この効果だけでも体験して損はないです。

この効果だけですけどね。見所は。

あ、まだありました。

主題歌が素晴らしいです。

賛美歌風(とは少し違いますが)の、何とも不思議な魅力を湛えた心に残る旋律なんです。

これを聞くだけでもプレイする価値はあると思います(中古で)。

ただし正直、歌の背景には浮いた感じの絵がけっこうありました。

物語世界と相容れない雰囲気が、どうも違和感ありました。

随所でクソ面白くもないギャグが入っているのも微妙です。

だいたい、海賊の新しいボスって…。

秒でバレバレだっての。

なのに、5杯目のティーバッグみたいに薄〜いギャグで引っ張る引っ張る。

まさか、こっちが気付かないとでも思ってるんですかね。

そこまでナメられてるんですかね。




総括しましょう。

素晴らしい画面効果と音楽、いわゆる過剰な演出に殺された作品です。

ハリウッド映画によくある、「火薬をいっぱい使った方が偉い」という感覚に近いんじゃないでしょうか。

レストランでは料理を食べたい。

プロレスの会場では試合を観たい。

こっちは最強の肉体のぶつかり合いを楽しみにして来たんです。

派手な花火を観に来たんじゃない。

無駄なゴンドラを観に来たんじゃない。

吊り下げられる入場シーンを観に来たんじゃない。

オーエン・ハートよ。

きみは素晴らしいレスラーだった。

過剰な演出のせいで、きみは殺されてしまった。

この作品の美しい主題歌を、天国のきみに捧げたい。

ほんっと今回すみません。






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