短編小説「ドラゴン・スレイヤー」



 我こそは騎士。偉大なる竜殺しなり。
 我が行く道は修羅の道。民よ、道を開けよ。我が求むはただ一つ、絶対の強者にして真の覇者に他ならぬ。
 そこな娘、そのような剣を何とする。
 女子供は、家で編み物でもしておるがよい。怪我をせぬうちに父君の部屋に戻すがいい。
 なんと、父はいないと申すか。
 母も、兄弟もいないと申すか。
 にっくき竜に殺されたと。
 ほほう。そこで娘よ、この誉れ高き騎士に、助太刀を頼みたいと申すのであろう。
 我は騎士ぞ。女子供に手綱を預けたとあっては、道化も極まるというものだ。
 早よう去ぬか。それ、もう町を出てしまうではないか。そのような引けた腰で、竜のうろこが断ち割れるとでも思うてか。
 聞き分けのない娘子よ。我はもう知らぬぞ。勝手に食われてしまうがよい。
 そちが食われている間に、よもや竜の奴めにすきが出来ぬとも限らぬからな。わっはっは。
 どうした? 震えておるのか。
 怖くてたまらぬのであろう。
 それで竜が討てるものか。
 父君や、母君に何と申すのか。身を呈して庇った兄者に、あの世で何と申すつもりか。
 ほほう。多少は骨があると見える。
 ならば、今こそ抜くがよい。
 憶えておるであろう。この牙を。
 憶えておるであろう。この爪を。
 山々を隠すこの羽根を見よ。
 邪魔なよろいだ…さあ見よ。我の熱い息を。
 我こそは伝説。絶対の強者にして真の覇者。我こそはお前の憎しみ。偉大なる竜族の長である。
 さあ、突くがよい。
 そうだ。ここを突くがよい。
 どうした。それで終わりか。お前の力は、そんなちっぽけなものに過ぎなかったのか。
 お前の父は、美味かったぞ。
 そうだ! 進め! そのまま突き進め!
 娘よ。お前に称号を与えよう。お前は今日から竜殺しを名乗るがよい。
 我の時を、お前に授けよう。お前は終わることのない時を生きよ。
 我の返り血を浴び、我になれ。
 そうだ! お前は自由なのだ。羽根を広げ、高らかに吠えよ。
 我が娘、新たな竜に祝福を・・・。



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