<ちょっと休憩>

三大映画を選ぼう。

これだけは観ておこう的なアレ

2009.05.22




 突然ですが、皆さんには「好きな食べ物」ってありますか?
 まあ普通はあると思います。
 私の場合は馬車馬なみに粗食に耐え得るエコノミーな体をしているため、毎日同じものを食べても普通に生きて行ける自信があります。
 その意味で私が一番好きな食べ物は、もしかしたら「米」かもしれません。
 さすがに米ばっかりは無いと困ります。
 麺類や他の穀物で代用はできても、やっぱり一番は米なんです。
 この話が一体どこでホラーになるのか心配ですが、ひとまず米のパワーは偉大という所でご納得いただきたく存じます。

 んで、なんぼ何でも米だけでは味気ない。
 おかずが必要ですね。
 ここで嗜好が分かれると思います。
 和洋中があり、肉に魚に野菜があり、煮物焼き物炒め物蒸し物揚げ物いろいろあるわけで。
 味付けについても、甘口辛口濃い口薄口さまざまです。
 普通、「好きな食べ物」と言うとここから先の話になります。

 ここで米を「映画」に、好きなおかずを「そのジャンル」にして考えましょう。
 ここまで来れば分かりやすいんじゃないでしょうか。
 私は好き嫌いが無いので何でも食べちゃうし、好きなおかずなら毎日だって食べちゃいます。
 しかも相当なゲテモノ食いであるため、他の人が見向きもしないような謎の料理でもイケちゃいます。というかそっちの方が好きです。
 ゲチョグロの内臓系でしかも血まみれ料理とか、大仰な毒々しい色彩の皮に包まれてるけど中身はスカスカの料理とかが大好物なんです。
 しかも安い料理がね。
 食べる場所だって自宅がメイン。時々街の大きな映画かnレストランで食事もしますけど、そういう場所ってけっこう眠くなっちゃうのでね。

 反面、激甘スイーツ(笑)とかはやや苦手です。
 そういうのを好きな方が多いのも分かりますが、私は一口で結構です。たくさん食べると頭が痛くなって胸がムカムカしてくるので。

 はい、全部映画のお話です。



 そういうわけで豪腕、そこそこの数のグルメなレポートを書いて参りました。
 そのほとんどがB級グルメであり、ひどい時には排泄物にまで例えているわけですけど、そういうのが好きだから仕方が無い。
 ファーストフードだけで何年も暮らすようなものです。
 ただ、それだけでは栄養も偏るでしょうし、舌の感覚も麻痺するばかりでしょう。
 そう。私だって、たまには良いものを食べてみたいのです。

 せっかくです。ここはひとつ相当なメジャーどころを食べましょう。
 今まで聞いた事も無い発酵物みたいなのばかり食べてたので、フン発して「世界三大ナントカ」みたいなのをチョイスしたいですね。
 確か三大珍味がキャビア、フォアグラ、トリュフでしたっけ。
 三大米料理がパエリア、リゾット、ピラフ。
 三大スープはトムヤムクン、ボルシチ、ふかひれ。
 三大モンスターはドラキュラ、フランケンシュタイン、狼男。
 三大殺人鬼がジェイソン、フレディ、レザーフェイス。
 三大映画祭はカンヌ、ベルリン、トロント。
 三大ファンタスティック映画祭はシッチェス・カタロニア、ブリュッセル、ポルト(誰も知らねぇよ)。
 なんだか妙に下降ラインを漂っている感が無くも無いですけど、メジャーどころなら味もきっと美味しいでしょう。

 ところで私、ホラーというジャンルが好きでして。
 ホラーにおける三大映画ってのは何でしょうか?
 相当頑張って検索したのですが、どうも万人を納得させる「世界三大ホラー映画」は未だ制定されていないような感がありました。
 こんなものは見つけたんですが。



アメリカ三大ホラー映画


「13日の金曜日」

「エルム街の悪夢」

「ハロウィン」



日本三大ホラー映画


「リング」

「呪怨」

「着信アリ」



一番好きなホラー映画

(英MSN Movies調べ)


「SAW」

「エクソシスト」

「シャイニング」



最も怖い映画

(英HMV調べ)


「エクソシスト」

「シャイニング」

「ハロウィン」



歴代ベストホラー映画

(インターネット・ムービー・データベース調べ)


「サイコ」

「エイリアン」

「シャイニング」



最も優れたホラー映画

(英映画専門誌調べ)


「悪魔のいけにえ」

「ハロウィン」

「サスペリア」






…そんなに割れないでよ。





 一口にホラー映画と言ってもオカルト、ゴシック、サイコ、スプラッター、SF、ミステリと様々なジャンルがあるわけで、それに個人の嗜好が入るわけだから割れるのは当たり前なんですけどね。
 特に日本三大ホラーがあまりにも新しすぎて大変です。
 「四谷怪談」とか入らないんでしょうか。
 「ギニーピッグ」はさすがに無理でしょうけど。

 まあ、中でも「エクソシスト」「シャイニング」「ハロウィン」辺りは鉄板と見て良いでしょうか。
 ただし最近のジャパニーズホラー系とは全然違ったテイストですので、期待しすぎると思いっきり肩透かしを食う恐れがあります(ホラーに限りませんが)。
 特に古い映画だと特撮にあまり頼らず作っているため、そういう視覚効果がお好きな方には物足りないと映るでしょう。
 あくまで温故知新。
 古い作品は、そういう感覚で観るのが大切かもしれません。

 現在、世界的にも独特の地位を占めつつあるジャパニーズホラー。
 その転換期は89年の「スウィートホーム」辺りになるでしょうか。
 海外のビックリ仰天シネマとは次元の異なる、冷気のようなものを感じさせる演出が良いですね。
 原色絵画に対する水墨画、血ではなく水ですか。

 そしてわたくし豪腕はりー、上記のランキングに出てくるような映画は大体観終っている事に気が付きました。
 久々に美味しい食事をしようと思ったら手遅れでした。
 仕方が無いので、私も上記をマネして作ってみました。



個人的三大ホラー映画





これだけは観とけ。




「エクソシスト」


「オーメン」


「サスペリア」





 今まで私が観てきたホラー映画を考えると、この三作が個人的三大ホラー映画と呼べそうです。
 ホラーと言うか上二作はオカルトでもありサスペンスでもあり、そして宗教モチーフの映画でありゴシックな感覚もあります。
 この傾向は特に「オーメン」で顕著ですが、「エクソシスト」には代わりにテラーの要素が内包されています。
 そして「サスペリア」は非常にオカルト色の強いホラーでありながら、後の世に言うスプラッター映画の大先輩でもあると思うのです。

 公開当時の社会に与えた影響も考査して選びました。
 「サスペリア」のキャッチコピー、『決して一人では観ないでください』を知らない人は、少なくとも30代以上の世代では稀有でしょう。
 三作ともオカルトブームの先鞭ですしね。
 そして三作とも音楽が良すぎる。
 ホラーというジャンルにおいて、これは非常に重要だと考えます。

 ところで不思議な事に、B級映画お約束の山荘の殺人鬼パターンが一つもありません。
 それはもちろん興行成績におけるB級映画を選んでいないからです。
 そういうのはもう書いてますから。
 正直この三作品だって実は相当な低予算映画なんですけど、社会現象にもなったその影響力を重視してみました。

 そう。この三作は、昨今におけるジャパニーズホラーの見せ方に、どこか似たものを感じるのです。
 上品なんですよね。
 ビックリする怖さではなく、ゾクッとする怖さと言いますか。
 もちろんどちらも不可分ですが、この両者をうまくブレンドする事によって、優れたホラーが醸し出されるような気がします。
 ただし「サスペリア」だけはかなり下品ですけども。



 んで。
 上の二作、「エクソシスト」と「オーメン」ですが、これは宗教とオカルトをモチーフにしながら意外な好対照っぷりを見せています。
 以下は豪腕によるまったく個人的な研究なので、似たような記事がどこかにあったらごめんなさい。
 ちょっと気になる所を書いてみました。



「エクソシスト」
「オーメン」
主役 少女 少年
主役の出自 実子(=人間) 養子(=獣)
悪と闘う人 母親 父親
悪と闘う人2 神父(=聖職者) カメラマン(=俗人)
悪の発現(場所) 病院(=科学の象徴) 教会(=宗教の象徴)
悪の発現(結果) 無意味(=科学の否定) 泣き叫ぶ(=宗教の肯定)
主役の外見 変貌して行く 無垢のまま
悪との対決 母親が神父に依頼 神父が父親に依頼
主役の様子 自分を犯す 他者を殺す
悪の影響 主役の内部に潜る 主役の周囲を操る
悪の影響2 サイコキネシス? マインドコントロール?
悪と闘う方法 プロによる信仰 素人の使う武器
力の象徴 悪魔の像 神の短剣
舞台 アメリカ イギリス
鍵となる場所 イラクの遺跡 ローマの寺院
終結 死(=勝利) 生(=敗北)




 まるで鏡に映したようです。
 ここまでやった奴はあんまりいないような気がします。豪腕頑張った。
 こうして見ると興味深いですね。他にも探せばまだまだあるでしょう。
 もちろん共通のモチーフも多いです。
 先ほど書いた宗教の描写や小道具、演出面など、およそホラー(オカルト)に内在する普遍的な要素が両作品で見られます。

 されどしかし。
 豪腕はりーは、最大の共通点はここだと思います。






『秋』






 そうなのです。
 圧倒的に、見事なまでに秋なのですよ。
 秋というのは言うまでも無く冬に向かう季節であり、そして冬というのは一年の終わりにして凍てつく季節。
 何かを暗示しているように感じませんか。

 画面の中、極めて美しい秋のその表情こそ、この二作品における隠れた名優なのです。
 真に優れた美術は血や臓物の中ではなく、世界の、風景の中にあると強く感じました。
 ホラーは真夏の夜というのが定番ですが、直線的な恐怖よりもある種の「物悲しさ」を引き出す秋という季節も見逃せません。
 あの永遠の傑作「第三の男」のラストシーンをご存知ですか。
 枯葉舞う長い小道に漂う哀愁こそ、来たるべき冬の到来を告げる景色なのでしょう。

 そう、「直線的な恐怖よりも」と書きました。
 この二作品に共通するもう一つの重要な点はここにあります。
 すなわち、観ている我々に直接恐怖感を訴えるよりも強く、登場人物の反応によって恐怖を伝えているという点。
 いきなり包丁持った男が襲って来るのではなく、曇りガラスの向こうで何やら恐ろしい事が起きているような感覚なのです。
 静かな場面で突然どーんとかでは無いのです。
 言うなれば、これはアナログ的な感覚。
 デジタル技術が進んだ現在のホラーとは違う、古き良き時代のホラーと言えるかもしれません。

 どっちが上とかは、観た人それぞれが決める事です。
 ショッキングな映像に慣れてしまった方は、こうした古い映画の怖さは伝わりにくいかもしれません。
 一方で、登場人物を丹念に描き出すアナログ的な手法を好む方もいるでしょう。
 私にとっては首が回るだけで充分ショッキングでしたけど、血しぶきや悲鳴は現代のホラーに比べて控え目です。
 それでも怖いんだよね。心理的に。
 こう、驚愕の怖さというよりゾクゾク来る感じですか。
 未だ未見の方は、この感覚をどうか味わっていただきたく思います。

 特に「エクソシスト」ではリンダ・ブレアが緑の毒霧吹きますし。
 完全版ではスパイダー・ウォークも見られます。
 そしてやっぱり音楽ね。
 マイク・オールドフィールドによる、テーマ音楽『チューブラー・ベルズ』。
 あらゆるホラー映画の中でも特筆すべきものでしょう。
 「オーメン」における賛美歌のような音楽といい、ゴシックホラーには名曲が溢れております。
 彼らも重要な登場人物と呼べるでしょう。



 そして最後に「サスペリア」。
 ケレン味たっぷりのゴシックホラーにして、あまりにも激烈な恐怖・残酷表現のために1000万円のショック保険を付けて上映されたという冗談みたいな作品です。
 そういやこの映画の音楽もマイク・オールドフィールドですね。ツボ突かれまくって肩凝りも治る勢いなんですけど。

 「エクソシスト」「オーメン」の隠れた名優が秋なら、「サスペリア」のそれは雨です。嵐です。
 あのゲリラ豪雨みたいな雨の中で、あの目がでっかくて痩せぎすのものすごい幸の薄そうなヒロイン。
 これがまた絵になるんです。
 序盤のタクシーのシーンで早くもセットなのがバレバレでしたけど、現実に沿った臨場感よりも恐怖の臨場感を優先した演出。
 鬼才、ダリオ・アルジェントの面目躍如たるシーンです。
 そしてその嵐は、クライマックスのあのシーンに繋がります。

 例えば最近「SAW」などで、この作品のオマージュみたいなシーンが確認できました。
 ある種のスタンダードなシーンは、スキーのジャンプ競技で言うとV字飛形みたいなもんです。
 受け継がれて行く伝統なのですね。

 しかし、ワンちゃんが噛み付くシーンは何が何だか分かりません(笑)。
 そういうわけの分からないシーンも普通にある中、やはり特筆すべきは美術でしょう。
 山荘の殺人鬼パターンではないにも関わらず、息苦しいほどの閉塞感。
 何しろ舞台が「バレエ学校の女子寮」です。
 あの夜の嵐は、バレエ学校全体を日常から切り離すための高波なのではないでしょうか。
 形を変えた絶海の孤島と呼べるでしょう。

 そして、そんな環境で。
 人間の皮を被った「何か」の前で、少女たちは来る日も来る日もバレエを踊り続けるのです。
 まるで日の当たらない場所にだけ咲く白い花みたいにね。

 踊りながら鼻血を垂らす少女。
 実は、このシーンにこそ凝縮されたメッセージが込められているのではないか。私はそんな風に感じました。

 怖いですよ。
 とてもね。



 急ぎ足にて、個人的な三大ホラーを語って参りました。
 この三作の地位はたぶんしばらく揺るぎませんが、これが例えば五作選べとなるとどうでしょう。
 きっと相当悩みますね。
 「シャイニング」「ゾンビ」その他、名作はまだたくさんあります。
 されどスプラッター系やSF系をどう扱うべきか。
 純然たるホラーならともかく、別ジャンルの要素も強い映画が意外にたくさんあるんですよね。

 そういった場合、基本ホラーでも他のジャンルの濃さがホラーと同じかそれ以上なら別ランキングという形にしましょうか。
 よって残念ながら「エイリアン」はSFの方に回しましょう。これもシリーズを通して大好きな映画なんですけどね。あと「遊星からの物体X」とかも。
 そしてスプラッター系。
 誤解を招きそうでアレですが、わたくし豪腕はスプラッターはスプラッターだけで選びたいと考えます。
 もちろんホラーというジャンルの大きな柱なんですけど。
 これは感性の問題につき、ちょっと説明が難しいなあ。なるべく伝わるように頑張って書いてみます。



映画=すべての車。


ホラー = トヨタ車。


SF = 日産車。


アクション = ホンダ車。


スプラッター = バイク。



ますます分からん。





 まあ何と言いますか。
 なんか、私の中ではホラーとスプラッターってのは同じ系譜から枝分かれした別のモノみたいな感覚なのです。
 それはもう4輪と2輪くらいに違うのですよ。
 ホラーとテラーの違いと言いますか。
 ゾクッとさせるか、ビックリさせるか。怖がらせるか驚かせるか。
 内側と外側、とでも言えばいいのかな。
 そういう感覚、ご理解いただけるでしょうか。

 という事ですみません。
 未見の方には何が何だか分からない記事になりつつあります。
 皆さん大丈夫でしょうか。
 今回、うんこ映画と違って本気でお薦めしていますから、怖いもの好きなあなたはぜひ観ていただきたく存じます。

 そしてあなたもオリジナルの三大映画を制定してみてはいかがでしょう。
 ホラーに限らず、アクションとかアニメとか西部劇とかいろいろあります。その中で「これは」と思うものを選ぶのです。
 大切なのはまず数を観る事。
 そして、素晴らしいその映画の余韻だけで判断せずに冷静かつ客観的に判断する事です。
 これこそ大切な事だと思います。

 皆さんの三大映画、楽しみにお待ち申し上げます。



 …ああ、最後まで真面目に書けて良かった。



 「うんこ」という単語を使わずにここまで書いたのは非常に久しぶりでした(笑)。

 どっとはらい。







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