朝は来なかった。 この部屋で、この奈落で饗宴を貪る限り、夜明けという時間は永久に訪れない。 それを知るには壁の時計を見るしかない。現実の証左を。 私はそれをやってみた。 換気扇の音に紛れて微かに心音を刻む秒針は、縛り付けられた罪人の体を刻むギロチンのように降りてくる。頂点から頂点へ。何度でも。 刻まれているのは私の時間だ。私たちの大切な。 私は体を起こしてみた。 途端に、甘い痛みと痺れが体の奥からせり上がる。 一瞬の電流、じわじわとした余韻。そして新たな刺激、異なる2本の鉄が織り成す急所への響き。 私たちを繋ぐ性具が肉に深く刺さっている。 どうしても繋がりたかった。 どうしても一つになりたかった。 けれど猛る想いに互いの腰を擦り付けるばかりで、肉体の奥底に眠る悦楽の源泉を、女の肉の本能を……。解き放つ事は出来なかった。 狂おしく熱い肉欲の舞踏を続け、しかし体は虚しく燃え上がるばかり。 手にした道具はすべて試してみた。 長いもの、硬いもの、太いもの。私たちの小さな体は壊して壊され、さらに深い情欲の極みを求めてあらゆる性の呪具を試した。 そして見つけた。私たちを狂わせるもの。 大きなペンチと、さらに大きなペンチの柄で、私たちは繋がれている。 今も。今でも。 舌で指で刺激し、考え得る限りの方法で互いの秘所を破り合った。即座に再生される処女膜の抵抗を突き抜け、その奥にある肉の快楽をこそげながらほじくり合った。 そして最後に使ったのがこれだ。 共に交じり合うために、互いの膣にペンチの柄を入れた。ペンチが開ききるほどのけぞるたび、柄の先が肉壁の深いスポットに突き刺さった。互いの尿と愛液が頭上にまで噴き上がった。 さらに巨大なペンチを同時に挿入するに至り、太い柄に付いたゴム製のイボが理性を奪った。その先は子宮にまで届き、私たちは人も女もすべて捨てた。 がち、がち、がち。濡れた肉同士が擦れるのに合わせ、鉄の歯噛みが脳に響く。 がち、がち、がち。 がちがち、がち。 がちがちがちがちがちがちがちがち。 開くペンチが打ち鳴らされるごとに絶頂が来た。 この先の扉を開くには死しか無かった。 何重にも革紐を巻き、ペンチを固定した。 わずかに体をよじるたび、爆発する光が脳を焼いた。太い革紐の結び目が敏感な肉の芽を押し潰し、肉の洞窟の天井を、その奥の行き止まりの壁を同時に攻撃した。 私たちは快楽に殺された。 死んで、死んで、死んで、死に切った後にまた殺された。 そしてナイフを刺す。 互いの首に突き刺したそれの柄尻を引っ掛け合い、一気にのけぞって引き抜いた。 宙に舞う2本のきらめき、それを追って弧を描く赤、同時に肉壁に突き刺さる2本のペンチ、それらすべてが私たちを最後に殺した。 「ん……っ」 私の、彼女の声。 苦痛に歪む目尻に一筋の涙を浮かべ、細い光が私の顔を捉えた。 吐息が、漏れる。 甘やかな痛みの夢の中、彼女もまたこの世界に還って来た。 「ふっ……、く……っ」 同時に声が出てしまう。この状態は、崩れかかった吊り橋で目覚めるのと同じだ。 笑顔を作ろうとしたのだろう、その顔が泣きそうになる。私もきっと同じ顔をしている。 見つめ合う中、無理に出した笑い声をとても恥ずかしく感じた。私も戻って来たのだ。理性ある人間に。 「えへへ。おはよ、っん……」 単語一つも言わせてもらえない。この、何と言うか、痒い所だけを残して周りをゆっくりと掻くような。そんなもどかしさが痺れた脳に甘く響く。 彼女の困ったような顔。 いけないと思いつつも、その切なそうな表情に心をくすぐられてしまう。 寄せた眉根と細い肩、震えている腕、真っ白に浮き上がる肌に咲いた大輪の赤い花。 ああ。――超えてしまったのだな。そう思った。 「え、と……。どうしよ……っ、か……」 彼女の声は耳で聞く麻薬のようだ。 ほんの少しでいい。ほんの少し、この腰を動かせば……。また天まで堕ちられる。それは互いに知っていて、だから困ってしまうのだ。 困ってしまうから、互いに指を絡めた。 シャボン玉を割らずに触れるように、綿毛の中を静かに歩くように、私たちは長い時間をかけて慎重に起き上がった。 このままではいけないから。だから、頑張って日常を取り戻さないと。 わずかでも震えたら壊れてしまいそうなその幻想を守るため、私たちは再び二人に戻ろうとした。 彼女の顔が目の前にあった。 どちらからともなく目を閉じ、その唇を軽く重ねた。 瞬間、彼女の体がびくんと弾けた。 コンマ1秒でペンチがびくんと弾けた。 にちゃり、と音が響き、体に電流が走った。 たった一瞬で。 一瞬で逝かされた。 そして私もびくんと弾けた。 それが伝わり、彼女もまた弾けた。 弾け続けた。何度も。 弾けるたびに逝かされる。 逝き、逝かされ、逝かせ続けた。 声すら出せない快感。 肉同士に蓋をされ、行き場を失った潮が噴水のように噴き出した。 凄い圧力。 陰核が潰される。 部屋中に響くほどの水音。 ぴちゃり。びちゃり。びちゃびちゃ、ぶじゅうじゅぐちゅるじゅるぶちゅ。 蛇口を押さえて水道を全開にしたような、爆発的な汁が飛ぶ。 中にも。内部にも。 秘肉の内側にそれは逆流し、肉ひだの隅々まで飛び散り、叩き、その刺激が新たな潮を噴き出させた。 顔にまで。顔にまでかかってしまう。 ああ、また始まってしまった。終わらないこの甘い苦行が。 この1回ですでに私は昇天しきった。そしてなお終わらぬ強烈な絶頂に全身をがくがく揺さぶり、その振動がさらに大きな快感を呼んだ。 振動は互いの急所を攻め続け、意志の力では止めようがない大きなうねりが世界を包んだ。 掻きむしる爪は冷たい床に引き剥がされ、緊張しきった体は脚のつま先と両肘だけで全体重を支えている。 のけぞる互いの体。噴き出す汗、天に向かって弾ける淫水。 顔は天地の逆を向き、がくんがくんと揺さぶられながら涙と鼻水とよだれを飛ばし続ける。髪の毛は振り乱されて部屋中に液体を振り撒き続ける。 それでも止まらない快感。むしろ、登りつめるたびにもっと大きな快感が体の核から引きずり出される。 波などではない。高波ですらない。 耐えられる限界など最初の1回でとうに超えている。 それが連続して襲う。口から泡を吹き、意味にならない呪詛を吐き出しながら、早鐘のように打つ胸の鼓動をはるかに上回る速度で絶頂を繰り返された。 逝った上からさらに逝かされ、また逝かされ、逝かされた。 耳に濁流が奔り、ごうごうと鼓膜を揺さぶる雷雨の中で、稲妻にも似た悲鳴が何度もつんざく。それが私の発したものか彼女のそれかも分からない。 くぅいいいぎいあああああうあいやあああああ。 絶叫。 意味を成さない。 言葉ですらない。 原初の、獣のような雄叫びを上げながら、いつ果てるとも無い狂気の快楽に私は翻弄され続けた。 死んでしまう。 逝きながら。 逝きながら私は死ぬ。 逝きながら死ぬのだ。 目玉が裏返り、ぷつんと糸が切れたように体が落ちる。骨の無い軟体動物のように床に広がり、ついに私は平穏な闇を迎える。 筋肉の弛緩、股間に流れる暖かな尿を感じ――また激流が奔る。 ばちん、と体中が弾ける。 体全体がびりびりと震え、その異常な負荷電流に脳は真っ白に焼け、飛び出しそうな瞳に極彩色の宇宙を乗せて私は復活させられる。 終わらない。終わる事が出来ない。 抜けないのだ。 あまりにも深く押し込まれた私の中の呪具は、乱れた肉の鍵穴の奥の奥まで食い込み、密着し、だから失禁した程度では決して許してはくれないのだ。 さらには弾む彼女の肉。狂乱の姿態の圧力は、目一杯に挿し込んだ太い鉄の棒を極限まで押し込み、子宮を突き抜け内臓までも犯そうと迫るのだ。 何度も何度も。時に大胆に、時に小刻みに震えるように。 予想の付かないそのストロークにアクメの先が見えた。 見せ付けられた。 登らされた。強引に。 何をしても、何もしなくても逝かされた。 もはや膣全体が灼熱の溶鉱炉と化していた。 体中が燃えていた。 私は発狂した。 共に逝き、共に死ぬしか方法が無い。まったく同時に。 そしてそれは不可能だった。互いの体は、わずかな振動を大音響に増幅する巨大なスピーカーなのだ。 震えただけで逝き殺される。 逝けば肉ひだが硬い鉄を締め付け、ますます強固にはまり込む。 肉壁に鍵の山歯が食い込めば電流が奔り、それは体を震わせ、さらに巨大なうねりが来る。 もう逃げられないのだ。死んでも。 これを私は望んでいたのか? 私はこれがしたいのか? 分からない。もうどうなってもいい。 全部捨てる。もう全部いらない。 私はこれがあればいい。 また来る。来る。来る来る来る。 あぎいやあああかはぁあああああうぅぅ。 止まらない。痙攣が止まらない。 死にたい。殺して。もう殺して。殺し……。 きゃああああいあうぐうぅうい、いっぎゃあああああううぅぅ。 熱く噴き上げられた火山のような愛液が降り注ぎ、皮膚に1滴当たるごとに電流と化して脳を焼いた。 びちゃびちゃびちゃびちゃ。 そして束の間の闇、一瞬の平穏。 すぐに引きずり出される体。 逝きたくない。もう逝きたくない。 生きたくない。もう生きたくない。 死にたい。死にたい。死にたい。 殺して欲しい。もう殺して。 それでも私の体は剥き出しの陰核のように鋭敏に快感を捕らえ、全身全霊でそれを浴びさせられる。耐えられないのに。壊れてしまうのに。 深く突き刺せばペンチの歯が会陰を擦り、革紐のささくれ立った結び目が陰核を押し潰し、太い柄が肉穴の一番奥に突き当たる。 引き抜こうとすればペンチの柄が潮の噴出点を強烈に擦り、さらに太い柄のイボの一つ一つが肉の内壁を擦り上げる。 もう……駄目かもしれない。 逃げられない。もう逃げられないのだ。 壊れ、る。 壊れ……。 うぎいいいいやあああぁぁあああはぁああ。 もはや頭とつま先だけで大地を支えている。 果ての無い快感はすでに痛みと交じり合い、ぐるぐる回る光の中で粒子となって弾け飛んだ。 血が。 血が出ている。 私の小さな膣はとっくに硬い鉄とイボに破られ、ぬるぬるした血が大量に床を汚していた。 それでも。 それでも止まらない。 むしろ熱さが増した分、快楽の度合いは正比例して跳ね上がる。 潮を噴出するたびに、熱い愛液と血の入り混じったピンク色の雨が降り注ぐ。 脳がどろどろに溶ける。 絶叫と共に激しい水音が鼓膜を愛撫する。 ぐちゃりびちょびちゃぬちゅにゅりむにゅぴちゃぐちょ。 すべてが。 世界のすべてがこの快感のためにある。 体をひねる。がくがくと痙攣しながら彼女が逝く。 激しい水流が噴き出し、私の石のように硬く尖った乳首にまともにぶち当たる。 心が崩壊するほどの絶頂の中、さらに巨大な絶頂が来る。 切れた。また死んだ。 逆さまになった世界の果てに、デジタル時計の赤い表示が私の瞳の中でちかちかとスパークした。 乳首を。引き千切れるほどつまみたい。 胸に爪を立て、思いっきり掻きむしりたい。 それをやったら死ぬ。死にたい。もっと死にたい。 両手で同時に……。 いっ、 い……っ。 いぎゃああああいいいいぐうううぅうぅぅぁああああああっ。 空気が。酸素が足りない。 酸素を求めて金魚のように口をぱくぱくさせながら、突き立てた爪の下の硬い乳首を強引にひねった。 激痛が甘い。 互いの脚をがっしりと噛み合わせ、最後に残った全身の力で互いの体を引き寄せた。 彼女の脚を引っ張る。私の脚が引っ張られる。 今までで最も深く結合する――。 押し寄せるオーガズムの嵐が私の体を、心を吹き飛ばす。理性を。 光が明滅する。 その先の先まで高く昇天させられる。 させられてしまう。させられちゃう。 嫌だ。怖い。だけど我慢できない。 感じてしまう。感じる。感じちゃう。 心が溶ける。体。溶けちゃう。 止めて。お願い。止めて。 駄目。だめ。来る。死ぬ。死んじゃう。 あ、うあっ、い、く。 い、……く、……っ。 ふわぁうぎひいいぃぐぅおああふいいぃぃぃいぐうううぅぅぅ。 もう駄目、もうダメ。もう。 も、もう。 駄目。駄目駄目だめだめダメ……っ。 かはっ。 ひっ。 あうあああうぎいぃぃいいいっ、くううううぅぅっっ。 嫌っ、いや。止めて。これ止めて。 お願い誰かこれ止めて。 死んじゃう。死ぬの。死ぬ。死ぬよう。 もう来るうぁ来る凄いの来る来た来たき、た、っ。 きゃはああぁぁくぅぁはああおおおおおおぉぉぅぅぅぁぁあああっ。 焼ける。体が焼ける。そこ潰れる。中焦げる。焦げちゃう。 噴く噴くああ噴いちゃう止まらない。 止まらない。 出てる。凄い出てる出てる。ああ、まだ出る。 熱い、かかる。かぶる。かぶってる私の、顔に、ああ汁凄い。 でもまた逝くっ。 逝く。逝かせ、ない、で……。 うくあっ。 ひぐっ。 きゃふううぅぅぁああああがああぁぁぅぅぁぁあああっ。 溢れる。溢れてる。もう入らない。入んない。 びくびくする。びくびくしてる。 汁が、汁噴く、噴いちゃう、ああまた。 すご、い。中が。 痺れる痺れる中が痺れる。 砕けちゃう。私ああもうどうなってもいい。 どうなってもいい。 もう何でもいいよう。 くああ。潮出る。もの凄いのおおお。 おおお、ああ、あっ。 イッ……。くぅ……。 逝く逝く逝く逝くいくいくい……っ……。 いぐうぅぅぁぁぉおおおおおおああああああっ。 くは……っ。かひ……っ。 た、す……。けて……。 もう駄……、目……。 うふあっ。 イくううううぅぅゥゥッッ……。 あああ。 凄い凄いああ駄目だめダメ嫌いやイヤもうお願い許してゆるしてっ。 止めてぇぇっ……。 止め、ああああっ。 来るうぅぅっ。 来る、来る、狂う、狂っちゃううぅっ……。 きゃああぁぁっ……っ……。 あ。 ああ。 逝く。 もう逝かせないでえぇっ。 逝く逝く。 いやあぁぁっ。 逝く逝く逝く逝く逝く逝くいくいくいくイク……ッ……ッ。 イ……ッ……。 ……………………。 きひいいぃぃいいああかはあふうぅぃいいいっ……。 い … … 。 いぐうぅぅううううわああああああうああああぁぁぁああっっ……。 ……………………。 びくん。びくん。びくん。 びくんびくん、びくびくん。 びくびくびくびくびくびくびくびく。 びく、ん……。 光の後に闇が来た。 静寂。 こだまが消える頃、私たちは全身から垂れ流した汁の上で静かに息を引き取っていた。 暖かな羊水の中で。 愛液と、汗と、涙と、鼻水と、よだれと、尿と、そして血の海の中で。 あらゆる体液の中で。 さざ波が引くように、私たちは死んだ。 羽根よりも軽い闇の布団が優しく私たちを包んでいた。 どれだけ。 どれだけ時が経ったのか、どちらも分からなかった。 どうでも良かった。 すべての感覚は奈落が連れ去ってしまった。 永遠の静寂の果て。私たちはヘドロのような暗い、しかし暖かな海に漂っていた。 結局、死にもの狂いで互いの体を引き剥がさねばならなかった。 泣きながら必死に机の脚にしがみ付き、上半身すべての力を使って互いの子供を産み落とした。 抜けた瞬間、ペンチが床に落ちた瞬間、からんと響くその音を聞きながら、私は何千回目かの死神の鎌をその身に受けた。 吊り橋は堕ちてしまったのだ。 たぶん永久に。 彼女の熱い液が体中に降りかかった。永遠の至福の中で、二人同時にきらきら輝く光の世界に旅立っていた。 屍だった。 結局。 私たちは屍だった。 誇りとは。 誇りとは、何なのだろう。 彼女の顔が歪んで見えるのは、とめどなく流れる涙のせいだ。 よだれと鼻水も止まらない。引っ切り無しに襲う痙攣が私の太ももを震わせ、それが全身に伝わって行く。 じぃん、と実感できる。 これは、生きている実感なのだろうか。沸騰する泥沼のような、ヘドロのような快楽の淵から生還できた実感? そうではない。きっとそうではない。 これは期待の痺れなのだ。 底知れぬ快感に怖くなる事がある。止まらなくなり、やがては死んでしまうのではないかと。 私たちはさらにそれを越える。究極の終点である死、それさえ乗り越えたその先の究極を求め続ける事が出来るのだ。 だから彼女は笑う。私と同じように。 全身を流れる冷えた汗。顔に粘つく乾いた愛液。そして血、世界で最も強い色の赤。 私たちで世界を赤く染めよう。奈落の色に。 よろめき、互いに支えながら立ち上がった。その手に濡れたペンチを持って。 私は死にたかった。死にたくてたまらなかった。 誰かのためではない。自分だけのために。 私がここにいる理由。 それは戦うためだった。 不条理な死と。あるいは、遠く微かに見えるかもしれない光のために。 そして私は神になった。志の元に殉死し、復活し、人々を救い、石を投げられ……。 そして、自分に似せて分身を作った。 ならば世界も。 世界だって私は作れる。 それは美しく光り輝き、永遠の生をもって死への恐怖を克服し、人々が互いを傷つけずに平和に暮らせる世界。 そうなると思っていた。そうなる事を望んでいた。 今は、そうでない事を知っている。 それは血と肉に彩られ、繰り返す死の中にこそ存在し、私だけがいて私だけを殺し/殺される世界だった。 赤の世界。奈落の世界だった。 そして私は神ではなかった。 もういいだろう。そう思う。 もう十分だ。 私たちは、何百人もの客に殺され続けてきた。うち何人かは救えたかもしれない。どうでも良かった。 目の前に快楽がある。 最高の死があって、究極に分かり合える相手がいる。 それを維持するのに何の努力も要らない。私たちは働いてお金を稼がなくても、食べなくても、飲まなくても、生きる事さえしなくても永遠なのだ。 だから、もういい。 堕ちた吊り橋はもう戻らない。 私たちは何度でも生き返るけど、再びあの高い塔に登る事など考えられない。 本当に必要なのはラベンダーの香りではない。血と汗と尿と愛液の、腐敗した肉の放つ匂いこそが必要なのだ。 天国など知らない。知らなくていい。 私たちなら何度でも地獄を手に入れられる。 本当に死んでしまえるまで、本当に死ねるのだ。 本当に。 私たちは堕ちた。 闇があって、赤があった。 この世界で最高の色。 すべて私たちのものだった。 この作品は、同名の作品の没原稿です。 よって何の説明もありません。いきなり始まり唐突に終わっています。 あしからずご了承いただきたく存じます。 没原稿なのでそれほど大した文章ではありませんが、暇つぶしに貢献できれば幸いに存じます。 水面下にて作品自体は動いており、いずれ暗い場所から日の当たる場所へと成長を遂げられるでしょう。 その時は、またここでお会いしましょう。 |