このHPを一通り観ていただければ、
どれだけ私が大葉氏のことを愛しているかご理解いただけたのではないかと思います。
現在でもこうなのですから、
「宇宙刑事ギャバン」の放映当時はすさまじく、
キチOイなどと放送禁止用語を使ってしまいそうなのぼせ具合でした。
「大葉さんの弟子にしてもらう」
ついにそう決心した私は、あらゆる研究を始めます。
まず最初に注目したのは、大葉氏の笑い方でした。
眉間にしわを寄せつつ、白い歯を見せる。
眉間にしわといえば、不愉快なときや、怒りの表情と思われるでしょうが、
その不思議なアンバランスがかえって魅力となるのか、
何ともワイルドでカッコイイのです。
千葉真一氏も同様の表情をされることがあり、
「これはJAC伝統の笑い方だな」と判断した私は、
「JAC笑い」と勝手に名づけ、手鏡を前に練習を始めます。
このような取り組みをしたのは、
カトちゃんがくしゃみの後に眉毛を互い違いにするのを真似して以来でしょうか。
取り組みは連日連夜に及びましたが、これが意外に難しい。
何度やってもハンニャのようにしかならず、
普段の笑顔まで気持ちの悪いものになってきました。
「どうしてうまくいかないのか?」
試行錯誤を繰り返し、導き出した結論は「色白だからだ」です。
当時、剣道をやっており、
夏場でも面をかぶって体育館で練習していた私は、
透き通るような色白少年だったのです。
千葉氏や大葉氏のように日焼けしていてこそワイルドな「JAC笑い」が出来る、
そう確信した私は悩みました。
夏休みも終わり、季節は秋になろうとしています。
今さら海に行くわけにもいきません。
当時は現在のように日焼けサロンもなく、
一時は本気でシャネルズのように靴墨を塗ろうかと思いました。
行き場を失っていた私に一筋の光が射し込みます。
それは週刊少年ジャンプの裏表紙にありました。
「モテル男は小麦色!」のコピーと共に、
日焼けランプの広告が載っていたのです。
「これだ!」私は思わず叫びました。
褐色の肌で筋肉モリモリの白人の肩に、
プレイボーイの海外版に出てきそうな、
ビキニ姿のブロンド女性がしなだれかかっている。
そんな掲載写真にも心を奪われました。
「小麦色」というよりは「小麦粉色」である私は、
すぐに注文しようと値段を見たところ、なんと三万円をこえるではありませんか。
当時の私にそんな大金を自由にするすべはありません。
迷ったあげく母に相談します。
私が大葉氏に心底あこがれていることを知っている母は、
特に反対をしませんでしたが、三万円はさすがにきつかったみたいです。
しかし、近所の家電屋で六千円くらいの日焼けランプを見たことがあるから、
それを買ってきてやると言ってくれました。
子供の頃からおもちゃをねだるようなことがなかっため、
よほどのことなんだろうと思ってくれたみたいです。
理解のある母親に感謝しながら、購入してきてくれるのを待ちました。
三日後の夕方、母が縦横30pの箱を抱えて家に帰ってきます。
すぐに中身を察した私は、飛びつくようにして包装紙を破りました。
箱には英文がぎっしりと書いてあり、外国のものみたいです。
しかし、説明書は日本語だったので安心しました。
すぐにでも使用したかったのですが、
母の「まずは夕飯を食べてからにしなさい」との言葉に逆らえず、
かき込むようにして食事を終え、箱を抱えて自分の部屋へ行きます。
箱を開け、静かに中身を取り出しました。
オレンジ色の台座の上から首が伸び、
裸電球を二まわりくらい大きくした電球がすえられています。
机の上にセットして、
競泳用の水中眼鏡を黒くしたような、
目を保護するためのサングラスも取り出し、説明書を熟読。
さっそく試してみることにしました。
サングラスをかけ、背筋を伸ばし、
台座についているタイマーを十五分にあわせてひねります。
カッと強い光線が顔に当たり、あわてて目を閉じました。
そうしないと目が焼けるらしいのです。
ジジジジというタイマーの音が聞こえるのみで時が過ぎていきます。
サングラスをかけて目を閉じているにもかかわらず、
目の前はだいだい色に染まっていました。
まさに真夏の太陽の下で昼寝をしている感じです。
いや、少し熱すぎるくらいでしょうか。
それでも私は「モテル男は小麦色!」のコピーを思い出し、
ほくそ笑んでいました。
その夢を覚ますように、突然目の前が真っ暗になります。
十五分経ったのです。
サングラスをはずし、鏡を覗き込むと変化はありません。
「まあ、いきなり真っ黒にはならないよな」と自分を納得させ、
風呂に入ることにしました。
異常を感じ始めたのはその頃のことです。
顔を洗っているとどうもヒリヒリする。
それでも私は日焼けをしている証拠と気にもとめませんでした。
風呂から上がり、髪を乾かした後に事件は起こります。
居間にもどった私の顔を見て、
いきなり母と弟が声をあげて笑いだしたのです。
私は鼻毛でも出ているのかと思い、しきりに鼻をすすりました。
「鏡、鏡見て……」と笑いながら言う母に従い、
手鏡を取って愕然とします。
顔面の中央に直径11pの真っ赤に塗りつぶされた円ができていたのです。
白い肌に赤い丸。そう、まさに「日の丸」でした。
私の肌は「日焼け」ではなく「火焼け」をしていたみたいなのです。
手から手鏡がこぼれ落ちると同時に、
私は自分の部屋へ駆け出していました。
部屋に戻ってもまだ信じられず、もう一度姿見をのぞき込みます。
もちろん直っているわけがありません。
試しに「JAC笑い」をしてみると、
日の丸顔でおこなわれたそれは、ハンニャどころではなく、
風にはためく日の丸のようで、ひどく情けないものでした。
ふと「バトルジャパン」という単語が頭に浮かびました。
しかし、そんな冗談を言っている余裕はありません。
顔面は脈を打ち、ズキズキと痛みます。
私は机の上の日焼けランプを床に投げつけ、布団へうつ伏せになりました。
一晩中、枕をぬらしたことは言うまでもありません。
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