1.     其の拳死、凶暴につき。





    唸る独裁正拳で3年A組を統治せし小覇王。
    その拳でクラスメイトを、2階の窓を貫き突き落とした瞬間護身完成と相成り、
    その日の内に父親が、学校と被害児童の家に馳せ参じ、頭(こうべ)垂れ『群是』の顔も3倍に膨れ上がった。



  2. ─────── その拳、父譲り。



    その拳で小学、中学、高校とのし上がってきた『群是』
    しかし高校を卒業する前に『群是』は、拳一つで語る身から、拳を開き、赤子を抱きし平手を差し出す側に成る。
    己が葬りし者の魂の軽さ、その命よりもさらに軽く、そしてずしりと心に重い、ゲノムを輪舞せし器。


    ─────── 父に、成った。



    守るべき物出来た時、『群是』は、家族を子を守る盾となるために握る拳を開いた。
    ごつごつと固い拳は品やかに動く指となり、キーボードを叩く。
    丸太のように太く、何人もの肋を砕いてきた足は大地を踏みしめ、明日生きる為の給金を得る移動手段となった。


    ─────── 花の都、大東京。



    やがて厳しさを知る。
    ごんたくれに明けくれ、頭よりも拳に肺で洗浄した血を優先させたツケ、予想以上に大きく、夢破れる。
    5歳の娘と2歳の息子を抱きしその手は空手。空手で鍛えし一握は、明日食らう米を握ることも叶わぬ。


    ─────── 守る為に、握ろう。


    三つ鱗の紋を象りし門を潜り、『群是』の拳はまた握られた。子を妻を守るため。
    極道(きわみち)し荒野を歩む、杯も賜らぬ珍非羅の舎弟、物真似が似ていないというだけでげそを入れられる。
    挫けない。暴力が支配する世界に身を窶そうと、給金を得て、子の妻の笑顔をまた垣間見し為に。


    ─────── 其のAV、ビデ倫経由につき。


    裏ビデオのダビング中に突如閃く。
    ビデ倫経由のモザイクAV、但し、ビデオ投入口での角度をほんの少し調節することで、モザイクの位置をずらせる。
    突如吹いた。突破口からの突風。陰部にかかるモザイクが、今は男優の肩にかかる。限りなくイェン(円)に近いマニー(金)の香り。


    ─────── 一攫、万金。


    技術が華開いた。AVが最早ビデ倫を経過しようと構わぬ、モザイクを剥がす技術。
    職人芸の技巧でAVの投入角度を弄る。剥がれるモザイクは、金箔を剥がす手つきと同じ。
    ご自宅に、試写室に、引っ張りだこに呼び出される。リクライニングシートに凭れちんこ握りしコーラ豚共の前で、黙々とAVの角度弄り。


    ─────── しかし、甘からじ時代。


    例え技術ひっ下げようと、時代の波の前で驕れし者久しからず。
    来るイーンタネトッの時代。自動配信。最早VHSに何も価値無し。そして二枚目の波、DVD(でいぶいでい)の時代。
    角度を弄れぬディスクスロットル。コーラ豚の前でただ、ただただ、イジェクトボタンを連射し「あれ?あれ?」と呟く。



    ─────── 黄金期、潰えた。


    稼ぐ手段を失い、組の金をちょろまかしたのが原因で指4本と引き換えに、準構成員という呪縛から逃れし『群是』
    子と妻を置いて故郷に舞い戻りし姿悲し。技術、技術だけが向上しようと、ソフトがハードを追い越せないのと同じ。最早無用の長物。
    きへ、きへらと、私の前で笑えし虚像。こんなテクも有るんだぜと、我が家のビデオデッキをAVでまさぐり返す。


    ─────── おらっ、ぱんっぱんっぱんっ。


    見ると、今までAVを差し込んでいたはずの『群是』がAVから画面の中に入り込み、女優の女陰(ほと)をかき鳴らす。
    「どうだっこの技術!ビデオん中にも入れんだぜっ」と尻(けつ)を振り、AV女優の尻を責めりし『群是』
    しかし、私は『群是』の尻(けつ)の汚さと、下衆い面で女優を責めるその姿に腹立ち、電源ボタンを押すと。



    ───────『群是』は、死んだ。


    葬儀。泣く、ウィドウとなりし『群是』の妻と、父の思い知らずデンジマンの人形で遊ぶ子等を優しく包む、私の手。
    「青春あばよ」と、遺骸無き棺に手向ける『群是』の魂眠りしAV。火を焼べられ、揺らぐ炎。私の胸に凭れ、頬伝う悲しみ消すため、唇交す妻。
    翌朝、東京スポーツ1面に踊りしは、「紋舞らん、謎の密室焼死事件!!」のタイトル。刻、棺が火葬場で火に焼べられしと同じ。







    ─────── 私は敢えて、其れを無視した。










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