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深町均が考案の「香りの新・嗜好調査法」は
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<論文タイトル>
香りの嗜好調査とその評価をめぐって
Importance of odor preference analysis and its new test method
CiNii Books
著者 : 深町 均
収録刊行物
Aroma research
Aroma research 9(4), 343-345, 2008
フレグランスジャーナル社
論文内容

「香りの嗜好調査とその評価をめぐって」

はじめに

化粧品やトイレタリー製品の多くのカテゴリーは、市場自体の大きな伸びが見込めない成熟した市場です。成熟した市場では、各社がシェア獲得のため、既存商品の改良や新ブランド参入に必要な新素材の開発に余念がありません。
しかし、成熟した市場では、すでに技術革新がある程度頂点に達しており、新素材が常に手に入るとは限らないのです。
そこで、戦略として、嗜好の良い新しい香りや、商品コンセプトをサポートするような香りを採用することで、その商品の新規性を表現するといった方法も良く使われています。つまり、香りがその商品の主な改良ポイントとなるケースも良くある事なのです。
成熟した市場での商品開発は、まず、消費者の意向を把握する事から始まります。この開発段階における香りの嗜好調査では“消費者の真意が引き出せるかどうか”がポイントとなります。それは、その調査結果が、その後の開発の行方を左右する重要な要素となるからです。それには“嗅覚の特異性”を十分に考慮し、それに見合った内容の、香りに特化した調査法が望まれます。
今回のレポートは、香りの嗜好調査をテーマに“消費者の意見を、如何にバイアスを少なく収集し、活用するか”について、以下の内容で順を追ってお話します。

1.嗅覚の特異性を念頭に、香りの嗜好調査で考慮すべき事
2.香りの開発段階での嗜好調査は、香りに特化した調査法が望ましい
3.香りに特化した嗜好調査法の一例の紹介
4.その嗜好調査法のシステムと分析方法
5.その嗜好調査法の有効利用
1.香りの嗜好調査に於いて考慮すべき事

  a) 人間の鼻は、同じ匂いには長く反応しない!
皆さんも日々の生活の中で経験していると思いますが、ある匂いの空間の中にしばらくいると、それまで感じていた匂いを余り感じなくなったという経験があるでしょう。
この事は、香りの嗜好調査に於いて考慮すべき重要な点です。
一つの香りに対して沢山の質問をすると鼻はなれてしまい曖昧な回答になる恐れがあります。
b)好きな匂いと、嫌いな匂いには敏感に反応する!
皆さんが匂いを意識するのはどんな時ですか? 何か気になる匂いがある時に瞬時に鼻が反応しませんか? その、気になる匂いとは、いやな匂い(危険を感じる、違和感のある匂いなど)と、好きな匂い(安心する、心地よい匂いなど)ではないですか? そして、それ以外の自分にとって気にならない匂いに対しては、鼻は余り敏感に反応しないのではないですか? 嗅覚は、危険を回避し、安全で落着く場所を求めるという、五感の中では比較的、動物的本能の感覚が強いと思われます。
この嗅覚の特異性により、人間は「好きな香り」と「嫌いな香り」に対しては、嗅いだ時の第一印象で、何故そう思うのかの理由を比較的容易に答えることが出来ます。
この事も、香りの嗜好調査に於いて考慮すべき重要な点です。
2.香りの開発段階での嗜好調査は、香りに特化した調査法が望ましい。

嗜好調査は、その目的により2つに分けられます。
(1) 最終段階で、候補品の中から最終決定品を選ぶ為の嗜好調査
(2)開発段階で、開発の方向性を探る為の嗜好調査

多くの場合、調査会社が一般的に行っている調査手法で両者のテストが行われています。調査会社が一般的に行っている調査法とは、様々な角度から沢山の質問をし、通常5段階評価で得らた回答を統計処理する方法です。
この手法は、香り以外の、例えば、デザイン、色、使用感など、目で見たり、触ったり、肌で感じられるテスト品については信頼出来る回答が期待できます。
しかし、香りに関しては課題も出てきます。
それは、前述したように、人間の鼻は匂いになれてしまい“同じ匂いに対して長く反応しない”という嗅覚の特異性があるからです。その為、一つの香りに対して沢山の質問をする調査手法だと、バイアスが生ずる恐れがあります。
特に、後者の「開発段階で、開発の方向性を探る嗜好調査」では、その調査結果が開発の行方を左右する大事な調査であり、出来るだけバイアスを少なく、パネラーの真意が引き出せる調査手法であることが必須です。その為には、嗅覚の特異性を考慮し、香りに特化した調査法が望まれます。
3.香りに特化した嗜好調査法の紹介

紹介します「香りの嗜好調査FM法」は、上述の、嗅覚の特異性を考慮した調査法で、その特長は以下の通りです。
a) システムから見た特長
(1)調査票の質問項目は必要最小限(基本は4問)
(2)質問内容は「好きな香り」と「嫌いな香り」に関した質問
(3)一度に7品のサンプルがテスト可能

b) 分析方法から見た特長
(4)個々の製品の分析だけでなく、7製品の“嗜好の相関関係”も分かる
(5)各テスト品の「好かれる部分」と「嫌われる部分」の両面が分かる
(6)設定した年齢層間の嗜好傾向も参照できる
(7)関係する全てのスタッフに分かりやすい分析表(開発目標の一元化)
4.香りの嗜好調査「FM法」のシステムと分析方法

 a) 香りの嗜好調査「FM法」の質問票 基本は4問。1問目は、テストサンプル7品の中で一番好きな香り一品を選び、その理由を問2の項目から自由選択。3問目は、7品の中で一番嫌いな香り一品を選び、その理由を問4の項目から自由選択。 (参照1)質問票の例


シャンプーの香りに関してのアンケート


7種類のシャンプーの”香り”について以下の質問にお答えください。
評価法:サンプルボトルのポップ式のふたを押し上げて、ボトルを軽く何度か押しながら
香りをかいで評価をして下さい。

  

問1.7種類のシャンプーの中で、あなたが一番好きな香りはどれですか?
    一番好きと感じたサンプル番号を一つだけお選びください。

    一番好きな香り:  T    S    P    H    G    E    K

  

問2.あなたが、問1で選んだサンプルの香りを一番好きと感じた理由をお聞かせください。
    下記の中からいくつでもお選びください。

1.新鮮なフルーツの様な香り 2.花のような香り 3、柑橘系のフレッシュな香り
4.自然な若葉のような香り5.程よい甘さのある香り 6.香水・コロンのような香り
7.清潔そうな香り8.さわやかな香り 9.ナチュラルな香り
10.親しみやすい香り11.髪や地肌にやさしそう12.髪に残る香りが良さそう
※ 以上のように、意図した分析に必要な質問を考える

問3.反対に、7種類のシャンプーの中で、あなたが一番嫌いな香りはどれですか?
    一番嫌いと感じたサンプル番号を一つだけお選びください。

    一番嫌いな香り:  T    S    P    H    G    E    K

  

問4.あなたが、問3で選んだサンプルの香りを一番嫌いと感じた理由をお聞かせください。
    下記の中からいくつでもお選びください。

1.甘ったるいフルーツの
   ような香り
2.花のような香り 3、酸っぱいようなキツイ感じの
   香り
4.草のような青臭い香り5.お菓子のような甘った
   るい香り
6.シャンプーらしくない
   香水のような香り
7.清潔感にかける香り8.しつこい香り 9.合成的な感じの香り
10.癖があり親しみにくい
    香り
11.髪や地肌に刺激が
    ありそうな香 り
12.髪に残る香りが悪そう
13.若々しくない香り14.品のない香り 15.安っぽい香り
16.質が高くない香り17.不快な香り 18.平凡な香り
19.古臭い感じの香り20.おしゃれなイメージが
    ない香り
21.香りが強すぎる
22.香りが弱すぎる23.その他 (                               )

 

(参照1)質問票の例

 
   b) 香りの嗜好調査「FM法」の分析表
※以下のデータは、2004年11月に261人の女性を対象に行った調査結果からの抜粋です。テスト品は当時の売れ筋シャンプー7製品。
(1)分析表は、問1の“一番好きな香り”と問3の“一番嫌いな香り”で得られた人数を表にしたものです。
(参照2)分析表の作り方
(参照3)分析表の例


(参照2)分析表の作り方


(参照3)分析表の例


(2)各テスト品の分析は、
それぞれのテストコード名を結び、その結んだ形を5つの基本型に照らし合わせて判断します。
(参照4)分析の例として、サンプル「T」の分析表
(参照5)嗜好傾向を表す5つの基本型


(参照4)分析の例として、サンプル「T」の分析表



(参照5)嗜好傾向を表す5つの基本型



c) 以上の「分析表」を各サンプルごとに作成し、次に、各サンプルごとの結果の要約を作成します。
例として、テストサンプルの結果の要約を参照して下さい。
(参照6)テストサンプルのテスト結果の要約


(参照6)テストサンプルのテスト結果の要約


d) 「分析表」で各サンプルごとの結果をまとめたら、次に、サンプル同士の比較も行います。

e) 次に、問2の好きな理由と、問4の嫌いな理由の対比表を作成します。
FM法では、質問票の好きな理由の項目と嫌いな理由の項目が対比するように構成されています。
それは「好きと嫌いの対比表」作成で、一つの香りに対して、消費者の反応の違いを分かりやすくする為です。
   (参照7)テストサンプルの好きと嫌いの対比表


(参照7)テストサンプルの好きと嫌いの対比表


f)「分析表」と「好きと嫌いの対比表」の分析が完了したら、次に“嫌われた部分”と“好かれた部分”の特定を行います。
    それには、上記の各テスト品の「好きと嫌いの対比表」と、事前に調べてある各テスト品の「香りの構成素材」を照らし合わせ、どの香りの要素がそれらの好かれる部分、嫌われる部分に該当するかの特定を行います。

g) 以上を総合し、どんなタイプの香りを創作するかの方向性を決定します。
実は、香りの開発では、どのタイプの香りにするかという香りの方向を決めるのが一番難しい事なのです。今の様な成熟した市場では、プロの経験だけに頼って香りの方向性を決定するのは危険です。嗜好調査など客観的なデータをプロの経験を通して分析するのが賢明でしょう。
5.香りの嗜好調査「FM法」の有効利用

香りの嗜好調査「FM法」は、単に香りの嗜好調査手法に留まらず、香り開発システムとして
「香りの開発フローチャート」が作成されています。

基本の開発手順は:


香りのプロによる市場分析&予測
7製品の選択と各製品の香りの構造分析
M法による一回目のテスト実施
結果分析&予測との照合 
香りの方向性の決定
  香りの創作&改良 
M法による2回目のテスト実施
(1回目のテスト製品と創作品を混合)
意図した方向で創作されたかの検証

  この開発システムの実施にあたっては、各手順の段階で必ず行うべき事や注意点が多々存在し、
それらを確実に実施することで、この開発システムの効果が発揮されます。
おわりに

香りの嗜好調査「FM法」は、筆者、深町が外資系香料メーカー在職中に考案したもので、各種のプロジェクトや定期的なトレンド分析に利用し、実績を積み重ねてきた嗜好調査法です。
沢山の質問をしないことが特長のため、一般的に行われている嗜好調査の統計処理は出来ません。
それ故、この調査法でのテストの企画、準備、結果分析を行う担当者は、香りの評価が出来、市場の状況も理解している「香りのプロ」であることが必須です。
消費者の意向も多様化する中、香りのプロ達は、定期的な嗜好調査を実施することにより、消費者との意識のズレを調整する日々の努力が大切です。

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