初手~6手目で戦型判断

8th JANUARY 2024

 初手▲7六歩、▲2六歩から4手目までで戦型判断する簡易版 :  初手~4手目で戦型判断

戦型の色分け
矢倉・雁木  矢倉、雁木など一方が角道を止める将棋。 角換わり  角換わりの将棋。一手損も含む。 相振り飛車  相振り飛車の将棋。
相掛かり  相掛かりの将棋。 居飛車力戦  相居飛車の分類しにくい将棋。 奇襲  奇襲に分類される将棋。
横歩取り  横歩取りの将棋。 対抗形  居飛車対振り飛車の将棋。 戦型未確定  まだ手が広く、戦型が決めきれない将棋。

 各『KIFファイルのダウンロード』のリンクからは、図以降の変化およびコメントを収録したKIFファイルがダウンロード可能です。

 KIFファイルの再生には、『柿木の将棋ソフトウェア』から、棋譜再生の定番ソフト・Kifu for Windowsをダウンロードしてお使いください。

 ※ 現在、最新のファイルではありません。(2018/8/1)

1. ▲7六歩△3四歩

▲7六歩△3四歩

 初手▲7六歩は、角道を開ける手である。
 将棋を覚える際には、▲7六歩と▲2六歩が二大初手だと教わる。ただし、採用率は4:1(『2ch棋譜』調べ)くらいで、圧倒的に▲7六歩のほうが多い。理由は単純で、初手▲7六歩は居飛車党も振り飛車党も指す手であるのに対し、初手▲2六歩はほぼ居飛車党しか指さない手だからである。

 対する後手の△3四歩も同じく角道を開ける手だ。
 振り飛車党の2手目としては当たり前すぎるほどの手で、振り飛車で△3四歩以外の2手目というと、△5四歩、△3二飛、あとは様子見の両端くらいだが、このうち△5四歩以外は多くない。

 しかし居飛車党の場合は違う。
 2手目は△8四歩も選べるので、△3四歩はその後の進行-具体的には「▲7六歩△3四歩▲2六歩の局面で自信のある作戦があるのかどうか」を踏まえて、比較した上で選ぶ手になる。プロでは長らく初手▲7六歩に対する居飛車党の2手目は△8四歩が主流で、2手目に△3四歩と突くのが一般的になるまでは長い時間がかかった。(経緯についてはコラムを参照)
 居飛車党の中で2手目△3四歩が市民権を得られたのは、1990年代末~2000年代初めにかけてである。研究が進んで作戦が多様になり、先手の対応が追い付かない時代もあったが、2010年代半ばから後手が厳しくなっており、居飛車党の2手目の主流は△8四歩に戻っていて、2手目△3四歩を指しているのは「横歩取りか一手損角換わりのスペシャリストや、新しいアイディアがある人」である。
 ちなみに2023年現在、藤井聡太は先手の初手が▲7六歩でも▲2六歩でも、後手番では2手目△8四歩しか指したことがない。それは、藤井聡太が横歩取りと一手損角換わりについてどう思っているかを表してもいる。

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1-1. ▲7六歩△3四歩に▲2六歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩

 ▲2六歩は先手が飛車先を突き、居飛車を表明した手。
 ▲7六歩△3四歩の出だしの中では、この▲2六歩が最も多い。そして、初手▲2六歩と指しても後手が2手目△3四歩と指せば、今のところ3手目は▲7六歩が最善と考えられており、この局面に合流する。
 3手目に▲2六歩が最も多く指されるのは、現時点では「3手目は▲2六歩と指すのが、将棋の最善手だろう」=「後手が4手目何を指したって先手がいいはずだ」と考えられているからである。

 後手から見ると、2手目に△3四歩と突いたなら真っ先に想定される出だし。
 つまり、ここで4手目何を指すかは、その将棋を指す前からある程度決めておくものである。この局面になってから「矢倉に組みづらい」などと言っていてはいけないのだ。

 その4手目は多岐にわたり、10種類以上ある。
 振り飛車なら、△4四歩で普通の振り飛車、△5四歩でゴキゲン中飛車、△3三角△4二飛で角交換振り飛車。居飛車なら△8四歩で横歩取り、△3二金で一手損角換わり、△4四歩から矢倉を目指すのが多く見られる。角交換系の将棋が増えたことによって△8八角成という手も現れた。一手損角換わりと角交換振り飛車の両睨み作戦で、あとは先手の指し方次第で得な方を選ぶわけだ。
 このような手の広がりが、2008年度のプロにおける後手番の勝ち越しに繋がったといわれている。

居飛車党の2手目△3四歩との関連

 プロにおいて、長らく居飛車党の2手目△3四歩が主流になりえなかったのは、この▲7六歩△3四歩▲2六歩の局面を迎えたときに指す戦法が少なかったからである。
 先手が居飛車党だと仮定すると、後手番で2手目△3四歩と突けば、3手目は▲2六歩と突いてくる可能性が高い。そこで何を指すのかを解決しなければ、居飛車党は後手番になった時に2手目△3四歩とは突けないのである。趣味の将棋なら何を指しても構わないが、生活の糧として将棋を指すプロは、少しでも有力な戦法を選ぶ必要がある。

 前述のように、現在は▲7六歩△3四歩▲2六歩の局面で後手の4手目は主要なものだけでも△8四歩△4四歩△5四歩△3二金△3三角と、5種類ある。しかし△5四歩・△3二金・△3三角が増加したのは2000年代に入ってからであり、かつては△4四歩と△8四歩のほぼ二択であった。
 △4四歩と指せば、以降は振り飛車にするか、受身になるのを承知で無理矢理矢倉にするかである。どちらを採っても居飛車党にとって積極的な指し方ではない。したがって後手が居飛車で真っ向からぶつかる指し方は、△8四歩からの横歩取りしかなかった。だが当時の横歩取りは戦後の研究で「歩得の先手が有利」との定説が浸透しており、これも積極的に採用する戦法ではなかった。
 つまり、昔は居飛車党が2手目△3四歩と突くこと自体が「変化球」であった。普段は2手目△8四歩で矢倉や角換わりを受けて立ち、たまに△3四歩の「趣向」で振り飛車や横歩取りにする手だったのである。

 その当時の証言として、鈴木宏彦『現代に生きる大山振り飛車』において、「大山康晴は先手番の際、▲7六歩△8四歩▲5六歩の出だしから5筋位取り中飛車に組んで作戦勝ちになることが多かったが、どうして後手になった棋士は2手目△3四歩と突かなかったのか?」という疑問に答える形で、中原誠が「(大山の▲7六歩に△3四歩は)あまり考えなかった」「(△3四歩と指したら)一度▲2六歩から横歩取りにされたことがある」と語っている。後年は振り飛車党と認識されていたとはいえ、大山は元々居飛車党であり、横歩取りも苦にしない。前述の通り当時の横歩取りは先手有利が定説。だから相手の棋士も△3四歩とは突きづらかったのである。

 こんな状況の中で、居飛車党が「直球」として2手目△3四歩と指すには、横歩取りで後手が指せる形を見つけなければいけなかった。
 まず挑んだのが内藤國雄で、1969年に内藤流空中戦法(横歩取り△3三角戦法・中住まい△8四飛型)を駆使し中原誠から棋聖位を奪取した。70年代末には、若手時代の谷川浩司が横歩取り△4五角戦法を連採し結果を出した。
 この流れの中で、80年代に入り横歩取り定跡全体の洗い直しが始まっていった。また序盤の研究が進み、矢倉には飛車先不突、角換わりには飛車先保留の革命が起きて、2手目△8四歩では主導権を握りづらくなったことも、2手目△3四歩が増えていく一因となったと思われる。

 90年代後半には横歩取りで中座流△8五飛戦法が出現し、とかく受け身になりやすい相居飛車後手番で先攻できる戦法として爆発的に流行した。以降、横歩取りは居飛車党後手番の有力な作戦として認識されており、また2000年代には一手損角換わりも出現し作戦の幅は広がった。この結果、ついに2手目△3四歩は居飛車党の中でも市民権を得られたといえよう。

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a. △8四歩 (横歩取り)

▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩
(KIFファイルのダウンロード)

 後手も飛車先を突き合う。基本的には横歩取り(*1)の出だし。
 図から▲2五歩△8五歩▲7八金△3二金▲2四歩△同歩▲同飛△8六歩▲同歩△同飛に、▲3四飛と横歩を取った形が、横歩取りの基本形である。(*2)
 先手は歩得するものの、飛車は一瞬不安定な場所に行く。後手は①その瞬間に技をかけるか、②飛車が2筋に戻るまでの間に駒組みを進めて先攻を目指すのが狙いだ。まとめると、先手は「歩得という目に見える得」、後手は「手得/形の良さという目に見えない得」を主張して戦う将棋である。「実利」対「ロマン」と言われることもある。

 ただし先手が横歩を取らず、手を渡された後手も横歩を取らなければ、相掛かりになる。
 プロにおける2011年のように横歩取り後手番が有力とされる時期には、先手が横歩を取らない将棋も多く見られる。更にさかのぼると、大正時代から昭和初期には『横歩三年の患い』と言われ、横歩は取らないほうがいいとされた時代もあった。

 横歩取りという戦型は「大駒交換になりやすく、序盤20手ほどの間に落とし穴が多いため、覚えなければならない基礎知識が多い」「まず玉を囲ってから攻めましょうと教わるのに、あまり玉を囲わないまま戦いになる」というような特徴があり、他の戦型に比べて序盤の自由度が低く、一つのミスが致命傷になりやすい。
 そのため、あまり初心・初級者向きではない。そしてレベルが上がれば上がったで、今度は「研究したもの勝ちになりやすい」面がある。

 これらを嫌って横歩取りを指さないが、対振り飛車のために3手目は▲2六歩と突くという居飛車党もいる。しかし相手に△8四歩と指されてしまいこの局面になった場合、先手が横歩を避ける手段は2つある。
 ひとつは▲2二角成と角交換して角換わりにする順。ただし先手の手損なので、先後入れ替わった角換わりになる。
 もうひとつは▲6六歩と角道を止め、矢倉に持ち込む順。以下△8五歩▲7七角と進む出だしは、通常の矢倉と区別して、無理矢理矢倉の出だしと呼ばれる。

*1
 一般的に先手の視点で「横歩取り」と呼ぶものの、後手は歩を取られる手をうっかりしたわけではなく、わざと取らせているため、後手の視点から「横歩取らせ」と呼ぶこともある。
*2
 図から▲2五歩△8五歩▲7八金△3二金▲2四歩△同歩▲同飛に△2三歩と打ち、横歩を取る▲3四飛に△8八角成▲同銀△2五角と打つ、横歩取り△2三歩型もある。現在は先手良しが定説で、ほとんど指されない戦法となった。

『横歩三年の患い』の語源

 『横歩三年の患い』という言葉がある。昔は歩得より手得や形を重視し、「(先手が)横歩を取ると苦労が多い」と言われていた時代に使われていた、横歩を取る手を戒める言葉である。
 しかしその後「横歩を取って指せる」という定説に変わったため、今では使われることが少なくなっている。
 「(後手が)取らせて先攻を目指しても苦労が多い」という解釈も出来るため、死語だと言い切るのも微妙なところであるが、先手の立場から見た『横歩三年の患い』と限定すれば、もはや死語だと言える。

●底歩説 - Web上に多い

 『横歩三年の患い』の語源は、まず『底歩三年の患い』という「固いからと言って軽はずみに底歩を打つと、後でその筋に歩が利かなくなって困る」とか、「底歩の固さを過信しないように」という意味の格言があり、これをもじって『横歩三年の患い』に変わったという説が挙げられる。Wikipediaに書いてあるので見たことがある人も多いかもしれない(ただし要出典付き)。検索すると同じことを書いている人がちらほら見られ、明治~昭和の将棋を研究している参考ブログ『長生きするおたく』でもこの説を示している。

 この説では、まず『底歩三年の患い』という言葉が生まれなければ始まらない。
 しかしその語源を書いた本が見つけられず、手がかりは現状、5chのスレッド「三桂あって詰まぬことなし ← 詰まない」レス120~125の流れしか見つけられなかった。
 これを参考に『底歩三年の患い』の語源を考察すると、次のような感じだと考えられる。

 江戸時代、眼病のことを「そこひ」と呼んでいた。
 参考リンクでは、江戸時代に日本に来た西洋人の医師が眼病の多さに驚いたと書かれている。確かに将棋指しにも『石田流』の石田検校をはじめ、盲目の棋士は多い。
 それだけ悩ましかった眼病について、昔の人は「そこひ三年の患い」と言っていた。「三年の患い」は「悩ましいもの、わずらわしいもの」の慣用表現と思われ、他にも囲碁には『両コウ三年の患い』という言葉があり、映画『男がつらいよ』では寅さんの口上に『稼業三年の患い』という言葉が出てくるそうである。
 その「そこひ三年の患い」をシャレて『底歩三年の患い』と言い出したということだが、レス125のニュアンスでは、例えば「金底の歩を香で攻められて困る」という真面目な意味ではなく、「ヘボ将棋は、底歩を打ったのを忘れて同じ筋に二歩を打つ」ことをからかった意味だと思われる。

 このシャレがそのうち真面目な意味で、格言として受け取られるようになり、そして「横歩取りが悩ましい」と思った人が「底歩」を「横歩」に置き換えて『横歩三年の患い』と言い出し、それが広まっていったということだと思われる。
 これを「底歩説」と呼ぶこととする。

●ヨコネ説 - 加藤治郎『将棋戦法二十番』

 ところが最近(と言っても2年くらい前)、上記の底歩説とはまた違う説を知ったので紹介したい。

 『将棋戦法二十番』(以下、加藤本)は昭和49年(1974年)の出版で、当時の主だった戦法の概要を解説した本だ。
 著者は、今となっては戦法、囲い、手筋の名付け親としての一面が強調される加藤治郎名誉九段である。

 加藤はこの本の横歩取りの章で、次のように書いている。

 現在、プロ棋界では”横歩取りは先手有利”が定説となっている。
 しかし、筆者が将棋心(将棋のもの心)をおぼえた大正末期から昭和の初期ごろまでは”横歩三年の患い”なることばが一般にゆきわたり、”横歩取りは先手不利”と信じこんでいた。

 この”横歩三年の患い=不利”の看板を”横歩=有利”にぬりかえたのが木村八段(現十四世名人)の対金八段(現名誉九段)、萩原八段との横歩取り戦の二局だった。
 木村八段は対金八段に快勝、対萩原八段戦では大悪手で逆転負けを喫したが、終盤戦まで必勝に近い将棋だったからである。木村対金、萩原戦の二局をきっかけに、プロ棋界では昔の横歩三年の患いを信じる反横歩派と、新しい横歩を有利と信じる横歩派との間に、長く激しい争いが続けられた。
 反横歩派は次々に新しい対策をたてながら横歩派に立ち向かったが、戦い利あらず、ことごとく失敗に帰した。反横歩派の旗頭格は、昔は花田九段、最近は山田九段だった。同派は若い研究家の山田九段に巻き返しを期待したが、同氏の急死ですべては終わったのである。

 結局、われわれは木村八段の新工夫が横歩不利を有利に変えたものと、教えこまれてしまった。
 ところが最近これに疑問を持つようになった。なぜなら“三年の患い”なることばはあっても、実戦では昔から横歩がつねに好成績をあげていたからである。

 そもそも“三年の患い”とは“三手の損”のこと。▲2四飛を直ちに▲2八飛と戻れば一手、それが横歩を取れば四手。その差三手。一歩得に三手損は割りに合わないの意だ。
 それを、江戸時代の愛棋家連がヨコフをヨコネ、三手を三年にひっかけて“ヨコネ三年の患い”とシャレたらしい。それが、いつの間にか“ヨコフ三年の患い”と、けなされるようになる。これは、優秀な横歩取り戦法にとっては全くのエン罪だったわけである。

※ 原文から一部修正している。

 この文章、「ダジャレがもとになって、悪くないのにけなされるようになった」という話の流れはともかく、「ヨコネ」とは何なのかというのが一番引っかかる部分であろう。
 その後、色々調べてたどり着いた加藤本の解釈は次のとおりである。

 「ヨコネ(横根)」とは、これもまた病気の名前で、「横痃(おうげん)」とも言い、性病である「梅毒」の初期症状で、太ももの付け根のリンパが腫れるものをこう呼んだらしい。
 参考ページでは、戦国時代に日本に滞在したルイス・フロイスが「日本人はヨコネにかかっても恥だと思わない」ということを記録に書き残していること、江戸の人口の梅毒罹患率は55%という説を紹介しており、「江戸時代においても、「ヨコネ」を恥と思わず、むしろ男として一人前くらいに思っていたようです。」と書いている。現代の認識とは全く違い、江戸の庶民にとってヨコネはよくある病気で、かかっても女遊びをからかわれる程度だったのだろう。専門家ではないので想像でしかないが、ヨコネがまさか梅毒につながっているとまでは、まだ思われていなかったのではないだろうか。

 手数の話は書いてある通りで、▲2四飛を、ただ▲2八飛に戻るのは一手。
 横歩を取ってから2八に戻る▲3四飛~▲3六飛~▲2六飛~▲2八飛は四手。
 その差三手なので三手損。これで「横歩を取ると一歩得するが、三手損します」というのは分かる。

 その「三手の損」と「三年の患い」が「三」でかかっているのは解説不要だと思うが、梅毒には症状によって第1~第4期の分類があり、ヨコネは第1期の症状らしいが、次に発疹やしこりといった軽めの症状が出ては消えるのを繰り返す第2期までがだいたい3年くらいらしい。「三年の患い」とは慣用表現であると思っていたが、実感のこもった「三年の患い」だった可能性もある。

 「横歩三手損、ヨコネ三年の患い」まで来ると後は底歩説と同じで、「横歩」と「ヨコネ」を言い換えて『横歩三年の患い』と言う人が出てきた。
 なんだか収まりが良いからか、縁台将棋では同じように横歩を取って失敗する人が多かったか。家元など当時のトップレベルでは横歩を取る手は悪いなどという話にはなっていなかったが、素人発祥のちょっといかがわしい言葉に引っかけたダジャレの勢いに押され、いつしか横歩取り自体がいかがわしいものと思われるようになり、先手不利というレッテルを貼られてしまった。

 「ヨコネ説」についてはこう解釈する。異論は認める。
 (ちなみに「そこひ」「ヨコネ」両方が出てくる『殿集め』という古典落語があるようだ。参考まで。)

●明治時代の棋書を調査

 引用した加藤本では、加藤治郎が将棋を覚えた大正末期~昭和初期には既に『横歩三年の患い』が一般的であったとしている。
 ではそれ以前、明治~大正時代くらいまではどうだったのか、何か文献はないかと思い、国会図書館デジタルコレクションで見ることのできる古棋書を調べてみた。

 すると、明治26年の浜島竜水『三十日間将棋独習新法 坤』の122ページ、巻末の「将棋格言」に『飛車にて横歩を取る可らず(べからず)』と書いてあるのを発見した。
 ただしこの格言集、解説も何もなく、思いついた順番でただ書いただけではなかろうかと思うほどひどい体裁で、そもそもどんな局面のことを言っているのかよくわからない。
 ただ、何を根拠にしているのかはわからずとも、「横歩を取ってはいけない」という主張が明治中期には存在していたことがわかる。ちなみにこの格言集にもその後にある「将棋洒落」にも、『底歩三年の患い』どころか『底歩』関連の言葉はなかった。

 続いて、明治42年の将棋新報社『独習速成 将棋定跡解』の17~18ページに、下図を挙げて、次の文章が書かれていた。

横歩取り△8六飛型

 ここで▲2六飛と下がらずに▲3四飛と横に開いて歩を取るを横歩取りと申します。
 俗に「横歩三年の病ひ」と申しまして、この横歩を取ることは面白くないとしてありまして、下手にやると二手も三手も損をするようなことがありますが、定跡によって指しますとあながちに悪いとばかりは申されません。
 これを取っても利益の定跡がありますし、また取られた方でもこれを防ぐの定跡があります。つまり定跡に詳しき方が勝ちとなるので取った方は防ぎ手の定跡に乗らぬよう、防ぐ方では取った方の定跡に乗せられぬよう工夫を凝らすのが勝敗の分かれであります。

※ 原文から一部修正している。

 『横歩三年の患い』という言葉は、明治末期には本に載るほど広まっていたことがわかる。
 その一方で「定跡に沿って指せば横歩を取って悪いとも言い切れない」「定跡に詳しいほうが勝つので、その先の研究が勝敗に関わる」とも言われている。

●まとめ

 「底歩説」はワンクッション挟んで、「ヨコネ説」はダイレクトという違いはあるが、これらの説から言うと『横歩三年の患い』は「もともと軽口・地口(じぐち)・シャレの類として素人の間で言われていたもの」で、特に根拠のない言葉だということになる。『初王手目の薬』などの仲間だったということだ。「そこひ」「ヨコネ」という江戸時代に多かった病気が語源であるのなら、発祥も江戸時代までさかのぼる可能性は高いと思われる。
 そんなシャレが広まっていくうちに、いつしか本気で受け取られるようになり、大正時代には定説として信じられるようになった。
 どっちが語源として正しいかは、もはや誰もわからない話だろう。個人的には「ヨコネ説」のほうが直接横歩につながる分、色々説明しているとは思うが、初めて知ったときは唐突すぎて「何言ってんだ」と思ったことも否定できない。両論併記、諸説あるということでいいのではないか。

 ちなみに細かいことを言えば、『横歩』としか書いていないので、実は「全然違う局面で横歩を取るのは危ない」という内容の言葉であったのを、はき違えたのかもしれないとも思うことがある。これはちょっとひねくれた見方だと思うし、解明も不能だろう。

 正直なところ、「ヨコネ説」を紹介したいという一念で書き始まったので、もう目的は達成したのだが、語源を調べたのだから、その最期まで少し続けたいと思う。
 少しと言いつつ長くなってしまったので、別ページにて。

⇒ コラム延長戦 『横歩三年の患い』が否定されるまで

4手目

5手目

6手目

戦型

△8四歩

▲2五歩

△8五歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲7八金△3二金
 横歩取りの出だし。手は色々あるのだが、一般的なのは▲7八金△3二金(図)と金を上がる進行。
 そこから▲2四歩△同歩▲同飛に△8六歩▲同歩△同飛の進行が大多数を占める。

【▲7八金△3二金▲2四歩△同歩▲同飛に△8六歩▲同歩△同飛】

 先手が▲2四歩△同歩▲同飛と飛車先交換をした手に、後手も△8六歩▲同歩△同飛と飛車先交換をするのが最も多い手順。
  • (1)▲3四飛と先手が歩を取れば、横歩取りが確定する。そしてその横歩を取った(後手から見れば取らせた)局面で、後手は方針を決めなければいけない。
    • (a)△7六飛と後手も横歩を取る手には、▲2二角成がある。
      • (ア)△同銀は▲3二飛成、
      • (イ)△同金は▲3一飛成で後手敗勢。
         ▲3四飛の局面は、例えば△1四歩や△9四歩のように待っても▲2二角成がある。
         したがって後手はこの筋が受かる手を指さなければならない。
  •  受けるには「3三に駒を動かして▲3二飛成を消す」「3二の金に紐をつける」「2二の角を捌いてしまう」のどれかが必要で、具体的には次のような手がある。
    • (b)△3三角(横歩取り△3三角戦法)
    • (c)△3三桂(横歩取り△3三桂戦法)
    • (d)△8八角成(相横歩取り、横歩取り△4五角戦法など)
    • (e)△4一玉
    • (f)△8二飛など。当然、それぞれこの後の戦い方が変わってくる。
  • 現在は先手が横歩を取るのが主流となっているものの、もちろん横歩を取らない指し方もある。
    「横歩三年の患い」という言葉があるように、取らないほうが本筋とされた時期もあった。
  • (2)▲2六飛と引けば相掛かり。
  • (3)▲2八飛で後手に横歩を取らせるように誘う、
  • (4)▲9六歩の手渡し、
  • (5)▲5八玉という手もある。
  • (6)▲2二角成△同銀▲7七角は先手失敗で、△8九飛成と突っ込まれる。以下、
    • (a)▲2二角成△同金▲同飛成は△7九竜▲同金△7七角の王手龍で終了。
    • (b)▲2二飛成△同金▲同角成と飛車から行っても、△8六桂くらいで勝てない。

【▲7八金△3二金▲2四歩△同歩▲同飛に△2三歩】

 先手の飛車先交換後、後手は飛車先交換をせずに△2三歩と打つ手もある。
  • (1)▲3四飛と横歩を取れば、
    • (a)△8八角成▲同銀△2五角と進む横歩取り△2三歩型になる。
      • (ア)▲3二飛成と飛車を切る、
      • (イ)▲3六飛と引く、に分かれるが、どちらも先手よしという認識が一般的となっている。
    • (b)△4一玉と角交換せず指す手もある。
      • (ア)▲3六飛△8六歩▲同歩△同飛が穏やかな進行。持久戦になるが、後手は2筋に歩が利かなくなっている。
      • (イ)▲7七金と上がって後手の飛車先交換を防ぐ実戦例もあり、先手はひねり飛車のような駒組みをする。
  • △2三歩と打つ形においても、横歩を取って先手良しの認識が定まるまでは相掛かりになることが多かった。
  • (2)▲2六飛、
  • (3)▲2八飛であるが、現在は少数派である。

【▲7八金△3二金▲その他】

 先手が飛車先交換をしない手では、
  • (1)▲6九玉、
  • (2)▲9六歩と待って後手に飛車先を交換させる、
  • (3)▲7七金と飛車先交換を防ぐ、
  • (4)▲2二角成△同銀▲8八銀で無理矢理角換わりにする手などが考えられる。

【▲7八金△8六歩】

 △8六歩と、角頭を受けずに飛車先を交換しに行く手がある。▲8六同歩△同飛まで進み、そこで▲2四歩と行くか、▲8七歩と打つか。
  • (1)▲2四歩△同歩▲同飛と先手も飛車先を交換したとき、
    • (a)△3二金なら横歩取りの出だしに戻るが、
    • (b)△8八角成▲同銀と角交換して△3三角と打つのが、ノーガード戦法と呼ばれる順だ。
      • (ア)▲2一飛成で先手が良ければ話は早い。
        • △8八角成▲同金△同飛成は、▲3三角の王手龍がある。
        • △8八飛成と飛車から行く。以下▲8八同金△同角成に、
          • ▲8二歩△2二馬▲同竜△同銀▲8一歩成△8八飛▲7七角△8九飛成▲6九桂△7八金▲2二角成△6九竜▲4八玉で先手勝勢というのが『イメージと読みの将棋観』(『将棋世界』2010年5月号)で渡辺明が示した変化だ。他にも、
          • ▲7七角△8九馬▲1一角成△6七馬▲6九香や、
          • ▲7七角△8九馬▲3三角成△6二玉▲6六馬とゆっくり指す手でも先手優勢とされる。
      • (イ)▲2八飛と、飛車を突っ込まずに引く手もある。△2七歩と打たれるが▲5八飛と逃げて、以下△7六飛▲7七銀△2六飛のような展開では後手の調子が良さそうだが、それ以上何もないので先手が指せるというのが『イメ読み』におけるプロ6人の見解。
    •  つまり、ノーガード戦法は▲2一飛成でも▲2八飛でも後手が悪い、と『イメ読み』ではまとめられている。
       ちなみに、森内俊之は屋敷伸之と対局した際、この「△3二金を省略して△8六歩▲同歩△同飛」を指されたことがあったと語っている(1989年10月・C2順位戦▲森内△屋敷と思われる)。まさかと思いつつも研究があるかもしれず、警戒して読みを入れてから▲2四歩△同歩▲同飛としたところ、あっさり△3二金と上がられたそうだ。
  • 相手の研究を警戒したり、いくら先手良しだと言われても▲2四歩以下の変化が好みでなければ、▲8七歩と打つ手がある。
    (2)▲8七歩に、
    • (a)△7六飛は▲2二角成△同銀▲6五角があるので、
    • (b)△8二飛、
    • (c)△8四飛と飛車を引くことになる。それから▲2四歩△同歩▲同飛なら相掛かりになり、一局の将棋。

【▲2四歩】

 先手が角頭を守らず▲2四歩と行くと、△同歩▲同飛のときに
  • (1)△8八角成▲同銀△3三角と後手から変化する順が生じる。
    • (a)▲2一飛成なら△8八角成、
    • (b)▲2八飛には△2六歩~△2二飛を狙う。
  • (2)△3二金と自重すれば、先手も▲7八金と上がり、通常の横歩取りになることが多い。

【▲その他】

 ▲1六歩や▲9六歩と待ち、後手に横歩を取らせようとする駆け引きもある。

横歩取り、相掛かり

横歩取り 相掛かり

△3二金

▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩▲2五歩△3二金

 ▲7六歩△3四歩▲2六歩△3二金▲2五歩△8四歩と同じ局面。
 局面自体は一手損角換わりの出だしになるが、4手目△8四歩の時点で横歩取りコースが一般的で、後手が6手目に△3二金と待つことは少ない。

△8八角成

▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩▲2五歩△8八角成

 以下▲8八同銀△2二銀で、一手損角換わり。ただしごく少数の出だし。
  • (1)▲3八銀△3三銀と進めば一手損角換わりになるが、
  • (2)▲2四歩と行く手がある。以下△2四同歩▲同飛△3五角▲2八飛△5七角成▲1五角と進んだところが問題。
    • (a)△2四歩▲同角△同馬▲同飛△5七角▲2八飛△3二金は▲6八角と打ち、△8四歩が邪魔で後手は馬を作れず、主張がない手順になってしまう。
    • 後手が主張を求めるならば、
      (b)△3三桂と強気に踏み込むしかない。以下▲2二飛成△同飛▲3三角成△4二飛▲5八金左△3五馬▲1一馬と進み、銀桂香と飛車の3枚換えでどうかという将棋になる。しかしこの変化に進むなら、4手目は△9四歩のほうが利いていると思われているためか、この出だしは少ない。(後手が選ばない)

一手損角換わり

角換わり

▲7八金

△3二金

▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩▲7八金△3二金

 ▲7八金は手堅く待つ手だが、5手目は▲2五歩が大多数なので、この手順はあまり現れない。
 ▲7六歩△3四歩▲2六歩△3二金▲7八金△8四歩と同じ局面。

△8五歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩▲7八金△8五歩

 △8五歩は形を決めて、後手が横歩取り志向を明示した手。

【▲2五歩】

 後手の誘導に対し、先手が乗った手。
  • (1)△3二金▲2四歩△同歩▲同飛△8六歩▲同歩△同飛か、
  • (2)△8六歩▲同歩△同飛▲2四歩△同歩▲同飛△3二金で、横歩取りの出だしに合流する。

【▲2二角成】

 以下△同銀▲8八銀で、手損でも角換わりにする手もある。△8六歩▲同歩△同飛には▲7五角だ。先後入れ替わったことになるが、飛車先が8五まで伸びている点(相腰掛け銀は後手攻め切れない、棒銀・早繰り銀になるなら構わない)を主張するということか。2003年度升田幸三賞『54手目△7七銀成』の▲島朗△谷川浩司戦はこの出だし。

横歩取り、相掛かり、角換わり

横歩取り 相掛かり 角換わり

△8八角成

▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩▲7八金△8八角成

 以下▲8八同銀で、一手損角換わり。そこで△2二銀が普通だが、△3二金と上がっていないことを生かし△3二銀と上がって駒組みをした将棋が2005年10月A級順位戦▲郷田真隆△佐藤康光。(最終的には相腰掛け銀の定跡に合流した)

一手損角換わり

角換わり

△4四歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩▲7八金△4四歩

 ▲7八金を見て、角道を止め矢倉に変化する。▲2五歩△3三角を決めても、先手が2筋交換を狙うには▲7八銀~▲7九角の引き角が出来ないので▲7七角~▲6八角とするしかなく、角に二手かけなければいけないのが後手の主張だ。
 後手は矢倉で対抗するほか、△7二銀~△8三銀と銀冠の一部を作ってから陽動振り飛車にする作戦もある。

矢倉、雁木、対抗形

矢倉・雁木 対抗形

▲6六歩

△8五歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩▲6六歩△8五歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩▲6六歩△8五歩
 5手目▲6六歩は、先手が横歩取りを避けた手。
 対振り飛車もあるので▲7六歩△3四歩には▲2六歩と指したいが、相居飛車になったとき横歩取りになってしまうのは嫌で、矢倉で戦いたい、という居飛車党が採用する無理矢理矢倉の出だしである。プロでは田中寅彦が多用している。ちなみに田中寅は横歩取りを指さない棋士として有名で、▲7六歩△3四歩の出だしではこの▲2六歩△8四歩▲6六歩と、3手目▲6六歩3手目▲5八金右を併用している。
 後手は△8五歩▲7七角(図)を決める。これで、先手が7七に銀を持っていくにはまず角を動かさなければならず、矢倉にすんなりとは組みづらくなっている。
 そして、△3二銀と上がるのが後手の継続手。▲2五歩が来たら△3三銀と上がって自分はスムーズに矢倉に組む用意と、△5四歩~△3一角の引き角で飛車先交換を狙う。

【▲2五歩 - 先手無理矢理矢倉】

 手順を尽くせば、先手は後手の飛車先交換を回避できる。それが先手無理矢理矢倉である。
 すぐ▲2五歩と突いてしまい、
  • (1)△3三銀と上がらせて▲8八銀△5四歩▲6八角△3一角▲7七銀。
     すぐ▲2五歩△3三銀の交換を入れるのがポイントで、6六に直射する後手の角筋を止めることで、△3一角より先に▲6八角と引けるようになる。
  • (2)△3三角と上がり、▲8八銀△5四歩▲5八金右△4二角と引くような手順も考えられるが、角の移動に2手かけているので、そこまでして飛車先交換するかどうか…という好みの問題になる。
 無理矢理矢倉は確かに矢倉に組める。ただ「▲2五歩と伸ばさなければいけない」「角は6八に2手かけて持っていく」という、かなり決まった形になる。ここまでしても矢倉にしたいかどうか、好みが分かれる戦法でもある。

【▲5八金右 - 銀冠・菊水矢倉】

 ▲2五歩を選ばない場合、後手の角が2二にいる間は6六歩を角以外の駒で支えないと、先手は角を引けない。そのため矢倉系の将棋を目指すなら、▲5八金右~▲6七金を急ぐ。
  • (1)△5四歩▲6七金△6二銀▲8八銀△3一角▲7八金は、引き角を目指す手順。ここから後手に飛車先交換の権利がある。
    • (a)△8六歩▲同歩△同角とすぐ飛車先交換に行けば、
      • (ア)▲同角△同飛に
        • ▲8七銀と立ち、△8二飛▲8六歩で銀冠になることが多い。
        • ▲8七歩△8二飛の進行もあるが、その後囲いをどうするか。
      • (イ)▲8七歩と、角交換しないで歩を打ち、
        • △7七角成か、
        • △4二角の角引きか、後手に選ばせるという指し方も無くはない。
    • ただ、△8六歩は権利なので急がずともよいという考え方もある。
      (b)△3三銀▲5六歩△3二金▲4八銀△5二金右▲6九玉△4一玉と駒組みを進め、先手が▲6八角と引いたときに△8六歩▲同歩△同角と行く。先手が一旦引いた角を交換すると角引きの一手が無駄になるのが、飛車先交換を待つ理由だ。
      • (ア)▲8六同角△同飛▲8七銀△8二飛▲8六歩と進めば銀冠。
      • その代わり、角を引いてからの飛車先交換は
        (イ)▲7七桂で角交換を拒否する変化を与える。以下△4二角に▲8七歩と打ち、▲7九玉~▲8九玉と囲うのが菊水矢倉だ。
  • (2)△6二銀▲6七金に△6四歩と突いて、引き角でなく腰掛け銀を目指す指し方もある。飛車先交換の筋はなくなるが、腰掛け銀から△6五歩の仕掛けが見え見えなので、先手が迂闊に角を引けない将棋になる。

【▲7八銀~▲6七銀~▲7八金】

 ▲7八銀△5四歩▲6七銀△3一角▲7八金が一例だが、このように指すと雁木や右玉といった居飛車系の将棋になる。
 雁木には、2017年に「ツノ銀雁木」という新型が現れている。角換わりの出だしから後手が変化して指すことが多い作戦だが、先手もやろうと思えばこの出だしから目指すことが出来る。なお、ツノ銀雁木は角交換に強い形なので、例に挙げたような引き角はあまり有効ではなく、後手は違う構想で指すことが多い。

【陽動振り飛車】

 先手のひねった作戦として、例えば▲3八銀△5四歩▲2七銀△3一角▲8八飛の、陽動振り飛車も考えられる。

矢倉、雁木、対抗形

矢倉・雁木 対抗形

△4二銀

▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩▲6六歩△4二銀

 6手目が△8五歩でさえなければ、先手は▲6八銀と上がってすんなり矢倉を目指すことが出来る。

矢倉、雁木、対抗形

矢倉・雁木 対抗形

▲2二角成

△同銀

▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩▲2二角成△同銀

 横歩取りを避けるもう一つの方法として、先手から角交換してしまう手は考えられる。以下▲8八銀△3二金というような進行だ。
 先手が手損することになるので、先後入れ替わった角換わりになる。

角換わり

角換わり
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b. △3二金 (一手損角換わり)

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3二金
(KIFファイルのダウンロード)

 金で角頭を受ける。基本的には一手損角換わりを目指す出だし。他、横歩取りにすることも出来る。
 かつては阪田流向かい飛車か横歩取りくらいしか決まった戦型がなく、あとは駆け引きによって戦型が決まる力戦調の強い出だしだったが、2000年代に入り一手損角換わりが登場すると、当時の居飛車党後手番は横歩取り△8五飛戦法ばかりだったことへの反動もあって、この4手は爆発的に増加した。
 その後研究が進んだことや他の戦型の動向によって流行は沈静化し、一手損角換わり自体、スペシャリストの指す戦型となりつつある。また、一手損角換わりにするなら4手目△8八角成のほうが形を決めていないと考える向きもあり、丸山忠久は近年そちらを選んでいる。

 5手目▲2五歩は形を決める順。
 以下△8四歩▲7八金△8八角成▲同銀△2二銀が、一手損角換わりの基本形だ。(*)

 ▲7八金は呼吸を合わせた順だが、舟囲いの選択肢が消えるため、後手が振り飛車系の将棋に変化しやすくなる。
 ▲6六歩は先手が一手損角換わりを拒否した形で、矢倉を目指す。相矢倉になった際、旧来は先手だけ飛車先を突いていて損だとされていたが、藤井流矢倉が登場したため見直されている。


 通常の角換わりの出だしにおける先手飛車先保留型では、飛車先の歩の関係を見ると▲2六歩・△8五歩型である。それが、一手損角換わりのこの局面では▲2五歩・△8四歩型。先手が飛車先を伸ばし、後手が飛車先保留、つまり逆の関係になっているのがポイント。この関係にしたいがために、後手は手損をしてでも角交換しているわけだ。
 ここから後手は、基本的に腰掛け銀を目指す。それに対して先手が腰掛け銀・棒銀・早繰り銀のどれかを選んで戦うという構図となるが、主流は手得を生かした棒銀や早繰り銀である。相腰掛け銀は後手の飛車先保留が生きる展開になりやすいため、あまり好まれていない。

4手目

5手目

6手目

戦型

△3二金

▲2五歩

△8四歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3二金▲2五歩△8四歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3二金▲2五歩△8四歩
 一手損角換わり(△8四歩型)の基本的な出だし。ただし変化が多く、6手目の段階では戦型を絞り切れない。
 ここで、先手は呼吸を合わせて▲7八金が多数。すぐ▲2四歩と行くと、△同歩▲同飛△2三歩のときに横歩を取れず、相掛かりに限定されてしまうのが嫌われるようだ。ただ、▲2四歩と行けば一手損角換わりにはならないので、後手の作戦を限定したと見ることもできる。

【▲7八金】

 手堅い▲7八金が多数派。後述の▲2四歩が、特にうれしい展開ではないというのもある。
  • (1)△8八角成▲同銀△2二銀の一手損角換わりが基本的な進行。
    • (a)▲2四歩は△同歩▲同飛△3五角がある。
      したがって、
    • (b)▲3八銀や▲7七銀以下駒組みになる。
  • (2)△8五歩以下の横歩取りを選択することも出来るが、あまり多くはない。

【▲2四歩】

 飛車先を交換に行く。△2四同歩▲同飛と行けば、△2三歩か△8五歩。
  • (1)△2三歩に、
    • (a)▲3四飛は△8八角成▲同銀△4五角なので、横歩を取ることはできない。
      したがって、
    • (b)▲2六飛と飛車を引いて相掛かりになる。
  • (2)△8五歩には▲7八金△8六歩▲同歩△同飛で、横歩取りの出だしに戻る。
  • (3)△8八角成▲同銀△3三角は、▲2八飛と引かれると△3二金が飛車の横利きを邪魔しているので追撃できない。

【▲6六歩】

 矢倉に変化した手順。
  • (1)△3三角▲6八銀の進行と、
  • (2)△8五歩▲7七角△3三角▲5八金右△2二銀▲6七金△5四歩▲8八銀以下の進行が考えられる。

一手損角換わり、相掛かり、横歩取り、矢倉、雁木

戦型未確定

△8八角成

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3二金▲2五歩△8八角成

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3二金▲2五歩△8八角成
 6手目△8八角成は、飛車先不突型の一手損角換わり。▲8八同銀と取って図。
  • (1)△2二銀と上がるのが基本。
    • (a)▲3八銀△3三銀と進んで駒組みになる。この順では先手に▲7八金が入っていないため、将来は▲7八玉型で戦うことも考えられる。
    • (b)▲2四歩△同歩▲同飛は、△3五角▲2八飛△5七角成で馬を作られ先手が失敗する。 ちなみに△2二銀のところを△4二銀としていると、△3五角には▲2一飛成があるので後手が失敗する。
  • (2)△3三金は阪田流向かい飛車を目指した手。下で解説している6手目△3三角から▲同角成△同金で阪田流にするのと比べて、自ら角を換える分だけ一手損するが、必ず阪田流にするという場合はこちらが確実。

一手損角換わり、阪田流

角換わり 対抗形 居飛車力戦

△3三角

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3二金▲2五歩△3三角

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3二金▲2五歩△3三角
 ▲3三角成を誘っている。一手損角換わり登場以前の4手目△3二金からは、この局面を迎えることが多かった。
 また、4手目△3三角や、▲2六歩△3四歩▲2五歩△3三角からこの局面を迎えることもある。
  • (1)▲3三角成には△同桂と△同金がある。
    • (a)△同桂の場合は、振り飛車なら立石流、居飛車なら菊水矢倉や銀冠を目指す。
    • (b)△同金の場合は、ほとんど阪田流向かい飛車だと見てよい。
  • (2)▲6六歩と角交換を自重する手や、
  • (3)▲4八銀なら、矢倉や角換わりの可能性も生じる。

阪田流、対抗形、居飛車力戦、矢倉

対抗形 居飛車力戦 矢倉・雁木 角換わり

△4四歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3二金▲2五歩△4四歩

 飛車先交換を誘い、力戦形に持ち込もうとする手。
  • (1)▲2四歩△同歩▲同飛には、
    • (a)△4五歩と突くのが一つの狙い。
      • (ア)▲3四飛と横歩を取るのは△8八角成▲同銀△3三金で、▲3六飛なら△2二飛▲2八歩と凹ませて後手満足。
      • (イ)▲2八飛が無難で、後手は△2三歩~△4二飛~△3五歩で立石流を目指すことが多い。
    • (b)△3三金とも指せる。ややひねった手だ。
      • (ア)▲2六飛や、
      • (イ)▲2八飛なら、△2四歩と打って駒組み。
      • (ウ)▲2三歩と過激に行く手もあり、△2四金▲2二歩成△同銀▲4四角で大乱戦。
  • (2)▲4八銀などの飛車先交換しない手であれば、△3三角、△4二銀、△4二飛など手は広い。

対抗形、居飛車力戦、矢倉

対抗形 居飛車力戦 矢倉・雁木

▲7八金

△8四歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3二金▲7八金△8四歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3二金▲7八金△8四歩
 ▲7八金は呼吸を合わせた手。手堅いが、後手が振り飛車も指す場合は少し選びにくい。
 対して△8四歩と突くのは、一手損角換わりか横歩取りか、まだ態度を明らかにしない手。7手目は▲2五歩が大多数。

【▲2五歩】

 ▲7六歩△3四歩▲2六歩△3二金▲2五歩△8四歩から▲7八金と上がった形と同形。

【▲6六歩】

 矢倉にも出来る。後手の狙いを外す順。
 △3二金と上がっているので、引き角で8筋の歩交換を狙う△8五歩~△3二銀~△3一角の最短手順が消えている。そのため後手は8筋交換に行くより、△3三角~△5一角~△8四角の三手角や、右四間飛車を狙うことが多い。

【▲6八銀】

 矢倉や角換わりに変化する手。
  • (1)△4二銀には
    • (a)▲6六歩(▲7七銀)で矢倉、
    • または
      (b)▲2二角成△同金▲3八銀で角換わりという寸法。
  • (2)△8八角成▲同金なら角換わり。後手は腰掛け銀を目指し、先手に▲7八金と戻す手が入ると考えれば手損ではなくなる。

一手損角換わり、横歩取り、相掛かり、矢倉

角換わり 横歩取り 相掛かり 矢倉・雁木

△8八角成

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3二金▲7八金△8八角成

 ▲8八同銀△2二銀で、飛車先不突の一手損角換わり。△8四歩と突いた形より、先手の急戦に対して飛車を振る形にしやすい。

一手損角換わり

角換わり

△3三角

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3二金▲7八金△3三角

 ▲3三角成を誘っている。先手が▲2五歩を突いていないこの局面ではほとんど△同桂であるが、△同金もないとはいえない。▲3三角成△同桂からの後手は、立石流四間飛車や、△2二銀から菊水矢倉・銀冠を目指す。
 先手が▲6六歩や▲4八銀で角交換を自重すると、矢倉や角換わりの可能性も生じる。

対抗形、居飛車力戦、矢倉、角換わり

対抗形 居飛車力戦 矢倉・雁木 角換わり

△4四歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3二金▲7八金△4四歩

 一手損角換わりに備えた5手目▲7八金を見て、後手が矢倉に変化する手順。
 以下▲2五歩△3三角を決めれば無理矢理矢倉に進む。5手目▲7八金が▲7八銀~▲5六歩~▲7九角を消しているため、「飛車先を交換するには▲7七角~▲6八角か▲6六角~▲5七角で、角を動かす手がいつもより1手多いでしょ」という主張の作戦。他、△3二金型に構える振り飛車(ツノ銀とか)にもなる可能性はある。

矢倉、居飛車力戦、対抗形

矢倉・雁木 居飛車力戦 対抗形

△7四歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3二金▲7八金△7四歩

 2009年にプロ棋士となった澤田真吾が得意とする指し方で、澤田流と呼ばれている。詳細は2手目△7四歩の項を参照。

居飛車力戦

居飛車力戦

△9四歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3二金▲7八金△9四歩

 △9四歩は7~8筋に囲った際に玉が広い意味があり、振り飛車を見据えている。
  • (1)▲2五歩には、
    • (a)△8八角成▲同銀と角交換し、
      • (ア)△2二銀なら普通の一手損角換わりだが、
      • (イ)△3二金として阪田流向かい飛車に変化するアイディアも2010年になって現れた。
    • (b)△3三角と上がっておき、▲3三同角成には当然△同金とするのが狙いの一つ。
       この進行を見据えて、将来玉を囲うほうの端を伸ばしておくというわけ。4手目△3二金から▲2五歩△3三角▲同角成△同金の順での阪田流より、この形のほうが後手は得をしている(先手は▲7八金でやや囲いづらい、後手は玉が広い)というのが主張である。
  • もっとも、先手には▲2五歩を保留して
    (2)▲9六歩や、
  • (3)▲6六歩のような選択肢もある。そのときどうするかということを後手は考えておく必要がある。

一手損角換わり、阪田流向かい飛車、対抗形、居飛車力戦、矢倉

角換わり 対抗形 居飛車力戦 矢倉・雁木

▲6六歩

△4二銀

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3二金▲6六歩△4二銀

 先手が一手損角換わりを避けた順。
 この出だしから矢倉にするのは、通常の矢倉の出だしと比べて、先手が飛車先を突き後手が飛車先不突(通常と逆)なので、多少後手が得しているとされていた。しかし、飛車先を突いて早囲いを狙う藤井流矢倉が登場したため、見直されている出だしである。
 矢倉なら、後手が右四間の急戦を仕掛けることが多い。他に後手振り飛車はもちろん、先手の陽動振り飛車も考えられる。

矢倉、対抗形

矢倉・雁木 対抗形
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c. △4四歩 (後手振り飛車模様)

▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩
(KIFファイルのダウンロード)

 角道を止める。基本的には後手振り飛車模様だが、後手が居飛車党であれば矢倉を志向していると考えられる。
 現在は居飛車・振り飛車共に角交換する将棋が流行しているため、この出だしは減少傾向にある。

 5手目はほとんど、▲2五歩と▲4八銀の比較に尽きる。
 ▲2五歩△3三角を決めれば、矢倉になった際に後手を無理矢理矢倉系の将棋に限定できる。ただし、後手に向かい飛車の選択肢を与えてしまう。
 ただ▲4八銀と上がれば、向かい飛車を誘発することはない。だが、後手が居飛車党だった場合は△4二銀で飛車先不突矢倉を指される可能性がある。

 基本的には「相手の顔を見て指す」。つまり、相手が居飛車党であればスムーズに矢倉を指されないよう▲2五歩△3三角を決め、振り飛車党であれば向かい飛車の変化を与えないよう単に▲4八銀と上がる。
 ただ、プロ同士の対局は事前に相手がわかっているため、その相手が何を指すのか調べようもあるが、アマチュア同士やネットの対局では自ずと限界がある。居飛車党であっても、裏芸で振り飛車を指す人だっている。結局、最終的な判断はそのときの気分次第といえる。

4手目

5手目

6手目

戦型

△4四歩

▲2五歩

△3三角

▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲2五歩△3三角

 ▲2五歩△3三角の交換は後手の矢倉囲いを組みづらくする意味がある。しかし同時に向かい飛車を選択される可能性も作っている。相手によって使い分けたいが、相手が知れているプロの対局ならともかく、ネット将棋では難しい。
 7手目は▲4八銀が大多数だが、どうしても矢倉にされるのは嫌な場合、▲5六歩もある。
▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲2五歩△3三角▲4八銀

【▲4八銀 - ①後手居飛車】

 後手が居飛車にする場合は、▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩▲6六歩の先手番と似た指し方になる。
  • (1)△8四歩▲7八銀△8五歩が後手無理矢理矢倉。先手は▲7七銀か▲7七角で飛車先を受ける。
    • (a)▲7七銀には、△2二銀▲5六歩△4二角▲7九角△3三銀で矢倉に組める。
    • (b)▲7七角にも、△2二銀▲5六歩△3二金▲6八角△4二角と進める。
      • (ア)▲2四歩△同歩▲同角には、△同角▲同飛に△8六歩で、後手も飛車先を交換できる。
      • (イ)▲7七銀と自重すれば△3三銀で矢倉に組める。プロでは田中寅彦が得意とする出だし。
  • (2)△5二金右も矢倉系の将棋に進む。
     ただし、先手は▲5六歩△4三金▲7八銀△2二銀に▲7九角で、最短に進めれば後手の矢倉を阻止できる。以下△3二金▲7七銀△4二角には▲2四歩△同歩▲同角。
    • そこで後手は、
      (a)△同角▲同飛△2三銀▲2八飛△2四歩の銀冠か、
    • (b)△3三桂の菊水矢倉を選択する。▲2四歩のタイミングは、手得を狙うのなら角引きを待ってから、菊水矢倉にされるのが嫌なら角を引く前に敢行する。

【▲4八銀 - ②後手振り飛車】

  • (1)△2二飛は、▲2五歩△3三角の結果生じた向かい飛車の変化。
    • 先手は駒組みに少し注意が必要。例えば、
      (a)▲5六歩と突き、△4二銀に▲6八玉と上がると、すかさず△2四歩▲同歩△同角と仕掛けられてしまう。
      • △2四同角は王手なので、
        (ア)▲7八玉とかわすと、△7九角成(王手)▲同金△2八飛成で飛車を素抜かれ試合終了。実は▲7八玉は素抜きに加えて銀損するので一番最悪の手なのだが、玉を避けるまたは合駒をする手全てに素抜きの筋がある。
      • (イ)▲2四同飛△同飛▲4四角△2九飛成▲3九金△1九竜▲1一角成と指すほうが飛車を素抜かれるよりマシだが、先手が悪いことに変わりはない。
    • したがって、先手は▲5六歩より先に
      (b)▲6八玉△4二銀▲7八玉と指すのが基本。
  • (2)△4二飛は四間飛車、△3二飛は三間飛車、△5二飛は中飛車。

【▲4八銀に△3二銀】

 8手目△3二銀は、どちらかというと振り飛車の気が強い手。
 それは先手も心得ており、
  • (1)▲6八玉と上がることが多い。
    • (a)△4二飛ならわかりやすく、普通の四間飛車である。
    • しかしここから居飛車も十分考えられ、例えば
      (b)△8四歩▲7八銀△8五歩▲7七銀△4二角▲7八玉△3三銀なら後手無理矢理矢倉だ。
    • (c)△4三銀は、まだ居飛車か振り飛車か決まっていないことを駆け引きの材料にする指し方。▲7八玉と寄った手に、
      • (ア)△2二飛などと飛車を振れば対抗形、
      • (イ)△6二銀なら居飛車系の将棋で、右玉や雁木、他に△7四歩~△7三銀~△6四銀のような力戦も考えられる。
    • 更には、△4三銀や△8四歩と指す前に
      (d)△9四歩や
    • (e)△5四歩と指し、上記の戦型選択を先延ばしにする手もある。これらの指し方は、南芳一が多用している。
  • 後手の居飛車を警戒するなら、
    (2)▲5六歩とする。
    • (a)△8四歩なら▲6八銀としておき、先手は一段玉で戦う含みがある。
    • (b)△4三銀には▲6八玉で、
      • (ア)△2二飛など飛車を振れば▲7八玉、
      • (イ)△6二銀なら▲5八金右・▲7八銀・▲7八玉の中から選べるというわけだ。

▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲2五歩△3三角▲5六歩

【▲5六歩 - 無理矢理矢倉封じ】

 ▲5六歩(図)は、▲4八銀をも省略して後手無理矢理矢倉を警戒した手である。△4二飛や△3二銀の変化は大差ないので割愛。
  • (1)△8四歩▲7八銀△8五歩で無理矢理矢倉を狙うのは、▲7七銀△2二銀▲7九角で、△4二角~△3三銀が間に合わないため矢倉を阻止できる。
     それでも△4二角と引くと、▲2四歩△同歩▲同角△同角▲同飛△5七角の変化はあるが、▲2八飛△8四角成に▲1五角があり後手苦しい。
  • ただ、▲5六歩を先にした場合は
    (2)△2二飛を覚悟しなければならない。
    • (a)▲4八銀と上がり、△4二銀に
      • (ア)▲6八玉と指すのは最悪で、△2四歩▲同歩△同角が王手になってしまう。以下、▲7八玉は△7九角成▲同金△2八飛成で飛車を素抜かれる。▲2四同飛△同飛とするほうがマシだが、それでも後手の飛車成りが受からない。
      • したがって先手は玉を動かす前に
        (イ)▲4六歩と突いて、△2四歩▲同歩△同角が王手にならないようにするのが無難だが、妥協した感じがある。
    • さて、そもそも▲4八銀と上がるから飛車が浮いて素抜きの筋が生じる。そこで先手は単に
      (b)▲6八玉と上がるのが突っ張った手。「△2四歩とやって来い」という手だ。
      • (ア)△2四歩と仕掛けると、以下▲2四同歩△同角(王手)▲同飛△同飛▲1五角△2七飛打▲2八歩△2五飛引成▲2四角△同龍▲4四角△3三角▲同角成△同桂が一例(2009年7月棋王戦本戦T▲羽生善治△畠山成幸)。先手は一歩得、後手は竜を作ったのが主張だ。
      • (イ)△6二玉は仕掛けを見送った手で、以下▲7八玉から駒組みになる。

対抗形、矢倉(無理矢理)、雁木、居飛車力戦

対抗形 矢倉・雁木 居飛車力戦

△3二銀

▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲2五歩△3二銀

▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲2五歩△3二銀
 △3二銀(図)は、先手に飛車先交換を許す、ちょっとひねった手。
  • (1)▲2四歩△同歩▲同飛には△3三角と上がる。
    • (a)▲3四飛なら△4三銀▲3六飛△2二飛▲2八歩で、一歩損ながら先手の形がおかしいことを主張する。
    • (b)▲2八飛なら
  • (2)▲4八銀など飛車先交換を自重した場合、後手は△3三銀で矢倉に組む権利を得る。

対抗形(後手向かい飛車)、銀冠、矢倉

対抗形 矢倉・雁木

△3二金

▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲2五歩△3二金

 ▲7六歩△3四歩▲2六歩△3二金▲2五歩△4四歩と同じ局面。

▲4八銀

△4二銀

▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲4八銀△4二銀

▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲4八銀△4二銀
 ▲2五歩△3三角を決めず▲4八銀だと、後手が△4二銀(図)と指せるため、それから▲2五歩には△3三銀でスムーズに矢倉を作れる。これは後手が飛車先不突なのでトッププロ的には不満らしく、後手が居飛車党だとわかっていたらほぼ▲2五歩△3三角は決めるという。渡辺明は「▲2五歩と突かずに▲4八銀と上がって△4二銀から矢倉にされると、▲2五歩を決めなかったことを後悔して心理面で不利になるから」と『イメージと読みの将棋観』で語っている。
 ただ、この選択はすぐの優劣や損得の問題ではない部分で、相手によるとか、好みとしかいいようがない。まだ振り飛車も考えられるので油断は禁物。

矢倉、対抗形

矢倉・雁木 対抗形

△3二銀

▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲4八銀△3二銀

▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲4八銀△3二銀
 △3二銀は、△4二銀よりもやや対抗形の気が強い手と言える。△4二銀では次に銀を動かさないと中飛車にしかできないが、△3二銀なら四間飛車にも出来る。
 かつては、飛車を振るつもりでいても、この局面ではまだ居飛車の含みがあることを見せて、△3二銀と上がってから飛車を振るものだといわれていた。それはそれで、6手目ではまだ先手に手の内を明かさない(先手の立場に立てば、7手目は振り飛車にも矢倉にも対応できる手を要求される)、立派な手だ。
 しかしその一方、△3二銀~△4二飛と進めた局面と、6手目に△4二飛とした局面を比べると、後手は四間飛車の範疇において「△3一銀型の四間飛車」という選択肢を失っている。つまり、最初から四間飛車を指すつもりなら、6手目は飛車を振ったほうが作戦の幅は広い。ただ、結局は合流したりするなど、必ず生きるとは限らない小さな工夫の話である。よく伝わらないならば、忘れていただいて構わない。

対抗形、矢倉

対抗形 矢倉・雁木

△8四歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲4八銀△8四歩

 5手目▲4八銀に対し、居飛車を目指す後手が6手目に指す手は、次に△3三銀と上がってスムーズに矢倉に組めるように△4二銀や△3二銀が大多数である。△8四歩だと▲2五歩△3三角を決められて無理矢理矢倉系(無理矢理矢倉・銀冠・菊水矢倉)や雁木になるからだが、あらかじめそれを目指すのであれば、△8四歩でも構わない。

矢倉、居飛車力戦

矢倉・雁木 居飛車力戦

△4二飛(△3二飛・△5二飛)

▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲4八銀△4二飛(△3二飛、△5二飛)

▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲4八銀△4二飛
 ▲2五歩△3三角を決めると、相手に向かい飛車の選択肢を与えてしまう。したがって後手が振り飛車党だと最初から分かっている場合、5手目は▲4八銀と上がることが普通だ。そこで△4二飛(図)と振れば、四間飛車の出だしとしてはごくごく一般的な出だし。
 他に飛車を振るなら△3二飛の三間飛車、△5二飛の中飛車。△3二飛の場合は、すぐ▲2五歩△3三角としてしまう順が多い。石田流に組む変化を与えないためだ。

対抗形

対抗形

▲6八銀

△4二銀

▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲6八銀△4二銀

 ▲6八銀は考えづらい手だが、たまに指す人がいる。後手が居飛車にしてくれるなら、飛車先を突いていること以外は問題なく、矢倉に出来る。
 後手が矢倉を目指すなら次の▲2五歩を△3三銀で受けられるようにする△4二銀だが、まだ振り飛車の可能性もある。

矢倉、対抗形

矢倉・雁木 対抗形

△4二飛(△3二飛・△5二飛)

▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲6八銀△4二飛(△3二飛、△5二飛)

 ▲6八銀の問題は振り飛車にされたとき。銀が邪魔で囲いづらく、さっさと銀を5七に行かせるか、▲7七銀から矢倉引き角にするか。どちらにしろ最近の流行に反し、玉を固めにくい将棋になる。

対抗形

対抗形
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d. △5四歩 (後手ゴキゲン中飛車)

▲7六歩△3四歩▲2六歩△5四歩
(KIFファイルのダウンロード)

 後手ゴキゲン中飛車の出だし。
 現在では、振り飛車の主流戦法となった感さえある。

 ゴキゲン中飛車は、角道を閉じずに中飛車に振る戦法である。だが4手目に△5二飛と振ってしまうのは、▲2二角成△同銀▲6五角があるので成立しない。
 そのため4手目は△5四歩と突き、次に△5二飛を狙う。だが5三に空間が出来るため、左図で▲2二角成△同銀(同飛)▲5三角が考えられる。だがこれは△4二角と打ち返して、▲2六歩型のため▲2六角成と出来ず、馬が作れないので成立しない。
 したがって先手の5手目は、▲2五歩か▲4八銀に大別される。▲5六歩はかつて指されていたが、今ではほとんど指されない手である。

 あまりにゴキゲン中飛車が流行したため、この出だしを避ける手順も指される。例えば、初手から▲2六歩△3四歩▲2五歩△3三角としてしまえば、ゴキゲン中飛車でもある程度は形を決めさせることが出来る。また、3手目▲6八玉も指されている。

 ちなみに4手目△5四歩という出だし自体は、実は江戸時代から存在していた。
 当時の4手目△5四歩に対しては、中央の位を重視していた時代だったため先手も▲5六歩と位を維持する将棋が多かった。後手はそこから飛車先を突かないまま△6二銀から相掛かり風に進め、中飛車にしたり、場合によっては飛車先を突く形に戻すという「飛車先不突き相掛かり」とも言うべき指し方が一つの方法であった。有名どころでは、天野宗歩の遠見の角(▲1八角)で知られる1856年御城将棋▲天野宗歩△八代伊藤宗印において、後手の八代宗印がその作戦を指している。

 一方、▲2五歩と突いた場合は△5五歩と位を取る将棋も指されていた。
 以下▲2四歩△同歩▲同飛△3二金と飛車先を交換。そこから▲3四飛と横歩を取る形は「対中飛車型横歩取り」と呼ばれるが、江戸時代から存在しており、昭和初期に流行した。有名なものでは、木村義雄が名人位を失った1947年の第6期名人戦の第7局千日手指し直し局▲塚田正夫△木村義雄がこの形である。

4手目

5手目

6手目

戦型

△5四歩

▲2二角成

△同銀

▲7六歩△3四歩▲2六歩△5四歩▲2二角成△同銀

 先手から角交換して▲5三角と打ち込まれたときの対応は、ゴキゲン中飛車を指す上で、まず最低限の基礎知識である。
  • (1)▲5三角は馬を作ろうとする手だが、2六の地点には先手の歩がいるため▲2六角成とは出来ず、5三の角が成る場所は7五か8六しかないが、どちらも△4二角と打ち返すことで受かる。
  • したがって▲5三角の筋は成立せず、
    (2)▲8八銀や
  • (3)▲7八銀として駒組みになる。▲2二角成を△同銀と取れば、後手は居飛車で戦う可能性も残せる。

対抗形、角換わり

対抗形 角換わり

△同飛

▲7六歩△3四歩▲2六歩△5四歩▲2二角成△同飛

 相手の手に乗って向かい飛車に出来る点にメリットを見出せば、▲2二角成を△同飛と取る手もある。▲5三角への対応は銀で取った際と同じだ。

対抗形

対抗形

▲2五歩

△5二飛

▲7六歩△3四歩▲2六歩△5四歩▲2五歩△5二飛

▲7六歩△3四歩▲2六歩△5四歩▲2五歩△5二飛
 飛車先を伸ばす▲2五歩に対し、6手目△5二飛(図)が出現したのは1990年代に入ってから。木下浩一、有森浩三の試行錯誤の末、90年代後半に近藤正和が中飛車旋風を巻き起こし、ゴキゲン中飛車と呼ばれるようになった。
 先手の7手目はだいたい▲2四歩、▲2二角成、▲5八金右、▲7八金、▲4八銀の5つ。

【▲2四歩】

 当初は指されたが、今ではほとんど指されない。以下△同歩▲同飛△8八角成▲同銀に、
  • (1)△3三角▲2八飛△2六歩▲7七桂△2二飛か、
  • (2)△2二銀▲2八飛△2七歩▲5八飛(▲1八飛)△3三銀。どちらも後手が指せるとされる。
 そもそも▲2四歩であっさり悪くなるなら、ゴキゲン中飛車は流行らない。

【▲2二角成:丸山ワクチン】

 ▲2二角成△同銀と角交換するのが、俗に丸山ワクチンと呼ばれる手。
  • (1)▲6八玉から囲いに行くのだが、△3三角と打つ筋が発見されて廃れている。
    • (a)▲8八角と受ければ△5五歩と突いて5筋位取り型に出来る。
    • (b)▲7七桂と上がって受けるのは、△7四歩で桂頭を狙う筋が厳しい。
    • (c)▲6六歩△同角▲7七桂と近づけて受ける工夫も指された。
  • △3三角の筋を警戒するならば▲6八玉に代えて
    (2)▲8八銀が無難だが、堅く囲える新・丸山ワクチンが出現したためあまり指されなくなった。
  • (3)▲7八銀が、その新・丸山ワクチン。
     堅い左美濃に組むのが狙いでよく指されたが、△6二玉▲4八銀に△5五歩で5筋交換を狙う手法が現れた。これには▲6五角が絶好のようだが、△3二金▲8三角成△5六歩▲同馬△同飛▲同歩△8八角と進める順が発見された。これは先手香損が避けられない。
  • そこで現れたのが佐藤康光考案の
    (4)▲9六歩で、佐藤流(丸山ワクチン+佐藤流)と呼ばれる。▲9六歩を受けなければ突き越すのが狙いのひとつ。
    • (a)△9四歩と受けるのが一般的だが、そこで▲7八銀と上がる。
      • (ア)△6二玉▲4八銀に、
        • △5五歩なら、新・丸山ワクチンと同じように▲6五角と打つ。以下△3二金▲8三角成△5六歩▲同馬△8八角に、▲9七香と逃げられるというのが▲9六歩の効果だ。
        • すぐ△5五歩では▲6五角~▲8三角成が成立してしまったので、後手は
          △7二玉と玉を寄ってから△5五歩と突くことになる。それには▲4六歩と突き、△5五歩に▲4七銀で形よく5筋を受けることが出来る。
      • (ア)の変化を踏まえ、後手には
        (イ)△7二金と上がる手も現れた。▲4八銀に△5五歩と突き、何が何でも△5六歩▲同歩△同飛が狙いだ。
    • 後手が△9四歩と受けないとすれば、
      (b)△6二玉▲9五歩△7二玉と、端を突き越させて指すことになる。
    佐藤流の「▲9七香と逃げる筋を作るために▲9六歩と突き、後手が受けなければ▲9五歩と突き越す」思想は、角交換振り飛車系の将棋の下地として応用されている。

【▲5八金右:超急戦志向】

 上部に備えた手。普通の手のようで、全くそうではない。
  • (1)△5五歩に
    • (a)▲4八銀なら△3三角で飛車先が形よく受かる。
    • それは許せないと
      (b)▲2四歩と行けば△同歩▲同飛△5六歩で、▲5八金右超急戦といわれる大決戦が待ち構えている。以下▲5六同歩△8八角成▲同銀△3三角▲2一飛成△8八角成▲5五桂△6二玉・・・と進む。
    ▲5八金右超急戦は、一局の結果によってコロコロと結論が入れ替わる大変な形であり、ともすれば事前研究だけで勝敗が決まってしまう恐れもあるため、
  • (2)△6二玉と上がって避ける棋士も多い。

【▲4八銀】

 ▲4八銀は▲5八金右と同様、上部に備えた手。後手は△5五歩と突く。
  • (1)▲2四歩は、△同歩▲同飛△5六歩▲同歩△8八角成▲同銀△3三角▲2一飛成△8八角成▲5五桂△6二玉と、▲5八金右超急戦と同じように進んだとき、▲4八銀のせいで先手玉の右側が壁形のため指しきれない。したがって、
  • (2)▲6八玉△3三角から囲いあう将棋になる。
    • 2010年代になって、ここで▲3六歩と突く手が現れた。以下、
      (a)△6二玉▲3七銀△7二玉▲4六銀や、
    • (b)△4二銀▲3七銀△5三銀▲4六銀△4四銀が一例の、玉を7八に寄るより先に銀を繰り出す、『超速』▲3七銀戦法が流行している。
    • ちなみに▲3六歩に対して
      (c)△5六歩と仕掛けるのは、▲同歩△同飛▲3七銀△8八角成▲同銀△5七角▲7八玉△8四角成▲4六銀△7六飛▲7七銀△7四飛▲2四歩で先手優勢。

【▲7八金】

 ▲7八金は8八の角に紐をつけて置き、確実に▲2四歩△同歩▲同飛を狙う手だ。
  • (1)△5五歩と位を取ると、▲2四歩△同歩▲同飛と行ける。
    • 以下、
      (a)△5六歩▲同歩△同飛▲6九玉△3二金か、
    • (b)△3二金。
  • (2)△6二玉が主流で、
    • (a)▲2四歩なら△同歩▲同飛△8八角成▲同銀△2二飛と飛車をぶつける。
    • この変化は先手に負担が多いため、
      (b)▲6九玉が多い。以下△7二玉▲7七角△8二玉▲6八銀で玉を囲うのが一例。

【▲5六歩】

 位取りを拒否しているが、△8八角成▲同銀△5七角で、後手のみ馬を作る権利が生じる。それでも良ければという手だが、ほとんど指されない。

対抗形(後手中飛車)

対抗形

△5五歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△5四歩▲2五歩△5五歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△5四歩▲2五歩△5五歩
 1990年ごろまでの4手目△5四歩と言うと、6手目は△5五歩としていた。
 以下▲2四歩△同歩▲同飛が自然で、そこで
  • (1)△3二金とする将棋が有名だった。
    • 先手はそこで、
      (a)▲2八飛と引けば無難。
    • (b)▲3四飛と横歩を取るのが突っ張った手。後手は△5二飛で中飛車にする。この形は「対中飛車型横歩取り」と呼ばれており、江戸時代から存在していた形である。
      • (ア)▲3六飛なら△4四角で飛車の動きを窮屈にしてから駒組みに戻る。
      • (イ)▲2四飛は先手が突っ張る手。次にすんなり▲2八飛と戻られてしまうと持久戦になり一歩損が響いてくるので、後手は△5六歩で決戦する。先手は▲5六同歩と取る一手だが、
        • △8八角成▲同銀△3三角と打ち、以下▲2一飛成△8八角成▲7七角△8九馬▲1一角成△5七桂▲5八金左△5六飛が、昭和初期に流行した形である。▲加藤治郎△木村義雄の朝日番付戦三番勝負は3局全て、また塚田新名人誕生の一局である▲塚田正夫△木村義雄の第6期名人戦第7局千日手指し直し局もこの形だ。
           上記の将棋以降は▲1一角成に△5七桂ではなく△4四桂と打つ改良手が出現したが、アマ強豪の研究や▲山田道美△内藤國雄戦以降先手良しが定説となり、対中飛車型横歩取りはほとんど指されなくなった。
        • しかし昭和50年代になって、▲5六同歩に△同飛と飛車を走る新手が出現。▲5八歩と低く受ければ△6二玉から囲って戦う。しかし、▲5八金右が対策の決定版とされている。次に▲5七歩と打つのが狙いで、それを嫌って△5七歩▲6八金寄△8八角成▲同銀△3三角と動くが、▲2一飛成△8八角成に▲4五角で先手良し。
  • (2)△5六歩▲同歩△8八角成▲同銀△2二飛とする将棋も、現役晩年の米長邦雄が数局指している。

対抗形、居飛車力戦

対抗形 居飛車力戦

△3二飛

▲7六歩△3四歩▲2六歩△5四歩▲2五歩△3二飛

▲7六歩△3四歩▲2六歩△5四歩▲2五歩△3二飛
 4手目△5四歩でゴキゲン中飛車と思いきや、△3二飛(図)と三間飛車にする手を、菅井竜也が2017年から指している。菅井流の他に、「ゴキゲン三間飛車」「うっかり三間飛車」などと呼ばれているが、今後どうなるか。基本的には角交換振り飛車を目指す作戦だ。

【▲2四歩】

 ここから▲2四歩に対しては、ゴキゲン中飛車同様、△同歩▲同飛△3三角で対応する。

【▲2二角成△同銀▲5三角】

 6手目△3二飛の場合、▲2二角成△同銀▲5三角という、5三の空間に角を打つ筋がある。2六と8六両方に成れるため角成りを防ぐ手はなく、後手は反撃することになる。
 まず△3五歩と突いて、▲2六角成の筋を消す。先手はここで角を成らないと、△4二角でせっかく打った角を消されてしまうため、▲8六角成(または▲7五角成)とする。
 そこで後手は、
  • (1)△5五角▲7七桂△3六歩か、
  • (2)△3六歩▲同歩△5五角で反撃する。

【▲6八玉】

 角を打たない手としては▲6八玉がある。菅井流はそこで、
  • (1)△8八角成▲同銀△4二銀として、角交換振り飛車を目指す。
    • (a)▲2四歩には、△同歩▲同飛△3三角▲2一飛成△8八角成▲7七桂に△3一飛と竜に当てて、香を取れる権利が残る後手が指せる。
    • (b)▲7八玉には△2二飛と飛車を振り直して▲2四歩を受け、以下は駒組みになっていく。
  • (2)△3五歩と伸ばして三間飛車を維持するのは、▲2四歩△同歩▲同飛△8八角成▲同銀△3三角に▲5四飛と王手で逃げられてしまうため後手が悪い。

対抗形

対抗形

▲4八銀

△5五歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△5四歩▲4八銀△5五歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△5四歩▲4八銀△5五歩
 ゴキゲン中飛車は、▲4八銀なら△5五歩(図)と位を取るのが基本。もっとも、▲4八銀と上がった先手は元々位を取らせて指させる方針である。
 以下▲6八玉△5二飛で、先手の作戦は以下の3つが多い。
  • (1)▲2五歩△3三角を決めれば、5手目から▲2五歩△5二飛▲4八銀△5五歩▲6八玉△3三角と進めた局面と同形。したがって、『超速』▲3七銀急戦を目指せる。
  • (2)舟囲いを完成させ、▲4六歩~▲4七銀~▲3六銀と銀を斜めに進出させる▲4七銀急戦。場合によっては2五に銀を出る含みを残すため、▲2五歩を決めずに指す。
  • (3)▲5八金右~▲6六歩~▲6七金から穴熊を目指す。
 他、後手5筋位取りの相居飛車になる可能性もある。

対抗形(後手中飛車)、居飛車力戦

対抗形 居飛車力戦

△5二飛

▲7六歩△3四歩▲2六歩△5四歩▲4八銀△5二飛

 5筋の位取りより先に飛車を振る順。こうすると居飛車から▲5六歩と突く手もあるが実戦例は少なく、結局振り飛車から△5五歩と位を取ることになる将棋が多い。

対抗形(後手中飛車)

対抗形

△8八角成

▲7六歩△3四歩▲2六歩△5四歩▲4八銀△8八角成

▲7六歩△3四歩▲2六歩△5四歩▲4八銀△8八角成▲同銀△2二飛
 角交換振り飛車の一種で、▲4八銀に△8八角成▲同銀と角交換して△2二飛(図)と進める。▲8八同銀の形が居飛穴には組みづらいこと、▲6五角の筋が軽減されていることが後手の主張だ。
  • (1)▲6八玉や、
  • (2)▲7七銀から穏便に駒組みを進めるのなら、後手も△4二銀と上がって、お互い角を持ち合ったまま駒組みすることになる。
  • (3)▲7七角と打つ手もあり、これに対しては後手の応手が二通り。
    • (a)△3三角と合わせておくのは穏便で、角を向かい合ったまま駒組みになる。
    • (b)△1二飛と飛車を逃げて、持ち角を温存する手もある。以下▲2五歩△2二銀▲2四歩△同歩▲同飛△3二金と、飛車を串カツ囲いにする驚愕の手順が一例。ここを耐えれば持ち角が生きるという指し方だ。

対抗形(角交換振り飛車)

対抗形

△3三角

▲7六歩△3四歩▲2六歩△5四歩▲4八銀△3三角

 4手目△3三角戦法に▲4八銀△5四歩の交換が入っている形。
 この交換のおかげで、△3三角戦法に頻出する
  • (1)▲3三角成△同桂▲6五角の筋がない。
  • (2)▲3三角成△同桂▲5三角も無効。△5五角と打って香取りが受からず後手良し。
  • したがって先手は、
    (3)▲6八玉から駒組みを進めることになるが、後手は△2二飛と角道オープン型の向かい飛車に組める。

対抗形

対抗形

▲5六歩

△6二銀

▲7六歩△3四歩▲2六歩△5四歩▲5六歩△6二銀

 5手目▲5六歩は、5筋位取りを拒否した形。この手順の実戦例は、中央の位が重視され、△5四歩には▲5六歩と受けるものだという認識があった江戸~昭和初期の将棋に偏っている。有名な将棋では、「宗歩の角」で知られる1856年の御城将棋▲天野宗歩△八代伊藤宗印がこの出だしから始まっている。
 その時代の6手目は△6二銀が多数である。以下、
  • (1)▲2五歩△3二金▲4八銀に、
    • (a)△8四歩▲7八金△8五歩▲2四歩△同歩▲同飛で、相掛かり5筋対抗形(5筋を突き合った相掛かり)の展開が一例。
    • (b)△5三銀~△6四銀を急ぐ指し方もある。
  • △8八角成~△5七角の筋を警戒するのであれば、
    (2)▲4八銀が無難。後で▲2五歩を入れれば、あまり大差ない進行である。

相掛かり、居飛車力戦

相掛かり 居飛車力戦

△8八角成

▲7六歩△3四歩▲2六歩△5四歩▲5六歩△8八角成

 ▲5六歩は後手の位取りを拒否しているが、その一方、後手に△8八角成▲同銀△5七角で馬を作る権利が生じる。
 先手は、
  • (1)▲5三角で双方馬を作る展開にするか、
  • (2)▲6八金や▲4八銀のように馬を作らせ、角を手持ちにしていることを主張するか。もっとも、後手も△8八角成▲同銀のあと、角を打ち込まない権利はある。

居飛車力戦、対抗形

居飛車力戦 対抗形

△8四歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△5四歩▲5六歩△8四歩

  • (1)▲2五歩△8五歩▲7八金△3二金ならば、5筋を突き合った「横歩取り」の出だし。
  • (2)▲2二角成△同銀▲5三角は、▲2六歩型のため△4二角で受かる。

横歩取り、相掛かり、居飛車力戦

横歩取り 相掛かり 居飛車力戦

△5二飛

▲7六歩△3四歩▲2六歩△5四歩▲5六歩△5二飛

 馬作りを目指さず中飛車を目指す順。▲2五歩には△6二玉と上がっておき、▲2四歩△同歩▲同飛には△8八角成▲同銀△3三角または△2二飛を準備している。▲5六歩を突いているため、先手から▲2四歩△同歩▲同飛も勇気が必要だ。

対抗形、居飛車力戦

対抗形 居飛車力戦

△4四歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△5四歩▲5六歩△4四歩

 角道を止めれば穏便、または無難。後手は普通の振り飛車や、無理矢理矢倉が考えられる。

対抗形、矢倉、居飛車力戦

対抗形 矢倉・雁木 居飛車力戦
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e. △4二飛 (角交換四間飛車)

▲7六歩△3四歩▲2六歩△4二飛
(KIFファイルのダウンロード)

 4手目△4二飛は、2010年代に入って流行した、角交換四間飛車の出だし。
 もっとも角交換しなかったり、後で△4四歩と止めて普通の四間飛車に戻すこともできる。つまり『四間飛車』というカテゴリーにおいては、△4四歩さえも突かない方が作戦の幅が広い、という見方が出来る。

 ここからは、先手の▲6八玉を見て△8八角成▲同銀としてしまう角交換四間飛車が多い。
 また、角交換を保留して片美濃まで囲い、それから△3五歩~△3二飛と飛車を振り直して石田流に構える4→3戦法も有力。

角交換四間飛車の歩み

 プロ棋界における角交換四間飛車は、2001年ごろから木下浩一がよく指していた。また『将棋世界』2012年10月号の『突き抜ける!現代将棋』では、昔から瀬戸博晴が指していたと書かれている。(後述の植山が指した経緯も、観戦記では木下経由、勝又説では瀬戸経由となっている)
 しかしポイントとなった対局は、2003年11月の王位戦予選▲三浦弘行△植山悦行戦とされる。この対局で、木下との対戦経験を踏まえて植山が角交換四間飛車を採用、A級の三浦を破った。そしてその三浦が2003年12月の朝日OP▲井上慶太戦で指して勝ったところから、世間にもその作戦の優秀性が知られだした。
 一方、アマ棋界においては東京大学将棋部が発祥の『レグスペ』(『白色レグホーンスペシャル』の略)という、木下・植山・三浦が指したものと同様の角交換二手損振り飛車穴熊が存在していた。『突き抜ける!現代将棋』では、勝又が自身の学生時代に指されたことがあるとして、角交換四間飛車はアマ発祥の戦法だとしている。

 初期は▲6八玉を見て△8八角成▲同銀と角交換してしまう手順が定番だった。角交換は手損でも▲8八同銀と取らせることで、居飛車穴熊に組みづらいだろうというのが振り飛車側の主張である。
 その点に可能性を見出したのか、出現当初は千日手狙いが主だった本戦法に対し「後手から角交換という態度はあまりにも軟弱でイヤだね」(単行本『イメージと読みの将棋観2』、初出は『将棋世界』2007年7月号)と語っていた藤井猛が参入する。

 藤井は『△2二飛~△2四歩の逆棒銀』を主軸に、『▲2五歩と伸ばしてこないので△2四歩~△3五歩~△3四銀型を作る』『そもそも△2二飛と回らず△4四歩と突く』などの筋と、『穴熊』『片美濃囲い』果ては『△7二玉型』を組み合わせ、そして後手番どころか先手番でも指し…、と、数々の試行錯誤を繰り返した。
 結果に繋がらず、順位戦では2010年度、11年度と連続降級を食らうという試練もあったが、2012年度には結果として現れ、王位戦七番勝負に登場し、1-4で敗退するも角交換四間飛車の優秀性を見せつけ、B2順位戦では昇級。年度末には自身二度目の升田幸三賞を受賞した。

 また、4手目△3五歩から△4二飛と途中下車、玉を囲ってから△3二飛と振り直す3・4・3戦法を応用し、4手目△4二飛で玉を囲ってから△3五歩~△3二飛で石田流へ組み替える4→3戦法が出現。これで4手目△4二飛の幅が広がり、それまでゴキゲン中飛車に流れていた振り飛車党も4手目△4二飛を後手番の選択肢に入れられるようになったことが、流行した一因といえる。

4手目

5手目

6手目

戦型

△4二飛

▲6八玉(▲4八銀)

△8八角成

▲7六歩△3四歩▲2六歩△4二飛▲6八玉△8八角成

▲7六歩△3四歩▲2六歩△4二飛▲6八玉△8八角成
 ▲6八玉には△8八角成(図)▲同銀と角交換することで居飛穴に組ませない、角交換四間飛車だ。
 ▲6八玉を見て角交換するのがポイントで、▲8八銀の形を強要することで堅く囲いづらくしている。これが例えばもう1手待って居飛車に▲7八玉と寄られると、△8八角成には▲同玉もあるというわけ。
 ちなみに居飛車の5手目は▲6八玉でも▲4八銀でも大差はなく、例えば5手目▲4八銀に△8八角成でも結局▲同銀しかないので、あまり変わらない。  

対抗形(角交換四間飛車)

対抗形

△6二玉

▲7六歩△3四歩▲2六歩△4二飛▲6八玉△6二玉

 上記の通り、穴熊に組ませないためには▲6八玉に△8八角成▲同銀がセット。しかし穴熊に組ませても問題ないと考えている場合、または4→3戦法などを含みに指している場合は、角交換せずに囲いに行く手も考えられる。  

対抗形

対抗形

△4四歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△4二飛▲6八玉△4四歩

 △4四歩と角道を止めれば、普通の四間飛車に戻る。  

対抗形(四間飛車)

対抗形

▲2五歩

△6二玉

▲7六歩△3四歩▲2六歩△4二飛▲2五歩△6二玉

 先手が▲2五歩と飛車先を伸ばして来た際は、△6二玉として、
  • (1)▲2四歩△同歩▲同飛に△8八角成▲同銀から
    • (a)△3三角または
    • (b)△2二銀を用意している。好きなほうを選べばよく、したがって▲2四歩は怖くない。
  • ▲2四歩がダメなので、先手は
    (2)▲6八玉と囲うところ。あとは一番最初の変化と考え方に大差はなく、
    • (a)△8八角成▲同銀としておき角交換四間飛車にする他、
    • (b)△7二玉と囲いを優先し、▲7八玉△8二玉▲4八銀に、
      • (ア)△3三角▲5六歩△3二銀が一例の角道オープン型四間飛車。
      • (イ)△7二銀と美濃囲いにしておき、△3五歩~△3二飛と石田流に転換する4→3戦法や、△4四歩を突いたりなどを選ぶ作戦もある。

対抗形(四間飛車)

対抗形

▲6六歩

△4四歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△4二飛▲6六歩△4四歩

 ▲6六歩は角交換を拒否する手。そちらの得意戦法には付き合いませんという指し方だ。
 △4四歩は飛車先を突く手で、
  • (1)▲4八銀△4五歩となれば後手は飛車先の歩を交換できる。
  • どうしても飛車先交換されるのが嫌ならば、
    (2)▲2五歩△3三角を決めて▲2六飛と受ける筋を作るか、
  • (3)▲5八金右△4五歩▲4八飛か。あとは「飛車先の歩交換はそこまでして防ぎたいものなのか」という話だ。
 この指し方は、▲6六歩と突かれて角交換できなくなるから後手も△4四歩を突く気になるともいえる。なので、5手目は▲4八銀と上がっておき、△6二玉に▲6六歩△4四歩▲5六歩△4五歩▲5七銀という手順のほうが自然な駒組みだ。ただこの手順、6手目に角交換されてしまえば成立しない。

対抗形(四間飛車)

対抗形

△6二玉

▲7六歩△3四歩▲2六歩△4二飛▲6六歩△6二玉

 △6二玉なら▲4八銀と上がり、そこから△4四歩でも▲5六歩△4五歩▲5七銀で4六を受ける手が間に合う。途中で▲2五歩△3三角を決めたほうがいいかどうかは難しい。  

対抗形(四間飛車)

対抗形
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f. △8八角成

▲7六歩△3四歩▲2六歩△8八角成
(KIFファイルのダウンロード)

 4手目にして後手から角交換をする。
 先手は▲8八同銀の一手。▲2六歩を突いていると、さすがに▲同飛とは取りづらい。

 かつては、腕力自慢の人が、後手番で手損だろうがなんだろうが、得意の角換わりや力戦形に持ち込んだりするための手だった。
 しかし2000年代に一手損角換わりが登場して市民権を得ると、トッププロの間でも指されるようになった。4手目で角交換することで、△3二金を保留した駒組みが出来るのが売りだ。ただし、指しているのは丸山忠久、山崎隆之、糸谷哲郎などのスペシャリストがほとんど。こだわりがないと指せない戦法だということでもある。(*)
 更に、この出だしからは角交換振り飛車(主にダイレクト向かい飛車)も指されるようになった。後手は両にらみの作戦も採れるため、先手としては作戦が判明するまでどちらにも対応できる駒組みが必要だ。

 作戦的には、一手損角換わり、角交換振り飛車、後手筋違い角に分かれる。
 このうち後手筋違い角はかなり出現率の低い形なので、ほぼ二択に近い。


 一手損角換わりは、▲2五歩・△8四歩型で角換わりにして、後手が飛車先保留を指すのが基本思想だ。しかし、4手目△8八角成では後手は△3二金を保留できる分、先手もまだ▲2六歩型である。この点に関しては、一手損角換わりにおける先手の主流は棒銀・早繰り銀の急戦形であり、それなら結局▲2五歩と突くことになるため問題ないと考えられている。

4手目

5手目

6手目

戦型

△8八角成

▲同銀

△2二銀

▲7六歩△3四歩▲2六歩△8八角成▲同銀△2二銀

▲7六歩△3四歩▲2六歩△8八角成▲同銀△2二銀
 △2二銀と△4二銀の比較は微妙なところで、仮に7手目が▲2五歩だったらどっちにしろ△3三銀である。
 7・9手目の応手は▲7七銀、▲3八銀/▲4八銀、▲6八玉、▲7八金のどれかがほとんど。ただし▲6八玉と▲7八金は形を決める手なので、相手の棋風・作戦によって使い分けたい。後手の作戦は一手損角換わりか、角交換振り飛車か。便宜上、7手目は▲4八銀として話を進める。

【一手損角換わり】

 一手損角換わりなら、
  • (1)△7二銀から△6四歩~△6三銀や、
  • (2)△3二金。ただし、プロは△3二金を省略して駒組みを進めるために4手目△8八角成と指している。したがってこの段階で△3二金と指すことは少ない。

【角交換四間飛車】

 角交換振り飛車は、四間飛車とダイレクト向かい飛車の2種類に分かれる。
 角交換四間飛車ならば、
  • (1)△4二飛、または
  • (2)△3三銀▲6八玉△4二飛。▲6五角に備えて、4三の地点を受けながら飛車を振る手である。

【ダイレクト向かい飛車】

 △3三銀▲6八玉に△2二飛が、ダイレクト向かい飛車と呼ばれる思い切った作戦。角交換四間飛車は後で△2二飛と振り直すことが多いので、「それなら△4二飛を省略しよう」というのが△2二飛の狙いだ。以下、
  • (1)▲7八玉△6二玉に
    • (a)▲7七銀△7二玉なら後手の言い分が通っており、不満のない展開。
    • (b)▲6五角には△7四歩▲4三角成△6四歩で、先手は馬を助けにくい。
  • ただし、△2二飛には
    (2)▲6五角が生じる。△2二飛を咎めるならこの一手だが、対応策も準備されており、△7四角と打ちかえす。これに▲4三角成か、▲7四同角か。
    • (a)▲4三角成には△5二金右が狙いの一手。これで馬の逃げる位置がないため、▲5二同馬△同金▲7五金で後手の角を殺す。いずれ先手は角を取るので、後手は自陣を乱された代償に、角金を駒台に置き一局。
    • (b)▲7四同角△同歩と角を取る手には、
      • 執拗に▲6五角の筋を狙う
        (ア)▲7五歩△7二飛の進行と、
      • 敵陣を乱したと考え
        (イ)▲4六歩などで駒組みに戻る進行がある。

一手損角換わり、角交換振り飛車

角換わり 対抗形

△4二銀

▲7六歩△3四歩▲2六歩△8八角成▲同銀△4二銀

▲7六歩△3四歩▲2六歩△8八角成▲同銀△4二銀
 △4二銀の場合、銀の使い方は△3三銀に限らない。先手が▲2五歩を突いてこないケースでは、△4四歩~△4三銀や△5四歩~△5三銀と使う手も含みになる。

【▲2五歩】

 ▲2五歩には△3三銀と上がって受ける。これなら△2二銀でも△4二銀でも変わりない。

【▲4八銀】

  • (1)△3三銀と上がるのはごく普通の手で、特段△2二銀との違いは見いだせない。
  • (2)△5四歩と突いたのが▲深浦康市△佐藤康光戦(2013年3月・A級順位戦)。 以下▲2五歩に、佐藤が趣向を見せる。
    • (a)△5三銀と上がったのが趣向。▲7七銀などなら△2二飛と回れる。それを許さない▲2四歩△同歩に、▲同飛は△3三角▲2一飛成△8八角成で、▲4八銀が壁になっていることを狙って勝負する。
    • 深浦は▲2三角を選択し、△2五角に、
      • (ア)▲4一角成△同玉▲2三金と進行した。
      • 他、本譜以外では
        (イ)▲2五同飛△同歩▲3四角成△3二金の進行も考えられる。
    • ▲2五歩には、
      (b)△3三銀と上がれば無難。
      • (ア)▲5三角は、△4四角▲同角成△同歩▲4三角△3二角▲同角成△同金で、馬を作ることはできない。ただし中飛車対策として、手損でも△4四歩を突かせる狙いとしては考えられ、出だしは違うが似た筋がある。
      • (イ)▲6八玉は先手の一番自然な手で、△2二飛の向かい飛車、または△5二飛の中飛車に進む。

【▲6八玉】

 ▲6八玉に対しても△5四歩と突き、▲2五歩に△5三銀と上がった将棋が▲松尾歩△鈴木大介戦(2013年3月・竜王戦)。しかし▲2四歩△同歩▲同飛△3三角▲2一飛成△8八角成に▲7七桂で馬を封じ込め、短手数で先手が勝っている。

一手損角換わり、角交換振り飛車

角換わり 対抗形

△6五角

▲7六歩△3四歩▲2六歩△8八角成▲同銀△6五角

 後手筋違い角。先手筋違い角が苦しいのに後手では尚更であり、現在のところプロでは全く省みられない手順である。一手損角換わりの流行で手損に対する抵抗が薄れてきてはいるが、角を手放すことには抵抗があるということだろう。先手筋違い角では「振り飛車党への嫌がらせ」という実戦的な意味があるが、この局面では先手が居飛車なのでその意味もない。
 先手が角成を受ける手は、▲5八金右と▲4八銀に分かれる。
  • (1)▲5八金右なら一手で4七と6七を受けられるので、△7六角の後の9手目に好きな手を指せる。
    • (a)▲4六歩がよく指されている。
      • 後手が角を左に引こうと
        (ア)△4四歩なら▲4五歩△同歩▲4四角で一本取れる。
      • (イ)△2二銀で一局。
    • (b)▲2五歩なら後手筋違い角特有の局面だが、後手にも△2二飛と回る手がある。
  • (2)▲4八銀だと、△7六角に
    • (a)▲6八玉
    • (b)▲7八金
    • (c)▲5八金右のどれかで6七を受ける必要がある。

筋違い角

奇襲
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g. △3三角 (4手目△3三角戦法)

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3三角
(KIFファイルのダウンロード)

 2008年度の後手番勝ち越しに一役買った4手目△3三角戦法。
 次に△2二飛と回る手が主眼だが、振り飛車党のみならず、居飛車党の採用も多い。

 5手目は▲3三角成△同桂を決める順が圧倒的に多い。
 5手目▲3三角成なら△同桂しかない。だが、一手待って6手目が△2二銀だった場合、7手目▲3三角成は△同桂に加えて△同銀の余地が生じ、普通の角換わりになる可能性が出てくる。
 その進行もないわけではないが、少なくとも後手の4手目△3三角を咎めたことにはならない。なので、ほとんどが5手目に▲3三角成△同桂と形を決めてしまうのである。

 一時は大流行した出だしであったが、4手目△4二飛と入れ替わるように採用数は減少しており、窪田義行など愛好者がたまに指す程度である。

4手目

5手目

6手目

戦型

△3三角

▲同角成

△同桂

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3三角▲同角成△同桂

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3三角▲同角成△同桂
 前述の通り、▲3三角成△同桂を決めてしまう手順が多数。以下が手広い。▲6八玉と▲7八金はそれぞれに長所・短所があり、後手の棋風によって使い分けるのが基本。

【▲2五歩】

 飛車先を伸ばして突破を狙う。
  • (1)△2二飛と向かい飛車に振るのが後手の狙い。「鬼殺し向かい飛車」とも呼ばれる形だ。
    • (a)▲6五角は△4五桂▲4八銀△5五角で香取りが受からず先手ハマり形。
    • したがって角は打てず、
      (b)▲6八玉や▲4八銀と指し、△4二銀と上がって角交換振り飛車…というのが、△3三角戦法が多く指された時期の進行である。
    • しかしそこに、
      (c)▲9六歩という手が出現した。
      • (ア)△9四歩と受けると、今度こそ▲6五角と打つのが狙い。
         後手は習い通り△4五桂▲4八銀△5五角と反撃するが、そこで▲9七香と逃げられます…というのが▲9六歩の意味である。以下△9九角成▲7八銀とすれば、(a)のすぐ▲6五角を打った順と比べて香損せずに済み、8三または4三の両成りが残り先手指しやすい。
      • したがって後手は端を受けず、
        (イ)△4二銀と上がるが、▲9五歩と突き越しておき、後手の終盤の玉の狭さを主張する。
         この、▲9六歩で▲9七香の余地を作っておいて▲6五角を狙い、後手が端を受けなければ▲9五歩の突き越しを狙う一連の筋は、ゴキゲン中飛車の一戦型である丸山ワクチン+佐藤流が発祥。現在では角交換振り飛車系の将棋で頻出する手筋である。
  • (2)△3二金または△2二銀から銀冠・菊水矢倉を目指す順もある。

【▲6八玉】

 △2二飛対策の一手。ただし、後手に居飛車で来られると対応が難しい面もあるため、基本的には後手が振り飛車党だった場合に有効な手だ。
  • (1)△2二飛は、▲6五角△4五桂▲4八銀△5五角に▲7七桂で香取りが受かり、先手の馬作りが確定する。
  • そのため後手が飛車を振るなら、
    (2)△4二飛か、
  • (3)△3二金~△5二飛。
  • (4)△4四角と打ち、
    • (a)▲8八角を打たせてから一転△3二金と駒組みに戻る指し方もある。その場合は相居飛車になることが多い。
    • (b)▲7七桂は、△7四歩~△7二飛と桂頭を狙える。

【▲7八金】

 7手目▲6八玉に△4四角と打って相居飛車にする形を、先手が警戒した手。
 その代わり舟囲いを放棄した形になるので、後手が振り飛車だと囲いに気を遣う展開になる。
  • (1)△4四角と打つと、先手は角を手放さず▲8八銀と上がって受けられる。
  • (2)△2二飛には▲6五角と打ち、△4五桂▲4八銀△5五角は▲8八銀で受かるため、先手の馬作りが確定する。
  • したがって後手の選択肢は、
    (3)△4二飛か
  • (4)△3二金に絞られる。

対抗形(角交換振り飛車)、居飛車力戦

対抗形 居飛車力戦

▲2五歩

△2二飛

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3三角▲2五歩△2二飛

 ▲3三角成△同桂▲6五角は、上の【▲2五歩】-(1)-(a)と同じ局面なので後手よし。したがって、角交換しても角交換しなくても▲6八玉か▲4八銀というところに落ち着く。

対抗形

対抗形

△2二銀

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3三角▲2五歩△2二銀

 ▲2六歩△3四歩▲2五歩△3三角▲7六歩△2二銀と同じ局面。

△3二金

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3三角▲2五歩△3二金

 ▲7六歩△3四歩▲2六歩△3二金▲2五歩△3三角と同じ局面。

△4四歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3三角▲2五歩△4四歩

 ▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲2五歩△3三角と同じ局面。

▲6八玉

△2二飛

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3三角▲6八玉△2二飛

 ▲6八玉は△2二飛対策。
 それでも△2二飛とすると、今度こそ▲3三角成△同桂▲6五角と打つ。それは5手目▲3三角成△同桂の解説中、【▲6八玉】-(1)△2二飛に▲6五角と同じ局面になる。つまり△5五角は▲7七桂で無効、馬作りが確定して先手良し。したがって6手目に△2二飛とは指せない。

対抗形、角換わり

対抗形 角換わり

△4二銀

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3三角▲6八玉△4二銀

 すぐには△2二飛と指せないが、向かい飛車にしたい場合は△4二銀が有力。以下は△2二飛に行き着くまでの解説。
  • (1)▲3三角成は、△同銀と取れる。以下▲2五歩に、
    • (a)△4二飛の角交換四間飛車や、
    • (b)△2二飛のダイレクト向かい飛車を選べる。
    • (c)△8四歩で角換わりに変化する手もあり、それは先手の▲6八玉型が不自由な形だ。なので作戦的には、居飛車が角交換するならば△3三同桂しかないタイミングでするほうが得。
  • したがって角交換せずに
    (2)▲4八銀だが、後手は△5四歩と突く。
    • (a)▲7八玉は△5五歩と位を取る手が生じる。
    • (b)▲5六歩と位を保ち、△5三銀として△2二飛のルートが完成。以下▲3三角成△同桂とされても、▲6五角の筋はないので馬を作られることはない。

対抗形、角換わり、居飛車力戦

対抗形 角換わり 居飛車力戦

△4二飛

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3三角▲6八玉△4二飛

 6手目で飛車を振るなら、▲3三角成△同桂▲6五角が両成りにならない△4二飛しかない。以下は角道オープン型四間飛車や角交換四間飛車、立石流が予想される。

対抗形

対抗形

△2二銀

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3三角▲6八玉△2二銀

 角換わり志向の手。▲6八玉には後手の振り飛車を決め打ちした意味があるので、先手の狙いを外した意味がある。先手は付き合うか、矢倉に変化するか。

角換わり、矢倉

角換わり 矢倉・雁木

△4四歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3三角▲6八玉△4四歩

 角道を閉じ、穏便に進める手。普通の振り飛車か、矢倉系の将棋になる。

対抗形、矢倉

対抗形 矢倉・雁木

▲4八銀

△2二飛

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3三角▲4八銀△2二飛

 ▲4八銀には△2二飛が可能。
  • (1)▲3三角成△同桂▲6五角は、▲4八銀がマイナスに働き、△5五角で香を取られる。
  • したがって(2)▲6八玉△4二銀から囲いあうことがほとんど。

対抗形

対抗形

△4二飛

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3三角▲4八銀△4二飛

 △4二飛と振ることも考えられる。ただし、この形における△4二飛はいつでも△2二飛と振り直す手が含みなので、途中下車は微妙なところ。
 最初から角道オープン型四間飛車にする気であれば、4手目は△3三角より△4二飛のほうが手広い。

対抗形

対抗形

▲9六歩

△9四歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3三角▲9六歩△9四歩

 ▲6五角の筋を成立させるため、9筋の突き合いを入れる工夫。△9四歩には、
  • (1)▲3三角成△同桂▲2五歩としておく。
  • (2)▲2五歩と角交換しないで伸ばす手もある。
    • (a)△2二飛ならば▲3三角成△同桂を決める。すると、また5手目▲3三角成△同桂から▲2五歩△2二飛▲9六歩△9四歩と同じ局面になり、▲6五角と打って先手優勢。
      つまり後手は9筋の突き合いを入れた時点で、▲6五角と打たれる筋をクリアしなければ向かい飛車には出来ないということだ。
    • (b)△4四歩と角道を止めれば、4手目△4四歩から▲2五歩△3三角に9筋の突き合いを入れた形。
    • (c)△4二飛もある。先手は、
      • (ア)▲3三角成△同桂を決めて▲6八玉から囲うか、
      • (イ)▲6八玉なら△3二銀で、角道オープン型の四間飛車だ。

対抗形

対抗形
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h. △3五歩 (後手早石田)

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3五歩
(KIFファイルのダウンロード)

 後手早石田の出だし。

 先手早石田(3手目▲7五歩)と違い、プロはこの出だしをあまり指さない。
 ▲6八玉や▲5六歩の早石田封じで、先手でさえ際どいのに後手となったらより厳しいという見方が大勢である。だからといって一手△4四歩と自重すると、▲2五歩△3三角を決められ石田流本組にすんなり組めなくなる。

 というわけでプロは4手目△3五歩をほとんど指さず、後手で石田流を目指す場合は4手目△4二飛からの4→3戦法が有力とされる。2手目△3二飛戦法も代替案ではあるが、初手▲7六歩のときにしか使用できないのがネック。

 4手目△3五歩が指されないのは、4手目△4二飛から4→3戦法を目指す順と比べて、形を決めすぎであることが一因と思われる。
 結局、4手目△3五歩で石田流に組むのは先手に手を尽くされると一旦手損するしかない(5手目▲6八玉なら△4二飛、5手目▲2五歩から△3二飛▲6八玉なら△4二金)が、それなら4手目△4二飛から4→3戦法のほうが、同じ手損でも角交換四間飛車の含みを持つ分だけプロ好みなのだろう。

4手目

5手目

6手目

戦型

△3五歩

▲2五歩

△3二飛

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3五歩▲2五歩△3二飛

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3五歩▲2五歩△3二飛
 後手早石田の基本形。居飛車が速攻を狙う▲2四歩と▲2二角成の仕掛けには対策が確立されている。▲4八銀や▲6八玉が本手である。

【▲2四歩】

 △2四同歩▲同飛には、△3六歩が反撃の筋。
  • (1)▲3六同歩は△8八角成▲同銀△1五角の王手飛車で終了。
  • この王手飛車は見え見えなので、
    (2)▲2三飛成と成る。それには△8八角成▲同銀△2二歩と応じ、
    • (a)▲4三竜△5二金右▲3二竜△同金▲3八金△5五角▲7七銀△3七歩成▲同金△同角成▲同桂△2九飛か、
    • (b)▲2八竜△3七歩成▲同桂△3六歩▲4五桂△6二玉で、共に後手が指せる。

【▲2二角成】

 ▲2二角成△同銀▲6五角には、△3四角と打ち返すのが定跡。以下▲8三角成△6七角成は、馬の位置の差で後手が指せる。

【▲4八銀】

 3筋に備える自然な手だが、飛車が浮き駒になる手でもある。
  • (1)△6二玉と居玉を避けた手には、
    • (a)▲4六歩で△3六歩~△5五角の筋を緩和し、
      • (ア)△7二玉▲4七銀で3筋を受ければ、後手の升田式石田流。
      • (イ)△3六歩には
        • ▲3八金と上がり、△3七歩成▲同金△3六歩▲4七金くらいで攻めにならない。
        • ▲3六同歩△同飛▲4七銀と形よく受ける手には、△8八角成▲同銀△3七角という強襲がある。
    • (b)▲6八玉は注意が必要で、
      • (ア)△3六歩に
        • ▲同歩は△8八角成▲同銀△5五角で見事に両取りが決まるので、
        • ▲3八金と受け止めに行き、△3七歩成▲同銀△8八角成▲同銀△5五角▲7七角△3七角成▲同金△3六歩▲2七金△3七銀▲1八飛で攻めが止まる。
        結局△3六歩は無理なので、
        (イ)△7二玉▲7八玉以下、升田式石田流になるのが普通だ。
  • (2)△3六歩の強襲は、
    • (a)▲同歩△8八角成▲同銀△5五角▲3七銀△3六飛▲4六角△3七飛成(△3七角成は▲同桂△同飛成▲1五角で終了)▲5五角△2八竜▲同角と進んで、駒得なので先手よしというのが定跡だが、以下△2七飛▲3八金△2五飛成▲1六角△3五竜▲4六角△4四竜の局面をどう思うか。難しいと思えば、
    • (b)▲3八金と上がり、△8八角成▲同銀△5五角▲7七角△3七歩成▲同銀△同角成▲同金△3六歩▲2七金で受け止めに行く将棋になる。

【▲6八玉】

 玉を囲うと同時に6七の地点をカバーする手。また、飛車が浮き駒にならない。この5手目▲2五歩△3二飛▲6八玉は、後述する5手目▲6八玉に比べて、後手を早石田に限定した意味がある。
  • (1)△3六歩▲同歩△8八角成▲同銀△5五角と仕掛けるのは、
    • (a)▲7七角△2八角成▲同銀なら飛車が動けず、
    • (b)▲7七銀△2八角成▲同銀△3六飛なら▲2七角で、攻めが続かない。
  • 仕掛けられないのならば、
    (2)△6二玉と玉を囲いに行くことになる。
    • (a)▲7八玉△7二玉と囲い合えば後手の升田式石田流だ。
    • しかし、この局面で
      (b)▲2二角成△同銀▲6五角が成立、先手良しがプロの結論とのこと。
       この筋を消すためには▲2五歩にも△4二飛と途中下車することになるが、それでは「△3二飛と振れない△3五歩に何の意味があるのか」という話である。したがって4手目△3五歩自体が無理で、後手早石田の行く末は2手目△3二飛戦法に託されることになったそうだ。(『将棋世界』2008年4月号P88)
  • (3)△4二金という手もある。これは一旦▲6五角の筋を受け、後で手損になるのも承知で、何が何でも△3四飛と浮く形を目指す作戦。角交換振り飛車が市民権を得て、手損があまり気にされなくなったことで、2010年代に入りプロでも指されるようになった。

対抗形(後手石田流)

対抗形

▲6八玉

△3二飛

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3五歩▲6八玉△3二飛

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3五歩▲6八玉△3二飛▲2二角成△同銀▲6五角
 ▲6八玉は早石田封じ。
 それでも△3二飛だと、▲2二角成△同銀▲6五角と打って居飛車よしとされる。以下△4二金▲8三角成△3六歩▲同歩△5五角▲7七桂△3六飛▲3七歩△7六飛▲7八金が進行の一例。これが先手良しとされているため、プロはこの順を指さない。

対抗形(後手石田流)

対抗形

△4四歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3五歩▲6八玉△4四歩

 △3二飛と振ると▲2二角成~▲6五角で居飛車よしなので、△4四歩で角道を止めるのは穏便。しかし先手が▲2五歩△3三角を決めてくれば、後手はすんなり石田流には出来なくなる。
 後手はそれでも△3二飛から角を引いて石田流を目指すか、△2二飛と向かい飛車にする手も指される。また、3五位取りの居飛車力戦になる可能性もある。

対抗形、居飛車力戦

対抗形 居飛車力戦

△4二飛

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3五歩▲6八玉△4二飛

 △4四歩と角道を止めるのは不満、でも石田流を目指したいという場合は、一旦△4二飛と途中下車する手が指される。この場合△4二飛が4三の地点を受けているため、先手は▲2二角成~▲6五角としても馬は作れない。
 したがって▲7八玉だが、△6二玉▲2五歩△7二玉▲4八銀のときに、△3二飛と振り直すのが3・4・3戦法と呼ばれる。手損でも主張がなくてもとにかく石田流を目指す実戦的な作戦だが、プロではほとんど指されない。2010年代に入って角交換四間飛車(4手目△4二飛)が指され始めると、その出だしから後で△3二飛と振り直す4→3戦法が現れ、そこで3・4・3戦法の思想が受け継がれている。

対抗形

対抗形

△8四歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3五歩▲6八玉△8四歩

 ▲6八玉を見て居飛車に切り替える。先手は囲い方が難しい。
  • (1)▲6六歩なら△8五歩▲7七角で、後手は引き角を狙う。
  • これが不満であれば、
    (2)▲2二角成△同銀▲8八銀で無理矢理角換わり。
  • (3)▲2五歩△8五歩▲7八金△3二金も考えられる。
 いずれにせよ、先手の▲6八玉型と、後手の△3五歩型、どちらの負担が大きいかという将棋になる。

居飛車力戦

居飛車力戦

▲5六歩

△3二飛

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3五歩▲5六歩△3二飛

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3五歩▲5六歩△3二飛▲2二角成△同銀▲6五角
 ▲6八玉同様、▲5六歩も早石田封じ。後手が構わず△3二飛と振った場合も同じで、▲2二角成△同飛▲6五角と打つ。このとき▲2六歩が入っているため、早石田側が先手の場合は手筋の反撃であった△2五角が打てない。
 ここから△5二金右▲8三角成△3六歩▲同歩△6四角と進める手もあるが、見るからに無理気味で先手良しとされる。

対抗形(後手石田流)

対抗形

△4二飛

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3五歩▲5六歩△4二飛

 ▲5六歩に対しても石田流にしたい場合は、▲6八玉同様に一旦△4二飛と途中下車する3・4・3戦法が用いられる。以下▲4八銀△6二玉▲6八玉△7二玉▲7八玉に△3二飛の要領だ。
 この場合は手損でも、先手が▲5六歩と形を決めている点が主張であり、2007年4月大和証券杯▲深浦康市△久保利明戦で久保も採用したことがある。

対抗形

対抗形

▲4八銀

△3二飛

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3五歩▲4八銀△3二飛

 後手早石田をいきなり咎めには行かず、升田式や本組に組ませて戦う手。

【▲4六歩】

 ▲4六歩~▲4七銀と、3筋を受ける形を作るのが基本。
  • (1)△6二玉▲4七銀△7二玉なら升田式石田流。
  • (2)△4四歩は角交換がなくなり穏やかで、後手が石田流本組を目指す展開になる。
  • (3)△3六歩は、▲3八金で受かる。

【▲2二角成】

 △2二同銀▲6五角は、△3四角▲8三角成△6七角成で、後手の馬のほうが好位置のため成立しない。

対抗形(後手石田流)

対抗形
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i. △9四歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△9四歩
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 一手損角換わり・角交換振り飛車の両睨み作戦。
 もっとも、単に端を突いただけの可能性もある。

 この手は一手損角換わりが流行しだしてから指され始めた、歴史的にはまだ新しい手である。

 5手目はほとんど▲2五歩。
 この局面では後手の作戦が居飛車か振り飛車かさえ判明していないので、▲2五歩で次に▲2四歩△同歩▲同飛を見せる。2四の地点を受ける気があるのかどうかを打診することで、後手の作戦を見分けるわけだ。
 それ以外の手、たとえば▲7八金では喜んで振り飛車に、▲6八玉や▲4八銀では△8四歩で居飛車にされる可能性がある。

4手目

5手目

6手目

戦型

△9四歩

▲2五歩

△8八角成

▲7六歩△3四歩▲2六歩△9四歩▲2五歩△8八角成

▲7六歩△3四歩▲2六歩△9四歩▲2五歩△8八角成▲同銀△2二銀
 以下▲8八同銀△2二銀。
 4手目△8四歩に▲2五歩△8八角成でも解説しているが、この局面で
  • (1)▲2四歩と行く順がある。以下△2四同歩▲同飛△3五角▲2八飛△5七角成▲1五角に、
    • (a)△3三桂▲2二飛成△同飛▲3三角成△4二飛▲5八金左△3五馬▲1一馬と進む。銀桂香と飛車の3枚換えでどうかという順だ。この後、後手は玉を7筋方面に囲うことになり、そのときに玉が広いことが終盤生きてくる、というのが△9四歩の意味である。タイトル戦では2008年7月棋聖戦第4局▲佐藤康光△羽生善治戦(後手勝ち)がある。
    • (b)△2四歩もあり、▲同角△同馬▲同飛△5七角▲2八飛△3二金で後手が馬を作る展開。
  • 先手が▲2四歩を見送って、
    (2)▲7七銀や
  • (3)▲9六歩ならば、△3三銀と上がって一手損角換わり、または角交換振り飛車というところ。実戦例はこちらが多い。

一手損角換わり、対抗形(角交換振り飛車)

角換わり 対抗形

△9五歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△9四歩▲2五歩△9五歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△9四歩▲2五歩△9五歩
 ▲2五歩を無視して△9五歩では2筋がら空きのようだが、▲2四歩△同歩▲同飛には△8八角成~△3三角を用意してある。
 先手の候補手は▲7八金、▲6八玉、▲4八銀、▲5八金右。▲5八金右がなかなかの手ではないかと、『将棋世界』2010年5月号掲載の『イメージと読みの将棋観』では述べられている。
 ただ、実戦例ではどの手を選んでも後手がほとんど△8八角成▲同銀△2二銀としている。端も突き越したし、ここが換え時ということだろう。他には△4二飛、△3三角、△8四歩などが候補手。

一手損角換わり、対抗形(角交換振り飛車)、矢倉

角換わり 対抗形 矢倉・雁木

▲9六歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△9四歩▲9六歩

 ▲7六歩△3四歩▲2六歩に9筋の突き合いを入れた局面。先手は矢倉や居飛車穴熊は目指しづらい。
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j. △1四歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△1四歩
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 4手目△9四歩同様、一手損角換わり・角交換振り飛車の両睨み作戦。
 もちろん、単に端を突いただけの可能性も捨てきれない。

 この手も一手損角換わり出現以降に現れた手だ。5手目▲2五歩から△8八角成▲同銀△2二銀に▲2四歩がはっきり成立しないため、△9四歩より早くから指され始めている。

 4手目△9四歩同様、先手の5手目はほぼ▲2五歩。理由も同じ。

4手目

5手目

6手目

戦型

△1四歩

▲2五歩

△8八角成

▲7六歩△3四歩▲2六歩△1四歩▲2五歩△8八角成

▲7六歩△3四歩▲2六歩△1四歩▲2五歩△8八角成▲同銀△2二銀
 以下▲8八同銀△2二銀で一手損角換わり。
  • 4手目△9四歩では主張があった
    (1)▲2四歩は、△2四同歩▲同飛△3五角▲2八飛△5七角成のときに、△1四歩が突いてあるために▲1五角が打てない。馬を消そうと▲2四角と打っても△同馬▲同飛に△5七角で、結局馬を消すことはできず、ただ損をしただけになる。この手順のおかげで、2手目△1四歩も一手損角換わりにされるのならなかなか咎めづらいということになっている。
  • ▲2四歩と行けないのならば、一例として
    (2)▲7七銀に△3三銀で駒組みになる。後手は一手損角換わりの他に、角交換振り飛車もありえる。

一手損角換わり、対抗形(角交換振り飛車)

角換わり 対抗形

△3二金

▲7六歩△3四歩▲2六歩△1四歩▲2五歩△3二金

 先手の飛車先交換を誘う手。▲2四歩△同歩▲同飛に、必ずしも△2三歩は打つ必要がない。ただ、初めからこのように指すつもりであれば、2手目に△3四歩よりは△3二金のほうが手が広い。

居飛車力戦

居飛車力戦

▲1六歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△1四歩▲1六歩

 ▲7六歩△3四歩▲2六歩に1筋の突き合いを入れた局面。ここから△4四歩で相矢倉を目指すのだけは、棒銀があるため後手が危険。
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k. △2四歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△2四歩
(KIFファイルのダウンロード)

 4手目△2四歩は、後手角頭歩戦法。
 先手番では角交換して▲7七桂で飛車先の歩交換を防げたが、後手番だとすぐに▲2五歩△同歩▲同飛がある。そう指されたら△8八角成▲同銀の角交換から△3三桂と跳ねて決戦するのが定跡だったが、プロでは長らく奇襲の類と考えられていた。先手で角頭歩戦法を指していた米長邦雄も後手では指していない。
 『イメージと読みの将棋観』でも題材として取り上げられており、「(5手目は)▲2五歩でよくなりそうだと思うが、▲6八玉と指しても後手の駒組みは大変」という見解が多数だった。

 『イメ読み』登場時の解説では、平成以降でプロの採用例はないとのことだったが、その後▲菅井竜也△増田裕司戦(2010年12月・C2)で後手の増田が採用した。このときは▲7六歩に△2四歩という出だしで、振り飛車党の菅井に居飛車を指させるという狙いがあった。菅井は挑発に乗って▲2六歩と突き、増田が△3四歩と突いたので左図の局面になった。菅井の5手目は▲6八玉で、結果は先手勝ち。

 2016年になって、▲2五歩△同歩▲同飛△8八角成▲同銀には△2二飛とぶつけ、5手目▲6八玉には△5四歩と突く新構想が出現。西川和宏、鈴木大介が連採している。

4手目

5手目

6手目

戦型

△2四歩

▲2五歩

△同歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△2四歩▲2五歩△同歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△2四歩▲2五歩△同歩▲同飛
 ▲2五歩は咎めに行った手で、△同歩▲同飛と進んだところが問題。これで後手が悪くなれば、後手角頭歩は終わりとされる順だ。従来は△8八角成▲同銀に△3三桂だったが、2016年になって△2二飛が出現した。
 ちなみに△3二金でも、アマチュア同士が指すならまだ一局。ただし作戦負け前提である上、「何がしたかったんだコイツは」と相手に思われる可能性は高く、解説もお勧めもしない。

【従来の角頭歩戦法 : △8八角成▲同銀に△3三桂】

 △8八角成▲同銀に△3三桂が従来の指し方。△3三桂は飛車に当たっているため、先手は飛車を成るか逃げるかしなければならない。
  • (1)▲2三飛成が最有力とされ、△2二飛に▲2四歩と支える。以下、
    • (a)△2三飛▲同歩成△4五桂に▲4八金が一例。
    • (b)△3二金と上がるのも有力で、▲2二竜△同銀▲2三角△3一金▲3四角成△4五角が一例だ。
  • (2)▲2一飛成は△2二飛とぶつけ、
    • (a)▲1一竜△2九飛成は後手が捌けた形。
    • (b)▲2二同竜△同銀▲2三歩△同銀▲2一飛も、△3二銀▲1一飛成△2五飛で後手が指せる。
  • (3)▲2八飛と自陣に引く手には、
    • (a)△2二飛とぶつけるか、
    • (b)△2七歩▲同飛△4五角か。

【新しい指し方 : △8八角成▲同銀に△2二飛】

 2016年に入り、西川和宏、鈴木大介が4手目△2四歩を連採。▲2五歩△同歩▲同飛△8八角成▲同銀に、△2二飛とぶつけるのが新しい指し方だ。
  • (1)▲2二同飛成△同銀は勢い。しかし継続の手は難しい。
    • (a)▲6五角は△2五飛と打ち返し、以下▲4三角成△2九飛成▲2一馬△5五角で後手優勢。
    • (b)▲3八金と打ち込みの傷を消し、以下△6二玉から駒組みになる。これからの将棋だが、右側に金を上がってくれるなら後手満足というところ。
  • (2)▲2四歩には
    • (a)△3二銀▲2三角△3三桂▲2八飛に、
      • (ア)△2七歩▲同飛△4五角で3四を受けながら馬が作れる。しかし以下▲2八飛△6七角成に▲3二角成△同金▲2三銀と殺到されたとき、そこで△4五桂か△2七歩か、後手も勇気が必要だ。
      • また、△2七歩を利かさず単に
        (イ)△4五角と打ち、▲3二角成△同金▲2三銀△同金▲同歩成に△2七歩の進行もある。
    • △3二銀以下の変化に不安があれば、
      (b)△3二金としておき、▲2三角には△3三金とかわして軽く受けておくか。
  • (3)▲2三歩には△4二飛と軽くかわしておき、以下▲6八玉△3二金▲4八銀△3三桂▲2八飛△2五歩が一例。

角頭歩戦法

奇襲 対抗形

▲6八玉

△8八角成

▲7六歩△3四歩▲2六歩△2四歩▲6八玉△8八角成

 ▲2五歩△同歩▲同飛と行かないのならば▲6八玉が有力で、それで後手の駒組みが大変だといわれていた。△8八角成▲同銀とした後の手が難しいからである。
 ちなみに前述の▲菅井△増田裕戦は、角交換をしないで△3三桂だった。角が隠居するのでいい手には思えないが、とにかく力戦に持ち込むのが狙いだったと思われる。

【△3三桂】

 従来の角頭歩戦法なら△3三桂と跳ねる。
  • (1)▲7八玉などなら、△3二金と上がってそれなりの将棋に出来る。
  • しかし残念ながら、
    (2)▲2三角がある。この角打ちは先手角頭歩戦法(▲7六歩△3四歩▲8六歩△8四歩▲2二角成△同銀▲7七桂に△8七角)でもある筋だが、角頭歩側が良くなる。しかし後手角頭歩の場合は話が違い、▲6八玉が6七を受けているので、
    • (a)△4五角と同じように打っても▲4六歩ですぐに追われてしまい、以下△5四角▲3四角成で馬が出来て後手失敗。
    • どうせ▲3四角成が受からないなら、
      (b)△2二飛▲3四角成△4二銀などのほうがマシだろうが、どちらにせよ作戦としては破綻している。

【△2二飛】

 △2二飛は、▲6五角と打たれて4三と8三の両成りが受からない。この問題に対応するのが、6手目を△5四歩に代える手である。

【△2二銀】

 △3三桂がダメ、△2二飛もダメならば、△2二銀としておくのが無難。
  • (1)▲2五歩△同歩▲同飛のとき、△2二銀のおかげで飛車成りの先手にならないため、後手は手を選べる。
    • (a)△3二金は手堅く行った手。
    • (b)△3三桂▲2八飛△2五歩のように指すこともできる。
  • ▲2五歩としない、例えば
    (2)▲4八銀のような手なら、
    • (a)△3三桂で2五の地点を受けておき、そこから銀冠を目指すか、飛車を振るか。
    • (b)△3三銀と上がる手も考えられる。ただし△3三銀・△2四歩の形で矢倉に組むのは辛いので、△4二飛から角交換振り飛車が妥当か。

角頭歩戦法

奇襲 対抗形

△5四歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△2四歩▲6八玉△5四歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△2四歩▲6八玉△5四歩
 ▲6八玉に対しては、△8八角成▲同銀に△3三桂も△2二飛も無理だった。
 そこで、一度△5四歩と突くのが新しい構想。次こそ△8八角成▲同銀△2二飛と進める予定で、そのときに▲6五角の筋を緩和しているというわけだ。しかし一方で、5三に空間が生じて角や飛車を打つ筋が見えるため、再度▲2五歩△同歩▲同飛が考えられるタイミングでもある。

【▲2五歩△同歩▲同飛△8八角成▲同銀に△2二飛】

  • (1)▲2二同飛成△同銀の局面で、手が広い。先手には2七、後手には5三のキズがある。お互いに大駒を持ち合っており、軽率に打ち込むと切り返しを食らうケースがある。
    • 例えば、
      (a)▲5三飛は△5二金左▲5四飛成に△2七角が両取り。これは▲6八玉と上がったことが裏目に出た変化だ。
    • 5三の空間に打つなら、
      (b)▲5三角。ただ後手にも△2七角と金取りで打ち返す手があり、以下▲2五飛△4九角成▲2二飛成が激しく行った一例だ。
    • (c)▲3八金と上がって2七の傷を消すと、△6二玉▲7八玉に
      • (ア)△7二玉と進め、ここで▲5三飛なら△2三飛▲2八銀△6五角▲2三歩△3三飛に、
        • ▲1八角△4二金▲5四飛成△同角▲同角△5五飛で後手良しと講座には書いてある。
        • だが▲1八角でなく、
          ▲7七桂△7六角▲6五角△6二銀▲5四飛成△6五角▲同竜という進行もあって簡単ではない。
      • このような進行が嫌なら、
        (イ)△4二金や
      • (ウ)△4四角など、玉を寄る前に5三をカバーする手を考えることになる。
  • (2)▲2三歩には△5二飛で、以下は△3二金~△3三桂~△2五歩の構想が一例。
  • (3)▲2四歩には△3二金と上がり、▲2三角なら△3三金とかわす。

【▲2五歩と突かない】

  • (1)▲7八玉には△8八角成▲同銀△2二飛と向かい飛車に振る。ここまで来ればすぐの仕掛けがなくなるので、以降は駒組みになる。
  • プロの実戦では▲田村康介△鈴木戦(2016年6月・B2)、▲井上慶太△鈴木戦(2016年7月・B2)で、
    (2)▲9六歩が出現している。
    • (a)△9四歩と受けた場合、後々の飛車交換後に▲9五歩△同歩▲9二歩△同香▲9一飛の筋が生じるので▲2五歩と行くという意味だ。
    • (b)△8八角成▲同銀△2二飛と端を受けなければ▲9五歩と突き越すという指し方のようだ。これを踏まえて、5手目で先に▲9六歩と突く将棋も現れている。

【ちなみに従来の角頭歩:▲2五歩△同歩▲同飛△8八角成▲同銀に△3三桂】

 従来の指し方は、▲2三飛成△2二飛の時に▲3三竜と桂馬を取り、△2九飛成に▲5三桂と打たれてしまう。これは後手が悪い。

角頭歩戦法

奇襲 対抗形

▲7八金

△5四歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△2四歩▲7八金△5四歩

 6手目△5四歩対策で、▲7八金と上がる手も指されている。ゴキゲン中飛車対策でもあった手で、角交換後の▲8八銀に紐をつけ、△3三(4四)角のような手が銀取りの先手にならないようにした手である。つまり、次に▲2五歩と行くつもりだ。
 それでも△5四歩に▲2五歩△同歩▲同飛と行けば、△8八角成▲同銀△2二飛が想定される手順。その局面で、
  • (1)▲2三角と打ったのが▲今泉健司△阪口悟戦(2016年9月・王座戦一次予選)。後手は△1四角▲同角成△同歩で端の一手を稼ぐが、再度▲2三角と打つ。以下、
    • (a)△3二銀に▲2四歩と進み、先手が勝った。
    • これを踏まえて▲今泉△西川戦(2016年11月・銀河戦)で指されたのが、
      (b)△2四歩▲同飛△1三角。端で稼いだ△1四歩を生かした修正手順である。以下▲4一角成△同玉▲2二飛成△同銀▲2八飛と進行。後手陣は歩切れの上に乱されているが、駒得が主張だ。
  • (2)▲2二同飛成△同銀と、素直に行く手も考えられる。4九の金が浮いていないので▲5三飛と打て、△5二金右▲5四飛成△3三銀が一例。一方的に竜を作っているが、ソフトにかけると案外評価値には差がない。

角頭歩戦法

奇襲 対抗形

△8八角成

▲7六歩△3四歩▲2六歩△2四歩▲7八金△8八角成

 ▲7八金に対して△8八角成▲同銀は、▲7八金も6七の地点を受けているため、
  • (1)△3三桂は▲2三角があってダメ。
  • (2)△2二飛も▲6五角がある。
  • したがって、
    (3)△2二銀と上がるくらい。つまり5手目▲6八玉と似た状況になる。

角頭歩戦法

奇襲 対抗形

▲6六歩

△4四角

▲7六歩△3四歩▲2六歩△2四歩▲6六歩△4四角

 ▲6六歩と角道を止めれば、角交換から△3三桂や△2二飛の乱戦含みを回避できる。後手は△4四角と上がり、△2二飛~△3三桂の形を目指して戦う。
  • (1)▲2五歩と行くのは、△同歩▲同飛に△2二飛とぶつけて後手が軽い形。
  • (2)▲4八銀や、
  • (3)▲6八玉から囲うのが現実的な進行だろう。

角頭歩戦法

奇襲
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l. △3三桂

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3三桂
(KIFファイルのダウンロード)

 4手目△3三桂は後手の鬼殺し。
 先手番だって無理攻めといったら元も子もないが、桂跳ねの仕掛けは更に苦しい。先手番でうまく行く定跡をなぞっても、後手番ではうまく行かないのだ。
 だが、この出だしはプロ公式戦の実戦例がある。1993年12月のC2順位戦・▲真田圭一△神吉宏充戦で、後手の神吉が指している。ただし桂を跳ねて仕掛けたのではなく、△3三桂以下は▲2五歩△1四歩▲4八銀△8四歩▲6八銀△8五歩▲7七銀△8四飛とひねり飛車風に進めた。

 ちなみに、後手鬼殺しを解説した棋書は聞いたことがない。
 『イメージと読みの将棋観』で題材として取り上げられたのも、桂跳ねの攻めについての見解を聞きたかったのではなく、ひねり飛車の構想について見解を聞きたかったのだろう。

4手目

5手目

6手目

戦型

△3三桂

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3三桂▲2五歩

▲2五歩

△4五桂

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3三桂▲2五歩△4五桂

 攻め筋は先手番と同じなので、手の意味は▲7六歩△3四歩▲7七桂を参照。
  • ▲2五歩にすぐ△4五桂と跳ね、
    (1)▲4八銀に△3五歩▲4六歩△8八角成▲同銀△5五角と攻め、▲7七銀△4六角▲5八金右に△3六歩と3七めがけて殺到。
     先手は▲4七金と、3七に受け駒を足す。そこで、
    • (a)△3二飛と角を見捨てる手が必殺で、▲4六金△3七歩成▲同桂△同桂成▲同銀△同飛成で先手番同様鬼殺し大成功! …と思いきや、そこで▲1五角の王手竜があって実は大失敗。なんと、先手番の定跡通り攻めてもダメなのだ。
    • (b)△3七歩成とする方がマシだが、それも▲同桂△同桂成に▲1五角が好手。△4二銀▲3七銀△6四角▲6八玉で、後手は駒損こそしていないものの、いいところがない。
  • (2)▲4八金と、先手番の受け方と同じように△4五桂に対して銀ではなく金を上がる手も有効。
     以下同じように△3五歩▲4六歩△8八角成▲同銀△5五角と進めたときに▲4七金と上がって、飛車の横利きが通って8八の銀に紐をつけた上で、3七・5七・4六を全て金でカバー出来るため受かるのも同じ要領だ。『イメージと読みの将棋観』で取り上げられた際、藤井猛はこの定跡で先手十分と語った。森内・谷川は5手目▲4八銀を挙げた上で、この定跡にも触れている。

鬼殺し

奇襲

△3五歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3三桂▲2五歩△3五歩

 すぐ△4五桂がうまく行かないので、△3五歩と溜める。代えて△3二飛も考えられるが、▲4六歩で桂跳ねを消されると、次に見え見えの▲2四歩があって軌道修正できず、本当に暴れるしかなくなる。
  • (1)▲2四歩△同歩▲同飛は△4五桂で、次に△5七桂不成と△8八角成▲同銀△3三角があって一気に勝負形。以下▲2二飛成△同飛▲3三角打△4二飛打が一例。先手が▲2四歩△同歩▲同飛と飛車先交換に行くのは、かなり条件を整えないと危険だ。
  • (2)▲4八銀が自然。
    • (a)△4五桂には▲4六歩で、△8八角成▲同銀△5五角以下は6手目△4五桂の変化と合流する。
    • (b)△3二飛と更に溜める手には▲4六歩で桂跳ねを防ぎ、それから玉を囲うのが手堅い。駒組みになると、後手は3五の歩を支えるのが難しくなってくる。
  • (3)▲4六歩と桂跳ね自体を消す手には、一旦△3二金で角頭を受ける。その後動くなら△4二飛~△4四歩~△4五歩か。

鬼殺し

奇襲

△1四歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3三桂▲2五歩△1四歩

 △1四歩は、▲1五角と打たれる筋を消しながら、自分は△1三角を作った有効な手待ち。
  • (1)▲2四歩△同歩▲同飛は△4五桂で勝負形になってしまうので、先手が好んで飛び込む筋ではない。
  • したがって、
    (2)▲4八銀が自然。
    • (a)△4五桂は▲4六歩△8八角成▲同銀△5五角▲7七銀△4六角▲5八金右△3五歩▲4七金で攻めが続かない。
    • (b)△3五歩と溜める手には▲4六歩と突いて桂跳ねを消すか、▲6八玉と囲ってもよい。
    • 駒組みになった場合の後手の構想は、
      (c)△8四歩▲6八銀△8五歩▲7七銀△8四飛▲6八玉△3五歩▲7八玉△3四飛で、いわば鬼殺しひねり飛車が挙げられる。プロでは神吉宏充が公式戦で指している。ただ、『イメージと読みの将棋観』の、特に渡辺明のコメントからは「仮にひねり飛車にされたからといってなんだ」というニュアンスが感じられる。

鬼殺し

奇襲
▲7六歩△3四歩▲2六歩△3三桂▲4八銀

▲4八銀

△4五桂

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3三桂▲4八銀△4五桂

 ▲4八銀は△4五桂と跳ねる前に5七を先受けしている。強引に△4五桂と跳ねてみても▲4六歩と突かれ、△8八角成▲同銀△5五角▲7七銀△4六角▲5八金右△3五歩▲4七金と、△3六歩が来る前に▲4七金と上がれるので攻めにならない。
 『イメージと読みの将棋観』では、羽生・佐藤康・渡辺明がこの5手目▲4八銀を推奨した。森内と谷川も、▲2五歩と共に挙げた。

鬼殺し

奇襲

△8四歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3三桂▲4八銀△8四歩

 ▲4八銀に△4五桂が無理では駒組みということになるが、それはそれで桂頭に弱点を抱えながらの駒組みになる。つまり▲4八銀は、わざわざ▲2五歩で後手の攻めを呼びこんで受けなくても、桂頭というわかりやすい弱点があるのだから、駒組みした後で攻めればいいという手である。
 飛車先を突く△8四歩には、
  • (1)▲7八金△8五歩▲7七角△8四飛▲3六歩△7四飛▲3七銀△7六飛▲4六銀で桂頭を狙って指すのが、佐藤康が示した一例だ。
  • (2)▲7八銀△8五歩▲7七銀と銀で受ける手も当然考えられる。

鬼殺し

奇襲

▲4六歩

△4二飛

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3三桂▲4六歩△4二飛

 結局のところ△4五桂は無理攻めだが、受け切られたらゴメンナサイという姿勢で攻められるのも、それはそれで厄介である。
 「攻められるのはそもそも桂を跳ばせてるからでしょ」と、直接△4五桂を防ぐ▲4六歩も有効。ただし、4五に争点が出来るので△4二飛から△4四歩~△4五歩を狙う構想は考えられる。

鬼殺し

奇襲
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m. △3二飛

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3二飛
(KIFファイルのダウンロード)

 4手目△3二飛は菅井流と呼ばれる作戦。後手早石田を目指す指し方である。
 同様に後手早石田を目指す△3二飛戦法だと、初手▲2六歩と指されてしまうと指すことが出来ない。だがこの4手目△3二飛が成立すれば、▲2六歩△3四歩▲7六歩の手順で現局面を迎えた場合、後手早石田を目指すルートが増える。

 ただ、▲7六歩△3四歩▲2六歩の局面では、4手目に飛車を振るとしたら△4二飛しかないと長らく思われていた。▲2二角成~▲6五角の筋があるからだが、菅井流はその定説に対する問題提起ともいえる。

4手目

5手目

6手目

戦型

△3二飛

▲2二角成

△同飛

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3二飛▲2二角成△同飛

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3二飛▲2二角成△同飛▲6五角△7四角
 4手目で飛車を振る場合、△4二飛以外の場所では▲2二角成~▲6五角の筋が生じる。菅井流はこの角交換を△2二同飛と取るのがポイント。▲4三角成とされたときの飛車当たりを避けた意味だ。以下▲6五角が4三と8三の両狙いの角打ち。角交換系では頻出する筋で、後手も△7四角と打ち返す。
 そこで先手は▲4三角成か▲7四同角を選べる。

【▲4三角成】

 後手は一旦△4二金と当て、▲3四馬に△4七角成と入る。
 初出である▲藤原△菅井戦(2013年1月・順位戦)では、
  • (1)▲6八金と上がり、以下△3三金▲5六馬△同馬▲同歩△4七角▲5七金△1四角成で、後手が馬作りに成功。結果も後手勝ち。
  • (2)▲6八玉と上がったのが▲日浦△宮田戦(2013年3月・順位戦)。以下、△6五馬に▲7七玉と顔面受け。以下△3三金▲1六馬△4二飛▲5八金右と進行、先手がまとめきって勝利した。

【▲7四同角】

 △7四角を▲同角とする手もある。△同歩に▲5五角が飛車と香の両取りで、後手は△8二銀、△3三角、△8二角の応手が考えられる。
  • (1)△8二銀には▲2二角成△同銀と飛車を取っておき、飛車角交換しておいてから駒組みに戻る。角2枚手持ちのメリットと、飛車の打ち込みを気にしながらの駒組みが必要なデメリット。どちらを重く見るか。
  • (2)△3三角には、
    • (a)▲9一角成△9九角成は勢いで進めた順。以下、▲8一馬△7二銀▲8二馬△8九馬▲7八銀△8八馬とお互いに桂香を取り合う。
    • しかし、これよりも
      (b)▲3三同角成△同桂としてから再度▲5五角と打つほうが勝る。以下△4四角▲9一角成△9九角成▲8一馬△7二銀▲8二馬△8九馬に、一旦▲5五馬と引くのが桂当たり。△4二銀や△3二金なら、そこで▲7八銀と当てて、△9八馬と僻地に追いやれる。
  • (3)△8二角と合わせる手もある。2018年5月の王座戦挑決T・▲行方尚史△菅井戦で、菅井はこの角を打っている。
    • 実戦では、素直に飛車を取る
      (a)▲2二角成△同銀を行方は選んだ。後手は△8二角の利きを生かして、飛車の小ビンを攻める△3五歩が狙いとなるが、実戦は▲7八金△3五歩▲3八金と備えた先手に対し、それでも△3六歩と攻めかかっている。
    • (b)▲同角成△同銀と進めてしまうと、次の▲5五角は△3三角があり飛車を取れなくなる。
    • (c)▲8八角と飛車を取らずに角を引く手もあり得る。これには△4二金(△3二金)~△3三桂~△2一飛から角命戦法のように指す構想が考えられる。

対抗形

対抗形

△同銀

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3二飛▲2二角成△同銀

 ▲2二角成を△同銀と取るのは、▲6五角△7四角▲4三角成が飛車に当たってくる。
 後手はここで飛車を逃げるわけにもいかないので、勢いは△4七角成。▲5八金右△7四馬と追い、せっかく作った馬と3二の飛車を交換するのも癪なので▲5三馬が一例。はっきりとした狙いがある将棋ではない。

対抗形

対抗形

▲2五歩

△3五歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3二飛▲2五歩△3五歩

 ▲2五歩は乱戦にしない指し方。▲4八銀でも同様。
 △3五歩なら、▲7六歩△3四歩▲2六歩△3五歩▲2五歩△3二飛と同じ局面。昔ながらの後手早石田に合流する。

対抗形

対抗形

△6二玉

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3二飛▲2五歩△6二玉

 ▲2五歩に△6二玉なら、▲7六歩△3二飛▲2六歩△6二玉▲2五歩△3四歩と同じ局面。

対抗形

対抗形

△4二銀

▲7六歩△3四歩▲2六歩△3二飛▲2五歩△4二銀

 ▲2五歩に△4二銀なら、▲7六歩△3二飛▲2六歩△4二銀▲2五歩△3四歩と同じ局面。2手目△3二飛から、後手が角交換振り飛車を志向する手順だ。

対抗形

対抗形
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n. その他の進行

(KIFファイルのダウンロード)

 △6二銀は、後手側だけ見たらありそうな手に思えて、全くそうではない。上がっただけで相当作戦を狭めていて、2手目に△6二銀と指した方がまだその後の局面をコントロールできるのではないかと思うくらいである。

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

▲2六歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△6二銀

△6二銀

▲2五歩

△8八角成

▲7六歩△3四歩▲2六歩△6二銀▲2五歩△8八角成

 △6二銀は飛車先を突きたくないが居飛車にするという手であるが、リスクのある作戦だ。
 ▲2五歩に△8八角成▲同銀は、次に△2二銀~△3三銀として一手損角換わりを狙った手である。しかし、
  • (1)△2二銀と上がるのは、▲2四歩△同歩▲同飛が銀取り(△6二銀が飛車の横利きを止めている)のため、一手損角換わりの常套手段である△3五角の反撃が利かない。
    • (a)△3三角と打っても▲2八飛と引かれ、そこで△2六歩も△2七歩も、△2二飛の応援がなく反撃にならない。△2四歩~△2三銀で銀冠にするくらいだが、先手は角と歩が駒台に乗っている分得である。
    • 他には角を打たずに
      (b)△2三歩や
    • (c)△3二金だが、何か狙いのある作戦とは言えない指し方である。
  • (2)△3三角と打てば▲2四歩△同歩▲同飛を防ぐことはできるものの、手損で角交換した上に手放してしまうのでは大損である。

居飛車力戦

居飛車力戦

△3二金

▲7六歩△3四歩▲2六歩△6二銀▲2五歩△3二金

 上記のように、▲2五歩と突かれると2筋の歩交換を受けるには手損で角交換した上に手放さないといけない。ならば2四は受けない方がマシであり、△3二金で飛車先を交換させ、3手目▲4八銀で解説する英春流のような駒組みをするのが妥当だろう。ただし、本家の後手バージョンは2手目△6二銀である。

居飛車力戦

居飛車力戦

△7四歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△6二銀▲2五歩△7四歩

 ▲7六歩△7四歩▲2六歩△3四歩▲2五歩△6二銀と同じ局面。

居飛車力戦

居飛車力戦
▲7六歩△3四歩▲2六歩△7四歩

△7四歩

▲7六歩△3四歩▲2六歩△7四歩

 ▲7六歩△7四歩▲2六歩△3四歩と同じ局面。2手目△7四歩を参照。
 ▲2六歩を見てから△7四歩のほうが、▲7六歩△7四歩に▲7八飛と受けられる変化を消していて、狙いの居飛車力戦に持ち込みやすい意味がある。一時期、井上慶太が連採した。
居飛車力戦
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1-2. ▲7六歩△3四歩に▲6六歩

▲7六歩△3四歩に▲6六歩

 角道を止める。この一手で、先手は戦型を矢倉・対抗形・相振り飛車に絞ることが出来る。

 基本的には、先手振り飛車の出だし。
 また、穏やかな序盤を好む居飛車党にも指されることがあり、先手を持って横歩取りも角換わりもしたくなければ、3手目▲6六歩の一手で全て避けることが出来る。

 矢倉党が3手目▲6六歩を採用する際、後手が居飛車だったときはウソ矢倉に出来る。しかし振り飛車だった場合は▲6六歩のせいで、例えば▲5七銀左急戦には出来ないため、作戦の幅は狭くなる。△3五歩で石田流を目指されるのも、角交換して▲6五角のような筋がなくなっていて受け身になりやすい。したがって矢倉党であれば、3手目は▲2六歩を突き、後手の4手目が△8四歩(横歩取り狙い)だった場合に▲6六歩を突く…という手順の方が多いだろう。
 相振り飛車を苦にしなければ、または3手目▲6六歩を生かす作戦を用意しているのであれば、居飛車党でも指す意味がある手といえる。

 また、先手石田流の優秀性が認められたことにより、居飛車党でも3手目▲6六歩と突き、△8四歩なら▲6八銀で矢倉、△6二銀なら▲7五歩で石田流という両睨みの作戦が出来ると再評価されている。

 しかし2010年代に入ってからの3手目▲6六歩は、対抗形になると居飛車穴熊が大変で、相振りになると後手三間飛車(4手目△3五歩)に主導権を握られて勝ちづらいとされ、プロの採用数は減っている。

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a. △8四歩

▲7六歩△3四歩▲6六歩△8四歩
(KIFファイルのダウンロード)

 △8四歩は、後手が居飛車党ならば自然な手。
 後手が居飛車の態度を明らかにしたため、あとは先手が飛車を振って対抗形か、矢倉を目指すかを決める。

 先手はここで▲6八銀と上がれば、▲7六歩△8四歩▲6八銀△3四歩に▲6六歩と進めたのと同じ局面、つまり矢倉の出だしで5手目▲6六歩を選んだのと合流する。
 だが、後手を居飛車党だと仮定すると、2手目△3四歩は「先手が居飛車だったら、自分は横歩取りか一手損角換わりを指そうと思っている」場合に指す手である。そこを先手が▲6六歩と角道を止め、後手の合意なしに戦型を矢倉に決めることを指して、この手順は「ウソ矢倉」と呼ばれる。

4手目

5手目

6手目

戦型

△8四歩

▲7六歩△3四歩▲6六歩△8四歩▲6八飛

▲6八飛

△8五歩

▲7六歩△3四歩▲6六歩△8四歩▲6八飛△8五歩

 ▲6八飛は四間飛車。△8五歩には、
  • (1)▲7七角が最も自然。
  • (2)▲7八金と上がって△8六歩▲同歩△同飛を誘い、あとで立石流を目指す手もなくはない。
 △8五歩▲7七角を決めるかどうかは好みの問題。決めれば先手が手損ながら向かい飛車に振り直す作戦が生じる。それが嫌なら△6二銀だし、気にならなければ△8五歩で問題ない。

対抗形

対抗形

△6二銀

▲7六歩△3四歩▲6六歩△8四歩▲6八飛△6二銀

 △6二銀は飛車先を決めないでおく手。定跡書ではこちらが多いイメージ。

対抗形

対抗形
▲7六歩△3四歩▲6六歩△8四歩▲7八飛

▲7八飛

△8五歩

▲7六歩△3四歩▲6六歩△8四歩▲7八飛△8五歩

 ▲7八飛は三間飛車。後手がすぐに△8五歩と突けば▲7七角と上がって飛車先を受けることになり、戦型はノーマル三間飛車になる。
 後手はこの局面になれば△8五歩▲7七角を決めることが多い。わざわざ先手に石田流への権利を与えることはないというわけだ。

対抗形

対抗形

△6二銀

▲7六歩△3四歩▲6六歩△8四歩▲7八飛△6二銀

 ▲7八飛に△6二銀なら、先手は▲7五歩と突いて石田流を目指すことが出来る。
 そもそも△8五歩と突けば▲7七角と上がるしかなく、石田流にすんなり組まれることはない。そこをあえて△6二銀と指したということは、後手は石田流退治が得意である可能性もある。

対抗形

対抗形

▲5八飛

△6二銀(△8五歩)

▲7六歩△3四歩▲6六歩△8四歩▲5八飛△8五歩

 ▲5八飛は中飛車。ただし角道を止めた中飛車を指す場合、このタイミングで振ることは少なく、▲7八銀~▲6七銀(~▲5六歩)まで組んでから▲5八飛という方が多い。

対抗形

対抗形
▲7六歩△3四歩▲6六歩△8四歩▲6八銀

▲6八銀

△6二銀(△8五歩)

▲7六歩△3四歩▲6六歩△8四歩▲6八銀△6二銀

 ▲7六歩△8四歩▲6八銀△3四歩▲6六歩△6二銀、つまり矢倉の出だしで5手目▲6六歩と突いた局面と同じだが、この手順で迎える場合は「うそ矢倉」と呼ばれる。まだ、先手の振り飛車もなくはない。
矢倉・雁木 対抗形

▲7八銀

△6二銀(△8五歩)

▲7六歩△3四歩▲6六歩△8四歩▲7八銀△6二銀

 昔は振り飛車を指すときでも、飛車を振る前に、このように銀を上がるものだといわれていた。これなら矢倉の含みも残るからである。

対抗形、矢倉

対抗形 矢倉・雁木

▲1六歩

△6二銀(△8五歩)

▲7六歩△3四歩▲6六歩△8四歩▲1六歩△6二銀

 藤井システムが流行していた頃に多く見られた。飛車を振る前に▲1五歩と突き越し、端のアドバンテージを得てしまおうとする順も見られる。

対抗形、矢倉

対抗形 矢倉・雁木
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b. △6二銀

▲7六歩△3四歩▲6六歩△6二銀
(KIFファイルのダウンロード)

 △6二銀は、後手が飛車先を保留して居飛車を目指す手。
 飛車先を突く手を省略し、その分の一手をどこか他の場所で使う構想を持っている。もちろんあとで△8四歩と突き、通常形に戻すこともあり得る。
 例えばここから▲6八銀でウソ矢倉を目指した場合、通常の矢倉の出だしと比較すると、後手は△8四歩の一手を省略できている。右四間で急戦を仕掛ければ、まるまる一手早いことになる。

 その一方、4手目△6二銀には▲7五歩や▲7八飛で石田流本組みを目指す変化が生じる。▲7五歩を見てから慌てて△8四歩と突いても、▲7八飛△8五歩に▲7六飛と浮いて飛車先が受かる。

 後手の居飛車党に対して、3手目▲6六歩にこの△6二銀なら石田流に組む、△8四歩ならウソ矢倉にするという作戦を、一時期の谷川浩司が多用していた。

4手目

5手目

6手目

戦型

△6二銀

▲7六歩△3四歩▲6六歩△6二銀▲6八銀

▲6八銀

△6四歩

▲7六歩△3四歩▲6六歩△6二銀▲6八銀△6四歩

 △6四歩は、先手のうそ矢倉模様に対し、飛車先不突き右四間飛車を志向している。この場合先手は▲5六歩~▲5七銀~▲6八飛と四間飛車で対抗する順も考えられる。

矢倉、対抗形

矢倉・雁木 対抗形

△5四歩

▲7六歩△3四歩▲6六歩△6二銀▲6八銀△5四歩

 △5四歩はほぼ矢倉になるが、後手が飛車先不突きである点と、陽動振り飛車の含みがあり、定跡形と少し違う。定跡形と比べ、後手は△8四歩の一手を他に使うか、突いて定跡形に戻すかの選択が可能。

矢倉、対抗形

矢倉・雁木 対抗形
▲7六歩△3四歩▲6六歩△6二銀▲5八金右

▲5八金右

△6四歩

▲7六歩△3四歩▲6六歩△6二銀▲5八金右△6四歩

 右四間飛車を矢倉で受ける気ならば、角が浮く▲6八銀より▲5八金右のほうが手堅い。以下▲4八銀△6三銀▲5六歩△5四銀▲6七金△6二飛▲7八金の要領で、▲7九銀型のまま待つ。

矢倉

矢倉・雁木

△5四歩

▲7六歩△3四歩▲6六歩△6二銀▲5八金右△5四歩

 矢倉の出だし。後手が飛車先不突きで進める。

矢倉

矢倉・雁木
▲7六歩△3四歩▲6六歩△6二銀▲6八飛

▲6八飛

△6四歩

▲7六歩△3四歩▲6六歩△6二銀▲6八飛△6四歩

 この場合、四間飛車対(ほぼ)右四間飛車。
 5手目は▲5八飛なら中飛車だが、角道を止める中飛車の場合は▲7八銀~▲6七銀(~▲5六歩)を指してから飛車を振る方が多い。

対抗形

対抗形

△5四歩

▲7六歩△3四歩▲6六歩△6二銀▲6八飛△5四歩

 △5四歩は飛車先不突きのまま、まずは囲い・玉頭方面に手をかける狙い。どこかで△8四歩と突けば通常形に戻すことも出来る。また、かまいたち戦法など5筋位取りを狙う作戦もある。
対抗形

△8四歩

▲7六歩△3四歩▲6六歩△6二銀▲6八飛△8四歩

 ▲7六歩△3四歩▲6六歩△8四歩▲6八飛△6二銀と同じ。
対抗形
▲7六歩△3四歩▲6六歩△6二銀▲7八飛

▲7八飛(▲7五歩)

▲7六歩△3四歩▲6六歩△6二銀▲7八飛(▲7五歩)

 4手目の△6二銀に対しては▲7八飛や▲7五歩とすると、必ず石田流に組める。この点が3手目▲6六歩の再評価に繋がった。
 ここで遅ればせながら△8四歩と突いても、▲7五歩と突いて、△8五歩に▲7六飛が間に合う。

 ▲7五歩の場合は、▲7六歩△3四歩▲7五歩△6二銀▲6六歩と同じ局面。▲7八飛の場合もいずれ合流する。

対抗形

対抗形
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c. △3五歩

▲7六歩△3四歩▲6六歩△3五歩
(KIFファイルのダウンロード)

 △3五歩は後手が石田流を目指す手。
 居飛車党が3手目▲6六歩を採用する際、まずこの出だしがネックになる。▲6六歩と形を決めているので、もはや早石田封じも何もなく、後手は石田流本組にしようと思えば必ず出来る。

 2010年代に入り、この出だしから▲向かい飛車△三間飛車の相振り飛車に進んだ際、菅井流と呼ばれる後手の急戦策が発見された。
 そればかりが原因ではないが、3手目▲6六歩は△3五歩から相振り飛車に持ち込まれると苦労が多いとされており、プロの採用例は減少している。

4手目

5手目

6手目

戦型

△3五歩

▲7八銀

△3二飛

▲7六歩△3四歩▲6六歩△3五歩▲7八銀△3二飛

▲7六歩△3四歩▲6六歩△3五歩▲7八銀△3二飛
 △3五歩は後手が三間飛車を目指した手。対して▲7八銀は先手がほぼ相振り飛車を受けた形。居飛車もあるが、もちろん定跡形ではなく力が要る。
 飛車をどこに振るかは先手の構想次第。後手は△3六歩▲同歩△同飛から△3四飛と浮き飛車に構えるのが基本だ。

【先手向かい飛車】

 先手が向かい飛車を目指すなら▲6七銀と上がる。次に▲7七角~▲8八飛という手順だ。
  • (1)△3六歩▲同歩に、
    • (a)△5五角と飛び出す手には、
      • 飛車を取らせてもいいなら、
        (ア)▲5六銀と催促する。
      • 飛車を振りたいなら、
        (イ)▲1八飛と一旦逃げておき、5五の角を追ってから飛車を振り直す。どちらの変化でも、後手が得だとは考えられていない。
    • したがって後手は、
      (b)△3六同飛が自然。
      • (ア)▲3七歩と手堅く飛車を追い返す手は普通。以下△3四飛▲7七角に、
        • △6二玉▲8八飛△7二玉なら駒組みになる。
        • △2四飛と意地悪をする手も考えられる。
      • 先手は歩を打たず、
        (イ)▲7七角と上がるほうが主流。▲3七歩を早めに打ってしまうと、あとで矢倉に組み替える含みがなくなるからだ。
        • △3四飛には▲8八飛で向かい飛車にできる。
        • △5五角と飛び出す手は、このタイミングでも考えられる。
          • この場合、先手は
            ▲3七歩と打つか、
          • ▲1八飛とかわして指すほうが良い。
          • ▲5六銀で飛車角交換にしようとするのは危険で、焦点の△3八歩がある。▲3八同金・▲同銀は△2八角成、▲3八同飛は△同飛成▲同銀△1九角成がある。△3八歩を取れないなら▲3七歩か▲5五銀だが、どちらも△3九歩成から2枚換えコースだ。
  • (2)△6二玉と玉を囲った際は、▲7七角△7二銀▲8八飛△7一玉が一例。
    • (a)▲4八玉と上がるのは危険で、すかさず△3六歩と突かれる。
      • (ア)▲3六同歩と取ると△5五角と出られ、角成りを受ける▲3七桂は△3六飛▲2八銀に△3四飛と引かれ、好機の△3六歩を狙われる。▲6五歩は△1九角成▲1一角成△2九馬で先手が悪い。
      • したがって△3六歩は取れず、
        (イ)▲2八銀と上がることになる。以下△3七歩成▲同銀△3六歩▲4六銀と進み力戦になる。
    • 一局だが危ない形でもあるため、先手は▲4八玉の前に
      (b)▲2八銀や
    • (c)▲3八銀と上がるのが定跡となっている。

【その他相振り】

 この出だしで向かい飛車以外に振るならば、
  • (1)▲6八飛の四間飛車が多い。
  • 三間飛車にするなら、
    (2)▲6七銀と上がり、△3六歩▲同歩△同飛に▲7八飛と振ることになるが、このあと△3四飛~△8四飛で△8七飛成を狙う筋があり、先手は注意が必要。更に、駒組みになっても先手が作戦負けしやすい。同じ三間飛車である分、後手が「角道が止まっておらず」「既に駒台に歩があり」「浮き飛車で軽い形をしている」という差が、如実に現れるわけだ。
  • (3)▲5八飛は、相振りで中飛車を指すなら▲6六歩を突かない形が主流であるため、ほぼ指されない。

【対抗形】

 居飛車なら▲4八銀が自然。ただ、△3六歩▲同歩△同飛と来たときに
  • (1)▲3七歩と受けると、
    • (a)△3四飛と引く手の他に、
    • (b)△6六飛と歩を取る手がある。▲6六同角△同角▲7七銀と進める手もあるものの、進んで飛び込む順ではない。
  • この△6六飛の筋を防ぐには
    (2)▲6七銀と上がるしかないが、そうなると居飛車でも玉は堅くしづらくなる。

相振り飛車、対抗形

相振り飛車 対抗形

▲4八銀

▲7六歩△3四歩▲6六歩△3五歩▲4八銀△3二飛

 先手が相振り飛車を嫌った。5手目▲7八銀から居飛車を指したときと同様、△3六歩▲同歩△同飛から△6六飛の筋があり、駒組みには制約がある。
  • (1)▲6八玉と上がると、いきなり△3六歩と突く手がある。
    • (a)▲3六同歩と取ると△同飛で、次の△6六飛は受からない。
    • これが嫌な場合は△3六歩を取らない手を指すことになる。とはいえ△5五角と足す手があるのであまり放置もできず、
      (b)▲3八飛、
    • (c)▲5六歩、
    • (d)▲3八金などが候補。
  • (2)▲5六歩が実戦例の多い手(5手目▲5六歩△3二飛▲4八銀から同じ局面になったものも含む)で、△5五角と出る筋を消している。
    • (a)△3六歩には、
      • (ア)▲3八飛と寄って△3七歩成を急かす、
      • (イ)▲同歩△同飛▲5七銀、
      • (ウ)▲3八金など。
         全体的に、先手の手得か、軽い後手かという将棋になる。△3六歩と突いた局面は1709年10月(江戸時代)の▲大橋宗銀△伊藤印達戦(宗銀・印達57番指しの中の一局)で指されていて、『イメージと読みの将棋観3』(『将棋世界』では2011年5月号掲載)でも取り上げられたことがある。先手持ちか後手持ちか、プロの見解も分かれている。
    • 後手がこれを面白くないと思えば
      (b)△6二玉、
    • (c)△4二銀、
    • (d)△3四飛などで駒組みになる。

対抗形

対抗形
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d. △3三角

▲7六歩△3四歩▲6六歩△3三角
(KIFファイルのダウンロード)

 △3三角は、後手が△2二飛の向かい飛車を狙う手である。

 1990年代後半から2000年代前半に増えたこの△3三角は、後手が角道を止めずに向かい飛車に振れることが好まれた。
 結果、相振り飛車においては三間飛車の採用数が減り、後手が向かい飛車に振る作戦が流行した。そのためこの時期は「相振り飛車は出来るだけ遠くに飛車を振った方がいい(つまり、向かい飛車>三間飛車>四間飛車>中飛車)」と考えられた。

 この4手目△3三角は有力であったため、振り飛車模様だったはずの先手が飛車を振らずに居飛車穴熊を目指す実戦例も増加し、2006年11月の王将戦リーグ▲藤井猛△谷川浩司戦では、相振り飛車を志向する谷川に対して、振り飛車党の藤井が居飛車穴熊に組む将棋になった。
 ただし、2000年代後半からは三間飛車が復権したこともあり、4手目△3三角の相振りは少なくなっている。

4手目

5手目

6手目

戦型

△3三角

▲7八銀

△2二飛

▲7六歩△3四歩▲6六歩△3三角▲7八銀△2二飛

▲7六歩△3四歩▲6六歩△3三角▲7八銀△2二飛
 後手向かい飛車。相振りのときに角道が開いているため、作戦の幅が広い。

【相向かい飛車】

 先手が向かい飛車に振ろうとするなら▲6七銀だ。
  • (1)△2四歩と突き、▲7七角に△2五歩と飛車先を伸ばすのが、後手の基本的な指し方。
    • (a)▲8八飛と振ると△2六歩▲同歩△同飛があるので、先手はすぐには飛車を振れない。
    • (b)▲4八銀と一旦上がり、
      • (ア)△4二銀に▲3六歩△6二玉▲3七銀と矢倉の屋根を作り、銀で2六の地点を受けてから▲8八飛と振ることで、ようやく相向かい飛車に確定する。
      • この▲3六歩~▲3七銀の筋を踏まえ、ここで後手が
        (イ)△3五歩と突き、▲3七銀型を作れなくする嫌がらせは考えられる。ただし、先手の振り飛車は防げても▲4六歩~▲4七銀~▲3六歩と反発する手が見え見えなので、後手としても怖い手だ。
  • 後手は飛車先を伸ばさず、
    (2)△4二銀と指す手もある。以下、
    • (a)▲7七角△6二玉▲8八飛なら相向かい飛車。
    • また、後手が飛車先を伸ばしてこなくても矢倉を目指し、
      (b)▲4八銀と上がる手もある。以下△6二玉▲3六歩に、
      • (ア)△7二銀▲3七銀△7一玉▲7七角△5四歩▲8八飛が相向かい飛車の一例。
      • (イ)△4四歩と突き、▲3七銀と上がったのを見て、△2四角と覗く手がある。これは先手の振り飛車をけん制した手だ。
        • ▲4六歩と受ければ4五に争点が出来るため、相振り飛車になっても、後々△4二飛~△3三桂~△4五歩が狙える。これが見え見えなので▲4六歩とは突きづらい。
        • ▲4六銀は△4五歩がある。
        • ▲5八飛はあくまで飛車を振るならという手だが、後々振り直すことになりそう。
        • ▲6八玉、
        • ▲5八金右は確実な手だが、先手は居飛車を指すことになる。

【その他】

  • (1)▲6八飛なら先手四間飛車、
  • (2)▲6七銀△2四歩▲7八飛なら先手三間飛車だ。
  • (3)▲4八銀は一見居飛車の手だが、前述のように▲3六歩~▲3七銀としてから飛車を振る手もあるので、判断は難しい。

相振り飛車、対抗形

相振り飛車 対抗形

▲7七角

▲7六歩△3四歩▲6六歩△3三角▲7七角△2二飛

 4手目△3三角の場合、先手には5手目を▲7七角に代える手がある。左銀の位置を保留している意味があり、先に▲8八飛と振ってそれから銀を動かせば、7八だけでなく6八に上がる余地がある。居飛車にするにしても穴熊の余地があるというわけだ。
 しかし、△2二飛に
  • (1)▲8八飛とすぐ飛車を振ると、△2四歩▲6八銀△2五歩▲2八銀△2六歩▲同歩△同飛と進められ、▲2七歩には△6六飛の筋がある。
  • そこで、すぐに飛車を振らずに
    (2)▲3六歩と突く。知らないと指しづらい。
    • (a)△5五角が一目気になるが、▲1八飛と寄り、△2四歩▲4八銀△2五歩▲3七銀で▲3七銀型が作れるので大丈夫。
    • (b)△2四歩には▲4八銀△2五歩▲3七銀で2六の地点を受け、それから▲8八飛と振る。
    • 上記の通り、後手は△2四歩~△2五歩と伸ばしても▲4八銀~▲3七銀で受けられるのだから、
      (c)△4二銀と飛車先を保留して進める手もある。

相振り飛車、対抗形

相振り飛車 対抗形

▲4八銀

▲7六歩△3四歩▲6六歩△3三角▲4八銀△2二飛

 ▲4八銀は居飛車に見えるが、▲3六歩~▲3七銀として矢倉の銀を設置してから飛車を振る指し方があるので、どちらともいえない。もちろん居飛車のまま指すのもありで、先手はいろんな構想がある。

相振り飛車、対抗形

相振り飛車 対抗形
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e. その他の進行

▲7六歩△3四歩▲6六歩△その他
(KIFファイルのダウンロード)

 △3二飛は、相振り飛車に進んだ際に△3五歩を決めていないほうが得という考えのもとに指される。菅井流の出現以降は、再度△3五歩と伸ばす方が増加した。

 △5四歩は、最終的に飛車を振るつもりだが、その前に△4二銀~△5三銀と構えてしまい、それから△3三角~△2二飛、または△3二飛と飛車を振る狙い。

 △4四歩は、相振り飛車で後手が四間飛車や向かい飛車を目指す際に、かつて指されていた手。
 現代の序盤は「角道が開いているほうが得」と考えられることが多く、先手の角道が止まっているのに後手もお付き合いして角道を止める手は、やや古い考え方である。

 △4四角は、4手目△3三角同様に相振り飛車狙い。

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

▲6六歩

△3二飛

▲7八銀

△6二玉

▲7六歩△3四歩▲6六歩△3二飛▲7八銀△6二玉

 △3五歩を突くことで形が決まってしまうこともあるため、先に飛車を振る手もある。

相振り飛車、対抗形

相振り飛車 対抗形

▲4八銀

▲7六歩△3四歩▲6六歩△3二飛▲4八銀△6二玉

 先手が居飛車を目指すとすれば▲4八銀。▲4六歩から▲4七銀と上がるのがひとつの形。

対抗形

対抗形

△5四歩

▲7八銀(▲6八銀・▲7七角)

△4二銀

▲7六歩△3四歩▲6六歩△5四歩▲7八銀△4二銀

 狙いは△3三角~△2二飛の後手向かい飛車だが、飛車を振る前に△5三銀型を作ってしまおうという指し方。まだ矢倉にならないこともない。

相振り飛車、対抗形、矢倉

相振り飛車 対抗形 矢倉・雁木

△4二玉

▲7六歩△3四歩▲6六歩△5四歩▲7八銀△4二玉

 居飛車へ変化。

対抗形、矢倉

対抗形 矢倉・雁木

△4四歩

▲7八銀(▲6八銀)

△3二銀(△4二銀・△3二飛)

▲7六歩△3四歩▲6六歩△4四歩▲7八銀△3二銀

 相振り飛車で後手が向かい飛車や四間飛車を目指す際、以前は4手目に△4四歩と突き、先手と同じように飛車を振っていた。しかし、向かい飛車にするつもりなら角道が開いていて積極的な4手目△3三角が発見され、現在ではあまり見られない出だしである。
 双方の駆け引きによっては、ここから矢倉になる可能性も考えられる。

相振り飛車、対抗形

相振り飛車 対抗形 矢倉・雁木

▲4八銀

▲7六歩△3四歩▲6六歩△4四歩▲4八銀△3二銀

 先手居飛車模様だが、駒組み次第である。

対抗形、相振り飛車、矢倉

対抗形 相振り飛車 矢倉・雁木

△4四角

▲7六歩△3四歩▲6六歩△4四角

 4手目△3三角と同じ相振り飛車狙いだが、より角をいい位置へ持っていこうとする手。棒銀で2筋を突破できれば早い。プロでも2006年1月棋聖戦▲藤井猛△鈴木大介戦がこの出だし。
 先手が居飛車の場合は向かい飛車に振り、▲2五歩型には△3三銀~△2四歩、▲2六歩型には△3三桂~△2四歩~△2五歩、飛車先不突には振り飛車から△2五歩まで伸ばして戦うのが主な狙い。

対抗形

相振り飛車 対抗形
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1-3. ▲7六歩△3四歩に▲7五歩 (先手早石田)

▲7六歩△3四歩に▲7五歩

 先手早石田/石田流の出だし。
 江戸時代の棋士、石田検校が創始者と言われている。(*)

 早石田は奇襲戦法の最たるものとして知られている。飛車と角を振り回す破壊力の大きな攻め筋で、アマチュアにおいては初心者相手のハメ手として指されているが、プロでは無理筋として長年省みられない戦型であった。

 しかし1971年、名人・大山康晴と挑戦者・升田幸三で行われた第30期名人戦において、升田が早石田を改良した『升田式石田流』を連採。名人戦では惜しくも敗れたものの、本格戦法としての道筋をつけ、アマチュアで大人気の戦法となった。ただし、プロにおいては手詰まりになりやすいことと、石田流に組んでも棒金という天敵が存在したため、長らく流行することはなかった。

 しかし2004年度に鈴木大介、2008年度に久保利明がこの戦型で新手を出し升田幸三賞を受賞。手詰まりの打開法や棒金への対抗策も編み出された。久保はタイトル(棋王)も奪取し、2010年には中飛車一本であった女流の里見香奈も参戦するなど、早石田/石田流は2手目△3四歩に対する先手振り飛車の有力戦法と見られている。

 居飛車の応手は、アマチュア間では「早石田封じ」として△4二玉や△5四歩がよく解説される。『将棋世界』2010年4月号・『イメージと読みの将棋観』による6棋士の見解によると、△8四歩が最も強く対応する手、△4二玉や△6二銀は穏やかな手、△5四歩は相振り飛車をする気でないと指せない手だとされている。


 『温故知新』によれば、石田検校が創始者であるという説は1707年出版の定跡書『象戯綱目』の、▲7六歩△3四歩▲7五歩△4四歩▲7八飛△4二飛の駒組みを解説した部分に書いてあるという。
 一方、増川宏一『〈大橋家文書〉の研究』によれば、「大橋家文書」の中には初代宗桂が石田流本組を指している途中図が載っているものがあるという(1610年の初代宗桂×本因坊算砂の将棋で、棋譜はない)。これに従えば、少なくとも石田流本組の形については以前からあったということになる。
 だが戦法に人の名前がつく場合、「初めて指した」よりも、「よく指している印象が強い」とか「その戦法でよく勝っている」というようなインパクトのほうが重要である。石田流も「使い手が目の不自由な強豪である」のはインパクトのある話であり、それで徐々に石田検校が創案したという話になっていったのではないか。江戸時代後半の定跡書である『象戯指南車』や『将棋歩式』になると、見出し自体が「石田流」「石田」と書かれるようになっており、この頃には名称が定着したことが伺われる。
 なお、出だし(3手目▲7五歩/4手目△3五歩)や▲7四歩△同歩▲2二角成△同銀▲5五角の仕掛けについては、まだ石田検校が創案した可能性も否定できない。

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a. △8四歩

▲7六歩△3四歩▲6六歩△8四歩
(KIFファイルのダウンロード)

 飛車先を突く△8四歩は、「石田流本組にはさせない」意志を持った手である。

 ここで先手が▲6六歩と突くと、△8五歩▲7七角を決められて石田流本組が遠くなる。石田流本組を目指すには断固▲7八飛だが、そこで△8五歩と突いたところが先後共に覚悟のいる局面。
 ここまで進んでしまうと、もはや先手は角道を止めない石田流しか選択できない。古くは升田式石田流が主流だったが、鈴木流の▲7四歩、▲4八玉から久保流急戦、▲7六飛の菅井新手など、現代では先手に様々な工夫がある。

4手目

5手目

6手目

戦型

△8四歩

▲7八飛

△8八角成

▲7六歩△3四歩▲7五歩△8四歩▲7八飛△8八角成

 ▲7八飛を見て△8八角成と角交換するのは、対早石田の基本手筋。以下▲8八同銀に△4五角と打って、△6七角成と△2七角成を狙う。この戦型では形を変えながら頻出する、必須の変化である。
 ただし、この場合は▲7六角と打ち返すのが先手の反撃手段。以下△2七角成▲4三角成は、先手の馬の位置のほうが良く先手有利。

対抗形(先手石田流)

対抗形

△8五歩

▲7六歩△3四歩▲7五歩△8四歩▲7八飛△8五歩

▲7六歩△3四歩▲7五歩△8四歩▲7八飛△8五歩
 △8四歩~△8五歩は早石田を積極的に咎めに行った手順。石田流本組を拒否している。後手は当然、先手も勇気と研究が必要な変化になる。現在のところ、7手目は▲4八玉、▲7四歩、▲7六飛が有力。

【▲4八玉】

 一旦▲4八玉と上がるのが基本。この戦型は、何かと王手飛車の筋が発生するためでもある。
  • (1)△8六歩▲同歩△同飛は、以下▲7四歩△同歩▲2二角成△同銀▲9五角の王手飛車で一丁上がり。
     したがって△8六歩は成立しない。この順が早石田の基本である。
  • (2)△6二銀に、
    • (a)▲3八玉なら升田式石田流。
    • (b)▲7四歩と突くのが、早石田の攻め筋。
      • (ア)△7四同歩ならば、▲2二角成△同銀▲5五角△7三銀▲7四飛△6四角▲7三飛成△5五角▲8二竜△同角▲8三飛△7二金▲8五飛成と進める。
      • 後手は△7四同歩ではなく、
        (イ)△7二金が本手。
        • ▲7三歩成△同銀▲2二角成△同銀▲5五角と勢いに乗って攻めるのは、△3三角▲7三角成△同金▲7四歩△8三金▲7三銀に△3二飛で攻めが続かない。
        • ▲7五飛と浮くのが、升田賞を受賞した久保流である。
          • 第1号局の2009年2月棋王戦第2局▲久保利明△佐藤康光戦では、
            △4二玉▲7三歩成△同銀▲2二角成△同銀▲7七桂と進行。
          • △7四歩も有力で、以下▲4五飛△3二金▲2二角成△同銀▲5五角または▲7四同飛△7三銀▲3四飛△8八角成▲同銀△4五角が一例。なお、早石田の戦型では成立・不成立関係なく▲7四歩~▲5五角の筋がいつでも考えられる。

【▲7四歩】

 ▲7四歩は何が何でも急戦を狙う手。
 △7四同歩に、
  • (1)▲2二角成△同銀▲5五角は、
    • (a)△3三角で受かる。
    • (b)△6五角と反撃で打つ手もある。
  • (2)▲7四同飛が鈴木大介の新石田流。△8八角成▲同銀△6五角で悪いとされて長らく顧みられない手であったが、▲5六角と打ち返す手を鈴木が発見した。以下、△7四角▲同角△6二金▲7七角△4四歩が一例。
  • 一旦、
    (3)▲5八玉や、
  • (4)▲4八玉と上がっておき、次に▲7四飛を狙う手もある。以下△7二飛▲2二角成△同銀▲8三角△5四角が一例。

【▲7六飛】

 この飛車浮きは、次に▲7七桂や▲6六歩と突いて、石田流本組に組むことを狙っている。これが通ると、何のために△8四歩~△8五歩と指したのかわからなくなってしまう。
  • (1)△6二銀では▲7七桂や▲6六歩とされて、一局の将棋ながら先手の主張が通った形になる。
  • (2)△8八角成▲同銀と角交換し、
    • (a)△4五角と打つ。以前はそれで後手良し、解説打ち切りであった。
       だが、2010年11月王位戦予選▲菅井竜也△谷川浩司戦では、その先▲6六飛△2七角成に▲7四歩△同歩▲5五角△2二銀▲3六歩△2六馬▲5八玉△5四歩▲8二角成△同銀▲6三飛成と進め、先手もやれることを見せた。
    • それを踏まえた2011年2月棋王戦第1局▲久保利明△渡辺明戦では角を打たず、
      (b)△2二銀▲7七桂△3三銀▲7四歩△同歩▲4六角と進行している。

対抗形(先手石田流)

対抗形

△6二銀

▲7六歩△3四歩▲7五歩△8四歩▲7八飛△6二銀

 ▲4八玉に△8五歩と突けば上と同じだが、4手目に強く対応する△8四歩と突いたからには6手目は△8五歩と伸ばす手が多く、△6二銀の実戦例は多くない。これだと△8四歩型が中途半端でもあり、例えばここからすぐ▲7四歩と仕掛けてきた際、王手をかけながら7三を受ける△9五角の筋がない。(△8四歩が邪魔)
 ▲7四歩に、△同歩▲2二角成△同銀▲5五角△7三銀▲7四飛以下は6手目△8五歩に▲4八玉△6二銀▲7四歩以下の進行を参照。△7二金と上がって受けるのも同様。

対抗形(先手石田流)

対抗形

▲6六歩

△8五歩

▲7六歩△3四歩▲7五歩△8四歩▲6六歩△8五歩

 一旦▲6六歩と止めるのは、すかさず△8五歩と突かれる。8六を受けるには▲7七角と上がるしかないが、以下石田流にするまでは時間がかかる。(▲7八銀~▲6七銀~▲7八飛~▲6八角~▲7六飛でも4手かかる。)
 ただしメリケン向かい飛車と呼ばれる戦法があり、先手が最初からそれを目指している可能性もある。

対抗形(先手石田流)、居飛車力戦

対抗形 居飛車力戦
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b. △4二玉

▲7六歩△3四歩▲7五歩△4二玉
(KIFファイルのダウンロード)

 △4二玉は、俗に『早石田封じ』と呼ばれる手である。

 ▲7八飛には、△8八角成▲同銀△4五角の狙いがある。このとき△4二玉が4三の地点をカバーしており、手筋の反撃・▲7六角が利かない(△2七角成に▲4三角成と出来ない)のが含みになっている。

 ▲7八飛△8八角成▲同銀△4五角以下も変化はあり、あっさり居飛車優勢・必勝という定跡ではないが、プロの実戦例は△4二玉に対し一旦▲6六歩と角道を止める手が大勢を占める。以下は先手が石田流本組を目指す将棋になり、プロにおいて4手目△4二玉は穏やかな進行を選びたいときの手とされている。

4手目

5手目

6手目

戦型

△4二玉

▲7八飛

△8八角成

▲7六歩△3四歩▲7五歩△4二玉▲7八飛△8八角成

▲7六歩△3四歩▲7五歩△4二玉▲7八飛△8八角成▲同銀△4五角
 △4二玉にも、先手が強情に▲7八飛と振る手は考えられ、後手は△8八角成▲同銀に△4五角と反撃する。前述のように▲7六角がないので、先手は6七を受けるために▲5八玉か▲6八金とする必要がある。
  • (1)▲5八玉は、△2七角成▲7四歩△同歩▲5五角△3三桂▲7四飛△7三歩▲3四飛△3二金▲3六歩△2六馬▲3五飛△5四歩▲7七角△5二飛が一例の乱戦となる。
  • (2)▲6八金も考えられる。その場合は△2七角成▲7四歩△同歩▲5五角△3三桂▲7四飛△7三歩▲3四飛△3二金に、▲3六飛が『島ノート』で解説される手順。

対抗形(先手石田流)

対抗形

▲6六歩

△6二銀

▲7六歩△3四歩▲7五歩△4二玉▲6六歩△6二銀

 上記の変化を避け、プロではほとんど▲6六歩と角道を止め、持久戦に進む。

対抗形、居飛車力戦

対抗形 居飛車力戦

▲6八飛

▲7六歩△3四歩▲7五歩△4二玉▲6八飛△6二銀

 ▲7五歩としておいて四間飛車ではちぐはぐな気もするが、一旦△6五角の筋を消し、駒組みが進んだところで石田流または立石流に構える指し方。

対抗形

対抗形

▲2六歩

△3二金

▲7六歩△3四歩▲7五歩△4二玉▲2六歩△3二金

 △4二玉には「先手を振り飛車と決め付けている」意味もあるので、裏をかき居飛車に変化する順もある。△3二金は一例で、以下▲2五歩△8八角成▲同銀△2二銀から一手損角換わりに進んだのが2006年8月のB1順位戦▲森雞二△野月浩貴。

居飛車力戦

居飛車力戦
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c. △5四歩

▲7六歩△3四歩▲7五歩△5四歩
(KIFファイルのダウンロード)

 △5四歩も、4手目△4二玉同様、俗に『早石田封じ』と呼ばれる手。
 ▲7八飛には△8八角成▲同銀△4五角を狙っているのも同じで、△5四歩が4三への利きを遮っているため、手筋の▲7六角が利かない。

 △5四歩にも、先手は▲6六歩と突いて角道を止める実戦例が多数。以下は駒組みになるが、△5四歩と突く後手は相振り飛車を目指しているケースが多い。

4手目

5手目

6手目

戦型

△5四歩

▲7八飛

△8八角成

▲7六歩△3四歩▲7五歩△5四歩▲7八飛△8八角成

▲7六歩△3四歩▲7五歩△5四歩▲7八飛△8八角成▲同銀△4五角
 △4二玉同様早石田封じ。もちろんそれでも▲7八飛と振る手はあり、その対応も△4二玉の時と同様、角交換から△4五角である。
 以下▲8八同銀△4五角に、△5四歩が邪魔をして▲7六角が利かないというのが△5四歩の意味。
 代わりに▲8五角があり、
  • (1)△2七角成に▲6三角成△6二銀▲8五馬△4五馬と、馬を作りあう展開が古い定跡だった。
  • しかし最近では、
    (2)△8四歩と突いて馬を先に作らせるのが定跡となっている。以下▲6三角成に△5二金右と当て、▲6四馬に△6二飛▲4六馬を決めてから△6七角成と後手も馬を作る進行が有力と考えられている。

対抗形(先手石田流)

対抗形

▲6六歩

△6二銀

▲7六歩△3四歩▲7五歩△5四歩▲6六歩△6二銀

 ▲6六歩は上の変化を避けて穏便。プロはこちらを選択することが多い。
 後手が居飛車で指すならば△6二銀や△8四歩だが、のちのち先手が石田流本組まで進んだとき、4手目に△5四歩と突いたせいで▲9七角が自陣に直射するデメリットがある。

対抗形

対抗形

△4二銀

▲7六歩△3四歩▲7五歩△5四歩▲6六歩△4二銀

 上記のように△5四歩からの居飛車はデメリットがある。そのためそもそも△5四歩を突く後手は、▲6六歩には△4二銀から相振り飛車を目指してくることが多い。以下△5三銀から、
  • (1)△3三角~△2二飛の向かい飛車、
  • (2)△3二飛の三間飛車で、△5三銀型の相振り飛車にするのが狙い。ただ、一応対抗形の可能性も残っている。

相振り飛車、対抗形

相振り飛車 対抗形
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d. △6二銀

▲7六歩△3四歩▲7五歩△6二銀
(KIFファイルのダウンロード)

 △6二銀は穏やかな手。
 ただし、▲7八飛と振っても△8八角成▲同銀△4五角の筋はない。△6二銀が飛車の横利きを止めているため、▲5五角と打たれて1一の香取りが受からず後手が失敗する。

 というように▲7八飛でも問題はないが、後手の次の手は△6四歩か△4二玉の持久戦模様であることが多いので、先手は△6二銀にも▲6六歩と突いてしまうことが多い。

4手目

5手目

6手目

戦型

△6二銀

▲7八飛

△6四歩

▲7六歩△3四歩▲7五歩△6二銀▲7八飛△6四歩

 早く△6三銀型を作り、手堅く7四を受ける順。先手も居玉では▲7四歩と行きづらく、▲6六歩と止めて駒組みを進めることが多い。

対抗形(先手石田流)

対抗形

△4二玉

▲7六歩△3四歩▲7五歩△6二銀▲7八飛△4二玉

 △6二銀+早石田封じの組み合わせ。
  • (1)▲4八玉には△8八角成▲同銀△4五角があるので、
  • (2)▲6六歩と角道を止めることが多く、4手目に△4二玉と指したのとほぼ同じ進行になる。
  • (3)▲7四歩と強引に来た場合は、△3二玉と寄るのが最も穏便。以下、
    • (a)▲2二角成△同銀▲5五角には△8八角成▲同銀△4五角は居飛車も強く出た手。
    • (b)▲7三歩成△同銀▲同飛成△同桂▲同角成△7二飛▲同馬△同金の変化は乱戦。

対抗形(先手石田流)

対抗形

△5四歩

▲7六歩△3四歩▲7五歩△6二銀▲7八飛△5四歩

 上に同じく早石田封じの組み合わせだが、この場合先手が7手目▲4八玉と指しても△8八角成~△4五角の筋はない。△6二銀の罪で、▲7七角と打ち返せば香取りが受からなくなるからだ。

対抗形(先手石田流)

対抗形

▲6六歩

△8四歩

▲7六歩△3四歩▲7五歩△6二銀▲6六歩△8四歩

 5手目▲7八飛と指しても結局▲6六歩と突くようなら・・・と、先に突いておく手も多い。以下▲7八飛△8五歩▲7六飛が一例。

対抗形

対抗形

△6四歩

▲7六歩△3四歩▲7五歩△6二銀▲6六歩△6四歩

 △6三銀型を目指す順。以下▲7八飛△6三銀▲4八玉△4二玉から駒組みが続く。

対抗形

対抗形 居飛車力戦

△4二玉

▲7六歩△3四歩▲7五歩△6二銀▲6六歩△4二玉

 ▲7六歩△3四歩▲7五歩△4二玉▲6六歩△6二銀と同じ局面。
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e. △8八角成

▲7六歩△3四歩▲7五歩△8八角成
(KIFファイルのダウンロード)

 △8八角成は石田流封じと呼ばれる手。
 角交換して角を手持ちにする形になれば、▲7八飛と振った瞬間に△4五角があるのが狙いで、先手はすんなりと石田流を目指せない。

 先手はまず▲同銀か▲同飛かが問題。どちらにしても後手は△4五角の筋を見せながら戦うことになる。最近は▲同銀の実戦例が多い。

4手目

5手目

6手目

戦型

△8八角成

▲7六歩△3四歩▲7五歩△8八角成▲同飛

▲同飛

△4五角

▲7六歩△3四歩▲7五歩△8八角成▲同飛△4五角

 △8八角成は、簡単には石田流にさせない手。対する▲8八同飛は、久保利明が薦める取り方だ。将棋世界2010年5月号の講座『さばきのエッセンス』で、久保は「(▲同銀で悪くないという説もあるが)▲8八同飛と取って勝ちたい気持ちもある。この気持ちは振り飛車党の方には分かっていただけるのではないか」と語っている。
 以下▲7六角△4二玉と進む。そこで▲3八銀か▲3八金か。また、△4二玉に代えて△2七角成▲4三角成は、馬の位置の差で先手が良い。

【▲3八銀】

 美濃囲いを狙う、突っ張った手。
  • (1)プロ編入試験第3局▲久保利明△瀬川晶司戦では△5四角▲7八飛△4四歩▲1六歩△6二銀以下持久戦になった。
  • (2)2010年2月棋王戦第3局▲久保利明△佐藤康光戦では▲3八銀型を咎めに行き、△5四角▲7八飛△7六角▲同飛△2八角と進行。以下▲5五角△3三桂▲7四歩△同歩▲8二角成△同銀▲1八飛に△3九角打と繋ぐ。先手は角を取れば駒得になるが、▲1八飛が働くかどうか、という将棋だ。

【▲3八金】

 3八に上がるのが金ならば、△5四角▲7八飛△7六角▲同飛△2八角の筋がないので、以下△5四角▲同角△同歩▲6八銀から駒組みになった。美濃囲いには組めないが、手堅い手といえる。

対抗形

対抗形

△4二玉

▲7六歩△3四歩▲7五歩△8八角成▲同飛△4二玉

 ▲6八銀で△4五角を防ぎ、以下向かい飛車で駒組みを進める。

対抗形

対抗形
▲7六歩△3四歩▲7五歩△8八角成▲同銀

▲同銀

△4二玉

▲7六歩△3四歩▲7五歩△8八角成▲同銀△4二玉

 △8八角成を▲同銀なら、すぐの△4五角はない。以下は、
  • (1)▲6八飛から駒組みをするのが一般的だが、
  • (2)▲7八金から居飛車に変化する手も指されている。
  • (3)▲7八飛と意地を張り、△4五角▲5八玉△2七角成▲7四歩△同歩▲5五角を敢行した将棋もある。これは4手目△4二玉に▲7八飛の変化と合流する。
 ▲8八同銀で悪くないと主張しているのは鈴木大介。「振り飛車党はチームワークが悪い」といわれる所以である。

対抗形、居飛車力戦

対抗形 居飛車力戦

△2二銀

▲7六歩△3四歩▲7五歩△8八角成▲同銀△2二銀

 形を決めない手。以下▲7七銀△8四歩▲8八飛が、1970年9月王将戦L▲升田幸三△内藤國雄戦。△4五角は▲7六角△4二玉▲3八銀(金)で受かる。後手の振り飛車も考えられる。

対抗形、相振り飛車、居飛車力戦

対抗形 相振り飛車 居飛車力戦

△5四歩

▲7六歩△3四歩▲7五歩△8八角成▲同銀△5四歩

 この△5四歩に対して
  • (1)▲7八飛と振ると、後手は△4五角と打つ。これは4手目△5四歩から▲7八飛△8八角成▲同銀△4五角の変化と合流。この変化は先手が避ける傾向がある。
  • 三間飛車にしたいのであれば一旦、△4五角の筋がない
    (2)▲6八飛と振っておき、玉を囲ってから▲7八飛と振り直すことになる。
  • 先手が手得を生かそうとする作戦として、
    (3)▲7七銀という手もある。これは石田流ではなく向かい飛車や中飛車を目指した手だが、
    • (a)△6五角と打つ筋がある。先手は▲5六角と合わせ、△8七角成▲7八金△5五歩▲3四角△5四馬▲2三角成△2二銀に、▲2四馬か▲3四馬かという将棋だ。
    • △6五角と打っても後手だけ馬を作れるわけではないため、
      (b)△8四歩と穏やかに指しても一局。これには一旦▲5六歩と突いて△4五角と△6五角の筋を緩和し、それから▲8八飛の向かい飛車か、▲5八飛の中飛車を選ぶことになる。

対抗形、相振り飛車、居飛車力戦

対抗形 相振り飛車 居飛車力戦
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f. △1四歩

▲7六歩△3四歩▲7五歩△1四歩
(KIFファイルのダウンロード)

 4手目△1四歩は、2012年になってから多用されるようになった石田流対策。
 先手が▲1六歩と受ければ、後々の端攻めを見越して相振り飛車を目指し、受けなかった場合は△1五歩の突き越しを狙っている。

 この思想自体はゴキゲン中飛車の丸山ワクチン+佐藤流から来ている。

4手目

5手目

6手目

戦型

△1四歩

▲7八飛

△4二玉

▲7六歩△3四歩▲7五歩△1四歩▲7八飛△4二玉

▲7六歩△3四歩▲7五歩△1四歩▲7八飛△4二玉
 初志貫徹の▲7八飛に対しては、居飛車の場合は一旦△4二玉と上がる。
 この手は4手目△4二玉と同様、次に△8八角成▲同銀△4五角を狙っているので、先手がその筋を▲6六歩や▲5八金左で受ければ、△1五歩と突き越して当初の目的は達成される。

対抗形

対抗形

△8八角成

▲7六歩△3四歩▲7五歩△1四歩▲7八飛△8八角成

▲7六歩△3四歩▲7五歩△1四歩▲7八飛△8八角成▲同銀△3二銀
 △8八角成と角交換し、▲同銀に△3二銀(図)と上がるのが、西尾流と呼ばれる指し方。この手筋はゴキゲン中飛車の丸山ワクチン+佐藤流に始まり、角交換振り飛車系の将棋では頻出する。
  • (1)▲1六歩なら△4五角と打つ。▲2二角には△1三香と上がれるので、香を取られないという意味だ。
  • これを防ぐなら、
    (2)▲5八金左や、
  • (3)▲6八金で6七を補強することになるが、そこで後手が△1五歩と突き越すことが出来る。

対抗形

対抗形

△1五歩

▲7六歩△3四歩▲7五歩△1四歩▲7八飛△1五歩

▲7六歩△3四歩▲7五歩△1四歩▲7八飛△1五歩
 ストレートに△1五歩と突き越す。
  • (1)▲4八玉には△8八角成▲同銀△4五角▲7六角△2七角成▲4三角成と進め、△3二金か△3二銀で馬を追うことになる。そのあとに△1六歩の攻め(▲同歩なら△1八歩)があるのが後手の狙いだ。
  • この筋を防ぐなら、
    (2)▲6六歩と角道を止めるか、
  • (3)▲5八金左と6七を受けるかということになる。以下、△5四歩や△3五歩からの相振りか、△4二玉や△6二銀で居飛車か。

相振り飛車、対抗形

相振り飛車 対抗形

▲1六歩

△5四歩

▲7六歩△3四歩▲7五歩△1四歩▲1六歩△5四歩

 先手が▲1六歩と受ければ、端を攻めやすくなるので後手は相振り飛車にすることが多い。
 4手目△5四歩に1筋の突き合いを入れた形。

相振り飛車、対抗形

相振り飛車 対抗形

△3五歩

▲7六歩△3四歩▲7五歩△1四歩▲1六歩△3五歩

 4手目△3五歩に1筋の突き合いを入れた形。

相振り飛車、対抗形

相振り飛車 対抗形

△4二玉

▲7六歩△3四歩▲7五歩△1四歩▲1六歩△4二玉

 4手目△4二玉に1筋の突き合いを入れた形。

対抗形

対抗形
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g. その他の進行

▲7六歩△3四歩▲7五歩△その他
(KIFファイルのダウンロード)

 △3五歩は、後手も三間飛車を目指す手。ほぼ相三間飛車の相振りに進行する。

 △4四歩は、後手が角道を止めて穏便に指す手。
 3手目▲7五歩に対して相振りを目指す場合は△5四歩や△3五歩が多く、△4四歩は乱戦を避ける意味が強い。角交換していないために先手の飛車が自由なので、飛車を振り回されるなど、しばらく好き勝手される覚悟は必要だ。

 △6四歩は2014年に現れた新手。

 △4二飛は角交換四間飛車を目指す手。

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

▲7五歩

△3五歩

▲7八飛

△3二飛

▲7六歩△3四歩▲7五歩△3五歩▲7八飛△3二飛

▲7六歩△3四歩▲7五歩△3五歩▲7八飛△3二飛
 △3五歩は相三間飛車を志向した手。以下、
  • (1)先手は▲2八銀か▲5八金左と指し、後手も同じように△8二銀か△5二金左と上がって駒組みするのが基本。
  • (2)▲7四歩と突いたときの変化も基本定跡。△7四同歩▲同飛に、△3六歩▲同歩△8八角成▲同銀△5五角▲7七角△1九角成▲1一角成に△7二香で飛車を殺され先手が悪くなる。しかし、▲7四歩の前に1筋の突き合い(▲1六歩△1四歩)を入れておくと、△7二香には▲1四飛と逃げられるので話が変わる。
  • (3)▲2二角成△同銀▲6五角には△3四角と打ち、▲8三角成△6七角成は後手の馬のほうがいい位置にいる。

相振り飛車

相振り飛車

△4四歩

▲7八飛

△3二銀

▲7六歩△3四歩▲7五歩△4四歩▲7八飛△3二銀

 穏便な相振り飛車で戦う場合はこの手が多い。居飛車だと角道を止めたことになるので作戦を狭めた感じが強い。
 後手で向かい飛車をするつもりでいて、ここから▲7六飛△3三角と進めたときに、▲8六飛とされて「飛車が振れない」と、手が止まったことがある。それでも相振りにしたければ、△8四歩~△7二銀~△8三銀としてから飛車を振る感じだろうが、先手には飛車を振り回して後手陣を乱しにかかる作戦がある。

相振り飛車、対抗形

相振り飛車 対抗形

△6四歩

▲7八飛

△8八角成

▲7六歩△3四歩▲7五歩△6四歩▲7八飛△8八角成

 △6四歩は、2014年に現れた新手法。▲7八飛に対してはこれまでの習いの通り、△8八角成▲同銀として△4五角と打つ。
 ▲7六角は習いの受けだが、そこで△6五歩と突くのが後手の狙いだ。
  • (1)▲6五同角にはそこで△4二玉と上がって▲4三角成を受けておき、一歩損だが次に6七と2七の両成りが残る。以下▲5六角△2七角成▲3四角△3二玉が一例。
  • (2)▲3八銀なら△6二飛で力戦だ。

相振り飛車、対抗形

相振り飛車 対抗形

▲6六歩

△4二玉

▲7六歩△3四歩▲7五歩△6四歩▲6六歩△4二玉

 ▲6六歩と角道を止めた場合は一旦△4二玉と上がっておく。
  • (1)▲7八飛を見て△6二飛と回るのが、山本真也流の石田封じ。次に△6五歩を狙って乱戦になるが一局。
  • それを先手が警戒するなら、
    (2)▲6八飛が穏便。

相振り飛車、対抗形

相振り飛車 対抗形

△4二飛

▲7八飛

△8八角成

▲7六歩△3四歩▲7五歩△4二飛▲7八飛△8八角成

▲7六歩△3四歩▲7五歩△4二飛▲7八飛△8八角成▲同銀
 △4二飛は角交換四間飛車。▲2二角成△同銀▲6五角の筋がない振り場所はここしかない。
 そして先手が▲7八飛と振ると、逆に後手から△8八角成▲同銀△4五角の筋がある。これで悪くなると、先手は5手目に▲7八飛と指せない。

【▲8八同銀に△4五角】

△4五角に対し、
  • (1)▲7六角は利かない。4手目△4二玉と同様、△4二飛が既に4三を受けているからだ。
  • (2)▲5六角と合わせる手はある。
    • (a)△2七角成は、先手も▲8三角成。そこで△5四馬には同じく▲5六馬と引き、△4四馬に▲8六歩から8筋を伸ばしていく構想が有力。
    • この進行が嫌なら
      (b)△5六同角▲同歩と交換してしまい、5筋を突かせたと思って駒組みに戻るくらい。
  • (3)▲5八玉と一旦上がって6七を受ける手が有力で、△2七角成に▲7四歩と反撃する。
    • (a)△7四同歩は▲5五角で、1一か9一どちらかの香取りが受からない。
    • (b)△8二銀と上がって受けるが、それでも▲5五角と打ち、△4四歩に▲7三歩成△同銀▲同飛成△同桂▲同角成△6二金▲9一馬の三枚換えで先手よし。この変化だと△4二飛が玉を狭くしている面もある。
 したがって、4手目△4二飛にも普通に▲7八飛と振って問題ない。

【▲8八同銀のあと、角を打たない】

 △4五角で後手が悪くなるなら当然打たない方がマシだ。しかし、
  • (1)△6二玉や
  • (2)△5二金左だとすかさず▲7四歩と突かれ、△同歩は▲5五角なのでこの歩を取ることが出来ず、早くも先手ペースになってしまう。
  • したがって、▲7四歩~▲5五角に対応できる
    (3)△2二銀、
  • (4)△8二銀、
  • (5)△7二金が候補だ。

相振り飛車

相振り飛車

△6二玉

▲7六歩△3四歩▲7五歩△4二飛▲7八飛△6二玉

 自分から角交換しなければ、後手は△6二玉と指しても大丈夫。△5二金左でも似た展開になる。
  • (1)▲7四歩は、堂々と△同歩と取れる。
    • (a)▲2二角成△同銀▲5五角は、2二に後手の銀がいるため△8二角と打てば受かる。
    • (b)▲7四同飛は△8八角成▲同銀△6五角の筋があり、
      • (ア)▲7八飛△4七角成▲5五角や、
      • (イ)▲5六角△7四角▲同角のような展開が想定される。
  • ▲7四歩を見送るとなると、
    (2)▲5八金右で△6五角の筋を防ぐのが手堅く、以下駒組みになる。

相振り飛車、対抗形

相振り飛車

▲6六歩

△4四歩

▲7六歩△3四歩▲7五歩△4二飛▲6六歩△4四歩

 ▲6六歩は角交換を拒否する穏便な指し方だ。ただ、△4四歩~△4五歩と、後手が一目散に飛車先の歩交換を目指してきたときにどうするか。
  • (1)▲7八飛だと、△4五歩▲5八金左△4六歩▲同歩△同飛が考えられる。
    • 次に△6六飛の筋がチラつくところで、
      (a)▲7四歩△同歩▲同飛で乱戦を覚悟するか、
    • (b)▲7六飛と浮いて収めるか。
  • (2)▲7八銀と上がる手もある。しかし、△4五歩に
    • (a)▲6七銀だと△4六歩▲同歩△同飛と進んだとき、次に飛車を振りたければ▲5六銀しかなく、かなり形を限定される。これが嫌なら居飛車で指すしかない。
    • 先に飛車を振ってしまうなら
      (b)▲6八飛だが、途中下車した感は否めない。以下△4六歩▲同歩△同飛に▲3八銀が一例だが、そこで△4五飛と引かれると7五の歩が受からない。ただ、歩を取らせても先手は手得しているので一局だろう。

相振り飛車、対抗形

相振り飛車 対抗形
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1-4. その他の3手目

▲7六歩△3四歩▲その他

 ▲7六歩△3四歩から指される、▲2六歩・▲6六歩・▲7五歩以外の3手目を集めた。
 ある程度傾向があり、以下のように分類できる。

1. 我が道を行く 【▲6八飛、▲2二角成、▲7七角、▲8六歩、▲7七桂、▲5六歩】
2. 挑発含み 【▲4八銀、▲7八金】
3. 様子見 【▲1六歩、▲9六歩】
4. 後手の目指す戦型を避ける 【▲6八玉、▲5八金右】

 ▲7六歩△3四歩の2手だけでは、後手が居飛車なのか振り飛車なのかまだわからない。
 「居飛車相手には有効な手でも振り飛車相手には損だった」、またはその逆のケースが多々あるため、分類2.~4.については自然と相手を見て選ぶことが多くなる。

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a. ▲6八飛

▲7六歩△3四歩▲6八飛
(KIFファイルのダウンロード)

 四間飛車の出だし。4手目△4二飛の角交換四間飛車を、先手番でも指す際に使われることが多い。2000年代後半から藤井猛が多用し、角交換四間飛車が流行すると参入者も増加した。
 後から▲6六歩と角道を止めることで通常の四間飛車にも戻せる。1990年代はこの順で窪田義行が多用した。他、あとで▲7五歩~▲7八飛と石田流に組み替える作戦もある。

 対抗形に進むのならば、角交換四間飛車は先手でも後手でも指し方はそう変わらない。
 だが、先手番でやる場合は、後手次第で相振り飛車になる可能性が生じる。基本的に相振り飛車にも角交換する方針で対処しており、後手の有力な対策もまだ定まっておらず、様々な手法が試されている。

 3手目▲6八飛が増加したのは角交換四間飛車の流行にあるが、もう1点、3手目▲6六歩では△3五歩で相振り飛車に進んだ際に、後手が主導権を握りやすくなったことも一因である。対抗形になるならノーマル四間飛車を指そうと思っていても、3手目▲6六歩から▲6八飛より、3手目▲6八飛から▲6六歩のほうが、4手目△3五歩と突かれて相振り飛車にされた場合に対応しやすいと考えられているわけだ。

 また、後手番で角交換四間飛車を指す人でも、先手番でもやるかどうかには、大前提である「手損」をどう捉えるかによって見解が分かれる。
 『先に指せる先手番で手損なんかしていられるか』と考えるか、『後手番で優秀な戦法なのだから、それを一手早く指せる先手番で指したらもっといいはず』と考えるか。前者の見解なら先手の角交換四間飛車なんて指すのもバカバカしい戦法だろうし、後者の見解であれば当然のように指せる。その点は将棋観の問題であろう。

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

▲6八飛

▲7六歩△3四歩▲6八飛△8四歩

△8四歩

▲6六歩

△6二銀

▲7六歩△3四歩▲6八飛△8四歩▲6六歩△6二銀

 5手目に▲6六歩と角道を閉じれば、通常の四間飛車の出だし。

四間飛車

対抗形

▲4八玉

△4二玉

▲7六歩△3四歩▲6八飛△8四歩▲4八玉△4二玉

 ▲4八玉は、角交換四間飛車を目指した手。
 その場合、基本的には△4二玉を見たら、▲2二角成△同銀と角交換をしてしまう。手損でも△2二同銀と取らせることで、穴熊を目指しにくくする作戦である。ただ、▲6六歩と突いてノーマル四間飛車に戻したり、▲3八玉と玉を寄って石田流への組み替えを見せる順も、それはそれで一局である。

角交換四間飛車

対抗形

△4二玉

▲2二角成

△同銀

▲7六歩△3四歩▲6八飛△4二玉▲2二角成△同銀

 上記の通り、角交換四間飛車は△4二玉に▲2二角成が基本。

角交換四間飛車

対抗形

▲4八玉

△3二玉

▲7六歩△3四歩▲6八飛△4二玉▲4八玉△3二玉

 ▲2二角成を△同玉と取られても気にしない、または石田流への組み替えを考えているのであれば、△4二玉に角交換をしない手もある。

四間飛車

対抗形

▲6六歩

△6二銀

▲7六歩△3四歩▲6八飛△4二玉▲6六歩△6二銀

 △4二玉にも▲6六歩と止めて普通の四間飛車にする手はある。

四間飛車

対抗形

△4四歩

▲6六歩

△4二飛

▲7六歩△3四歩▲6八飛△4四歩▲6六歩△4二飛

 △4四歩は後手が角交換を避けて穏便に指そうという手。
 先手の▲6六歩は、角道を止めたというより、▲6五歩から▲6四歩△同歩▲同飛を狙っている。3手目▲6八飛から相振り模様に進む将棋では、早々に▲6六歩を突く展開はあまり好ましくない。3手目▲6六歩から相振りにしたのと変わらないからである。しかしこのケースは例外だ。
 △4二飛は後手も四間飛車で戦う順。先手の▲6五歩~▲6四歩△同歩▲同飛には△7二銀でも△5二金左でも受かるので、駒組みになる。

相振り飛車

相振り飛車

△3二銀

▲7六歩△3四歩▲6八飛△4四歩▲6六歩△3二銀

 △3二銀は△4三銀~△3三角~△2二飛の向かい飛車を目指した手だが、先手が▲6五歩と突いて▲6四歩△同歩▲同飛を見せた際に、後手は決断を迫られる。
  • (1)△4二飛の四間飛車なら穏便で、▲6四歩△同歩▲同飛にはもう飛車を振っているので△5二金左でも△7二銀でも自然に受かる。これが最も無難。
  • (2)△4三銀は予定だが、▲6四歩△同歩▲同飛のときに6三を受けなければいけない。
    • しかし、
      (a)△6二銀や
    • (b)△5二金右では居飛車。
    • (c)△6二飛のぶつけは一局だが力戦。
    • これらで悪いわけではないが、あくまで向かい飛車を目指すならば、飛車の横利きを止めない
      (d)△5四銀しかない。
      • (ア)▲4八玉などと一手待つと、後手は△6五歩と打って飛車を閉じ込め△6二銀~△6三銀直で飛車を殺す順がある。
      • 真っ向から△5四銀に働きかけにいく
        (イ)▲5六歩なら、後手も△6二飛とぶつけて勝負か。
      • (ウ)▲6八飛と引くのは手堅い。以下△3三角▲4八玉△2二飛で向かい飛車だが、先手に6筋を交換された上、△5四銀型に限定されている。こんな自由度の低い向かい飛車でいいのかという点は、やる前から考えておく必要があるだろう。

相振り飛車、四間飛車

相振り飛車 対抗形

△6二銀

▲7六歩△3四歩▲6八飛△4四歩▲6六歩△6二銀

 △6二銀は、角交換を避けて居飛車で指そうという方針。
  • (1)▲6五歩には△4二玉▲6四歩△同歩▲同飛△5二金右くらいで、6筋の歩は交換されるものの一局の将棋だ。
  • (2)▲4八玉なら△5四歩で、次の▲6五歩には△5三銀と上がって受けられる。ただし受け身の展開は免れない。
 形よく受けたいなら、4手目は△6二銀と指しておき、▲4八玉を見て△4四歩のほうが、▲6六歩に△5四歩▲6五歩△5三銀でぴったり。ただし先手に5手目で▲2二角成とされると、やはり角交換四間飛車を相手にしなければならない。

四間飛車

対抗形
▲7六歩△3四歩▲6八飛△4二飛

△4二飛

▲5八金左

△5二金左

▲7六歩△3四歩▲6八飛△4二飛▲5八金左△5二金左

 △4二飛は、後手も角道を開けたまま四間飛車に組む指し方。
 お互いに、角道を止める手は指しづらい。向かい飛車に振り直して斜め棒銀を狙うとなると、角交換するのも相手に手得させてしまうので、タイミングが難しい。他には▲7八飛~▲7五歩、△3二飛~△3五歩と相三間飛車に振り直すくらい。

相四間飛車

相振り飛車
▲7六歩△3四歩▲6八飛△3五歩

△3五歩

▲2二角成

△同銀

▲7六歩△3四歩▲6八飛△3五歩▲2二角成△同銀

 後手が三間飛車を目指す△3五歩に対しては、すぐ▲2二角成と角交換してしまう実戦例が多い。後手はこれを△同銀と取るか△同飛と取るかに分かれる。
 △2二同銀には▲8八銀と上がっておく。そこで後手が飛車を振るなら、△3二飛か△4二飛の二択だ。
  • (1)△3二飛には、角交換振り飛車では頻出する▲6五角があるが、後手も△5四角と打ち返す。
    • (a)▲8三角成には△2七角成で、▲6五馬には△5四馬▲同馬△同歩と馬を消す。大きな損得はなく一局といえる。
    • この進行が気に入らなければ、
      (b)▲5四同角△同歩に▲7七銀としておく。以下駒組みになるが、後手陣は△2二銀と△5四歩の組み合わせが悪く、角を持ち合う将棋に向いていないというのが先手の主張で、タイトル戦では2011年8月・王位戦第6局▲広瀬章人△羽生善治で現れている。
  • (2)△4二飛なら無難で、▲6五角の筋がない。▲7七銀以下で駒組みになる。

相振り飛車、対抗形

相振り飛車 対抗形

△同飛

▲7六歩△3四歩▲6八飛△3五歩▲2二角成△同飛

 ▲2二角成を△同飛と取る手もある。相手の手に乗って向かい飛車に出来る一方、乱戦に持ち込まれる可能性も上がる。

【▲6五角△5四角】

 △2二同飛型だと、▲6五角△5四角に
  • (1)▲8三角成△2七角成と進んだとき、後々△2四歩~△2五歩と伸ばす手が厳しくなる。
  • (2)▲5四同角△同歩とし、
    • (a)▲8八銀なら△4二銀で駒組み。
    • (b)▲5三角で馬を作りに行く手には、じっと△3二飛と寄って、▲3五角成の方を受けておく。
      • (ア)▲7五角成と反対側に成る手には△3六歩▲同歩△5五角と攻める。勢い▲6六馬△1九角成▲1一馬と行けば激戦だ。
      • (イ)▲8八銀でその筋を先受けする手もあり、△4二角には▲同角成△同銀▲5六角△7四角▲同角△同歩▲7五歩で執拗に馬作りを狙う。△6四角▲2八銀△7五角で受けて一局だが、角は打たされたともいえる。
      • 更にこれを踏まえて
        (ウ)▲3八金という手があり、
        • △4二角▲同角成△同銀▲5六角△7四角と同じように進めるのは、▲2三角成でよしという仕組み。
        • したがってこの場合は、
          △9五角と準王手飛車に打ち、先手が▲7五角成△6八角成▲同玉で飛車を取らせるか、▲8六角成△同角▲同歩で収めるかで違う将棋になる。

【▲8八銀】

 穏やかに▲8八銀と上がれば、△4二銀で▲6五角の筋を受けて、以下駒組みになる。

相振り飛車、四間飛車

相振り飛車 対抗形

▲3八金

△4四歩

▲7六歩△3四歩▲6八飛△3五歩▲3八金△4四歩

 角交換をしない場合は、▲3八金と上がって一旦2七を守るのが手堅い。これが▲3八銀だと後手から角交換されて△2八角がある。
 ▲3八金に対して△3二飛と振ると、今度こそ▲2二角成~▲6五角が受からない。後手が飛車を振るなら△4四歩と突いてから△3二飛か、△4二飛か。また、玉頭位取りで対抗する作戦もある。

相振り飛車、四間飛車

相振り飛車 対抗形

△8四歩

▲7六歩△3四歩▲6八飛△3五歩▲3八金△8四歩

 ▲3八金は角を持ち合ったときに手堅い一方、美濃囲いに組めなくなっているデメリットもある。その点を見越して、居飛車で戦う順もある。

四間飛車

対抗形

▲4八玉

△3二飛

▲7六歩△3四歩▲6八飛△3五歩▲4八玉△3二飛

 ▲4八玉は普通に玉を囲いに行く手だが、自ら△3五歩に近づいていく手なので、▲2二角成~▲6五角の乱戦は挑みにくい。
  • (1)▲2二角成△同銀▲6五角を敢行すると、
    • (a)△5四角と打ち返すだけでなく、
    • (b)△3六歩という手さえ考えられる。
  • したがって、
    (2)▲2八銀や、
  • (3)▲2二角成△同銀▲8八銀と進めて駒組みするのが無難。

相振り飛車

相振り飛車

▲6六歩

△3二飛

▲7六歩△3四歩▲6八飛△3五歩▲6六歩△3二飛

 先手が▲6六歩と角道を止めると、▲7六歩△3四歩▲6六歩△3五歩から▲6八飛と振ったのと同じ局面になる。相振りにおいて、角道を止める四間飛車は後でまた飛車を振り直すことが多いため、あまり得な振り場所とは思われていない。したがってこの進行は、後手に不満のない進行といえる。

相振り飛車

相振り飛車
▲7六歩△3四歩▲6八飛△3二飛

△3二飛

▲2二角成

△同銀

▲7六歩△3四歩▲6八飛△3二飛▲2二角成△同銀

 △3二飛は、歩を3五に伸ばさずに三間飛車にする手。この場合はすぐに▲2二角成から▲6五角の筋がある。▲2二角成に、△3五歩のときと同じく△同銀も△同飛もある。△同銀は普通の取り方だ。

【▲6五角△5四角】

 ▲6五角に対しては△5四角と打ち、▲8三角成か、▲5四同角△同歩の二択だ。
  • (1)▲8三角成△2七角成は、以下▲6五馬△5四馬▲同馬△同歩で一息。
    • そこで相手の歩の切れた筋を狙う
      (a)▲8八飛は、△3五歩▲3八金に△4四角と打ち、▲7七角△同角成▲同桂とさせて△7四歩と桂頭を狙う筋がある。
    • この進行が不満なら、角打ちを消しながら
      (b)▲2八飛と戻って、後手も△8二飛と戻り相掛かり風の力戦が考えられる。
  • (2)▲5四同角△同歩に、
    • (a)▲8八銀なら駒組みに戻る。
    • (b)▲5三角は先手が馬を作りに行った手。一見、2六と8六の両成りが受からないのだが、後手には二つの反撃手段がある。
      • (ア)△3五歩と伸ばす。角が2六に成り返る手を消しながら、▲8六角成なら△3六歩~△5五角を狙っており、それを受ける▲8八銀なら△4二角と打って角を消す。
      • もうひとつは、
        (イ)△9五角の準王手飛車。
        • 先手が飛車を取られたくなければ、
          ▲8六歩△7四歩▲9六歩△6二角▲同角成△同銀か、
        • ▲8六角成△同角▲同歩、
        • 飛車角交換で馬を残すほうを選ぶなら、
          ▲7五角成△6八角成▲同玉というところ。

【▲その他】

 ▲4八玉、▲5八金左、▲3八金、▲8八銀など先手が角を打たない手に対しては、▲6五角の筋を消す△7二金や△5二金左が手堅い。

相振り飛車、対抗形

相振り飛車 対抗形

△同飛

▲7六歩△3四歩▲6八飛△3二飛▲2二角成△同飛

 ▲2二角成を△同飛と取る手もある。

【▲6五角△5四角】

 △2二同銀型と同じように▲6五角と打つのは、後手も同じように△5四角と打ち返す。
  • (1)▲8三角成△2七角成▲6五馬△5四馬▲同馬△同歩と進んだとき、△2二同飛の効果が現れる。飛車がもう2筋にいるため、△2四歩~△2五歩と伸ばす手が厳しくなるというわけだ。
  • それは飛車で取った手を生かされて気に入らないとなれば、
    (2)▲5四同角△同歩を選ぶことになる。
    • (a)▲8八銀なら△4二銀で駒組みになる。
    • (b)▲5三角には、△9五角の準王手飛車で態度を聞いてくる。
      • 以下は△2二同銀型と同様に、飛車を取らせて馬を残す
        (ア)▲7五角成△6八角成▲同玉か、
      • (イ)▲8六歩△7四歩▲8八飛△6二角▲同角成△同銀で駒組みにするか。
         △2二同飛型の場合、3四の歩に紐がついていない、▲7五角成~▲6六馬が飛車に当たるなど、△2二同銀型と比べると先手は馬が使いやすい。

【▲その他】

 ▲4八玉、▲3八金、▲5八金左、▲8八銀など角を打たない手なら、△4二銀と上がって▲6五角を受ける。後手は向かい飛車+棒銀の攻めがしやすい。

相振り飛車、四間飛車

相振り飛車 対抗形

▲その他

▲7六歩△3四歩▲6八飛△3二飛▲その他

 角交換をしなければ、先手の5手目は囲いに行く▲4八玉、▲5八金左が候補手。▲3八金はその後の囲い方に工夫が必要だ。消極的だが▲6六歩もあることはある。
 後手の6手目は▲6五角の筋を受ける手が多い。となると候補手は△5二金左、△7二金、△4二銀、△4四歩、そしてまだ▲6五角を受けていない△6二玉。

 だいたいは駒組みになるが、乱戦になる組み合わせは▲4八玉△6二玉で▲2二角成を敢行するケースか。以下△同銀(△同飛)▲6五角△5四角▲8三角成△2七角成が想定される進行だが、▲4八玉は相手の駒に近づいている手なので、居玉で角を打つのと比べて得かどうかは微妙だ。

相振り飛車

相振り飛車
▲7六歩△3四歩▲6八飛△2四歩

△2四歩

▲4八玉

△2五歩

▲7六歩△3四歩▲6八飛△2四歩▲4八玉△2五歩

 ▲6八飛に△2四歩は、後手も角道を開けたまま向かい飛車に組もうとする作戦。▲4八玉に△2五歩と伸ばす。対抗形であれ相振りであれ、先手はどこかで角交換して▲8八飛と振り直すのが基本的な狙いなので、▲3八玉と寄る。

【△8八角成▲同銀△2二飛】

 そこで△8八角成▲同銀△2二飛と、自分から角交換して向かい飛車に振るのが後手の狙い筋。相振りのダイレクト向かい飛車といっていい。
 だが、この局面では▲6五角が成立する。△5四角と打ち返しても▲8三角成とされ、
  • (1)△2六歩▲同歩△同飛は▲2八銀で収まり、
  • (2)△2七角成!▲同玉△2六歩▲3六玉△2七歩成▲2五歩△2八歩▲同銀△同と▲同飛△3五銀▲4五玉は明らかに無理攻めだ。
 この変化は、事前に▲1六歩△1四歩の突き合いがあると、△5四角▲8三角成以下で後手も反撃出来る順が生じる。これを踏まえて、4手目にすぐ△2四歩ではなく、一旦△1四歩と打診する手がある。

【△5四歩】

 したがってすぐに向かい飛車にはできず、一旦△5四歩と突く。
  • (1)▲2二角成なら△同飛と取る。▲5三角は△4二角で無効なので、▲8八銀△4二銀で角を持ち合って駒組みすることになる。
  • (2)▲5八金左と待つ手には、
    • (a)△4四歩と突くか、
    • (b)△8八角成▲同飛(同銀)△2二飛で戦う。

相振り飛車、対抗形

相振り飛車 対抗形

▲6六歩

△2五歩

▲7六歩△3四歩▲6八飛△2四歩▲6六歩△2五歩

 ▲6六歩と角道を止める手には△2五歩と伸ばしておき、△3三角~△2二飛を狙う。▲6五歩には△8八角成▲同銀△2二飛としておけば、△4五角の筋が残っている。

相振り飛車、対抗形

相振り飛車 対抗形

△1四歩

▲1六歩

△2四歩

▲7六歩△3四歩▲6八飛△1四歩▲1六歩△2四歩

▲7六歩△3四歩▲6八飛△1四歩▲1六歩△2四歩
 角交換四間飛車相手に相振り飛車を視野に入れている場合、4手目で△1四歩と打診するのが有力と考えられている。
 3手目▲7五歩に対する△1四歩と意味は似ており、突き合いがあれば相振りで端攻めが見込め、受けてこなければ△1五歩と突き越して戦うという狙いだ。振り飛車側は基本的に、対抗形になるなら端は受けておきたいが、相振りだと受けたために損をする可能性がある。しかし、4手目で打診されると相手がどちらかわからない。だから悩みどころなのである。先手が端を受けた場合の6手目は△2四歩として解説するが、別に三間でも四間でも、居飛車であっても構わない。
 1筋の交換を入れて6手目△2四歩は、4手目△2四歩と同様の向かい飛車狙い。
 以下▲4八玉△2五歩▲3八玉のときに、4手目△2四歩同様、△5四歩と、△8八角成▲同飛△2二飛がある。

【△5四歩】

 △5四歩には、
  • (1)▲2二角成△同飛▲5三角と馬を作りに行く順がある。
    • (a)△4二角だと端の突き合いを先手が生かして▲1七角成と出来る。
    • したがって後手は
      (b)△4二銀▲8六角成と進め、1筋の突き合いを生かして△1五歩▲同歩△同香▲同香△2六歩▲同歩△1六角の強襲を敢行する。以下▲2七香△2六飛▲2八銀△1七歩▲同桂△1八歩と攻め、先手が受けきれるかどうかという将棋だ。
  • これは先手が馬を作りに行けば生じる変化なので、穏やかに(2)▲2二角成△同飛▲8八銀や
  • (3)▲5八金左と指すのも一局である。

【△8八角成▲同飛(同銀)△2二飛】

 △8八角成▲同飛(▲同銀もあり)△2二飛の相振りダイレクト向かい飛車は、4手目△2四歩で同様の筋を敢行した場合は▲6五角に対抗できなかったが、1筋の突き合いを入れたことで後手にも反撃が生じる。
  • (1)▲6五角に△5四角と打ち返すのは同じ。
    • 1筋の突き合いがなかったときは成立した
      (a)▲8三角成には、△1五歩▲同歩を入れてから△2六歩▲同歩△同飛▲2八銀に、△1八歩▲2七歩△1六飛▲1七銀△1五飛▲1八香△2六歩で後手が指せる。1筋の突き合いが生きた変化だ。
    • したがって先手は
      (b)▲5四同角と取り、△同歩に
      • (ア)▲5三角と打って△4二銀▲8六角成△1五歩▲同歩△同香▲同香△2六歩▲同歩△1六角の強襲を受けて立つか。最初の角交換を▲同銀と取るか▲同飛と取るかの違いはこの変化で生じ、▲同銀だと▲6八飛が壁になって左翼に逃げにくい。▲同飛だと先手玉が広くなるが、どこかで△4五角と打つ手が生じる。
      • または自重して、
        (イ)▲6八銀などで駒組みするか。
  • これらの変化と、そもそも▲6五角を打たずに
    (2)▲6八銀とするのと、どちらが得か。微妙なところだ。

 1筋の突き合いを入れて△2四歩の将棋は、▲5三角で馬を作る変化で△1六角以下の強襲が生じるものの、裏を返せば先手に踏み込まれたら後手も踏み込むしかない。踏み込まなければ、一方的に馬を作られてしまうからである。したがって、後手を持ってこの強襲に自信がないのであれば、この相振りダイレクト向かい飛車を指すには4手目△2四歩から△5四歩の将棋しかない。

相振り飛車、対抗形

相振り飛車 対抗形

▲4八玉

△1五歩

▲7六歩△3四歩▲6八飛△1四歩▲4八玉△1五歩

 後手の相振り飛車を警戒している場合、先手は▲1六歩を受けずに▲4八玉から囲う。そこで後手は端を突き越しておき、この後は主に居飛車で戦うことが多い。美濃囲い相手なら、終盤になれば必ず端を突き越した手が生きるという指し方だ。
 もっとも端を詰めて相振り飛車に持ち込んでも構わない。4手目△1四歩から端を詰めた場合、プロは居飛車で対抗することが多いというだけで、あとは好みの問題である。

相振り飛車、四間飛車

相振り飛車 対抗形
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b. ▲4八銀

▲7六歩△3四歩に▲4八銀
(KIFファイルのダウンロード)

 ▲4八銀は、飛車先を突かないで居飛車を表明した手。

 後手が△4四歩から振り飛車や矢倉を目指してくるならば、先手は▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲4八銀より少し得をしている。例えば右四間飛車のように飛車を2筋で使わない作戦を選べば、▲2六歩を省略したぶん一手早く仕掛けることも可能だ。
 ただしプロの間では『後手に△8四歩とされた場合に損だ』という認識が強く、出現率は低い。そのため、後手が振り飛車党とわかっている場合に用いられることが多く、「居飛車を指してみろ」という挑発の意味で指される。

 アマチュアでは、元奨励会三段の鈴木英春アマが編み出した『英春流 / かまいたち』という、3手目▲4八銀を基本図とする総合戦法が有名である。当然ながら4手目△8四歩への対応も準備されており、プロは指さないものの明らかに悪くなるわけではないので、実戦をこなして経験値で補うこともできる。

 初手▲4八銀もあるのだが、本家はあくまで3手目▲4八銀らしい。
 その代わり、本家は初手▲9六歩を多用する。というのも2000年代以降の英春流は、▲9六歩△3四歩に▲4八銀の出だしに変わってきているからのようだ。

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

▲4八銀

△8四歩

▲5六歩

△8五歩

▲7六歩△3四歩▲4八銀△8四歩▲5六歩△8五歩

▲7六歩△3四歩▲4八銀△8四歩▲5六歩△8五歩▲5七銀
 △8四歩~△8五歩に対しては、▲5六歩~▲5七銀と備えるのが英春流だ。
  • (1)△8六歩▲同歩△同飛と来たら、▲2二角成△同銀▲7七角△8九飛成▲2二角成△3三角▲2一馬△9九角成▲5五桂で先手勝勢というのが、英春流の基本手順・19手定跡である。
  • したがって、後手は8手目に△8六歩とは仕掛けず、
    (2)△3二金と待つことが多い。先手もそこで▲7八金と上がって戦う。

英春流

居飛車力戦

▲6六歩

△8五歩

▲7六歩△3四歩▲4八銀△8四歩▲6六歩△8五歩

 ▲6六歩は「英春流」を知らない、または使わない人が指す手。以下▲7七角を強制され、先手無理矢理矢倉となる。

矢倉(無理矢理)

矢倉・雁木

▲2二角成

△同銀

▲7六歩△3四歩▲4八銀△8四歩▲2二角成△同銀

 ▲2二角成も「英春流」を知らない、または使わない人が指す手。手損承知で角交換し、7手目は▲8八銀と上がって△8五歩を▲7七銀で受ける。上の▲6六歩の変化は嫌だから、それよりは見慣れた角換わりで戦う方がマシという場合の手。

角換わり

角換わり

▲2六歩

△8五歩

▲7六歩△3四歩▲4八銀△8四歩▲2六歩△8五歩

 ▲2六歩は普通の手に見えるが、△8五歩以下▲2五歩△8六歩▲同歩△同飛と指されると、▲4八銀が壁で先手玉が狭い上に飛車の横利きを止めている。以下▲7八金△3二金▲2四歩△同歩▲同飛△8八角成▲同銀△3三角のような激しい変化のときに▲4八銀が悪手になってしまう。他にも飛び込めない変化が出てくるだろう。
 これで辛くなってしまうのであれば、▲5六歩~▲5七銀と中央に手をかけましょうというのが英春流である。

居飛車力戦

居飛車力戦

△3二金

▲5六歩

△8四歩

▲7六歩△3四歩▲4八銀△3二金▲5六歩△8四歩

 19手定跡に代表されるように、すぐに飛車先を伸ばすのは英春流の思い通りなので、△3二金にはあらかじめ備えた意味がある。先手は▲5七銀型を作り、厚みの陣形を作るように指す。

英春流

居飛車力戦

▲6六歩

△8四歩

▲7六歩△3四歩▲4八銀△3二金▲6六歩△8四歩

 4手目△3二金には、▲6六歩と突けば先手は矢倉に出来る。後手が△8四歩と突けば▲6八銀と上がり、通常形の矢倉だ。

矢倉

矢倉・雁木

△6二銀

▲7六歩△3四歩▲4八銀△3二金▲6六歩△6二銀

 ただしこの出だしでは、後手には△8四歩を保留する権利がある。例えば右四間飛車などの急戦形になると、通常の矢倉の出だしから急戦をするより一手得している計算になり、いつもの受けでは間に合わない可能性がある。

矢倉

矢倉・雁木

△4四歩

▲4六歩

△4二飛(△3二飛)

▲7六歩△3四歩▲4八銀△4四歩▲4六歩△4二飛(△3二飛)

▲7六歩△3四歩▲4八銀△4四歩▲4六歩△4二飛
 △4四歩は振り飛車や矢倉で穏便に事を構える手だが、4五に争点が出来たため、後手が矢倉だろうが振り飛車だろうが右四間飛車を狙ってくる作戦がある。飛車先不突のため、定跡で解説される右四間飛車より一手早い難敵である。

対抗形

対抗形

△3二金

▲7六歩△3四歩▲4八銀△4四歩▲4六歩△3二金

 後手が居飛車で指すつもりでも、例えば△4二銀だと角が浮くため、すぐ▲4五歩のような手も気にする必要がある。△3二金と上がるのが手堅いが、仕掛けを警戒しながらの駒組みが続く。

矢倉、対抗形

矢倉・雁木 対抗形

▲5六歩

△4二飛(△3二飛・△5二飛)

▲7六歩△3四歩▲4八銀△4四歩▲5六歩△4二飛(△3二飛、△5二飛)

▲7六歩△3四歩▲4八銀△4四歩▲5六歩△4二飛
 飛車先を突かず、この後▲5五歩と位を取って2枚の銀を繰り出していく戦法が「かまいたち」と呼ばれる。位を取らずどこかで▲2六歩と突けば通常の形だ。

対抗形

対抗形

△5四歩

▲7六歩△3四歩▲4八銀△4四歩▲5六歩△5四歩

 後手が矢倉を目指すなら、5筋は位負けしないほうが角の移動が楽。中飛車もある。この場合、先手は矢倉にも戻せる。

矢倉、対抗形

居飛車力戦 矢倉・雁木 対抗形

△3五歩

▲4六歩

△3二飛

▲7六歩△3四歩▲4八銀△3五歩▲4六歩△3二飛

 石田流を目指す手。組めることは組めるが、後手なので棒金が強敵とされる。
 ▲2二角成△同銀▲6五角は△5五角で無効。5手目の▲4六歩は一例で、他は▲6八玉、▲2六歩、▲5六歩。

対抗形(後手早石田)

対抗形

△5四歩

▲2六歩

△5二飛(△5五歩)

▲7六歩△3四歩▲4八銀△5四歩▲2六歩△5二飛(△5五歩)

 右四間がどうしても嫌な場合、有力な一手。
 先手は▲2六歩のところで▲2二角成~▲5三角と馬を作れそうだが、そこで△5五角と打てば後手の駒得が確定する。この進行は▲4八銀が飛車の横利きを止めた悪手になっている(仮に▲4八銀が3九にいれば▲8八銀で受かる)ので、英春流使いとしてはやってはいけない手順だ。

対抗形

対抗形

△4二飛

▲7六歩△3四歩▲4八銀△4二飛

 角道を止めずに飛車を振るなら△4二飛が手堅い。

対抗形

対抗形
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c. ▲7八金

▲7六歩△3四歩▲7八金
(KIFファイルのダウンロード)

 ▲7八金は、相居飛車の戦型になればだいたいどこかで指される手である。
 しかし、後手が居飛車か振り飛車かどうかもわからないのに▲6八玉~▲7八玉の舟囲いを放棄した手でもあり、後手が飛車を振った場合、先手の玉の囲い方は限定されてしまう。

 つまり、基本的には後手の居飛車党に指す手で、「振り飛車にされたら損だけど、あなた振り飛車は上手く指せないでしょ」という挑発の意味を持った手だ。挑発に乗って振り飛車にしてくれたなら満足、挑発に乗らなければ普通の相居飛車戦というわけ。

 プロでは、田丸昇の将棋に多く見られる出だし。初手▲7八金もある。

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

▲7八金

△4四歩

▲4八銀(▲6八銀)

△3二飛(△4二飛)

▲7六歩△3四歩▲7八金△4四歩▲4八銀△3二飛

 後手が飛車を振った場合。△4四歩を突いてきたら、後手が振り飛車だろうが矢倉だろうが関係なく右四間飛車で攻める手がある。

対抗形

対抗形

△5二金右

▲7六歩△3四歩▲7八金△4四歩▲4八銀△5二金右

 右四間飛車の含みがあるため、後手が矢倉にするならもっとも急ぐべきは△4三金型である。

矢倉

矢倉・雁木

△8四歩

▲2六歩

▲7六歩△3四歩▲7八金△8四歩▲2六歩

 ▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩▲7八金と同じ局面。

▲6八銀

△8八角成

▲7六歩△3四歩▲7八金△8四歩▲6八銀△8八角成

 以下▲8八同金で、角換わりの将棋。後手から角交換して手損しているが、先手に▲7八金と形を直す手が入れば損得がなくなる。

角換わり、居飛車力戦

角換わり 居飛車力戦

△8五歩

▲7六歩△3四歩▲7八金△8四歩▲6八銀△8五歩

 後手が角交換をしてこなければ、先手は▲7七銀で矢倉に出来る。▲7七角なら角換わりか振り飛車、▲6六歩なら雁木のような駒組み。

矢倉、角換わり、対抗形

矢倉・雁木 角換わり 対抗形

▲4八銀

△8五歩

▲7六歩△3四歩▲7八金△8四歩▲4八銀△8五歩

 英春流に似た形だが19手定跡の派手な変化がない。▲5六歩△8六歩▲同歩△同飛▲5七銀に飛車を引いて指す。

居飛車力戦

居飛車力戦

▲6六歩

△8五歩

▲7六歩△3四歩▲7八金△8四歩▲6六歩△8五歩

 △8五歩と決めてきたときに▲7七角と上がれば、後手の△3二銀~△5四歩~△3一角からの飛車先交換は防げない。ただし、これは▲7八金と上がった時点で想定している局面である。
 このあと立石流に進んだ将棋もある。

対抗形

対抗形

▲6八飛(▲5八飛)

▲7六歩△3四歩▲7八金△8四歩▲6八飛(▲5八飛)

 三間飛車には振れないので、四間飛車か中飛車か。▲7八金のおかげで角交換後の△4五角がないため、中飛車にも出来る。

対抗形

対抗形

▲7七角

△同角成

▲7六歩△3四歩▲7八金△8四歩▲7七角△同角成

 以下▲同桂で、3手目に▲7七角と上がり△同角成▲同桂と進んだ局面に似る。以下は先手の立石流か、力戦の居飛車を選ぶか。▲7七同金で阪田流も考えられなくはないが、後手も△8五歩を突いていないのでどうか。

対抗形

対抗形 居飛車力戦

△8五歩

▲7六歩△3四歩▲7八金△8四歩▲7七角△8五歩

  • (1)▲8八銀なら角換わり模様。ただし後手は△4四歩から矢倉にすることも出来る。
  • (2)▲6八銀だと、△4四歩は右四間飛車にされて危険か。

角換わり、矢倉

角換わり 矢倉・雁木
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d. ▲2二角成

▲7六歩△3四歩▲2二角成
(KIFファイルのダウンロード)

 3手目にいきなり角交換をする。2手目に△3四歩と突いているのであれば、いつか必ず遭遇する出だしだ。
 △2二同飛は▲6五角の両成りがあるので、4手目は△同銀が常識だった。しかし、▲7六歩△3四歩▲2六歩△3二飛▲2二角成△同飛の菅井流を応用すれば、△2二同飛も考えられそうだ。

 3手目角交換の出だしで有名な作戦は、やはり筋違い角である。
 プロでは武市三郎が使い手として有名だが、トッププロはほぼ採用しない。避けられる理由は、よく以下のものが挙げられる。

1. そもそも角交換は手損なので、先手の利を失ってしまう
2. 筋違い角は通常の角筋に比べ利きが狭くなるので、角の能力が制限される
3. 1.と2.の代償に歩得出来るが、それでも持ち角のほうが得

 上記の通り、基本的にプロは敬遠する作戦であるが、アマチュアでは初心者を困らせたり、プロにおいても振り飛車党への嫌がらせとして指されることがある。
 そういう意味からなのか、3手目角交換からの筋違い角は「アマの筋違い角」と呼ばれた時代もあった。それに対して角換わりの序盤で打つ筋違い角が「プロの筋違い角」と呼ばれていたのだが、今となっては、戦法としての筋違い角と言えば「アマの筋違い角」となっている。
 また、相手を困らせようという意図ではなく、筋違い角振り飛車が指したいがために筋違い角に進めている場合もある。

 後手番になった際に2手目に△3四歩と突くと避けようがない。
 したがって振り飛車党ならば、筋違い角を指されたときの準備を事前にしておくべきといえる。

 他、筋違い角を打たず、手損だろうが何だろうが自分の得意な作戦(角換わりや角交換振り飛車など)に持ち込む手として、力自慢の人がよく使っている。

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

▲2二角成

△同銀

▲4五角

△6二銀

▲7六歩△3四歩▲2二角成△同銀▲4五角△6二銀

▲7六歩△3四歩▲2二角成△同銀▲4五角△6二銀
 角交換して▲4五角と打つ戦法が、筋違い角である。狙いは▲6三角成と▲3四角で、両方同時に受ける手はない。したがって後手は▲6三角成のほうを受け、3四の歩は取らせて指すことになる。
 △6二銀は基本の対応・その1。以下▲3四角に、
  • (1)△3二金か、
  • 先手の筋違い角振り飛車を決め打ちした
    (2)△4二玉で、もう一度角成りを受ける必要がある。
 後手からの反撃として、(1)・(2)どちらでも、以下▲6六歩ならば△8四角と打つ筋がある。6六の歩を守るには▲6八飛だが、そこで△9五角と出ると実は王手飛車。7七に打つ駒がないのだ。
 筋違い角ではこの出だしに限らず、先手が▲8八銀と上がる前に▲6六歩と突くとこの筋が生じる。飛車を取れば△二枚飛車対▲二枚角という形になる。これで有利になるわけではないが、飛車がないと困ることもまた事実。場合によっては試してみる価値のある手筋だ。

筋違い角

奇襲

△5二金右

▲7六歩△3四歩▲2二角成△同銀▲4五角△5二金右

▲7六歩△3四歩▲2二角成△同銀▲4五角△5二金右
 △5二金右が基本の対応・その2。この1手で6三と4三が受かるので、▲3四角のあとの手が広い。ただし金が上がったので、後々大駒交換になった際は打ち込みの隙が生じやすくなる。
  • (1)△6四歩は、
    • (a)▲6六歩ならばいきなり△6五歩と突っかけ、▲6五同歩△6六角で馬が作れるので後手成功。
    • したがって先手はすぐ▲6六歩でなく、
      (b)▲8八銀から▲6六歩が正しい手順。
  • (2)△6五角は相筋違い角。▲5八金右△7六角▲8八銀なら同形になり、手番は後手。つまり先手が手損したことが明らかにわかるので、先手は後手とは違った形を目指すほうがマシか。
  • (3)△5四歩は5五位取りを狙う手。以下▲6六歩△6二銀▲8八銀△5三銀から、△5五歩~△5四銀~△4四歩~△4五歩と、位を2つ張る指し方がある。

筋違い角

奇襲

△6二飛

▲7六歩△3四歩▲2二角成△同銀▲4五角△6二飛

▲7六歩△3四歩▲2二角成△同銀▲4五角△6二飛
 以下▲3四角に△4二飛で、手損でも無理やり振り飛車にする手順。一応、プロの実戦例もある。

筋違い角

奇襲

△6五角

▲7六歩△3四歩▲2二角成△同銀▲4五角△6五角

▲7六歩△3四歩▲2二角成△同銀▲4五角△6五角
 相筋違い角・その1。お互い歩を取る無難な展開を望むなら、△5二金右▲3四角の際に△6五角のほうが良い。
  • (1)▲6三角成と突っ込めば後手も△4七角成。
    • (a)▲5八金右と怯むと、△4六馬▲5三馬△5五馬で香取りが受からないので、
    • (b)▲5三馬△5七馬▲4三馬△3二金▲3四馬か。この変化に自信がなければ6手目△6五角とは打てない。
  • (2)▲5八金右と受ける手に、△5二金右▲3四角△7六角▲8八銀なら、【6手目△5二金右 - (2)】と同形になる。

筋違い角

奇襲

△7四角

▲7六歩△3四歩▲2二角成△同銀▲4五角△7四角

▲7六歩△3四歩▲2二角成△同銀▲4五角△7四角
 相筋違い角・その2。一旦6三を受けた意味がある。
  • (1)▲3四角に、
    • (a)△5二金右としておき、▲5八金右と4七を受けたときに△6五角とひとつ出る手が狙い。以下▲8八銀△7六角で後手の歩損が解消される。ただし、それで歩を取っても後手は手損している。つまり【6手目△5二金右 - (2)】の局面と比べると、同じ局面だが先手の手番である。
    • (b)△4二飛で振り飛車にする手もある。以下▲5八金右に△6五角で、手損ではあるが歩損が回復できる。
  • (2)▲7五歩と角を追い、△4七角成に▲6三角成も考えられるが、△6二銀と馬に当てられ後手を引くのでは指しづらいか。
  • (3)▲5八金右と一旦受ける手もある。以下、△3三銀▲6六歩△6四歩というところか。

筋違い角

奇襲

△8五角

▲7六歩△3四歩▲2二角成△同銀▲4五角△8五角

▲7六歩△3四歩▲2二角成△同銀▲4五角△8五角
 相筋違い角・その3。6三を受けながら、7六の歩取りになっている。
  • (1)▲3四角と歩を取ると、後手も△7六角と歩を取る。
    その局面は△8七角成の先手になっているので、
    • (a)▲8八銀や
    • (b)▲8八飛で8七の地点を受けることになる。
  • (2)▲7八飛と歩を守れば、△3三銀で3四の歩は受かる。
  • (3)▲7五歩は、取られる歩を突き出す手。6七の地点は4五角の利きで受かっている。

筋違い角

奇襲

▲8八銀(▲6八銀)

△3三銀

▲7六歩△3四歩▲2二角成△同銀▲8八銀(▲6八銀)△3三銀

 筋違い角を打たないのならば、先手は『手損でも角換わりに持ち込みたかった』人である。▲8八銀と▲6八銀の比較は難しく、次に▲7七銀とあがる気ならどっちでも構わない。△3三銀は一番自然な手で、もはや先手は▲4五角を打てない。
 先手の自然な手も▲7七銀。そこで、後手が△3二金や△6二銀と居飛車で指すか、△4二飛の四間飛車か、△2二飛のダイレクト向かい飛車か。ダイレクト向かい飛車の解説は、よく似た局面の4手目△8八角成を参考のこと。

角換わり、対抗形

角換わり 対抗形

△4二飛

▲7六歩△3四歩▲2二角成△同銀▲8八銀(▲6八銀)△4二飛

 飛車を振るとすれば△4二飛。後手から角交換して△4二飛とする作戦と比べ、先手から角交換をしてもらったこの局面は一手得であるが、先手の形が居飛車か振り飛車か決まっていないため、必ずしも得だというわけでもない。

対抗形

対抗形

▲7七桂

△6二銀

▲7六歩△3四歩▲2二角成△同銀▲7七桂△6二銀

 4手目△3三角戦法と似た狙い。3手目▲7七角でも同じようだが、こちらは「手損してもいいからとにかく▲7七桂の形にしたい」という強い意図がある。
 ネットでは白砂青松の将棋研究室 - ▲7七桂戦法として有名。それに沿えば立石流四間飛車を狙うことが多い。
  • (1)▲7八金と上がり、
    • (a)▲6六歩~▲6五歩~▲6八飛から立石流を目指す。
    • (b)▲4八銀から居飛車を指す手もなくはないが、先手の作戦として面白いかどうか。
  • (2)▲8八飛の向かい飛車は成立しない。△2二同銀の形になってしまっているため、▲8八飛△4五角▲5五角は△3三銀で受かってしまう。

対抗形、角換わり

対抗形 角換わり

△同飛

▲4五角

△7四角

▲7六歩△3四歩▲2二角成△同飛▲4五角△7四角

▲7六歩△3四歩▲2二角成△同飛▲6五角△7四角
 4手目△3二飛の菅井流を応用すると、△同飛で取る形も考えられる。
 筋違い角の▲6五角には△7四角と打ち返し、先手は▲4三角成か▲7四同角を選べる。菅井流との違いは▲2六歩の有無で、その点がどう出るかというところ。変化の詳細はそちらを参照してほしい。

筋違い角

奇襲

▲8八銀

△4二銀

▲7六歩△3四歩▲2二角成△同飛▲8八銀△4二銀

 筋違い角を打たなければ、後手は△4二銀と上がって▲6五角を防いでおき、その後は駒組みに戻るくらい。評価については、一手で飛車を2二まで行かれたことについてどう思うか、である。

対抗形

対抗形 相振り飛車
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e. ▲7七角

▲7六歩△3四歩▲7七角
(KIFファイルのダウンロード)

 4手目△3三角戦法の先手バージョンといえる。
 ただし、先手が居飛車を表明している4手目△3三角とは違い、この局面では後手が振り飛車党の可能性がある。そのため4手目△3三角には▲3三同角成△同桂が大多数を占める状況とは違い、3手目▲7七角に対しては△7七同角成▲同桂とするのは多くなく、角が向かい合ったまま相振りに進むケースが生じる。

 3手目▲2二角成で解説しているが、▲7七桂戦法という立石流狙いの戦法がある。▲7七桂の形にしたいなら3手目に▲2二角成△同銀▲7七桂とすれば間違いがないのだが、それは手損で抵抗がある・・・という場合、この順が指される。ただし前述のように、相手が角交換してくれるかどうかはわからない。
 したがって「△7七同角成と来たときには立石流が指せるし、してこなければ他の作戦を選ぶし、相振りになっても大丈夫」という場合に有力な一手といえる。

 この出だしでは、先手から角交換しづらくなる。一手かけて7七に上がった角を、更に▲2二角成とすると二手損になってしまうからだ。

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

▲7七角

△同角成

▲同桂

△8四歩

▲7六歩△3四歩▲7七角△同角成▲同桂△8四歩

▲7六歩△3四歩▲7七角△同角成▲同桂△8四歩
 この出だしは4手目△3三角戦法を先手で指したケースに当たるので、ほとんど応用が可能。
  • (1)▲8八飛が成立し、
    • (a)△4五角は▲6五桂△6二銀▲5五角の反撃で先手良し。
    • したがって、
      (b)△4二玉▲6八銀から駒組みになる。
  • (2)▲6八飛や
  • (3)▲7八金もある。

対抗形、居飛車力戦

対抗形 居飛車力戦

△4二玉

▲7六歩△3四歩▲7七角△同角成▲同桂△4二玉

 △4二玉は居飛車の工夫で、
  • (1)▲8八飛は今度こそ△4五角と打ち、▲5五角に△3三桂で先手が悪くなる。
  • したがって先手は、
    (2)▲7八金~▲6六歩~▲6八飛と立石流を目指すことが多い。また、銀冠や菊水矢倉を目指し、居飛車で戦うことも可能。

対抗形、居飛車力戦

対抗形 居飛車力戦

△8四歩

▲8八飛

△7七角成

▲7六歩△3四歩▲7七角△8四歩▲8八飛△7七角成

 3手目▲7七角は、次に▲8八飛と振りたいがために冒険をしているともいえる。以下▲同桂△4五角と後手が馬を作りに行くのは4手目▲7七角成△同桂△8四歩から、▲8八飛△4五角と進めたのと同形なので、▲6五桂△6二銀▲5五角で後手ハマり。
 したがって角交換しても、△4五角は打てずに駒組みをすることになる。この進行は先手満足の展開だ。

対抗形

対抗形

△4二玉

▲7六歩△3四歩▲7七角△8四歩▲8八飛△4二玉

 △4二玉は、次に△7七角成~△4五角を成立させるための玉上がり。
  • (1)▲4八玉なら△7七角成▲同桂△4五角で馬が出来る。
  • なので先手はそれを防ぐため、
    (2)▲6八銀と上がることがほとんど。
  • (3)▲6六歩もあるが、角道を止めてしまうので消極的だ。

対抗形

対抗形

▲8八銀

△8五歩

▲7六歩△3四歩▲7七角△8四歩▲8八銀△8五歩

 ▲8八銀は先手が角換わりを誘った順。普通の角換わりの出だしと比べると、先手は▲2六歩を突いていない分の一手を他の手に回せる。乗るかどうかは後手次第。

角換わり、矢倉

角換わり 矢倉・雁木

▲7八銀(▲6八銀)

△6二銀

▲7六歩△3四歩▲7七角△8四歩▲7八銀(▲6八銀)△6二銀

 角換わりもあるが、やや振り飛車模様といえる。

対抗形、角換わり、矢倉

対抗形 角換わり 矢倉・雁木

△4四歩

▲8八飛

△3二銀

▲7六歩△3四歩▲7七角△4四歩▲8八飛△3二銀

 △4四歩は、後手が穏便に済ませようとする順。先手が角道を開けたまま駒組みすることが出来る。▲7六歩△3四歩▲6六歩△3三角が有力なのに、それを先手で指せているので、相当得した感がある。
 進行は相振りの一例。

対抗形

相振り飛車 対抗形

▲4八銀

△4二銀

▲7六歩△3四歩▲7七角△4四歩▲4八銀△4二銀

 まだ対抗形も相振り飛車も矢倉もありそうな進行。

対抗形、相振り飛車、矢倉

対抗形 相振り飛車 矢倉・雁木

△3三角

▲同角成

△同桂

▲7六歩△3四歩▲7七角△3三角▲同角成△同桂

 先手からの角交換は手損になるのでしづらいことを見越し、角を上がる。相振り飛車で、後手が向かい飛車を志向している場合によく見られる。
 それでも角交換すると先手の一手損、つまり先後が入れ替わる。3手目▲7七角に△同角成▲同桂とした局面の後手番になったことになる。

対抗形

相振り飛車 対抗形

▲8八飛

△4二銀

▲7六歩△3四歩▲7七角△3三角▲8八飛△4二銀

 上記の解説の通り手損になるので、角交換する手は敬遠されやすい。先手の▲8八飛は飛車を振る際の一例で、他には▲6八飛がある。

対抗形

相振り飛車 対抗形

▲6六歩

△2二飛

▲7六歩△3四歩▲7七角△3三角▲6六歩△2二飛

 ▲7六歩△3四歩▲6六歩△3三角の出だしで、▲7七角と上がれば同形。以下、
  • (1)▲8八飛で相振り飛車もあるし、
  • (2)▲4八銀から居飛車に切り替え、穴熊を狙うのもある。

相振り飛車、対抗形

相振り飛車 対抗形

△3五歩

▲8八飛

△3二飛

▲7六歩△3四歩▲7七角△3五歩▲8八飛△3二飛

 後手が三間飛車を目指した手。
  • (1)▲2二角成△同銀▲6五角の筋が生じるが、早石田の手筋である△3四角で受かる。そもそもこの戦型では7七に上がった角を自ら換えに行くと二手損なのでやりづらい。
  • したがって角交換はせず、
    (2)▲6八銀△6二玉から駒組みになるのが普通。

相振り飛車

相振り飛車

△7七角成

▲7六歩△3四歩▲7七角△3五歩▲8八飛△7七角成

 ▲同桂に、
  • (1)△4五角は、▲6五桂△6二銀▲5五角の反撃があり無理筋。
  • 他に後手が仕掛けるなら
    (2)△3六歩と突き、
    • (a)▲同歩なら△5五角なので、
    • (b)▲2八銀△3七歩成▲同銀△4五角が考えられる。ただし、先手ばかり手が進む感は否めない。

相振り飛車、対抗形

相振り飛車 対抗形

▲6六歩

△3二飛

▲7六歩△3四歩▲7七角△3五歩▲6六歩△3二飛

 角道を止めて向かい飛車を目指すのであれば、7手目は▲7八銀(▲6八銀)と上がっておく。居飛車にする手もあるが、△3六歩~△6六飛の筋を見せられ銀を6七に上がらざるを得なくなり、玉を堅くしづらい将棋になる可能性がある。
 ▲7八銀以下は、

相振り飛車、対抗形

相振り飛車 対抗形

△4二飛

▲8八飛

△7七角成

▲7六歩△3四歩▲7七角△4二飛▲8八飛△7七角成

 4手目で飛車を振るなら四間飛車。これで4三の地点をカバーしているので、▲6五角の筋が消える。
 これに対し▲8八飛だと、△7七角成▲同桂△4五角が成立する。反撃の筋である▲6五桂には△6二玉と上がり、▲5五角には△4四歩であっさり受かる。

相振り飛車

相振り飛車

▲6八銀

△6二玉

▲7六歩△3四歩▲7七角△4二飛▲6八銀△6二玉

 上記の通り、△4二飛に対して5手目▲8八飛とはできない。当初の狙い通り角道を開けたままで向かい飛車を目指す場合、先手は一旦▲6八銀と上がり、▲5六歩~▲5七銀型を作ってから▲8八飛と振る。
 居飛車に出来ないこともないが、▲6八銀と上がったので玉は堅くできないことは踏まえておく必要がある。

相振り飛車、対抗形

相振り飛車 対抗形

▲6六歩

△6二玉

▲7六歩△3四歩▲7七角△4二飛▲6六歩△6二玉

 ▲6六歩と角道を止めてしまう手もある。後手は四間飛車なので急戦は考えづらく、また後手もいずれ△4四歩を突く可能性が高い。突かなければ他の筋に飛車を振り直すが、それは手損であるので構わないという考え方だ。
 以下、
  • (1)▲8八飛の相振り飛車はもちろんだが、
  • (2)▲4八銀~▲5六歩から居飛車持久戦にする作戦もある。

相振り飛車、対抗形

相振り飛車 対抗形
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f. ▲6八玉

▲7六歩△3四歩▲6八玉
(KIFファイルのダウンロード)

 振り飛車党で、特にゴキゲン中飛車を多用する後手に対して使われる。いわゆるゴキゲン封じの手。
 4手目に△5四歩と突くと、▲2二角成△同銀▲5三角で馬が出来るのが主張だ。

 △8四歩と居飛車にされると駒組みは不便だが、振り飛車党に居飛車を指させたことに満足して指す。

 ゴキゲン封じとしては▲2六歩△3四歩▲2五歩△3三角より抵抗感が少ないのか、トップ棋士にも採用が見られたのだが、2010年12月のA級順位戦・▲三浦弘行△久保利明戦にて久保が△5四歩を敢行。▲2二角成△同銀▲5三角に△3三角と進行し、久保が快勝。
 このイメージもあるのか、以降はゴキゲン中飛車だけでなく角交換振り飛車もけん制できる▲2六歩△3四歩▲2五歩△3三角のほうが指されやすくなっている。

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

▲6八玉

△5四歩

▲2二角成

△同銀

▲7六歩△3四歩▲6八玉△5四歩▲2二角成△同銀

▲7六歩△3四歩▲6八玉△5四歩▲2二角成△同銀▲5三角
 当初の解説どおり、以下▲5三角で馬が出来る。
 これが2010年12月A級▲三浦弘行△久保利明戦で出現。その将棋は▲5三角以下、△3三角▲6六歩△同角▲7七桂△4二金▲2六角成△7四歩と進行。後手の狙いは△7五歩であるが、▲6六歩△同角は一歩損でも角を近づけておけば、▲5八金右~▲6七金と上がったとき角に当たるので、先手を取れるという意味がある。
 ちなみにこの将棋は三浦の立てた構想がまずく、久保が圧勝した。▲6六歩△同角を入れず単に▲7七桂もあった、というのが感想戦の記述である。その単に▲7七桂は2011年1月・C2の▲小林宏△阪口悟戦で指されているが、これも後手が勝っている。

対抗形、居飛車力戦

対抗形 居飛車力戦

△8四歩

▲2六歩

△8五歩

▲7六歩△3四歩▲6八玉△8四歩▲2六歩△8五歩

 以下▲7八金と上がって、△8六歩▲同歩△同飛▲2五歩と進めて指す。

居飛車力戦、相掛かり

居飛車力戦 相掛かり

▲7八金

▲7六歩△3四歩▲6八玉△8四歩▲7八金△8五歩

 ▲2二角成△同銀▲8八銀で、一手損を甘受して角換わりにする手がある。▲2六歩と指して上と同じ変化に戻すのもよし。

居飛車力戦、相掛かり

居飛車力戦 相掛かり

▲6六歩

▲7六歩△3四歩▲6八玉△8四歩▲6六歩△8五歩

 以下▲7七角と上がって一応8六は受かるが、△3二銀~△5四歩~△3一角の筋で、将来の8筋交換は受け入れざるを得ない。

矢倉

矢倉・雁木

▲2二角成

△同銀

▲7六歩△3四歩▲6八玉△8四歩▲2二角成△同銀

 無理やり角換わり。手損はあまり関係ないと見て指す手。

角換わり

角換わり

△4四歩

▲7六歩△3四歩▲6八玉△4四歩

 後手が挑発に乗らなかったケース。普通の振り飛車になれば大差のない駒組みになる。矢倉になる可能性も残っている。

対抗形、矢倉

対抗形 矢倉・雁木

△3三角

▲7六歩△3四歩▲6八玉△3三角

 △4四歩では消極的だとして、後手からも注文をつける△3三角戦法もある。ただしここでも▲6八玉と上がった得があり、仮に▲3三角成△同桂▲2六歩となったとき、▲6五角が成立するため△2二飛とは回れない。

対抗形

対抗形 矢倉・雁木

△4二飛

▲7六歩△3四歩▲6八玉△4二飛

 4手目で飛車を振るなら、▲2二角成~▲6五角がないここしかない。

対抗形(後手四間飛車)

対抗形
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g. ▲5八金右

▲7六歩△3四歩▲5八金右
(KIFファイルのダウンロード)

 2手目△3四歩は、後手が居飛車党であれば横歩取りや一手損角換わりを志向している順であるが、3手目▲5八金右はそれでも先手が矢倉を志向する手だ。プロでは田中寅彦がよく指している。

 その一方、この出だしでは後手に石田流を狙われると、有力な対抗策である棒金が出来ないデメリットも存在する。したがって、後手が普段飛車を振らず、特に横歩取りを愛好する居飛車党だった際に使う手である。

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

▲5八金右

△8四歩

▲6六歩

△8五歩

▲7六歩△3四歩▲5八金右△8四歩▲6六歩△8五歩

 △8四歩には▲6六歩と角道を止めておき、△8五歩に▲7七角と上がって矢倉を目指す。
 この形は△3二銀▲6七金△5四歩▲8八銀△3一角の筋で飛車先を交換できそうだが、あっさり▲6八角と引き、後手に△6二銀が入っていないために、△8六歩▲同歩△同飛から飛先を交換されても、先手は▲5三角で一方的に馬が作れる。

矢倉

矢倉・雁木

△3二金(△6二銀)

▲7六歩△3四歩▲5八金右△3二金(△6二銀)

 先手は「相手の大好きな横歩取りにさえならなければいい」ので、この後の変化は広い。
 4手目△8四歩以外の形は、逆に先手から▲2六歩と突いて飛車先交換を目指せそうだが、後手には一手損角換わりという切り札がある。先手にも好きなときに▲6六歩を突いて矢倉に確定させる権利がある。

矢倉、角換わり

矢倉・雁木 角換わり

△4四歩

▲7六歩△3四歩▲5八金右△4四歩

 後手の矢倉か振り飛車が確定。どちらでも先手にとって不満のない出だしである。

矢倉、対抗形

矢倉・雁木 対抗形

△3二飛(△3五歩)

▲6八玉

△4四歩

▲7六歩△3四歩▲5八金右△3二飛▲6八玉△4四歩

 先手が▲5八金右と指したことで、石田流の天敵である棒金が消えている。その点を突いて三間飛車に構える順。先手は棒金が出来なくても、後手が不慣れな振り飛車を指しているので問題ないという考え方で戦う。
 5手目の▲6八玉に角道を止めないと、▲2二角成~▲6五角があるので注意。

対抗形

対抗形
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h. ▲1六歩

 端歩が関わる出だし(▲1六歩、▲9六歩)は、戦型選択の面では基本的に「後手が手を渡された」「先後が入れ替わった」と考える。
 つまり後手の4手目は、▲7六歩△3四歩における先手の3手目に準じて考えることが出来る。

▲7六歩△3四歩▲1六歩
(KIFファイルのダウンロード)

 3手目▲1六歩は、ゴキゲン中飛車や藤井システムを目指す出だしとして、振り飛車党に多く指されている。

 初手▲7六歩からゴキゲン中飛車を目指す場合、3手目ですぐ▲5六歩と突くと△8八角成▲同銀(同飛)△5七角で後手に馬を作られてしまう。あえて馬を作らせる戦法もあるのだが、一般的に先手の▲5六歩は△8四歩を見てから突きたい。そのため一手待つという意味で、▲1六歩が突かれる。どうせこのあと先手玉は右側に囲うつもりなので、(先手振り飛車・後手居飛車の対抗形になるのであれば)損になりにくい手なのだ。
 ただし後手が△1四歩と端を受けた場合、依然▲5六歩には△8八角成▲同銀△5七角の筋が残ってしまい、ゴキゲン中飛車にはしづらい。したがって、何が何でもゴキゲン中飛車を指したい場合は初手▲5六歩が選ばれる。

 藤井システムにおける▲1六歩は、居飛穴を打診している意味がある。
 つまり、後手が△1四歩と受ければ手が遅れるので穴熊の可能性は低いと判断し、受けなければ穴熊の可能性が高いと判断して駒組みを進める。ただし、藤井システムだけ指すならば3手目は▲6六歩と突いておく方が間違いない。

 他に有名なものとして、後手が△1四歩と受けてきたら、▲6六歩で飛車を振るような顔をしておきながら、突然矢倉にして1筋の突き合いを生かし棒銀で攻める作戦がある。「棒銀の可能性がある間は端を受けてはいけない」という矢倉のセオリーに当てはめた格好だ。

 ただし、どの使用法にしても「後手が居飛車党である」ことが重要な条件である。
 もし後手が振り飛車党だった場合、矢倉棒銀作戦は何の意味もなさなくなり、その上相振り飛車になると▲1六歩は端攻めを誘発してしまい、先手の損になる可能性が高いのだ。

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

▲1六歩

△8四歩

▲5六歩

△8八角成

▲7六歩△3四歩▲1六歩△8四歩▲5六歩△8八角成

 ▲7六歩△3四歩の出だしでは、中飛車狙いだからといって3手目に▲5六歩としてしまうと△8八角成~△5七角で、次の△2四角成と△8四角成が同時には受からず、後手に馬を作られる(あえて馬を作らせる戦法もある)。そこで3手目は▲1六歩と待っておき、△8四歩と突く(=△8四角成が出来なくなる)のを待って▲5六歩と突く。これで先手のゴキゲン中飛車だ。
 それでも△8八角成▲同銀(同飛)に
  • (1)△5七角は、▲6八角と打つ。これで、△8四歩を突いたがために△8四角成が消えており、△2四角成は▲同角△同歩で、後手は馬を作ることができず、手損するだけである。
  • したがって角交換後は
    (2)△2二銀とでも上がっておくところだろう。
 ただし、後手がいつでも4手目を△8四歩と突いてくれるとは限らない。したがって何が何でもゴキゲンにしたければ初手▲5六歩のほうが確実。

対抗形(先手中飛車)

対抗形

△8五歩

▲7六歩△3四歩▲1六歩△8四歩▲5六歩△8五歩

▲7六歩△3四歩▲1六歩△8四歩▲5六歩△8五歩▲5八飛
 △8八角成~△5七角の筋は無理なので、後手は△8五歩が自然だ。そこで▲5八飛(図)と振って、ゴキゲン中飛車の基本形に出来る。
 以下、作戦は△8六歩、△5二金右、△8八角成、△3二金など。詳しくは4手目△5四歩から▲2五歩△5二飛の解説を参照。
 基本的に、端が突いてあることで振り飛車の玉が広いため居飛車にとって条件が悪く、例えば△5二金右▲5五歩△8六歩以下の超急戦は上手く行かないと考えられている。

対抗形(先手中飛車)

対抗形

△6二銀

▲7六歩△3四歩▲1六歩△8四歩▲5六歩△6二銀

 以下▲5五歩または▲5八飛で中飛車に出来る。

対抗形(先手中飛車)

対抗形

▲6六歩

△6二銀

▲7六歩△3四歩▲1六歩△8四歩▲6六歩△6二銀

▲7六歩△3四歩▲1六歩△8四歩▲6六歩△6二銀
 ▲1六歩~▲6六歩は、藤井システム隆盛の頃に盛んだった出だし。先手はおそらく飛車を振るのだから、△8五歩▲7七角を決めて向かい飛車の余地を与える必要はないというわけで△6二銀だ。
 7手目は普通に▲6八飛などと飛車を振ったり、飛車を振る前に▲1五歩と突き越してしまう形も多く見られた。他には▲6八銀や▲7八銀で、矢倉の含みを見せながら指す手もある。

対抗形、矢倉

対抗形 矢倉・雁木

△8五歩

▲7六歩△3四歩▲1六歩△8四歩▲6六歩△8五歩

 先手は▲7七角と上がるので矢倉は組みづらく、無理矢理矢倉になるケースも考えなければいけない。一方、振り飛車なら何の問題もないどころか向かい飛車の含みまで出来るので得。要するに飛車を振る気がなければ3手目▲1六歩の善悪は微妙といえる。

対抗形、矢倉(無理矢理)

対抗形 矢倉・雁木

△1四歩

▲7六歩△3四歩▲1六歩△8四歩▲6六歩△1四歩

 先手の角道が止まった段階で端を受けた手。▲1五歩と突き越されるのを嫌ったといえる。
 ここから矢倉に進むと、1筋の突き合いがあるために先手の棒銀が厳しい攻めになる。それでもこの局面に進めたということは、△1四歩を突く段階で、後手は先手の作戦を振り飛車だと決め打ちしたことになる。

対抗形、矢倉

対抗形 矢倉・雁木

▲1五歩

△8五歩

▲7六歩△3四歩▲1六歩△8四歩▲1五歩△8五歩

▲7六歩△3四歩▲1六歩△8四歩▲1五歩△8五歩
 端を突き越してしまう。3手目▲1六歩特有の出だしである。後手一手損角換わりの影響で、奔放な作戦が出現している。

【▲6八飛】

 飛車を振るなら最も無難な場所。

【▲2二角成】

 先手でも手損して角交換する。以下△2二同銀▲8八銀△3三銀▲7七銀△6二銀から、
  • (1)▲8八飛と一気に向かい飛車へ振るのが、佐藤康光流のダイレクト向かい飛車である。△4五角には▲3六角と打ち、△6七角成には▲5八金右を用意している。
  • (2)▲6八飛なら△4五角はなく無難なところだ。

対抗形

対抗形

▲2六歩

△8五歩

▲7六歩△3四歩▲1六歩△8四歩▲2六歩△8五歩

 以下▲2五歩△3二金▲7八金△8六歩▲同歩△同飛▲2四歩△同歩▲同飛で、横歩取りの出だしに▲1六歩が入った形。後手に横歩を取るかどうかの選択権がある。

横歩取り、相掛かり

横歩取り 相掛かり

△6二銀

▲7六歩△3四歩▲1六歩△6二銀

 英春流の出だし(▲7六歩△3四歩▲4八銀)の局面に△9四歩を入れて、更に後手の手番と考えることができる。したがって5手目は▲6六歩、▲2六歩、▲5六歩が多い。
 4手目△8四歩では▲5六歩のゴキゲン中飛車が成立してしまうので、△6二銀は居飛車党の後手ならば代替案として考えてみたい手だが、これでも▲5六歩は成立する。以下△8八角成▲同銀△5七角は▲5五角と打ち返し、△6二銀が飛車の横利きを止めているために香取りが受からない。したがって後手は角を打てず、4手目△6二銀では先手の中飛車を防ぐことはできない。

対抗形、相振り飛車、矢倉

対抗形 相振り飛車 矢倉・雁木

△4四歩

▲7六歩△3四歩▲1六歩△4四歩

 ▲7六歩△3四歩▲6六歩の局面に△9四歩を入れて、更に後手の手番と考えることができる。したがって5手目は▲2六歩、▲4八銀、▲7五歩、▲7八飛など幅広い。
 後手が振り飛車になると、▲1六歩の価値は微妙。相振りになるとむしろ損になる可能性さえ出てくる。先手が一工夫しなければいけない。

対抗形、相振り飛車、矢倉

対抗形 相振り飛車 矢倉・雁木

△3五歩

▲7六歩△3四歩▲1六歩△3五歩

 早石田の出だし(▲7六歩△3四歩▲7五歩)の局面に△9四歩を入れて、更に後手の手番だと考えることが出来る。したがって5手目は▲7六歩△3四歩▲7五歩の4手目に準じ、▲2六歩、▲4八銀、▲6八玉、▲5六歩が多い。
 ただし、▲2六歩△3二飛▲2五歩△6二玉に▲2四歩△同歩▲同飛と行くと、普通は△3六歩▲同歩△8八角成▲同銀△1五角の王手飛車で一丁上がり・・・のところが、▲1六歩のせいで最後の△1五角が打てないので、後手は別の手法を考えないといけない。

対抗形、相振り飛車

対抗形 相振り飛車

△1四歩

▲7六歩△3四歩▲1六歩△1四歩

 ▲7六歩△3四歩に1筋の突き合いが入った局面。
 「先手はゴキゲン中飛車にできない」「▲振り飛車△居飛車の対抗形なら後手は居飛穴に組みづらい」「相矢倉になれば先手棒銀の狙いがある」「相振り飛車になると突き合いは後手の得」などの要素を考えて戦型を選択するところ。

△4二玉

▲7六歩△3四歩▲1六歩△4二玉

 ゴキゲン封じ(▲7六歩△3四歩▲6八玉)の局面に△9四歩を入れて、更に後手の手番と考えることができる。したがって5手目は▲2六歩、▲6六歩、▲5六歩など。
 △4二玉自体はゴキゲン封じなので、▲5六歩には△8八角成▲同銀△5七角の筋がある。だが▲7六歩△3四歩▲6八玉の成立が危ぶまれている現在、後手番である△4二玉は更に条件が悪いといえそうだ。

△8八角成

▲同銀

△6五角

▲7六歩△3四歩▲1六歩△8八角成▲同銀△6五角

 後手から筋違い角をする順。良し悪しはともかく、振り飛車党への嫌がらせとしては有効だ。これが嫌なら、藤井システム派は3手目に▲6六歩、ゴキゲン派は初手▲5六歩と指さなければいけない。

筋違い角

奇襲

△2二銀

▲7六歩△3四歩▲1六歩△8八角成▲同銀△2二銀

 手損だが、端を受けずにゴキゲン中飛車を拒否する指し方。▲5六歩ならもちろん△5七角だ。先手が居飛車党だったとしても、一手損角換わりだと思って指す。
 先手がそれでも中飛車にするには△4五角の筋を消してから。手っ取り早いのは▲7八金だが、金が離れるのをどう思うかによる。

対抗形、角換わり、相振り飛車

対抗形 角換わり 相振り飛車
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i. ▲9六歩

▲7六歩△3四歩▲9六歩
(KIFファイルのダウンロード)

 ▲1六歩と比べ、▲9六歩ははっきり役に立つ形が限られている。
 その後の展開もちゃんと用意した上で指す手である。

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

▲9六歩

△4四歩

▲7五歩

△3二銀

▲7六歩△3四歩▲9六歩△4四歩▲7五歩△3二銀

 以下▲7八飛△4三銀から相振りになるが、▲7四歩△同歩▲同飛に△7三歩だと、▲7六飛△3三角▲7七桂から、▲9六歩を生かした急戦がある。△7三歩と打たずに△3三角なら急戦はないが、相振りになった時点で▲9六歩の顔は立っているといえる。

対抗形、相振り飛車

相振り飛車 対抗形

△8四歩

▲6六歩

△6二銀

▲7六歩△3四歩▲9六歩△8四歩▲6六歩△6二銀

 先手矢倉または振り飛車模様。凡庸に駒組みしていると▲9六歩が得になるかどうか微妙なので、先手が工夫しなければいけない流れに入ったといえる。

対抗形、相振り飛車

対抗形 相振り飛車

▲5六歩

△8五歩

▲7六歩△3四歩▲9六歩△8四歩▲5六歩△8五歩

 3手目に▲9六歩と突いておき、△8四歩ならば▲5六歩と突く。これでも、3手目▲1六歩と同様に△8八角成▲同銀△5七角は▲6八角で受かるので、ゴキゲン中飛車に出来る。
 ただ、このあと先手は玉を右に囲うので、▲1六歩はそれだけで「玉の広さ」に繋がるメリットがある。だが▲9六歩は、先手がそれを生かす指し方を考えないと緩手にもなってしまう。

対抗形、相振り飛車

対抗形 相振り飛車

▲2六歩

△4四歩

▲7六歩△3四歩▲9六歩△8四歩▲2六歩△4四歩

 居飛車で矢倉模様の場合は、先手が▲9六歩を生かして急戦矢倉に出る手がある。▲9六歩が△9五桂などを消しており、先手の得に働く。

対抗形、相振り飛車

矢倉・雁木 対抗形

△8五歩

▲7六歩△3四歩▲9六歩△8四歩▲2六歩△8五歩

 以下▲2五歩△3二金▲7八金△8六歩▲同歩△同飛▲2四歩△同歩▲同飛で、先手が▲9六歩を突いた横歩取りの出だしになる。この場合、横歩を取るかどうか決めるのは後手。つまり先手が横歩を取らせる展開になる。
 ▲9六歩のおかげで△9五角の筋がない。例えば△7六飛▲2二角成△同銀▲3四飛の相横歩取りに進んだ際、△3三銀に▲8四飛と逃げられる。

横歩取り、相掛かり

横歩取り 相掛かり

△9四歩

▲7六歩△3四歩▲9六歩△9四歩

 ▲7六歩△3四歩に9筋の突き合いが入った局面。
 ▲9六歩の意味から考えれば、先手は振り飛車にするのが妥当。
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j. ▲8六歩

▲7六歩△3四歩▲8六歩
(KIFファイルのダウンロード)

 3手目に▲8六歩と角頭を突く。米長邦雄が好んだ変態戦法として名高い、角頭歩戦法である。
 △8四歩と飛車先交換を狙う手に、▲2二角成△同銀と角交換して▲7七桂と跳ね8五の地点を受けた局面が基本。その一方で、4手目が△8四歩ではない場合の定跡はあまり整備されておらず手将棋模様になる。米長自身は△4四歩と指されて負けた中原戦以降、角頭歩戦法を指さなくなった。

 その後は増田裕司がたまに指しているが、増田の場合は振り飛車党の相手に対して採用することが多い。
 2010年代に入ると、藤井猛、橋本崇載、窪田義行も公式戦で3手目▲8六歩を指した。これに関しては、角交換振り飛車が流行して▲2二角成△同銀から▲8八飛のように飛車を振る作戦が普通になったこともあり、振り飛車党であれば3手目▲8六歩はある手になってきたと考えられる。

 また、後手番の角頭歩戦法もある。

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

▲8六歩

△8四歩

▲2二角成

△同銀

▲7六歩△3四歩▲8六歩△8四歩▲2二角成△同銀

▲7六歩△3四歩▲8六歩△8四歩▲2二角成△同銀▲7七桂
 △8四歩にはすぐ▲2二角成△同銀と角交換して、▲7七桂(図)で8五を受ける。この局面が先手角頭歩戦法の基本だ。
  • (1)△8七角からの馬作りが目につくが、▲6五角と打つのが定跡。これが7六を受けつつ▲4三角成の先手になり、△5二金右と受けたら▲7八銀と角を取りに行く。以下△6四歩に▲4三角成△同金▲8七銀で一歩得と陣形差で先手有利。
  • 後手がすぐ動くのは無理なので、
    (2)△6二銀や
  • (3)△3三銀と形を整えることになる。先手は▲7八金や▲8八銀で角打ちを消し、以降は先手の構想力が試される展開だ。

角頭歩戦法

奇襲

△4四歩

▲7八銀

△3二銀

▲7六歩△3四歩▲8六歩△4四歩▲7八銀△3二銀

 1975年1月王将戦第1局・▲米長邦雄△中原誠戦の進行。中原の対策は「何もしない」△4四歩だった。狙いの乱戦にできず米長は調子が狂い、以下▲8七銀△4三銀▲4八銀△8四歩と進み、大作戦負けでそのまま敗北した。以後米長は角頭歩戦法を指していない。

居飛車力戦

居飛車力戦

▲7七角

△3二銀

▲7六歩△3四歩▲8六歩△4四歩▲7七角△3二銀

 最近では▲7七角や▲6六角から向かい飛車を目指せばそこそこ戦え、「△4四歩とされるとどうしようもない戦法」という認識は薄まりつつある。例えばここから相振り飛車になると、▲8六歩はまったくおかしくない手である。

対抗形、相振り飛車

対抗形 相振り飛車
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k. ▲7七桂

▲7六歩△3四歩▲7七桂
(KIFファイルのダウンロード)

 3手目▲7七桂は、鬼殺しと呼ばれる奇襲戦法の出だし。戦法自体のルーツは大正時代に遡るという。詳細はWikipedia - 鬼殺しを参照のこと。
 基本的には先手番の戦法だが、後手番でもやれないことはない。

 図から△8四歩に、すぐ▲6五桂と跳ねていく。
 この桂跳ねに対して「自然な△6二銀で受けたら後手ハマり。△6二金なら受かる。」というのが概要で、「△6二銀じゃ受からない?金にすると受かるの?すごい!」という驚きが売りの定跡である。
 したがって、そもそも4手目に△6二銀や△6四歩と指したときの話は普通言及されない。それで先手が困るからだ。(*1)

 なお、鬼殺しにはもう一系統の定跡がある。図から△8四歩にすぐ▲6五桂ではなく、▲7八飛(または▲7五歩)△8五歩の交換を入れて▲6五桂と跳ねる系統で、こちらの方がやっかいである。ただ、▲7八飛に△8五歩と突いてくれるかどうかは別の問題だ。

 奇襲戦法の代表といわれる鬼殺しだが、プロ公式戦の実戦例がある。
 ▲佐藤大五郎△中原誠(1974年8月・棋聖戦)では、中原は4手目を△8四歩ではなく△6二銀と指している。結果は中原勝ち。(*2)
 もうひとつは女流の▲林葉直子△斎田晴子(1993年11月・倉敷藤花)。こちらは△3二飛▲5六歩△3五歩▲5八飛から相振り飛車になり、▲7七桂があまり損にならない形になって林葉が勝った。

*1
 『将棋世界』2016年11月号で『大会で勝ち抜くための超B級戦法』というアマ向けの特集があり、瀬川晶司と今泉健司がB級戦法についての対談を行っている。その中で鬼殺しが話題に上がっており、今泉は「(アマ)三段くらいまでのレベルの人なら十分いけると思う」と語っている。
 鬼殺しを受ける立場の人は大抵「△6二金で受かる」「4手目に△6二銀とか△6四歩で大丈夫」くらいの認識である。そもそも指される可能性が低く、指されてもそれさえ覚えておけば対応できるので、後はそのとき考えるという程度だ。しかし、指す立場の人は色々考える。その研究分を考慮すれば、アマ三段ぐらいなら無理気味でも攻めが通ったり、駒組みになっても実戦の中では▲7七桂を咎めきれず勝負になるということなのだろう。
 実際アマ三段どころでなく、電王戦FINAL事前企画の▲Selene△永瀬拓矢戦(30分切れ負け)では、永瀬が研究なのか何なのか見たこともない指し方をしたとはいえ、Seleneの強襲を受け切れずに負けている。時間の短い将棋で突然指されるとプレッシャーがかかることは間違いない。
*2
 △6二銀以降は▲7八金△8四歩▲8六歩△5四歩▲6八飛△4二玉と進行。そこで先手の佐藤が投了し、10手で対局が終わった。
 ちなみに投了の理由を調べると、「仕掛けを封じられた佐藤が『こんな指し方は名人に対して失礼だ』と言って午前中で投げた」(将棋ペンクラブログ)、「緊急の理事会が入った中原が長時間離席したため、佐藤がやる気をなくして投げた」(鈴木宏彦『将棋入門 - 一手の奇襲』)、「佐藤が大遅刻をして不戦敗になったが、観戦記がつく将棋だから指してくれと言われて渋々指した」(初手3六歩w レス27-28)、「二日酔いで体調最悪の佐藤が一か八かでやったがダメだった」(【将棋】くだらない質問に優しく答えてるスレ6 レス955以下)、「不仲の記者を観戦記担当につけられたための意趣返し(短手数で投げて観戦記を書きづらくした)」(プロ棋士の酷い棋譜をさらすスレ レス81)など、諸説ある。
 なお、2019年に将棋ライターの松本博文(通称mtmt)が、この件の調査を行って記事にしている。記事① 記事②

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

▲7七桂

△8四歩

▲7六歩△3四歩▲7七桂△8四歩▲6五桂

▲6五桂

△6二銀

▲7六歩△3四歩▲7七桂△8四歩▲6五桂△6二銀

 鬼殺しの基本定跡。△8四歩に対し、5手目にして▲6五桂と跳ね出し攻撃に出る。放っておくと▲5三桂不成があるので、後手は△6二銀と上がって受ける。
 先手は飛車の小びんを狙って▲7五歩と伸ばす。桂を取りに来る△6四歩に、▲2二角成△同銀と角交換して▲5五角(図)と打つ。2二の銀と、6四の歩の両狙いだ。ここで後手は△6三銀と上がって、飛車の横利きを通して2二の銀取りを受けながら6四の歩を受けるという上手そうな手があるのだが、▲5三桂成(不成)があるのでダメ。というわけで6四の歩は諦めざるを得ず、2二の銀取りを△3三銀か△3三角で受けることになる。

【△3三銀】

 △3三銀は角を使わず受ける手。先手は▲6四角で桂を助け、これがまた▲5三桂成(不成)の先手なので△5二金右と受けるが、そこで▲7四歩と襲い掛かる。後手は△6三金と上がって、7三に利きを足しながら角に当てる。
  • この局面で、日和って
    (1)▲5五角などと角を逃げたら、△7四金と歩を外して攻めが切れる。
  • 角取りを放置して
    (2)▲7八飛と回るのが攻めを継続する一手。以下△6四金に▲7三歩成△同桂▲同桂成△同銀▲同飛成で攻めが決まる。

【△3三角】

 △3三角は角を合わせる受け。これに対しても▲6四角と桂を助ける。
  • (1)△9九角成と香を取ってくる手には、▲7四歩と突いて攻めを継続。
    • (a)△8三飛が定跡だが、▲7三歩成△同桂を決めてから▲5三桂成(不成)。
    • (b)△7二金と受けるのも、▲8八銀△8九馬で△4四馬と引く手を消してから▲5三桂成とする手がある。先に香得出来るが5三を受けていない上に▲7四歩も食らうので、受け切るのも大変、というのが鬼殺し側の言い分である。
    しかし、取れる香を取らずに
    (2)△7七角成とするのが受けの秘手。王手で馬を作るのが狙いだ。
    • (a)▲6八銀にも香を取らず、△4四馬と引いて5三を受けるのが継続手。このやり取りの結果、馬を作って5三を受けながら先手の飛車が7八に回れなくしているというのが主張だ。攻め続ける▲7四歩には△7二金▲7三歩成△同桂と受ける。以下▲7四歩に△6五桂▲8二角成△同金▲7三歩成△同金▲8一飛△6一歩▲9一飛成△9九馬で後手が桂得している上、先手は竜を作っても攻めに乏しく、飛車も自陣で隠居しているのが辛い。
    • いつか飛車を回る手を見越して
      (b)▲6八飛とする手には、角は7七に居座ったまま△5二金右と上がり、▲7四歩には△6三金の要領。どちらの変化でも△7七角のおかげで▲7八飛と回れず、攻めにもうひと押しが来ない。
     なお、この筋は▲5五角に△3三銀でも使える。△3三銀▲6四角に△7七角と打ち、▲6八銀に△4四角成の要領だ。

鬼殺し

奇襲

△6二金

▲7六歩△3四歩▲7七桂△8四歩▲6五桂△6二金

 ▲6五桂の仕掛けに対しては、6手目を△6二金にするのが受けの定跡だ。
 以下、▲7五歩△6四歩▲2二角成△同銀▲5五角と同じように攻めかかってきたときに、△6三金と上がって攻めは頓挫する。金と銀の違いがここで現れ、銀で同じように進めたときは▲6四角と▲2二角成は受かっても▲5三桂成(不成)があって失敗した。しかし金であれば、▲5三桂成も△同金と取れるというわけ。
 この△6二金という一手が鬼殺しの受けとしてあまりに印象的であるがゆえに、3手目▲7七桂に対してすぐ△6二金と上がる人も見受けられる。

鬼殺し

奇襲
▲7六歩△3四歩▲7七桂△8四歩▲7八飛

▲7八飛

△8五歩

▲7六歩△3四歩▲7七桂△8四歩▲7八飛△8五歩

 5手目に桂馬を跳ねず、▲7八飛と解説する定跡もある。後手は△8五歩と飛車先を伸ばす。

【▲6五桂】

 ▲6五桂と仕掛けてきた手に対し、
  • (1)△6二銀には、
    • (a)▲7五歩と突き、△6四歩▲2二角成△同銀▲5五角△3三銀▲6四角△5二金右▲7四歩△6三金と進む。
      • この局面で、
        (ア)▲7三歩成から攻める手もあるが、△同桂▲同桂成の瞬間に△9五角と王手で打ち、なおかつ7三に利きを足す受けがあるためはっきりしない。
      • (イ)▲4八玉と一旦上がって△9五角の筋を避けておくのが、冷静な一手。以下△6四金と角を取っても、▲7三歩成△同桂▲同桂成△同銀▲同飛成で攻めが成功する。
  • というわけで、ここでも受けの定跡手
    (2)△6二金が登場する。以下▲7五歩△6四歩に、
    • (a)▲2二角成△同銀▲5五角は△6三金で受かる。
    • △6二金万能!…と思いきや、▲2二角成に代えて
      (b)▲7四歩と突いて先手よしという変化が森雞二の本に書いてあり、昔読んだときに感動したと『将棋世界』2016年11月号『大会で勝ち抜くための超B級戦法』内の瀬川晶司×今泉健司対談において今泉が語っている。
      • (ア)△6五歩と桂を外すのは、▲7三歩成△同金▲同飛成!△同桂▲7四歩。
      • (イ)△7四同歩には、▲同飛△7三歩▲6四飛△8八角成▲同銀△5五角で両取りがかかるが、飛車を見捨てて▲6六角△6四角▲1一角成△3二銀▲6六馬で、飛香交換ながら次に▲8四香を狙うというもの。ソフトの評価値はどちらの変化も後手に振れるが、うるさい攻めだ。

【▲7五歩】

 更に力をためて▲7五歩も考えられる。
  • (1)△8六歩▲同歩△同飛は▲6五桂で後手危険。▲5三桂不成と▲2二角成△同銀▲7七角がある。
  • (2)△6二銀は▲6五桂、
  • (3)△6二金でも▲6五桂で、上記の定跡に合流。
  • (4)△6四歩で桂跳ね自体を防ぐくらいか。ちなみにソフトはそこで▲8五桂△同飛▲2二角成△同銀▲7六角という筋を読む。評価値は後手に振れているものの、色々と手はあるものだ。

鬼殺し

奇襲

△6四歩

▲7六歩△3四歩▲7七桂△8四歩▲7八飛△6四歩

 △8五歩~△6二金でも攻めがうるさいとなると、そもそも6手目に△8五歩と突く手から考え直さなければいけない。
 代替案となる手は何か。△6二銀は▲6五桂で基本定跡に合流するのでダメ。△6二金は▲6五桂と跳んでくれるなら有効。ただし形を決め過ぎな感があり、例えば▲2六歩と突かれた場合、△6二金は後で形を直すか、△6三金~△6二銀~△5三銀のような使い方に限定される。となると、桂跳ねを防ぐ△6四歩が消去法で残る。
 このときに、5手目が▲7八飛か▲7五歩かで差が生じる。5手目▲7五歩ならば、そこで▲7八金や▲2六歩からひねり飛車風に指す手も考えられるが、▲7八飛だとこの構想がなく、▲6八飛~▲6六歩を狙っても手損である。  

鬼殺し

奇襲

△6二銀

▲6五桂

△6四歩

▲7六歩△3四歩▲7七桂△6二銀▲6五桂△6四歩

 そもそも4手目で△6二銀と上がる手も有力。
 ▲6五桂と仕掛けても、△6四歩▲2二角成△同銀▲5五角△3三銀▲6四角△5二金右▲7五歩△6三金で受けきり。桂跳ねにすぐ△6四歩と突けるので受けが一手早くなっており、▲7四歩が間に合わない。
 ちなみに6手目は、角交換後の▲5五角を打たせない△5四歩、角交換後の2二銀に紐をつける△3二金なども有力である。

 前述の通り、▲佐藤大五郎△中原誠戦も4手目△6二銀。若い頃の佐藤康光と森内俊之も△6二銀を支持している。(将棋ペンクラブログ - 鬼殺し殺し
 定跡で「鬼殺しの受けは△6二金」としているため、鬼殺しに対しては△6二銀と上がること自体に悪い印象を持つ人もいるのだが、実は△8四歩のほうが「△9五角と王手で打ちながら7三の受けに利かす」筋を消していて、鬼殺しを受けるのに役立っていない。もっといえば邪魔だ。つまり4手目△8四歩は、△6二金が受けの秘手だと印象付けるための手なのである。

鬼殺し

奇襲

▲2六歩

△3二金

▲7六歩△3四歩▲7七桂△6二銀▲2六歩△3二金

 ▲6五桂の仕掛けを見送って駒組みになると、先手は桂頭に弱点を抱えながら駒組みしなければいけない。つまり4手目△6二銀は、わざわざ△8四歩~△6二金で攻めを呼びこんで受ける展開にしなくても、桂頭というはっきりした弱点があるのだから駒組みした後で攻めればいいという手である。
 ▲2六歩からは後手鬼殺しで見られた、▲2五歩~▲2六飛でひねり飛車を目指す構想が一例。他には▲8六歩~▲7八銀~▲8七銀と銀冠にする構想も考えられる。

鬼殺し

奇襲

△6四歩

▲6八飛

△6二銀

▲7六歩△3四歩▲7七桂△6四歩▲6八飛△6二銀

 「だいたい、桂を跳ばせてるから攻めが来るんでしょ」と、▲6五桂自体を防いで△6四歩と突く手もある。これで、その場の▲6五桂は確かに受かる。
 ただし△6四歩は、6五に争点を作っていることにもなる。成立するかどうかは別として、先手が▲6八飛から▲6六歩~▲6五歩を狙ってくる可能性は考えられる。

鬼殺し

奇襲

△7四歩

▲6五桂

△5二飛

▲7六歩△3四歩▲7七桂△7四歩▲6五桂△5二飛

 2015年2月『将棋電王戦FINALへの道 #52』で出現した、▲Selene△永瀬拓矢戦(30分切れ負け将棋)の進行。4手目△7四歩の意味はよく分からない。▲6五桂には△5二飛と回る前提があり、その前に指しておく手として損にならないのが△7四歩ということだろうか。例えば▲7三桂成と成り捨てたときに歩を取られないという意味とか。しかしソフトの評価値はよくないので謎。思い付きか。
 以下▲7八飛△7二金▲7五歩△6四歩▲7四歩△6五歩と永瀬が桂を取りきるが、▲4八玉△8二銀▲3八玉△6二飛▲5八金左△4二玉と進んだとき、先手のSeleneが▲2二角成△同銀▲5五角△3一玉▲8二角成△同金▲7一銀と強襲。結果は先手勝ち。

鬼殺し

奇襲

△3二飛

▲5六歩

△3五歩

▲7六歩△3四歩▲7七桂△3二飛▲5六歩△3五歩

 ▲林葉直子△斎田晴子戦(1993年11月・倉敷藤花)の進行。先手が勝っている。4手目△3二飛のときに限らず、先手が▲5六歩から中飛車に振る構想はありうる。
 鬼殺しに対して振り飛車で対抗しようとすると、桂を8五に跳ねて端を攻めることも考えられるので、桂の使い勝手が増えたともいえる。

鬼殺し

奇襲
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l. ▲5六歩

▲7六歩△3四歩▲5六歩
(KIFファイルのダウンロード)

 ▲7六歩△3四歩に対する3手目▲5六歩は、発祥を辿ると1局だけだが江戸時代に指された棋譜がある。
 図では△8八角成~△5七角で馬を作りに行く手がすぐ見える。この筋は先手がうっかりしたのではなく、わざと馬を作らせて、先手は持ち角と手得を主張する指し方を狙っている。
 しかし、昭和初期までは中央の位を評価する傾向があったためか、または手損で馬を作ることがあまり評価されなかったのか、4手目は△5四歩と受けて相居飛車の将棋になることが多かった。△8八角成~△5七角の馬作りも指されていたが少数派で、かつ先手も角交換を▲8八同銀と取っていた。
 戦後になると馬作りの評価が上がったのか、△8八角成~△5七角が増加し、▲8八同銀と取って相居飛車にする形は、後手に馬付き矢倉で固められると苦しいとされるようになった。

 昭和30年代になると、△8八角成を飛車で取って向かい飛車にする戦法が現れた。
 「振り飛車名人」と呼ばれた大野源一が得意としていたため、現在では『大野流向かい飛車』と呼ばれる。他に升田幸三、大内延介が代表的な使い手で、最近では力戦振り飛車の雄となった佐藤康光が指すことがある。

 しかし「昔は居飛車穴熊がなかったから通用した戦法」だと言われることが多く、現代でもたまに指されるが、やはり馬は大きく先手の勝率は悪い。
 ただ、先手はそれを承知で指しているのだから、当然その後の指し方を研究してきているはずである。ならば「相手の研究範囲には飛び込まない」という考え方も一理あり、実戦では後手が角交換してこないことも多々ある。

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

▲5六歩

△8八角成

▲同銀

△5七角

▲7六歩△3四歩▲5六歩△8八角成▲同銀△5七角

▲7六歩△3四歩▲5六歩△8八角成▲同銀△5七角
 ▲7六歩△3四歩▲5六歩は、後手から△8八角成~△5七角とされて馬を作られる筋が生じる。以下、
  • (1)▲6八角には△8四角成、
  • (2)▲4八角には△2四角成、
  • (3)▲6六角には△同角成▲同歩△6七角があるので、△5七角と打たれた時点でもう馬作りを防ぐことは出来ない。
  •  角打ちで馬を消せないのならば、先手はここでは角を打たずに持ち角と手得を主張する将棋を目指す。これは△8八角成を銀で取っても飛車で取っても同じ基本方針だ。
     △8八角成を▲同銀と取った場合は、
  • (4)▲5八飛や
  • (5)▲7七銀としておき、馬を作らせた後に自陣の整備を行う。
 なお、後手が角を成る場所はほぼ△2四角成である。
 先手の7手目にもよるが、△3五角成だと▲2六角、△8四角成だと▲7五角で馬を消される筋が生じるからだ。

対抗形、相振り飛車、居飛車力戦

対抗形 相振り飛車 居飛車力戦

▲同飛

△5七角

▲7六歩△3四歩▲5六歩△8八角成▲同飛△5七角

▲7六歩△3四歩▲5六歩△8八角成▲同飛△5七角
 △8八角成を▲同飛と取るのが、大野流向かい飛車だ。
 △5七角で馬を作られるのを防げないのは▲8八同銀のときと同じ。▲6八銀と角を追うが、そのとき後手には角を成る場所が3か所ある。
  • (1)△2四角成が一般的な指し方。
    •  先手はそこで
      (a)▲4八玉や(b)▲8六歩で駒組みにするのが一般的である。
    • (c)▲7七角や(d)▲6六角と打ってしまい、後手の馬の動きをけん制する手段もある。この戦型における後手の主張点は「馬を作っていること」なので、後手は盤上から馬を消しにくい。つまり角打ちに△3三馬とぶつけるような手はほぼ指さず、受けるなら△3三桂か△2二銀だ。
      • (ア)△3三桂なら桂頭が弱点になるので、▲5七銀~▲4六銀~▲3六歩~▲3八飛から▲3五歩と仕掛ける順が生じる。
      •  したがって、
        (イ)△2二銀のほうが手堅い。
    •  この角打ちは大野流向かい飛車では部分的な手筋で、すぐには打たず、後手が△3三馬と引いたときに打つという順もある。前述の通り後手は角と馬を交換しづらいので、馬を逃げるか馬筋を止めるかという選択になる。このようにある程度後手の形を限定できるが、打った後の角をうまく使えないと、生角と馬の差で先手が苦しくなる。
  • (2)△3五角成には、
    • (a)▲2六角と打って馬を消しに行く手がある。△同馬▲同歩と進んだ形はかなり手得しているが、▲2六歩となった形は振り飛車としては若干駒組みのしづらさがあるので一長一短。ちなみに、しつこく△2七角と馬を作ろうとするのは▲3六角△同角成▲同歩△2七角▲4五角で受かっている。
    •  上記の進行を嫌うなら、
      (b)▲3八銀や(c)▲3八金と上がって、次の△4五馬に▲5七銀と上がる受けを作っておくか。
  • (3)△8四角成は軽率で、▲6六角や▲7五角と合わせられて作った馬を消されてしまう。
  • 対抗形(大野流向かい飛車)、相振り飛車

対抗形 相振り飛車

△5四歩

▲2二角成

△同銀

▲7六歩△3四歩▲5六歩△5四歩▲2二角成△同銀

 ▲5六歩に△5四歩と突き返す手は、戦前までは角交換よりも多数だった。
 一方で、後手が馬を作らないのなら先手から▲2二角成△同銀に▲5三角と打って馬を作る手が見える。これに対して後手は(1)△5七角と打って双方馬を作り合う展開と、(2)△5二飛や(3)△4二金のように先手に馬を作らせて持ち角と手得を主張する展開を選べる。
 どちらも一局の将棋だが、この「後手が好きなほうを選べる」のが好まれないのか、そもそも▲2二角成と角交換する手自体が少ない。

対抗形、相振り飛車、居飛車力戦

対抗形 相振り飛車 居飛車力戦

▲4八銀

△6二銀

▲7六歩△3四歩▲5六歩△5四歩▲4八銀△6二銀

 ▲4八銀△6二銀は戦前に多い進行で、▲5七銀△5三銀としてから飛車先を伸ばし合って相掛かりに進んだり、一方が角道を止めて矢倉や雁木の将棋になっていた。
 時代が下ると3手目▲5六歩自体が振り飛車含みの手になっていき、相掛かりも5筋を突かなくなったことから、この出だしはほとんど見られなくなっている。

相掛かり、矢倉、居飛車力戦

相掛かり 矢倉・雁木 居飛車力戦

▲5八飛

▲7六歩△3四歩▲5六歩△5四歩▲5八飛

 ▲5六歩△3四歩▲5八飛△5四歩▲7六歩と同じ局面。

△8四歩

▲7六歩△3四歩▲5六歩△8四歩

 ▲7六歩△8四歩▲5六歩△3四歩と同じ局面。
 △8四歩は一例で、他に△6二銀、△4二玉、△4四歩、△3五歩など多々考えられるが、先手は▲5五歩で位を取る将棋に出来る。
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m. その他の進行

 3手目▲6六角は力戦志向の手で、金沢孝史が指していたことから一部では金沢流(Wikipedia)と呼ばれている。
 3手目▲6八銀は、みんな一度はやっていそうな失敗である。

(KIFファイルのダウンロード)

初手

2手目

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

▲7六歩

△3四歩

▲7六歩△3四歩▲6六角

▲6六角

△同角

▲同歩

△6七角

▲7六歩△3四歩▲6六角△同角▲同歩△6七角

▲7六歩△3四歩▲6六角△同角▲同歩△6七角
 3手目▲6六角は「金沢流」ともいわれる。具体的に目指している形ははっきりせず、力戦になればよいというのが第一目標だと思われる。
 後手がすぐに角交換して△6七角と打つ手は簡単に思いつく手で、この変化で先手悪くないという手ごたえがなければ、3手目▲6六角とは指せない。
  • (1)▲7八飛で桂取りと△7六角成の両方を受けるのが金沢流。(『将棋戦法辞典100+』より)
    • (a)△同角成▲同銀は飛車の打ち込みの隙が無く、力戦志向の先手としては望むところだろう。
    • (b)△6二銀は▲5五角で香取りが受からない。
    • (c)△4二玉や(d)△2二銀は上記の▲5五角の筋を防いだ手。
    • (e)△4五角成には(ア)▲3八銀や(イ)▲3八金と受けるのが手堅いか。(ウ)▲3六角で馬を消しにいく手があるが、△同馬▲同歩に再度の△6七角や△5五角があり、更なる乱戦になる可能性が高い。
  • (2)▲7七桂と跳ねる手もある。以下△7六角成に▲6五桂と跳ねて、次の▲5三桂不成を狙う。
    • (a)△6二銀で5三を受ける手には▲5五角と打つのが狙い筋だ。飛香落ちの上手でこの筋があるという(△3四歩▲7六歩に△4四角と上がる)。
    • したがって、▲6五桂には強気に
      (b)△6六馬▲5三桂不成△9九馬と進めるほうが勝る。

奇襲

奇襲

△8四歩

▲7六歩△3四歩▲6六角△8四歩

 後手が角交換しない場合は、▲6六角をどう生かすかということになる。
 4手目の△8四歩は一例で、先手は(1)▲7七桂~▲8八飛や、(2)▲6八銀~▲7七銀~▲8八飛で向かい飛車にする作戦が考えられる。他、(3)▲7八金は手堅い感じで、△6六角▲同歩△6七角を消して駒組みすることになる。

対抗形、居飛車力戦

対抗形 居飛車力戦
▲7六歩△3四歩▲6八銀

▲6八銀

△8八角成

▲7六歩△3四歩▲6八銀△8八角成

▲7六歩△3四歩▲6八銀
 ▲7六歩△8四歩▲6八銀は矢倉の出だしだが、勘違いして2手目△3四歩にも▲6八銀と上がると、角がタダである。初心者あるあると言えよう。

投了

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2. ▲7六歩△8四歩

▲7六歩△8四歩

 2手目△8四歩は、後手が居飛車の態度を明らかにした手。
 居飛車党同士でこの出だしになった場合、ほとんど次の手で戦型が決まる。▲6八銀なら矢倉、▲2六歩なら角換わりだ。つまり戦型を決めるのは先手であるため、相手の作戦を受けて立つという点で、2手目△8四歩は「王者の一手」といわれる。
 先手が振り飛車党だった場合、2手目△8四歩は先手早石田(▲7六歩△3四歩▲7五歩)の選択肢を消した手となる。一方で先手中飛車(▲7六歩△8四歩▲5六歩)の出だしが生じるため、この点を考慮した上で後手は2手目を選ぶことになる。

 まとめると、後手で居飛車を指す場合、矢倉、角換わり、対抗形を研究しておけば、先手が相当ひねくれていない限り大丈夫。▲7六歩に△3四歩と突くより、戦型が絞れるのだ。

 プロにおいては、2手目△8四歩は矢倉または角換わりの形勢によって、採用率が大きく左右される。
 矢倉の▲4六銀・▲3七桂型が猛威を振るい、角換わり腰掛け銀先後同型も先手有望とされた1990年代後半から2000年代前半は、後手は2手目△8四歩とは指しづらい時代だった。どちらも先手が攻める戦型で、それを受けて立って、そのまま攻め潰されて負けたら目も当てられないからである。
 そうなると居飛車党でも2手目△3四歩が多くなり、そこに現れた救世主が、横歩取り△8五飛戦法とゴキゲン中飛車だったのである。

 2010年代後半に入って、コンピューター将棋がプロの将棋に影響を及ぼした。
 2手目△8四歩から派生する戦型では、矢倉は長らく主流であった▲4六銀・▲3七桂型に組めなくなり、また後手に左美濃急戦が登場した。角換わりは▲4五桂の速攻や後手の△8一飛・△6二金型が現れ、従来の先後同型は見られなくなった。
 更に横歩取り後手番(2手目△3四歩)が苦しいこともあって、居飛車党の間では再び2手目△8四歩が主流となっている。

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2-1. ▲7六歩△8四歩に▲6八銀 (矢倉)

▲7六歩△8四歩▲6八銀
(KIFファイルのダウンロード)

 後手の△8四歩に対する▲6八銀は矢倉の出だし。
 △8五歩と飛車先を伸ばされたときに、▲7七銀と上がって8六の地点を受けると矢倉囲いをスムーズに組めるため、▲6八銀と上がっておく。なお、△8五歩には▲7七角と上がって受ける手もあり、その場合は雁木や振り飛車の含みになる。

 基本的に、この3手で矢倉の合意が出来たとされる。
 初心者が注意すべき点は、3手目▲6八銀が矢倉の合図だと思い、うっかり▲7六歩△3四歩に▲6八銀としてしまう順。まぁ、誰もが一度は通る道だろう。

 ▲7六歩△8四歩の3手目に▲6八銀(または▲7八銀)で矢倉を目指す出だしは、調べのつく範囲では大正時代が初出で、意外と新しい。(*1)
 ただし、矢倉を目指す形自体は江戸時代から存在していた。▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩から始まる、現代の分類では「無理矢理矢倉」とされる形だ。それは「後手が矢倉を志向する」形だが、▲7六歩△8四歩▲6八銀は「先手が矢倉を志向する」形であるところに違いがある。
 登場した当時は「相掛かりこそプロの将棋である」という時代であり、この作戦は「力戦狙い」「自分から角道を止めるなんて先手の得を失っている」と言われていたが、戦後に塚田正夫、升田幸三、大山康晴による採用から注目されて理論づけられていき、約半世紀に渡って相居飛車における王道の戦型となった。(*2)

 矢倉の駒組みにおいて、本チャートの趣旨に沿って注目すべき点は「5手目問題」である。
 5手目問題とは「▲7六歩△8四歩▲6八銀△3四歩のとき、5手目は▲7七銀なのか▲6六歩なのか」という話で、どちらを選ぶかによってその後の展開が異なる。もちろん、どちらにも長所と短所がある。
 1980年代までは矢倉をやるなら▲7七銀で、▲6六歩は振り飛車模様ということが多かった。しかし1990年代に入り、矢倉中飛車対策ということで矢倉でも▲6六歩が主流となった。しかし、後手の左美濃急戦が出現した2016年頃から再び▲7七銀が主流となっている。(*3)

 戦型は矢倉に決まっても、複数の後手急戦など多彩な変化がある。
 それを踏まえ、一手一手に相手の意図を感じながら持久戦へ進む定番の駒組みは「矢倉24手組」と呼ばれている。(*4)

 約半世紀に渡って定跡が構築されてきた矢倉だが、少し前、1990年代後半から2000年代の矢倉のキーワードは、主に「5手目▲6六歩」「飛車先不突矢倉」(*5)「▲4六銀・▲3七桂戦法」であった。
 ところが2010年代に入るとソフトの影響が及んで、これらのキーワードが次々と覆されていった。大雑把にいうと、▲4六銀・▲3七桂戦法はそこまで組む前に変化されて組めなくなった。急戦対策のために5手目は▲7七銀に変わり、飛車先は突くようになった。後手が隙あらば急戦を狙う駒組みをするようになり、先手はそれに対して「自分も急戦を目指す」か「急戦を封じる駒組みで持久戦を目指す」かの選択を迫られるようになったことで、全てが変わったのである。
 こうして、矢倉24手組のような定番の局面は減少し、先手に工夫が求められる状況となった。一周して、登場当初の「力戦」という認識に戻ったともいえる。

*1
 ちなみに1950年代までは、3手目▲6八銀よりも3手目▲7八銀のほうが多かった。
*2
 ▲7六歩△3四歩で説明した通り、戦後から1980年代まで、▲7六歩に対する居飛車党の2手目は△8四歩が多かった。つまり相居飛車戦といえば矢倉が主流であり、羽生世代あたりまでの棋士は、この矢倉全盛の時期に将棋を覚えた世代であるため、普段は横歩取りも振り飛車も一手損角換わりも指すが、番勝負の最終局のような、大事な一局ほど矢倉を選ぶ傾向がある。観戦するファンも同様に、大一番には矢倉を期待する声が大きい。
 …もっとも、さすがに2020年代ともなると、上記のようであるとは言えなくなってきた。
*3
 マイナビ将棋情報局に2019年度終了時における矢倉の動向についてまとめた記事があり、②の記事には2013~2019年度の矢倉5手目の統計がある。①2019年度に復活を遂げた先手矢倉 そもそもなぜ衰退していたのか、②2019年度に復活を遂げた先手矢倉 徹底した急戦封じが功を奏す
*4
 先手の飛車先が▲2六歩だった時代と、飛車先不突きだった時代で違いがあるため、前者を「旧24手組」、後者を「新24手組」と区別する場合もある。
*5
 読みは「ひしゃさきふつきやぐら」「ひしゃさきつかずやぐら」のどちらでもいいと思われるが、「ふつき」と聞くと「歩突き」とも受け取れるので、会話では注意が必要。

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

▲6八銀

△3四歩

▲7七銀

△6二銀

▲7六歩△8四歩▲6八銀△3四歩▲7七銀△6二銀

▲7六歩△8四歩▲6八銀△3四歩▲7七銀△6二銀
 矢倉の定跡形・5手目▲7七銀。5手目の▲7七銀は1990年代前半まで主流だったが、その後▲6六歩に主流が移った。しかし左美濃急戦の出現で再度▲6六歩が減り、▲7七銀がまた増えてきている。
 (1)▲5六歩と突き、△5四歩▲4八銀△4二銀▲5八金右△3二金▲7八金△4一玉▲6九玉△5二金▲6六歩△3三銀▲7九角△3一角△4四歩▲6七金右△7四歩が、新矢倉24手組の一例。手順については人によって若干前後する。
 飛車先不突矢倉を指さない場合は、(2)▲2六歩と突いてしまうことが多い。

【5手目▲7七銀の特徴】

・先手から急戦矢倉が出来る
・既に6八~7八のルートが開けているので早囲いに組みやすい
・陽動振り飛車に対して、▲7八玉まで囲った後に▲6八銀と引けば舟囲いに戻るので、急戦で咎めに行ける。

【後手急戦】

 5手目▲7七銀に対する後手急戦は、矢倉中飛車が有効。長くなるが、以下▲5六歩△5四歩▲4八銀△4二銀▲7八金△3二金▲6九玉△4一玉▲5八金△7四歩▲6六歩△6四歩▲6七金右△6三銀▲2六歩△5二飛が一例。
 この後、中央からの攻めに備えて7七の銀を▲6八銀と引く手筋がある。定跡なのだが、一度上がった銀を下がっているのもまた事実。ところがこの定跡、5手目▲6六歩であれば銀は6八のままなので、先手は手損なしで戦える。これは後手にとっては不満なので、プロは5手目▲6六歩に対して矢倉中飛車を指さない。
 一方、5手目▲7七銀に対しては右四間飛車が指されない。芸無く▲5六歩△6四歩▲4八銀△6三銀▲7八金△5四銀▲6九玉△6二飛▲5八金と進めても、先手が▲6六歩を突いていないので△6五歩が何でもなく仕掛けにならない。

【近年の後手急戦】

 先手の7手目が▲5六歩でも▲2六歩でも、すぐに△7四歩を突くのが近年多くなっている手法。ここから居玉のまま、△7三桂~△8五歩からタイミングを見て△6五桂の筋で攻めるか、△7三銀~△6四銀~△8五歩から△7五歩の早繰り銀が指されており、隙あらば急戦に出る態度を見せて、先手の対応を問う意味がある。
 急戦を必ず敢行するわけではなく持久戦になることもあるが、これらを含みとした駒組みが増えている。

【その他の変化】

 △8五歩と突かれていない今なら、▲6六銀と出ることも出来る。居飛車なら力戦調、振り飛車なら▲5六歩~▲5八飛から中飛車にするイメージ。

矢倉

矢倉・雁木 対抗形

△8五歩

▲7六歩△8四歩▲6八銀△3四歩▲7七銀△8五歩

▲7六歩△8四歩▲6八銀△3四歩▲7七銀△8五歩
 後手が飛車先を決める手。急戦を狙う含みがある。
 次の7手目、先手がやってはいけない手がある。一見普通に見える▲4八銀だ。
  • (1)▲4八銀と指すと、△8六歩と突かれる。
    • (a)▲8六同銀は△8八角成で終了。▲4八銀と上がっていなければ、飛車の横利きが通っていて構わないのだが。
    • したがって、
      (b)▲8六同歩と取るしかないが、構わず△同飛と来られ、
      • (ア)▲同銀は△8八角成で後手だけ桂香を取れる形になる。
      • 飛車を取らず、
        (イ)▲7八金で頑張っていそうだが、△7七角成が「次の一手」。▲同角は△8九飛成、▲同金は△8八飛成、▲同桂は△8七銀でほとんど終わっている。▲4八銀が、飛車の横利きを止めた上に玉の逃げ場所まで狭くしているという最悪の駒になっているのだ。
  • したがって7手目は
    (2)▲7八金が一番手堅い。以下、
    • (a)△6二銀なら通常の矢倉の駒組みに戻る。
    • (b)△7二銀の一直線棒銀には、▲2六歩△8三銀▲2五歩△3三角▲7九角△8四銀が進行の一例。
      • (ア)▲5六歩には△9五銀と出られ、▲2四歩△同歩▲同角△8六歩と来られると受けづらい。
      • (イ)▲6六歩と角道を止めるのが手堅く、△6四歩には▲9六歩と銀を追い返せばよい。なお、振り飛車でもいいなら7手目は▲5六歩としておき、△7二銀▲5八飛△8三銀▲6六銀△8四銀▲7七角のほうがスムーズな駒組みが出来るが、後手が必ず△8三銀と上がるわけではないので難しいところ。
    • 桂馬で速攻を仕掛ける狙いで、銀を上がらずに
      (c)△7四歩という手も生まれている。以下、
      • (ア)▲4八銀△7三桂▲5六歩にはいきなり△6五桂!と仕掛ける。
        • ▲6八銀には、△8六歩と突く。以下、
          • ▲2二角成(△同銀▲8六歩△同飛なら▲9五角で一丁上がり)には△8七歩成!が厳しい。次の△7八とが詰めろだ。
          • ▲8六同歩△同飛▲2二角成(△同銀は▲9五角)は△8九飛成が王手で入り、▲7九金△同竜▲同銀△2二銀で後手の駒得だ。
          • ▲8六同歩△同飛にはまだしも▲8七歩だが、△7六飛と横歩を取って後手の攻勢が続く。
        • ▲6六銀にも△8六歩▲同歩△同飛と飛車先交換に出る。この桂馬、すぐ取れそうでなかなか取れず、うるさい攻めなのだ。
      • 実はこの攻めに対して▲4八銀~▲5六歩は不急の一手であり、
        (イ)▲2六歩と反撃を見せる手が指されている。急戦矢倉に対しては自然な対応だ。以下△7三桂に▲2五歩に、一旦△3三角と上がって受ける。
        • 以下、主な進行としては
          ▲5六歩△6四歩▲7九角に△6五桂と開戦したのが2020年10月の竜王戦第1局▲羽生善治△豊島将之で、先手も銀桂交換をいとわず▲2四歩△同歩▲同角と攻め合う大乱戦となった。
        • ▲4八銀はその一瞬壁形になるため、速攻に対する不安材料でもあることから、
          ▲5八金△6四歩▲6六歩と、右銀の活用よりも矢倉囲いを急ぐ手もある。ここまで徹底して警戒されると速攻は成立しにくく、持久戦になることが多い。
  • 7手目は飛車の横利きが止まらなければいいので、
    (3)▲5六歩や、
  • (4)▲2六歩もある。
  • (5)▲6六歩と角の利きを消す手でもよい。

矢倉

矢倉・雁木 対抗形

△5四歩

▲7六歩△8四歩▲6八銀△3四歩▲7七銀△5四歩

 同じく陽動振り飛車が含み。ただしこの場合、先手はあとで7七に上がった銀を6八に引けば角道が一気に通る。

矢倉

矢倉・雁木 対抗形

▲6六歩

△6二銀

▲7六歩△8四歩▲6八銀△3四歩▲6六歩△6二銀

▲7六歩△8四歩▲6八銀△3四歩▲6六歩△6二銀
 矢倉の定跡形・5手目▲6六歩。森下卓『現代矢倉の思想』が詳しい。以下、(1)▲5六歩と突いて、△5四歩▲4八銀△4二銀▲5八金右△3二金▲7八金△4一玉▲6九玉△5二金▲7七銀△3三銀▲7九角△3一角△4四歩▲6七金右△7四歩が矢倉24手組といわれる。1990年代から矢倉の5手目は▲6六歩が主流になっていたが、2016年に左美濃急戦が出現して、▲6六歩は6五が争点になってしまい受け身になりやすくなったことから、再び▲7七銀が増えている。
 飛車先不突矢倉を指さない場合は、(2)▲2六歩と突いてしまうことが多い。

【5手目▲6六歩の特徴】

・先手から急戦矢倉は出来ない(する気もない)
・陽動振り飛車に対しては持久戦模様で対応

【後手急戦】

 5手目▲6六歩に対して、後手は右四間飛車が狙える。▲6六歩と突いているために、6五が争点になる(駒がぶつかる)ことが確定しているからだ。
 一応後手は矢倉中飛車も出来るが、5手目▲7七銀のところで解説した通り、5手目▲6六歩に対する矢倉中飛車は先手が若干得をするため、プロは指さない。
  • 右四間飛車を狙う場合は、▲5六歩に
    (1)△6四歩と突き、
    • (a)▲7八金△6三銀▲4八銀△5四銀▲5七銀右△6二飛▲5八金△6五歩が最短の仕掛けで、先手は▲6七銀か▲6七金右が定跡。
    • 矢倉にこだわらなければ、
      (b)▲5七銀△6三銀▲6八飛の要領で、▲5七銀型の四間飛車で受けることもできる。
  • 手順は一例だが、2016年になって、
    (2)△8五歩▲7七銀△6四歩▲7八金△6三銀▲5八金△4二玉▲6七金右△3二銀の左美濃急戦が出現。これが猛威を振るい、5手目▲6六歩が減少する原因を作った。

【その他の変化】

 単純に局面を見ると、先手は▲6七銀から雁木にしたり、飛車を振る展開も考えられる。

矢倉

矢倉・雁木 対抗形

△8五歩

▲7六歩△8四歩▲6八銀△3四歩▲6六歩△8五歩

▲7六歩△8四歩▲6八銀△3四歩▲6六歩△8五歩
 早々に△8五歩と飛車先を決める。
 現代矢倉は、8五に桂を跳ぶ余地を残して△8五歩を保留することがある。それでも突いてきたということは急戦の可能性が高いと見るところ。
  • 矢倉を目指すには(1)▲7七銀と上がる。
    • (a)△6二銀なら普通の進行。
    • (b)△7二銀で一直線に棒銀を目指す作戦がある。以下▲7八金△8三銀▲5六歩△8四銀▲7九角と銀を進出した後、すぐ△9五銀は▲6八角で受かるので、一旦△6四歩が工夫の一手。▲6八角に△6五歩▲同歩と、角のラインをこじ開けてから△9五銀と行くのである。
      • (ア)▲9六歩と銀を追い返そうとするのは、△8六歩▲同歩△同銀▲同銀△9九角成と角を成りこみ後手が指せる。
      • 先手の対策としては、
        (イ)▲5五歩と突き、△同角に▲5八飛と角取りに飛車を回る。
        • △4四角と逃げれば▲5五歩と角道を止め、形勢はともかく攻めは止まる。
        • そこで、角を見捨てて
          △8六歩▲同歩△同銀▲5五飛△7七銀不成▲同桂△8九飛成と強攻する手がある。以下▲7九銀△9九竜▲6四歩△5四香▲同飛△同歩▲6三歩成が進行の一例だ。
  • 飛車先を(2)▲7七角で受ける場合は、先手は振り飛車か雁木を目指すことになる。

矢倉

矢倉・雁木 対抗形

△5四歩

▲7六歩△8四歩▲6八銀△3四歩▲6六歩△5四歩

 少しひねった順。矢倉の可能性を残しながら陽動振り飛車も含みにしていて、先手は▲6六歩を突いているため急戦がしづらい。

矢倉

矢倉・雁木 対抗形

▲2二角成

△同銀

▲7六歩△8四歩▲6八銀△3四歩▲2二角成△同銀

 角交換振り飛車が登場してから、たまに見られる出だし。

角交換振り飛車、角換わり

対抗形 角換わり

△8五歩

▲7七銀

△3四歩

▲7六歩△8四歩▲6八銀△8五歩▲7七銀△3四歩

 ▲7六歩△8四歩▲6八銀△3四歩▲7七銀△8五歩と同じ局面。

▲7七角

▲7六歩△8四歩▲6八銀△8五歩▲7七角

 △8五歩を決めてきた後手に対して先手が変化した手順。これ以降は、後手が△3四歩を突いたときに▲6六歩とするかどうかが大きな分岐である。▲6六歩を突かなければ、後手に角換わりを選ぶ権利がある。
 ▲6六歩を突くと、6八の銀が角の動きを邪魔して、先手はすんなり矢倉に組めない。その為選ぶ作戦は雁木や右玉、そして振り飛車。

角換わり、対抗形、居飛車力戦

角換わり 対抗形 居飛車力戦
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2-2. ▲7六歩△8四歩に▲2六歩 (角換わり)

▲7六歩△8四歩▲2六歩
(KIFファイルのダウンロード)

 後手の△8四歩を見ての▲2六歩は、先手の「角換わりをしたいです」の合図。(*)
 初手▲2六歩△8四歩に▲7六歩でもこの局面になる。したがって「先手の初手が▲7六歩でも▲2六歩でも、2手目△8四歩と突く限り、後手は角換わり対策を準備しておく必要がある」ということである。

 角換わりの出だしの4手目以降には、時代による変遷がある。
 違いは、先手が▲2五歩を決めるかどうかである。

1.▲2五歩型
 図から①△8五歩▲2五歩△3二金▲7七角または②△3二金▲2五歩△8五歩▲7七角に、△3四歩▲8八銀△7七角成▲同銀△2二銀が▲2五歩型の出だしだ。ちなみにこの出だしには初手▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩から▲7六歩△3二金▲7七角でも合流できる。
 ▲2五歩型角換わりには、先手後手双方の攻撃形について「ジャンケン理論」がある。角換わりにおける攻撃形は棒銀・早繰り銀・腰掛け銀の3種類がある。これらは三すくみの関係にあり、棒銀は腰掛け銀に強く、腰掛け銀は早繰り銀に強く、早繰り銀は棒銀に強いという理論だ。これが原則として存在しており、序盤からお互いの銀の出方を伺って駆け引きが行われる。
 このようなことを言う一方、プロで戦われる角換わりは、相腰掛銀がかなりの割合を占める。

 角換わりの出現から1980年代前半までの角換わりはこの▲2五歩型が主流だったが、1980年代後半から飛車先保留型が主流となり一旦衰退した。
 だが、2010年代後半に将棋ソフトの影響が序盤にも及ぶと、相腰掛銀で後手が△6二金・△8一飛型と構えるようになり、他に角換わりに向かう手順中で後手がツノ銀雁木に変化する作戦が流行。これらの実戦を重ねるうちに先手も▲2五歩と伸ばして▲2九飛・▲4八金型に構えるようになったことで▲2五歩型の出だしが復権し、再び主流となっている。
 ただし現代の▲2五歩型では、前述したジャンケン理論も一応生きているものの、それよりも桂を使った▲4五桂速攻が序盤の大きな含みとして存在しており、それへの対応が難しいために棒銀がほとんど指されなくなっている。

2.飛車先保留型(▲2六歩型)
 図から①△3二金▲7八金△8五歩▲7七角△3四歩▲8八銀△7七角成▲同銀△4二銀(△2二銀)または②△8五歩▲7七角△3四歩▲8八銀△7七角成▲同銀△4二銀(△2二銀)が飛車先保留型の出だしである。手順中、▲2五歩が指されていないことを確認してほしい。
 なお、気が変わって▲2五歩型にしたくなったときは、そこで▲2五歩と突けばいいだけである。

 ▲2五歩型角換わりは研究が進むうちに「相腰掛銀で後手に隙を作らず待ち構えられると攻めきれない」という問題が生じていた。飛車先保留型はその形を打開するため「▲2五桂と跳ねる攻め筋を作る」というアイデアである。
 飛車先保留型は、1980年代後半から2010年代前半までの約30年ほど角換わりの出だしの主流となっていたが、前述した通り、2010年代後半になって再び主流の座は▲2五歩型に移った。
 したがって飛車先保留型は冬眠状態にあり、新しいアイデア待ちとなっている。

 なお、飛車先保留型の先手は「後手が棒銀・早繰り銀・腰掛銀の何で来ようが全部腰掛銀で対応する」のが基本である。したがって飛車先保留が主流の時代は、腰掛銀と相性の悪い早繰り銀がほとんど指されなくなった。

EX.角換わり拒否
 なお、1と2のどちらでも、後手が△3四歩と突いたときに先手が▲6六歩と突けば、角換わりを拒否して矢倉や雁木に持ち込むことが出来る。ただ、▲7七角と上がっているので矢倉の場合は無理矢理矢倉系の将棋になり、それは現状あまり有力な作戦だとは思われていない。一方で雁木は2010年代後半に再評価され、▲7七角と上がった手をそのまま生かせることから、最近指されることが多い。


 ちなみに4手目で△3四歩と指すと、▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩と同じ局面、つまり横歩取り・一手損角換わりの出だしになる。
 しかし、2手目△8四歩は現状「矢倉でも角換わりでも受けて立ちましょう」という手である。そういう手を指しておきながら4手目に△3四歩は「やっぱりごめんなさい」と角換わりを拒否した形になってしまう。これは気合負けした形であり、最初から2手目△8四歩と突くなという話になってしまうので、プロはこの手順をほとんど指さない。(この件に関するコラム) だが、思想はどうであれありえる手順なので、3手目を▲2六歩で行く場合は、横歩取り・一手損角換わりに進む可能性を頭に入れておかなければいけないだろう。

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

▲2六歩

△3二金

▲2五歩

△8五歩

▲7六歩△8四歩▲2六歩△3二金▲2五歩△8五歩

▲7六歩△8四歩▲2六歩△3二金▲2五歩△8五歩
 角換わり▲2五歩型の出だし。出だしの4手で角換わりの合意がほぼ出来ていると見なされるので、7手目以降は▲7七角△3四歩▲8八銀△7七角成▲同銀△2二銀の進行が大多数を占める。
 2010年代末に▲2五歩型が復権したことにより、初手▲2六歩から△8四歩▲2五歩△8五歩▲7六歩に△3二金のルートでこの局面に来ることも増えた。

【▲7七角△3四歩】

 ▲7七角と飛車先を受けると、△3四歩と角交換を挑む手に、
  • (1)▲8八銀と銀を上がり、
    • (a)△7七角成▲同銀△2二銀が大多数で、角換わりの出だし。
      • 以下、
        (ア)▲2四歩△同歩▲同飛には△3五角があるので、
      • (イ)▲7八金△3三銀と進行するのが一般的な指し方。
      • (ウ)▲4八銀として、場合によっては▲7八金の省略を含みにする手もある。
        • △3三銀には▲3六歩△3二金▲3七桂△4二玉▲4六歩が一例で、次に▲3五歩△同歩▲4五桂と仕掛ける狙いがある。
        • 上記の▲4五桂跳ねの仕掛けを警戒して、
          △6二銀と突っ張る指し方も現れている。△3三銀と上がっているから▲4五桂の目標になるので、△3三銀は桂跳ねがうまく行かない形になるまで保留する、という発想だ。
           すぐ▲2四歩△同歩▲同飛には△3三角と打つ。以下、▲3四飛には△2八歩があり、▲2八飛には△8六歩▲同歩△8八歩と、▲7八金と上がっていない点を咎めた反撃が出来る。細かいことは省くが、▲7八金と上がってくれれば桂跳ねの仕掛けが成立しにくいので、後手はそこで△3三銀と上がる。突き詰めた結果の細かい工夫である。
      • (エ)▲4五角と打つのが角換わり筋違い角。以下△6二銀(△5二金)に▲3四角と歩を取り、2筋を棒銀で狙うか、▲5六角から▲8八飛と向かい飛車にして8筋逆襲を狙うかという将棋になる。木村義雄が升田幸三の挑戦を受けた第10期名人戦で指されたのが有名で(木村が打ったのが2局、升田が打ったのが1局で、木村が全勝)、かつては「プロの筋違い角」とも言われたが、今ではほとんど指されない。ちなみに「アマの筋違い角」は3手目角交換から打つ筋違い角である。
    • (b)△3三角と上がって力戦に誘う手もある。ここで▲3三角成と先手から角交換するかどうかが大きな分岐。
      • (ア)▲同角成と誘いに乗ると、先手は手損するが、後手は△同桂か△同金なので形が悪い、という判断。
        • △同桂は先手に飛車先を交換されてもいいという取り方。
        • △同金は先手に飛車先交換させない取り方。ここから後手が手得を主張して△3三金型のまま早繰り銀を目指す指し方が現れている。
      • (イ)▲7八金のように角交換しなければ、後手は△2二銀や△4二銀として形よく進める。以下、角交換したほうが手損という将棋になる。
    • (c)△3三金は、ここまで進めてからどうしても角は交換したくないし飛車先も交換されたくない場合の最終手段。ただしその後は自己責任。一応、力戦派のプロによる実戦例もある。それ以外の手だと先手が▲2四歩と突ける。
  • 2017年になって雁木に変化する指し方が現れた結果、
    (2)▲6八銀と先手も右に銀を上がる手が増えている。
  • (3)▲6六歩の無理矢理矢倉や雁木もある。

【▲7七角△その他】

 △3四歩と突かなければ、先手に飛車先交換をさせる指し方になる。
  • (1)△1四歩と突いておき、▲2四歩△同歩▲同飛に△2三歩以外の手も指せるようにしておくのが一案。
  • (2)△4二銀~△3一角~△5四歩と、嬉野流を目指す指し方も考えられる。

【▲2四歩】

 相掛かりにする順。以下△2四同歩▲同飛に、
  • (1)△2三歩▲2六飛なら、▲2六飛型の相掛かり。飛車を2八に引くのは、後手から横歩を取られる順を心配する必要がある。
  • (2)△3四歩なら▲7八金で横歩取りの出だしから▲2四歩△同歩▲同飛とした局面に合流する。

角換わり(正調)、矢倉(無理矢理)、相掛かり

角換わり 矢倉・雁木 相掛かり

△3四歩

▲7六歩△8四歩▲2六歩△3二金▲2五歩△3四歩

 ▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩▲2五歩△3二金と同じ局面。
 6手目で△3四歩を突くと後手が横歩取り/一手損角換わり方面へ誘導していることになる。ただし、手の流れ上あまり見られない手順である。

▲7八金

△8五歩

▲7六歩△8四歩▲2六歩△3二金▲7八金△8五歩

▲7六歩△8四歩▲2六歩△3二金▲7八金△8五歩
 角換わり先手飛車先保留型の出だし。
 これも4手目△3二金の時点でほぼ角換わりの合意が出来たと見なされ、7手目以降の進行例は、▲7七角△3四歩▲8八銀△7七角成▲同銀△4二銀(△2二銀)が大多数を占めていた。だが2017年になって雁木が流行し始めたことで、この手順中で先手にも後手にも変化する余地が生じている。

【▲7七角】

 一旦角で飛車先を受ける。そこで後手は△3四歩と突き、角交換出来るようにするのが定跡手順。
  • (1)▲8八銀が、角換わりを目指すなら定番。飛車先保留腰掛け銀が主流となり、角換わり腰掛け銀の大流行があった1990年代以降、この手順が主流であった。
    • (a)△7七角成▲同銀△4二銀(△2二銀)が圧倒的に多く角換わりに進む。最後の銀上がりは、1990年頃から△4二銀が主流となっていたが、2017年を境にして△2二銀が再度増えつつある。
    • (b)△4二銀と上がり、先手から角交換する▲2二角成△同金▲7七銀も角換わり。この角交換は先手の手損だが、いずれ△3二金と戻すことになるので相殺されるという考えだ。
    • (c)△4四歩は後手が角換わりを拒否した手。以下▲2五歩に、
      • (ア)△3三角▲4八銀△2二銀で無理矢理矢倉、
      • (イ)△4二銀▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩▲2八飛から雁木ぐらいと考えられていた。しかし2017年にツノ銀雁木が現れ、▲2五歩に△3三角と飛車先を受けた上で▲4八銀に△4二銀とする手が見られるようになった。
  • 上記のように、▲8八銀と上がると後手が雁木にしてくることが増えたため、その対策として
    (2)▲6八銀と上がる手が現れた。この手の意味は、
    • (a)△7七角成▲同銀なら今まで通り角換わりだし、
    • (b)△4四歩で雁木にしてくるならば、▲6八銀型のまま右四間飛車や早繰り銀の急戦を仕掛けたり、同じように雁木に組む手を狙っている。
  • (3)▲6六歩の先手無理矢理矢倉や雁木もある。ただし、そもそも3手目や5手目で矢倉の選択肢もあったところをここまで進めて来ている。それで変化するのは、相手がかなり自信満々な顔で指してきたということでもなければ選択しづらい手だ。

【▲2五歩】

 先手が相掛かりに変化する。
  • (1)△8六歩▲同歩△同飛▲2四歩△同歩▲同飛なら、
    • (a)△2三歩▲2六飛で相掛かり。▲2八飛と引くのは、△7六飛を心配しなければならない。
    • (b)△3四歩は後手が横歩取りに誘う手。
    (2)△3四歩なら横歩取りの出だしに合流する。

角換わり(正調)、矢倉(無理矢理)、相掛かり

角換わり 矢倉・雁木 相掛かり

△3四歩

▲7六歩△8四歩▲2六歩△3二金▲7八金△3四歩

 ▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩▲7八金△3二金と同じ局面。
 手の流れ上、あまり見られない手順。ただ、コラムで述べているが、4手目に△3四歩と突くよりは多い。

▲6八銀

△3四歩

▲7六歩△8四歩▲2六歩△3二金▲6八銀△3四歩

  • (1)▲7七角ならあくまで角換わり志向。
  • (2)▲7七銀か
  • (3)▲6六歩は、先手が矢倉に変化する順。
 ただし、そもそも3手目で先手は矢倉を選べたのだから、あまり指されない手順。また矢倉でも▲2六歩を先に突いているため、藤井流や加藤流▲3七銀戦法を目指すことになる。また▲6六歩の場合は、陽動振り飛車の含みも残っている。

角換わり、矢倉、対抗形(陽動振り飛車)

角換わり 矢倉・雁木 対抗形

△8五歩

▲7六歩△8四歩▲2六歩△3二金▲6八銀△8五歩

  • (1)▲7七銀と上がって飛車先を受ければ矢倉。
  • (2)▲7七角だと陽動振り飛車か、△3四歩と突いてきてまだ角換わりになる可能性を見ているか。

矢倉、対抗形(陽動振り飛車)、角換わり

矢倉・雁木 対抗形 角換わり

▲6八飛

△3四歩

▲7六歩△8四歩▲2六歩△3二金▲6八飛△3四歩

 4手目△3二金は、振り飛車を相手にした際、舟囲いに組めず駒組みに制約ができるというデメリットもある。それを踏まえて、先手が陽動振り飛車にする手は考えられる。
 ▲6八飛は一例。他にも▲7七角、▲6六歩、▲7八飛などから目指す順もある。また▲2六歩を狙われるのを警戒して、▲3八銀~▲2七銀と銀冠の一部を作ってから飛車を振る順もあるだろう。

対抗形(陽動振り飛車)

対抗形

△8五歩

▲7七角

△3四歩

▲7六歩△8四歩▲2六歩△8五歩▲7七角△3四歩

▲7六歩△8四歩▲2六歩△8五歩▲7七角△3四歩
 角換わりの出だし。後手が△8五歩を早めに決める形だ。4手目△3二金▲7八金△8五歩の変化と比べると金上がりの交換がない。この場合、先手が陽動振り飛車に変化した場合でも後手は舟囲いに組める。
 5手目▲7七角と上がり角換わりを目指す手は、飛車先保留腰掛け銀が登場した1980年代後半になって増加した。飛車先保留が登場する前、80年代前半までは5手目に▲2五歩を決め、△3二金▲7七角が主流だった。

【▲8八銀】

 角換わりを目指すなら角交換を▲同銀と取るため、▲8八銀が自然。
 以下、
  • (1)△7七角成▲同銀△2二銀は角換わりになる。
  • (2)△3二金も
    • (a)▲7八金△7七角成▲同銀△4二銀で角換わりがほとんどだが、
    • (b)▲6六歩と変化して、矢倉にする手もなくはない。
  • (3)△4四歩と後手が角換わりを拒否して無理矢理矢倉や雁木を目指す手もある。

【▲6八銀】

  • (1)△7七角成▲同銀△2二銀と角交換してくれば角換わりで、▲8八銀との差はない。
  • (2)△4四歩や、(3)△3二金▲6六歩の進行で持久戦になった場合に違いが現れ、▲8八銀の場合先手は角引きから▲7七銀と上がる順で矢倉に組むことになるが、▲6八銀に代えると雁木に組む狙いになる。

【▲6六歩】

 ▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩▲6六歩△8五歩から▲7七角と同形。先手が無理矢理矢倉か陽動振り飛車に変化する手。

角換わり(正調)、矢倉(無理矢理)

角換わり 矢倉・雁木

▲2五歩

△3二金

▲7六歩△8四歩▲2六歩△8五歩▲2五歩△3二金

 ▲7六歩△8四歩▲2六歩△3二金▲2五歩△8五歩と同じ局面。
 角換わり▲2五歩型の出だしで、飛車先保留の考え方が登場する前の1980年代前半までは、この手順から▲7七角と上がって角換わりに進んでいた。なお、初手▲2六歩から△8四歩▲2五歩△8五歩▲7六歩に△3二金でこの局面に合流してくる順もある。

△3四歩

▲7六歩△8四歩▲2六歩△8五歩▲2五歩△3四歩

 ▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩と同じ局面。ただし手の流れ上、あまり見られない手順。

△8六歩

▲7六歩△8四歩▲2六歩△8五歩▲2五歩△8六歩

 ▲同歩△同飛▲2四歩△同歩▲2三歩で角損となり失敗。▲8六同歩のときに気づいて△3四歩か△3二金というところだろう。

居飛車力戦、横歩取り、相掛かり

居飛車力戦 横歩取り 相掛かり

△3四歩

▲7六歩△8四歩▲2六歩△3四歩

 ▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩と同じ局面。
 しかし手の流れ上、2手目に△8四歩と突いた後手がここで△3四歩と指すことは少ない。この件に関する検討はコラム参照。後手の言い分は「矢倉がしたかったのに角換わりにされそうなので、横歩にしました」。2手目△8四歩が「王者の一手」と呼ばれている間は、この手順は好まれないだろう。

角換わり拒否の4手目△3四歩と、4手目△3二金▲7八金に△3四歩

 ▲7六歩△8四歩▲2六歩の出だしで4手目△3四歩は、プロはほとんど指さない。
 確かに傾向はその通りなのだが、よくよく調べてみると、少し解せない点も見られることに気付いた。

 ▲7六歩△8四歩▲2六歩(または▲2六歩△8四歩▲7六歩)に△3四歩は、特にトップクラスの棋士はほぼ指さない。
 だが、▲7六歩△8四歩▲2六歩△3二金▲7八金(または▲2六歩△8四歩▲7六歩△3二金▲7八金)に6手目△3四歩は、羽生善治、佐藤康光、木村一基などがたまに指している。直近の目立つところでは、2015年8月の王位戦第3局・▲広瀬章人△羽生戦(外部サイト)がこの出だしだ。

 どうしても勝ちたい将棋で、居飛車後手番の作戦に対する評価が『矢倉≧横歩取り>>(越えられない壁)>>角換わり』だったならば、2手目に△8四歩と突き、そこで角換わりになりそうならどんな罵声を浴びたとしても拒否して横歩取りにする、という理屈になるのはわかる。
 よくわからないのは「4手目△3四歩で横歩取りにするのはやる気がしない、でも△3二金▲7八金となったところで△3四歩だったらたまにはやってもいい」という感覚である。どちらにしろ気合負けではないのだろうか。

 そこで考えた、角換わりを避ける後手の言い分をまとめると、以下の通りだろうか。
1. 後手番ではまず矢倉が指したい。
2. 矢倉じゃなければ横歩取りが指したいので、先手が角換わりを目指して来たら、気合負けだといわれようがなんだろうが避ける。
3. 4手目で避けるよりは、△3二金▲7八金の交換を入れて6手目で避けるほうが、先手に陽動振り飛車へ変化される可能性が少ない。先手の無理矢理矢倉は歓迎。
4. 5手目に▲2五歩と変化してきた場合は、旧式の角換わりなので受けて立つ。

 結局どちらの出だしからでも、横歩取りに行くのは『趣向である』としか記せない。何が違うのか、いつか『イメ読み』で聞いて欲しい。
 ただ、一頃は「恥ずかしい手」「志が低い」などといわれた▲2六歩△3四歩▲2五歩△3三角の出だしが2013年の名人戦第4局以降見直されたように、時代時代でその局面の捉え方は変わる。現状「角換わりから逃げている」と詰られるこの手順も、極端な話「角換わりは先手必勝」と証明されたら、角換わりを避けること自体が常識となるので、一転して当然の手順だといわれるだろう。

 ちなみに局面ペディアを引用すると、81dojoで▲7六歩△8四歩▲2六歩と進んだ場合、4手目が△3四歩である可能性は4割近く。アマの居飛車後手番では、角換わりより、自分から動きやすい横歩取りの将棋を目指す人が多いということだと思われる。

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2-3. ▲7六歩△8四歩に▲5六歩 (先手振り飛車)

▲7六歩△8四歩▲5六歩
(KIFファイルのダウンロード)

 先手振り飛車(中飛車)志向の手。
 2000年代後半から、振り飛車党の先手番では、初手は▲7六歩と突いて、2手目が△3四歩なら▲7五歩で石田流、△8四歩ならこの▲5六歩で中飛車という作戦が流行している。久保利明、戸辺誠に加え、女流の里見香奈も参戦した。

 居飛車党の立場になれば、後手になったとき、初手▲7六歩に対して「2手目△3四歩で先手石田流にされる」のと、この「2手目△8四歩で先手中飛車にされる」のと、どちらがマシか、という問題を考えなければいけなくなった。すると、2手目△8四歩には「石田流を避ける」という意味合いがあるため、「相手の作戦を真っ向から受ける」王者の一手といえるものでもなくなってきたのである。

 また、初手▲5六歩に対して△8四歩と突くと、先手の3手目は▲7六歩が大多数。そのためこの局面に合流しやすい。

 先手からは次に▲5五歩で位を取る手があるため、後手の4手目はその位を取らせて指すかどうかを考慮して決める。位を取らせる△3四歩、位を取らせない△5四歩、△8五歩▲7七角の交換を入れて△5四歩の3つが多く指されている。

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

▲5六歩

△3四歩

▲5五歩

△6二銀

▲7六歩△8四歩▲5六歩△3四歩▲5五歩△6二銀

▲7六歩△8四歩▲5六歩△3四歩▲5五歩△6二銀
 △3四歩は位を取らせる手。先手は▲5五歩と突けば、確実に位を取れる。
  • (1)▲5八飛で5筋位取り中飛車。
  • (2)▲4八銀で5筋位取りの居飛車にする順も考えられる。

対抗形、居飛車力戦

対抗形 居飛車力戦

△8五歩

▲7六歩△8四歩▲5六歩△3四歩▲5五歩△8五歩

対抗形、居飛車力戦

対抗形 居飛車力戦

▲5八飛

△6二銀

▲7六歩△8四歩▲5六歩△3四歩▲5八飛△6二銀

 ▲5五歩は後でも突けるとし、先に飛車を振る手もある。仮に6手目△5四歩だと▲2二角成△同銀▲5三角で馬が出来るので後手は△5四歩とは突かず、結局先手から▲5五歩と突いて、5筋位取り中飛車に進むことが多い。

対抗形(先手中飛車)

対抗形

△8五歩

▲7六歩△8四歩▲5六歩△3四歩▲5八飛△8五歩

  • (1)▲5五歩と突くと、その局面は▲5六歩△3四歩▲5八飛△8四歩▲5五歩△8五歩に▲7六歩と同じ局面。
  • (2)▲4八玉と上がる。
    • (a)△8六歩には▲同歩△同飛▲2二角成△同銀▲8八飛で先手好調。
    • (b)△6二銀や△5二金右には▲5五歩を突く。そこで△8六歩は▲同歩△同飛▲5四歩△同歩▲2二角成△同銀▲7七角で、後手ゴキゲン対▲5八金右急戦より一手早く指している上に△6二銀が壁なので先手得。したがって△8六歩とは仕掛けられず、先手は5筋位取り中飛車に組める。
  • (3)▲7七角は、
    • (a)△同角成▲同桂なら角交換振り飛車。
      • 以下、
        (ア)△8六歩▲同歩△同飛は▲6五桂△6二銀▲7七角で先手良し。
      • (イ)△8六歩▲同歩△8七角は▲8五歩△7六角成▲7八金で一局。
      (b)△6二銀なら▲5五歩で5筋位取り中飛車。

対抗形(先手中飛車)

対抗形

▲2二角成

△同銀

▲7六歩△8四歩▲5六歩△3四歩▲2二角成△同銀

 △3四歩には、▲2二角成△同銀と角交換して▲8八飛と振ることも出来る。ダイレクト向かい飛車の一種で、▲5六歩と突いてあるため△4五角の筋がなく、△5七角も▲6八角で受かるため、馬を作られる筋がない。
 ▲7六歩△3四歩▲2六歩△5四歩▲4八銀△8八角成▲同銀△2二飛と似た形であり、居飛車の指し方は同じように、
  • (1)△8五歩▲6八銀から駒組みするか、
  • (2)△3三角と打ち、先手が▲7七角と打つのか▲9八飛と突っ張るのかという将棋になる。

対抗形

対抗形

△8五歩

▲7七角

△5四歩

▲7六歩△8四歩▲5六歩△8五歩▲7七角△5四歩

▲7六歩△8四歩▲5六歩△8五歩▲7七角△5四歩
 ただ4手目△5四歩より、△8五歩▲7七角を決めて△5四歩のほうが採用例は多い。ただしこの場合は向かい飛車の選択肢が生まれる。近年は中飛車ブームで、▲5八飛の採用数が多い。
 中飛車にされることを考えれば、ただ△5四歩より、△8五歩▲7七角を決めたほうが得とされる。だが、向かい飛車の可能性が生じるのをどう見るかだ。

【▲8八飛】

 ▲8八飛と向かい飛車にするのを、升田流向かい飛車と呼ぶ。
  • (1)△6二銀が古い定跡。
    • (a)▲6八銀に、
      • (ア)△4二玉とつられて指してしまうと、▲8六歩△同歩▲同角が王手。
        • △3二玉は▲3一角成△同銀▲8二飛成で勝負あり。
        • △8六同飛▲同飛くらいだが、もはや飛車成りが受からない。
      • (イ)△6四歩は▲8六歩△同歩▲同角が王手にならないようにする手。それから△4二玉と上がって駒組みに移る。
      • (ウ)△3四歩と突く手もある。▲8六歩には、△7七角成▲同銀としてから△8六歩と手を戻して対応する狙いがある。
    • しかし鈴木大介の新手で、
      (b)▲8六歩△同歩▲同角△8五歩▲7七角△6四歩▲4八玉△4二玉▲6六角と積極的に動く『鈴木スペシャル』と呼ばれる手順が発見されてから、△6二銀は減少し△3四歩が主流となっている。
  • (2)△3四歩に対し、先手は
    • (a)▲2二角成△同銀▲5三角△5七角で馬を作りあう順か、
    • (b)▲6八銀と上がるか。そこで後手は△4二玉と上がるのが△3四歩からの狙いで、
      • (ア)▲8六歩に対しては△7七角成▲同銀△8六歩▲同銀△7四歩という変化がある。次に△7五歩が狙いだ。
      • それは振り飛車にも勇気が必要な変化なので、
        (イ)▲4八玉と自重する手が多い。

【▲5八飛】

 流行の中飛車。以下△6二銀に、
  • (1)▲4八玉△4二玉▲3八玉△3四歩が多く見られる進行。ここから、
    • (a)▲6八銀の阪口流・ワンパク中飛車が主流。以下△5三銀▲2八玉に、
      • (ア)△7七角成▲同銀△6四銀か、
      • (イ)△3二玉か。
      (b)▲6六歩で角道を止め、ツノ銀や矢倉流中飛車を目指すことも考えられる。
    • (c)▲2二角成△同銀▲8八銀の近藤流・新ゴキゲン中飛車は、ただでさえ手損の角交換が、一旦▲7七角と上がっているため二手損の計算になるので、ない訳ではないがほとんど指されない。
  • (2)▲5五歩△同歩▲同飛と動く手もある。ゴキゲン本家の近藤正和が多く採用する指し方だ。以下△4二玉▲4八玉で、
    • (a)△3二玉▲3八玉に
      • (ア)△3四歩▲5四飛は△8六歩▲同歩△7七角成▲同桂△8七角▲7八金△7六角成▲3四飛で乱戦になる。
      • (イ)△4二銀なら穏やかで、▲5九飛△3四歩▲6八銀が一例。
      (b)△3四歩と角道を開けるのは、▲7八金△5五角▲同角△3三桂▲3六歩で激しくなる。

【▲6八銀】

 飛車を振る手を保留する。相居飛車になる可能性もある。

対抗形(先手向かい飛車or中飛車)

対抗形 角換わり 矢倉・雁木

△3四歩

▲7六歩△8四歩▲5六歩△8五歩▲7七角△3四歩

  • (1)▲5五歩は、▲7六歩△8四歩▲5六歩△3四歩▲5五歩△8五歩の(1)▲7七角と同形。
  • (2)▲8八飛の向かい飛車も考えられる。
    • (a)△7七角成▲同桂△5七角には▲6五桂で、
      • (ア)△3五角成には▲5五角△2二銀▲7三桂成、
      • (イ)△6二銀にも▲5五角で香取りが受からない。
    • したがって、
      (b)△5四歩で升田流向かい飛車へ合流したり、
    • (c)△6二銀で駒組み。
  • (3)▲6六歩と角道を止める手もある。

対抗形、居飛車力戦

対抗形 居飛車力戦

△6二銀

▲7六歩△8四歩▲5六歩△8五歩▲7七角△6二銀

 △5四歩と5筋を突き合っても、先手中飛車はいずれ▲6六銀~▲5五歩の筋で動いてくる。それは争点を与えているだけだと考えれば、はじめから位を取らせてもいいだろうというのが△6二銀の意味。
  • (1)▲5五歩や▲5八飛で中飛車なら、△7四歩~△7三銀と進め、超速▲3七銀戦法を応用した後手超速を目指すのが一例。
  • ただし、まだ先手は中飛車とは限らない。△8五歩▲7七角を決めたために、
    (2)▲8八飛と向かい飛車に振る手も生じている。
  • (3)▲2六歩と居飛車で指す可能性もある。

対抗形、居飛車力戦

対抗形

△5四歩

▲5八飛

△6二銀(△4二玉)

▲7六歩△8四歩▲5六歩△5四歩▲5八飛△6二銀(△4二玉)

▲7六歩△8四歩▲5六歩△5四歩▲5八飛△6二銀
 後手が△5四歩と突き返して位を保つ形。飛車を振るなら中飛車が多い。6手目の△6二銀と△4二玉は、後述するトン死の変化を除いて「どちらを先に指すか」くらいの違い。

【▲5五歩】

 いきなり▲5五歩と突っかけると、△同歩▲同角に、
  • (1)△4二玉なら▲7七角で、先手が5筋の歩を交換出来た形。
  • ちなみに「▲5五同角は王手じゃないし」とばかり、△4二玉を怠ると大変なことになる。例えば
    (2)△8五歩とやった日には、▲3三角成が両王手で詰んでしまう。(6手目で△4二玉と上がっていればいきなり詰むことはない。)
 ▲5五歩から歩を交換する筋は9手目以降でも考えられる。ただし『現代に生きる大山振り飛車』によれば、この5筋交換作戦は、△3二玉~△4二銀~△5三銀右~△5二飛と盛り上っていく指し方で後手の勝率が良いらしい。

【▲4八玉】

 玉を囲う。中飛車は▲5九飛の形が好形なので、5九の地点を空ける意味もある。
 以下△4二玉▲3八玉に、ただ△3四歩か、△8五歩▲7七角の交換を入れて△3四歩か。
  • (1)△3四歩には、
    • (a)▲2二角成△同銀▲7八銀の新ゴキゲン中飛車か、
    • (b)▲7七角のワンパク中飛車、
    • (c)▲6六歩と角道を止めて、ツノ銀中飛車や矢倉流中飛車を先手が選べる。
  • (2)△8五歩に、
    • (a)▲7七角を決めて△3四歩は、▲7六歩△8四歩▲5六歩△8五歩▲7七角△5四歩の、【▲5八飛】-(1)と同形。
    • それはつまらないと、
      (b)▲5五歩と突っかけた将棋もある。以下△5五同歩▲同角△8六歩▲同歩△同飛▲8八飛△8七歩▲5八飛が一例。(2006年10月王将戦L▲久保利明△丸山忠久)

【▲6八銀】

 銀の活用を図る。以下△4二玉▲4八玉で、単に▲4八玉と似た変化になる。△3四歩と突いてきたときには▲2二角成△同銀▲7七銀か、▲7七角の要領。

対抗形(先手中飛車)

対抗形

▲2六歩

△3四歩

▲7六歩△8四歩▲5六歩△5四歩▲2六歩△3四歩

 △5四歩を見て先手が居飛車に変化する順。以下▲2五歩に、
  • (1)△8五歩▲7八金△3二金なら、5筋を突き合った横歩取りの出だし。▲2四歩△同歩▲同飛に
    • (a)△8六歩▲同歩△同飛▲3四飛に△4一玉または△8八角成▲同銀△7六飛、
    • (b)△6二銀▲3四飛△5三銀と横歩を取らせる間に銀を上がっていく順もある。
  • (2)△3二金▲2四歩△同歩▲同飛△6二銀▲3四飛△5三銀のように、横歩を取らせる間に銀を上がっていく順もある。

横歩取り、相掛かり

横歩取り 相掛かり

△8五歩

▲7六歩△8四歩▲5六歩△5四歩▲2六歩△8五歩

  • (1)▲2五歩△3四歩▲7八金△3二金と、5筋を突きあった横歩取りの出だしになることが多い。
  • お互いとはいえ、5筋を突いているため、「角換わり将棋に5筋は突くな」の格言通り、
    (2)▲7七角と上がる手は少ない。

横歩取り、相掛かり、角換わり

横歩取り 相掛かり 角換わり

▲6八銀

△3四歩

▲7六歩△8四歩▲5六歩△5四歩▲6八銀△3四歩

 これはどちらも矢倉の出だしに合流する。

対抗形、矢倉

対抗形 矢倉・雁木

△8五歩

▲7六歩△8四歩▲5六歩△5四歩▲6八銀△8五歩

  • (1)▲7七角なら先手振り飛車模様、
  • (2)▲7七銀だと矢倉模様。

対抗形、矢倉

対抗形 矢倉・雁木

△6二銀

▲5五歩

△4二玉

▲7六歩△8四歩▲5六歩△6二銀▲5五歩△4二玉

▲7六歩△8四歩▲5六歩△6二銀▲5五歩△4二玉
 先手中飛車に対して、角道を開けずに5筋の位を取らせる4手目△6二銀が、2010年代半ばから増え始めた。
 この後△8五歩~△7四歩~△7三銀と指すのが、ゴキゲン中飛車対策の超速▲3七銀戦法を応用した指し方で、後手超速といわれている。△3四歩を突かないのが特徴で、先後の違いで一手遅いのをカバーしながら、先手に角を捌かせない、つまり▲5四歩と突いても角交換にならない意味もある。なお4手目に△8五歩▲7七角を決めて△6二銀でも同じようだが、その場合先手に向かい飛車の選択肢を与える。
 △4二玉以下、一例としては▲5八飛△8五歩▲7七角△7四歩▲6八銀△7三銀▲5七銀△6四銀▲6六銀で、超速銀対抗と似た形になる。
  • 後手の玉形は、
    (1)△3二玉~△4二銀なら超速に準じた形だが、
  • (2)△3二銀~△3一玉と角道を開けないまま左美濃に組み、角は△1四歩~△1三角と使う作戦が2017年頃から現れている。

対抗形(先手中飛車)

対抗形

△3四歩

▲7六歩△8四歩▲5六歩△6二銀▲5五歩△3四歩

 ▲7六歩△8四歩▲5六歩△3四歩▲5五歩△6二銀と同じ局面。
対抗形

▲5八飛

△4二玉

▲7六歩△8四歩▲5六歩△6二銀▲5八飛△4二玉

 後手超速が出現してから、先手は▲5五歩よりも▲5八飛を優先する指し方が増えている。後手が△3四歩と突いてきたら▲5五歩と突く、というような順が多い。

対抗形(先手中飛車)

対抗形
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2-4. ▲7六歩△8四歩に▲7八金

▲7六歩△8四歩▲7八金
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 比較的新しい手で、実戦例は1990年代に入ってからが多い。
 プロでは高田尚平が『高田流新戦略3手目7八金』(2002年8月)という棋書を出版している。高田がこの出だしを考えるようになったのは、奨励会時代に「飛車先不突で角換わりは指せないだろうか」と思ったことがきっかけだそうである。具体的には、4手目△8五歩から▲7七角△3四歩▲8八銀と進むのが想定の形である。

 後手には△8五歩や△3四歩の他、呼吸を合わせて△3二金と一手待つ手がある。この手に対し▲6八銀や▲2六歩ならば、手が進むと通常の矢倉や角換わりに合流する。この手順はトッププロにも採用されていて、市民権を得ている出だしだといえる。
 高田は、△3二金には▲5六歩と突いて中飛車を指せば得をすると主張する。ちなみに、故・村山聖は▲5六歩と突いた手元の棋譜5局で4勝1千日手の負けなし。有力な指し方であることは間違いない。

 

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

▲7八金

△8五歩

▲7七角

△3四歩

▲7六歩△8四歩▲7八金△8五歩▲7七角△3四歩

▲7六歩△8四歩▲7八金△8五歩▲7七角△3四歩
  • (1)▲8八銀は角換わり模様。
    • 後手は、
      (a)△7七角成▲同銀△2二銀で乗るか、
    • (b)△3二金や△6二銀で様子見か、
    • (c)△4四歩で角換わりを拒否、矢倉にするか。矢倉の場合でも、先手は▲5九角~▲2六角の三手角を狙える。
  • (2)▲6八銀でも
    • (a)△7七角成としてしまえば同じ。
    • (b)△4四歩のときに違いが生じ、先手は矢倉に出来ない。その代わり玉を8八までスムーズに囲え、右四間飛車を狙いやすい。
  • (3)▲6六歩と突けば先手無理矢理矢倉模様。また、▲7八金型の振り飛車も考えられる。

角換わり、矢倉、対抗形

角換わり 矢倉・雁木 対抗形

▲2六歩

△8六歩

▲7六歩△8四歩▲7八金△8五歩▲2六歩△8六歩

 以下▲8六同歩△同飛に▲2五歩で、
  • (1)△3四歩なら▲2四歩△同歩▲同飛△3二金で横歩取り、
  • (2)△3二金なら▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩▲2六飛で▲2六飛型の相掛かりに出来る。

横歩取り、相掛かり

横歩取り 相掛かり

△3四歩

▲7六歩△8四歩▲7八金△8五歩▲2六歩△3四歩

 ▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩▲7八金△8五歩と同じ局面。

△3二金

▲7六歩△8四歩▲7八金△8五歩▲2六歩△3二金

 ▲7六歩△8四歩▲2六歩△3二金▲7八金△8五歩と同じ局面。

△3四歩

▲7六歩△8四歩▲7八金△3四歩

 ▲7六歩△3四歩▲7八金△8四歩と同じ局面。

△3二金

▲7六歩△8四歩▲7八金△3二金▲6八銀

▲6八銀

△3四歩

▲7六歩△8四歩▲7八金△3二金▲6八銀△3四歩

 ▲7六歩△8四歩▲6八銀△3四歩の矢倉の出だしに、▲7八金△3二金の交換が入った形。
 ▲6六歩か▲7七銀なら矢倉で、お互い早囲いの含みがなくなっている。金上がりの交換のおかげで、▲2六歩で角換わり模様にも出来る。

矢倉、対抗形、角換わり、居飛車力戦

矢倉・雁木 対抗形 角換わり 居飛車力戦

△8五歩

▲7六歩△8四歩▲7八金△3二金▲6八銀△8五歩

 ▲7六歩△8四歩▲6八銀△8五歩に、▲7八金△3二金の交換が入った形。▲7七銀ならほぼ矢倉、▲7七角だと対抗形の可能性もある。

矢倉、対抗形

矢倉・雁木 対抗形

▲2六歩

△8五歩

▲7六歩△8四歩▲7八金△3二金▲2六歩△8五歩

 ▲2六歩と突くと、角換わりの出だしとほとんど変わらなくなる。
 ▲7六歩△8四歩▲2六歩△3二金▲7八金△8五歩と同じ局面。

△3四歩

▲7六歩△8四歩▲7八金△3二金▲2六歩△3四歩

 ▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩▲7八金△3二金と同じ局面。
▲7六歩△8四歩▲7八金△3二金▲5六歩

▲5六歩

△3四歩

▲7六歩△8四歩▲7八金△3二金▲5六歩△3四歩

 ▲7六歩△8四歩▲5六歩△3四歩に▲7八金△3二金の交換が入った形。▲5五歩や▲5八飛からの中飛車で対抗形になることが多い。▲7八金と玉から離れた形と、△3二金で多少囲いづらいのと、どっちが損かという将棋。▲5五歩から5筋位取りの居飛車も出来る。

対抗形、居飛車力戦

対抗形 居飛車力戦

△8五歩

▲7六歩△8四歩▲7八金△3二金▲5六歩△8五歩

 △8五歩には▲7七角と上がる。
  • (1)△5四歩のとき、▲7八金△3二金の交換が入っているせいで▲8八飛の升田流向かい飛車が出来ない。したがってほぼ▲5八飛から中飛車にする。お互い5筋を突いたので、▲2六歩や▲4八銀から相居飛車で戦うのも一局。
  • (2)△3四歩には▲5五歩と5筋位取りで戦える。

対抗形、矢倉、居飛車力戦

対抗形 矢倉・雁木 居飛車力戦

△5四歩

▲7六歩△8四歩▲7八金△3二金▲5六歩△5四歩

 △5四歩と受けると、
  • (1)▲5八飛△6二銀に、▲5五歩△同歩▲同角△4一玉が一例。
     他に▲6八銀~▲5七銀~▲6六銀(▲4六銀)と銀を繰り出していく指し方もある。後手は△4二銀~△3一玉と囲うことになる。
  • (2)▲2六歩も考えられる。以下△3四歩▲2五歩△8五歩と進んで5筋を突きあった横歩取りの出だし。
  • (3)▲6八銀だと矢倉模様。

対抗形、横歩取り、矢倉

対抗形 横歩取り 矢倉・雁木
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2-5. ▲7六歩△8四歩に▲7八飛

▲7六歩△8四歩▲7八飛
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 3手目▲7八飛は三間飛車を目指す手。
 後手が4手目に△3四歩と突けば▲7五歩と突いて早石田の出だしに合流する。△8五歩と突けば基本的には▲7七角と上がる将棋になる。
 どちらを選ぶかは好みの問題だが、ほとんどが△8五歩で、以下▲7七角に△3四歩という進行になりやすい。

 昔はそこで▲6六歩と突いてノーマル三間飛車にするしかなかったのだが、角交換振り飛車が現れてから、角道を止めずに▲4八玉や▲6八銀、▲7五歩などと指す作戦が現れた。後手がそれを警戒して角交換してこなければ、先手は角道オープン三間飛車の選択肢が増えることになる。
 加えて2010年代後半からノーマル三間飛車自体の評価が上がったことで、この出だしはノーマル三間飛車・角交換振り飛車・角道オープン三間飛車の選択肢がある出だしとなり、初手▲7八飛から合流する手順(▲7八飛△8四歩▲7六歩)も含めて多く指されるようになった。

 なお、△8五歩のときに▲7七角ではなく、▲7七飛!と上がる戦法が発表されている。
 ▲7七飛戦法と呼ばれ、「2手目△8四歩には石田流に出来ない」という定説に挑む作戦だ。形が悪いとか、あとで▲7六飛と浮くのに手損だとかという常識を超えて、何が何でも石田流を目指すのだが、プロレベルでは奇策の域に留まっている。

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

▲7八飛

△3四歩

▲7五歩

▲7六歩△8四歩▲7八飛△3四歩▲7五歩

 後手が4手目△3四歩と突いてくれれば、▲7五歩と突いて▲7六歩△3四歩▲7五歩△8四歩▲7八飛と同じ局面になり、早石田に出来る。
 △8五歩でほぼ早石田を封じることが出来るのに、わざわざ△3四歩と突くということは、早石田を誘っているともいえる手順。

対抗形

対抗形

▲6六歩

▲7六歩△8四歩▲7八飛△3四歩▲6六歩

 ▲7六歩△3四歩▲6六歩△8四歩▲7八飛と同じ局面。
 先手に早石田をする気がなかったということになる。

対抗形

対抗形

△8五歩

▲7七角

△3四歩

▲7六歩△8四歩▲7八飛△8五歩▲7七角△3四歩

▲7六歩△8四歩▲7八飛△8五歩▲7七角△3四歩
 後手の4手目は、△3四歩でわざわざ先手に早石田の変化を与えるより、△8五歩と伸ばす方が大多数である。
 このとき先手は▲7七角と上がって受けるしかなく(▲7七飛も現れたが、まだ奇策・奇襲の域を出ない)、そこで△3四歩(図)と突かれたら、▲6六歩と角道を止めてノーマル三間飛車を指すしかないと考えられてきた。したがって2手目△8四歩と突かれればほぼ早石田には出来ないと思ったほうがよく、それなら3手目は▲5六歩として先手中飛車を目指すのが有力とされてきたが、2010年代になって角交換振り飛車の影響が現れ、角道を止めずに指す工夫が現れている。

【▲6六歩:ノーマル三間飛車】

 ▲6六歩と角道を止めればノーマル三間飛車となり、以下駒組みとなる。
 居飛車穴熊が現れてから2010年代前半までノーマル三間飛車の肩身は狭かったのだが、居飛車穴熊に対して速攻をかけるトマホークの出現をきっかけに流れが変わり、評価が上昇している。

【▲7五歩:新鬼殺し】

 ▲7五歩と突くと、▲7六歩△8四歩▲7五歩△8五歩▲7七角△3四歩から▲7八飛と指したのと同じ局面で、新・鬼殺しの出だしになる。

【▲4八玉:角交換振り飛車含み(その1)】

 角交換振り飛車を含みにする手としては、▲4八玉が指されている。
  • (1)△7七角成には▲同桂と取る。そこで後手にはいくつかの手段がある。
    • (a)△4五角は角交換振り飛車の将棋における定番の筋。これには▲6五桂と跳ね、△6二銀に▲5五角で香取りが受からないので先手良し…と、かつては打ち切っていたが、この先が研究されており、それが△1二香と逃げる手。馬の働きが弱くなる位置で取らせようというわけ。
      • (ア)▲1一角成と空成りするのは△3二銀▲1二馬△6四歩▲5三桂成△同銀▲5六香△4二玉でまだまだ、というのが近年の研究だ。
      • (イ)▲7五歩と三間飛車を生かして歩を伸ばす手が好手。△2七角成に一旦▲1一角成△3二銀を決め、それから▲7四歩△同歩▲同飛と捌く。ひねった順だが、これで▲1二馬や▲2二歩が楽しみというわけだ。
    • よくある工夫で、
      (b)△1四歩▲1六歩の突き合いを入れて△4五角と打つ筋がある。▲6五桂に△6二金として、
      • (ア)▲5五角に△1三香と逃げられるのが1筋の突き合いの意味。以下▲1一角成△3二銀で香が取れない、というわけだ。
      • これには角を打たず、
        (イ)▲7五歩と突き、△2七角成▲7四歩△同歩▲8八角△1三香▲1一角成△3二銀に▲5五馬と引きつけて、次に▲2二歩の確実な攻めを狙う。
    • (c)△8六歩▲同歩△同飛にも▲6五桂と跳ねる。
      • (ア)△6二銀は▲7七角でよい。
      • (イ)△4四角と打って、5三を受けながら反撃を見せる手には、▲5三桂不成と飛び込み、△同角に▲7七角と打てる。
    • (d)△4二玉と囲う手にはこちらも▲3八玉と寄って△4五角を消し、次に▲8八飛と振り直して、角交換振り飛車にする。
  • 後手が角交換しないで
    (2)△4二玉にも、▲3八玉と寄っておく。次に▲6八銀と上がれば、△7七角成を▲同銀と取ることも出来る。

【▲6八銀:角交換振り飛車含み(その2)】

 ▲4八玉には角交換振り飛車に頻出する△4五角問題があったが、▲6八銀はそれにあらかじめ備えた意味がある。
  • (1)△7七角成と角交換したとき、
    • (a)▲同桂と取るのが普通。このとき△4五角と打つ手がないのが▲6八銀のメリットだ。
      • (ア)△8六歩は仕掛けるなら一目という手。▲同歩に、△同飛と行くか△8七角と打つか。
        • △8六同飛には▲6五桂と跳ね、△4四角に▲5三桂不成△同角▲7七角と進める。また、一旦▲6六角と打って尋ねる手もあり、△4四角なら▲同角△同歩に▲6五桂の要領。派手な進行だが、銀を上がった分だけ先手玉の左脇が薄くなっており、この後は丁寧に指す手が求められる。
        • △8七角にも▲6五桂と跳ねる。△6二銀ならやはり▲5五角だ。
      • (イ)△5四角とひねった角打ちがあり、次に△7六角と出られると角成が受けづらい。この手には▲5五角と打ち、△2二銀に▲8五桂と歩を取るのが面白い手。△同飛には▲2二角成がある。
      • 上記の筋がうまく行かないと見れば、
        (ウ)△4二玉と仕掛けを見送ることになるが、▲8八飛と振り直して角交換振り飛車に構える。角交換四間飛車の場合、この形に構えるには角交換と▲6八飛~▲8八飛の振り直しで、合わせて二手損となるが、この変化では後手から角交換しているため振り直しの一手損で留まっている。
    • (b)▲同銀は△4五角問題を解決していないためダメ、と言われている中で取った将棋が現れ驚きを呼んだ(2019年3月の王座戦二次予選▲藤井猛△松尾歩)。以下△4五角▲3六角△6七角成▲6三角成△5二金右▲3六馬△5七馬と進む。結果は後手勝ち。
  • 後手が角交換しないで
    (2)△4二玉には▲4八玉から玉を囲う。△3二玉▲3八玉まで進めば角交換の筋では仕掛けにくくなる。
     この進行では先手が角道を止めずに、いわば角道オープン三間飛車で駒組み出来ており、後手が固く囲う順をけん制している。

対抗形

対抗形

△6二銀

▲7六歩△8四歩▲7八飛△8五歩▲7七角△6二銀

 後手が角道を開けなければ、
  • (1)▲4八玉~▲3八玉と構える順と、
  • (2)▲6八銀~▲5八金左を先にする順が考えられ、先手はノーマル三間飛車を目指すのか他の作戦を目指すのかで使い分けることになる。

対抗形

対抗形

▲7七飛

△3四歩

▲7六歩△8四歩▲7八飛△8五歩▲7七飛△3四歩

▲7六歩△8四歩▲7八飛△8五歩▲7七飛△3四歩
 ▲7七飛戦法。後手が飛車角交換をしてこない限り、先手は何が何でも石田流を目指す。
 後手は△3四歩と突けば、飛車角交換の権利を得る。ここで▲7五歩と突き、▲7八金~▲7六飛が先手の構想。後手の手は△7七角成、△8六歩、△4二玉、△3二金に分かれる。

【△7七角成】

 △7七角成に、先手は▲同角。次に▲1一角成があるので△2二銀と受けるが、そこで▲1五角と王手で打つ。△4四歩パックマンなどで見られる筋で、まず王手なので受けなければいけない。
  • (1)4二に駒を置く(△4二金、△4二飛)のと、
  • (2)玉を逃げる(△6二玉、△5二玉)のは、▲2二角成で先手銀得。
  • (3)△3三銀(桂)は▲同角右成△同桂(銀)▲同角成△4二金▲1一馬の3枚換え。
  • 駒損しない受けは△3三飛か△2四飛と飛車を合駒にする手だが、
    (4)△3三飛には▲3六歩△1四歩▲3三角右成△同銀▲3七桂と攻めていける。
  • (5)△2四飛には▲4八玉△3三銀▲2四角△同歩▲3八玉と囲っておいて戦える。

【△8六歩】

 △8六歩には▲同歩△同飛に▲8七歩と打って受ける。
  • (1)△7七角成▲同角△8七飛成は、▲1一角成△8九竜▲7八銀△8四竜▲2一馬で先手駒得だ。
  • (2)△8四飛と引けば、▲7八金と上がる。次に▲7六飛と浮けば▲7七飛戦法の目的は達成される。これを阻止するならば△7七角成▲同角だが、以下△4四歩で▲1一角成を防ぐのは▲4三角があるし、△1二飛と打つのはいかにも苦しい。

【△4二玉】

 △4二玉は、後で△7七角成▲同角としたときに△3三桂と跳ねて▲1一角成を防ごうとする意図がある。
 ▲7八金に後手は△7七角成▲同角△3三桂と狙いの手順に進めるが、先手は▲7四歩△同歩▲4六角と切り返す。飛車は逃げられないため△7二金と備えるが、▲5五角左と出て8二飛を狙いつつ、▲3六歩~▲3五歩の桂頭攻めを視野にいれて指す。

【△3二金】

 △3二金はこれまでの変化を踏まえ、後々の△2二銀への利きを1枚増やしておいてから△7七角成を狙う手だ。
 以下▲7八金に△7七角成と飛車を取り、
  • (1)▲同角△2二銀と進めば、今回は▲1五角が△3三銀で受かってしまうので、後手の思う壺だ。
  • 先手はこの場合、△7七角成を
    (2)▲同桂と取る。次の▲6五桂が▲5三桂成と▲1一角成の両狙いとなるため、
    • (a)△2二銀と先受けするが、それでも▲6五桂と跳ねる。以下△6二銀に▲7四歩で、角のラインを生かした攻めを狙う。
    • (b)△3三桂としておき、▲6五桂に△5四飛と打つ手もあるが、▲5五角打で攻めの継続を図れる。

対抗形

対抗形

△8六歩

▲7六歩△8四歩▲7八飛△8五歩▲7七飛△8六歩

 飛車先交換をしてくる△8六歩には、▲同歩△同飛に▲8七歩△8四飛と収めたあとに▲7五歩と突く。

対抗形

対抗形

△7四歩

▲7六歩△8四歩▲7八飛△8五歩▲7七飛△7四歩

 △7四歩は、次に▲7五歩と突きたい先手に対する嫌がらせの手段。
  • (1)▲7八金なら、△7二飛と寄って▲7五歩を防ぐ。
  • (2)▲7五歩とすぐに突っかける手も考えられ、その場合はお互い一歩も引けない。
    • (a)△7五同歩▲同飛は先手の飛車が自由になってしまうので論外。
    • (b)△8六歩▲同歩△同飛に、▲8七歩なら△8五飛と引く。次に△7五歩と手を戻されると歩損なので、▲7八金などと上がっている暇はない。勢い▲7四歩と取り込めば△7六歩▲同飛△8七飛成▲2六飛のような指し方か。

対抗形

対抗形

△6二銀

▲7六歩△8四歩▲7八飛△8五歩▲7七飛△6二銀

 ▲7七飛を咎めに行かない指し方。
 先手は予定通り▲7五歩と突き、△3四歩なら▲7八金と上がる。ここで△7七角成▲同角は次の1一角成を受ける手が自陣飛車(△2二飛、△3三飛)しかなくなるので不満。
 したがって飛車を取る手はなく、先手は石田流に組める。

対抗形

対抗形
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2-6. その他の3手目

▲7六歩△8四歩▲その他
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 後手が△8四歩とほぼ居飛車を表明し、まだ角道が閉じている。
 なので、角損する▲3三角成と▲4四角以外の手なら、何を指しても一局の範疇である。

 2013年に入り、2手目△8四歩に対しても▲7八飛から石田流を目指す「▲7七飛戦法」が『将棋世界』でも取り上げられた。

2手目

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

△8四歩

▲6八飛

▲7六歩△8四歩▲6八飛

 四間飛車。2手目が△3四歩でないので角道を止めなくてもよい。
 ▲7六歩△3四歩▲6八飛から角交換四間飛車が流行っている現状では、角交換されるのが嫌なので2手目△8四歩である場合も多々見られる。

対抗形

対抗形

▲5八飛

▲7六歩△8四歩▲5八飛

 中飛車。ただし、中飛車にするのなら3手目は▲5六歩が普通。

対抗形

対抗形

▲7五歩

△8五歩

▲7七角

△3四歩

▲7六歩△8四歩▲7五歩△8五歩▲7七角△3四歩

▲7六歩△8四歩▲7五歩△8五歩▲7七角△3四歩
 ▲7六歩△3四歩▲7五歩は早石田の出だしだが、2手目△8四歩にも▲7五歩という手を、たまに指す人がいる。当然ながら、石田流ばかり指す人に多い。
 後手が4手目で△8五歩と突かなければ、先手は次に▲7八飛と振る可能性が高いのだが、4手目に△8五歩としてしまえば、▲7八飛は△8六歩▲同歩△同飛で悪くなる。したがって△8五歩にはさすがに▲7七角と上がらざるを得ない。それから後手が△3四歩を突いて角交換を見せると、この局面になる。

【▲6六歩】

 ▲6六歩と突いて角交換を避けるのが普通の指し方。ただし、すんなりと石田流には出来なくなる。
 応手を仮に△6二銀として、
  • (1)▲7八飛△4二玉▲6八銀△3二玉▲6七銀△6四歩が一例だが、飛車を浮くのにまだ2手かかる上、浮けるかどうかもわからない。悪いというわけではないが先手番の作戦としてはつまらないと考えられており、2手目△8四歩に対しては▲7五歩よりも、▲5六歩からの中飛車が有力とされている。
  • 別の指し方としては、
    (2)▲7八銀△4二玉▲6七銀△3二玉▲8八飛△5二金右▲7八金と、▲7五歩型の向かい飛車に組むのが、メリケン向かい飛車だ。

【▲7八飛】

 角交換を挑まれているが無視して▲7八飛と回る手がある。鬼殺しの改良版である、新・鬼殺しだ。米長邦雄が考案し、最近では門倉啓太がこの変化を掘り下げて研究している。
  • 一目は、
    (1)△7七角成▲同桂を決めたくなる。
    • (a)△8六歩には、▲同歩△同飛に▲7四歩と突く。
      • (ア)△7四同歩は▲9五角が王手飛車。
      • (イ)△6二銀と受けると、▲7三歩成△同銀▲6五桂△6二銀に、▲5三桂不成と飛び込む。△5三同銀はこれまた▲9五角があるので、後手はこの桂馬を取れず、先手は金桂交換の駒得が確実だ。
      • (ウ)△8九飛成には▲8八飛とぶつけ、△同竜▲同銀△8七歩▲同銀△8九飛▲7八銀△9九飛成▲8五飛が一例。
      他に、馬作りを狙って4五か5四に角を打つ手がある。しかし、
      (b)△4五角には▲6五桂△6七角成▲7四歩△同歩▲5五角△2二銀▲7四飛△3三銀に▲6二歩が定跡手順で、この歩をどれで取っても攻めが続く。
    • (c)△5四角には▲5五角と打ち、△2二銀に▲8五桂が好手で攻めが続くというのが定跡だ。多少作っている感があるものの、どれも先手ペースの戦いである。
  • 振り返ると、先手の桂馬が跳ねてくるのは△7七角成▲同桂としているからである。そこで角交換せず、
    (2)△4二玉と上がるのが新鬼殺し対策。まず▲2二角成△同銀▲5五角は、△3三角でも△3三銀でも受かる。そもそも先手から角交換するのは7七角と上がった一手が無駄手になるので、二手損する計算になる。

対抗形、奇襲戦法

対抗形 奇襲

△6二銀

▲7六歩△8四歩▲7五歩△8五歩▲7七角△6二銀

 新鬼殺しのような指し方を警戒して、まだ角道を開けない指し方もある。△6二銀は7五の歩を狙っており、狙い方も直接取りに行くのと、位の解消を目指すのがある。
  • (1)▲7八飛に、
    • (a)△5四歩は、隙あらば7五の歩を取りに行く指し方。▲6八銀に、
      • (ア)△5三銀と右銀を上がる手には、もう▲6六歩~▲6七銀~▲7六銀と位を確保する手は間に合わない。▲9五角と出て、△4二玉に▲7三角成△同桂▲7四歩という強襲で勝負か。
      • (イ)△4二銀は鳥刺し風。押さえ込みを狙う指し方で、一応▲6六歩△5三銀左▲6七銀△6四銀▲7六銀と進めば間に合うが、△3一角▲6八角△5五銀▲6七銀△6四銀▲7六銀△5五銀…という千日手の筋が生じる。
      (b)△6四歩は、△6三銀~△7四歩▲同歩△同銀で位の解消を目指す手。▲6六歩△6三銀▲6八銀に、すぐ△7四歩は▲9五角△4二玉▲7四歩で逆に後手が危ない。△4二玉と上がり、▲6七銀に△7四歩▲同歩△同銀で位を解消して指すことになる。
  • 7五の歩を守りに行くなら、
    (2)▲7八銀のほうが確実。△5四歩▲6六歩△5三銀▲6七銀△6四銀に▲7六銀で受かり、次に△3一角を狙う△3二銀には▲6五歩と突き、銀を追い返すことが出来る。ただ、この後のまとめ方も難しい。

対抗形、奇襲戦法

対抗形 奇襲

△3四歩

▲7六歩△8四歩▲7五歩△3四歩

 ▲7六歩△3四歩▲7五歩△8四歩と同じ局面。
 △8五歩と突けばほぼ▲7七角しかないところを△3四歩と指して、先手に▲7八飛と振る余地を与える。つまり後手は▲7八飛を誘っているわけで、対早石田に自信を持っているといえる。

▲7八銀

▲7六歩△8四歩▲7八銀

▲7六歩△8四歩▲7八銀
 3手目▲7八銀は3手目▲6八銀と似ていて、次に▲7七銀と上がれば矢倉に出来る。また▲6六歩~▲6八飛や、▲6六歩~▲6七銀から飛車を振る手もある。
 ▲7六歩△8四歩の3手目で左銀を上がる手が現れてしばらくの間は、銀を6八に上がろうが7八に上がろうが矢倉に進むことが多く、しかも黎明期においては▲7八銀のほうが多かった。例えば、塚田正夫が木村義雄に挑んだ第6期名人戦で、塚田は矢倉を志向した3局全部で3手目▲7八銀と指しているし、大山康晴も矢倉を指し始めた最初期は▲7八銀と指している。
 1970年代ごろから使い分けられるようになり、▲6八銀だと矢倉、▲7八銀だと振り飛車に進むことが多い。もちろんこれは傾向の話で、相手の駒組み次第で矢倉と振り飛車を使い分ける作戦は当然考えられる。

矢倉、対抗形

矢倉・雁木 対抗形

▲4八銀

△8五歩

▲7七角

△3四歩

▲7六歩△8四歩▲4八銀△8五歩▲7七角△3四歩

 以下、
  • (1)▲8八銀なら角換わりに出来る。
  • (2)▲6六歩で矢倉を目指すのは、△3二銀~△5四歩~△3一角を狙われる。

角換わり、矢倉

角換わり 矢倉・雁木

△3四歩

▲7六歩△8四歩▲4八銀△3四歩

 ▲7六歩△3四歩▲4八銀△8四歩と同じ局面。
 上記のように、4手目に△8五歩と突くとすんなり角換わりになってしまう可能性がある。したがって一度△3四歩を突いておいたほうが、先手の駒組みを制限することが出来る。

▲7七角

△8五歩

▲8八飛

△6二銀

▲7六歩△8四歩▲7七角△8五歩▲8八飛△6二銀

 一例。実戦の4手目はほぼ△3四歩。△8五歩と突かなくても次に▲8八飛を狙う作戦があるのに、△8五歩を突いたら尚▲8八飛を誘発するからだろう。

対抗形

対抗形

▲8八銀

△3四歩

▲7六歩△8四歩▲7七角△8五歩▲8八銀△3四歩

 一例。以下、
  • (1)▲7八金ならば角換わり模様。後手が受けるか、△4四歩から矢倉で外すか。
  • (2)▲6六歩なら矢倉。

角換わり、矢倉

角換わり 矢倉・雁木

△3四歩

▲7六歩△8四歩▲7七角△3四歩

 ▲7六歩△3四歩▲7七角△8四歩と同じ局面。

▲6六歩

△8五歩

▲7七角

△6二銀

▲7六歩△8四歩▲6六歩△8五歩▲7七角△6二銀

 2手目△3四歩に▲6六歩は角交換を拒否している意味がある。しかし2手目△8四歩に▲6六歩は、居飛車を指す気ならこのタイミングでは突かない歩である。したがって、ほぼ先手振り飛車と見ていい出だし。
 後手から△5四歩~△3二銀~△3一角で飛車先交換を狙う順があるので、矢倉だと無理矢理矢倉になる。対抗形になっても、飯島流引き角や鳥刺しのようなひねった作戦も考えられる。

対抗形、矢倉

対抗形 矢倉・雁木

△3四歩

▲7六歩△8四歩▲6六歩△3四歩

 ▲7六歩△3四歩▲6六歩△8四歩と同じ局面。

▲1六歩

▲7六歩△8四歩▲1六歩

 ▲1六歩△8四歩▲7六歩と同じ局面。
 戦型は決まっていないが、初手▲7六歩で、3手目▲1六歩を突くような先手は、振り飛車党であることが多い。

▲9六歩

▲7六歩△8四歩▲9六歩

 ▲9六歩△8四歩▲7六歩と同じ局面。
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3. ▲2六歩△8四歩

▲2六歩△8四歩

 飛車先を突く初手▲2六歩は、初手▲7六歩の次に多く指される手である。
 初手の時点で居飛車を明らかにする手なので、この手を指す先手はほぼ居飛車党である。

 対して後手も飛車先を突く△8四歩は、▲7六歩△8四歩のときと同様、戦型選択を先手に任せる手である。
 先手が3手目に▲2五歩と突けば相掛かりの出だし、▲7六歩と突けば▲7六歩△8四歩▲2六歩と同形なので角換わりの出だし。つまり、初手が▲7六歩だろうが▲2六歩だろうが、後手は2手目△8四歩と突く限り、角換わりの準備が必要である。(*)

 矢倉に関しては、▲2六歩△8四歩の出だしから矢倉を目指そうとすると、角換わりの出だしから変化する無理矢理矢倉の形になりやすい。それはあまり有力な作戦とは考えられていないため、そもそも初手▲2六歩から矢倉を志向する先手は少ない。一方で、2010年代後半から雁木が再評価されたことで、雁木に変化する手順は指されている。


 ほとんどがプロの棋譜である『将棋の棋譜でーたべーす』の検索結果では、▲2六歩△8四歩の3手目における▲2五歩と▲7六歩の割合はほぼ9:1と、相掛かりがほとんど。ただし棋士によるところがあり、角換わりのスペシャリストである丸山忠久の場合は、ほぼ▲7六歩で角換わりの出だしに進める。豊島将之、中村太地も▲7六歩を選ぶことが多い。阿久津主税は▲2五歩と▲7六歩が6:4くらい。渡辺明の場合は、かつては▲2五歩と指していたが、角換わりの先手番を持つようになってから▲7六歩と指している。
 また、アマの棋譜を集めた『局面ペディア』で検索すると局数は468:238(81dojo)となり、▲7六歩の角換わりが著しく増加する。(検索時期:2015年9月)

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3-1. ▲2六歩△8四歩に▲2五歩 (相掛かり)

▲2六歩△8四歩▲2五歩

 △8四歩は、後手が先手の作戦に追随する姿勢を示した手である。
 そこで先手が▲2五歩と飛車先の歩を伸ばせば、飛車先を交換する権利を得て、相掛かりの出だしになる。

 相掛かりは江戸時代から指されている戦法である。
 ただし、江戸時代から大正時代にかけて指されていた相掛かりは、ほとんどが▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩の出だしから始まる「横歩取りの出だしで横歩を取らなかった」相掛かりであり、この▲2六歩△8四歩▲2五歩の相掛かりがプロで本格的に指され始めたのは、昭和に入ってからである。

 この局面で、もし先手の手番であれば▲2四歩△同歩▲同飛とする。これで次の▲2三歩か▲2三飛成のどちらかが、絶対に受からない。
 したがって、後手の4手目は次にやってくる▲2四歩に対応できる手を選ぶことになる。
 選択肢は多くなく、△8五歩・△3二金・△3四歩・△1四歩・△3二銀・△1二香の6種類しかない。他の手をルール上は指せないというわけではないのだが、例えば他の筋の歩(4・5・6・7・9筋)を突いたり△6二銀と上がったりするような手では、▲2四歩以下が受からなくなる。

 そして6種類のうち、△3二銀と△1二香は「ほとんどない手」であり、実質は4種類。その上、9割は△8五歩である。


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a. △8五歩

▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩
(KIFファイルのダウンロード)

 △8五歩は、先手の▲2四歩△同歩▲同飛に対して△8六歩と反撃する手を用意して、間接的に5手目の▲2四歩を防ぐ手である。
 △8六歩以下は▲同歩△8七歩と後手が角頭に先着。この進行は現代の定跡では後手優勢とされているため、現在先手が5手目に▲2四歩と行くことはないが、戦前には▲2四歩と行った実戦例もあった。▲2四歩△同歩▲同飛△8六歩▲同歩△8七歩以下後手優勢の手順は、プロの試行錯誤の末に出された結論である。

 お互いに飛車先を伸ばしたこの局面からは、基本的に「角を助ける手を指さずに▲2四歩(△8六歩)と仕掛けたほう」が悪くなる。

 したがって、先手の5手目は基本的に「角頭を受ける手」か「角が動けるようになる手」を指す。
 この条件に合う手は、後手の4手目とほぼ同様で、▲7八金・▲9六歩・▲7六歩・▲7八銀・▲9八香。他に、角頭を受けてはいないのだが▲1六歩もある。△8六歩自体を受ける▲2六飛という手もあるが、有力ではない。

 基本的に、5手目が▲7八金なら相掛かり、▲7六歩なら角換わり。
 角換わりの先手飛車先保留型が主流だった1980年代から2010年代中盤まで、この出だしの5手目はほぼ▲7八金で相掛かりに進んでいたが、▲2五歩型の角換わりが増えだすと、2018年頃から5手目▲7六歩で角換わりに進める順が増加した。(下記コラム参照)

角換わりの出だし化

●従来は…

 2012年の調べでは、この局面からの5手目は91%(4319/4735)が▲7八金で、対する6手目は99.8%(4311/4319)が△3二金であった。
 そこから▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩と進んで相掛かり系の将棋に進むのが90%(3914/4311)を占めていた。(『将棋の棋譜でーたべーす』 2012/9/16調べ)

●角換わりになる進行

 しかし、2017年以降の角換わり流行によって、▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩から角換わりに進む将棋が多く見られるようになった。(戦後の第1次角換わり腰掛銀ブーム時も指されていたが、その後廃れていた。)
 その要因と考えられるものを簡単にまとめると、次のようになる。

  1. 角換わりにおける単騎桂跳ねの速攻や、△8一飛・△6二金型の出現

     ソフトの影響を受け、角換わりにおいて単騎桂跳ねの速攻やバランス重視の△8一飛・△6二金型というアイディアが出現した。更に先手がこれを応用して▲2九飛・▲4八金型に構えるようになり、角換わり腰掛銀の新型同型が生まれた。

  2. 先手が矢倉を避け、後手が横歩を避ける傾向

     横歩取り先手番の有力策として青野流が出現し、これらに自信の持てない居飛車党は後手番の時に2手目△3四歩を選びづらくなり、2手目△8四歩が増加した。
     矢倉では後手番急戦が有力と考えられるようになったため、居飛車党の先手は▲7六歩△8四歩の出だしで3手目▲6八銀を選びづらくなり、3手目▲2六歩が増加した。
     これらの影響によって、プロでは2017年頃から角換わりの大流行が始まった。

  3. 角換わり拒否からの後手雁木

     ▲7六歩△8四歩▲2六歩から△3二金▲7八金△8五歩▲7七角に△3四歩と突くのが、角換わり先手飛車先保留型の出だし。
     ここから▲6八銀△7七角成▲同銀△2二銀なら角換わりになるが、△7七角成に代えて△4四歩▲2五歩△3三角と進め、後手が雁木に変化する順がある。有名な将棋では、2017年6月の竜王戦決勝T・▲藤井聡太△増田康宏戦(29連勝達成の将棋)が挙げられる。
     また、▲7六歩△8四歩▲2六歩に△8五歩と後手が飛車先を決めてしまう手順でも、以下▲7七角△3四歩▲6八銀と進んで、そこで△7七角成なら角換わりになるが、△4四歩なら雁木になる。
     雁木にされたからと言って不利になるわけではないが、先手は飛車先保留型で指す場合、角換わりに加えて雁木の対策が必要になった。

 これらの状況を踏まえて、先手の駒組み手順が変わっていった。

・初手▲2六歩の増加
 居飛車党の先手が角換わりを目指し、矢倉を選ぶ気がないのなら、初手は▲2六歩で構わない。
 2手目△8四歩なら▲7六歩で角換わりの出だしにできる。2手目が△3四歩なら▲7六歩で構わない。先手は青野流があるので横歩取りに進むのは歓迎だし、▲2五歩△3三角を決める順も、昔と比べてずっと市民権を得ている。

▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩からの角換わり

・角換わり▲2五歩型の増加に伴う、3手目▲2五歩の増加
 角換わり腰掛銀新型同型の実戦を重ねる中で、先手はそれまでの主流だった飛車先保留型よりも、早々に▲2五歩を決めることが増えた。
 すると、初手が▲2六歩になって▲2五歩も早く決めるのなら、「▲2六歩△8四歩▲7六歩」の▲7六歩の前に▲2五歩も突いて構わないのではないか、という話になる。

 この発想によって、これまで十中八九相掛かりに進んでいた▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩の局面から、5手目に▲7六歩(図)と突き、以下△3二金▲7七角△3四歩▲6八銀で角換わりに持ち込むコースにスポットライトが当たった。
 ▲2五歩が突いてあることで、後手が雁木を目指そうと△4四歩を突いたときには▲2四歩△同歩▲同飛があり、先手が一歩持つことが出来る。つまり3手目▲2五歩は、△3三角と飛車先を受けてから雁木を目指す形も封じているわけだ。

 ▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲7六歩で角換わりに進められると、後手は「角換わり拒否の雁木もできない」環境になり、相居飛車の将棋は先手が望めばほぼ角換わりに進むようになった。
 それで角換わり新型同型も先手が良ければ後手が行き詰まるところだったが、後手も工夫できる形だったことは幸運であった。研究合戦の中、先手も変化を求めて相掛かりを併用するようになっている。

 当然のことながら、今後角換わりで先手飛車先保留型が増えた場合は再度3手目▲7六歩コースに戻るだろう。同様に、先手矢倉に有力策が現れれば初手▲7六歩に戻り、後手横歩の有力策が現れれば2手目が△3四歩に流れることは考えられる。

4手目

5手目

6手目

戦型

△8五歩

▲7八金

△3二金

▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲7八金△3二金

▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲7八金△3二金
 ▲7八金△3二金とお互いに金を上がって角頭を受けるのが、相掛かりの一般的な出だし。
 7手目の選択肢はいろいろあるものの、▲2四歩△同歩▲同飛と飛車先交換に行くのが長い間主流で、「先手が飛車先交換をして飛車を引くところまでが相掛かりの出だし」と考えても問題なかった。
 ところが2010年代になって、後手が飛車先交換を保留する指し方が出現。それに伴って先手も飛車先交換を保留するようになり、すぐ▲2四歩とは行かず、▲3八銀△7二銀に▲9六歩や▲5八玉という指し方が現れている。

 すぐ飛車先交換に行く▲2四歩は、△同歩▲同飛△2三歩の局面が大きな分岐点となる。飛車をどこに引くかだ。
 ちなみに、▲2四歩△同歩▲同飛に△1四歩なら、6手目に△1四歩▲2四歩△同歩▲同飛△3二金と同じ局面。△3四歩なら、6手目に△3四歩▲2四歩△同歩▲同飛△3二金と同じ局面なので、そちらを参照のこと。

【▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩に▲2六飛/▲2五飛 - 浮き飛車】

  • (1)▲2六飛の浮き飛車は、江戸時代から1990年代までのほとんどの期間で、相掛かりの主流の座にあった。
     ▲2六飛は後手がすぐ飛車先交換する手を防いではいるが、先手も▲7六歩や▲3六歩、▲4六歩を突かなければ駒組みが進まないので、いずれ後手も飛車先を交換できる。先手は早繰り銀や腰掛け銀、ひねり飛車で戦うことになるが、プロで指されなくなったのは、かつて「先手必勝戦法があるとすればひねり飛車」とまでいわれたひねり飛車の勝率が下がったこと、他の形においても後手が△8二飛と引き飛車にして守備的に指す形を先手が打ち破れていないことが挙げられる。
  • (2)▲2五飛と五段目に引く手も現れている。横歩取り△8五飛戦法に影響を受けた指し方だ。ただし、飛車先交換の前に▲1六歩△1四歩と1筋の突き合いを入れ、端攻めの含みを見せてからが多数である。

【▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩に▲2八飛 - 引き飛車】

 ▲2八飛と自陣まで引く手は、相掛かりの歴史の中では時々流行したが、ほとんどの期間は▲2六飛が主流の座にあった。しかし▲2六飛型の行き詰まりを受け、2000年代に入って▲2八飛と引き飛車に構え、棒銀(宮坂流、UFO銀とも)を目指すのが主流となった。
  • ▲2八飛型に対しては、後手も
    (1)△8六歩▲同歩△同飛と飛車先交換をして…という順が定番であった。
  • しかし2010年代に入り、引き飛車棒銀対策として
    (2)△9四歩▲9六歩△7二銀▲3八銀△3四歩と、後手が飛車先交換を保留する手が出現した。
    • (a)▲2七銀と棒銀が明示されれば、△8六歩▲同歩△同飛▲8七歩に
      • (ア)△8四飛や
      • (イ)△8五飛と浮き飛車に構えて棒銀に備える。
      (b)▲4六歩で腰掛け銀模様なら、△8六歩▲同歩△同飛▲4七銀に△8二飛と深く引いて戦うという要領だ。
  • 同様に、
    (3)△3四歩▲3八銀△5二玉という指し方も現れ、▲2七銀に△7四歩と突き、
    • (a)▲3六銀には△7五歩▲2五銀△8六歩▲同歩△同飛▲8七歩△8四飛▲2四歩△同歩▲同銀△4四角と軽く指し、
    • (b)▲7六歩なら△8六歩▲同歩△同飛から横歩を取る手を狙う。
 後手が飛車先交換を保留する2つの指し方が現れて、先手引き飛車棒銀に黄信号が灯った。ここに至り、先手は▲2四歩を見直すことになる。

【▲3八銀 - 新しい指し方】

 引き飛車の項で説明した通り、2010年代になって「先手の銀の動きが決まるまで、後手は飛車先交換を保留する」という指し方が現れた。これによって先手引き飛車棒銀の優位性が崩れ、相掛かり先手番に新たな手段が求められた。
 そして編み出されたのが「先手も飛車先交換を保留する」という手段で、▲3八銀△7二銀に
  • (1)▲9六歩や
  • (2)▲5八玉が、2016年頃から増加し始めた新しい相掛かりの出だしである。

【▲7六歩】

  • (1)△3四歩と後手もお付き合いすれば、横歩取りの出だし。
  • ただし、今ではそもそも▲7六歩と指すことが少ない上、それにお付き合いして△3四歩とすることも少なく、
    (2)△8六歩▲同歩△同飛▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩▲2六飛で相掛かりになるほうが多い。可能性として考えられるだけだ。

【その他】

 ▲1六歩や▲9六歩と端を突く手も趣向として考えられる。▲1六歩の場合は後手が△1四歩と受ける実戦が多い。

相掛かり、横歩取り

相掛かり 横歩取り

△1四歩

▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲7八金△1四歩

▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲7八金△1四歩
 △1四歩は、1三に空間を作って△1三角を用意した意味がある。ここで先手が▲2四歩と行かなければ、△1三角で△5七角成を見せながら2四を受ける手が生じる。後々△1三角が好形になるのかどうかはともかく、一局の将棋だ。

【▲2四歩】

 ▲2四歩△同歩▲同飛には△3二金と上がる。△3二金は絶対手で、他の手では駒損か竜を作られてしまう。
  • (1)▲2三歩には、用意の△1三角が飛車当たり。
    • 以下、
      (a)▲2八飛には△5七角成だ。
    • (b)▲1四飛△2三金▲1五飛も考えられるが、飛車が落ち着くにはまだ手がかかる。
  • したがって△3二金に対し、先手は
    (2)▲2八飛か
  • (3)▲2六飛と飛車を引き、次に▲2四歩と垂らす手を狙う。歩を垂らされると次の▲2三歩成を受ける手が後手には存在しないので、ここは△2三歩と打つ一手。これで2筋の折衝は一段落する。

【▲7六歩】

  • (1)△8六歩▲同歩△同飛に、
    • (a)▲2四歩△同歩▲同飛なら△3二金で相掛かり。
    • (b)▲8七歩と打って横歩を取らせるよう誘導する手もなくはない。
  • (2)△1三角▲4八銀と受けさせてから△8六歩▲同歩△同飛も考えられる。
  • (3)△3四歩なら横歩取りの可能性も生じる。

相掛かり

相掛かり

△3四歩

▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲7八金△3四歩

▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲7八金△3四歩
 △3四歩は角の3三~5五へのルートを作った手。
 ここで先手が、
  • (1)▲1六歩などと待てば、△3三角で2四を受け、角換わり系の出だしになる。
  • (2)▲7六歩なら、▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩から▲7八金と同じ局面で、横歩取りの出だしになる。流れはともかく、それも一局ではある。
  • (3)▲2四歩△同歩▲同飛には、△3二金がセットの手。そこでいくつか手がある。
    • (a)▲2三歩と直接歩を打つ手は疑問。△3三角が飛車当たりで、以下は、
      • (ア)▲3四飛なら△2三金▲3五飛。
      • (イ)▲2八飛なら△2四歩で、次に△2三金があり後手歩得の展開になる。
    • (b)▲2八飛と深く飛車を引いた場合、後手はほぼ
      • (ア)△2三歩の一手。
      • (イ)△8六歩は▲同歩△同飛▲8七歩△8四飛に、▲2四歩を気にする必要がある。受けるなら
        • △2六歩▲同飛△4四角▲2八飛△2二銀や、
        • △2五歩▲同飛△3三桂▲2八飛△2五歩などが一例だが、やや綱渡り的な進行になる。
    • (c)▲2六飛と浮き飛車に構えた場合も、ほぼ▲2八飛と同じような進行が考えられる。ただし△4四角と飛び出した手が飛車に当たるので、△4一玉▲2四歩△4四角(飛車当たり)▲2八飛△2二銀のように、わざと▲2四歩を誘って戦う順がある。
    • (d)▲3四飛と横歩を取る手も考えられる。後手は△8六歩▲同歩△同飛と飛車先を交換、
      • (ア)▲7六歩と突けば、遠回りしたが通常の横歩取り。
      • (イ)▲8七歩は△2六飛と回る。先手も勢い▲8四飛と回るくらいで、後手が△2九飛成か△8二歩か選ぶところ。

相掛かり、横歩取り、角換わり

相掛かり 横歩取り 角換わり

△3二銀

▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲7八金△3二銀

 △3二銀は、△3二金同様に角頭を受ける手である。銀でも同じように見えるのだが、これが全く違う。
 ▲2四歩△同歩▲同飛が、△3二銀と上がったせいで角取りになる。したがって後手は△2三歩と打つしかない。以下▲2八飛か▲2六飛と引かれるが、あとは単に▲3八銀から棒銀を狙われるだけでも、後手は2筋を守るのに苦心しなければならない。
 先手に飛車先交換をされると、以降は△3二銀が動いた瞬間に▲2三飛成があるため、まず銀が動けなくなる。すると△4一金が上部への守りに使いづらいので、2三の地点に駒を足すこと自体が難しい。そして2二に利きがなく、角が移動したり角交換したあとに打ち込みの隙が生じる。両方に対処する手は玉を4二~3一~2二と移動して自ら受け駒になるくらいだが、デメリットが多く駒組みに制約が生じるため、普通は指されない。

相掛かり

相掛かり

△1二香

▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲7八金△1二香

 △1二香は、1一に空間を作る手。知らなければ指せないというか、普通は知っていても指さない手である。
 ▲2四歩△同歩▲同飛には△3二金と上がっておく。
  • (1)▲2三歩には、△1一角!と引ける。それでビックリさせるだけの手で、例えば▲7六歩と角道を開けられただけでも、後手は角を使うのが難しくなる。
  • それでも▲2三歩は多少つんのめっている感じがあるので、先手は
    (2)▲2八飛や、
  • (3)▲2六飛と引いて△2三歩を打たせたり、
  • (4)▲4八銀と指し、△2三歩を打って来たら飛車を引くことにしたほうが落ち着いている。
 まとめると、6手目△1二香はほぼ何の役にも立たないと思って差し支えない。

相掛かり

相掛かり

△8四飛

▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲7八金△8四飛

 そもそも飛車先交換を防ぐとすればこの一手。ただし飛車の横利きで防ぎ続けるには3~7筋の歩が突けない。したがって角を活用するには△1四歩~△1三角のルートにほぼ限定される。そうなると、ここから指せる戦法はアヒルのような変態戦法になってくる。
  • ここで先手が
    (1)▲7六歩と突いても、後手は
    • (a)△8六歩とは出来ない。まだ角頭を受けていないからで、以下▲8六同歩△同飛に▲2四歩△同歩▲2三歩で先手必勝である。
    • したがって後手は、
      (b)△3二金などの手で待つしかなく、先手は次に▲7七角で8六を受け、矢倉囲いを目指すことも出来る。
    先手が矢倉囲いを目指さないのなら、
    (2)▲4八銀と待つくらい。後手は△3二金と上がって、今度▲7六歩は△8六歩▲同歩△同飛が通る。

居飛車力戦、アヒル

居飛車力戦 奇襲

△8六歩

▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲7八金△8六歩

 △8六歩は飛車先交換に行く手だが、後手はまだ角頭を受けていないので、以下の進行で先手がよくなる。
 ▲8六同歩△同飛に▲2四歩△同歩▲2三歩△8七歩▲2二歩成△同銀▲7五角△8八歩成▲同銀△8二飛▲5三角成で、馬を作った先手優勢。

相掛かり

相掛かり

▲7六歩

▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲7六歩

▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲7六歩  ▲7六歩△8四歩▲2六歩△8五歩▲2五歩と同じ局面。後手はまだ角頭を受けていないので△8六歩と突くことは出来ず、主に△3二金、△3四歩、△1四歩と指すことになる。
 先手が5手目に▲7六歩と指すことは少なかったのだが、プロでは角換わりの大流行を受けて、2018年頃からこの順で角換わりに進める将棋が増加した。詳細はコラムを参照。

▲9六歩

△8六歩

▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲9六歩△8六歩

 ▲9六歩は少しひねった手だが、これでも△8六歩を受けている。
 以下▲8六同歩△同飛に▲2四歩△同歩▲2三歩で後手の角損が確定。△8七歩には▲9七角とかわすことが出来る。後手が引っかかった手順。

相掛かり

相掛かり

△3二金

▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲9六歩△3二金

 上記の通り△8六歩が無理なので、後手は△3二金と角頭を受ける。
 以下▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩に▲2六飛と引き、△7二銀に▲7八金△1四歩▲1六歩△9四歩▲3八銀△6四歩▲7六歩△8六歩▲同歩△同飛▲7七桂が一例で、序盤の▲9六歩を生かすために先手がひねり飛車を目指す実戦例が多い。
 (後手が早い段階で△3四歩を突く、1筋の突き合いの有無、△9四歩の有無など、ひねり飛車に決まるまでの駒組みは様々)

相掛かり

相掛かり

▲7八銀

△8六歩

▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲7八銀△8六歩

 角頭を受けるだけなら▲7八銀でも同じ。
 しかしこのケースは、後手が角頭を受けていなくても△8六歩が成立する。▲同歩△同飛が角取りなのだ。
  • (1)▲2四歩は△同歩と取られ、▲2三歩△8八飛成▲2二歩成△同銀で香取りが残る。
  • したがって△8六歩▲同歩△同飛には
    (2)▲8七歩しかなく、△8四飛と引かれて全体の主導権が後手に移る。
 ▲7八銀型は、後手の△3二銀と同様に▲8八角と▲6九金の活用が困難である。玉を7九へ持って来て待つとか、アヒルのような駒組みしかなく、作戦が極端に狭まるため普通は指されない。

相掛かり、アヒル

相掛かり 奇襲

△3四歩

▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲7八銀△3四歩

 8八の角が浮き駒であるのを狙い、△3四歩と突く。これで先手はなかなか▲7六歩と突けなくなる。
  • (1)▲2四歩△同歩▲同飛には△3二金と上がっておき、
    • (a)▲2六飛△2三歩なら穏便な展開であるものの、▲7八銀型のデメリットは依然として残る。 (b)▲3四飛と横歩を取るのは、△8六歩▲同歩△同飛。これが角取りなので先手は▲8七歩と打つしかないが、△2六飛と飛車成りを見せられる。
      • (ア)▲8四飛と勢いで飛車を回るのは、△2九飛成▲8一飛成△7六桂▲7九角△8八歩が痛い。 (イ)▲2八歩と謝るのが無難なところだが、それも冴えない展開である。
  • △3四歩と突かれた時点で、既に先手は▲2四歩△同歩▲同飛以外の手が難しく、
    (2)▲9六歩や、
  • (3)▲4八銀なども考えられるが、自然に△3三角で後手ペースの序盤といえる。

相掛かり、アヒル、横歩取り

相掛かり 奇襲 横歩取り

△3二金

▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲7八銀△3二金

  • (1)▲2四歩△同歩▲同飛は△2三歩に▲2六飛と引いて一局であるが、△3四歩と突かれるくらいで、8七が薄く、8八に利きのない▲7八銀のデメリットは依然として残る。
  • 後手が△3四歩と突いてからだと突けなくなるので、先に
    (2)▲7六歩と突く手はある。
    • (a)△3四歩には、
      • (ア)▲7七角なら角換わり模様、
      • (イ)▲7七銀なら矢倉。
    • (b)△8六歩▲同歩△同飛に
      • (ア)▲8七歩△8四飛は穏便。
      • (イ)▲7七角と上がって、△7六飛なら▲8七銀△7四飛▲8八飛と転回する手はある。△8二飛は▲8六歩で、銀冠を目指す。

相掛かり、角換わり、矢倉

相掛かり 角換わり 矢倉・雁木

▲9八香

△8六歩

▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲9八香△8六歩

 ▲9八香は一目意味不明だが、9九に空間を作っているのがポイント。
 △8六歩には▲同歩△同飛に、▲2四歩△同歩▲2三歩と応じる。
  • (1)△8七歩には、▲9九角!と引いて一丁上がり。次の▲2二歩成は受からない。
  • (2)△8七飛成には▲2二歩成△同銀▲6五角。どちらでも後手が角損する。

奇襲戦法

奇襲

△3二金

▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲9八香△3二金

 △8六歩は後手大失敗なので、△3二金が正しい。
 先手は▲2四歩△同歩▲同飛と飛車先を交換する。
  • そこで後手が習いある手筋とばかりに、
    (1)△8六歩▲同歩△8七歩と反撃すると、これまた▲9九角と引かれて角が取れない。以下、
    • (a)△8六飛は▲2三歩で後手角損なので、
    • (b)△3四歩か△1四歩だが、▲2六飛と引いておき、あとは8七の歩を取りに行く。
  • (2)△2三歩と落ち着いて飛車を追い返すのが正しい。これには▲2六飛か▲2八飛と飛車を引くしかないが、収められてみると、先手にはこの後得になりそうにない▲9八香だけが残る。
 つまり、5手目▲9八香はひっかかってくれなければ先手が損をする手である。

相掛かり

相掛かり

▲1六歩

△8六歩

▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲1六歩△8六歩

 ▲1六歩は全く角頭を受けていない手だが、「後手がまだ角頭を受ける手を指していない」ため、成立する。
 なので△8六歩とするのは大失敗。▲8六同歩△同飛▲2四歩△同歩▲2三歩△8七歩▲2二歩成△同銀▲7五角で先手優勢。以下の変化は5手目▲2四歩を参照。

相掛かり

相掛かり

△3二金

▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲1六歩△3二金

 角頭を受ける△3二金が普通。
  • ここで先手は、
    (1)▲2四歩△同歩▲同飛とは出来ない。5手目▲1六歩は角頭の受けになっていなかったからで、△8六歩▲同歩△8七歩で悪くなる。
  • したがって、
    (2)▲7八金と上がるのが普通だ。
    • その局面で、後手は先に
      (a)△8六歩から飛車先交換をするか、
    • 飛車先交換後に端を突き越されてしまうのを嫌って、
      (b)△1四歩と受けておくか。プロの実戦例は△1四歩のほうが多い。

相掛かり

相掛かり

△3四歩

▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲1六歩△3四歩

 △3四歩は、次に△3三角と上がって2四を受ける狙いがある。上の解説と同様、まだ角頭を受けていないため先手の▲2四歩は成立しない。したがって▲7八金か、▲7六歩だ。
  • (1)▲7八金は、△3三角▲7六歩で角換わり・矢倉。
  • (2)▲7六歩は、▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩から▲1六歩と突いた局面と同形。以下△3二金▲7八金で、横歩取りの出だしで先手が手待ちし、後手が横歩を取るかどうか決める出だしになる。

相掛かり、横歩取り、角換わり、矢倉

相掛かり 横歩取り 角換わり 矢倉・雁木

▲2六飛

△3四歩

▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲2六飛△3四歩

 飛車の横利きで8筋交換を防ぐ。普通はない手。この手を指す人は「▲7八金に△8六歩とされたらどうしよう」と思っているか、アヒルのような戦法を考えているかであろう。ここで後手は△3四歩と突ける。
  • (1)▲2四歩と突くと、△同歩▲同飛△8六歩▲同歩△8七歩で先手角損。
  • (2)▲7六歩は後手から△8六歩▲同歩△同飛とされる。8筋交換をされたくなくて上がった▲2六飛との整合性に欠ける。
  • (3)▲7八金や、
  • (4)▲9六歩は、△3三角で2四を受けられる。アヒルをするつもりならこれ。

居飛車力戦、アヒル

居飛車力戦 奇襲

▲2四歩

△同歩

▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲2四歩△同歩

 お互い飛車先を伸ばした局面で▲2四歩と仕掛けたらどうなるのか。これは、この出だしでは知識として知っておきたい順だ。
 以下、▲2四同飛に△8六歩▲同歩△8七歩▲2三歩△8八歩成▲同銀△3五角で先手ハマリ。▲2八飛と引くしかないが、△5七角成▲2二歩成に、
  • (1)△2二同飛がポイント。以下▲2三歩△1二飛▲2二角は△2四歩だ。
  • (2)△2二同銀だと、先手にも▲4五角とする手がある。
 ▲2四歩の仕掛けは、今ではやってはいけない手順としてよく解説されるが、これも試行錯誤の末に出された結論である。

相掛かり

相掛かり
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b. その他の進行

▲2六歩△8四歩▲2五歩△その他
(KIFファイルのダウンロード)

 ▲2六歩△8四歩▲2五歩での4手目は、反撃含みの△8五歩が9割以上を占める。
 ここで解説する△3二金、△3四歩、△1四歩、△3二銀、△1二香は、△8五歩のタイミングを一手ずらしたり、力戦模様に持ち込むなどの狙いがあるが、△8五歩と突いてから候補手を指した形と似た変化になることが多い。

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

▲2五歩

△3二金

▲2四歩

△同歩

▲2六歩△8四歩▲2五歩△3二金▲2四歩△同歩

 △3二金は、穏便に角頭を受けておく手。▲2四歩△同歩▲同飛には、△2三歩か△3四歩。△8五歩は失敗する。

【△2三歩】

以下
  • (1)▲2八飛や
  • (2)▲2六飛で相掛かり。そこで後手が△8五歩と伸ばせば、完全に定跡形に戻る。▲2四歩△同歩▲同飛と来られて△2三歩と打つのであれば、4手目△3二金の意味はあまりない。

【△3四歩】

 △3四歩は角の3三~5五へのルートを開ける手。
  • (1)▲2三歩は△3三角▲3四飛△2三金▲3六飛△2二飛で反撃される。
  • (2)▲2八飛は△2三歩と打つ一手。
  • (3)▲2六飛には、
    • (a)△2三歩と打つ他に、
    • (b)△4一玉▲2四歩△4四角▲2八飛△2二銀と呼び込む指し方も考えられる。
  • (4)▲3四飛と横歩を取るとややこしい。
    • (a)△3三角▲3六飛なら穏便。
    • (b)△8五歩は反撃を見せた手。先手は放っておくと△8六歩▲同歩△8七歩で角損してしまうので何か受けなければならない。

【△8五歩】

 △8五歩は、▲2三歩△8六歩▲2二歩成△同銀▲8六歩△8七歩▲2六飛で後手歩損の展開になり失敗する。

相掛かり、横歩取り

相掛かり 横歩取り

▲7六歩

▲2六歩△8四歩▲2五歩△3二金▲7六歩

 ▲7六歩△8四歩▲2六歩△3二金▲2五歩と同じ局面。(角換わりの出だし)

▲7八金

△8五歩

▲2六歩△8四歩▲2五歩△3二金▲7八金△8五歩

 ▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲7八金△3二金と同じ局面。(相掛かりの出だし)

△3四歩

▲2六歩△8四歩▲2五歩△3二金▲7八金△3四歩

 △3四歩を突くと、横歩取り含みの将棋になる。

相掛かり、横歩取り、一手損角換わり、矢倉

相掛かり 横歩取り 角換わり 矢倉・雁木

△3四歩

▲2四歩

△同歩

▲2六歩△8四歩▲2五歩△3四歩▲2四歩△同歩

 4手目△3四歩はひねった手で、横歩取り含みの将棋になる。
 ▲2四歩△同歩▲同飛に、後手は△8五歩と突くか、△3二金と上がるか。

【△8五歩】

 △8五歩は反撃を狙う手。

【△3二金】

 ▲2六歩△8四歩▲2五歩△3二金▲2四歩△同歩▲同飛△3四歩と同じ局面。

相掛かり、横歩取り

相掛かり 横歩取り

▲7六歩

▲2六歩△8四歩▲2五歩△3四歩▲7六歩

 ▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩▲2五歩と同じ局面。

▲7八金

△3三角

▲2六歩△8四歩▲2五歩△3四歩▲7八金△3三角

 先手が▲7八金と待つのは△3三角と上がられて2四を受けられる。以下▲7六歩△2二銀で角換わりに進むのは、後手が飛車先を伸ばしていない分、得をしている。

角換わり、矢倉

角換わり 矢倉・雁木

△3二金

▲2六歩△8四歩▲2五歩△3四歩▲7八金△3二金

 ▲2六歩△8四歩▲2五歩△3二金▲7八金△3四歩と同じ局面。

△8五歩

▲2六歩△8四歩▲2五歩△3四歩▲7八金△8五歩

 ▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲7八金△3四歩と同じ局面。

△1四歩

▲2四歩

△同歩

▲2六歩△8四歩▲2五歩△1四歩▲2四歩△同歩

 以下▲2四同飛に△3二金と上がる。▲2三歩には△1三角とかわす。
  • (1)▲7六歩と突いて矢倉囲いを目指すのは穏便な指し方。以下△3四歩には▲6六歩と角交換を拒否して駒組みする。
  • (2)▲2八飛や
  • (3)▲2六飛に対しては、後手は△8五歩と伸ばす。
    • (a)▲2四歩と垂らすのは、△8六歩▲同歩△8七歩▲2三歩成△同金▲同飛成△8八角成▲同銀△4五角で大乱戦になる。
    • その変化に自信がなければ、先手は
      (b)▲7六歩や
    • (c)▲7八金としておき、次に▲2四歩を狙う。それに対して後手が△2三歩と打って、折衝は一段落する。

相掛かり、矢倉

相掛かり 矢倉・雁木

▲7六歩

△8五歩

▲2六歩△8四歩▲2五歩△1四歩▲7六歩△8五歩

 ▲7六歩に対し△8五歩は、先手は▲2四歩と突くか、▲7七角と上がって指すか。
  • (1)▲2四歩と行けば△同歩▲同飛。
    • (a)△3二金と受けてくれば▲7七角と上がり、先手だけ飛車先交換をしたことになる。
    • (b)△8六歩▲同歩△同飛と後手も飛車先交換をしてくれば、▲7八金△3二金で相掛かりが相場か。
  • (2)▲7七角と上がるのは穏便。△3四歩に、
    • (a)▲8八銀△7七角成▲同銀△2二銀で角換わりか、
    • (b)▲6六歩と止めて矢倉を目指すか。

相掛かり、角換わり、矢倉

相掛かり 角換わり 矢倉・雁木

△3四歩

▲2六歩△8四歩▲2五歩△1四歩▲7六歩△3四歩

 △3四歩は乱戦を狙う手。
  • (1)▲2四歩△同歩▲同飛に、
    • (a)△3二金と上がれば、
      • (ア)▲7八金なら横歩取り系の将棋が見込まれる。
      • (イ)▲6六歩は、△8五歩に▲7七角と上がって飛車先を受ける狙い。
    • (b)△8八角成▲同銀△3三角なら激しく、この場合歩が8五まで伸びていないのが、通常の横歩取りから進行するケースに比べて得になる可能性がある。
  • (2)▲6六歩と早めに止めてしまう手もある。

相掛かり、横歩取り、角換わり、矢倉

相掛かり 横歩取り 角換わり 矢倉・雁木

▲7八金

△8五歩

▲2六歩△8四歩▲2五歩△1四歩▲7八金△8五歩

 ▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲7八金△1四歩と同じ局面。

△3四歩

▲2六歩△8四歩▲2五歩△1四歩▲7六歩△3四歩

 以下▲2四歩△同歩▲同飛ならば△3二金が必須。

相掛かり、横歩取り

相掛かり 横歩取り

△3二銀

▲2四歩

△同歩

▲2六歩△8四歩▲2五歩△3二銀▲2四歩△同歩

 △3二銀は銀で角頭を受ける手。▲2四歩△同歩▲同飛と飛車先交換に行くと、▲2四同飛が角取りなので、後手は△2三歩と打つ一手。以下、
  • (1)▲2六飛か
  • (2)▲2八飛と引く。
     次に▲7六歩を突かれると、△3二銀のせいで角が浮き駒なので、△3四歩と突けなくなる。
     突くならこのタイミングしかないので、
    • (a)△3四歩と突くと、それでも▲7六歩と角交換を挑まれたときが問題。
      • (ア)△8八角成▲同銀は、次に▲2二歩や▲2二角△3三角▲同角成△同桂▲2二角の狙いがあり後手が悪い。
      • したがって後手はまだしも
        (イ)△4四歩と角道を止めるが、先手のいいなりの序盤戦となる。
    • この進行が嫌ならば△3四歩とは突かず、
      (b)△6二銀など駒組みを進めることになるが、角は使いづらい。
 △3二銀のデメリットも含め、▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲7八金△3二銀▲2四歩の変化と類似または合流しやすい。

相掛かり、矢倉

相掛かり 矢倉・雁木

▲7六歩

△8五歩

▲2六歩△8四歩▲2五歩△3二銀▲7六歩△8五歩

 4手目△3二銀は、先手に▲7六歩と突かれると、角が浮き駒のためしばらく△3四歩と突けなくなる。先手の角道が通っている間に間違って突いた日には▲2二角成で終わりだ。
 先手は▲7七角で8六を受け、次に▲2四歩△同歩▲同飛を狙う。6手目の△8五歩は一例だが、他のどんな手でも、先手の角道が開いている間は△3四歩と突けない。先手の駒組みの自由度は高いが、後手の駒組みはかなり制限されてしまう。

矢倉、居飛車力戦

矢倉・雁木 居飛車力戦

△1四歩

▲2六歩△8四歩▲2五歩△3二銀▲7六歩△1四歩

 △1四歩は、
  • (1)▲2四歩△同歩▲同飛に△1三角を用意した手。この場合△3二銀が生きて▲2一飛成を防いでいるので、▲2八飛△5七角成▲2三歩が一例の乱戦となる。
  • 先手は▲2四歩と行かず、
    (2)▲7八金や
  • (3)▲4八銀から駒組みを進めたほうが穏便かつ有力。後手が△3四歩を突けない状況に変わりはなく、駒組みに制限がある。

相掛かり、矢倉

相掛かり 矢倉・雁木

▲7八金

△8五歩

▲2六歩△8四歩▲2五歩△3二銀▲7八金△8五歩

 ▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲7八金△3二銀と同じ局面。

△3四歩

▲2六歩△8四歩▲2五歩△3二銀▲7八金△3四歩

 先手が角道を開けていない間なら△3四歩が突ける。
  • (1)▲2四歩△同歩▲同飛には△2三歩と打つか、△3三角と上がるか。
    • (a)△2三歩は▲3四飛と横歩を取られ、後手は歩切れの上に歩損では不満。
    • (b)△3三角は意外な狙いを秘めており、
      • (ア)▲3四飛には△2三銀▲3六飛と追って△2二飛と回る。
      • (イ)▲2八飛には△2四歩と打ち、銀冠を目指す。
  • (2)▲7六歩と角交換を挑むのは、
    • (a)△3三銀なら矢倉、
    • (b)△3三角なら角換わり模様。ただどちらでも、△3二銀を咎めた格好にはならない。

居飛車力戦、矢倉、角換わり

居飛車力戦 矢倉・雁木 角換わり

△1二香

▲2四歩

△同歩

▲2六歩△8四歩▲2五歩△1二香▲2四歩△同歩

 先手の5手目▲9八香と同じで、△1一角と引く手を用意。
 ▲2四歩△同歩▲同飛に
  • (1)△8五歩と進め、
    • (a)▲2三歩なら△1一角。
    • (b)▲2三飛成は△8六歩▲同歩△8七歩▲1二竜△8八歩成▲同銀△4五角▲2一竜△6七角成。
    • (c)▲7八金と落ち着かれると、後手も△3二金と上がるしかなく、その局面は▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲7八金△1二香から▲2四歩△同歩▲同飛△3二金と同形。
  • (2)△3二金と上がる手もある。
    • (a)▲2三歩なら△1一角と引ける。
    • (b)▲2八飛と引いて、△2三歩を打たせてから▲7六歩と突き、自分だけ飛車先を交換したことに満足するほうが穏便。

相掛かり

相掛かり

▲7六歩

△8五歩

▲2六歩△8四歩▲2五歩△1二香▲7六歩△8五歩

 ▲7六歩に対し△8五歩は、先手は▲2四歩と突くか、▲7七角と上がって指すか。
  • (1)▲2四歩と行けば△同歩▲同飛。
    • (a)△3二金なら▲7七角と上がり、先手だけ飛車先交換できたことになる。
    • (b)△8六歩▲同歩△同飛には、
      • (ア)▲7八金△3二金なら穏便だが、
      • (イ)▲2三飛成と踏み込んで△8八飛成▲同銀△3四角▲2八竜△6七角成▲7八金と進める。後手はそこで△3四馬しかないのが痛い。(△5七馬は▲8七飛、△4五馬は▲8五飛、△6六馬は▲2四歩) 以下、▲8三飛△8二歩▲8六飛成と落ち着いていいだろう。
  • (2)▲7七角と上がるのは穏便。以下△3四歩に、
    • (a)▲8八銀△7七角成▲同銀△2二銀で角換わりか、
    • (b)▲6六歩と止めて矢倉を目指すか。どちらにしても△1二香はほとんど得にならない。

相掛かり、角換わり、矢倉

相掛かり 角換わり 矢倉・雁木

△3四歩

▲2六歩△8四歩▲2五歩△1二香▲7六歩△3四歩

 △3四歩は乱戦を狙う手。
  • (1)▲2四歩△同歩▲同飛に、
    • (a)△3二金なら
      • (ア)▲7八金や、
      • (イ)▲6六歩もある。
    • (b)△8八角成▲同銀△3三角なら激しい。この場合、△1二香は▲2一飛成△8八角成▲7七角のときに香を逃げている意味はある。
  • (2)▲6六歩と止めてしまう手もある。

相掛かり、横歩取り、矢倉

相掛かり 横歩取り 矢倉・雁木

▲7八金

△8五歩

▲2六歩△8四歩▲2五歩△1二香▲7八金△8五歩

 ▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲7八金△1二香と同じ局面。

△3四歩

▲2六歩△8四歩▲2五歩△1二香▲7八金△3四歩

 ▲2四歩△同歩▲同飛に△3二金は絶対手。そこで▲3四飛と横歩を取り、△1二香が完全パスどころか隙を作っている手なので、先手の指しやすい将棋。

相掛かり

相掛かり
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3-2. ▲2六歩△8四歩に▲7六歩 (角換わり)

 ▲7六歩△8四歩▲2六歩と同じ局面。つまり角換わりの出だしである。

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4. ▲2六歩△3四歩

▲2六歩△3四歩

 初手▲2六歩に対して△3四歩と突くのは、後手が振り飛車党であるか、居飛車党でも「相掛かり・角換わりは指しませんので」とお断りした手。
 プロの居飛車党でも、後手で相掛かりを指さなかったり、角換わりの後手は持たない棋士が存在する。どちらも基本的に、先手が主導権を持つ将棋になるからだ。

 3手目は▲7六歩が圧倒的に多い。▲2五歩は形を決めすぎていて、特にプロでは嫌われる。
 しかし、3手目に▲7六歩と突けば▲7六歩△3四歩▲2六歩と同じ局面であるので、ここ以降ではこの出だし特有の、3手目に▲2五歩と決めたところを考えてみる。

 ちなみに3手目は、▲7六歩・▲2五歩以外ならば▲4八銀が考えられる。
 ▲4八銀に意味を見出すとすれば、後手が振り飛車党であると決め打ちした先手が鳥刺しや飯島流引き角を目指す際、▲2五歩△3三角を決めてしまうと一手で△2二飛とされるのが嫌なので「後手が飛車を振るのを待っている」ことが考えられる。後手が飛車を振ってから▲2五歩△3三角とすれば、向かい飛車にするとしても振り直しが必要で一手稼げるというわけだ。
 わざわざ項目を作るほどでもないと思うので、ここでは取り上げないこととする。

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4-1. ▲2六歩△3四歩に▲7六歩

▲2六歩△3四歩▲7六歩

 ▲7六歩△3四歩▲2六歩と同じ局面。
 プロにとって▲2五歩△3三角の局面には拒否感(後述)があり、形を決めないこちらのほうが圧倒的に多い。

 ▲7六歩△3四歩▲2六歩と、▲2六歩△3四歩▲7六歩は同じ局面といっても、その局面に進むまでは▲2六歩△3四歩▲7六歩のほうが後手の変化を限定している。
 具体例を挙げると、▲2六歩△3四歩▲7六歩なら、初手▲7六歩専用の作戦である2手目△3二飛を避けながら、▲7六歩△3四歩▲2六歩と同じ局面に進めるというわけだ。

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4-2. ▲2六歩△3四歩に▲2五歩

▲2六歩△3四歩▲2五歩

 3手目に▲7六歩と突かないのなら、▲2五歩と飛車先を伸ばす手が有力となる。

 「▲2五歩は形を決めすぎ」と言われるが、それは「何でもできる人」にとって損だという理屈である。
 この出だしに限らず、一つの戦法しか出来ない人にとっては、形を決めたほうが余計な変化が少なく自分の力が出しやすい。アマチュアや女流の将棋では普通に指されている。

 4手目は9割以上△3三角であり、そこからは横歩取りとゴキゲン中飛車にはならない。
 見方によってはそれなりにメリットもある手なのだが、プロにとっては「特定の戦法を避けている」というマイナスイメージがある上、先手勝率が5割を切っているという現実もある。だから、3手目は圧倒的に▲7六歩が多いのだ。
 もっとも、後手も覚悟次第では4手目に△3三角以外の手を指し、乱戦を誘うこともできる。

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a. △3三角

▲2六歩△3四歩▲2五歩△3三角
(KIFファイルのダウンロード)

 △3三角は、角を上がって飛車先を受ける、もっとも自然な手だ。

 先手を持った際にこの局面へ進め、次に▲7六歩と突く。これで後手はゴキゲン中飛車にしづらい。また、角交換振り飛車を目指すにしても、一旦3三に上がった角を後手から交換すると、そもそも手損する気は満々とはいえ、更に手損することになる。
 居飛車の場合は横歩取りに出来ない。そのため後手が選べる戦型は、矢倉や角換わりに限定される。

 つまり、ここからは矢倉・角換わり・対抗形に絞られるので、先手の立場では研究範囲を限定することができる。勉強さえしておけば自分の力が出しやすくなるわけだ。
 一方、後手番でゴキゲン中飛車・角交換振り飛車・横歩取りを得意としている人には、自分の得意形にならない出だしということである。したがってこの出だしを想定した、別の作戦を準備しておかなければならない。

 ところがプロの世界では、この出だしは長らく嫌われていた。
 この出だしは角換わりになりやすいが、1980年代に飛車先保留型が主流化すると、プロレベルの角換わりでは▲2五歩を決めるのが先手の損だとされるようになった。また前述した「戦型を限定できる」点が、プロでは「相手の得意戦法を避けている」というネガティブな意味で捉えられ、その精神面が「プロとしていかがなものか」として嫌われていたのである。(後述

 しかし2013年、第71期名人戦第4局▲森内俊之△羽生善治戦で森内がこの出だしを採用、勝利を収めてから潮目が変わった。
 また先後共に新たな指し方が現れていく中で、棋士によっては「時には勝負術として相手の得意戦法を封じることも必要ではないか」と考えるようになってきており、現在は重要な対局でも時折見られるようになっている。

『イメージと読みの将棋観』では…

 単行本『イメージと読みの将棋観2』(『将棋世界』掲載は2007年4月号)でこの局面が題材になった際は、「やる気がしない」(羽生、佐藤康)、「(▲2五歩△3三角を)毎回決めているようではプロとして長く活躍するのは難しい」(森内)、「(▲2五歩は)精神的に恥ずかしい手」「若手棋士は笑っている」(渡辺)、「自分の土俵であっても若干のうしろめたさがある」(藤井)と、主にその精神面について散々な言われようであった。

 この強烈な論評が反響を呼んだのか、一部メンバーが入れ替わった『新・イメージと読みの将棋観』(『将棋世界』2011年1月号掲載)でも同じ質問が行われた。
 その際も「こう指すのは悔しい」(渡辺)、「消極的」(佐藤康、広瀬)、「指す気はしません」(森内)、前回はおとなしかった谷川も「志が低い」「こういう手をやっているようではトップは張れません」と辛辣な回答。
 ゴキゲンを指す立場である久保は「(以下▲7六歩に△2二飛で向かい飛車に出来るので)この作戦は怖くありません」とするが、「たまにこう指してくる人もいる」「(先手に)ゴキゲン対策がなければ、ある作戦」と理解も示した。佐藤康も、後手でゴキゲンばかり指す人と当たるといつも同じ形で気分的につまらないので、「いつも同じ形になるのを避ける意味で、こういう形もあるのかなぁ」と語っている。

 『イメージと読みの将棋観』から読み取る限り、この局面に対してトッププロが拒否感を示すのは、実際損をしている上に先手勝率が低いのもさることながら、「相手の得意戦法から逃げている」ことが大きい。こう進めれば、確かにゴキゲン中飛車と横歩取りにはならない。しかし「いつもそんな姿勢では、プロとしてやっていけません」というのが、トッププロの見解であるようだ。


●第71期名人戦第4局(2013年5月)

 しかし2013年5月、事態は急変した。
 第71期名人戦七番勝負第4局▲森内俊之△羽生善治戦という大舞台において、▲2六歩△3四歩▲2五歩の局面が出現したのである。

 名人戦という大勝負で森内がこの出だしを採用した理由の一つとして、名人戦前から、「羽生は後手番になれば横歩取りを目指すだろう」と予想されていたというものがある。
 この出だしならば、横歩取りを避け、自分の形に持ち込めるのは前述の通り。ただし先手勝率が悪く、『名人』が指す以上少なくとも先手の利を失わない作戦を用意していなければ、ただ単に相手の得意戦法から逃げた、『名人』という肩書きに傷をつけるだけの行為になってしまう。

 ▲2五歩以下、羽生は△3三角▲7六歩△2二銀と居飛車で対抗する方針を示した。注目された森内の作戦は、▲6六歩と角道を止めて矢倉に持ち込んだ上で、藤井流矢倉を目指すもので、これこそが先手の▲2五歩型を生かした作戦であった。
 後手の対応には、右四間飛車の急戦、△5一角~△8四角の三手角もあったが、羽生の選択は△4二角。局後に羽生本人も「つまらない序盤にしてしまった」と語る展開で、森内が着実にリードを奪って勝利。七番勝負も4勝1敗で防衛を果たした。

●名人戦以降

 この一局がきっかけとなり、▲2六歩△3四歩▲2五歩の出だしは洗い直しが始まった。後手に工夫が必要というわけである。
 このあたりの経緯については、『将棋世界』2013年8月号の勝又講座「突き抜ける!現代将棋」が詳しい。

 後手の工夫の一例が、▲2六歩△3四歩▲2五歩に△3二銀と上がる、都成流の出だしである。4手目に△3三角と受けなければ▲2四歩△同歩▲同飛と飛車先交換が出来るのだが、公式戦で初めて指した糸谷哲郎のコメントでは「(4手目△3二銀は)相手の2筋歩交換を手損にさせる」ことが骨子であるという。都成流を警戒して▲2四歩を見送れば、後手は△3三銀で飛車先不突矢倉が指せるわけだ。
 しかし糸谷以降、都成流は公式戦での追随者が出ていないようで、やはり自然な△3三角が指され続けている。

 先手側の新しい作戦としては、先手からは角交換せず、かといって角道も止めずに、▲4八銀~▲3六歩~▲3七銀と早繰り銀を急ぐ指し方が現れており、「極限早繰り銀」と呼ばれている。△3三角と一手かけている分、後手から角交換すると二手損になることに目をつけた作戦で、2017年5月の名人戦第3局・▲佐藤天彦△稲葉陽戦でも指されている。

 一方、横歩取りと角交換系の振り飛車封じとして▲2六歩△3四歩▲2五歩を採用するケースは、棋士にもよるが、以前よりは多く見られるようになった。目立つところでは2015年4月の棋聖戦挑決・▲豊島将之△佐藤天彦戦(外部サイト)などで、棋士によっては「勝負術として、時には相手の得意戦法を封じることも必要」というように認識が変化してきたといえる。

4手目

5手目

6手目

戦型

△3三角

▲7六歩

△2二銀

▲2六歩△3四歩▲2五歩△3三角▲7六歩△2二銀

▲2六歩△3四歩▲2五歩△3三角▲7六歩△2二銀
 △2二銀は角交換を受ける姿勢。また、先手が角交換してこない場合を考えると後手は振り飛車を指しづらくなっており、この時点で相居飛車の可能性が高いと判断される。  

【▲3三角成】

 ▲3三角成は先手が角交換系の将棋を目指した手。
  • (1)△3三同銀が自然。後手はまだ居飛車・振り飛車両方考えられる状態であり、7手目の△2二銀が居飛車くさい手とはいえ、決めつけすぎると損をする場合がある。
     相居飛車の場合は角換わりになるが、▲2五歩型になっているのがひとつのポイント。▲7六歩△8四歩▲2六歩の説明文で解説しているが、1980年代後半から2010年代前半まで、角換わりは▲2六歩型(飛車先保留型)が主流であったので、▲2五歩型になるこの出だしで角換わりにするのは損だと言われてきた。しかし2010年代後半に▲2五歩型が復権したため、この局面で角を交換する手はありになってきている。ただし後手が飛車先不突きであることは若干の注意点。
  • (2)△3三同桂とすることも一応可能。
    • (a)▲2四歩△同歩▲同飛は△3五角で馬を作られる。
    • (b)▲5六角は一歩取れるが、打つのも勇気がいる。以下△3二金▲3四角△4四歩が一例。
    • (c)▲8八銀は一番無難なところで、△3二金と上がって力戦型で一局。

【▲6六歩】

 後手が角換わりを受ける姿勢を見せたところで▲6六歩と角道を止め、矢倉や雁木にする作戦も考えられる。
 後手は既に△2二銀と上がっているため矢倉に組むことになる。以前は先手も矢倉を選んで相矢倉になるものだったが、2010年代後半から矢倉よりも雁木を評価する人も出てきており、その場合は自然に雁木対矢倉へ持ち込める。
 なお相矢倉の場合、「飛車先不突で、角道を閉じずに駒組みできる」メリットが後手にあると考えられてきたが、2013年5月の名人戦第4局▲森内△羽生戦でこの出だしが出現し、森内が飛車先を伸ばした形を生かした藤井流矢倉を採用。このときは羽生の対応が消極的だったこともあり先手快勝。その後指されている後手の対策は、飛車先不突を活かした右四間飛車や三手角などになっている。

【▲7八金】

 後手が居飛車だとわかっていれば、▲7八金は手堅い手である。これもまた、名人戦第4局の裏(名人戦の2日目と同日)で行われた女流王位戦第3局・▲里見香奈△甲斐智美戦で出現した。
 そちらは▲7八金に、
  • (1)△3二金▲4八銀△5二金▲5六歩と進行。次に先手は▲5五歩の位取りを狙っている。
    • (a)仮に△6二銀▲5五歩と進むと、後手は3三角の処遇を考えなければいけない。
    • ▲里見△甲斐戦では、甲斐が
      (b)△5四歩と位取りを嫌ったが、そこで▲3三角成△同銀と角交換。互いに5筋を突き合った角換わりの力戦になった。これなら▲2五歩型がデメリットではないというのが、勝又教授の見解である。(『将棋世界』2013年8月号掲載・『突き抜ける!現代将棋』より)
  • (2)△8四歩と突かれたときは、先手が態度を決めなければいけない。
    • (a)▲3三角成△同銀▲8八銀は通常の角換わり。
    • (b)▲6八銀は△8八角成▲同金△3三銀の角換わり、もしくは△3二金▲7七銀の矢倉。
    • (c)▲6六歩は△8五歩▲7七角もしくは▲6八銀で矢倉・雁木系の将棋。

【▲4八銀】

 ▲4八銀は角交換を急がない手。
 後手としても一旦△3三角と上がっているため、例えばここで
  • (1)△8八角成と角交換すると2手損することになるのでやりづらい。
  • だからといって、
    (2)△4四歩と角道を閉じて無理矢理矢倉にするのも、受け身な作戦である。
  • つまり後手は「できれば先手から角交換して欲しい」のである。これを見越して、先手は角交換せず▲3六歩~▲3七銀~▲4六銀と銀の進出を急いで後手の角頭を狙う作戦が出現しており、「極限早繰り銀」と呼ばれている。
    (3)△3二金に▲3六歩と突き、
    • (a)△6二銀▲3七銀△4一玉▲4六銀△5二金のように後手が漫然と囲った場合、居玉のまま▲3五歩△同歩▲同銀と仕掛けるのが狙いだ。
    • したがって後手は、
      (b)△8四歩▲3七銀△8五歩▲7八金△8六歩▲同歩△同飛と飛車先を交換しにいくのが有力とされている。有名どころでは2017年5月の名人戦第3局・▲佐藤天彦△稲葉陽戦で指されている。その将棋は▲8七歩に△8五飛と五段目に引いて、▲3五歩をけん制。以下▲4六銀△6二銀▲6九玉△7四歩▲5六歩△8八角成▲同銀△3三銀▲7七銀と進行し、先手は後々▲5五歩から▲5六角と据えて打開を図った。

角換わり、矢倉、対抗形(角交換振り飛車)

角換わり 矢倉・雁木 対抗形

△3二銀

▲2六歩△3四歩▲2五歩△3三角▲7六歩△3二銀

 △2二銀と比べて、△3二銀は振り飛車の可能性を見せている感じがある(△2二銀では角交換してもらえないと振り飛車にしたとき銀が不自由)。先手は▲6六歩とは突きづらい。

対抗形、矢倉、角換わり

対抗形 矢倉・雁木 角換わり

△2二飛

▲2六歩△3四歩▲2五歩△3三角▲7六歩△2二飛

▲2六歩△3四歩▲2五歩△3三角▲7六歩△2二飛
 すぐ向かい飛車に振ってしまう手。この出だしにおいては、振り飛車党にとって有力な指し方とされていたが、研究が進み話が変わってきた。

【▲3三角成】

 ▲3三角成△同桂とすれば、▲7六歩△3四歩▲2六歩△3三角▲3三角成△同桂から、▲2五歩△2二飛と進んだ局面と同じ局面。解説はそちらを参照。

【▲4八銀】

 先手が角交換をしない、例えば▲4八銀のような手であれば、△4二銀くらいで後手は角道を開けたまま駒組みが出来るので不満はない。

【▲9六歩】

 だが、ここで▲9六歩という手が出現した。
  • (1)△9四歩と受けたときには、▲3三角成△同桂と角交換する。その局面は▲7六歩△3四歩▲2六歩△3三角▲3三角成△同桂▲2五歩△2二飛に▲9六歩△9四歩の突き合いが入ったのと同じ局面。以下▲6五角に△4五桂▲4八銀△5五角▲9七香△9九角成▲7八銀で、先手が指しやすくなる。
     この順があるので、先に角交換しようがしまいが、△2二飛と振ると後手は端を受けることができない。
  • 代わる手としては、
    (2)△4二銀くらいだが、先手は▲9五歩と突き越す権利を得る。もちろん端を突き越されただけで後手必敗だというわけではないが、△2二飛と振る場合はこの進行を踏まえた上で指さなければならない。

対抗形

対抗形

△4二銀

▲2六歩△3四歩▲2五歩△3三角▲7六歩△4二銀

▲2六歩△3四歩▲2五歩△3三角▲7六歩△4二銀
 △4二銀は、△2二銀同様に角交換を受ける姿勢。特に、ゴキゲン中飛車にこだわる場合はこの一手である。
 ▲3三角成と角交換するのは、6手目△2二銀に▲3三角成と指したときとほぼ同じなのでそちらを参照(ただし△4二銀型の場合、▲3三角成には△同銀必須。△同桂だと▲2二角がある)。
 ここでは7手目▲4八銀とし、そこで後手は△5二飛か△5四歩。

【△5二飛】

 後手は△5二飛と振ればゴキゲン中飛車に構えられる。以下▲6八玉△5四歩に、先手は▲3三角成△同銀▲7八玉と進める。一見、対ゴキゲン中飛車の角交換型、俗に丸山ワクチンと呼ばれる手法だ。
 しかし、この局面は通常のゴキゲン対丸山ワクチンと決定的に違う点がある。後手が一旦△3三角と上がっているので、先手から角交換しても手損していない。つまり、▲7八玉の局面は通常形と比べたら先手の一手得、しかもまだ穴熊に組む余地がある。後手から見れば、ゴキゲン中飛車には出来るものの、先手に得をされた進行といえる。

【△5四歩】

 △5二飛で上記の進行となり手損するのは嫌という場合、先に△5四歩のほうが優る。
  • この場合、先手は、
    (1)▲3三角成△同銀に
    • (a)▲6八玉としておく。
      • (ア)△5二飛だと手損の変化に戻ってしまうので、
      • (イ)△2二飛と一気に向かい飛車へ振って、逆棒銀を狙う。△2二飛の局面を通常のゴキゲン中飛車対丸山ワクチンの進行から△2二飛と回って逆棒銀を狙う順と比べると、先手は角交換で手損していないが、後手も△5二飛と途中下車していないため、手損なく進行している。
      • (ウ)△4四角には▲8八角と合わせる。それから△5五歩と突くのがゴキゲン中飛車の手筋であるが、この場合の△5五歩・△4四角はいい形ではなく損得は微妙。
    • (b)▲5三角で馬を作ろうとするのは、△5五角で香取りが受からずやぶへび。
  • (2)▲6八玉と単に上がっておく手もある。後手が△5五歩なら、通常の5筋位取り型に戻る。

【後手居飛車】

 △4二銀から後手が居飛車にしようとすると、△3三角の使い方が難しくなる。矢倉に組もうにも△3三角が邪魔で、移動しようにも4二~5一のルートを銀が塞いでいる。既に制約のある局面…といっていたのだが、2017年になって雁木が大流行し、そうともいえなくなってきた。
  • 第一候補は
    (1)△8四歩で、そこで先手がどうするか。
    • 無難なのは、
      (a)▲3三角成△同銀▲6八銀で角換わりか、
    • (b)▲6六歩△8五歩▲7七角として矢倉や雁木を目指す。後手は角を引かずに右四間などの急戦か、△4四歩~△4三銀で雁木というところ。
  • 他には、
    (2)△3二金や
  • (3)△4四歩で、雁木・右玉・振り飛車を先手次第で使い分けるという戦略もあるだろう。

【意地でもゴキゲン中飛車封じ - 7手目を▲6八玉】

 △4二銀の時点でゴキゲン中飛車を目指していると決め打ちして、7手目を▲4八銀ではなく▲6八玉とする。
  • 後手が予定通りに
    (1)△5四歩と来ると、▲3三角成△同銀▲5三角と打ち込む。
    • このとき、
      (a)△5五角には▲7七桂で受かるのが、7手目▲6八玉の意味だ。
    • しかし、▲5三角自体は
      (b)△4四角で受かる。▲4四同角成△同歩に、今度は▲4三角と打つ。これも普通に△3二角で受かり、▲3二同角成△同金。ここまで進めておいて先手は▲4八銀と自陣に手を戻し、
      • (ア)△5二飛と後手が中飛車にして、以下駒組みとなる。この段階では先手が何をしたかったのかわからないが、駒組みが進むと後手は4四に歩がいるために、ゴキゲン中飛車の4三歩・4四銀・3三桂の構えが出来なくなっている。これが先手の主張だ。
      • ただし、後手が中飛車にせず、
        (イ)△6二銀などで居飛車にする手も考えられ、それは後手の手得が生きてしまう可能性もある。この▲5三角~▲4三角の順は先手が手損を重ねただけなので、入門書ならば角の無駄な打ち込み例として紹介される手順だ。それでも、相手を見てやるならば有効だという考え方にプロの将棋も変わってきているようだ。
  • なお、6手目が△4二銀だからといって必ず後手がゴキゲン中飛車だとは限らず、
    (2)△8四歩と突く可能性はある。この場合、▲3三角成△同銀▲8八銀で角換わりにするのが無難ではある。

対抗形、雁木、角換わり、居飛車力戦

対抗形 矢倉・雁木 角換わり 居飛車力戦

△4四歩

▲2六歩△3四歩▲2五歩△3三角▲7六歩△4四歩

 ▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲2五歩△3三角と同じ局面。

△3二金

▲2六歩△3四歩▲2五歩△3三角▲7六歩△3二金

 ▲7六歩△3四歩▲2六歩△3二金▲2五歩△3三角と同じ局面。
▲2六歩△3四歩▲2五歩△3三角▲4八銀

▲4八銀

△3二銀

▲2六歩△3四歩▲2五歩△3三角▲4八銀△3二銀

 まだ後手が振り飛車と決まったわけではないが、▲4八銀は対振り飛車に角道を開けない戦法(飯島流や鳥刺し)を指す含みがある。以下▲5六歩~▲7八銀~▲7九角~▲5七角が飯島流、▲5六歩~▲6八玉~▲7八玉~▲6八銀~▲5七銀左が鳥刺し。もっとも、先手が▲7六歩を突けば普通の形に戻るので決め付けすぎるのも危険だ。

対抗形、矢倉、角換わり

対抗形 矢倉・雁木 角換わり

△2二飛

▲2六歩△3四歩▲2五歩△3三角▲4八銀△2二飛

 ▲2五歩を決めてきた分、後手には向かい飛車にする手が生じる。

対抗形

対抗形

△8四歩

▲2六歩△3四歩▲2五歩△3三角▲4八銀△8四歩

 △8四歩と突かれた場合、▲7六歩△2二銀▲3三角成△同銀▲8八銀で角換わりが一例。その場合、▲4八銀は棒銀の選択肢を消してやや形を決めた手になる。▲7六歩に△4四歩と突けば矢倉にもなる。他、▲7八金などで力戦もある。

角換わり、居飛車力戦

角換わり 矢倉・雁木 居飛車力戦
▲2六歩△3四歩▲2五歩△3三角▲2六飛

▲2六飛

△3二飛

▲2六歩△3四歩▲2五歩△3三角▲2六飛△3二飛

 5手目に▲2六飛と浮くのは、俗に「目くらまし」や「浮き浮き飛車」と呼ばれる奇襲の出だし。▲2六飛に、例えば△3二銀だと▲3六飛と寄って先手の一歩得が確定する。
 後手は△3二飛として、(1)▲3六飛には△4四角と出ようと考えるが、(2)▲7六歩で角交換を挑まれる。ここで△4四歩と止めてしまうと、▲4六飛△4二飛▲3六飛(または▲3六飛△2二角▲4六飛△4二飛▲2六飛△3三角▲3六飛)で、次の▲3四飛が受からない。

奇襲戦法

奇襲

△8四歩

▲2六歩△3四歩▲2五歩△3三角▲2六飛△8四歩

 居飛車で対抗する順。
  • (1)▲3六飛には△8五歩と突き、
    • (a)▲3四飛と歩を取ったら△8六歩▲同歩△同飛を用意している。
    • 一歩のために8筋を突破されてはいけないので、
      (b)▲9六歩と備えるが、△8四飛と浮いて3四の歩は受かる。
  • 上記の▲9六歩△8四飛に▲9七角と上がってアヒルのような将棋を指すか。もう歩を取るのは諦めて、
    (2)▲7六歩や
  • (3)▲7八金と指すか。どちらでも一局の将棋である。

居飛車力戦

居飛車力戦

△2二飛

▲2六歩△3四歩▲2五歩△3三角▲2六飛△2二飛

 振り飛車での対策。
  • (1)▲3六飛なら後手から△2四歩と突く。
    • (a)▲同歩△同飛▲2八歩と進めば、3四の歩を取れないどころか、2八に歩を打たされて大失敗。
    • 初志貫徹の(b)▲3四飛も、△2五歩▲7六歩△4二銀で続かない。
  • したがって歩を取るのは諦め、
    (2)▲6八玉から囲い、少し損はしているにしても一局の将棋だ。

対抗形

対抗形
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b. △3二銀

▲2六歩△3四歩▲2五歩△3二銀
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 2013年の第71期名人戦第4局の後に、4手目△3二銀という作戦が出現した。
 プロ公式戦では糸谷哲郎が指した作戦だが、当時奨励会員だった都成竜馬が指していたため都成流と呼ばれている。しかし糸谷以降の追随者が現れず、現在では奇襲戦法の扱いを受けている。

 先手は▲2四歩の歩交換をするかどうかを問われていて、見送っても後手にはいろんな指し方がある。

4手目

5手目

6手目

戦型

△3二銀

▲2四歩

△同歩

▲2六歩△3四歩▲2五歩△3二銀▲2四歩△同歩

▲2六歩△3四歩▲2五歩△3二銀▲2四歩△同歩▲同飛
 前述の名人戦第4局を受けて研究された、関西発の都成流4手目△3二銀。
 以下▲2四同飛に、△3三角または△3一金が新構想。どちらでも、先手は▲2八飛か▲3四飛に分かれる。糸谷のコメントによれば、2筋交換を手損にさせることが主な狙いであるという。

【△3三角】

 プロ公式戦初出は、2013年7月棋王戦挑決T・▲深浦康市△糸谷哲郎戦。
 △3三角には横歩を取る▲3四飛か、▲2八飛と引くか。
  • (1)▲3四飛と横歩を取る手には、△2三銀と上がる。
    • (a)▲3三飛成と勢いで行っても、△同桂▲7六歩△3二金で収まってしまう。
    • (b)▲3六飛と引く手には△2二飛と回り、以下▲2六飛に△2四銀と、棒銀風に進出するのが後手の狙いだ。先手を持ってこの変化がつまらないと思えば横歩を取らずに引くことになる。
    • (2)▲2八飛と飛車を引くと、
      • (a)都成流は△3一金と寄る。この局面を初形と比べた際、先手は飛車先の歩を手持ちにしたが、あとは駒が動いていない。後手は飛車先の歩を手持ちにして、なおかつ4手(△3四歩・△3三角・△3二銀・△3一金)指している。この手得を主張するわけだ。
         △3一金に▲7六歩と突くと、後手は△4四歩、△8八角成、△2七歩が考えられる。
        • (ア)△4四歩に、自然な手は▲4八銀。それには△4三銀として、
          • ▲2三飛成には△2四歩~△2二金で竜の捕獲を狙う。
          • ▲2四歩には△2二歩と受けておくと、その先の手が思ったほどない。
          • 攻める手がないとすれば、
            ▲6八玉と玉を囲うくらいだが、後手は△2二飛とぶつける。勢いで▲同飛成△同金とすると、後手に△2八飛の狙いが残る。▲2五歩と交換を拒否すると△3五歩~△3四銀があるので、歩を打つなら2六または2七だが、それなら先手の飛車先交換が手損になる。
             『イメージと読みの将棋観Ⅱ』(『将棋世界』2014年5月号掲載)においては、△4四歩に▲3八銀△4三銀▲4六歩△2二飛▲同飛成△同金▲4五歩と進める対抗策が示されている。
        • (イ)△8八角成と角交換する手もあり、▲同銀△3三銀で、次に△2二飛とぶつける角交換振り飛車を狙う。▲2三飛成には△2四歩~△2二金、▲2四歩なら△2二歩と受けるのは角交換しない形と同じだ。
        • (ウ)△2七歩もあり、▲同飛なら△8八角成▲同銀△4五角を狙う。この筋を警戒するならば▲7六歩より先に▲3八銀が堅実だが、かなり形を決める手でもある。
      • 都成流とは関係ない指し方としては、
        (b)△2四歩と打ってしまい、以下△2三銀~△3二金で銀冠を組んで戦う作戦も考えられる。

    【△3一金】

     先に金を寄る、2013年9月棋王戦挑決T・▲佐藤康光△糸谷戦で指された手。
    • (1)▲3四飛と横歩を取る手には、△4四角と出る。次に△3三銀~△2二飛が狙いの構想。
      • (a)▲3六飛は、△4四角の利きがあるため2筋に飛車が戻れなくなり、飛車が安定しない。
      • (b)▲2四飛は飛車の安定を目指す手だが、△3三銀と当てる。
        • (ア)▲2三飛成は△2四歩~△2二金で竜が死ぬ。
        • (イ)▲2八飛は△2六歩と抑えられる。
        • (ウ)▲2五飛には△2二飛とぶつける。
    • したがってこちらでも、
      (2)▲2八飛が無難。後手は予定通り△4四角。実戦では以下▲3八銀△3三銀に▲2四歩△2二歩を決めてから、先手居飛車・後手中飛車の対抗形に進んだ。結果は先手の佐藤勝ち。
    • (3)▲7六歩と突くのは、△8八角成▲同銀△3五角▲2八飛△5七角成で乱戦模様。

    対抗形、居飛車力戦

対抗形 居飛車力戦

▲7六歩

△3三銀

▲2六歩△3四歩▲2五歩△3二銀▲7六歩△3三銀

 先手が▲2四歩△同歩▲同飛を見送れば、後手は△3三銀と上がって飛車先不突矢倉が指せる。銀を上がって受けた形自体はよく見られる矢倉の形だが、実は6手目にしては珍しい局面。後手は矢倉か振り飛車に出来る。

矢倉、対抗形

矢倉・雁木 対抗形

△8八角成

▲2六歩△3四歩▲2五歩△3二銀▲7六歩△8八角成

 以下▲8八同銀でお互い角を手持ちにし、一手損角換わりか角交換振り飛車。

一手損角換わり、対抗形

角換わり 対抗形

△4四歩

▲2六歩△3四歩▲2五歩△3二銀▲7六歩△4四歩

 ▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲2五歩△3二銀と同じ局面。

△3三角

▲2六歩△3四歩▲2五歩△3二銀▲7六歩△3三角

 ▲2六歩△3四歩▲2五歩△3三角▲7六歩△3二銀と同じ局面。
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c. △4四角

▲2六歩△3四歩▲2五歩△4四角
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 2020年代になって知られるようになった手で、将棋系VTuberの菜々河(ななかわ)れいが広めたため『菜々河流向かい飛車』と呼ばれ、プロの採用例もある。
 △4四角以降は、先手が何もしなければ△3三金・△2二飛型を目指す、つまり△4四角型+阪田流向かい飛車が基本的な狙いだ。また、相掛かり系の将棋で△4四角と飛び出す形は昔からあるため、向かい飛車に限らず居飛車で指す手も考えられる。

 先手の方針としては▲2四歩の歩交換、▲7六歩と角交換の含みを見せる、▲4八銀や▲3八銀などで角道を開けず△4四角を圧迫しようとする指し方が考えられる。後手は全てに対して菜々河流を貫くか、ケースバイケースで居飛車へ切り替える柔軟性を持つかは好みであろう。

4手目

5手目

6手目

戦型

△4四角

▲2四歩

△同歩

▲2六歩△3四歩▲2五歩△4四角▲2四歩△同歩

▲2六歩△3四歩▲2五歩△4四角▲2四歩△同歩▲同飛
 菜々河流は大雑把に言うと△4四角型で阪田流向かい飛車に組み、この後出来れば△3五歩と位を取るのが基本形。
 だが△4四角に対して、すぐ▲2四歩と突く手は見え見え。△同歩▲同飛と自然に進んだところで後手が悪かったら元も子もないのだが、どうするか。

【菜々河流向かい飛車】

 菜々河流向かい飛車では△3三桂と跳ねる。後手角頭歩戦法ですぐ▲2五歩△同歩▲同飛ときた場合の変化を応用した指し方だ。
  • (1)▲2一飛成は△2二飛とぶつける。▲1一龍には後手も△2九飛成と入れる。なので▲2二同竜△同銀で一局だが、お互い飛車と歩を手持ちにしたものの、後手が4手得(△3四歩・△4四角・△3三桂・△2二銀)している。なお、△2二同銀に▲2三歩は△同銀▲2一飛△2五飛で、歩切れの先手は飛車成りを受けにくい。
  • (2)▲2三飛成にも△2二飛とぶつける。▲同竜△同銀は(1)の変化と同じなので、▲2四歩と紐をつけるが、△2三飛と取って▲同歩成に△4五桂と跳ねだす。次に△5七桂成(不成)があるので先手は受ける必要がある。
    • (a)▲6八玉には△2五飛と打つ。▲2四飛と合わせる受けには△5七桂成!と捨て、▲同玉に△3五角と出れば王手飛車。以下▲4六歩△2四角▲同とに△2九飛成と成って後手良し。
    • (b)▲6八金には△2七飛と打ち、
      • (ア)▲2四飛と合わせる手には△2六歩と飛車交換を拒否する。これで飛車成りが受からない。
      • (イ)合わせるなら▲2八飛だが、△3七桂成が利く。▲2七飛△同成桂▲2四飛には△2八歩で攻めが続く。
    • (c)▲4八銀には△3五角と出て5七に数を足しつつ、先手の▲2四飛の受けを消しておく。
      • (ア)▲6八金で5七を受けるなら△2七飛と打ち、そこで▲2四飛の受けが利かないという要領だ。
      • (イ)▲3六歩と催促するのが最強だが、△5七桂不成▲3五歩△4九桂成▲同玉△2八飛と一直線に進めた局面は、駒損ながら実戦的には後手が勝ちやすい展開だ。
  • (3)▲2八飛と引くような手は△2六歩と押さえられて大損。
  • ところで、角頭歩戦法とは違ってこの△3三桂は飛車当たりではない。なので先手はここで飛車を動かさなくてもよく、例えば
    (4)▲7六歩と突く手もある。
    • 後手としては、角が向かい合って桂を跳ねてあるので技をかけてみたくなるが、
      (a)△8八角成▲同銀に、
      • (ア)△4五桂は▲2五飛と桂取りに引かれる。△5七桂不成は▲2四角で抜かれてしまう。
      • (イ)△2二飛とぶつけるほうが勝る。
        • ▲同飛成△同銀は一局。気になる▲2三歩には△同銀▲2一飛△3二銀▲1一飛成で先に香を取られるものの、△2五飛と打ち返して反撃できる。
        • ▲2三歩△2一飛▲2二角は、△4二角と反発含みで桂を支えておき、▲3一角成△同金▲2二銀に△4五桂で勝負するのが一例。
    • (b)単純に△2二飛とぶつけると、先に▲4四角と取る手がある。△2四飛は▲3三角成できれいな王手飛車なので△4四同歩しかないが、後手から角交換するのに比べて4三に空間が出来ているのが負担になりやすい。

【力戦調の指し方】

 菜々河流から離れて考えると、後手は次の▲2一飛成を受ける必要がある。
  • (1)△2二銀は普通に考えつく手堅い手。
    • (a)▲2八飛には△3二金や△2六歩などで一局。
    • (b)▲3四飛には△3三銀▲3六飛△2二飛▲2八歩が一例。
  • (2)△2二飛とぶつける手もある。▲同飛成△同銀の局面は、お互い飛車と歩を手持ちにしたものの、後手だけ3手得(△3四歩・△4四角・△2二銀)した計算になる。

対抗形、居飛車力戦

対抗形 居飛車力戦

▲7六歩

△3二金

▲2六歩△3四歩▲2五歩△4四角▲7六歩△3二金

▲2六歩△3四歩▲2五歩△4四角▲7六歩△3二金
 すぐ▲2四歩と仕掛けるのは先手が良くないと見れば、▲7六歩が自然な手。
 そこで菜々河流では△3二金と上がる。

【▲2四歩の飛車先交換】

 ここでの▲2四歩△同歩▲同飛に、
  • (1)△2二銀と上がれば居飛車系の将棋で一局。
  •  しかし菜々河流向かい飛車の基本形は△3三金型を作ることにあり、そのために△3二金と上がっている。それを目指す場合は筋が悪いようでも
    (2)△2三歩と打つ。
    • (a)▲2八飛と素直に引いてくれれば△3三金と上がり、▲4八銀△2二飛▲4六歩△3五歩が菜々河流向かい飛車の形。このあと、いずれ後手から△2四歩~△2五歩と伸ばしていくことになると、果たして先手の2筋交換はどうだったのか?という話になってくる。
    • (b)▲3四飛と横歩を取るのは、△8八角成▲同銀△4五角で後手良し。後手は歩切れなので▲1五角と王手をかける手(3三に打つ歩がない)は考えられるが、△4一玉と寄られてそれまで。飛車取りが残っており、どうやっても角成が受からない。
    • (c)▲4四角△同歩を入れて▲3四飛が、上記▲1五角の筋を生かすための修正手順。
      • (ア)△4五角には、今度こそ▲1五角が成立する。
        • △4一玉は▲4四飛で王手角取りになるのが、▲4四角△同歩を入れた効果だ。△4二銀は▲3二飛成、△4二金は▲3一飛成なので論外。
        • △4二飛は▲同角成と取られる。△同銀は▲3二飛成、△同金は▲3一飛成、△同玉は▲4四飛で王手角取り。
        • △5二玉が一番頑張っているが、ここで▲4二角成!と捨てるのが好手。ここでも△同銀は▲3二飛成、△同金は▲3一飛成、△同玉は▲4四飛と回って王手角取りで、捨てた角を回収できる上に二歩得だという仕組みだ。
      • したがって後手は
        (イ)△3三桂と跳ねておく。
        • ▲4四飛と歩を取るのは△5五角▲8八角△4四角▲同角△2四飛のような筋があり、どちらも命がけだ。
        • ▲3六飛と引く手には、△4二飛▲2六飛△4五歩で一歩損ながら立石流のような将棋になり一局。
  • 【▲4八銀 - 穏便な指し方】

     先手が飛車先交換せず穏やかに▲4八銀とすれば、△3三金と上がる。これで第一段階完了というところ。
    • (1)▲4六歩には△3五歩と突いて、先手の桂の活用を阻むとともに、いずれ△3四金と上がる形を見る。以下▲4七銀△2二飛で一局の将棋だ。
    • 先手が上述の3五位取りを気にするなら、先に
      (2)▲3六歩と突いてしまう。こうなると後手は△2二飛だ。
      • ここで、
        (a)▲6八玉と軽率に上がると、△8八角成▲同銀△5五角で両取りがかかって終了。
      • したがって先手は、
        (b)▲3七銀や(c)▲3七桂、(d)▲4六歩などを先に指す必要がある。
    • 少し変わった手としては、
      (3)▲4四角△同歩と角交換して▲6五角と打つ手がある。露骨に▲2一角成を狙うだけの手で、単にそれを受けるだけなら手はいろいろあるのだが、△2二飛と回ることばかり考えていると対処に困る。
      • (a)△3二角は打ちたくなるが、▲同角成とされ、(ア)△同銀は▲2二角だし、(イ)△同金ではせっかく上がった金が後退してしまう。
      • 穏便に飛車を振る手を目指すなら、
        (b)△5四角と合わせる。▲同角△同歩と進み、そこで終わらせてしまうと手損しただけなので、先手は▲5三角と打ち、後手も△4二角と合わせる一手に、▲同角成となったところで何で取るか。
        • (ア)△同銀は▲2二角で駒損必至。(イ)△同飛は▲5三角で今度こそ馬を作られてしまう。となると消去法でも(ウ)△同玉と取ることになる。これ以上角を打てない先手は▲6八玉など駒組みに手が戻るが、△5三玉とさらに上がり、次に△2二飛と回る。それから△4二銀~△6二玉と整備するイメージで指すことになる。
      • なお、別にこだわらなければ
        (c)△3二銀で受かる。形が悪く、飛車を振りにくくなるが、角を手持ちにしているのが主張だ。
      • (d)△2二飛は▲8三角成とされる手が見えるが、角を成らせてから△5五角と打つ手がある。以下、▲6一馬△同玉▲6六金△同角▲同歩△6七角▲7八金△7六角成▲8三角が一例で、一局の将棋。なおこの変化、7手目が▲4八銀ではなく▲6八玉に代わっていると、△5五角に▲7七桂で受かるので注意が必要だ。

    【▲4四角△同歩を入れて▲2四歩】

     菜々河流を警戒するなら、▲4四角△同歩と角交換してから▲2四歩△同歩▲同飛とする。後手は▲2一飛成をどう受けるか。
    • (1)△2二銀は手堅く受けた手で、あとは一局である。ただ、これでほぼ菜々河流は消えた。
    • 菜々河流を目指すなら
      (2)△2三歩と打つ一手だが、そこで▲3四飛と横歩を取れば、単に▲2四歩△同歩▲同飛と飛車先交換して(2)△2三歩 - (c)▲4四角△同歩▲3四飛の変化に合流する。後手の最善は△3三桂であとは一局だが、菜々河流にはならない。

    対抗形、居飛車力戦

対抗形 居飛車力戦

▲4八銀

△3二金

▲2六歩△3四歩▲2五歩△4四角▲4八銀△3二金

 ▲2四歩も▲7六歩も待ち構えられていると先手が感じた場合、残る選択肢は▲4八銀など角道を開けない手になる。
 △3二金は菜々河流(△3二金~△3三金~△2二飛)を選ぼうとする順だが、先手が角道を開けない以上いざというときに角交換できないため、△4四角に圧力をかけられる展開には注意が必要。  
  • (1)▲4六歩と突き、
    • (a)△3三金には露骨に▲4五歩△5五角▲5四歩△6四角と角を追い、▲7六歩で角筋を通して3三の金を動けなくする順がある。極端な順だが、後手はこの後△2二飛としても△2四歩▲同歩△同金とは動けなくなり、菜々河流とは違う構想を求められる。
    • 上記の順は、△3三金と上がったせいで▲4五歩に△3三角と引けないために生じる。となると、先手がここまで角道を開けてこない段階で菜々河流向かい飛車は諦め、
      (b)△8四歩と居飛車に切り替える手は考えられる。
  • (2)▲3六歩と突いて、△3三金に▲3七銀△2二飛▲4六銀といった圧力のかけ方も考えられる。この順が気になる場合は上記同様△3三金を△8四歩に代えて、居飛車に切り替えることになる。
  • (3)▲2四歩△同歩▲同飛も考えられる。
    • 菜々河流の指し方を踏襲すると
      (a)△2三歩と打つことになるが、ここでは▲3四飛と横歩を取る手がある。角交換出来る形なら△8八角成▲同銀△4五角があるが、ここでは角交換できないため反撃できない。初志貫徹なら△3三金▲3六飛△2二飛だが、先手からは▲4六歩△5四歩▲4五歩△5三角と角を追った後、飛車を目標に▲7六歩~▲4七銀~▲4六銀~▲3五銀の攻めがある。
    • ▲3四飛のときに△2八歩を残すため、2筋に歩を打たずに
      (b)△2二銀と上がって指す手もある。この場合はどちらかというと居飛車的な指し方が必要だ。

対抗形、居飛車力戦

対抗形 居飛車力戦

△2二飛

▲2六歩△3四歩▲2五歩△4四角▲4八銀△2二飛

 どうしても向かい飛車にするなら、先に△2二飛と回るほうが間違いない。ただ、同様に▲4六歩や▲3六歩~▲3七銀で角に圧力をかける指し方は残っている。

対抗形

対抗形
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d. その他の進行

▲2六歩△3四歩▲2五歩△その他
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3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

▲2五歩

△8四歩

▲2六歩△3四歩▲2五歩△8四歩

 ▲2六歩△8四歩▲2五歩△3四歩と同じ局面。

△5四歩

▲2四歩

△同歩

▲2六歩△3四歩▲2五歩△5四歩▲2四歩△同歩

 以下▲2四同飛△3二金に▲3四飛なら、△4四角と上がり、飛車を2六へは返さないよう指す。他には△5五歩と突く手もある。

居飛車力戦、対抗形

居飛車力戦 対抗形

▲7六歩

▲2六歩△3四歩▲2五歩△5四歩▲7六歩

 ▲7六歩△3四歩▲2六歩△5四歩▲2五歩と同じ局面。

△3二金

▲2四歩

△同歩

▲2六歩△3四歩▲2五歩△3二金▲2四歩△同歩

 以下▲2四同飛に△8四歩か、△5四歩。

相掛かり、横歩取り、対抗形

相掛かり 横歩取り 対抗形

▲7六歩

▲2六歩△3四歩▲2五歩△3二金▲7六歩

 ▲7六歩△3四歩▲2六歩△3二金▲2五歩と同じ局面。
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4-3. ▲2六歩△3四歩に▲4八銀

▲2六歩△3四歩▲4八銀
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 ▲2六歩△3四歩の局面で、▲7六歩・▲2五歩の他に指されている3手目は、▲4八銀である。

 3手目▲4八銀は、後手が振り飛車党だとわかっているときの、手待ちの意味が強い。
 3手目に▲2五歩△3三角を決めてから▲4八銀と上がると、後手には△2二飛として向かい飛車にする変化が生じる。先手が角道を開けない鳥刺しや飯島流引き角を指す場合にも、対抗策として向かい飛車は有力である。
 そのため「もう一手、後手が何を指すか見たい」と、▲4八銀で待つ。そこで△4二飛と飛車を振ったならば、▲2五歩△3三角を決める。それから後手が△2二飛と向かい飛車に振り直したとすると、△4二飛と振った手は途中下車、手損だというわけだ。
 特にこのような狙いがなくても、振り飛車相手には▲7六歩と突けば通常形に戻すことが出来る。

 その一方、△8四歩と突かれて相居飛車に進む場合には注意が必要だ。
 ▲4八銀は、居飛車の将棋なら指すことの多い手であるが、あまりにも早く上がった場合にはデメリットがある。「飛車の横利きが止まる」「飛車が2筋からいなくなると2八に駒を打ち込む隙ができる」「▲4八銀・▲4九金型では8筋を破られたときに先手玉が狭い」点だ。特に飛車角が飛び交う横歩取りではこれらのデメリットが顕在化しやすく、慎重な駒組みが求められる。
 後手の作戦は「飛車先をどう受けるか」で分岐する。△3三角で受ければ雁木や角換わり、△3三銀で受ければ矢倉、△3二金で受ければ相掛かりや横歩取りであり、その選択権はほぼ後手にある。

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

▲4八銀

△4二飛

▲2五歩

△3三角

▲2六歩△3四歩▲4八銀△4二飛▲2五歩△3三角

 飛車を振ったら▲2五歩△3三角を決めるのが、先手の狙いである。
 飯島流引き角を例に挙げると、△3三角以下、▲5六歩△6二玉▲7八銀△7二玉▲7九角と進め、▲2四歩を警戒して△2二飛と受けたとする。すると、△4二飛は手損になるというわけ。

対抗形

対抗形

▲5六歩

△6二玉

▲2六歩△3四歩▲4八銀△4二飛▲5六歩△6二玉

 ▲2五歩は、別にすぐ決めなくても構わない。▲5六歩は一例だ。

対抗形

対抗形

▲7六歩

▲2六歩△3四歩▲4八銀△4二飛▲7六歩

 ▲7六歩△3四歩▲2六歩△4二飛▲4八銀と同じ局面。

△5四歩

▲5六歩

△5二飛

▲2六歩△3四歩▲4八銀△5四歩▲5六歩△5二飛

 △5四歩は中飛車を視野に入れた手で、先手が▲5六歩と突き返さなければ△5五歩も見ている。
 位取りを嫌って▲5六歩と突けば、5筋に争点が出来るため△5二飛と振る手が多い。

対抗形

対抗形

▲2五歩

△3三角

▲2六歩△3四歩▲4八銀△5四歩▲2五歩△3三角

 ▲2五歩△3三角を決めても、再度▲5六歩と突くかどうかは考慮しなければならない。突けば△2二飛、突かなければ△5五歩がある。

対抗形、居飛車力戦

対抗形 居飛車力戦

▲7六歩

▲2六歩△3四歩▲4八銀△5四歩▲7六歩

 ▲7六歩△3四歩▲2六歩△5四歩▲4八銀と同じ局面。

△8四歩

▲2五歩

△3三角

▲2六歩△3四歩▲4八銀△8四歩▲2五歩△3三角

▲2六歩△3四歩▲4八銀△8四歩▲2五歩△3三角
 ▲2五歩に対して△3三角と上がって受ける手はごく自然。以下、
  • (1)▲7六歩なら
    • (a)△2二銀▲3三角成△同銀▲8八銀の角換わりか、
    • (b)△4四歩から無理矢理矢倉や雁木等の持久戦か。
  • (2)▲7八金なら△8五歩で、先手は飛車先を交換できず、後手が飛車先を交換する将棋になる。

角換わり、居飛車力戦

角換わり 居飛車力戦

△8五歩

▲2六歩△3四歩▲4八銀△8四歩▲2五歩△8五歩

▲2六歩△3四歩▲4八銀△8四歩▲2五歩△8五歩
 このタイミングで△8五歩が入る。▲2四歩△同歩▲同飛は△8六歩▲同歩△8七歩で先手角損。したがって先手の選択肢は▲7六歩、▲7八金、▲9六歩だ。

【▲7六歩 - 横歩取り系】

 ▲7六歩と突くと、横歩取りの出だしから▲4八銀と上がった形と同じ局面になる。しかし▲4八銀型は、飛車の横利きが遮られること、飛車が2筋から逸れると2八に駒を打つ筋が生じることから悪形になりやすく、先手が横歩を取れるケースは少ない。むしろ、後手が横歩を取りやすくなっている。
 △3二金▲7八金△8六歩▲同歩△同飛といつもの横歩取りのように進めたとき、
  • (1)▲2四歩△同歩▲同飛は、△8八角成▲同銀△3三角と打たれる。
    • 普通ならこの筋は、
      (a)▲2一飛成△8八角成▲同金△同飛成▲3一龍(△同金は▲3三角の王手龍取り)で先手良しだが、この局面では▲4八銀型が壁になっていて先手玉が詰めろになっているのがひどく、△4一金と受けられて先手敗勢。
    • (b)▲7七角も△8八飛成▲同角△2四角▲1一角成に△2八飛と打ち込まれ、やはり駒損。どちらの変化も▲4八銀型が祟っている。
  • (2)▲8七歩と打ち、
    • (a)△8二飛や
    • (b)△8四飛と飛車を引けば▲2四歩以下相掛かり。
    • (c)△7六飛と横歩を取られたときが問題で、
      • 横歩取り△2三歩型の変化をなぞった
        (ア)▲2二角成△同銀▲8五角は、以下△7八飛成▲同銀△7二銀と進んだ局面で▲7七銀と上がりたい(△8八角の打ち込みを消す)のだが、飛車の横利きが止まっている▲4八銀型では△7八角が生じる。
      • したがって、上記の変化には踏み込めず、
        (イ)▲6九玉など持久戦に持ち込む指し方が正解となる。
      • なお、
        (ウ)▲2四歩と突くのは△8八角成で終了。▲同銀は△7八飛成で、これも▲4八銀型が祟っている。
  • (3)▲4六歩と突き、次に▲4七銀と上がるような駒組みもある。この筋は▲5六歩~▲5七銀や、▲3六歩~▲3七銀でも可能。
    • (a)△8二飛や
    • (b)△8四飛と引けば相掛かり。
    • (c)△7六飛と横歩を取る手もある。ここも▲4八銀型の悪条件と、2筋の歩交換が出来ていないことから技をかける手がないため、▲4七銀△8六飛のような進行になる。

【▲7八金 - 相掛かり系】

 ▲7八金は角頭を受けておく手。▲7六歩より手堅いが、後手に△3三角と上がる余地を与える。
  • (1)△8六歩▲同歩△同飛には
    • (a)▲8七歩で飛車を引かせておき、先手も飛車先交換をすることが可能となる。これは相掛かり系だ。
    • (b)▲7六歩と突き、
      • (ア)△3二金なら横歩取り系に合流する。
      • (イ)△7六飛とすぐ横歩を取るのは▲2二角成△同銀▲6五角があるため、
      • 取るならば角交換をする
        (ウ)△8八角成▲同銀△7六飛が有力。以下▲7七銀△7四飛▲2四歩△同歩▲同飛△2二歩が一例。
  • (2)△3二金に、
    • (a)▲7六歩は横歩取り系に合流。
    • (b)▲2四歩△同歩▲同飛もある。
      • ここで、
        (ア)△8六歩▲同歩△同飛と後手も飛車先交換をしてきた場合、
        • ▲7六歩は前述した横歩取り系で先手が飛車先交換した(1)の局面に合流してしまい、△8八角成▲同銀△3三角で先手敗勢。
        • したがって、
          ▲8七歩と打って飛車を追い返すか、
        • ▲9六歩と一手待つくらい。どちらも相掛かりだ。
      • (イ)△2三歩と打たれた場合、
        • ▲3四飛と横歩を取る変化がある。以下△8六歩▲同歩△同飛に、
          • ▲8七歩は△2六飛と回られ、▲8四飛△7二銀▲3九金△3八歩でしびれる。
          • したがって、
            ▲7六歩と頑張る。そこで後手は△3三角や△3三桂もあるが、△8八角成▲同銀△3三歩で飛車を追うのがソフト推奨。▲3六飛に△2八角と打って香を取りに行く。この△2八角の隙があるのも▲4八銀型の弱点だ。
        • このような変化が嫌なら横歩は取らず、
          ▲2六飛、
        • ▲2八飛と飛車を引くことになる。
  • (3)△3三角と飛車先を受ける手には、
    • (a)▲7六歩と突き、以下△2二銀または△4二銀で角換わりに進みそうに見える。
      • 以下、
        (ア)▲3三角成△同銀▲8八銀に
        • △7二銀▲7七銀ならその通り角換わりだ。
        • しかし、▲4八銀と上がっているこの局面では
          △8六歩▲同歩△同飛がある。通常この飛車先交換には▲7五角~▲5三角成があって先手が良いのだが、▲4八銀型は先手の飛車の横利きを止めているため7八の金が浮き駒になっており、▲7五角は△7六飛で角金両取りになって先手敗勢である。したがって後手の飛車先交換は防げず、「後手だけ飛車先交換した」角換わりになる。
      • (イ)▲7七角と上がって△同角成▲同金と進めれば飛車先交換を防ぎながら手得出来るが、▲7七金の悪形をまとめきれるかどうか。
      • (ウ)▲6八玉と上がり、△8六歩▲同歩△同飛には▲2四歩△同歩▲2二歩を見せる変化もある。
    • ▲7六歩で角換わりにできないのならば、
      (b)▲9六歩と突いておき、次に▲3六歩~▲3七銀や▲4六歩~▲4七銀を狙うか、
    • (c)▲3六歩とすぐに突き、△8六歩▲同歩△同飛▲8七歩△3六飛とわざと歩を取らせて▲3七銀△3五飛も、最近の指し方からは考えられる。

【▲9六歩】

 ▲9六歩は、△8六歩▲同歩△同飛とされたときに▲7八金と上がる予定の手。後手に飛車先交換をさせて戦うことになる。

相掛かり、横歩取り、居飛車力戦

相掛かり 横歩取り 居飛車力戦

△3二金

▲2六歩△3四歩▲4八銀△8四歩▲2五歩△3二金

 △3二金は飛車先交換に備えた手。
  • (1)▲2四歩△同歩▲同飛と行けば、△8五歩と突くか、△2三歩と打つか。
    • (a)△8五歩と飛車先を伸ばした手に、
      • (ア)▲7六歩は、
        • △8八角成▲同銀△3三角が一目ありそうだが、▲2一飛成△8八角成に▲2四桂でも▲7七角でも互角にやれる。
        • △2三歩には、
          • ▲3四飛は△8八角成▲同銀△4五角なので、
          • ▲2八飛と引くことになる。
        • しかし、
          △8六歩▲同歩△同飛とされるのが厳しい。
          • ▲7八金と上がると、横歩取り系の出だしで先手が飛車先交換した(1)の局面に合流してしまい、△8八角成▲同銀△3三角で先手敗勢。
          • ▲2二角成△同銀▲7七角△8九飛成▲2二飛成△同金▲同角成も、△3三角▲同角成△同桂で先手が悪い。
      • ▲7六歩では後手にちゃんと指されると悪くなるので、先手は
        (イ)▲7八金と指すことになるが、それは6手目△8五歩から▲7八金△3二金▲2四歩△同歩▲同飛と同じ局面。
    • (b)△2三歩と打つと、
      • (ア)▲2六飛、
      • (イ)▲2八飛は相掛かり。
      • (ウ)▲3四飛と横歩を取る手もあり、△8五歩には▲3六飛と手順に引ける。後手が少し損か。
  • (2)▲7八金と備えた手には、
    • (a)△8五歩と伸ばせば相掛かり系に合流。
    • (b)△3三角と上がれば▲7六歩と突いて、
      • (ア)△4二銀なら▲3三角成△同銀▲8八銀で角換わり、
      • (イ)△4四歩なら無理矢理矢倉や雁木になる。
  • (3)▲7六歩と突くと、
    • (a)△8五歩は横歩取り系に合流する。
    • (b)△8八角成▲同銀△2二銀は一手損角換わり。

相掛かり、横歩取り、居飛車力戦

相掛かり 横歩取り 居飛車力戦

▲7八金

△8五歩

▲2六歩△3四歩▲4八銀△8四歩▲7八金△8五歩

 ▲7八金は後手に飛車先を交換させる方針。△8五歩はそれに乗って交換しに行った手である。
  • (1)▲2五歩と突けば、4手目△8四歩から▲2五歩△8五歩▲7八金と同じ局面で、相掛かり系に合流する。
  • (2)▲7六歩にすぐ
    • (a)△8六歩▲同歩△同飛は、
      • (ア)▲2五歩なら相掛かり系の(1)-(b)の変化に合流する。
      • (イ)▲8七歩には
        • △8二飛、
        • △8四飛と飛車を引いて相掛かりにする順と、
        • △7六飛と横歩を取る手がある。
          • ▲2二角成△同銀▲6五角と打てそうだが、△7八飛成▲同銀△4二玉と受けられると、次の△8八角を防ぐ手が難しい。
          • したがって、
            ▲6八玉や
          • ▲7七角で持久戦に持ち込むほうが先手としては勝る。
    • (b)△3二金は、
      • (ア)▲2五歩なら横歩取り系に合流。
      • (イ)▲5六歩△8六歩▲同歩△同飛▲5七銀という指し方(5筋でも4筋でも3筋でも可)もなくはない。
    • (c)△4四歩は先手も▲7七角と受けられるようになる。以下、無理矢理矢倉・雁木などの持久戦になる。

相掛かり、横歩取り

相掛かり 横歩取り 居飛車力戦

△3二金

▲2六歩△3四歩▲4八銀△8四歩▲7八金△3二金

 後手が△3二金と歩調を合わせる。
  • (1)▲2五歩なら4手目▲2五歩△3二金に▲7八金と同じ局面。
  • (2)▲7六歩と突くと、
    • (a)△8五歩は
      • (ア)▲2五歩なら横歩取り系に合流。
      • (イ)▲5六歩~▲5七銀も考えられる。
    • (b)△8八角成▲同銀△2二銀は一手損角換わり。
    • (c)△4四歩は無理矢理矢倉や雁木コースだ。

矢倉、角換わり、居飛車力戦

矢倉・雁木 角換わり 居飛車力戦

△4二銀

▲2六歩△3四歩▲4八銀△8四歩▲7八金△4二銀

 △4二銀は▲2五歩や▲7六歩に対して△3三銀と上がり矢倉に組む、または△3三角で角換わりや雁木を目指す狙い。

矢倉、角換わり、居飛車力戦

矢倉・雁木 角換わり 居飛車力戦

▲7六歩

△8五歩

▲2六歩△3四歩▲4八銀△8四歩▲7六歩△8五歩

 ▲7六歩に△8五歩だと横歩取り系の出だしに合流しやすく、先手からそれを変化するのもなかなか難しい。
  • (1)▲2五歩なら
    • (a)△3二金▲7八金△8六歩▲同歩△同飛か、
    • (b)△8六歩▲同歩△同飛▲7八金△3二金。
  • (2)▲7八金なら
    • (a)△3二金▲2五歩△8六歩▲同歩△同飛か、
    • (b)△8六歩▲同歩△同飛▲2五歩△3二金だ。

横歩取り、相掛かり

相掛かり 横歩取り

△4四歩

▲2六歩△3四歩▲4八銀△8四歩▲7六歩△4四歩

 ▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲4八銀△8四歩と同じ局面。

△4二銀

▲7六歩

△4四歩

▲2六歩△3四歩▲4八銀△4二銀▲7六歩△4四歩

 先手が3手目に▲2五歩を決めなければ、後手には△4二銀から矢倉に組む権利がある。
 ▲7六歩に△4四歩は矢倉の形を決めず、雁木や振り飛車への変化も残している手。

矢倉、居飛車力戦、対抗形

矢倉・雁木 居飛車力戦 対抗形

△3三銀

▲2六歩△3四歩▲4八銀△4二銀▲7六歩△3三銀

 △3三銀は矢倉に組む方針を明らかにした手。

矢倉、対抗形

矢倉・雁木 対抗形

△3三角

▲2六歩△3四歩▲4八銀△4二銀▲7六歩△3三角

 ▲7六歩に△3三角は角交換するかどうかを先手に聞いた手。
  • それに乗って、
    (1)▲3三角成△同銀なら、角換わりや角交換振り飛車の将棋になる。
  • (2)▲2五歩と手を渡すと、△4四歩なら振り飛車や雁木、△5四歩なら中飛車だ。

対抗形、角換わり、雁木、居飛車力戦

対抗形 角換わり 矢倉・雁木 居飛車力戦

▲2五歩

△3三銀

▲2六歩△3四歩▲4八銀△4二銀▲2五歩△3三銀

 このタイミングで▲2五歩と突かれた時に△3三銀と上がれるようにするための、4手目△4二銀である。

矢倉、対抗形

矢倉・雁木 対抗形

△3三角

▲2六歩△3四歩▲4八銀△4二銀▲2五歩△3三角

 △4二銀と上がった状態で飛車先を△3三角で受けた場合、後手の作戦は振り飛車・雁木と、先手次第で角換わりが考えられる。

対抗形、居飛車力戦、角換わり

対抗形 居飛車力戦 角換わり
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5. 特殊な初手

 将棋を始めた頃は『初手は▲7六歩か▲2六歩』だと教わるが、実際には様々な手がある。
 早々に形を決めたり、挑発的な意味合いを持つ手が多い。「この戦法一本で戦います」「見慣れた手は指しません」というような、指し手の自己主張が表れるところである。2000年代のプロ棋界でも、奨励会の小泉祐三段が、初手▲5八玉や▲3八金と指していると『将棋世界』で紹介され有名になった。

 2手目の分岐は、△3四歩や△8四歩など一般的な応手と、初手に反発する手に絞る。
 例えば、初手▲4八銀に対し2手目△6二銀や△3二金などと応じる手は解説しない。そのような順は、手の良し悪しで論じられない意地の張り合いであり、「2人で勝手にやってくれ」というレベルのものだからだ。

5-1. 初手▲5六歩

初手▲5六歩

 先手でのゴキゲン中飛車。
 初手▲7六歩からゴキゲン中飛車を目指そうとすると、△3四歩と突かれたときに▲1六歩と一旦待つ。そこで後手が△8四歩を突いたら▲5六歩と突ける。その瞬間は△8八角成~△5七角~△8四角成が消えているからだ。
 しかし、▲7六歩△3四歩▲1六歩で、後手がいつも4手目に△8四歩と突いてくれるとは限らない。仮に△1四歩と受けただけでも、▲5六歩とは突けない。つまり何が何でもゴキゲン中飛車にしたい場合、初手▲7六歩では不確定要素が多すぎる。だから初手▲5六歩なのだ。

 角道を止める振り飛車では居飛車穴熊と戦えないと考えられ出した2000年代後半になって、石田流・角交換振り飛車と共に振り飛車党の間で急激に採用数が増加した。

 プロの実戦例における2手目は、ほぼ△3四歩か△8四歩である。


a. ▲5六歩△3四歩▲5八飛

▲5六歩△3四歩▲5八飛
(KIFファイルのダウンロード)

 初手▲5六歩に対し2手目△3四歩の出だしでは、当たり前といっては当たり前だが、3手目の採用率は▲5八飛が9割を超える。
 後手の4手目は、位を保つ△5四歩、反撃含みの△8四歩、あっさり位を取らせる△6二銀、相振り飛車の△3二飛、△3三角が考えられる。

 居飛車で指すと先手に主導権のある将棋になることが多いが、相振り飛車であれば中飛車はやや損と考えられているため、居飛車党であっても△3二飛で相振り飛車を志向することがある。
 それに対して、先手が中飛車のまま左に玉を囲う「中飛車左穴熊」が出現した。その結果、先手の振り飛車党が左側に玉を囲い、後手の居飛車党が右側に玉を囲っているという将棋もよく見かけられるようになった。

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

▲5八飛

▲5六歩△3四歩▲5八飛△5四歩

△5四歩

 後手が位を保つ。
 ただし、後手居飛車で位を保つならば、この出だしより▲5六歩△8四歩▲7六歩△8五歩▲7七角△5四歩(▲7六歩△8四歩▲5六歩△8五歩▲7七角△5四歩と同形)のほうが近藤流を封じている分選ばれやすい。

▲7六歩

△6二銀

▲5六歩△3四歩▲5八飛△5四歩▲7六歩△6二銀

▲5六歩△3四歩▲5八飛△5四歩▲7六歩△6二銀
 この局面、よくある局面に見えて、初手▲5六歩でなければこの局面にはなりにくい。
 ▲7六歩△3四歩▲5六歩で始めると△8八角成▲同飛△5七角で、初手▲7六歩△3四歩▲5八飛では△8八角成▲同銀△4五角で、後手が馬を作ろうとする進行になる可能性が高いからだ。

 7手目にすぐ▲5五歩と歩交換を狙うのは、△5五同歩▲同角△同角▲同飛△4二玉が想定される進行だが、次に△3三角がある。それを避けて▲8八銀(△3三角は▲5八飛で受かる)と上がるが、今度は△5三銀▲4八玉△4四銀▲5九飛△4五角があって上手く行かない。
 したがって▲4八玉△4二玉とお互いに玉を上がる。
 そこで、角交換する▲2二角成か、玉を寄る▲3八玉に分かれる。

【▲2二角成】

 ▲2二角成と、手損でも角交換してしまうのが近藤流・新ゴキゲン中飛車。
  • 以下△2二同銀に、当初は
    (1)▲6八銀△5三銀▲7七銀△6四銀と進めていた。手順中の▲6八銀や▲7七銀に代えて▲5五歩は、△同歩▲同飛に△4四角の反撃があって失敗する。
  • 後にこの手順は改良され、上記の△5三銀~△6四銀を見越して
    (2)▲7八銀と上がり、以下△5三銀▲3八玉△6四銀なら▲6六歩と突く手(「歩越し銀には歩で対抗」の格言)が指されている。
 ちなみに▲3八玉△3二玉の交換を入れてから▲2二角成とするのは、居飛車に△2二同玉と取る手が生じる。

【▲3八玉】

 角交換せず玉を寄り、△3二玉▲2八玉△8四歩に▲7七角が、阪口流・ワンパク中飛車。
  • ▲7七角に対して、
    (1)△7七同角成▲同桂△8五歩には▲7八金と上がっておく。以下、△8六歩▲同歩△同飛▲8七歩△8二飛▲3八銀△4二銀▲5五歩△同歩▲同飛△6四歩▲5九飛が一例(2007年10月銀河戦▲佐藤和俊△藤原直哉)。あとは▲5九飛と引き、▲6六歩~▲6八銀~▲6七銀~▲8九飛から8筋逆襲を狙う。
  • (2)△8五歩や、
  • (3)△5二金右には▲6八銀と上がり、以降の△7七角成は▲同銀と取れる。以下、このワンパク中飛車は角道を開けたままで駒組みが出来るため、居飛穴に対しても先攻を狙えるのが利点だ。

対抗形

対抗形

△5二飛

▲5六歩△3四歩▲5八飛△5四歩▲7六歩△5二飛

 相中飛車で対抗。角がにらみ合っているため、双方共に、すぐには左銀を活用する▲6八銀・△4二銀が指せない。

相振り飛車、対抗形

相振り飛車 対抗形

▲4八玉

△6二銀

▲5六歩△3四歩▲5八飛△5四歩▲4八玉△6二銀

 先に玉を上がっても、次に▲7六歩と突けばあまり変わりのない進行である。

対抗形

対抗形

△5二飛

▲5六歩△3四歩▲5八飛△5四歩▲4八玉△5二飛

 相中飛車。先手の角道が開いていないため、お互いの左銀が動きやすくなっている。

相振り飛車、対抗形

相振り飛車 対抗形

▲9六歩

△6二銀

▲5六歩△3四歩▲5八飛△5四歩▲9六歩△6二銀

 ▲5六歩△3四歩▲9六歩△6二銀▲5八飛△5四歩と同じ局面。
対抗形

△5二飛

▲5六歩△3四歩▲5八飛△5四歩▲9六歩△5二飛

 ▲5六歩△3四歩▲9六歩△5四歩▲5八飛△5二飛と同じ局面。
対抗形
▲5六歩△3四歩▲5八飛△8四歩

△8四歩

 飛車先を突く。▲5五歩△8五歩となれば、居飛車は5筋の位を取らせても飛車先交換ができそうに見えて、そうでもない。

▲5五歩

△8五歩

▲5六歩△3四歩▲5八飛△8四歩▲5五歩△8五歩

▲5六歩△3四歩▲5八飛△8四歩▲5五歩△8五歩
 先手からは▲5四歩△同歩▲同飛、後手からは△8六歩▲同歩△同飛が見えている。
 先手の候補手は▲7六歩、▲7八金、▲5四歩。▲7六歩が最も多い。

【▲7六歩】

 後手は△6二銀か△8六歩かだが、
  • (1)△6二銀が多い。これは▲7七角と上がって、5筋位取り中飛車に組める。
  • (2)△8六歩は居飛車が良くならないとされ、あまり指されない。△8六歩▲同歩△同飛▲5四歩△同歩に、▲5四同飛と、▲2二角成△同銀▲7七角に分かれる。
    • (a)▲5四同飛は、王手なので△5二金右と受けるが、▲7八金と上がって飛車成りを受けておく。
      • (ア)△8八角成▲同銀△4五角と打つのは、▲5八飛△2七角成▲6六角で香取りが受けにくい。
      • (イ)△6二銀▲8七歩△8二飛▲4八玉△4二玉▲3四飛も先手が指しやすい。
    • (b)▲2二角成△同銀▲7七角と決戦する手もある。以下、△8九飛成▲2二角成△5五桂▲4八玉△9九竜に、
      • (ア)▲5六銀△4四香▲2一馬△9二角▲3八銀や、
      • (イ)▲2一馬△5二金右▲3八玉が一例。ゴキゲン中飛車の▲5八金右急戦の変化をなぞったものだが、金上がり(△5二金右)が入っていない分、居飛車が悪いと考えられている。

【▲7八金】

 ▲7八金は、△8六歩▲同歩△同飛と交換させる指し方。
 後手は△8六歩と誘われたとおりに行くか、△6二銀と自重するか。
  • (1)△8六歩▲同歩△同飛には、
    • (a)▲8七歩と打つのが普通で、△8四飛か△8二飛と飛車を引いて一局。
    • (b)▲5四歩と角損覚悟で突っ込む手もある。
      • (ア)△8七歩には▲5三歩成△8八歩成▲4三と△6二玉▲8八銀△6五角が一例。以下、▲5四歩と垂らしてと金を使って攻める。
      • (イ)△5四同歩▲同飛△5二金右▲7六歩なら、【▲7六歩】-(2)-(a)-(ア)の変化に合流する。
  • (2)△6二銀と自重した場合、▲7六歩△4二玉▲7七角のように進むと、【▲7六歩】-(1)-(b)の進行に比べて▲7八金は形を決めてしまった手になる。

【▲5四歩】

 乱戦狙い。以下△同歩▲同飛△5二金右▲7八金。最後の▲7八金を怠り▲3四飛だと、△8六歩▲同歩△8七歩で先手必敗。

【▲5六飛】

 浮き飛車で△8六歩を受ける。▲7六歩でも悪くないので、やや妥協といえる。以降はひねり飛車っぽく指すか、端角中飛車が考えられる。

対抗形

対抗形

△6二銀

▲5六歩△3四歩▲5八飛△8四歩▲5五歩△6二銀

 以下▲7六歩△4二玉▲7七角で5筋位取り中飛車の実戦例が多い。

対抗形

対抗形

▲7六歩

▲5六歩△3四歩▲5八飛△8四歩▲7六歩

 ▲7六歩△8四歩▲5六歩△3四歩▲5八飛と同じ局面。
対抗形

▲9六歩

▲5六歩△3四歩▲5八飛△8四歩▲9六歩

 ▲5六歩△3四歩▲9六歩△8四歩▲5八飛と同じ局面。
対抗形
▲5六歩△3四歩▲5八飛△6二銀

△6二銀

 △6二銀は位を取らせて指す手。

▲5五歩

△4二玉

▲5六歩△3四歩▲5八飛△6二銀▲5五歩△4二玉

 すぐ5筋の位を取ってしまう手。後手の気が変わって△5四歩と突き返されたとき後悔する人向け。

対抗形

対抗形

▲7六歩

△4二玉

▲5六歩△3四歩▲5八飛△6二銀▲7六歩△4二玉

 △5四歩と突かれたから悪くなるわけでもないと考え、別の手を指す順。

対抗形

対抗形

△5四歩

▲5六歩△3四歩▲5八飛△6二銀▲7六歩△5四歩

 ▲5六歩△3四歩▲5八飛△5四歩▲7六歩△6二銀と同じ局面。
対抗形

▲9六歩

△5四歩

▲5六歩△3四歩▲5八飛△6二銀▲9六歩△5四歩

 ▲5六歩△3四歩▲9六歩△6二銀▲5八飛△5四歩と同じ局面。
対抗形

△4二玉

▲5六歩△3四歩▲5八飛△6二銀▲9六歩△4二玉

 ▲5六歩△3四歩▲9六歩△6二銀▲5八飛△4二玉と同じ局面。
対抗形
▲5六歩△3四歩▲5八飛△3二飛

△3二飛

 初手▲5六歩の中飛車に対しては、居飛車党でも相振りを挑む将棋が増えている。居飛車で戦うよりは三間飛車で戦った方が主導権を取りやすいと考えである。

▲7六歩

△4二銀(△5二金左)

▲5六歩△3四歩▲5八飛△3二飛▲7六歩△4二銀(△5二金左)

 ▲7六歩と突いた局面、角交換はしたほうが手損。角道を止めるか、角を動かさないと先手は左銀を活用できないのがネック。
 実戦例としては▲5五歩△3五歩とする将棋が多く、そこから相振り飛車に進むのか、先手が中飛車左穴熊にするかというところ。

相振り飛車

相振り飛車

▲5五歩

△4二銀(△5二金左)

▲5六歩△3四歩▲5八飛△3二飛▲5五歩△4二銀(△5二金左)

 飛車先を伸ばす順。先手があくまでも中飛車で戦う将棋になる。

相振り飛車

相振り飛車

▲6八銀

△6二玉

▲5六歩△3四歩▲5八飛△3二飛▲6八銀△6二玉

 中飛車にこだわらない順。
 このあとはまず▲5七銀型を作って5六の歩を支え、飛車の動きを楽にしておく。以降はタイミングを見計らって▲7六歩と突き、角交換を挑む。もし後手から角交換してくれば、▲8八同飛と取れる仕組みだ。

相振り飛車

相振り飛車
▲5六歩△3四歩▲5八飛△3三角

△3三角

 後手が向かい飛車を目指す手。

▲5五歩

△2二飛

▲5六歩△3四歩▲5八飛△3三角▲5五歩△2二飛

 △3三角から相振り飛車を目指す。
 先手が▲5四歩と突っかければ、△同歩▲同飛△5二飛▲同飛成△同金右。後手はこの変化に来られることを覚悟しなければ△3三角とは上がれない。

相振り飛車

相振り飛車

▲7六歩

△4四歩

▲5六歩△3四歩▲5八飛△3三角▲7六歩△4四歩

 5手目の実戦例は、▲5五歩より▲7六歩のほうが多い。後手が角道を止めて穏便な駒組みになる。

相振り飛車、対抗形

相振り飛車 対抗形

△2二飛

▲5六歩△3四歩▲5八飛△3三角▲7六歩△2二飛

 ▲3三角成△同桂▲6五角があり、△5四角▲同角△同歩▲5五歩△同歩▲6五角△5六角▲4三角成△4二銀▲4四馬△6七角成が一例。

相振り飛車

相振り飛車

b. ▲5六歩△3四歩▲その他

 ▲5六歩△3四歩の出だしから3手目を▲5八飛以外となると、▲7六歩の他、▲9六歩から端角中飛車を目指す手が考えられる。

(KIFファイルのダウンロード)

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

▲7六歩

▲5六歩△3四歩▲7六歩

 ▲7六歩△3四歩▲5六歩と同じ局面。

▲9六歩

△8四歩

▲5八飛

△8五歩

▲5六歩△3四歩▲9六歩△8四歩▲5八飛△8五歩

▲5六歩△3四歩▲9六歩△8四歩▲5八飛△8五歩▲9七角△6二銀▲5五歩
 ▲5六歩・▲9六歩・▲5八飛の中飛車に▲9七角を組み合わせるのが、中央一点狙いの端角中飛車だ。▲5五歩~▲5四歩と攻めるのが基本の筋で、後手は駒組みを間違うと受けが利かなくなる場合がある。
 端角中飛車の場合、△8五歩と飛車先を伸ばされたときは
  • (1)▲9七角で受ける。これは▲5三角成の先手なので△6二銀と上がって受けると、▲5五歩と突いて左図だ。
    • この局面、
      (a)△4二玉と上がる手は普通に見えて、実は大悪手。すかさず▲5四歩と突かれてしまう。次は▲5三歩成があるが、9七の角が4二の玉を睨んでいるため、後手はこの歩を取れないのだ。△5二金右と駒を足すくらいだが、後手が5四歩を取れない関係は続いているので、先手は▲4八玉から玉を囲い、▲5三歩成を決行するタイミングを見計らえばよい。例えば△3二玉なら▲5三歩成△同銀▲同角成△同金▲同飛成で二枚換えだ。
    • △4二玉と上がれないとなると、
      (b)△4二銀や、
    • (c)△4二金直とすることになるが、駒組みに制約を強いられた面は否めない。先手は▲6八銀~▲5七銀~▲5六銀や、▲5六飛と軽く構える順を狙う。
    • (d)△9四歩と角頭を狙ってくる手に対しては▲5六飛と浮けば受かる。
  • (2)▲7六歩と突くと、▲9六歩を突いたゴキゲン中飛車になる。ただ、わかりやすく玉が広くなる▲1六歩と違って、▲9六歩を生かすのは難しい。とはいえ、この6手だけで先手を端角中飛車と決めつけるのはやや早計といえる。

対抗形

対抗形

△6二銀

▲5六歩△3四歩▲9六歩△8四歩▲5八飛△6二銀

 前述の1997年7月王位戦第1局▲深浦△羽生戦の進行。以下、▲5五歩△5二金右▲9七角に、羽生は△4二銀と中央に厚く構えて戦った。

対抗形

対抗形

△6二銀

▲5八飛

△5四歩

▲5六歩△3四歩▲9六歩△6二銀▲5八飛△5四歩

▲5六歩△3四歩▲9六歩△6二銀▲5八飛△5四歩
 △5四歩は、後手が5筋を受ける順。先手は銀の応援がないと5筋の歩を交換できなくなる。
  • (1)▲9七角は、端角中飛車を明示した手。
    • 後手が△4二玉と上がるには角筋を止めなければならないが、
      (a)△5二金右▲6八銀△5三銀▲5七銀に、
      • (ア)△4二玉には▲4六銀△3二玉に▲5五歩や▲4五銀がある。
      • (イ)△6四銀なら▲6六銀で、△4二玉には▲5五歩△同歩▲同銀と攻める手が残る。
      • (ウ)△4四銀▲6六銀なら▲5五歩はないが、また角筋が通るので△4二玉とは上がれなくなる。
    • 5筋の突き合いで▲5六飛と浮く手がないことに目をつけ、
      (b)△9四歩と突いて角頭を狙う筋がある。
      • ▲4八玉にはすぐ
        (ア)△9五歩と突く狙いだが、これは先手の想定範囲で▲9五同歩と取る。△同香と取った手が角取りで、▲8六角には△9九香成、▲8八角には△9八歩があるので後手駒得…と思いきや、▲3一角成と角を切る手があり、△同金▲9五香となった局面は角と銀香の二枚換え、先手駒得だ。
      • これは先手の思う壺なので、
        (イ)△3二銀とかわして角を切る筋をなくす。ところが今度は▲9八香という手がある。△9五歩▲同歩△同香に▲8六角と切り返すのが狙いで、角と香の2枚で香取りがかかっているため△9八香成しかないが、これを▲同飛と取れるのが▲9八香の効果。しかも飛車成りの先手なので△9三歩と受けるしかなく、歩と香を手持ちにした先手が得をするやり取りになる。
      • あくまでも端から仕掛けるなら、後手は▲8六角を消す必要がある。そこで、
        (ウ)△8四歩~△8五歩と伸ばすことになる。先手はそれまでの間に暴れるか、▲7五角や▲8八角から▲7八金と端角を諦めるかだ。
  • (2)▲6八銀なら△4二玉と上がれる。以下▲5七銀に、
    • (a)△3二玉と寄ると、▲4六銀と出られて次に▲5五歩だけでなく▲4五銀もあり、気になる局面である。
    • 5筋交換に対応するならば
      (b)△5三銀のほうが手堅く、
      • (ア)▲4六銀には△4四銀▲9七角△3二玉とすんなり囲える。
      • しかし、先に
        (イ)▲9七角だと△6四銀▲4六銀で、5筋交換は防げても▲4五銀は残るため、3四の歩は取らせることを視野に入れて指すことになる。
 (1)-(a)や(2)は、先手は隙あらば仕掛けを狙う順をメインにしている。
 だが、仮に仕掛けても居玉では反動も強く、▲4八玉~▲3八玉を入れながら戦うのが現実的である。

対抗形

対抗形

△4二玉

▲5六歩△3四歩▲9六歩△6二銀▲5八飛△4二玉

 ▲9七角~▲5四歩を見せられてからでは、△4二玉と上がるタイミングが難しくなる。後手は4手目に△6二銀と上がっておき、▲5八飛を見たらすぐ△4二玉とするのが駒組みするには穏便な順。
 以下▲5五歩△3二玉▲9七角△5二金右で、
  • (1)▲5四歩△同歩▲同飛は3四の歩取りになっているが、これは△4四歩と突いて受かる。以下、▲5六飛と引いて一局だ。
  • (2)▲4八玉から駒組みする手もある。

対抗形

対抗形

△5四歩

▲5八飛

△5二飛

▲5六歩△3四歩▲9六歩△5四歩▲5八飛△5二飛

 先手に5筋の位を取らせず、歩交換もさせない順としては、後手も△5四歩から△5二飛と中飛車に振る手がある。
 数を足しに行く▲6八銀には、
  • (1)△4二銀と上がり、以下▲5七銀△5三銀▲6六銀△4四銀のような要領で駒を足す。ただ、先手に追従する指し方になるので、あまり積極的とはいえない。
  • (2)△6二銀と逆の銀を上がり、▲5七銀△5三銀▲6六銀△6四銀とする順も考えられる。この場合は玉を左側(1筋側)へ囲うほうが良さそうだ。

相振り飛車、対抗形

相振り飛車 対抗形

c. ▲5六歩△8四歩

▲5六歩△8四歩
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 △8四歩は飛車先を突いて応じる手。

 ▲5六歩△3四歩のときと同じように▲5八飛と飛車を振ると、△8五歩と突かれて後手に飛車先交換の権利が生じる。
 しかし、3手目に▲7六歩と突けば、▲7六歩△8四歩▲5六歩と同形だ。中飛車が流行した2000年代以降、この出だしは先手の勝率が良いので、▲5六歩△8四歩の出だしでは、先手のプロはほぼ▲7六歩と応じる。

 したがって、2手目△8四歩に対する3手目▲5八飛、▲5五歩、▲9六歩は、今のところアマしか指さないと考えても差し支えない。

2手目

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

△8四歩

▲7六歩

▲5六歩△8四歩▲7六歩

 ▲7六歩△8四歩▲5六歩と同じ局面。

▲9六歩

△8五歩

▲9七角

△6二銀

▲5六歩△8四歩▲9六歩△8五歩▲9七角△6二銀

▲5六歩△8四歩▲9六歩△8五歩▲9七角△6二銀▲5八飛
 2手目△8四歩に対しても端角中飛車は目指せる。先手は▲5八飛(図)と飛車を振る。
  • (1)△3四歩は▲5五歩と突かれ、▲5六歩△3四歩▲9六歩△8四歩▲5八飛△8五歩から▲9七角△6二銀▲5五歩と進んだのと同じ局面になり、後手は△4二玉と上がりづらくなる。
  • 玉を囲うならば、
    (2)△4二玉が手堅い。以下▲5五歩△3二玉で、
    • (a)▲5四歩△同歩▲同飛が来ても、△4二銀や△5二金右としておいて問題ない。
    • 先手は位を維持したまま、
      (b)▲4八玉から駒組みするほうが優る。
  • (3)△9四歩で角頭を狙う手もある。
    • (a)▲5五歩は、角を攻められる前に攻めてしまおうという手。△9五歩には▲5四歩と突っ込む。
      • (ア)△同歩には▲9五歩と手を戻し、△同香なら▲3一角成△同角▲9五香の二枚換えがある。△9六歩なら▲5四飛△5二金右▲7五角で一局。
      • (イ)△9六歩と後手も突っ込む手もあり、▲5三角成△同銀▲同歩成なら△5二歩▲5四とに△6五角がある。▲7五角とかわせば△5四歩と手を戻し、▲同飛には△5二金右でも、二歩持っているので△5三歩と受けてもよい。
    • (b)▲9八香とひとつ上がる受けがある。面白い変化だが、正確に指されるとうまくいかない。
      • (ア)△9五歩▲同歩△同香には、▲7五角!と出て香取りをかけ返す。
        • △9八香成は▲同飛と取れる。△9三歩などと受けてくれれば、▲8四香と打って飛車が取れる。
        • △9六歩と打てば▲9四歩と垂らして、後手の飛車の動きを抑えて一局。
      • この筋を踏まえると、あくまで角頭を狙うならまず▲7五角の筋を消す必要があるというわけで、
        (イ)△9五歩▲同歩に、△7四歩が細かい手順。放置すると△9五香が見え見えなので▲8八角と引くが、△8六歩▲同歩△同飛と飛車先を交換し、▲7八金に△8七歩▲9九角としてから△9五香と走る。これが厳しく、▲同香は△9八歩で角が殺され、▲9七歩も△同香成▲同桂△9六歩で収拾がつかない。

対抗形

対抗形

▲7八金

△8六歩

▲5六歩△8四歩▲9六歩△8五歩▲7八金△8六歩

 角頭を攻められる筋に自信がなければ、飛車先を伸ばしてきた時点で▲7八金が無難。
 △8六歩▲同歩△同飛には▲5八飛と回る。▲9六歩の効果で、
  • (1)△8七歩には▲9七角と逃げられる。
  • したがって、
    (2)△8二飛(△8四飛)と飛車を引く手に、▲8七歩と打ってまだまだ一局だ。

対抗形

対抗形

▲5八飛

△8五歩

▲7八金

△8六歩

▲5六歩△8四歩▲5八飛△8五歩▲7八金△8六歩

 4手目△8五歩の時点で、先手は後手の飛車先交換を防げない。以下、▲8六同歩△同飛▲8七歩△8四飛が一例。

対抗形

対抗形

▲9六歩

△8六歩

▲5六歩△8四歩▲5八飛△8五歩▲9六歩△8六歩

 以下▲8六同歩△同飛に▲7八金と上がり、後手が飛車を引いたら▲8七歩を打つ要領で進める。

対抗形

対抗形

△3四歩

▲5六歩△8四歩▲5八飛△3四歩

 ▲5六歩△3四歩▲5八飛△8四歩と同じ局面。
対抗形

▲5五歩

△8五歩

▲5八飛

△8六歩

▲5六歩△8四歩▲5五歩△8五歩▲5八飛△8六歩

 中飛車にこだわりすぎた失敗例。以下▲8六同歩△同飛で、▲7八金なら△8七歩、▲9六歩なら△8七飛成がある。暴れるなら▲5四歩だが、△同歩▲同飛△5二金右で、△8七歩か△8七飛成が受からない状況に変わりはない。

対抗形

対抗形

▲7八金

△8六歩

▲5六歩△8四歩▲5五歩△8五歩▲7八金△8六歩

 上の変化ではダメなので▲7八金に代えるが、以下▲8六同歩△同飛から
  • (1)▲8七歩に、
    • (a)△8四飛などただ飛車を引く手の他に、
    • (b)△5六飛という手が生じる。以下は▲5八飛とぶつけて△同飛成▲同金だが、手得でも先手陣はまとめづらい。
  • (2)▲7六歩△同飛▲5八飛と一歩損して収める非常手段もあるが、好んで指すような作戦ではない。

対抗形

対抗形

△3四歩

▲7六歩

▲5六歩△8四歩▲5五歩△3四歩▲7六歩

 ▲7六歩△8四歩▲5六歩△3四歩▲5五歩と同じ局面。
対抗形

▲5八飛

▲5六歩△8四歩▲5五歩△3四歩▲5八飛

 ▲5六歩△3四歩▲5八飛△8四歩▲5五歩と同じ局面。
対抗形
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5-2. 初手▲3六歩

初手▲3六歩
(KIFファイルのダウンロード)

 飛車の小ビンを突く手。
 狙いは▲3八飛の袖飛車で、後手の対応は三間飛車・相掛かり・何もしない、の3つに分かれる。

 プロ棋士では先崎学、女流では林葉直子の、米長邦雄門下で同時に内弟子をしていた2人が使い手として有名。他には2006年3月放映のNHK杯決勝で渡辺明が指している。
 ただ、プロ公式戦では結果が伴っておらず、初手▲3六歩を指して先手が勝った将棋は、2003年2月のNHK杯▲先崎△谷川浩司のみである。1991年の銀河戦▲林葉直子△椎橋金治で林葉が初手▲3六歩を敢行、勝利を収めているのだが、当時の銀河戦は非公式戦であった。

初手

2手目

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

▲3六歩

△3四歩

▲3八飛

▲3六歩△3四歩▲3八飛△3二飛

△3二飛

▲3六歩△3四歩▲3八飛△3二飛

 ▲3五歩からの歩交換を避け、後手がじっくり指す指し方。
 ここからは囲い合いになる。乱戦の注文に乗らないという意味では正しい。

対抗形(後手三間飛車)

対抗形
▲3六歩△3四歩▲3八飛△8四歩

△8四歩

▲7八金

△8五歩

▲3六歩△3四歩▲3八飛△8四歩▲7八金△8五歩

 以下▲3五歩△同歩▲同飛と行けば、勢いは△8六歩▲同歩△同飛。乱戦になる。

居飛車力戦

居飛車力戦

▲7六歩

△8五歩

▲3六歩△3四歩▲3八飛△8四歩▲7六歩△8五歩

 ▲3五歩△同歩▲同飛なら△8六歩▲同歩△同飛▲7八金が予想される手順。
 ▲7八金なら△8六歩▲同歩△同飛と先に交換され、そこで▲3五歩と行けば同じ局面になるが、何か違う手があるかどうか。

居飛車力戦

居飛車力戦

△4二銀

▲3五歩

△同歩

▲3六歩△3四歩▲3八飛△4二銀▲3五歩△同歩

 ▲渡辺明△丸山忠久(2006年3月放映・NHK杯決勝)の出だし。
 以下▲3五同飛に△4四歩~△5二金右~△4三金~△3三銀と、じっくり矢倉に組んで指した。「後手の一手損角換わりを避ける」意味で指したと、渡辺本人がブログで語っている。結果は丸山勝ち。

矢倉、対抗形

矢倉・雁木 対抗形

▲7六歩

▲3六歩△3四歩▲7六歩△8四歩

△8四歩

▲3八飛

△8五歩

▲3六歩△3四歩▲7六歩△8四歩▲3八飛△8五歩

 ▲3六歩△3四歩▲3八飛△8四歩▲7六歩△8五歩と同じ局面。

居飛車力戦

居飛車力戦

▲4八銀

△8五歩

▲3六歩△3四歩▲7六歩△8四歩▲4八銀△8五歩

 出だしの3手は▲7六歩△3四歩▲3六歩だったが、▲先崎△野月浩貴(2013年6月・B2順位戦)で出現した順。以下▲3七銀△3二金▲7八金△8六歩▲同歩△同飛▲8七歩△8五飛と進行した。結果は先手勝ち。

居飛車力戦

居飛車力戦

△4四歩

▲4八銀

△4二銀

▲3六歩△3四歩▲7六歩△4四歩▲4八銀△4二銀

 前述した▲先崎△谷川(NHK杯・2003年2月)の手順。後手は四間飛車に振り、先手は居飛穴を狙う将棋になった。
 個人的な実戦では、ここから先手が▲3七銀~▲7七角~▲8八飛と飛車を振って相振りに進んだケースがあった。

対抗形、相振り飛車、矢倉

対抗形 相振り飛車 矢倉・雁木

△3二飛

▲3六歩△3四歩▲7六歩△3二飛

 ここでも△3二飛と振る手はある。▲2二角成△同銀から▲6五角と打つ筋が見えるが、後手には△7四角と打ち返す手や、▲3六歩を突いているせいで△5五角の筋もある。

対抗形、相振り飛車

対抗形 相振り飛車

△8四歩

▲3五歩

▲3六歩△8四歩▲3五歩△8五歩

△8五歩

▲7八金

△8六歩

▲3六歩△8四歩▲3五歩△8五歩▲7八金△8六歩

 2手目△8四歩と指されると、先手は▲3五歩と伸ばし、後手の角道を押さえて指したくなる。そして、そう指されると後手も△8五歩くらいしかない。
 ▲7八金と上がり、△8六歩▲同歩△同飛までは自然なところ。▲8七歩に、後手は△8四飛と引きひねり飛車のように戦うか、△8二飛と引いて相掛かり風にするか。
 前者の例は▲先崎△羽生善治(2004年1月放映・NHK杯)で、△8四飛以下▲3八飛△1四歩▲7六歩△7四飛▲3六飛△6二玉。後者の例は▲林葉△清水市代(1993年4月・女流王将戦)で、△8二飛以下▲3八飛△3二金▲3六飛△7二銀▲9六歩△4二銀。どちらにせよ、先手は▲3八飛と寄って3五を押さえたまま、後手の角の活用を阻止して戦うのが基本。

居飛車力戦

居飛車力戦

▲7六歩

△8五歩

▲7七角

△3四歩

▲3六歩△8四歩▲7六歩△8五歩▲7七角△3四歩

 ▲7六歩と突き、△8五歩に▲7七角で飛車先を受ける手もある。以下△3四歩に▲8八銀△7七角成▲同銀なら角換わり、▲6六歩なら矢倉や雁木、振り飛車にもできる。

角換わり、矢倉・雁木、対抗形

角換わり 矢倉・雁木 対抗形

△3四歩

▲3六歩△8四歩▲7六歩△3四歩

 ▲3六歩△3四歩▲7六歩△8四歩と同じ局面。
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5-3. 初手▲4八銀

初手▲4八銀
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 後手が振り飛車党だとわかっているときの手。

 この手に対して△8四歩と突かれると、先手は後手の飛車先交換を防ぎづらい。したがって、後手に対し「居飛車を指してみろ」という挑発の意味で使う。

 英春流はあくまで3手目▲4八銀らしく、初手▲4八銀と指した棋譜は見受けられなかった。せっかく先手でやるなら、角道が開いていたほうが都合がいいということだろうか。わざと横歩を取らせたりとか。

初手

2手目

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

▲4八銀

△3四歩

▲7六歩

▲4八銀△3四歩▲7六歩

 ▲7六歩△3四歩▲4八銀と同じ局面。

▲5六歩

△5四歩

▲5七銀

△4二銀

▲4八銀△3四歩▲5六歩△5四歩▲5七銀△4二銀

 中央に厚みを作りあげていく指し方を狙う。戦型は後手次第というところ。

居飛車力戦、矢倉、対抗形

居飛車力戦 矢倉・雁木 対抗形

△5二飛

▲4八銀△3四歩▲5六歩△5四歩▲5七銀△5二飛

 中飛車で対抗。先手はとにかく金銀を中央へ集めていくところ。

対抗形

対抗形

▲7六歩

△6二銀

▲4八銀△3四歩▲5六歩△5四歩▲7六歩△6二銀

 後手が居飛車で対抗する順。以下▲2六歩△8四歩・・・というのが、大昔相掛かりで双方5筋を突いていた将棋で何局か見かけられる。

居飛車力戦、相掛かり

居飛車力戦 相掛かり

△5二飛

▲4八銀△3四歩▲5六歩△5四歩▲7六歩△5二飛

 後手のゴキゲン中飛車風。

対抗形

対抗形

△8四歩

▲5七銀

△8五歩

▲4八銀△3四歩▲5六歩△8四歩▲5七銀△8五歩

 ▲7六歩と突けば英春流19手定跡の局面。▲7八金と上がって、8筋は交換させて指すのもある。

居飛車力戦

居飛車力戦

▲4六歩

△4四歩

▲4七銀

▲4八銀△3四歩▲4六歩△4四歩▲4七銀

 △4四歩を突けば、後手が矢倉だろうが振り飛車だろうが右四間飛車を狙っていく。

矢倉、対抗形

矢倉・雁木 対抗形

△8四歩

▲4七銀

△8五歩

▲4八銀△3四歩▲4六歩△8四歩▲4七銀△8五歩

 ▲5六歩に△8四歩の時と同様、以下▲7八金と上がって指す。

居飛車力戦

居飛車力戦

△5四歩

▲7六歩

△5二飛

▲4八銀△3四歩▲4六歩△5四歩▲7六歩△5二飛

 後手の中飛車。5筋は位を取らせて指す。

対抗形

対抗形

△8四歩

▲2六歩

△8五歩

▲7八金

△8六歩

▲4八銀△8四歩▲2六歩△8五歩▲7八金△8六歩

 1991年11月のNHK杯▲先崎学△小林健二の展開。以下▲8六同歩△同飛▲8七歩△8四飛から後手のひねり飛車になった。(元は居飛車党だが)コバケンがスーパー四間飛車で一世を風靡していた頃に相掛かりを指させたのだから、挑発としては成功したといえる。

相掛かり

相掛かり

▲7六歩

△8五歩

▲7七角

△3四歩

▲4八銀△8四歩▲7六歩△8五歩▲7七角△3四歩

 ▲8八銀と上がって角換わり模様。後手が受けるか、矢倉に変化するか。

角換わり、矢倉

角換わり 矢倉・雁木

△3四歩

▲4八銀△8四歩▲7六歩△3四歩

 ▲7六歩△3四歩▲4八銀△8四歩と同じ局面。
 4手目は「△8五歩と突いて普通の角換わり・矢倉になってしまうのと、△3四歩で英春流があるのと、どちらがいいか」という選択である。

▲7八金

△8五歩

▲6九玉(▲9六歩)

△3二金

▲4八銀△8四歩▲7八金△8五歩▲6九玉(▲9六歩)△3二金

 後手に飛車先を交換させる指し方。後手はすぐに交換するよりはそこからどういう形を目指すかを考えた方が良さそう。

居飛車力戦

居飛車力戦
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5-4. 初手▲7八金

初手▲7八金
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 ▲7六歩△3四歩▲7八金同様、この手を指すと、後手が飛車を振った場合に先手は舟囲いに出来ない。したがって、居飛車党だとわかっている後手に対し「振り飛車を指してみろ」という挑発の意味で使う。

 挑発に乗らず居飛車で来られた際、▲7八金はよくある手の一つに変わる。
 そこで、「挑発に乗らないのでは仕方ない」と▲2六歩や▲7六歩で普通の角換わり・矢倉・相掛かりに戻してしまうか、それとも力戦の将棋にしてしまうか。

 初手▲4八銀は、挑発に乗らず後手が振り飛車を指しても、先手が飛車先不突を生かした作戦(右四間飛車、袖飛車、かまいたち)を採用する余地がある。
 しかし初手▲7八金は、後手が居飛車を指した際には逆に自分が飛車を振るくらいしか特別な作戦がない。しかも▲7八金を決めているので作戦は狭くなる。

初手

2手目

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

▲7八金

△3四歩

▲7六歩

▲7八金△3四歩▲7六歩

 ▲7六歩△3四歩▲7八金と同じ局面。

▲2六歩

△4二飛(△3二飛)

▲7八金△3四歩▲2六歩△4二飛(△3二飛)

 飛車を振ってくれるのであれば、目的は達成したと見たい。

対抗形

対抗形

△4二銀

▲7六歩

△3三銀

▲7八金△3四歩▲2六歩△4二銀▲7六歩△3三銀

 ▲7八金の一手で先後逆になった矢倉の出だしと考えればよい。その手を生かすため、先手から急戦をする手がある。

矢倉、対抗形

矢倉・雁木 対抗形

△4四歩

▲7八金△3四歩▲2六歩△4二銀▲7六歩△4四歩

 矢倉の出だし。4五が争点になるのでこの場合の急戦は右四間飛車。4手目を△4四歩で、▲7六歩△4二銀でも同じ局面を迎える。

矢倉、対抗形

矢倉・雁木 対抗形

△8四歩

▲7六歩

▲7八金△3四歩▲2六歩△8四歩▲7六歩

 ▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩▲7八金と同じ局面。

▲2五歩

▲7八金△3四歩▲2六歩△8四歩▲2五歩

 ▲2六歩△8四歩▲2五歩△3四歩▲7八金と同じ局面。

△8四歩

▲2六歩

△8五歩

▲2五歩

△3二金

▲7八金△8四歩▲2六歩△8五歩▲2五歩△3二金

 ▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲7八金△3二金と同じ局面。

▲7六歩

▲7八金△8四歩▲7六歩

 ▲7六歩△8四歩▲7八金と同じ局面。

▲4八銀

▲7八金△8四歩▲4八銀

 ▲4八銀△8四歩▲7八金と同じ局面。
 3手目は他に▲9六歩や▲6九玉があるが、順序で片付けられるレベルの違いであり、後手に8筋の歩を交換させて指すという点は同じである。
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5-5. 初手▲1六歩

初手▲1六歩
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 初手に飛車側の端を突く手。

 藤井システムやゴキゲン中飛車が登場してから、▲7六歩△3四歩▲6六歩△8四歩▲1六歩や、▲7六歩△3四歩▲1六歩のように、飛車を振る前に端を打診する順が増加した。
 後手が受ければ居飛車穴熊に組みづらく、受けなければ突き越す。突き越さないでおいても、▲1六歩は美濃囲いに組めば生きてくる。つまり、始めから飛車を振るつもりならば初手▲1六歩で破綻することはない。振り飛車党には受け入れられている手である。
 ただし、△1四歩と受けられて相振りにされてしまうと、後手の端攻めの権利になってしまい▲1六歩が損に働く。したがって、後手が居飛車党だとわかっているときに指すのが効果的だ。

 大舞台での初手▲1六歩は、2001年9月の王座戦第2局▲久保利明△羽生善治、2002年3月朝日OP選手権決勝第1局▲杉本昌隆△堀口一史座がある。前者は負けて番勝負も敗退、後者は勝ったものの番勝負は敗退した。

初手

2手目

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

▲1六歩

△3四歩

▲1五歩

△8四歩

▲1八飛

△8五歩

▲1六歩△3四歩▲1五歩△8四歩▲1八飛△8五歩

 以下▲1六飛と浮き、ひねり飛車風の駒組みで石田流を目指す。俗に『一間飛車』と呼ばれる戦法。

ひねり飛車

対抗形

▲7六歩

▲1六歩△3四歩▲7六歩

 ▲7六歩△3四歩▲1六歩と同じ局面。
 初手▲1六歩は、藤井システムやゴキゲン中飛車の出だしで3手目▲1六歩が多用されるようになったため、振り飛車党には受け入れられ、よく指されている。

▲2六歩

△8四歩

▲1六歩△3四歩▲2六歩△8四歩

▲1六歩△3四歩▲2六歩△8四歩
 角換わりの出だし(▲7六歩△8四歩▲2六歩)に△9四歩を入れて、そこで後手がもう一手指せる局面と考えることが出来る。
 したがって5手目の選択肢は、▲7六歩△8四歩▲2六歩の4手目に準じて、▲7六歩、▲7八金、▲2五歩が多い。

戦型未確定

戦型未確定

△4二銀

▲1六歩△3四歩▲2六歩△4二銀

▲1六歩△3四歩▲2六歩△4二銀
 矢倉の出だし(▲7六歩△8四歩▲6八銀)に△9四歩を入れて、そこで後手がもう一手指せる局面だと考えることが出来る。
 したがって5手目の選択肢は▲7六歩△8四歩▲6八銀の4手目に準じ、▲7六歩、▲2五歩が多い。

戦型未確定

戦型未確定

△5四歩

▲1六歩△3四歩▲2六歩△5四歩

▲1六歩△3四歩▲2六歩△5四歩
 ▲7六歩△8四歩▲5六歩に△9四歩を入れて、そこで後手がもう一手指せる局面だと考えることが出来る。
 したがって5手目の選択肢は▲7六歩△8四歩▲5六歩の4手目に準じ、▲7六歩、▲2五歩、▲5六歩が多い。このまま後手中飛車、先手居飛車ならば▲1六歩はボケた感じになる。

戦型未確定

戦型未確定

△8四歩

▲7六歩

△3四歩

▲1六歩△8四歩▲7六歩△3四歩

 ▲7六歩△3四歩▲1六歩△8四歩と同じ局面。

△8五歩

▲1六歩△8四歩▲7六歩△8五歩

▲1六歩△8四歩▲7六歩△8五歩
 ▲2六歩△3四歩▲2五歩に△9四歩を入れた局面で後手がもう一手指せると考えることが出来る。
 したがって5手目の選択肢は、▲2六歩△3四歩▲2五歩の4手目に準じて、ほとんどが▲7七角。他に▲7八金、▲2六歩など。

戦型未確定

戦型未確定

▲2六歩

△3四歩

▲1六歩△8四歩▲2六歩△3四歩

 ▲1六歩△3四歩▲2六歩△8四歩と同じ局面。

△8五歩

▲1六歩△8四歩▲2六歩△8五歩

▲1六歩△8四歩▲2六歩△8五歩
 相掛かりの出だし(▲2六歩△8四歩▲2五歩)に△9四歩を入れた局面で、後手がもう一手指せると考えることが出来る。
 したがって5手目の選択肢は、▲2六歩△8四歩▲2五歩の4手目に準じ、▲2五歩、▲7六歩、▲7八金が多い。

戦型未確定

戦型未確定

△1四歩

▲1六歩△1四歩

 1筋の突き合いに関する損得をまとめると、次のようになる。
  1. 相矢倉・持久戦は、棒銀を誘発するので後手の損
  2. 相振り飛車は、端攻めを誘発するので先手の損
  3. 角換わり・相掛かりは、イーブン
  4. 横歩取りは、後手の飛車が2四や2六に行った際▲1五角の筋がなくなり先手やや損
  5. 先手振り飛車・後手居飛車の対抗形は、居飛穴にしづらく後手の損
  6. 先手居飛車・後手振り飛車の対抗形は、イーブン
 (出典:鈴木宏彦『イメージと読みの将棋観』将棋世界2007年12月号より、プロ6人の見解を総合)
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5-6. 初手▲9六歩

初手▲9六歩
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 初手に角側の端歩を突く手。
 「後手の居飛穴を打診している」というわかりやすい▲1六歩に比べ、▲9六歩はわかりづらい。▲9七角の端角が生じる点や、8筋を交換させたときすぐには歩を打たなくてもよいという点はある。安恵照剛、田丸昇、鈴木英春アマなど、採用者は特定の人間に偏っている。

 大舞台で初手▲9六歩を指した例が、1996年7月王位戦第1局▲深浦康市△羽生善治での深浦。端角中飛車の構想で戦ったが敗戦、番勝負も1-4で敗退した。兄弟子の森下卓は▲9六歩を見て「だめだ」と思ったらしい。余所行きの作戦ではタイトルを取れないというわけだ。

 先手にとって▲9六歩が生きる(無駄手にならない)作戦は、急戦矢倉、相横歩取り、ひねり飛車、石田流、相振り飛車など。先手振り飛車・後手居飛車の対抗形では、緩手になる恐れもある。

 狙って効果をあげようとする場合は、後手が振り飛車しか指さない人だとわかっているときに指す。振り飛車の立場では、△9四歩と受ければ相振りにされての端攻めを覚悟する必要があり、受けなければ▲9五歩と突き越されて、息苦しい美濃囲いになる可能性を覚悟しなければいけないからだ。

初手

2手目

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

▲9六歩

△3四歩

▲7六歩

▲9六歩△3四歩▲7六歩

 ▲7六歩△3四歩▲9六歩と同じ局面。

▲2六歩

△8四歩

▲9六歩△3四歩▲2六歩△8四歩

▲9六歩△3四歩▲2六歩△8四歩
 角換わりの出だし(▲7六歩△8四歩▲2六歩)に△1四歩を入れて、そこで後手がもう一手指せる局面と考えることが出来る。
 したがって5手目の選択肢は、▲7六歩△8四歩▲2六歩の4手目に準じて、▲7六歩、▲7八金、▲2五歩が多い。

戦型未確定

戦型未確定

△4二銀

▲9六歩△3四歩▲2六歩△4二銀

▲9六歩△3四歩▲2六歩△4二銀
 矢倉の出だし(▲7六歩△8四歩▲6八銀)に△1四歩を入れて、そこで後手がもう一手指せる局面だと考えることが出来る。
 したがって5手目の選択肢は▲7六歩△8四歩▲6八銀の4手目に準じ、▲7六歩、▲2五歩が多い。

戦型未確定

戦型未確定

△5四歩

▲9六歩△3四歩▲2六歩△5四歩

▲9六歩△3四歩▲2六歩△5四歩
 ▲7六歩△8四歩▲5六歩に△1四歩を入れて、そこで後手がもう一手指せる局面だと考えることが出来る。
 したがって5手目の選択肢は▲7六歩△8四歩▲5六歩の4手目に準じ、▲7六歩、▲2五歩、▲5六歩が多い。また、5手目▲9五歩と突き越されると、後手が振り飛車しか指せない場合は悩ましい。

戦型未確定

戦型未確定

▲5六歩

▲9六歩△3四歩▲5六歩

 ▲5六歩△3四歩▲9六歩と同じ局面。

▲4八銀

△8四歩

▲7八金

△8五歩

▲9六歩△3四歩▲4八銀△8四歩▲7八金△8五歩

 2000年代に入って見られる、英春流の変化。以下▲3六歩と突き、△8六歩▲同歩△同飛には▲3七銀と上がる。△8七歩には▲9七角とかわせる、というのが▲9六歩の意味。このあとは棒銀や袖飛車が狙い。

居飛車力戦

居飛車力戦

△8四歩

▲7六歩

△3四歩

▲9六歩△8四歩▲7六歩△3四歩

 ▲7六歩△3四歩▲9六歩△8四歩と同じ局面。

△8五歩

▲9六歩△8四歩▲7六歩△8五歩

▲9六歩△8四歩▲7六歩△8五歩
 ▲2六歩△3四歩▲2五歩に△1四歩を入れた局面で後手がもう一手指せると考えることが出来る。
 したがって5手目の選択肢は、▲2六歩△3四歩▲2五歩の4手目に準じて、ほとんどが▲7七角。他に▲7八金、▲2六歩など。

戦型未確定

戦型未確定

▲2六歩

△3四歩

▲9六歩△8四歩▲2六歩△3四歩

 ▲9六歩△3四歩▲2六歩△8四歩と同じ局面。

△8五歩

▲9六歩△8四歩▲2六歩△8五歩

▲9六歩△8四歩▲2六歩△8五歩
 相掛かりの出だし(▲2六歩△8四歩▲2五歩)に△1四歩を入れた局面で、後手がもう一手指せると考えることが出来る。
 したがって5手目の選択肢は▲2六歩△8四歩▲2五歩の4手目に準じて、▲2五歩、▲7六歩、▲7八金が多い。特に、ここから▲2五歩△3二金のときは、初手▲1六歩とは違って▲9六歩が生き、角頭を受けずに▲2四歩を敢行出来る。△同歩▲同飛に△8六歩▲同歩△8七歩と定番の反撃は、▲9七角と逃げることが出来るので無効。

戦型未確定

戦型未確定

▲5六歩

▲9六歩△8四歩▲5六歩

 ▲5六歩△8四歩▲9六歩と同じ局面。

△9四歩

▲9六歩△9四歩

 9筋の突き合いの損得をまとめると以下。
  1. 相矢倉・持久戦は棒銀があるので先手の損
  2. 角換わり、相掛かりはイーブン
  3. 相振り飛車は端攻めを誘発するので後手の損
  4. 先手振り飛車・後手居飛車は▲9六歩を生かしづらいので先手の損
  5. 先手居飛車・後手振り飛車は居飛穴に組みづらく先手の損
 (出典:鈴木宏彦『イメージと読みの将棋観』2007年12月号より、プロ6人の見解を総合)
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5-7. 初手▲7八飛

初手▲7八飛
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 初手に▲7八飛と振る手。▲7八飛戦法とも言われる。
 三間飛車にしているが、ノーマル三間飛車や早石田の他に、角交換振り飛車になる変化も含んでいる。

 初手▲7八飛は、1990年代末には既に指されているのを確認できるが、2手目に△8四歩とされると▲7六歩と突いて▲7六歩△8四歩▲7八飛と合流することになり、「そこから△8五歩▲7七角△3四歩に▲6六歩と角道を止めてノーマル三間飛車はつまらない」というのが当時の考えだった。
 2000年代になって2手目△3二飛が出現、加えて角交換振り飛車が流行したことで、そこから応用が利く変化が出てきた。その後門倉啓太が研究して連採したことで見直されたため、現代初手▲7八飛の元祖は門倉と言われることが多い。

 初手▲7八飛に対する2手目は、後手が居飛車党か振り飛車党かで大別される。
 居飛車党なら2手目は△8四歩と突くのが多数。すると3手目は▲7六歩と突くことになり、やはり▲7六歩△8四歩▲7八飛に合流する。以下△8五歩▲7七角△3四歩までほぼセット。これは昔の進行と変わらないが、ノーマル三間飛車の評価が上昇したために指されるようになっている。
 したがって2手目△3四歩だった場合、後手は振り飛車党である可能性が高く、相振り飛車に進むことが多い。
 3手目は▲4八玉と▲6八銀に分かれる。▲4八玉のほうが▲7六歩~▲7五歩と伸ばして早石田の出だしに合流する含みがあるが、角交換振り飛車の隆盛と相振り飛車への対応の点から、▲6八銀の実戦が増えている。

初手

2手目

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

▲7八飛

△8四歩

▲7六歩

▲7八飛△8四歩▲7六歩

 後手が居飛車で戦う場合は2手目△8四歩が多く、すると▲7六歩△8四歩▲7八飛と同じ局面になる。
 ▲7八飛戦法は△8四歩~△8五歩と指されると5手目を▲7七角と上がるしかないと考えられてきたが、そこで▲7七飛という手が出現している。

△3四歩

▲4八玉

△8四歩

▲3八玉

△8五歩

▲7八飛△3四歩▲4八玉△8四歩▲3八玉△8五歩

▲7八飛△3四歩▲4八玉△8四歩▲3八玉△8五歩
 初手▲7八飛に対し、2手目△3四歩と突いてから△8四歩と居飛車にする指し方はあまり多くないが、考えられる指し方である。基本的には2手目△3二飛と同じ筋で戦える。
 ▲4八玉は、早石田系の将棋を含みにしたい場合の手。後手が△8四歩~△8五歩と伸ばして来たら▲7六歩と突き、それまでは玉の移動を急ぐのが基本。
 したがって図からは▲7六歩と突く一手だ。
  • (1)△8六歩には▲同歩△同飛▲2二角成△同銀▲7七角の反撃がある。
  • (2)△4二玉と仕掛けを断念したところで、
    • (a)▲7五歩と伸ばせば早石田になる。
    • (b)▲6八銀で角交換振り飛車の変化もあり得る。△8六歩▲同歩△同飛には▲7九金として、次に▲2二角成△同銀▲8八飛や▲7七銀の筋で戦う。

対抗形

対抗形

△3五歩

▲5八金左

△3二飛

▲7八飛△3四歩▲4八玉△3五歩▲5八金左△3二飛

 相振り飛車の一例。△3五歩に▲3八玉は△3二飛と回られ、先に△3六歩▲同歩△同飛と王手で飛車先を交換されてしまう。
 ここから▲7六歩と突き、後手も同じように△5二金左と指したときに、▲7五歩とするか、▲4六歩と盛り上がるか。

相振り飛車

相振り飛車

△3三角

▲3八玉

△2二飛

▲7八飛△3四歩▲4八玉△3三角▲3八玉△2二飛

 △3三角は向かい飛車を目指す手。先手は変わらず、まずは▲3八玉まで移動する。
 次に▲7六歩と突き、
  • (1)△4二銀なら
    • (a)▲3三角成とする。△同銀は▲6五角があるので△同桂。この後は▲6八銀~▲8八飛として、いずれ7七~6六~7五と早繰り銀の仕掛けを見るが、このとき△3三同桂と取らせているため後手には早繰り銀が出来ないというのが主張だ。
    • (b)▲7五歩と突いて三間飛車のまま戦うのも一局。ただし、角交換になった際先手も早繰り銀が出来なくなってしまう点は考慮する必要がある。
  • (2)△4四歩と角交換を拒否するのは、▲7五歩と伸ばしておく。
    • (a)△4二銀には▲7四歩がある。(ア)△同歩は▲5五角で、△4五歩▲9一角成△9九角成の取り合いは玉形の差で先手がいい。したがって△7四同歩とは取らずに(イ)△8二銀だが、▲7三歩成△同銀▲7四歩で拠点を作られる。
    • (b)△8二銀が手堅いところ。

相振り飛車

相振り飛車

△4二銀

▲7八飛△3四歩▲4八玉△3三角▲3八玉△4二銀

 △4二銀は飛車を振るのを待った手。先手の次の手が▲7六歩だとして、(1)△4四歩と角道を止める、(2)△5四歩~△5二飛など進行は様々。そもそも、まだ後手が振り飛車と決まってもいない。
 6手目は他、△4四歩や△5四歩、△3二銀なども考えられる。

相振り飛車、対抗形

相振り飛車 対抗形

△2四歩

▲3八玉

△2五歩

▲7八飛△3四歩▲4八玉△2四歩▲3八玉△2五歩

 △2四歩は、先手の角道が空いたときに△8八角成▲同飛△2二飛で向かい飛車にするため、将来の飛車先を突いておく狙い。
 これまで▲4八玉の継続手は▲3八玉だったが、この形ではやや危険な手。角交換系の相振り飛車では△2二飛・△3五銀・△5四角と配置して2七の地点を攻める形がひとつの狙いとなっているが、▲3八玉では2七に近づきすぎており、攻められると手抜きが利かなくなる。

相振り飛車

相振り飛車

▲6八銀

△2五歩

▲7八飛△3四歩▲4八玉△2四歩▲6八銀△2五歩

 上記の変化があるため△2四歩に▲3八玉とは寄りづらい。▲6八銀△2五歩は一例だが、
  • (1)▲7六歩と突けば、△8八角成▲同飛△2二飛で相向かい飛車。
    • (a)▲6五角は△5四角▲8三角成△2七角成がある。
    • (b)▲2八銀が手堅いが、△4二銀と上がって角打ちの隙はなくなり、以下駒組みとなる。
  • (2)▲2八銀と先に上がっておく手も考えられる。
    • (a)△5四歩は角交換振り飛車を目指す手で、▲7六歩△8八角成▲同飛△2二飛が一例。
    • (b)△4四歩は角道を止めて穏やかな進行になる。

相振り飛車、対抗形

相振り飛車 対抗形

▲6八銀

△8四歩

▲7六歩

△8五歩

▲7八飛△3四歩▲6八銀△8四歩▲7六歩△8五歩

▲7八飛△3四歩▲4八玉△8四歩▲3八玉△8五歩
 3手目▲6八銀は、2手目△3二飛の佐藤康新手を応用したもので、角交換振り飛車を目指している。
  • (1)▲2二角成△同銀▲8八飛なら角交換振り飛車になる。
  • (2)▲7七角と上がると▲7六歩△8四歩▲7八飛△8五歩▲7七角△3四歩に▲6八銀と上がったのと同じ局面。

     なお、この局面を狙って指すには初手▲7八飛が確実だ。初手▲7六歩からこの局面にしようと思っても、2手目に△3四歩とされると▲7八飛には△8八角成~△4五角がある。
     ▲7七角と上がったときに△同角成▲同桂と角交換してくれると手損なしで角交換したことになり、次に▲8八飛と回れば、上の変化(▲2二角成△同銀▲8八飛)より一手得したことになる。▲7七角にはその手得を狙う意味があるが、角交換後の手番は後手にあるので、△8六歩や△5四角などの仕掛けが飛んでくる可能性があり、その対応を知っておく必要がある。

対抗形

対抗形

△3五歩

▲7六歩

△3二飛

▲7八飛△3四歩▲6八銀△3五歩▲7六歩△3二飛

 3手目▲6八銀の場合、5手目に▲7六歩と突くのは相振り飛車でも同じ。
 △3二飛に対し、
  • (1)▲4八玉は危険で、△3六歩▲同歩△8八角成▲同飛に△6四角と打たれて、受ける形が難しい。▲3七角は△同角成▲同桂△3六飛で、次の△5五角や飛車が動いた後の△3六歩が痛い。▲2八角は△同角成▲同銀に今度は△5五角だ。
  • (2)▲2二角成△同銀▲3八金と構える。角を持ち合っていると美濃囲いには囲いにくい。

相振り飛車

相振り飛車

△3六歩

▲7八飛△3四歩▲6八銀△3五歩▲7六歩△3六歩

 後手が△3六歩と仕掛けてくる手がある。
  • (1)▲同歩と取ると△8八角成▲同飛△5五角があるが、乗っかって▲7七角△1九角成▲1一角成△2九馬▲2一馬と取り合い、△4七馬▲4八銀△6五馬▲7七銀と進めてどうか。先手は手得しており、攻めが止まれば良さが残る。
  • (2)▲2八銀と受けるのは無難だが、△3七歩成▲同銀△3六歩▲2八銀△3二飛で拠点を作られる。

相振り飛車

相振り飛車

▲5六歩

△3二飛

▲7八飛△3四歩▲6八銀△3五歩▲5六歩△3二飛

 5手目に▲5六歩と突いておき、△3六歩~△5五角の筋に備える手もある。
 7手目は▲5七銀、または▲7六歩や▲4八玉としておいて△3六歩▲同歩△同飛が来たら▲5七銀の要領。

相振り飛車

相振り飛車

△3三角

▲7六歩

△2二飛

▲7八飛△3四歩▲6八銀△3三角▲7六歩△2二飛

 △3三角にも▲7六歩と突く。そこで△2二飛は危険なところがあり、▲3三角成△同桂▲6五角の筋がある。以下、△5四角▲8三角成△2七角成▲5六馬△5四馬▲3四馬と先手が一歩得出来る。この後、先手は▲7七銀~▲8八飛~▲8六歩と8筋を狙う構想が一例。

相振り飛車

相振り飛車

△4四歩

▲7八飛△3四歩▲6八銀△3三角▲7六歩△4四歩

 角交換を避け、△4四歩と突いてから駒組みをするのは穏やか。この場合、先手は▲7五歩と伸ばす。
  • (1)△2二飛はいかにも危険で、すぐさま▲7四歩と突かれる。
    • (a)△7四同歩▲同飛は次に▲4四飛を狙われる。
    • (b)△8二銀と受けるのも、▲7三歩成△同銀に▲同飛成が強手。△同桂▲7四歩△6五桂▲7三歩成と進んで、▲6八銀と上がっているおかげで△5七桂不成がないというのが自慢だ。
  • (2)△4二銀は無難なコースで、▲7四歩△同歩▲同飛は△4三銀で受かる。そこから後手が飛車を振るか、居飛車で戦うかだが、一局の将棋。

相振り飛車、対抗形

相振り飛車 対抗形

△2四歩

▲7六歩

△2五歩

▲7八飛△3四歩▲6八銀△2四歩▲7六歩△2五歩

 △2四歩~△2五歩は向かい飛車を見込んで、将来の飛車先を伸ばした手。
 ここで先手の手堅い手は▲2八銀。
  • (1)△8八角成▲同飛△2二飛としたいが、すぐやると▲6五角と打たれて馬を作られてしまう。
  • 角道を止めずにそれを解決するには、
    (2)△5四歩と突いて、▲4八玉に△8八角成▲同飛△2二飛で相向かい飛車となる。
     ただし、そこから▲8六歩△6二玉▲8五歩△7二玉▲8四歩△同歩▲同飛△8三歩▲5四飛と歩をかすめ取る変化がある。後手がこれを避けたければ、2手目に△5四歩とする手法が考えられる。

相振り飛車

相振り飛車

△3二飛

▲7六歩

△4二銀

▲7八飛△3四歩▲6八銀△3二飛▲7六歩△4二銀

 △3二飛~△4二銀と、後手が同形にする順も考えられる。
 この形はまず角交換するのかしないのかが問題で、するならどちらからいつするのかという問題もある。その辺を踏まえ、角が向かい合いながら▲2八銀△8二銀▲4八玉△6二玉…のような駒組みが一例。

相振り飛車

相振り飛車

△5四歩

▲6八銀

△4二銀

▲7六歩

△5三銀

▲7八飛△5四歩▲6八銀△4二銀▲7六歩△5三銀

▲7八飛△5四歩▲6八銀△4二銀▲7六歩△5三銀
 初手▲7八飛に対して△5四歩は里見香奈の研究と言われる。
 ①▲7八飛△3四歩▲6八銀△5四歩▲7六歩では△4二銀と上がれないし、②▲7八飛△3四歩▲6八銀△4二銀▲7六歩では△5四歩と突く暇がないので、先に△5四歩~△4二銀~△5三銀を指してしまうということ。更に、△5四歩に紐もつけている。
 次に△3四歩と突き、△8八角成~△2二飛の要領で向かい飛車に構えるのが一例。
 里見が西山朋佳と戦った2019年のマイナビ女子オープン五番勝負では、第1局は▲7八飛△5四歩▲7六歩△4二銀▲6八銀△5三銀、第3局は▲7八飛△5四歩▲6八銀△4二銀▲7六歩△5三銀で同形となった。

相振り飛車、対抗形

相振り飛車 対抗形

▲7六歩

△4二銀

▲7五歩

△5三銀

▲7八飛△5四歩▲7六歩△4二銀▲7五歩△5三銀

 △5四歩に対して先手が▲7六歩~▲7五歩と伸ばすのはやや危険で、△6四銀~△3一角とされるだけで▲7五歩が目標になってしまう。

対抗形、相振り飛車

対抗形 相振り飛車

5-8. その他の初手

(KIFファイルのダウンロード)

初手

2手目

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

▲6八銀

▲6八銀

△3四歩

▲7九角

△8四歩

▲7八金

△8五歩

▲6八銀△3四歩▲7九角△8四歩▲7八金△8五歩

▲6八銀△3四歩▲7九角△8四歩▲7八金△8五歩
 初手▲6八銀は、2015年に棋書が出版され有名になった『嬉野流』(外部リンク)の出だし。△3四歩と突けば先手は▲7六歩を突けないが、しれっと▲7九角。初見では唖然とする。

 図からは▲4八銀と上がっておき、△8六歩▲同歩△同飛には、▲8七歩ではなく▲8八歩と下で受ける。速攻棒銀で8筋突破を目指す△8二飛▲2六歩△7二銀には、▲2五歩△3三角▲5六歩△8三銀▲5七銀左△7四銀▲6六銀△8五銀▲6五銀△8六銀に、▲7六銀と引いて8七に駒を足して受ける。次に▲9六歩~▲8七歩で棒銀を殺す順と、ここまでの手順中にこっそり▲7九角の利きが通っているので、▲2四歩の反撃筋も出来ているというわけ。
 速攻で潰れなければあとは力戦。先手の基本的な攻め筋は、引き角から銀を繰り出していく順である。

居飛車力戦

居飛車力戦

△3二飛

▲5六歩

△6二玉

▲6八銀△3四歩▲7九角△3二飛▲5六歩△6二玉

 後手が飛車を振る場合、先手は▲5六歩~▲5七銀の形を目指すのが基本。後手の駒組みも、例えば6手目に△3五歩と伸ばしても、逆に目標にされてしまうので難しいところだ。
 先手の攻め筋は、ほぼ鳥刺しに準じる。ただ、▲7八玉型から銀を出て角を引く鳥刺しと違って、嬉野流はまだ居玉。そのため玉の移動を省略し、居玉のままとにかくスピード重視で攻めかかる順も選べる。また、▲5七銀~▲8八飛の相振り飛車も考えられる構想だ。

対抗形、相振り飛車

対抗形 相振り飛車

▲5六歩

△8四歩

▲5七銀

△8五歩

▲6八銀△3四歩▲5六歩△8四歩▲5七銀△8五歩

 嬉野流が進化した新・嬉野流の出だし。特徴であった3手目▲7九角を後回しにして、▲5六歩~▲5七銀を急ぐ。
 以下▲7八金と上がり、△8六歩▲同歩△同飛には▲8七歩と打つ。もう一つの特徴であった▲8八歩の受けも捨てているが、場合によっては居角のまま▲7六歩と突いて攻めに使うことも視野に入れている、引き角と居角の両にらみ作戦が新型である。

居飛車力戦

居飛車力戦

△3二飛

▲5七銀

△4二銀

▲6八銀△3四歩▲5六歩△3二飛▲5七銀△4二銀

 新型の場合引き角を後回しにしているため、ここから▲7六歩と角交換を挑み、△8八角成なら▲同飛と取って相振り飛車にする変化も生じている。

対抗形、相振り飛車

対抗形 相振り飛車

△8四歩

▲7九角

△8五歩

▲7八金

△7二銀

▲6八銀△8四歩▲7九角△8五歩▲7八金△7二銀

 嬉野流の本で最初に出た『奇襲研究所 嬉野流編』では2手目△8四歩の変化を深堀りしていない。
 当時の嬉野流研究スレでは、2手目△8四歩から飛車先を交換せず原始棒銀に来られると、何とか受かる順はあるものの大変だとされていたが、その後対策されたようである。

居飛車力戦

居飛車力戦

▲5六歩

△8五歩

▲5七銀

△8六歩

▲6八銀△8四歩▲5六歩△8五歩▲5七銀△8六歩

 新・嬉野流に対して角道を開けずに飛車先を伸ばしてきた場合も、先手は▲5七銀を急ぐ。
 △8六歩には▲同歩△同飛に▲7八金と上がり、△8七歩と打ってきた場合は▲7九角と引いておく。一例だが、以下△3四歩▲9六歩△6二銀▲9七角△8二飛▲8六歩のような順で8七の歩を取ってしまう筋があり、実のところ後手も△8七歩は打ちづらい。

居飛車力戦

居飛車力戦

▲7六歩

▲6八銀△8四歩▲7六歩

 よくよく考えると、2手目△8四歩に対して▲7六歩と突けば矢倉の出だしに合流する。ならば矢倉でいいのか、あくまで変態戦法にこだわるのか。後は自分次第である。
▲6八玉

▲6八玉

△8四歩

▲7八金

△8五歩

▲2六歩

△3二金

▲6八玉△8四歩▲7八金△8五歩▲2六歩△3二金

 振り飛車党の後手を挑発する手。▲7六歩△3四歩▲6八玉より、△8四歩を強く誘っている意味がある。
 2021年、黒田尭之が実戦で採用し、Twitterで初手▲6八玉の思想(まとめ記事)を語っている。「後手振り飛車なら▲2六歩を、後手居飛車なら▲7六歩を後回しにしたい⇒初手▲6八玉」ということらしい。また、同じ年にAI界隈では初手▲6八玉が最善の可能性という話が出た。詳細はリンク先を確認してほしい。

相掛かり

相掛かり

▲7六歩

△8五歩

▲7七角

△3四歩

▲6八玉△8四歩▲7六歩△8五歩▲7七角△3四歩

 飛車先を▲7六歩~▲7七角で受けようとする順。
  • (1)▲8八銀△7七角成▲同銀なら角換わりになるが、▲6八玉が損にならない駒組みをする必要がある。
  • (2)▲6六歩と角交換を拒否すれば、矢倉・雁木系の将棋になる。

角換わり、矢倉・雁木

角換わり 矢倉・雁木

△3四歩

▲6八玉△8四歩▲7六歩△3四歩

 ▲7六歩△3四歩▲6八玉△8四歩と同じ局面。

△3四歩

▲7八玉

△8四歩

▲7六歩

△8五歩

▲6八玉△3四歩▲7八玉△8四歩▲2六歩△8五歩

 △3四歩に対して▲7八玉は、自分で▲7八金と上がれなくしているので更に挑発した感じがある。△8四歩は挑発に乗った手で、▲2六歩△8五歩▲2五歩で相掛かり風の力戦。

居飛車力戦

居飛車力戦

△3二飛

▲4八銀

△6二玉

▲6八玉△3四歩▲7八玉△3二飛▲4八銀△6二玉

 後手が挑発に乗らず振り飛車にし、先手も角道を開けなかった場合の一例。せっかく▲7六歩を突かなかったので、鳥刺しなどの作戦にしてみたい気はする。

対抗形

対抗形

▲7六歩

▲6八玉△3四歩▲7六歩

 ▲7六歩△3四歩▲6八玉と同じ局面。
▲6六歩

▲6六歩

△3四歩

▲6八飛

△3二飛

▲6五歩

△7二金

▲6六歩△3四歩▲6八飛△3二飛▲6五歩△7二金

 初手▲6六歩は、たまに四間飛車党が見せる手。
 四間飛車に振り、5手目に▲6五歩と突いた手が角交換にならないのが初手▲6六歩の効果で、純粋に▲6四歩△同歩▲同飛だけを狙える。
 △7二金は2008年2月順位戦▲片上大輔△窪田義行の進行。△5二金左なら普通。

相振り飛車

相振り飛車

△8四歩

▲7六歩

▲6六歩△3四歩▲6八飛△8四歩▲7六歩

 ▲7六歩△3四歩▲6六歩△8四歩▲6八飛と同じ局面。
 △8四歩には▲7六歩を突いて通常形に戻す。藤井猛曰く「初手▲6六歩は、早く△8四歩を突けという意味」だそうだ。

△8四歩

▲7六歩

▲6六歩△8四歩▲7六歩

 ▲7六歩△8四歩▲6六歩と同じ局面。
▲8六歩

▲8六歩

△3四歩

▲7六歩

▲8六歩△3四歩▲7六歩

 プロでは過去唯一の実戦例が2000年2月NHK杯予選▲増田裕司△小阪昇の初手▲8六歩。
 実戦は▲7六歩△3四歩▲8六歩の先手角頭歩戦法と同じ局面になった。

相振り飛車、対抗形

相振り飛車 対抗形

△8四歩

▲7八金

△8五歩

▲同歩

△同飛

▲8六歩△8四歩▲7八金△8五歩▲同歩△同飛

 2手目に△8四歩と突かれたら、普通はこのような進行か。8筋歩交換に、
  • (1)▲7六歩は突っ張った感じ。△8六歩の垂らしには▲7七桂△8二飛▲8五歩で、この後△8六歩を回収しにいく将棋。
  • (2)▲8七歩は理屈上大損なのだが、小阪は基本的に振り飛車党だし、早指しの棋戦だし構わなかったということだろうか。

居飛車力戦、相掛かり

居飛車力戦 相掛かり
▲5八金右

▲5八金右

△8四歩

▲7六歩

△8五歩

▲7七角

△3四歩

▲5八金右△8四歩▲7六歩△8五歩▲7七角△3四歩

 初手▲5八金右と▲7六歩△3四歩▲5八金右の違いは、初手▲5八金右のほうが若干強く挑発している感じはあるものの、今一つ不明。
 △8四歩に▲7六歩を突き、△8五歩▲7七角と上がれば、先手は矢倉や雁木に組める。

矢倉・雁木、相掛かり

矢倉・雁木 相掛かり

▲7八金

△8五歩

▲2六歩

△3四歩

▲5八金右△8四歩▲7八金△8五歩▲2六歩△3四歩

 一例。3手目▲7八金の場合は後手に飛車先を交換させてもいいという指し方をする必要があるが、▲5八金右が若干バランスの悪いイメージは残る。

居飛車力戦、相掛かり

居飛車力戦 相掛かり

△3四歩

▲2六歩

△3二飛

▲2五歩

△3三角

▲5八金右△3四歩▲2六歩△3二飛▲2五歩△3三角

 進行は一例。▲7六歩△3四歩▲5八金右同様、棒金がないので三間飛車にはしてみたくなる。

対抗形

対抗形

▲7六歩

▲5八金右△3四歩▲7六歩

 ▲7六歩△3四歩▲5八金右と同じ局面。
▲5八金左

▲5八金左

▲5八金左

 初手▲5八金左は、すぐに飛車を振れなくしていて、かつ▲7八金と上がれないので居飛車で戦うのも大変な初手である。この初手を生かして既存の形を目指そうとすると、4七に持って行くのが自然。
  • (1)2手目△8四歩には一旦▲7六歩と突いて、先に▲4六歩~▲4七金を作ってから飛車を振れば、▲4七金は高美濃の一部として使える。ただ、飛車を振る前に手がかかるので急戦には注意する必要がある。
  • (2)2手目△3四歩には、▲7六歩で角交換を挑むのが成立する。△8八角成▲同銀△7八角は▲9八角で受かるので、後手は角交換してから駒組みに戻るのがよさそう。先手は▲4七金型を目指しつつ、△7八角の筋に注意しながら駒組みする必要がある。
▲7八銀

▲7八銀

▲7八銀

 初手▲7八銀は、8七の地点を銀で受ける指し方。▲7八金より角の可動域が広く、部分的に美濃囲いなのでそれなりに堅く見える。しかし角が浮き駒になるため、例えば2手目に△3四歩と角道を開けられると当面の間▲7六歩が突けなくなり、駒組みが制限される。
  • (1)角を使うため、▲6八玉~▲7九玉と左美濃にして角に紐をつけた後、機を見て▲7六歩と突く駒組みが一例。
  • (2)他には、2筋を伸ばして飛車を浮き、角は▲9六歩~▲9七角で使うアヒル的な指し方が考えられる。
  • (3)初手▲7八銀から▲7九角!と引く「メイドシステム」という作戦がある。
     一例を挙げると、▲7八銀△8四歩▲7九角△8五歩▲2六歩△8六歩▲同歩△同飛に▲8八歩!と打つ。以下△3四歩に▲8七銀で飛車を追い、△8二飛に▲7六銀!と出る。このあと、後手が何もしなければ▲8七歩~▲8八飛で8筋を逆襲するのが狙いで、それを警戒してくるなら引き角を生かして2筋を攻めるというのがもう一つの狙い。
  • (4)特殊なものとして、パックマンを先手で狙う際、初手を▲7八銀にするという指し方がある。以下△3四歩に▲6六歩△同角▲6八飛以下の変化で、▲7八銀型が自陣を引き締めているという考え方だ。
▲4八金

▲4八金

▲4八金

 初手▲4八金は、居飛車系の将棋にすれば大きく破綻しない駒組みができる。
 近年は▲2九飛・▲4八金型が見慣れた形になっており、この初手を生かそうとすれば相手が居飛車だろうが振り飛車だろうがまず目指してみたい。他、▲4六歩~▲4七金の手厚い形や、▲3六歩~▲3七金~▲4六金で押さえ込む形を目指すのも考えられる。

 初手▲3八金も、似たような構想で運用可能である。
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6. 初手▲7六歩への特殊な2手目

 先手に特殊な初手があるように、後手にも特殊な2手目がある。
 初手▲7六歩に対して近頃有名となった2手目といえば、本ページでは解説しないが、やはり△6二玉である。2012年1月の電脳戦▲ボンクラーズ△米長邦雄にて、後手の米長がボンクラーズ対策として指した手だ。

6-1. ▲7六歩△6二銀

▲7六歩△6二銀
(KIFファイルのダウンロード)

 ▲7六歩△3四歩▲4八銀からの英春流の後手版。振り飛車党の先手に対する「居飛車を指してみろ、▲2六歩を突いてみろ」という挑発の意味もある。
 ▲7六歩△3四歩▲4八銀は英春流の存在を知らなくても指しそうだが、2手目△6二銀は知らないと指さないだろう。

 一時期、羽生善治が連採したことで有名な手でもある。
 単行本『イメージと読みの将棋観』で本人が語ったところによれば、「飛車先を交換されても中央の厚みで対抗できるかと思っていた」そうだが、受け身の展開になりやすいので指さなくなったとのこと。『将棋世界』2006年8月号のロングインタビューでは「どのくらい損なのか見極めていた」「(どのくらい損かわかったので)もうやりません」とも語っている。

2手目

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

△6二銀

▲2六歩

△3二金

▲2五歩

△5四歩

▲7六歩△6二銀▲2六歩△3二金▲2五歩△5四歩

 羽生が若い頃に指した▲7六歩△6二銀のうち、2局はこの△5四歩を採用している。
 以下▲2四歩△同歩▲同飛の飛車先交換に、
  • (1)△2三歩と打つのは▲5四飛が王手になってしまい、しかもその飛車を追うことも出来ない。
  • この局面では、
    (2)△3四歩と突くのが手筋。
    • (a)▲3四同飛なら△2二角成▲同銀△4五角や、△5三銀がある。
    • 先手は横歩を取らずに、
      (b)▲2八飛や、
    • (c)▲7八金と指すのが手堅く、後手も△5三銀と銀を進出して一局だ。
 なお、この筋は6手目を△6四歩に代えても出来る。

居飛車力戦

居飛車力戦

△4一玉

▲7六歩△6二銀▲2六歩△3二金▲2五歩△4一玉(△1四歩)

 後手は先手に飛車先を交換して欲しいが、上記のように三段目の歩を突くと、▲2四歩△同歩▲同飛でその歩を狙われる変化がある。それで悪い訳ではないが、その変化を嫌うなら△4一玉や△1四歩として待つことになる。

居飛車力戦、矢倉

居飛車力戦 矢倉・雁木

△7四歩

▲7六歩△6二銀▲2六歩△3二金▲2五歩△7四歩

 2016年6月・棋聖戦一次予選▲藤原直哉△神崎健二戦で、6手目に△7四歩と突く手が現れた。「一歩損相掛かり」の他、2017年に山崎隆之が連採して結果を出したことから「山崎スペシャル」とも呼ばれる。
  • ▲2四歩△同歩▲同飛には2パターンの対応があり、
    (1)△3四歩と突くのが一つ。▲同飛と横歩を取る手には△7三銀と上がって、▲2二角成△同銀▲3二飛成と▲7四飛を受けながら銀を進出する。以下▲2四飛に△8八角成▲同銀△2二銀と進んだのが2017年9月・JT杯▲佐藤天彦△山崎戦だが、ここは先後共に色々考えられるところだ。
  • もうひとつが、
    (2)△2三歩とあっさり打ってしまう手。▲7四飛と横歩を取られるがもちろん織り込み済みで、歩損の代償に△7三銀と上がって銀の進出を急ぐのが狙い。以下▲7五飛に、
    • (a)△3四歩▲2五飛△3三角が2017年10月・JT杯▲羽生善治△山崎戦。
    • 指された羽生は2018年6月・名人戦第6局▲佐藤天彦△羽生という大舞台で採用し(出だしは▲2六歩△6二銀)、
      (b)△6四銀▲2五飛△7二飛と指している。

居飛車力戦

居飛車力戦

△8四歩

▲7六歩△6二銀▲2六歩△3二金▲2五歩△8四歩

 このタイミングの△8四歩は、単純に▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩▲2八飛△8五歩と進めても先手は▲7七角と受けることが出来る。ただし、先手の極限早繰り銀のような、その上がった角を狙う急戦もありうる。

居飛車力戦

居飛車力戦

▲7八金

△4一玉(△1四歩)

▲7六歩△6二銀▲2六歩△3二金▲7八金△4一玉(△1四歩)

 先手が▲2五歩を突かずに警戒する順だが、それでも後手は出来るだけ△3四歩を突かずに待つ。仮に突いても、△3三角とは上がらないで指すことが多い。

居飛車力戦、矢倉

居飛車力戦 矢倉・雁木

△3四歩

▲7六歩△6二銀▲2六歩△3四歩

 ▲7六歩△3四歩▲2六歩△6二銀と同じ局面。

▲6六歩

△3四歩

▲7六歩△6二銀▲6六歩△3四歩

 ▲7六歩△3四歩▲6六歩△6二銀と同じ。

▲6八飛(▲5六歩)

△3四歩

▲7六歩△6二銀▲6八飛△3四歩

 △3四歩を突けば、普通の対抗形っぽくなる。

対抗形

対抗形

△5四歩

▲7六歩△6二銀▲6八飛△5四歩

 英春流の後手としては、5三に銀を置く形にしたい。

対抗形

対抗形

△6四歩

▲7六歩△6二銀▲6八飛△6四歩

 △6三銀と上がって、三間には7四を、中飛車には5四を受ける形。四間飛車に対しては△6三銀~△5四銀と上がって6五を受ける。

対抗形

対抗形

▲7八飛

△7四歩

▲6八銀

△7三銀

▲7六歩△6二銀▲7八飛△7四歩▲6八銀△7三銀

 英春流の先手三間対策。以下、△4二銀~△5四歩~△5三銀~△3一角が狙いで、鳥刺しのような形を目指す。

対抗形

対抗形
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6-2. ▲7六歩△3二金

▲7六歩△3二金
(KIFファイルのダウンロード)

 初手▲7八金の後手版。居飛車党の先手に対し「飛車を振ってみろ」という挑発の意味がある。
 近年では、渡辺明×佐藤康光の第19期竜王戦第6局、第7局(2006年)で登場。第6局では飛車を振って負けた渡辺であったが、第7局で連採されると矢倉で戦い竜王を防衛した。さらに翌年、同一カードの第20期竜王戦第6局でも登場した。

 初手▲7六歩に対する△3二金は、金を上がった瞬間に意味は完結していて、先手が振り飛車でも居飛車でも、はたまた態度を明らかにしない場合でも、4手目は「そうなんですね」と△3四歩や△8四歩といった普通の手を指すのが一般的だ。

 「▲7六歩△6二銀」「▲2六歩△3二金」「▲2六歩△6二銀」の3種は「先手が居飛車なら、2筋の歩交換をするように誘導する」が、この「▲7六歩△3二金」はそうでなく、相居飛車だったら矢倉か角換わりにしようと思っているところに大きな違いがある。

2手目

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

△3二金

▲7八飛(▲5六歩・▲6八飛)

▲7六歩△3二金▲7八飛(▲5六歩、▲6八飛)

 ▲5六歩だと中飛車模様で、△5四歩と受けるか位を取らせるか。▲7八飛は、以下石田流は防げない。
 先手に飛車を振らせたことに満足して戦うことになる。とにかく力戦になるので、△3二金と上がった手をどう生かすか、センスを問われる。

対抗形

対抗形

▲6八銀

△3四歩

▲6六歩(▲7七銀)

△6二銀

▲7六歩△3二金▲6八銀△3四歩▲6六歩(▲7七銀)△6二銀

 ▲6八銀は先手が矢倉を目指す手。ただ、この出だしで矢倉になると後手が飛車先不突で待っている分、いつもの△8四歩を他の手に回すことが出来るため通常形より得をしている。

矢倉、対抗形

矢倉・雁木 対抗形

△8四歩

▲5六歩

△3四歩

▲7六歩△3二金▲6八銀△8四歩▲5六歩△3四歩

 先に△8四歩を突いた場合の一例。上との違いは5筋位取り中飛車も狙えるくらいだが、矢倉になれば大差はない。

矢倉、対抗形

矢倉・雁木 対抗形

▲7八金

△4一玉

▲2六歩

△8四歩

▲7六歩△3二金▲7八金△4一玉▲2六歩△8四歩

 2006年12月20、21日・竜王戦第7局▲渡辺明△佐藤康光が初出の進行。この手順には駆け引きがある。
 3手目▲7八金は「矢倉にしたいが▲6八銀だと△3四歩とされて、後手が飛車先不突なのが不満」なので待った手。しかしそこで△4一玉が新手。「矢倉にしたいならおまえが飛車先を突け」という手だ。3勝3敗の最終局、5手目で大量に時間を使うわけにもいかず、渡辺は▲2六歩と飛車先不突矢倉を断念。佐藤もそれを見て△8四歩と突き、以下▲6八銀△3四歩▲6六歩で旧式の矢倉になった。
 △4一玉を咎めに行くには、7手目を▲6八銀でなく、▲2五歩△8五歩▲7七角△3四歩▲8八銀で角換わり、▲2五歩△8五歩に▲2四歩△同歩▲同飛で相掛かりに出る順がある。

矢倉、角換わり

矢倉・雁木 角換わり 相掛かり

▲2六歩

△8四歩

▲7六歩△3二金▲2六歩△8四歩

 ▲7六歩△8四歩▲2六歩△3二金と同じ局面。
 上記の竜王戦第7局において3手目が▲2六歩ではなかった理由は、渡辺が「角換わり腰掛け銀同型は先手攻め切れない」との認識で専ら後手を持って指していたため、△8四歩で角換わりに誘導されるのを嫌ったからと考えられる。

△3四歩

▲7六歩△3二金▲2六歩△3四歩

 ▲7六歩△3四歩▲2六歩△3二金と同じ局面。

△6二銀(△1四歩)

▲7六歩△3二金▲2六歩△6二銀(△1四歩)

 「居飛車党に振り飛車を指させたい」という意味が大きい▲7六歩△3二金の出だしからは、あまり指されない4手目。
 居飛車に2筋の交換を許すが定跡だけは外したい人が指す手。しかし、とにかくそれを狙うのであれば、2手目△6二銀からこの局面を迎えるほうが自然である。したがって詳細は▲7六歩△6二銀の項で。

居飛車力戦、矢倉

居飛車力戦 矢倉・雁木
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6-3. ▲7六歩△9四歩

▲7六歩△9四歩
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 2手目に飛車側の端歩を突く手である。
 有名な対局といえば1937年(昭和12年)2月の『南禅寺の対局』▲木村義雄△阪田三吉で、後手の阪田が△9四歩と突いた場面。そしてそれを参考に描かれたマンガが『月下の棋士』である。

 当時は木村義雄十四世名人の談話で「ありがたいと思った」というものが残されている。しかし一手損角換わりが一戦法として確立した2000年代においては、2手目△9四歩を咎める手はなかなか難しいと考えられている。

 「先手居飛車・後手振り飛車または一手損角換わり」になると△9四歩が生きてくるので、先手が▲5六歩から振り飛車にすると△9四歩を緩手に出来るのではないかと、トッププロが見解を述べている。相振りになれば▲9六歩~▲9五歩の端攻めが狙え、先手振り飛車の対抗形であれば△9四歩が無駄手になる可能性が高いからだ。  

2手目

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

△9四歩

▲5六歩

△3四歩

▲5五歩

△4四歩

▲7六歩△9四歩▲5六歩△3四歩▲5五歩△4四歩

 前述の『南禅寺の決戦』での進行。この後は居飛車5筋位取り対向かい飛車となった。『イメージと読みの将棋観』によるプロの見解も、▲5六歩から中飛車が有力としている。他には相振り飛車も考えられる。

対抗形、相振り飛車

対抗形 相振り飛車

△8四歩

▲5五歩

△8五歩

▲7六歩△9四歩▲5六歩△8四歩▲5五歩△8五歩

 以下▲7七角と上がって受け、5筋位取り中飛車に出来る。

対抗形

対抗形

▲6八銀

△3四歩

▲7六歩△9四歩▲5六歩△8四歩▲6八銀△3四歩

 ▲6六歩か▲7七銀で矢倉に出来る。

対抗形

対抗形

▲7五歩

△3四歩

▲7八飛

△4二玉

▲7六歩△9四歩▲7五歩△3四歩▲7八飛△4二玉

 石田流を目指すのも有力。

対抗形

対抗形

△8四歩

▲7八飛

△8五歩

▲7六歩△9四歩▲7五歩△8四歩▲7八飛△8五歩

 以下▲7六飛と浮いて飛車先を受け、先手の石田流。最近は升田式石田流に△9四歩~△8四飛で▲7四歩を受ける順があるので、この順だと△9四歩は生きてくるかもしれない。

対抗形

対抗形

▲2六歩

△9五歩

▲2五歩

△3二金

▲7六歩△9四歩▲2六歩△9五歩▲2五歩△3二金

 2001年7月JT杯▲佐藤康光△先崎学の出だし。2手目△9四歩独特の出だしである。この後は△9二飛~△9四飛と飛車を動かしてひねり飛車に組んだ。

ひねり飛車

相掛かり

△3四歩

▲7六歩△9四歩▲2六歩△9五歩▲2五歩△3四歩

 ▲7六歩△3四歩▲2六歩△9四歩▲2五歩△9五歩と同じ局面。

△3四歩

▲7六歩△9四歩▲2六歩△3四歩

 ▲7六歩△3四歩▲2六歩△9四歩と同じ局面。一手損角換わりになれば、後手の作戦を咎め切ってはいない。

▲9六歩

△3四歩

▲7六歩△9四歩▲9六歩△3四歩

 ▲7六歩△3四歩に9筋の突き合いを入れた局面。

△8四歩

▲7六歩△9四歩▲9六歩△8四歩

 ▲7六歩△8四歩に9筋の突き合いを入れた局面。
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6-4. ▲7六歩△1四歩

▲7六歩△1四歩
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 2手目に角側の端歩を突く手である。
 有名な対局は1937年(昭和12年)3月の『天龍寺の決戦』▲花田長太郎△阪田三吉で、一月前の『南禅寺の決戦』で突いた端とは逆側の歩を突き物議を醸した。

 先手が飛車を振ると、後手も飛車を振って相振りになった際に△1四歩が端攻めになる手なので損になることは少ない。
 なので先手は居飛車のほうが無難だが、後手には△3四歩で一手損角換わりの権利も生じる。このため、現代では2手目△9四歩にも増して咎めづらい手だと考えられている。

2手目

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

△1四歩

▲2六歩

△5四歩

▲2五歩

△3二金

▲7六歩△1四歩▲2六歩△5四歩▲2五歩△3二金

 前述の『天竜寺の決戦』での進行。以下、▲2四歩△同歩▲同飛△5二飛から中飛車になった。

対抗形、相振り飛車

対抗形 相振り飛車

△3四歩

▲7六歩△1四歩▲2六歩△3四歩

 ▲7六歩△3四歩▲2六歩△1四歩と同じ局面。現代で想定される局面はここ。

▲5六歩

△3四歩

▲5五歩

△3二飛

▲7六歩△1四歩▲5六歩△3四歩▲5五歩△3二飛

 進行の一例。ここからは先手中飛車対後手三間飛車の相振り飛車が普通で、その場合▲5五歩の代わりに▲5八飛でも大差はない。▲5五歩が先だと、5筋位取りの居飛車も考えられる。

相振り飛車、対抗形

相振り飛車 対抗形

△6二銀

▲7六歩△1四歩▲5六歩△3四歩▲5五歩△6二銀

 先手5筋位取り。先手振り飛車・後手居飛車の対抗形になれば、端に手をかけた後手がやや居飛車穴熊に組みづらいという意味はある。

対抗形、居飛車力戦

対抗形 居飛車力戦

△5四歩

▲5八飛

△5二飛

▲7六歩△1四歩▲5六歩△5四歩▲5八飛△5二飛

 後手が位取りを嫌う順。▲5八飛に△3四歩は▲2二角成△同銀(△同飛)▲5三角で先手に馬が出来るので、△3四歩を突く前に5三をカバーする必要がある。この場合は相中飛車で対抗。

相振り飛車、対抗形

相振り飛車 対抗形

△6二銀

▲7六歩△1四歩▲5六歩△5四歩▲5八飛△6二銀

 居飛車で対抗。以下、▲5五歩△同歩▲同角△4二玉が一例。

対抗形

対抗形

▲7八飛(▲6八飛)

△1五歩

▲7六歩△1四歩▲7八飛△1五歩

 居飛車相手に突き越すのは気が引けるが、振り飛車になるなら1筋は突き越してみたくなる。その分手は遅れるわけで、先手は中央でリードを狙う手を指したい。

相振り飛車、対抗形

相振り飛車 対抗形

▲1六歩

△3四歩

▲7六歩△1四歩▲1六歩△3四歩

 ▲7六歩△3四歩に1筋の突き合いを入れた局面。

△8四歩

▲7六歩△1四歩▲1六歩△8四歩

 ▲7六歩△8四歩に1筋の突き合いを入れた局面。
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6-5. ▲7六歩△5四歩

▲7六歩△5四歩
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 初手▲5六歩の後手版。2手目△5二飛でもほぼ同じ。
 かつては原始中飛車といわれプロにはほとんど顧みられない手であったが、2000年代に入ってゴキゲン中飛車が流行するに従い、採用数が増加した。

 顧みられるようになった原因は、3手目▲6八玉がゴキゲン中飛車封じだというところに始まる。▲7六歩△3四歩▲6八玉に△5四歩と突くと▲2二角成~▲5三角で馬を作られてしまう。
 しかし2手目△5四歩と指せば、▲6八玉には△5二飛としてから△3四歩を突けばゴキゲン中飛車に出来る。つまり△5四歩は「どうしてもゴキゲン中飛車にしたい」場合の手なのである。

2手目

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

△5四歩

▲2六歩

△3四歩

▲7六歩△5四歩▲2六歩△3四歩

 ▲7六歩△3四歩▲2六歩△5四歩と同じ局面。

△5二飛

▲2五歩

△3四歩

▲7六歩△5四歩▲2六歩△5二飛▲2五歩△3四歩

 ▲7六歩△3四歩▲2六歩△5四歩▲2五歩△5二飛と同じ局面。

△3二金

▲7六歩△5四歩▲2六歩△5二飛▲2五歩△3二金

 ゴキゲン中飛車の定跡に持ち込みたくない場合の指し方。先手に2筋を切らせ、後で△5五歩~△5四飛から△2四飛と飛車をぶつけて指す含みがある。

対抗形(後手中飛車)

対抗形

▲6八玉

△5二飛

▲7八玉

△3四歩

▲7六歩△5四歩▲6八玉△5二飛▲7八玉△3四歩

 初めに解説したように、3手目▲6八玉には△5二飛としてから△3四歩を突く。これでゴキゲン中飛車が指せる。

対抗形(後手中飛車)

対抗形

▲5六歩

△5二飛

▲4八銀

△3四歩

▲7六歩△5四歩▲5六歩△5二飛▲4八銀△3四歩

 先手が位取りを嫌った順。この後はいつでも△5五歩があるので、駒組みには気を遣う展開か。

対抗形(後手中飛車)

対抗形

▲5八飛

△3四歩

▲7六歩△5四歩▲5六歩△5二飛▲5八飛△3四歩

 相振り飛車の一例。

相振り飛車

相振り飛車

△8四歩

▲7六歩△5四歩▲5六歩△8四歩

 ▲7六歩△8四歩▲5六歩△5四歩と同じ局面。

▲7八飛

△5二飛

▲7五歩

△5五歩

▲7六歩△5四歩▲7八飛△5二飛▲7五歩△5五歩

 三間飛車対中飛車での相振り飛車。

相振り飛車

相振り飛車

△3四歩

▲6八銀

△3二飛

▲7六歩△5四歩▲7八飛△3四歩▲6八銀△3二飛

 中飛車ではなく、相三間飛車で戦う。

相振り飛車

相振り飛車

△4二玉

▲7六歩△5四歩▲7八飛△4二玉

 先手の三間飛車を見て、居飛車にも出来る。ただし、△5四歩がいずれ石田流から▲9七角とされたときに自陣に直射してしまう手だという見方もできる。

対抗形

対抗形
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6-6. ▲7六歩△3二飛

▲7六歩△3二飛
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 従来、後手で石田流を目指す際は▲7六歩△3四歩▲2六歩△3五歩であったが、▲6八玉や▲5六歩の早石田封じに加え、普通に▲2五歩と突かれても△3二飛が成立しないことがわかり、4手目△3五歩自体が無理筋と考えられるようになった。こうした後手石田流の危機に挑むのが、この2手目△3二飛である。

 この戦法の特徴は、3手目が▲2六歩のときに、△3四歩ではなく△6二玉と上がる点である。以降の変化が、ゴキゲン中飛車やダイレクト向かい飛車といった、2000年代の積極的な振り飛車の発想を取り入れたものとなっている。

 2007年に三段編入試験を受けて奨励会に再入会した今泉健司は、この戦法で奨励会員として史上初の升田幸三賞(2007年度)を受賞した。
 今泉は規定の2年(4期)で三段リーグを抜けられず退会するが、2014年には再度の好成績を挙げ、プロ編入試験を受験し合格。2015年4月からプロ棋士(フリークラス編入)となった。

 先手がこの形を避けるには、初手に▲2六歩と突けばよい。
 初手▲2六歩に△3二飛は、すぐ▲2五歩と突かれて次の▲2四歩△同歩▲同飛がどう頑張っても受からない。

2手目

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

△3二飛

▲2六歩

△6二玉

▲2五歩

△3四歩

▲7六歩△3二飛▲2六歩△6二玉▲2五歩△3四歩

▲7六歩△3二飛▲2六歩△6二玉▲2五歩△3四歩
 骨子となる変化。4手目△6二玉の場合、△3四歩を突くタイミングは▲2五歩に合わせる。ここで▲2四歩と▲2二角成に分かれる。
  • (1)▲2四歩は△同歩▲同飛△8八角成▲同銀に、
    • (a)△2二飛でも
    • (b)△3三角でも後手が指せる。
  • (2)▲2二角成△同銀▲6五角には△7四角と打ち、
    • (a)▲4三角成△4七角成▲5八金右△7四馬以下、
    • (b)▲7四同角△同歩▲7五歩△同歩▲6五角には△7六角▲同角△同歩▲6五角△5二玉▲8三角成△7七歩成以下で、互角。
  • (1)と(2)、先手がどちらの変化も自信なければ
    (3)▲6八玉ということになるが、△7二玉▲7八玉△3五歩で後手が升田式石田流の形に出来る。

対抗形

対抗形

▲6八玉

△7二玉

▲7六歩△3二飛▲2六歩△6二玉▲6八玉△7二玉

 5手目が▲6八玉のような手であれば、△7二玉と囲っておき角交換~▲6五角の筋を消しておく。以下▲2五歩に△3四歩と突き、▲7八玉△3五歩で升田式石田流だ。

対抗形

対抗形

△4二銀

▲2五歩

△3四歩

▲7六歩△3二飛▲2六歩△4二銀▲2五歩△3四歩

▲7六歩△3二飛▲2六歩△4二銀▲2五歩△3四歩
 4手目△4二銀は、2011年5月の竜王戦1組▲木村一基△佐藤康光で出現した佐藤康新手。升田式石田流より、角交換振り飛車を視野に入れた手である。
  • (1)▲2四歩△同歩▲同飛には、△8八角成▲同銀△3三角を用意している。以下、
    • (a)▲2一飛成には△8八角成▲2三角△3一飛。
    • (b)▲2八飛には、
      • (ア)△2七歩▲7八飛△2二飛▲3八金と進行した実戦あり。
      • (イ)△2六歩▲2四歩△2七歩成▲同飛△8八角成▲2三歩成△3一飛もある。
  • 先手が自重して
    (2)▲6八玉と囲う手には、△8八角成▲同銀△2二飛で角交換振り飛車にして戦う。

対抗形

対抗形

▲6八玉

△3四歩

▲7六歩△3二飛▲2六歩△4二銀▲6八玉△3四歩

 4手目△4二銀の場合は、▲6八玉にも△3四歩と突く。以下、
  • (1)▲2五歩には△8八角成▲同銀△2二飛で、角交換振り飛車に転換する。
  • (2)▲7八玉と指されたときがひとつ問題で、以下△6二玉▲2五歩に
    • (a)△3三角が第一号局の実戦だが、敢行されなかったものの、△3三角には▲同角成が考えられる。
      • (ア)△同銀なら▲6五角と打つ筋があり、△7二銀▲4三角成△2二飛が一例。
      • (イ)△同桂なら▲2四歩がある。以下、△同歩▲同飛△4五桂の乱戦か。
    • この筋を避けるなら△3三角に代えて、
      (b)△8八角成▲同玉△2二飛だが、手順に▲同玉と取られるのをどう思うか。

対抗形

対抗形

▲9六歩

△9四歩

▲2六歩

△6二玉

▲7六歩△3二飛▲9六歩△9四歩▲2六歩△6二玉

 先手の工夫。端を受けたら▲2六歩と突き、△6二玉に▲2五歩△3四歩▲2二角成△同銀▲6五角△7四角▲4三角成の筋を敢行。その際に、▲9五歩△同歩▲9二歩△同歩から飛車を取って▲9一飛と打つ筋がある。大舞台では2008年7月の王位戦第2局▲深浦康市△羽生善治で出現。現在この変化は先手が指せると考えられている。

対抗形

対抗形

△6二玉

▲9五歩

△7二玉

▲7六歩△3二飛▲9六歩△6二玉▲9五歩△7二玉

 後手は端を受けると上記の急戦を仕掛けられてしまうので、受けずに囲いを急ぐのが有力。端を詰められているため、後手は穴熊に潜ることが多い。

対抗形

対抗形

▲7五歩

△3四歩

▲7八飛

△7二金

▲7六歩△3二飛▲7五歩△3四歩▲7八飛△7二金

 (出だしは▲7六歩△3四歩▲7五歩△3二飛だったが)2009年2月A級順位戦▲鈴木大介△藤井猛の進行。▲7八飛で▲2二角成△同銀▲6五角は△5四角▲8三角成△8七角成の乱戦模様。

相振り飛車

相振り飛車

▲7七角

△6二玉

▲8八飛

△7二銀

▲7六歩△3二飛▲7七角△6二玉▲8八飛△7二銀

 ▲7七角は相振り飛車を志向した手。後手は△6二玉~△7二銀から△7一玉まで玉を囲ってしまい、それから△3四歩と突いていく作戦が多い。

相振り飛車

相振り飛車
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6-7. ▲7六歩△7四歩

▲7六歩△7四歩
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 初手▲3六歩の後手版。初手▲2六歩に対して△7四歩は▲2五歩△3二金▲2四歩△同歩▲同飛で歩損が確定するので、初手▲7六歩専用である。
 1990年代前半、中村修が連採して話題となった。

 2009年にプロ棋士となった澤田真吾が、▲7六歩△3四歩▲2六歩△3二金▲7八金の出だしで△7四歩と突き、澤田流といわれている。根本にあるのは下のチャート一番上の変化である。
 また▲7六歩△3四歩▲2六歩の4手目で△7四歩と突く順もあり、2013年4月の第1回電王戦第3局で後手のツツカナが指した手として知られる。
 △7四歩をあとから突く理由には、どちらも2手目△7四歩に▲7八飛と無難に受けられる筋を消していることがあるだろう。現在は2手目△7四歩は少なく、4手目または6手目に突く方が多い。

2手目

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

△7四歩

▲2六歩

△3四歩

▲7八金

△3二金

▲7六歩△7四歩▲2六歩△3四歩▲7八金△3二金

▲7六歩△7四歩▲2六歩△3四歩▲7八金△3二金
 お互いに▲7八金△3二金と備えた形が基本形。
  • (1)▲2五歩には△7二飛と寄っておき、▲2四歩△同歩▲同飛には△7五歩と突っかける。
    • (a)▲7五同歩△同飛▲6九玉か、
    • (b)▲3四飛か。どちらも相掛かり調の乱戦になる。2手目でも4手目でも6手目でも、△7四歩と突いて指したいのはこういう将棋である。
    (2)先手が2筋の交換を保留し、▲6九玉~▲4八銀~▲5六歩~▲5七銀から厚みを作って指す順も考えられる。

居飛車力戦

居飛車力戦

▲2五歩

△6二銀

▲7六歩△7四歩▲2六歩△3四歩▲2五歩△6二銀

▲7六歩△7四歩▲2六歩△3四歩▲2五歩△6二銀
 △6二銀は『将棋世界』2013年8月号の『イメージと読みの将棋観2』で鈴木大介が明かした作戦。関西の奨励会で指されており、都成流と呼ばれているらしい。都成とは、その後プロ棋士となった都成竜馬のことである。
  • (1)▲2四歩△同歩▲同飛に、次の▲2三飛成を受けない△7三銀が驚きの手。鈴木によればこの時点で先手ハマり、中村太地はほぼ互角と評している。ただし、このあとどう進めたら先手がハマっているのかまでは明かされていない。
     △7三銀▲2三飛成の局面でソフトにかけると、△8八角成▲同銀△2二飛とぶつけ、▲2四歩に
    • (a)△2三飛▲同歩成△6二玉まで進めてほぼ互角と出してきた。
    • 他には、
      (b)△3三角や、
    • (c)△3二金が候補手であった。
  • ▲2四歩を見送るなら、
    (2)▲4八銀や、
  • (3)▲7八金が考えられる。特に▲7八金は、この進行に限らず角交換から技をかける筋がある将棋では手堅い手だ。後手の構想は△7三銀から△6四銀と銀を繰り出していくのが一例。

 ▲2四歩~▲2三飛成で悪くならないなら後手のやりようは色々あるが、初出から3年近く経過した2016年時点でもこの出だしを解説した棋書はなく、自分で研究するしかない。狙うのであれば、▲7六歩△3四歩▲2六歩に△7四歩と突いて指すほうが誘導しやすいだろう。

居飛車力戦

居飛車力戦

△7二飛

▲7六歩△7四歩▲2六歩△3四歩▲2五歩△7二飛

 ▲7六歩△7四歩▲2六歩△7二飛▲2五歩△3四歩と同じ局面。

△7二飛

▲2五歩

△3四歩

▲7六歩△7四歩▲2六歩△7二飛▲2五歩△3四歩

▲7六歩△7四歩▲2六歩△7二飛▲2五歩△3四歩

居飛車力戦

居飛車力戦

△7五歩

▲7六歩△7四歩▲2六歩△7二飛▲2五歩△7五歩

 後手から先に歩を交換しに行くと、▲7五同歩と取られる。そこですぐ△7五同飛は▲2四歩で大失敗。△同歩は▲2三歩で終了、取らないのも▲2三歩成がある。
 したがって後手は△3四歩や△3二金で角頭を受ける必要があるが、先手は▲7八金と同調する手も、▲7八飛で歩得を主張する手もある。この選択肢を与える分だけ、6手目に△7五歩と交換しに行くのは損である。

居飛車力戦

居飛車力戦

▲5五角

△3四歩

▲8二角成

△同銀

▲7六歩△7四歩▲5五角△3四歩▲8二角成△同銀

 ▲5五角と飛び出して気持ちがいいようだが、実は先手が乗せられている形。
 △3四歩に▲2二角成は手損で何をしているかわからない。取るなら飛車の▲8二角成だが、△同銀▲8八銀に△9五角が狙いの一手。▲7七桂なら△同角成右▲同銀△同角成▲6八金△9九馬で、銀桂香の3枚換え。それが嫌なら△9五角に▲7七飛(▲8六飛)と打つしかないが、それもまたひどい形。

奇襲

奇襲

▲7八飛

△7二飛

▲5五角

△8二銀

▲7六歩△7四歩▲7八飛△7二飛▲5五角△8二銀

 角成を受けて普通に見えるが、▲7五歩△同歩▲同飛の強手がある。以下△7五同飛▲8二角成△3四歩▲7七歩△7三桂▲6六銀で、△7四飛には▲8三馬、△8五飛には▲7三馬△6二金▲9一馬の3枚換えで先手よし。

居飛車力戦

居飛車力戦

△3四歩

▲7六歩△7四歩▲7八飛△7二飛▲5五角△3四歩

 3手目に▲5五角と出た際の手を応用する。以下▲9一角成△9九角成▲8一馬△8九馬とお互い桂香を取り合って一局。

居飛車力戦

居飛車力戦

▲4八玉

△4二玉

▲7六歩△7四歩▲7八飛△7二飛▲4八玉△4二玉

 1993年10月棋王戦▲南芳一△中村修の進行。▲5五角は乱戦で後手の臨むところということか。

対抗形

対抗形
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6-8. ▲7六歩△4四歩

▲7六歩△4四歩
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 「パックマン」といわれる奇襲戦法の出だし。
 わざと歩を取ってくださいというわけ。名前の由来は、4四の歩を角がパクッと食べるようだから、といわれる。
 6手目以降の解説はWikipedia - 4四歩パックマンが案外詳しい。

 2020年になり、ついにプロがパックマンを指した。ただし2手目△4四歩ではなく一工夫あり、指したというか、パックマンの筋を応用したというかは難しいところである。
 指したのは山崎隆之。1号局は2020年3月の▲山崎△久保利明戦で、先手番で▲9六歩△9四歩▲7八銀と指し、後手の△3四歩に▲6六歩と突いた。△6六同角なら▲6八飛でパックマンの変化(△5七角成▲7六歩△2二銀▲1五角△3三飛…)に持ち込む。一段落したときに、普通のパックマンと比べて自陣が▲7八銀型でしっかりしているというのが主張らしい。久保は▲6六歩を取らず△4二銀と指し、▲6七銀から力戦になった。

 歩を取った将棋の1号局は、2020年4月放映のNHK杯▲西川和宏△山崎戦。▲7六歩△1四歩▲1六歩△3二銀▲7八飛の局面で山崎が△4四歩と突いた。
 西川は▲4四同角を敢行。以下△4二飛▲5三角成に△4七飛成を選び、以下▲4八金△4六龍▲6三馬△7二金▲6四馬△4三龍という力戦になっている。なお、△4七飛成に代えて△3四歩と突き、▲4二馬△同金▲8八銀なら△4五角(習いある△9五角は、この場合▲4八玉とかわされてしまい大損)という将棋もありうるようだ。

2手目

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

△4四歩

▲同角

△4二飛

▲5三角成

△4七飛成

▲7六歩△4四歩▲同角△4二飛▲5三角成△4七飛成

 以下▲6三馬△7二銀▲3六馬で局面を収めれば歩得が残って先手指しやすいとされる。

パックマン

奇襲

△3四歩

▲7六歩△4四歩▲同角△4二飛▲5三角成△3四歩

 実はこちらが本筋の変化。以下、
  • (1)▲4二馬△同銀▲8八銀△9五角▲7七飛と、
  • (2)▲8八銀△4七飛成▲7五馬に分かれる。

パックマン

奇襲

▲2六歩

△3四歩

▲7六歩△4四歩▲2六歩△3四歩

 △4四歩を▲同角と取る変化が「局面の良し悪しはともかく相手の思い通りなので嫌だ」という場合は、歩を取らないことになる。一般的な▲2六歩に△3四歩と突けば、▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩と同形に戻る。

対抗形、矢倉、居飛車力戦

対抗形 矢倉・雁木 居飛車力戦

△4二飛

▲7六歩△4四歩▲2六歩△4二飛

 ▲2六歩に対して後手が4手目を突っ張るとすれば、△4二飛という手が考えられる。以下▲2五歩には△3二金で一局。

対抗形

対抗形
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7. 初手▲2六歩への特殊な2手目

7-1. ▲2六歩△6二銀

▲2六歩△6二銀
(KIFファイルのダウンロード)

 1994年9月、NHK杯で先手の畠山鎮に対し羽生善治が試みたことで有名。
 当時の羽生は、▲7六歩に△6二銀は5局指したが、▲2六歩に△6二銀はこの1局だけだった。しかし2018年6月、名人戦第6局▲佐藤天彦△羽生という大舞台で、2勝3敗と追い込まれた羽生は24年ぶりにこの出だしを指した。(結果は先手勝ち)
 また、英春流の鈴木英春アマは、初手▲2六歩にも△6二銀と上がり力戦に持ち込む。

 ▲7六歩△6二銀▲2六歩△3二金と指すのと同じように、最初から先手に2筋の歩を交換させて戦うことを想定している。次に▲2五歩と突かれると△3二金と上がらざるを得ないため、そこだけ考えると初手▲2六歩に△3二金と指しても同じところに行き着くといえる。
 正直、2手目が△6二銀でも△3二金でも、先手の3手目はかなりの率で▲2五歩だと思う。そこで手を選べるのだから、2手目△3二金のほうが飛車も振れるので選択肢は広い。それでも英春流が2手目△6二銀と上がるのは、もはやロマンとしかいいようがない話なのではなかろうか。

2手目

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

△6二銀

▲2五歩

△3二金

▲2四歩

△同歩

▲2六歩△6二銀▲2五歩△3二金▲2四歩△同歩

 以下▲2四同飛△2三歩に飛車を引く。早々に先手が飛車先を切ってくれるなら、後手としては望んだ展開である。

居飛車力戦

居飛車力戦

▲7六歩

△4一玉(△1四歩)

▲2六歩△6二銀▲2五歩△3二金▲7六歩△4一玉(△1四歩)

 後手は、「先手に飛車先を切らせたくて」△3二金と上がっているので、△6二銀~△4一玉(△1四歩)と、とにかく△3四歩は突かずに待つことが多い。
 先手は相手の誘いに乗るかどうか。

居飛車力戦、矢倉

居飛車力戦 矢倉・雁木

△3四歩

▲2六歩△6二銀▲2五歩△3二金▲7六歩△3四歩

 以下▲2四歩△同歩▲同飛なら△4一玉または△2三歩。△8八角成▲同銀△3三角は▲2一飛成と踏み込まれ、△6二銀が壁になって「指さない方が良かった」手になってしまう。

居飛車力戦

居飛車力戦

△7四歩

▲2六歩△6二銀▲2五歩△3二金▲7六歩△7四歩

 ▲7六歩△6二銀▲2六歩△3二金▲2五歩△7四歩と同じ局面。
 2018年6月の第76期名人戦第6局▲佐藤天彦△羽生善治の進行。

▲7六歩

▲2六歩△6二銀▲7六歩

 ▲7六歩△6二銀▲2六歩と同じ局面。
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7-2. ▲2六歩△3二金

▲2六歩△3二金
(KIFファイルのダウンロード)

 同じ2手目△3二金でも、▲7六歩に指すのと▲2六歩に指すのでは全く意味が違う。
 ▲7六歩△3二金は「振り飛車を指してみろ」という挑発である。先手が挑発に乗らず居飛車を指した場合は、普通の居飛車定跡形に戻せる。しかし初手▲2六歩に△3二金と上がれば、▲2五歩と突かれるともはや2筋の交換は防げない。つまり、後手は矢倉や角換わりで戦う気はないのである。

 2000年6月の名人戦第6局▲丸山忠久△佐藤康光がこの出だし。当時の丸山は角換わり腰掛け銀と△8五飛戦法のスペシャリスト。▲2六歩に△8四歩では▲7六歩とされ、普通の角換わりの出だしになってしまう。▲2六歩に△3四歩でも▲7六歩で、△8四歩の横歩取りはやはり丸山の手の内だ。
 そこで佐藤は、初手▲2六歩に△3二金。もし▲2五歩を突けば△8四歩で相掛かりに出来る。しかし、丸山はこれでも▲7六歩と突いたので、結局4手目は△8四歩と突いて角換わりの出だしに合流。これまでの丸山先手番の将棋と同様、角換わり腰掛け銀に進んだ。(*)

 プロでは、初手▲9六歩でも名が出た力戦派・田丸昇の棋譜が多い。▲2五歩に△8四歩とはほぼ突かず、▲7六歩△6二銀▲2六歩△6二銀同様、一方的に2筋を切らせて力戦にする指し方がほとんどである。
 したがって全体のイメージは、相掛かりにするための指し方というより力戦に持ち込むための指し方というほうが強い。


 この名人戦は、佐藤が丸山の得意戦法を全て受けて立った番勝負として有名である。7局全て、丸山先手なら角換わり腰掛け銀、後手なら横歩取り△8五飛だったのだ。しかし挑発の意を込めて△3二金と指したのであれば、「全て受けて立った」という美談めいた解釈が、「実はイラッとしていた」という現実的な解釈に変わってしまう。当時の記事も手元になく、実際どういう心境で佐藤が2手目△3二金を指したのかはわからない。▲2五歩と突いてきたときのことは考えつつも、「これでも▲7六歩と突くんだろうな、ああ突きました、そうですよね」と思っていたのかもしれない。

2手目

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

△3二金

▲2五歩

△1四歩

▲2四歩

△同歩

▲2六歩△3二金▲2五歩△1四歩▲2四歩△同歩

 この出だしの4手目△1四歩は、プロでは田丸昇が後手でよく指していた。
 以下▲2四同飛に、
  • (1)△2三歩で飛車を引かせる。あとは構想力の勝負。
  • 一応△1四歩と突いているので△2三歩を急いで打つ必要はなく、
    (2)△6二銀や、
  • (3)△8四歩と指す手も考えられる。ただ、そこで飛車を引かれたら結局△2三歩を打つことになる。

居飛車力戦

居飛車力戦

▲7六歩

△6二銀

▲2六歩△3二金▲2五歩△1四歩▲7六歩△6二銀

 先手が飛車先交換を急がない順。他に後手の待つ手は△4一玉、△4二銀、△9四歩、△8四歩。

居飛車力戦、矢倉

居飛車力戦 矢倉・雁木

△3四歩

▲2六歩△3二金▲2五歩△1四歩▲7六歩△3四歩

 ▲2四歩と行けば△同歩▲同飛△2三歩で、▲3四飛は△8八角成~△4五角があるので飛車は引くところ。2手目△3二金からの指し方を考えると、先手は急いで歩交換に出るかどうかは微妙なところだ。
 先手が▲7八金と待てば、後手は△8八角成で一手損角換わりもある。

居飛車力戦、矢倉

居飛車力戦 矢倉・雁木

△6二銀

▲2六歩△3二金▲2五歩△6二銀

 ▲2六歩△6二銀▲2五歩△3二金と同じ局面。

△8四歩

▲2六歩△3二金▲2五歩△8四歩

 ▲2六歩△8四歩▲2五歩△3二金と同じ局面。3手目の▲2五歩を誘った意味はある。

△3四歩

▲2六歩△3二金▲2五歩△3四歩

 ▲2六歩△3四歩▲2五歩△3二金と同じ局面。3手目の▲2五歩を誘った意味はある。

▲7六歩

▲2六歩△3二金▲7六歩

 ▲7六歩△3二金▲2六歩と同じ局面。
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7-3. ▲2六歩△5二飛

▲2六歩△5二飛
(KIFファイルのダウンロード)

 中飛車を志向する手。いわゆる原始中飛車である。
 3手目に▲2五歩と突くと、先手は飛車先交換の権利を得る。したがって、後手は飛車先交換させるのは織り込み済みで指すことになる。

 一口に原始中飛車と呼ぶものの、その形は様々である。
 まず、居飛車側の指し方によって5筋の関係(位取りか突き合うか)が違ってくる。そして、玉は囲うのか囲わないのか、最初に囲うのか後で囲うのか、囲うとしたらどこまで囲うのかは、人によって違う。Wikipedia - 原始中飛車でも、載っている図面の形と、文章で触れられている升田幸三の実戦例の形は全然違う形である。
 様々ある中で共通点を探し出すとすれば「中飛車に振って何が何でも5筋を攻める」くらいしかない。

2手目

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

△5二飛

▲2五歩

△3二金

▲2四歩

△同歩

▲2六歩△5二飛▲2五歩△3二金▲2四歩△同歩

 後手の原始中飛車。以下▲2四同飛に△2三歩と打って飛車を引かせるか、ちょっとひねれば△1四歩か。
 このあとは5筋を伸ばして、5四に飛車を浮き△2四飛とぶつける順、△1三角の端角中飛車で中央突破を目指す順などが考えられる。

対抗形

対抗形

▲7六歩

△5四歩

▲2六歩△5二飛▲7六歩△5四歩

 ▲7六歩△5四歩▲2六歩△5二飛と同じ局面。

△3四歩

▲2二角成

△同銀

▲2六歩△5二飛▲7六歩△3四歩▲2二角成△同銀

 △3四歩と突くのは角交換されて▲6五角で、4三と8三が一気には受からない。△3四歩を突くとすればどちらかをカバーしてから。

後手失敗

対抗形
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7-4. ▲2六歩△その他

2手目

3手目

4手目

5手目

6手目

戦型

△1四歩

▲2五歩

△1三角

▲4八銀

△5二飛

▲2六歩△1四歩▲2五歩△1三角▲4八銀△5二飛

▲2六歩△1四歩▲2五歩△1三角▲4八銀△5二飛
 △1四歩~△1三角~△5二飛は、後手の端角中飛車。
  • (1)▲1六歩とすぐ端角を咎めに行く手には、
    • (a)△1二香と上がるのがひとつの手筋。ただし、ちゃんと指すと先手が良くなる。
      • (ア)▲1五歩△同歩▲同香には、△3五角と飛び出す。
        • ▲1二香成は△同飛でやぶへび。▲1七歩などと受けると、△2六香と打たれて飛車が助からなくなってしまう。
        • したがって先手は、
          ▲1四歩と打つ方が優る。これに対しては、
          • △5四歩と突いて角の動きを楽にしておくか、
          • △1六歩と垂らすか。
      • 先手は△3五角と飛び出してくる筋を踏まえ、
        (イ)▲1五歩△同歩のあと、一旦▲3六歩と突くのが良い。
         狙いの△3五角を消されると、次に▲1五香があるため後手は△2二角と引くしかない。そこで▲2四歩△同歩▲同飛と行き、△3二金に▲2三歩△1一角を決め、▲1五香と走って決まっている。△1五同香は▲1二歩で角が死に、△1三歩と頑張るのも▲同香成△同桂▲1四歩で収拾がつかず、後手敗勢だ。
    • したがって、後手は端を攻められる前に
      (b)△3五角と飛び出すほうがマシ。ただし、以下▲3六歩△4四角と追われて角を中央に利かす将棋ではなくなり、△1二香と上がった意味も薄れてくる。
  • (2)▲3六歩とあらかじめ突いておく手もある。△3五角と出られなくなった後手は、5筋に狙いを定めるか、角を戻るかだ。

対抗形

対抗形

△2二飛

▲2六歩△1四歩▲2五歩△1三角▲4八銀△2二飛

 ソフトにかけると、飛車を振るなら△2二飛を候補に挙げる。端角向かい飛車というところか。ちなみに端角向かい飛車は、江戸時代の右香落ち下手に実戦例がある。右香落ちなら角頭を攻められないからだ。
  • (1)▲1六歩には、△2四歩と動く。
    • (a)▲同歩なら△同飛で飛車交換を迫り、
      • (ア)▲同飛△同角と飛車先交換に応じるか、
      • (イ)▲2五歩と飛車交換を拒否するか。
    • (b)▲1五歩と初志貫徹で端を攻める手には、△同歩▲同香△2五歩▲1三香成△同香が一例。後手は次に△1七歩と垂らして、▲1九歩と受けたら歩切れを突いて△2六香が狙い筋の一つ。
  • すぐ△2四歩があるのなら▲1六歩は無駄と考えれば、
    (2)▲6八玉や、
  • (3)▲7六歩が候補。この場合、後手は△6二玉~△7二玉と玉を安全圏に移動させてから△2四歩が基本の狙いとなる。

対抗形

対抗形

△3二金

▲2六歩△1四歩▲2五歩△3二金

 ▲2六歩△3二金▲2五歩△1四歩と同じ局面。

△5四歩

▲2五歩

△3二金

▲2四歩

△同歩

▲2六歩△5四歩▲2五歩△3二金▲2四歩△同歩

 ▲7六歩△5四歩はゴキゲン中飛車の出だしだが、▲2六歩△5四歩ではそうならない。▲2五歩に△5二飛と振ると、▲2四歩△同歩▲同飛で飛車成りが受からないので、4手目は△3二金と上がるしかないからだ。
 ▲2四歩△同歩▲同飛の局面でも、後手の手には制限がかかっている。
  • (1)△5二飛と中飛車にするのは、▲2三歩を打たれるので論外。
  • (2)△2三歩と打つのは、▲5四飛と歩をかすめ取られる。そこで△5二飛とぶつけるか△5二金と穏やかに指すか。どちらも歩損の上にまとめづらい形だ。
  • 5四の歩を取らせないためには、
    (3)△3四歩と突き、▲3四同飛と横歩を取らせて△5二飛、△5五歩、または△4四角と指す順が考えられる。なお、この△3四歩の筋は仮に2手目を△4四歩・△6四歩・△7四歩と指した場合でも同じように使える。「一歩損でも先手が飛車の動きで手損するのでトントン」と考えられるなら、指してもいいだろう。

対抗形

対抗形

▲7六歩

▲2六歩△5四歩▲7六歩

 ▲7六歩△5四歩▲2六歩と同じ局面。
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【参考サイト】
 
【将棋世界・掲載】
【棋書】(2015年以降)