マッキーと雁木



19th February 2004




雁木を考えたくなった理由

 1月末から2月初めまで、マッキーが来ることが多かった。
 なので、自然とマッキーの将棋を1日2局くらい見た。
 マッキーの師匠はパンダちゃんなのだが、パンダちゃんよりマッキーの将棋を多く見ているのは間違いない。

 マッキーの採用する戦法は、相手が居飛車なら雁木、振り飛車なら相振り。
 序盤の角交換が苦手なマッキーにとって、どちらも最初は角道を止める戦法なので、その点ではマッキーらしい取り合わせと言える。どちらも上部から攻める戦いであるので対抗形よりは指しやすいと感じたのかもしれない。
 実際、あまり経験が多くないマッキーの相振り飛車だが、えばぁが思っていたよりうまい。

 しかし、マッキーが本当にやりたい、極めたい(ここまで思っているかどうかは知らない)と思っているのは間違いなく雁木のほうである。
 雁木はマッキーがパンダちゃんから授かった、いわばマッキーの「運命の戦法」である。
 まぁ、パンダちゃんに雁木を教わったときに「あぁ、こんな私にこんな簡単で破壊力のあるかっこいい戦法を教えてくれるなんて!!!」 とでも思ったに違いない。
2005.May追記
 実は違うらしい。パンダちゃんが教えたのは右四間で、雁木は独学だそうな。なぜ雁木だったのかは不明。右四間つながりだからだろうか。矢倉の本と雁木の本ならどう考えても前者のほうがその辺に並んでいると思うのだが。
 また、どんな戦型でもマッキーは面白いほどに▲4八飛と回る。例えば4六を受けるのに、▲2六飛と▲4八飛なら絶対▲4八飛だ。

 めいじん  「矢倉にしろって。」
 皇帝  「どうしても▲7七角じゃないとだめなの?」
(初手から ▲7六歩 △8四歩 ▲6八銀 △8五歩 のときにマッキーは▲7七角と上がる)
 えばぁ  「それだったら向かい飛車に振ったら?」
 師匠  「小学生のときに指してたツノ銀にしろ!」
 ドクター  「雁木って、矢倉とか角換わりとかもわかってないとうまく指せないと思うよ」
 殿  「相居飛車で雁木はつらいじゃろう」

 えばぁが知っているだけでも、6人がマッキーにこんなことを言っている(笑)
 あの他人のことなんかどうでもよさそうな皇帝でさえ言っているところにちょっと注目していただきたい。
 右四間飛車についてもえばぁ、めいじん、師匠は同様にけなすようなことを言ったので(それだけが原因ではないのだが)、マッキーは右四間はやめたが、雁木はやめる気配はない。
 ここまでやめないということは、やはりマッキーにとって「雁木」という戦法は特別なものなのだ。

 そこまでマッキーが執着する「雁木」とは何ぞや。
 えばぁはそこに注目し、しばらくの間(50局くらい)こっそり雁木を指してみた。
 前書きがとても長くなったが、ここからが本題なのである。


雁木とは・・・ (発祥と由来)

 雁木囲いの創始者は檜垣是安(ひがき・ぜあん)と言うそうだ。
 江戸時代の人で、細かいことは省くがその後の名人に敗れ、吐血して死んでしまったと言うエピソードがある。
 また、「雁木」自体については、以下のリンク先を参照して欲しい。

雁木ってなんだろう?

 この「雁木」が、金銀4枚で作られる形に似ているから「雁木囲い」なのだそうだ。
 上のリンク先を参照してみると、雁木囲いの下にいる玉は「井戸端会議や遊び」をしているようだ。
 これはちょっと大発見だった。


初めに覚える雁木の使い方 (右四間&3手角)

 最初に覚える雁木の使い方は、矢倉早囲いに対して右四間を食らわせる順だろう。
 だいたいの本の矢倉側が、勝手に早囲いをしているのである。まるで矢倉早囲いは雁木に潰されるために存在するかのように。
 矢倉早囲いは角の移動を一手省略して囲えるが、二段玉で移動するため急戦に対して当たりが大きい。
 敵玉がわざわざ自分の攻撃する場所に近づいてくる。そこに破壊力抜群の右四間を食らわせるのだ。

 全てこうやって右四間で戦えれば楽なことはない。
 しかし、たった一手この手を指すだけで雁木に右四間をさせない対策があり、それをされると雁木使いは右四間をすることをためらう。
 その一手とは雁木を先手とすると、△6四歩である。
 この歩を突いておけば雁木は角道を通すことができず(無理やり通しても反動がきつい)、右四間はできない。

 なのでそれと平行して、雁木使いは「3手角」と言うのを基本で覚えさせられる。
 7七〜5九〜2六と3手使って角を左から右へと転回する作戦で、相矢倉でやろうとすると「4手角」になるのだが、雁木の場合7七を通ることができるので3手で2六まで移動できる。
 よって相手が右四間を嫌い△6四歩と突いた場合、雁木使いはだいたい3手角を目指すことになる。

 だいたいここまではインターネットで適当に検索すると出てくる攻め筋である。
 これだけを見せて「雁木は攻撃力抜群」と言う。

 対振り飛車対策は必要としても、居飛車相手にこれだけで勝てるならなんて楽な戦法だろう。


雁木(マッキー)の苦悩

 マッキーが雁木で苦労し始めたのは、前述の「▲7六歩 △8四歩 ▲6八銀 △8五歩 ▲7七角」の進行がちょくちょく実戦で現れるようになってからであった。
 この進行は、放っておくと引き角からの角交換が避けられない。
 『雁木は角交換に強い陣形』と言う触れ込みをどこかで見た気がするので、ここはマッキーに問題のあるところなのかもしれないが、初級者にとって角交換→打ち込みと言うのはかなりビクビクする。

 また、雁木はなんと単純な棒銀が天敵である。
 しかもマッキーのレベルでは「攻め=棒銀」と言うような人が多く、黙っていても棒銀をしてくるのだ。
 正確には押さえ込むことも可能なのだろうが、マッキーにそれを望むのは酷である。

 続いてよくやってくるのが右四間飛車。
 アマチュアに人気の右四間飛車も(定跡通りかどうかは別として)実戦で現れる確率が高く、しかも雁木に対して有効なのだ。
 (ちなみに今期の女流名人戦で、中井は清水の右四間に対し2局とも雁木の形で対抗。どちらも清水勝ちだったと思うが、中井は右四間には雁木がよいと思っているのだろうか。だったら『雁木は右四間に弱い』と言うのは再考の余地があるかもしれない。)

 そして最大の敵が、△4四歩を突かない人である。
 マッキーは基本的に右四間を狙いに行く。
 が、右四間飛車は△4四歩を狙う攻め方であり、△4四歩を突いてくれないと攻めになりづらい。

 角交換、棒銀、右四間、△4四歩不突き。
 雁木、いやマッキーの今見えている敵は今のところ4つ。
 これは何を意味しているのか。

 そう、雁木は右四間と3手角だけで指せるシロモノなんかじゃなかったのである。


普通に感じたこと

 棒銀と右四間、そして角交換に関しては、はっきり言ってどうしようもない。
 相手がそうしてくるのは避けられないからである。ここはマッキーの成長を祈るしかない。

 △4四歩不突きに関しては、初めからマッキーが右四間ばかり目指すから悪いのである。
 △4四歩を突かないと矢倉にはできないのだから、「いつかは」突くのである。
 そうしないと玉形が不安定なまま戦いが進む。

 なので、△4四歩をつく素振りが見えない場合は2筋を突くのが雁木にとってもっとも良い手だと感じる。
 また、その時点で8割がた右四間は放棄すべきと思う。
 そして2筋をひとつ突いたときに△4四歩ならば、もちろん相手の攻め方にもよるが、思い切って▲4六銀・▲3七桂型(矢倉の攻撃型の主流)に組むのはどうだろう。
 舟囲いで構え、▲2五歩としたときにやっと△3三銀(角)と上がるような相手には、▲7九角から3筋の歩を換え、▲3六銀・▲3七桂型を作る。

 ・・・と、攻めに関しては相手を考えなければ山のように出てくる。
 しかしえばぁがそれより何より最初に感じるのは、えばぁが振り飛車党だからかもしれないが、「恐ろしく玉が薄い」と言うことである。

 現代将棋において「玉の堅さは正義」といわれる。
 それが穴熊の流行に顕著に現れており、プロでは角換わり腰掛銀で穴熊に組んだり、矢倉4六銀・3七桂でも矢倉穴熊にすると言う実戦例があるのだ。
 そういう時代の流れに反するように、6九玉型の雁木は恐ろしく薄い。
 なんせ、相手に飛車を渡したらほとんど終わりと考えていいほどである。
 8八玉まで移動しても、矢倉との差は歴然としている。
 マッキーは「角交換が・・・」とか「棒銀が・・・」と言うが、玉の薄さは気にならないのか本当にこっちが気になる。


・・・本当は・・・

 右四間と3手角だけで雁木が指せれば万々歳である。
 が、現実にそんなうまく行かないことはマッキーを見ていればわかる。

 えばぁはいろいろやってみて、雁木ってこういうものなのかな・・・と言うのを感じた。
 それは、「矢倉最前線の戦いについていけない人が、定跡外しも含めて雁木を使う」のではないのかと。
 玉は薄いものの、雁木特有の攻め筋もあれば、矢倉を応用した攻めも可能であるという幅の広さ。
 これが雁木の特徴であると。

 つまり雁木を指しこなすには矢倉もできないといけない。
 そういうものなんじゃないかなぁ・・・と、今えばぁは感じている。
 ぶっちゃけ、えばぁもうまく行かなかったのだ(笑)
 結局、ドクターが言っていることが合っているのではなかろうか。
 めいじんと皇帝は矢倉至上主義だし、えばぁと師匠は振り飛車党だから考えの違いこそあれ飛車を振れと言っているのであり、そして殿は序盤あんまり考えてないのである(笑)


実際の問題として考える

 えばぁの出した結論は結局「矢倉をやったら?」である。
 (序盤の話。マッキーの場合中盤・終盤の強化は言うまでもない。)

 だが何度も言うが、雁木はマッキーの「運命の戦法」なのである。
 『今更矢倉なんてやってられん!!!』と言うのがマッキーの気持ちであろう。
 だったらどうしたらいいのか。

 えばぁはあるとき、『筋違い角をされても振り飛車にする手順』を一生懸命考えたことがある。
 (▲4五角に△6二飛〜△4二飛はなしで)
 もちろんめいじんと師匠に「筋違い角にわざわざ飛車振らなくたっていいだろ」と笑われたが、ここは「ロマン」とか「振り飛車党のアイデンティティ」というやつの問題なのである。
 自分のことながら、日ごろ「ひとつの戦型しかできないってかっこ悪いじゃん」と言ってる人間には思えない言動だが、振り飛車生活もここまで来ると意地なのだ。

 と言うわけで雁木にこだわるマッキーも、自分なりの対策を考え出すべきである。
 本に載っているやつでも、ちょっと自分で考えてみたやつでも構わないのだ。
 「棒銀」「右四間」「角交換」「居角」「△6四歩」。
 これくらいは、今すぐとは言わないが、いつか考えてみるのもいいのではないだろうか。
 こだわるんだったらこれくらい行って欲しい。






後日談 (June.2004)

 ・・・なんて書きためていた直後、






マッキーは棒銀使いになった。(矢倉棒銀と対振り棒銀)






 なので今までお蔵入りしていたわけだが、ネタもないので出してみた。



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