解説されている戦法のアウトラインは以下。

<1.斜め棒銀▲6九金型>

   ▲2四歩突き捨てなし =居飛車×
→ ▲2四歩突き捨てあり =振り飛車×
→ ▲2四歩突き捨てあり+△3六歩打ち捨て =居飛車×
→ ▲2四歩突き捨てあり+△3六歩打ち捨て+新鷺宮定跡▲3九飛 =振り飛車×
→ ▲2四歩突き捨てあり+△4五歩〜△3七歩〜△3六歩 =優劣不明・研究課題

<2.▲4五歩早仕掛け>

  (▲6八金型)
   ▲4五歩〜▲3七桂〜▲2四歩△同歩▲4四歩△同銀▲4五歩に△5三銀 =振り飛車×
→ ▲4五歩〜▲3七桂〜▲2四歩△同歩▲4四歩△同銀▲4五歩に△4五同銀
    a. ▲4五同桂△8八角成▲同玉△4五飛・・・ =優劣不明(双方自信なし)
    b. ▲3三角成△同桂▲8八角△4三飛・・・ =優劣不明
→ ▲4五歩〜▲3七桂〜▲2四歩に△同角として、▲4四歩△同銀
    a. ▲4三歩△同飛▲2四飛△同歩▲3二角・・・ =▲6八金直△7四歩の交換が大きく、居飛車×?
    b. ▲4五歩△3三銀・・・ =居飛車×?
→ 主流が▲6九金型に移る

  (▲6九金型)
→ ▲4五歩〜▲3七桂〜▲2四歩△同歩▲4四歩△同銀▲4五歩に△4五同銀
        =▲4五同桂△8八角成の順で、振り飛車×
→ ▲4五歩〜▲3七桂〜▲2四歩に△同角として、▲4四歩△同銀▲4三歩△同飛▲2四飛・・・
        =郷田新手で、振り飛車×
→ ▲5七銀左戦法の基本図から▲4六歩には、振り飛車が△5四銀の玉頭銀を採るようになる =居飛車×?

<3.棒銀>

a. △4三金と上がる形 =振り飛車×?
b. △6五歩と伸ばす形 =振り飛車×?
c. △1四歩〜△5三角〜△4二金 =居飛車×
d. 居飛車がぎりぎりまで棒銀を明示しない形 =居飛車×?


 主流の変化だけ追うと、だいたいこんなニュアンスで書いてある。
 『×?』と言うのは『自信なさそう』『好んで飛び込む形ではなさそう』と言う感覚でつけた。

 斜め棒銀は、2月に指した森内との順位戦が最新の結論で、振り飛車指せるとなっている。(本人は逆転負けしたが)
 ただし△8八銀▲4九歩(森内戦は▲8八同玉△6九飛成▲7九銀と進行)△5一金引▲6一馬△8九銀▲同玉△6一金も結論は不明、研究課題としている。
 だが順位戦であの変化に突入したことからも、藤井としては、斜め棒銀には自信を持っているのではないかと思う。
 (だったら△8八銀▲4九歩△5一金引の対策も用意してるはずなので、何で書かないんだと言うのはある。やっぱり本職に関わるからだろうか。確かにその変化で1勝儲けたほうが本売るより早いかも。)

 ▲4五歩早仕掛けは、▲6九金型では藤井も玉頭銀に出る。▲6八金型は近頃実戦に出なくなっている。
 ▲6八金型は、藤井が自信を持っているかどうかはわからないが、居飛車側も自信なさげな書き方だ。
 実際▲羽生△森内の竜王戦第1局(▲6八金型で△2四同歩とし、b.の変化)観戦記に、木村(一基七段)が「この仕掛けは居飛車自信ない」と言ったように書いていたと思う。
 ▲6八金型で△2四同歩としてa.の変化は▲羽生△藤井の竜王戦だが、本書にある感想戦の羽生も自信なさげである。
 おそらく▲6八金型での▲4五歩早仕掛けは、振り飛車も嫌だが、実は居飛車もあまりいいとは思っていない感じがありありで、双方避けているのだろう。
 そして、自分でも避ける形だし相手からも避けられる形だから、今はあまり研究してないのかもしれない。
 よく見ればここの内容は2つの竜王戦の手順をなぞったに近いもので、▲羽生△森内戦を踏襲した手順の続く△2四同歩〜▲3三角成〜▲8八角〜▲2四飛(本譜手順)の結果図△6二金引としたのは、確か対局後の感想戦で出た順そのまんまだったと思う。

 ▲6九金型での早仕掛けは、玉頭銀が有力と書かれている。ただしさすがに明らかな振り飛車よしにはならず、『玉形の差で勝ちやすい』と言うニュアンスだ。
 ただし、初めて玉頭銀をやる人には、この本は難しいと思う。
 最近玉頭銀を取り上げた本には『杉本流四間飛車の定跡』と言う本があり、そちらのほうが基礎的なところから解説している。また、本書にはない順・ちょっと違う順の解説もある。端攻めに出る順などは明らかに杉本本のほうが詳しい。そもそも杉本本は玉頭銀に特化(厳密には右四間との二本立て)している本なので、基礎から学ぶには杉本本のほうがいいと思った。

 そして、棒銀にはあまり困っていなさそうだ。
 すごく手抜きに見える感想だが、この本を見る限り、どう考えても困ってなさそうにしか見えない。振り飛車に棒銀をする人も、ほとんど一定の人である。


 書いている内容が「形勢不明」が多いのは仕方がない。
 ここしばらく主流となっている形のため研究の蓄積量が多く、結論がはっきりしたところは指されず、残っていく局面はおのずと形勢不明になってしまう。

 次は藤井提唱の形である『△4三銀・△4一金型』の巻だ。
 △4三銀と上がっている時点で、関連性は3巻とのほうが高い。『△4三銀・△4一金型で、どうやって斜め棒銀・早仕掛け・棒銀・その他に対応していくのか』と言うのが焦点になるのかなと思う。
 あまり定跡化されている形ではないので期待大である。分厚いことを祈る。