| 【テレコム・レビュー TELECOM REVIEW 2000年2月15日発行】 |
| リレー随筆181 「ロマンはロマンスか?」
「何を血迷ったのか、その歳で!」と笑われそうであるが、実は女房に禁煙を誓って、それも半年間口説いてバイクを買ってしまった。それも1500CCの、Vツィンでは世界最大のバイクである。禁煙の方は、一週間で反故にしてしまったので、今もって女房からの信用はほとんどない。今から5年前のことである。 |
| 私が買ってから同じ職場で二人のリッターバイク仲間が増えた。一人はバイクのカタログをよれよれにして奥さんの同情を買うという作戦、一人は奥さんの小言を一週間我慢すればよいとタカをくくって買ってしまったという天も恐れぬとんでもない大胆不敵というか大雑把な同僚である。ことほど左様に、男のロマンを追い求めるということは、困難を極めるのである。 |
| それからは、歳とともに弱ってきた足腰を、股に感ずるバイクの鼓動で補っている。たまには三人で連れだってツーリングに出掛ける。たいがいは温泉とラーメンが目的。口の悪い同僚は、“とっつあんライダーズ”とか“ジジーズ”とかヌカス。でも、どんなにヌカサれてもこの歳になれば気にならない。 |
| 年に一回は、バイクにテントとか寝袋とかを山のように積んでソロツーリングに出掛ける。ジーンズにライダーズジャケット、首には赤いマフラー、レイバン風のサングラス、格好は一丁前、気分はブロンソンかマックィーン。 |
| 北に行くか南に行くかは気分次第。南の方に雲の切れ間があれば南。雨が降るのか槍が降るのか、それとも素敵な出会いが待っているのか。ウーン、格好いいなとアクセル全開。一回のツーリングで約千キロは走る。 |
| ゴルフも酒もギャンブルもやらず、何故バイクなのか。よく聞かれる。暗にゴルフもやらないのかという蔑んだトゲがある。自分でも理屈で考えたことがないからよく分からないが、多分「風」だと思う。風は世間の形式という呪縛を吹き飛ばしてくれる(また格好をつけてしまった)。 |
| 小心者(私のこと)がこの世間で暮らしていくには形式が多すぎる。組織、地域との付き合い、そして家族制度、これらは人為の形式である。人為が多すぎると偽りになる。 |
| 風は、偽りにまみれた小心者を形式という呪縛から解き放してくれる。 |
| 長野県小谷(おたり)村の蒲原温泉の露天風呂(洪水で流されて今はない)、ほてった体を清流にまかせたとき、無数の小魚が私の体毛をエサと間違って群がってきた。恐くなって上がったが、他には誰もいない川原に素っ裸の中年男の慌てた図は、今でも私の中で行雲の風となっている。 |
| 福島県会津地方大内宿の猫屋敷(私が勝手につけた)のお姐さん、あなたのさわやかさで、男のロマンがロマンスに変わってしまった。どうするイノウエ君。 |
| そんなに格好つけて、今日は何処まで行くの? |
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