大真実裁判 判決
(前半・当事者の主張)






※注意
この判決文は巻末資料を除くオリジナルの判決文書を正確に引用したものです
が、Webの性質上、いくつかの修正がなされています。
オリジナルの縦書を横書きにした他、レイアウト上の修正をしています。
読み易くするため、改行を加えてあります。
数字記号の丸1、丸2、丸3は<1>,<2>,<3>と表記しています。
また、関係者の本名及び住所は伏せています(筆者の名前を例外とする)。








     平成一一年五月一七日判決言渡 同日原本交付
     裁判所書記官

     平成一○年(ワ)第一五五号発売禁止等請求事件

     平成一一年三月二六日口頭弁論終結







判 決




原告 飛鳥昭雄

右訴訟代理人弁護士 H.S




被告 古関智也

被告 株式会社文化創作出版


右代表者代表取締役 M.G

右両名訴訟代理人弁護士 K.Y

              同  M.S

              同  Y.M


              同  A.I


              同  N.K







 



主 文



一  原告の請求をいずれも棄却する。


二  訴訟費用は原告の負担とする。












事実及び理由


 

第一  原告の請求



一  被告らは、被告古関智也著・被告株式会社文化創作出版発行、新書判、二二五頁の「飛鳥昭雄の大真実!?」と題する書籍の印刷、製本、発売又は頒布をしてはならない。

二  被告らは、既に印刷、製本、発売又は頒布がなされた、被告古関智也著・被 告株式会社文化創作出版発行、新書判、二二五頁の「飛烏昭雄の大真実!?」と題する書籍の廃棄をせよ。

三  被告らは、読売新開、朝日新間、毎目新聞及びサンケイ新間の各全国版に、 別紙記載の謝罪広告を別紙記載の条件で各一回、並びに被告株式会社文化創作 出版の出版物に析り込まれる出版案内に、別紙記載の条件で三回各掲載せよ。

四  被告らは原告に対し、五九九万円及びこれに対する平成一○年八月二二日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。



  


第二  事案の概要



 一 事案の骨子


 本件は、被告古関智也(以下「被告古関」という。)が執筆し、被告抹式会社文化創作出版(以下「被告会社」という。)が発行及ぴ販売した「飛鳥昭雄の大真実」と題する書籍が原告の著作権、著作者人格権、人格権等を侵害するものであるなどとして、原告が被告らに対し、右書籍の発売等の禁止、廃棄、謝罪広告及ぴ損害賠償(著作権侵害による損害三九九万円、慰謝料一○○万円、弁護士費用一○○万円)を求める事案である。





 二 前提事実


1 当事者(争いがない。)

(一) 原告は、「飛鳥昭雄」というペンネームを用い、サイエンスエンターテナーと称して著述などを行っている者である。

(二) 被告古関は、「飛鳥昭雄解明研究家」を標榜して著述等を行っている者 であり、被告会社は、書籍の企画、出版、並びに販売等を目的とする株式会社である。


2 原告の著作等

 原告は、原告のペンネーム「飛鳥昭雄」ないし「あすかあきお」の名で著作し、各出版社から出版された別紙原告の著作物記載の著作物(以下「原告 の著作物」という。)の著作権者である。


3 被告古関の著作と被告会社の出版等

 被告古関は、「飛鳥昭雄の大真実」と題する書籍(以下「本件書籍」という。)を執筆し、被告会社は、これを新書判、二二五頁、定価金九五○円 として、平成一○年(一九九八年)五月ころから発行及ぴ販売を始めた。
 しかして、本件書籍には原告の著作物の記載と一致する部分として別紙一覧表 1記載の箇所があり、本件書籍と原告の著作物の各記載を対比すると別紙一覧表2記載の箇所がある(以下、別紙一覧表1、2記載のうち原告の記載部分を「原告の著作部分」と、被告古関の著作部分を「被告古関の引用部分」 という。)ほか、別紙一覧表〔漫画作品(絵)表〕記載の箇所(以下、右表 うち原告の作成図絵を「原告の図絵」といい、被告古関の作成した図絵を 「被告古関の図絵」という。)がある。






 三 争点


1  本件書籍は原告の著作権を侵害しているか。

2  本件書籍は原告の著作者人格権を侵害して
   いるか。

3  本件書籍は原告の名誉感情を侵害しているか。

4  本件書籍は原告の信教の自由を侵害しているか。

5  本件書籍は原告のエンターテナーとしての人格権
   を侵害しているか。







 四 当事者の主張


  1 争点1(著作権侵害の有無)について

  (一) 原告の主張

本件書籍における被告古関の引用部分は、次のとおり著作権法第三二条 に定める、いわゆる適法引用に当たらない。

(1) 本件書籍における被告古関の引用部分の大半は、明確に原告の著作部 分と被告古関の創作部分とに区分されていない。

(2) 本件書籍は原告の著作部分を主とするもので、被告古関の創作部分は 原告の著作部分を骨格として肉付けした従たる関係にあるにすぎない。

(3) 被告古間の引用部分は原告の著作物からの出所が明らかにされていな い。
 なお、被告らは、本件書籍の巻末に「参考文献」として原告の著作物を列挙しているが、本文中にある被告古関の引用部分が、どの原告の 著作物のどの箇所に該当するのか、それだけでは明らかではない。

(4) 本件書籍には原告の著作部分を引用する必然性、引用目的の社会的正 当性がない。
 すなわち、本件書籍の目的は原告の仮説を「科学的に検証」することにあるとされているが、「科学的検証」の対象が後記5(一) のエンターテインメントであるから被告古関は全く的外れなことを行っているものである。
 また、被告古関は「検証」を行うと述べているが、 その実、本件書籍の内容は、推測の形で結論を述べている箇所も多々あり(飛鳥昭雄の大予言年表〔二一二、二一三頁〕など)、「検証」の名に値しないものである。

 そもそも、本件書籍の意図は、原告の著作物の 売れ行きと名声の上に立っての安易な利潤の追求と、原告を誹謗中傷する個人攻撃とにあるというべきである。

(5) 被告古関の図絵は原告が『地球大壊滅の恐怖!!』というマンガ作品に 描いた地球の構造図である原告の図絵を引用するものであるが、出典である原告の著作物名は書いてあっても、その具体的な箇所の指摘がないし、本件書籍の内容との対比上引用の必然性がない図版の引用をするものであり、また、マンガ作品は全体が一つの著作物を構成するとともに、 一こま一こまがそれ自体完結した図画という著作物であるから、被告古 関の図絵は原告のマンガ作品の一頁まるごとをそのまま複写して一つの著作物の丸ごと全部を引用したもので主従関係がないなど、到底適法引用に当たらない。


  (二) 被告らの主張

(1) 本件書籍においては引用に係る原告の著作部分と被告古関の創作部分 は一読して明確に区分されている。

(2) 本件書籍は原告がその著作物で主張してきた原告の仮説(飛鳥説)を 科学的論理的に検証しようとしたものであるから、本件書籍の主たる部分は被告古関の創作に係る原告の仮説の検証及ぴ批評部分であり、右部分が原告主張のように従たる関係にあるものではない。

(3) 本件書籍は原告の著作部分について原告の著作物を本件書籍巻末に記載する方法により出所を明示している。
 なお、日本文芸家協会作成の 「引用の仕方について」(1978年)によれば、出所明示は単行本の場合、やむを得ない場合には巻末でも可とされている。

(4) 本件書籍は原告がその著作物で主張してきた原告の仮説(飛鳥説)を科学的論理的に検証しようとしたものであるから、原告の著作物中、本件書籍における検証の対象となる部分については引用する必然性があり、 本件書籍における原告の著作部分の引用は引用の公正な慣行に合致しているといえる。
 そして、右のとおり本件書籍の主たる部分は被告古関の創作に係る原告の仮説の検証及ぴ批評部分であり、引用される原告の著作部分は従たる存在である以上、本件書籍における原告の著作部分の引用は、引用の目的上正当な範囲内で行われているものである。

(5) 本件書籍の被告古関の図絵に近接した部分には「『地球大壊滅の恐怖』(講談社刊)より」と出典が明示されているし、本件書籍における原告の図絵の引用は公表された原告の著作物を原告の仮説を検証する必要上引用したものであり、また、読者の閲覧に供することを主たる目的 としたものではない。




   2 争点2(著作者人格権侵害の有無)について

  (一) 原告の主張

(1) 本件書籍において被告古関の図絵は原告の図絵を、<1>熱転写コピー機 にかけて微妙に縦方向に引き延ばした、<2>「コールド・プリューム」 「ホット・プリューム」と書いた文言を入れた四角形から出ている三角形を構成する直線を消して、代わりに消した部分の一部に、消した部分の両側の図ど繋げるように点線を書き加えている、<3>「大陸」と示され た部分のアウトラインを、原告作成図の上に描画した、などの改変を加 えているにもかかわらず、原告の図絵からそのまま引用しているかのよ うに表示しており、原告の同一性保持権としての著作者人格権(著作権法二○条)を侵害している。

(2) 本件書籍は原告の仮説の科学的攻撃に止まらず人格に対する嘲笑を含 む上、原告はその著作物において特定の事象の発生するであろう日時を特定したことがないのに、本件書籍中には「木星から第一三番惑星が生 まれる」日を二○二六年五月一○日であると「ノストラダムスの飛鳥流 解釈」として特定している(二○四頁)のを始め、二一二、二一三頁に は出所不明の年代を「飛鳥昭雄の大予言年表」として掲載して原告の思想、著述内容を歪曲して公表しているが、これは著作者である原告の名誉及ぴ声望を侵害するような方法で原告の著作物の利用を行っているという点において、原告の著作者人格権(著作権法一一三条三項)を侵害するものである。


 (二) 被告らの主張

(1) 原告の図絵における原告の創作部分はその作製図の部分であるが、被 告古関の図絵は原告の創作に係る作製図部分には何らの加工も加えずそのまま引用しているので、原告の同一性保持権としての著作者人格権を侵害していない。

(2) 原告が、被告古関により特定の事象の発生するであろう日時を特定して原告の名誉及ぴ声望を侵害する方法により利用されたと指摘する部分は、原告の著作物を引用したものではなく、単に、原告の著作物において発表された原告の仮説に基づいて被告古関が推論した内容を記述したにすぎない。




  3 争点3(名誉毀損、名誉感情侵害の有無)について

 (一) 原告の主張

 本件書籍には「飛鳥氏の信用も一九九八年八月までとなってしまった」 (五頁)、「サイエンス・エンターテイナーという肩書きを返上してはい かがだろうか?」(一七頁)、「恩知らず」(六一頁)のほか、別紙「原告主張の誹誘中傷、愚弄ないし侮辱する記述箇所」など、原告に対して侮辱的な発言が各所に見られる。このような表現は、原告の名誉及ぴ名誉感情を著しく侵害するものであって、原告は、多大の精神的苦痛を受けている。


 (二) 被告らの主張

 本件書籍に原告主張の表現が各指摘の頁等に存することは認めるが、そ れが原告に対する侮辱的な発言であり、原告の名誉及ぴ名誉感情を著しく侵害するとの主張は争う。
 すなわち、「飛鳥氏の信用も一九九八年八月ま でとなってしまった」との記述は、原告の一九九八年八月に第三次世界大 戦が起こるとの説を発表したことを受けての記述であるが、一九九八年一二月現在においても幸いにして第三次世界大戦は起きていない以上、右記述は事実に合致し、何ら原告の名誉を毀損するものとはいえない。
 また、 「サイエンス・エンターテイナーという肩書きを返上してはいかがだろう か?」との記述及び「恩知らず」との表現は、単に被告古関の評価、意見 を示したものにすぎず、かかる事実摘示ではない単なる意見表明が原告の 「名誉」すなわち社会的評価を低下させるものとは考えられない。

 また、仮に、右の各記述が原告の主観的な名誉感情を侵害したとしても、名誉感情の毀損が慰籍料請求の事由となるためには、「社会通念上許される限度 を超える侮辱行為」であることが必要であるところ、右の各記述が「社会通念上許される限度を超える侮辱行為」に該当するとは到底考えられない。





  4 争点4(信教の自由の侵害の有無)について

 (一) 原告の主張

(1) 本件書籍二一二頁及ぴ二一三頁記載の《飛鳥昭雄の大予言年表》には キリスト再臨の目付が記載されている。しかし、原告は、末日聖徒イエス・キリスト教会の信者であり、その信仰する宗教の教義上、イエスの再降臨の日は隠されているということになっているため、絶対にその日時を知ることができないということを固く信じているものであって、右再臨の日を特定したことはない。
 したがって、本件書籍は、原告の信仰 を冒涜して信教の自由を侵害するものである。

(2) 本件書籍には別紙「原告主張の信教の自由を冒涜する記述」があり、 この記載は原告の信教の自由を侵害するものである。


 (二) 被告らの主張

 一般読者が通常の注意を払って本件書籍を読んだ場合には、本件書籍二一二頁及ぴ二一三頁記載の《飛鳥昭雄の大予言年表》にキリスト再降臨の日として特定された日付は、被告古関の推論に基づくものであると感得できることが明らかである。




  5 争点5(エンターテナーとしての人格権侵害
   有無)について

 (一) 原告の主張

 原告は、サイエンスエンターテナーを職業とする者であるが、サイエンスエンターテナーとは科学者ではなく一種のエンターテナーであり、科学的なアプローチにより科学的に未解明の様々な分野について仮説を提唱し、人々の心の中のロマンに訴えかけることを目的として、原告の著作物などの著作を行ってきた。
 しかるに、本件書籍は、原告のそのような意図を無視し、全く原告の意図とはかけ離れた観点から、原告の著作物に対して誹誇中傷を加えたものである。
 そのような誹誇中傷は、原告をして、これまでのように、エンターテインメントとしてそのような著作を行うことを困難にならしめるものであり、原告のエンターテナーとしての人格権ともいうべき、エンターテインメントに対する権利を侵害するものである。

  なお、エンターテナーとしての人格権ともいうべきエンターテインメン トに対する権利とは、言い換えれば、エンターテナーが持つ、自己固有のエンターテインメントの流儀・味わいを不当に侵害されない権利である。
  この権利はエンターテナーを職業とするものが社会のなかでその職業を生活の糧として生きていく上での中核を形成するものであり、憲法一一条、 一三条、二二条一項にその根拠を有するものといえる。



 (二) 被告らの主張

 原告の主張するエンターテインメントに対する権利は憲法上に明文で規定された権利でないばかりか、人権として認め得る程度の普遍性もなく到底憲法上人権として認められ得るものでもない。

  仮に、エンターテインメントに対する権利が憲法上の法的利益として認められることがあっても、かかる権利が被告らの表現の自由(憲法二一条)に優越するものではなく、原告の著作物に対する論評、批判も表現の自由の保護を受けるのである。





後半・当裁判所の判断に続く)

















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