第二章 未確認動物のデタラメ情報
翼竜の謎
ジュラ紀の眠り(前半)
『フェノミナ』より「ジュラ紀の眠り」
ジュラ紀の眠り(後半)
付記 プテロダウストロの下アゴ
『幻の動物たち』より「トンネルの怪物」
旧ショック・サイエンスには、氷づけの翼竜の話が出てくる。場所は、パリの軍事博物館の地下室である。この翼竜はフランス政府により向こう二百年、あらゆる調査を禁じられているというから、ケネディ暗殺並のトップ・シークレットである。(SS1−P44〜53,SSR1−P72〜81) 「頭部は見るも恐ろしく、鋭い歯が生えていた。四肢は薄膜でつながっており、その先に長いカギ型の爪があった。体は青黒く、厚い皮は脂ぎっていた。この生きた化石はグレイ市に運ばれたが、そこで、古生物学に精通した一人の博物学者がただちにそれは翼竜という種類に属するものと認定した」(同 P13) 話はそれでおしまいである。氷づけやら毛が生えてたとか、二百年調査禁止だとかは飛鳥氏の創作なのだ。 |
『怪奇現象博物館―フェノメナ―』より
(旧題『フェノミナ〔幻象博物館〕』)
ジュラ紀の眠り(全文)
一八六二年のロンドン博物館で、東側別館に、人々の好奇心をそそるとともに論争の的になるようなものが陳列された。それははっきりと蛙の形をした凹みのある石炭で、一緒にイギリス、モンマスシャー地方ニューポートの炭坑の採掘現場で発見された蛙が並べられていた。『ザ・タイムズ』紙はキャプテン・バックランドと称する人物から送られた怒りの投書を載せている。
それは博覧会の会長を「低劣な詐欺師」呼ばわりし、蛙とその石炭を「追放」すべきだとする手紙であった。さらに彼は、ヒキガエルにしろ食用蛙にしろ、百メートル以下の地底で石炭になるに必要な熱と圧力に耐えることが不可能なのは言うに及ばず、何百万年も生きたままで閉じ込められていたなどということはありえないと、まくし立てている。この意見の根拠として、彼は父親であるウエストミンスター司祭長のものした「定説」と大英博物館のオーウェン教授が彼に送った文書を引用している。 |
(P10〜13)
Update/1999.9.10
『幻の動物たち』(上巻)より
「トンネルの怪物」
情報提供 昔ワンダラ今トンデモさん
“氷漬けの翼竜”についてはこれ以上の情報は望めないものと思っていたのだが、そんな折、昔ワンダラ今トンデモさんから極秘情報がもたらされた。『幻の動物たち』という未知動物本にこの事件の顛末が記載されており、著者バルロワの調査では、「つくり話のようだ」と結論されているというのである。 そして、昔ワンダラ今トンデモさんのご厚意で当該記事を転載していただいたところ、そこには意外な事実と、事件に関わる不審な男達の姿が描かれていた‥‥!! |
甦る古代の大怪獣!!
トンネルに木霊する謎の悲鳴とは!?
サイエンス・エンターティナー氏は、はたして
この真実を知っていたのだろうか!?
‥‥というのは、昔ワンダラ今トンデモさんの前口上である(汗)。 では、問題の記事をご覧いただきたい。 |
トンネルの怪物 |
こうした問題についてはいかに慎重でなければならないかを示す、フランスでおこった驚くべき話を、喜んで紹介しよう。このエピソードは、長いあいだ動物学上の謎の愛好家の好奇心をそそってきた。それは、ジャック・ベルジエとINFOグループが出版した『不可解なもの』といった本に載ったものだが、この本はそのエピソードを、一八五六年二月九日付の《イラストレイテッド・ロンドン・ニューズ》紙からとっている。 事件はこうだ。キュルモン(オート・マルヌ県)で鉄道のトンネル貫通工事をしていた労働者たちが、巨大な石の塊を割っていた。するといきなり、悪夢にでも見るような動物が岩から飛びだしてきたのである。首は長く、鼻面には鋭い歯があった。そのうえ、翼幅が三メートル二〇もある飛膜があり、巨大なコウモリのように見えた。皮膚には毛がなく、黒かった。怪物は翼をかすかにふるわせて、しゃがれた鳴き声をあげ、息をひきとった。死体をグレイ(オート=ソーヌ県)に運んで、古生物学者に見せたところ、その動物は中生代のプテロダクティルスだと同定された・・・。 私はこの情報の出所をつきとめたいと考え、グレイの市立図書館に手紙を書いたところ、たいへん親切なことに、そこの館員のJ・ランベールが元の記事を送ってくれた。この話を載せたのは、一八五六年一月一二日付の地元紙《ラ・グレイロワーズ》であった。この記事が《イラストレイテッド・ロンドン・ニューズ》紙によって英語に翻訳され、それからJ・ベルジエによってふたたびフランス語に翻訳しなおされたというわけである。そして、一月一九日付の《ラ・プレス・グレイロワーズ》紙に、二番目の記事が載っていることもわかった。パレオントロギッシモフォッシリッシムス(超化石的古生物学者)と名乗る人物が、プテロダクティルスと同定した古生物学者の住所を問いあわせたところ、新聞はこう答えているのである。「残念ながら、グレイの著名な古生物学者の住所はお教えできません。その深い学識に劣らず、彼は謙虚な人物で、彼の興味ぶかい発見がもたらす数多くの賛辞を辞退したがっているからです」。要するに、この事件は、どう見てもつくり話のようだ。石の中に化石となっていたプテロダクティルスかなにかの飛翔する爬虫類が復活する話を、まじめに信じることのできる者はいないだろう。とはいえ、キュルモンのトンネル貫通工事の最中に、化石が発見されるというようなことはあったかもしれない。もっとも、コウモリが労働者の頭上を飛んだだけの話なのかもしれない・・・。そして想像力――と新聞――が、足りないところを補ったのだろう。 |
以上、『幻の動物たち』P247〜250からの引用である。 この翼竜の話は、まずフランス・グレイ市の地方紙『ラ・グレイロワーズ』に掲載され、次にイギリスの『イラストレイテッド・ロンドン・ニューズ』紙に英訳され、それからフランスのJ・ベルジエが『不可解なもの』という本で十九世紀の新聞の話を復活させ、広まっていったのである。 まず、注目すべきは読者の投書への『ラ・プレス・グレイロワーズ』(ラ・グレイロワーズ紙と同一らしい)のうさん臭い対応である。グレイロワーズ紙はそのグレイ市の「著名な古生物学者」の住所を明かす事を拒むが、その理由はその学者が謙虚だからだという。グレイ市のような地方の町で著名であるというなら、名前を隠してもバレそうなものだ。 もっとも、飛鳥氏の話からすればフランス政府により脅迫されたと強弁をふるう事も可能だろう。しかし、飛鳥氏の情報が作り話である事は明白である。 元の記事では皮膚には毛がないと明言されており、そしてプテロダクティルスと同定されているのである。ショック・サイエンスでは毛むくじゃらに描かれている上、ディモーフォドンと同定されているのだ。 そういうわけで、このお話は作り話の上にさらに作り話を作った物語、と結論できそうである。 |
Update/2000.3.2
『まんが恐竜の謎 完全解明』 | あすかあきお | 小学館 | 1989 |
『アスカ・ファイル2』 | 飛鳥昭雄 | アスキー | 1998 |
『怪奇現象博物館―フェノメナ―』 (旧題『フェノミナ〔幻象博物館〕』) |
J・ミッチェル R・リカード |
北宋社 | 改訂版 1987 |
『禁断の超「歴史」「科学」』 | 新人物往来社 | 1994 | |
『動物大百科 別巻2 翼竜』 | ピーター・ベルンホファー | 平凡社 | 1993 |
『幻の動物たち』〔上〕 | ジャン=ジャック・バルロワ | 早川書房 | 1987 |