仕上げ

塗装の終了後、ナットピン・ヒッチピンの打ち込み、張弦、ジャックの製作、ジャックレール・譜面立その他小物の製作、鍵盤調整、ヴォイシングと細かい作業が続いた。ジャックというのはできてしまえばどうということのない部品だが、つくるには、切り込みを入れたり、穴をあけたりで一本につき20近い工程があり、それが弦の数だけ必要。もっともそれぞれは単純作業なので、寸法が決まってしまえば考える必要もないから、楽と言えば楽な仕事。

2月中には音が出るところまでいったものの、寒い日が続いてヴォイシングの仕上げができずにいた。ポリアセタール樹脂のプレクトラムは、低温下では硬くなってしまうので、寒い時にヴォイシングをすると削り過ぎてしまう。

ふり返ってみると、製作にとりかかって丸一年かかったことになる。楽器としては大型で構造も複雑なチェンバロをまったく一人で作るというのは、自分で言うのもおかしいがやはりかなりの気力と集中力が要る仕事だと思う。どうしたらいいかわからずに悩んで苦しんでということもあったが、またそれがなければつまらないものになるだろうとも思う。結果としてはイタリアン・ジャーマンとして独自のキャラクターを持った楽器になったと思う。
つい感慨にふけってしまったが、チェンバロ製作者としてはここで立ちどまるわけにはいかない。

ところで、一般にチェンバロはベントサイドの方向へより強く音が放射されるので、演奏者のすわる鍵盤側は音を聴きづらいのだが、とくに今回の楽器は鍵盤側とベントサイド側とで聴こえ方の差が激しい。そこで気がついたのだが、ローズホールや上下のベリーレールの隙間は、演奏者の側で少しでも聴きやすくする、いわばモニタースピーカーの役割も果たしているのではないだろうか。
フレミッシュ/フレンチのように、ベリーレールがあいていれば、鍵盤側への音の放射が強まるだろう。イタリアンではベリーレールは閉じているが、ローズホールが開いているタイプが多い。この場合は、ローズホールからより強く音は放射されるだろう。今回の楽器は、ローズホールはなくベリーレールも閉じていて、響板内部は密閉されている。このタイプの楽器は「遠鳴り」がするといわれているようだが、鍵盤側で聴く音の印象と離れて聴く印象との違いの大きさを指しているとも考えられる。
イタリアン・ジャーマン鍵盤側から見たイタリアン・ジャーマン
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