ミシロタウン〜どんな いろにも そまらない まち G


 「あら、仮病でママを脅すつもりだったの?」

 「あっ、そういう手もあったのね。でも違うの」

シズクは優しくラムサールの背中をなでてやる。

 「ラムサールと離れるのかと思ったら…」シズクの瞳から涙がこぼれる。

 「きゅーぃ」ラムサールが哀しげに鳴く。

 「シズク、あなた…」ママの眉間にしわが寄る。今日、出逢ったばかりなのに、このなつきようは…。

 「でも、よかった。ママがいいって言ってくれて。ラムサールのことはあたしが全部するから、ママいろいろ教えてね」

シズクは手の甲で涙を拭うと、にこっと笑って言った。

 「シズク、あなた…、ラムサールはペットにするの、それともパートナーにするの」

 「パートナー?」

 「そう、ポケモンと一緒にバトルをしたり、コンテストに出たり、仕事をしたりするのがパートナーで、ただ可愛がって飼うのがペットよ」

 「あたし…、よくわからない…」うつむくシズク。

 「別に最初からこれって決める必要は無いのよ。ただ、ポケモンバトルをするならばトレーナーの登録が必要なの」

シズクはゆっくりと顔を上げる。

 「そう言えばオダマキ博士もそんなこと言っていた…。でも、あたしは、ラムサールと一緒に居られればそれでいいのっ」

 「シズク…、お茶のお代わりをいれましょうね」

ママは、新しいお茶をいれなおして、クッキーも持ってきた。シズクは黙ってお茶を口にした。
今度の香草は多分カモミール ─気分を落ち着かせる効果がある─ だと思った。

 「シズク、あのね、シズクはポケモンのことを良く知らないだろうから、少し説明するね」

シズクはこくんと頷いた。

 「この世界には、ポケモン協会という組織があってポケモンと人間の関係がうまくいくように管理しているの。
 もちろん野生のポケモンは、誰が捕まえて自分のものにしてもいいのだけれど原則的には保護されているの」

ママは、まるで物語でも読むように話し始めた。


 「そして、ポケモンバトルをする人のことをポケモントレーナーというのだけれど、
 そのトレーナーや野生ポケモンのための拠点として、ポケモンセンターという施設が町々に置かれているの」

シズクはポケモンセンター ─略してポケセン─ のことは聞いたことがあった。

 「ポケモンセンターには、ポケモンのための病院やトレーナーのための食堂や宿舎などがあって、
 トレーナーは一部を除いてその施設を無料で利用できるの。
 それから、ポケモン協会はポケモンとポケモンのためのアイテムを調査研究する施設も持っているの。
 ポケモンジムも協会の施設ね」

シズクが口を挟む。

 「ねえ、ママ、そのポケモン協会はとてもお金持ちなのね」

 「うーんと…、ある意味ではそうよ、でも資金はみんなから集めているのよ」

 「みんなから?」

 「そう、トレーナーは協会に登録するとトレーナーカードというものが発行されるの。
 それで協会の施設が使えるようになるのだけれど、トレーナーには義務もあるの」

 「権利と義務ね」

 「そう、義務の一番目はポケモンとポケモンに関わる人を大切にすることなのよ。
 そして2番目がポケモンバトルで負けたときには持っているお金の半分を勝った相手に渡さなければならないことなの。
 トレーナーカードにそのバトルのことは記録されるからトレーナーがいちいちお金のやり取りをしなくてもいいのだけれど…」

 「へぇ、そんなの初めて聞いた」

 「それでね、勝った人が貰ったお金の10分の1は自動的に協会に支払われるの。これが協会の資金になるのよ」

 「ふーん、協会って親切なのねと思ったけれど、そうでもないのね」

シズクはクッキーをかじる。 ─ちょっと塩味がきついかな。でもこのお茶とよく合っているかも。

 「えーと、例えばシズクがトレーナーになって修業の旅に出たとするでしょ。
 そのときにシズクのお小遣いで食事をしたり、宿に泊まったりしたらすぐにお金が無くなって困ってしまうでしょ。
 でも、ポケセンを利用すれば旅をつづけられるわ」

 「そうね。それにバトルで負けなければ無料なのね。でも、バトルしなければお金を払うことも無いの?」

 「そうだけど、それだとポケモンが育たないわ」

 「ポケモンが育つ?」

 「そう。でも、その話は長くなりそうだから今度にしましょうね」


ピカナです。

今回ポケモン協会の設定とか、ジムリーダーの資格とか、いろいろ説明してますが、
これはこの物語に限ってのオリジナルとしてお読みくださいね。^^

開発サイドの公式見解は、たぶん公開されていないと思いますしー。

いろいろ考え出すと不思議ですよね、バトルマネー。
流通している貨幣とは別規格の、ポケモン関係でしか使えないポイントみたいな扱われ方をしてもいいのかな、と
私は思ったりもします。


 「じゃあ、パパのジムもポケモン協会のものなの?」

 「そうね、パパは協会に雇われているの。
 パパのお給料とは別にジムの運営資金が協会から渡されて、
 ジムリーダーはそのお金をやり繰りして別のトレーナーを雇ったりするの。
 そして、ジムリーダーが挑戦者に負けたときに渡すお金の額は決められているから、
 次の年までにたくさんの挑戦者に負けてジムのお金が無くなると、ジムリーダーは失格になってしまうの」

 「じゃ、パパはそうならないように頑張っているのね」

 「そうよ。パパは強いから去年も繰越金があったって言っていたわ」

 「ふーん、優秀なのね」

 「そんな言い方したらだめよ。ママもシズクもパパがしっかりしているから安心して暮らしていけるんだもの」

ママの目が笑っている。

 「そうね、感謝しなくちゃね」

シズクも笑ってラムサールに声をかける。ラムサールも嬉しそうに尾を振って応える。

 「ところで、ママはパパとポケモンバトルしたことあった?」

そう聞いてから、シズクは、ささっと身構える。

 「あるわよ」ママが答える。

 「どっちが勝ったの」更に体を退いて身構えるシズク。

 「一応ママが勝ったけど、あれは無効ね」

 「どうして?」

 「だって、パパったらママの顔ばかり見ていて、勝負にならなかったもの」

しれっと言うママ。