ミシロタウン〜どんな いろにも そまらない まち C


 「はい、何かご用でしょうか」

奥のほうから声がして、白衣を着た20代らしき男性が出てくる。

 「えーと、わたしシズクと言いますが、オダマキ博士はいらっしゃいますか」

シズクがおずおずと問いかけると、白衣の青年は困ったような顔をした。

 「あぁ、オダマキ博士ならフィールドワークに出かけていて、今は不在ですよ」

 「…フィールドワーク?」

 「フィールドワークっていうのは、実際に野山へ出かけていって研究をすること。
 博士は机の上で研究をするよりも屋外へ飛び出して体験するタイプの方ですからね」

 「そうですか。では、あらためて伺います」

シズクはぺこりと頭を下げると、出入り口に向かった。
青年は、少々拍子抜けしたようにシズクの後姿を眺めていたが、
シズクが建物の外へ出ると、ひょいと肩をすくめて、もといた部屋のほうへ戻って行った。

研究所の門を出ると、シズクは家とは反対の方向へ歩き始めた。
外へ出たついでに、ミシロタウンを見て回ろうと思ったのだ。

道の両側には、ずっと同じような家が並んでいる。
どんどんと歩いて行くと、じきに町の外周の道路に出てしまったが、特に変わったものは見つからなかった。
どうやらこの町のほとんどが、住宅地になっているらしい。

しばらく、町の外周に沿って歩く。
住宅の切れ目が見えてきたころ、シズクは小さな男の子の姿を見つけた。
町の出入り口付近である。

近づいて見るとどうも様子がおかしい。なんだかおろおろしているように見える。
シズクが更に近づくと、子供は向こうから声をかけてきた。

 「この先で叫び声が聞こえるよ。どうしよう。どうしたらいいかな。誰か助けに行かなきゃ…」

そう言われてみると、かすかだが緊迫した声が聞こえてくるようだ。
シズクは声のする方角に向かって走り出した。


 「たっ、助けてくれーっ!」

道から少々入った草むらで、白衣を着た男の人がポケモンとにらみ合っている。
ポケモンは、銀灰色の毛を逆立て、白い牙をむいて唸り声をあげている。
赤い瞳が怒りをはらんでいる。

 「ポチエナ、止めろ。落ち着け」

男の人はポケモン─ポチエナに呼びかけているが、ポチエナは聞く耳を持たないようだ。
シズクがどうしていいか分からずその場に立ちつくしていると、男のほうが彼女に気付いた。

 「おーい! そこの君! 助けておくれ! そこにあるカバンにモンスターボールが入っている」

男の声で我に返ったシズクは町のほうへ戻ろうとした。
自分の手には余るので、誰か助けを呼びに行こうと思ったのだ。

 「どっ、どこへ行くんだ!? 私を見すてないでおくれーっ」

呼び止められて足を止めたシズクだが、野生のポケモンの相手なんて出来るわけがない。

 「えっと、あの人がなんか言っていたっけ。カバンとか…、モンスターボールとか…」

辺りを見回してみると、少し離れたところにカバンが落ちていた。ふたが半分開きかけている。
ポチエナを横目で見ながら、恐る恐るカバンに近づく。
ポチエナがチラっとシズクを見たが、すぐに男に視線を戻した。どうやらシズクは取るに足らない相手だと判断したらしい。
白衣の男は目でポチエナを必死にけん制しながら、時々シズクの様子をうかがっている。

ようやくカバンにたどり着いてシズクがふたを開けると、中には大量の紙の束と、赤いボールが三つ入っていた。

 「これがモンスターボール…、でもどうしたらいいの…」

 「そのボールを投げてくれ」

 「どのボール?」 

悩むシズクに向かって、

 「どれでもいいから早く投げてくれ」

と、男が叫ぶ。最後の方は半分悲鳴になっている。

ポチエナが、隙を見ては彼に跳びかかる。
男は白衣の腕で振り払っているが、かわすたびに袖が牙に裂かれて、ぼろぼろになっていく。

 「どれでもって言われても………あっ?」

シズクは慌てて一番手前のボールに手を伸ばしたが、指先が触れるか触れないかのうちに、ちりっ、と痛みが走ったような感じがした。
思わず差し出した手を引っ込めてしまう。

 「は、早く、早くしてくれー」

仕方なくシズクは目をつぶってボールにそっと手をかざした。
三つのうちの一つが、なんだかほんのり暖かいような気がする。

 「これ…」

シズクは手にしたモンスターボールをつかむとポチエナめがけて投げた。
ボールは大きく弧を描いて空中を飛びながら、ぱあっと白く輝いて開く。
そしてその中から水色の塊のようなポケモンが出てきて、ポチエナの目の前に着地した。

 「おお、ミズゴロウか」

男が声をあげる。
ポチエナの矛先は男からミズゴロウに移ったようだ。低い唸り声をあげ、ミズゴロウに相対する。
シズクは、自分の役目は終わったと思った。後はあの人がなんとかするだろう。
あらためて男をよく見ると、お医者さんのような白衣を着ている。スクールの先生にも見えないこともない。
ひょっとしてこの人が、オダマキ博士なのかしら。そんなことを思っていると、男が叫んだ。

 「何をしている。ミズゴロウに指示を与えるんだ」


シズクが選んだモンスターボールからは、ミズゴロウが出てきたね。
さてどうかな。名前の凝り性なところ、判ってもらえたかな?

シズカはシズ「カ」で、「カ」は「火」と同じ音だから、炎系のアチャモなのね。
シヅキはシヅ「キ」で、「キ」は「樹」「木」に通じるよね。それでポケモンはキモリ。
シズクはシズ「ク」で、漢字で書くと「雫」なんだって。
水っぽい名前だからポケモンはミズゴロウになったのね。

なんだか理屈っぽいけど、名前の最後はカ行で続いているし、
一応きれいにまとまっていると、ほめておいてあげようかな?^-^

それにしても、最初のポケモンが3匹しかいなくて良かったなぁ。
シズコはともかく、シズケとかいう名前の女の子は、ちょっとアレだものね(笑)