コトキタウン〜なにかが かすかに はじまる ところ N
「俺のキモリの様子がおかしいんだよ」
シズクのあきれ顔に気がつく素振りもなく、ユウキは繰り返した。
「え? おかしいって…どういうこと?」
「キモリは、どうもラムサールに負けたのが納得いかないらしいんだ」
「再戦をしたいの?」
「かもしれないけど、とにかく会わせてみればわかると思うんだ。ダメか?」
いつだって自信満々な顔をしているユウキの表情が、気遣わしげなものになっている。
「いいわよ。ラムサール、出ておいで」
「きゅー」
シズクの声に応えて、ラムサールがモンスターボールから飛び出す。
「出てこい、キモリ」
ユウキもキモリを出した。
ユウキのキモリは、ラムサールを見つけるなり詰め寄っていく。
ラムサールは、なんだかわからずにきょとんとしているようだ。
「俺のキモリ、本当は草タイプの中でも強力な技の『ギガドレイン』が使えるんだ。
だけどシズクは初めてのバトルだったから、使わなかった。
…まあ、使わなくても勝てると思っていたし、実際一度目は勝ったからな」
キモリは、盛んにラムサールに話しかけている。なにか問い詰めているようだ。
ラムサールは、というとどうにも困っている様子である。
「実を言うと俺も二度目はどうして負けたのかわからない。負けたのは確かだけどな」
「私のラムサールは、なんだか嫌がっているみたい」
「キモリは、再戦をしたいわけでも無さそうだな」
とうとうラムサールはキモリから逃げ出した。シズクに駆け寄り、ひょいと跳びつく。
受け止めるシズク。
追いかけてくるキモリ。
「キモリ、どうした。まだ、納得いかないか」
キモリは、ユウキの言葉には反応せず、シズクに向かっていく。
「やーん」
シズクは、ラムサールをかばうように後ずさりする。
えー、お久しぶりです。^^;
だいぶ間があいてしまって、イメージが散逸してしまいました@@
情景描写が少し足りないところもあると思いますが、残りの原稿もわずかですので、
今年は頑張ってあげてしまいたいと思いますです。
では。
「シズク、そいつ多分、気が済むまで俺のところには戻ってこないと思う。
だから、そいつの気が済むまで預かってくれないか。
…そうだ、何ならそのキモリ、あげてもいいけど…」
「えっ、貰ってもいいの」
「ああ、俺はキモリならもう、一匹持っているからいいぜ」
シズクは、ラムサールを抱えたまましゃがみ込むとキモリの目線で話しかけた。
「キモリ、あたしと一緒に来る?」
キモリは、少し迷っている様子だったがシズクに近づくと「キキッ」と鳴いた。
「そう、わかったわ。あたしは、シズク、よろしくね。このコはラムサールよ」
あなたも名前が要るわね。そう…
『レーシィ』がいいわ。森の精霊の名前よ」
「よし、決まりだ。シズク、これがそいつのボールだ」
ユウキが、モンスターボールを投げた。
「えっ」
シズクは、ボールを受け取ろうとして慌てて立ち上がり、ラムサールを手放した。
落とされたラムサールは、しかし難なく地面に着地する。
ところが、かろうじて受け取れたかと思ったモンスターボールは、わずかにシズクの手をすり抜けてしまった。
「じゃあな、シズク。あばよ、レーシィ」
「ちょっと待ってよ!」
シズクが叫ぶが、ユウキは既に歩き出している。
「もう、勝手なんだから…」
シズクは、落としたボールを捜しながらつぶやいた。
「おかしいわね」
シズクはあたりを見回したがボールは何処にも落ちていない。気がつけばレーシィの姿も見えなくなっている。
「レーシィ、レーシィ、どこに行ったの」
呼びかけてみるが返事は無い。
「ラムサール、レーシィはどこに行ったか知らない?」
ラムサールも力なく首を振る。
「変ねえ。でもレーシィだけでなく、ボールも消えたところからすると、きっと何か理由があるはずよね。
んもう、ユウキなら知っているのに…。さっさと行っちゃうんだから…」
シズクは、コトキタウンに戻るか、それともこのままトウカシティに向かうか迷っていた。
「うーん、レーシィのことは、心配だけど、迷ったときは進めだわ」
シズクは、ラムサールをボールに戻すと、トウカシティに向けて出発することにした。
しばらく行くと、案内板がある。
ここは 102ばん どうろ → コトキタウン |
「この書き方からすれば、まだ半分も来てないってことよね」
シズクは歩みを速めることにした。
やはり、少しでも早くトウカシティに着いて、レーシィのことを誰かに訊ねたい。
もしかしたら、ユウキがいてくれるかも。
そんな期待も、あった。
さらに進むと、道をふさぐようにして、見知らぬ少年が立っている。
先を急ぐシズクは、少年を避けて進もうとしたが、彼は急にシズクの前に回りこんで来て、言った。