コトキタウン〜なにかが かすかに はじまる ところ M


くるくると丸い目もさることながら、ほおの赤い電気袋もまた、ピチューの可愛いさを3割増ぐらいにしている。

 「大丈夫。あなたは、わたしのピチューよ。えーと、タイプは何かしら?」

シズクは、ピチューの項目を図鑑で確かめた。

 「こねずみポケモンでタイプは電気ね。性格はさみしがりで特性は静電気か…
 やっぱり、名前が必要よね。…そうね、『ワット』というのはどうかしら…」

シズクは、ピチューを見つめる。
ピチューは、小首をかしげてシズクを見ている。
自分の名前という重要なものが決められようとしているのに、気付いているのかいないのか…
……どうみても関心は無さそうである。

 「あら、あなた女のコなのね。ワットじゃ男のコって言うイメージよね…
 …そうね、『ミリア』がいいわ。ミリアンペアのミリアよ」

 「ピィ?」

ミリアは、大きな耳をせわしなく動かしながら、きょろきょろと辺りを見回している。

 「なあに?」

どうやら、シズクの気を引こうとしているらしい。
シズクには、ミリアが何を思っているのか判らなかった。

 「ラムサールの気持ちは最初から判ったのにね。お前は、何が言いたいの」

 「うー」

その時、低いうなり声が聞こえてきた。
ポチエナだ!


ミリアがからだをよじって、シズクの腕の中から飛び出した。
草むらから顔を覗かせたポチエナに向かって、威嚇するように尾を立てる。

 「ミリア、あなたが戦うっていうの?」

シズクがとまどっているうちに、ポチエナは攻撃開始。
素早く飛びかかり、ミリアに噛みつこうとする。

 「ミリア、下がって」

危ないところで、ミリアはポチエナの牙をかわした。

 「えーと、ミリアの技は…。
 えーい、ニナの娘なら同じ技を使えるはず。
 ミリア、『アイアンテール』」

ミリアの尾が銀色に輝いた。ジャンプして、その尾をポチエナに叩きつける。

 「キャン」

ポチエナは、一撃で気絶してしまった。

 「ミリア、すごい、すごい」

シズクはその場に駆け寄ると、背後からミリアを抱き上げた。
ミリアは何事もなかったかのように、きょとんとしている。
シズクは倒れたポチエナにモンスターボールを投げた。ポチエナ、ゲット。

落ち着いたところで、改めて図鑑を見てみる。

 「ミリアの技は、『でんきショック』と『アイアンテール』ね。
 『アイアンテール』は知っているけれど、『でんきショック』というのは、どんな技かしら。
 名前からすると電気が流れるのよね。触っている相手に対して効果があるのかしら」

シズクは、試してみようかと思ったが、まさか自分に向けて攻撃させるわけにもいかない。

 「まっ、いいわ。後でね」


コトキタウンのポケモンセンターで食事を取り、一休みしてから出てきたところで、
シズクは知り合いを見つけた。

 「ユウキッ」

 「ああ、シズクか。おまえこんなところで何してんだ」

 「何ってこれからトウカシティに行くところなのよ」

 「おまえも、トウカか」

 「おまえもってことは、ユウキもそうなの」

ホウエン地方へ来たばかりのシズクの知り合いは多くは無い。
心細さが消える嬉しさに、声が弾む。相手が多少、無愛想なお隣さんであったとしても。

 「俺は、トウカの森で調査さ」

 「じゃあ、一緒に…」

 「ダメ」

まだ、最後まで話してもいないのに、言下に同行を否定されて、シズクは一気にふくれた。

 「どうしてよ」

 「だってお前、足遅いからさ。俺は、人に合わせて歩くのが苦手なんだ。じゃあな」

言い終える前にもう、ユウキはすたすたと歩き出している。

 「なによ。失礼ね。ユウキに比べれば歩くの遅いかもしれないけど…」

ところが、ユウキは少し行きかけて戻ってきた。

 「おおっと、忘れるところだった。俺、シズクに用事があったんだ」

 「今さら何よ。知らない」

 「何怒ってんだよ。俺、変なこと言ったか?」

 ─この人、悪気は無いのかしら?

シズクは今ひとつ、ユウキの性格がつかめなかった…。


すっごく久しぶりに前の部分を読みながら、続きを書き直しているわけですが、
久しぶり過ぎてピカナにも性格がつかめてませんーー@@

っていうか、シズクも、性格変わってない? 大丈夫かなぁ(笑)


 「別に。それで何よ。用事って」

 「シズクじゃなくて、シズクのポケモンにかな」

 「なによ、それ」

 「ここで、出すのもな……。ちょっと来てくれないか」

二人はポケモンセンターを出て、コトキタウンの西側へ向かった。

 「あっ、こっちにも道があるんだ」

 「なんだ、トウカに行くんじゃなかったのか。トウカに行くにはこの102番道路を通らないと行かれないぞ」

 「ふーん、そうなんだ」

 「シズクは、本当に何も知らないんだな」

思ったことを、無邪気に口にするユウキ。

 「だってあたしは、昨日引っ越してきたばかりなのよ。知らなくてもしょうがないでしょ」

シズクの台詞には少々トゲがある。

 「何だよ。やけにつっかかるな。俺、何か気に障ること言ったか?
 言ったんだったら謝るよ。ごめんな」

 「えー、どうして理由も判らないうちに謝るの?」

 「うーん、俺、何か気がつかないうちに人の気に障ること言うらしいんだよな。
 そういうことよくあるからな。まあ気にしないでくれ」

 「そうなの」

 ─ふうん、少しは自覚があるみたいね。なんだかんだ言ってもいいトコあるし…

 「そんなことはどうでもいいんだ。それでな、シズクのミズゴロウを出してくれないか」

 「どうして?」

 「えーと、面倒だな。俺のキモリの様子がおかしいんだよ」

 「………」

 ─ユウキって頭の中に浮かんだ台詞の次の台詞を言うのね。だから誤解されるんだわ。
 ─相手に、言葉の行間を読んでくれって要求しているなんて、気がつかないのね……