コトキタウン〜なにかが かすかに はじまる ところ L


そのポケモンは、草むらから顔だけ出してこちらを窺っている。
好奇心に満ちた丸い目が印象的だ。
目の周りには隈取りがあり、どことなく愛嬌がある。
毛並みはあちこちつんつんしており、顔の位置から見ると、どうやら四足のようだ。

シズクは、すかさず図鑑を向ける。

 「ジグザグマって言うんだ。かあいい」

どうやら、お気に入りの部類のようである。

 「ラムサール、お願いね」

ラムサールを見て、ジグザグマが草むらから姿をあらわした。
茶色と薄い茶色の2色の毛が交互にジグザグの縞となっていて、とても特徴的である。

ラムサールが攻撃すると、ジグザグマは後斜めに飛んでかわした。
見た目よりも素早い。
すかさず、前足の爪で攻撃してくる。

しかし、よく見るとまっすぐには移動しないことに、シズクは気が付いた。

移動パターンがわかれば、対処はしやすい。
数分後には、ジグザグマもモンスターボールに収まった。

 「あなたにも名前を付けてあげるわ。そうね…ルーラにするわ。『定規』という意味よ」


その後、数回野生のポケモンに出遭ったが、新たなポケモンではなかった。

 「とすると、101番道路にいるのは、ポチエナとケムッソとジグザグマの3種類ね」

図鑑を見ながらシズクが、呟く。

 「あっ、ポチエナを捕まえていないわ。でも、その前にモンスターボールが必要ね」

シズクは、コトキタウンへと急いだ。


コトキタウンへ着くとシズクは、ポケモンセンターへ行き、ラムサールを預けた。
そして、自分はフレンドリィショップへ行く。

 「バトルで負けたらお金は半分取られちゃうのだから、買えるだけボールを買っておいたほうがいいわね」

負けたときのことを考えるというのも随分と用心深いものだが、らしいといえばシズクらしいだろうか。

シズクは、買い物を済ませ、ポケモンセンターでラムサールを引き取ると、すぐに103番道路に向かった。

 「103番道路はユウキが調査をしていたから、あたしはしなくてもいいかしら。
 でも、もう少し風見を使えるように訓練しなきゃね」

しばらく103番道路を歩いていると、空を飛ぶポケモンに出遭った。
図鑑を向けると、うみねこポケモンのキャモメだと教えてくれた。

キャモメは、白い体に白い翼、白い尾を持ち、羽と尾に青い線が入っている。
くちばしはオレンジで先端は黒く少し曲がっている。黒い縦線のような目が可愛い。
シズクを見つけたキャモメは、威嚇するように急降下してきた。

 「ようし、ラムサール、行って」

ラムサールは、ボールから出るとキャモメを追いかける。
シズクも目で追うがなかなか追いきれない。
それなら、と、シズクは目を閉じた。
ラムサールの風見を利用するときに目を開いていると、今はまだ混乱してしまうのだ。

シズクは、キャモメがラムサールに近づいてきたときを狙って攻撃させた。
ラムサールの攻撃が命中する。

 「ギャア」

キャモメは、不意をつかれて地面に叩きつけられた。

 「ようし、行け。モンスターボール」

ボールは、キャモメを吸い込むように取り込むと地面を転がる。

 「やったぁ。すごい、ラムサール」

 「きゅい」

誉められた事が嬉しいのか、シズクの腕の中に飛び込んで、ちぎれそうに尾を振るラムサール。


アニメのサトシとピカチュウな感じ? うらやましいよね、あれは。いつ見ても。
まぁ、誰にでもやられたいわけじゃないけれどね。^-^;

カビゴンやベトベトンにやられても、ちと困るし………


そのあとシズクは、ラムサールと103番道路で何回かバトルをした。
ラムサールのレベルは2つ上がったが、新しい技は図鑑で確認しても覚えていなかった。
シズクも、風見を完全に自分のものにすることはできなかった。

更に先に進もうとすると道は東の方に曲がっていて、大きな川に突き当たった。
もしかすると湖かも知れない。

 「あれっ、行き止まりかしら、橋も無いし…。それとも道を間違えたのかしら」

シズクは、少し戻ってみることにした。
今度は、注意深く左右を確かめながら歩くが、分かれ道などは無い。

 「どうやら103番道路は行き止まりらしいわ。
 とすると103番道路に生息するポケモンは、ジグザグマとキャモメ、それとポチエナ…。
 いけないポチエナ捕まえるの忘れていたわ」

既にすっかりポケモン研究者のような気持ちになっているシズクである。

 「ポチエナ、ポチエナと」

 「コト、コトッ」

後ろで何か音がする。

 「あれっ、なにかしら?」

シズクは、振り返ってみる。
どうやら草むらではなく、シズクのリュックから音がしている。
あちこちのポケットをのぞいて見ると、ママから預かったタマゴにひびが入っていた。

 「ああ、孵るのね」

道端に手頃な石を見つけて、シズクは少し休憩する事にした。
シズクが見守る中、タマゴのひびは更に大きくなっていく。
そして、ポケモンが出てきた。

 「ピィ」

 「きゃあ、生まれたわ。ピカ…チュウじゃない」

タマゴから孵ったポケモンはピカチュウに似てはいたが、耳が大きくダイヤのような形をしている。
しっぽも黒いし、どこか違うようだ。
図鑑を見てみる。

ピチュー−こねずみポケモン、かみなり雲が出ている時や、空気の乾燥した日は
       電気が溜まりやすい。パチパチ、静電気の音が鳴っているよ。

 「ピチュー!? どうしてピカチュウじゃないの」

ピチューが、不安そうな目でシズクを見上げている。

 「ああ、あなたのことを非難しているわけじゃないのよ」

シズクは、ピチューを抱き上げる。
黒い、まあるい目がシズクの心をくすぐる。
この手の瞳に、シズクはとことん弱かった………。