コトキタウン〜なにかが かすかに はじまる ところ J


 「むー」

シズクはあからさまに不満そうであったが、ニナのバトルを思い出し、ふくれるのはやめた。
あの砕かれた岩のようにはなりたくない。
友好的に接するために、まず目線をなるべくニナに合わせるようにして、しゃがむ。
次に、ニナを刺激しないようにゆっくりと近づいていく。

 「ぴっ」

ニナはシッポをピンと立て、ママを振り返る。

 「いいのよ。大丈夫」

ママが、ニナの頭をぽんぽんと軽くたたく。

シズクは、ニナのすぐ前まで来た。そおっと手を伸ばす。
ニナは耳を伏せ、身を固くしている。
ママはニコニコしながら、そんなシズク達を眺めている。

 「シズク、電撃には気を付けてね」

 「えー」

思わず手を止めるシズク。
ニナの目を見ると、好奇心と警戒の色がくるくると現れている。

 「こわくない、大丈夫よ」

シズクはそっとニナを抱え上げると、ほおずりをした。黄色い短い毛がなかなか気持ちいい。

不意に、ニナは暴れだし、シズクの手から逃れるとママに飛びつく。


 「まあ、初対面のあいさつとしては、そんなものでしょう。電撃が出なかっただけラッキーだわ」

 「そんなあ。やっぱりラムサールの方が、ずうぅっとかあいいわ」

 「ほら、手を洗ってきなさい。その後、家の探検でもするといいわ」

この日の夕食は昨夜よりも賑やかだった。
のこのこ近寄ろうとしたラムサールに対して、怒ったニナが放電しそうになったりする一幕もあったが…。
ホウエンに来てからまだ2日しか経っていないとは思えないほど、色々なことがあり、
疲れていたシズクは再び、泥のように眠った。

そして次の日。

 「ママ、行って来るね」

 「待って、シズク」

 「なあに」

 「ほらっ、冒険に出るならランニングシューズを履くといいわ。いろんなところ走れるようになるわよ」

これも、リュックと並ぶトレーナーの必須アイテムである。
シズクは、ランニングシューズに履き替えてみた。一緒に渡された説明書を読む。

 『ランニングシューズを履く−ビーボタンを押す−ことで今までよりも速く走れるようになります。
 ランニングシューズを履いて思いっきり走ろう』

 ─これって説明するまでも無いような気がする。

シズクは、内心思ったがせっかくママが用意してくれたのだからと何も言わなかった。
その代わりに軽くジャンプしてみる。よくクッションが利いていて足になじみそうな気がした。

 「シズク、トウカまではかなりあるわよ。大丈夫?」

 「うん。途中でラムサールと少しバトルの修業をしながら行くから…」

 「パパには、内緒にしておくわ。シズクが急に会いに行ったら、パパ驚くでしょうね。
 それに、あなたが自分のポケモンを持つようになっただなんて…パパが知ったら大喜びするわよ」

 「そうかしら」

 「そうよ。やっぱり、パパの子供なのね…。ポケモンと一緒にいるのがさまになっているわよ。
 でも無理はしないでね。何かあれば帰ってくればいいから。じゃあ頑張ってね」


いよいよ旅立ったシズク! ホントにようやく旅立ったというか………^0^;

しかし、ポケモンエメラルドの解説によれば、トウカシティは実は非常に近いらしいです。
パパは「家から徒歩で30分、毎日通っている」とのこと(爆)
おいおいおい………^-^;??

まぁ、パパは大人だし、毎日トレーニングがてらジムまで直線距離で行ってるんでしょう。^0^
ちゃんと舗装された道路に沿っていくと、子供の足では時間かかるということで…
………あ、ランニングシューズをもらったんでしたっけ?
うーん、まぁ、あれですよ、シズクは引っ越ししてきたばかりだし、
いろいろ物珍しいものに引っかかりながら、てくてく歩いているということで。

そうそう、ラムサールと一緒ですしね。のんびり歩いていくんですよ、これからもね。^-^

 追記:

作者からのツッコミが入りまして、パパが毎日帰ってきては困る、と………。^0^;
いやもちろん、上の話はあくまでもエメラルドの話ですから!
このポケモンリライトは、ルビーが舞台のお話ですから!!(笑)
この物語では、パパ、トウカジムに泊まり込みチュウです!!!! そういうことです!!


シズクは、101番道路の道端で休憩をしていた。
今までのところ、野生のポケモンにもトレーナーにも出会っていない。
そういえばママが水筒を持たせてくれたことを思い出して、リュックから荷物を取り出した。

お茶の入った水筒、ニナが持っていたというタマゴ、そしてメモである。

ママが言うには、ポケモンのタマゴは、トレーナーが持ち歩いていた方が早く孵るらしいとのこと。
シズクには、タマゴがどうやって持っている人がトレーナーかどうか知るのか思いつかなかったが、
ポケモンには不思議なことがたくさんあるので、これもその一つだろうと思うことにした。

 「ニナの子なのかしら? だとしたら生まれてくるのは、ピカチュウよね」

シズクは、生まれてくるピカチュウがラムサールと仲良くしてくれるかしら、
でも、あのニナの子ならきっときつい性格よね………と今から心配していたりするのであった。

 「今日の葉っぱは、ダージリンね」

人によっては青臭いと嫌がる人もいるが、このお茶の薄い色合いと独特の味がシズクは好きだった。
水筒から注いだ紅茶を片手に持ちながら、ママからもらったメモをもう片手で広げて見る。

 「メモはと…、タイプ別相性表…」

ポケモンとポケモンの攻撃技には、十数種のタイプがあり、
その組み合わせによっては攻撃が全く効かなかったり、大打撃になったりする。

 「えー、ポケモンのタイプってこんなにあるの?それに、技のタイプも覚えなければいけないの?」

ママの話では、上級者になると相性を逆手に取ったりすることもあるが、相性の良いポケモンで戦うのが基本なようだ。
だから、トレーナーなら相性表は覚えるようにと渡してくれたのだった。

 「えーと、ラムサールは水タイプだから、攻撃するときは炎、地面、岩タイプのポケモンに強くて、
 水、草、ドラゴンタイプのポケモンには、いまひとつと…
 ……あれっ、『たいあたり』という技は、水タイプじゃなかったような…」