コトキタウン〜なにかが かすかに はじまる ところ H


ユウキの声が響く。

 「待った」

 「ラムサール、止めて」

シズクの声にラムサールが動きを止める。

 「どうしたの?」

 「俺の負けだ」

シズクは不満そうに、

 「でも、まだ勝負はついていないわ」

 と
言った。

 「俺のキモリは、戦闘不能にはなっていないが、あと一撃を受けたらダウンだ。それがわかっていてポケモンを傷つける必要は無いからな」

 「そ、そうなの」

 「ポケモンの状態を見極めるのもトレーナーの役目の一つだと俺は思っている」

─案外ユウキってやさしいところもあるのね。

そうシズクが思った時、急にラムサールの身体が輝きだした。

 「どうしたの? ラムサール」

 「待て」

叫んで駆け寄ろうとするシズクをユウキが止める。

 「えっ?」

 「このミズゴロウは、レベルアップするんだ。見ろ、銀色の光に包まれているだろう」

言われてみれば確かに、ラムサールの周りには銀色のきらきらんとした光が輝いている。

 「進化するときは、この光が金色になるんだ」

 「進化…」

 「進化すると格段に強くなるが、タイプや覚える技、姿も変わってくるから嫌がるトレーナーもいるよ。
 進化させたくないときは、光に包まれているうちに祈るんだ。ポケモンがトレーナーを認めていれば、思いは叶うと言われている」

 「そんなものなの」

 「ああ、俺も何回も進化キャンセルしてるぜ」


進化キャンセル。

初めてポケモンをプレイした時は、訳もわからず自然に任せて進化してましたねー。^-^;
その所為で、最初のヒトカゲはなかなかいいワザを使えなくて、
苦手タイプも多くてバトルに出せず、結局クリアするまでリザードのままでした。
殿堂入りさせてあげられなくて、ゴメンね;;


 「レベルアップもキャンセルできるの?」

 「レベルアップをキャンセルするメリットは何も無いよ。だからキャンセルする奴もいないし、俺もしたことは無い。できるかどうかも知らない」

 「ふうん、じゃあ何も変わらないの」

 「レベルアップすると強くなる。大きさも少し大きくなるな」

シズクが見とれているうちに、ラムサールを包んでいる光は薄くなってきた。
そう言われてみれば若干大きくなった気がしないでもないが、ほとんど変わりが無いようにも思えた。

ラムサールはLv.6になった。ラムサールは『どろかけ』を覚えた。
シズクは、ポケモントレーナーのユウキとの勝負に勝った。

 「ふうん、シズクって強いんだね。あんな寸前で指示ができるなんて思わなかったよ」

シズクは賞金として300円手に入れた。

 「あれっ、300円なの? だってあたし、3000円持っていたから…」

 「ああ、シズクからの賞金が手に入ったから、買い物したんだよ。
 それにしても、父さんがシズクのことを注目するのもわかったような気がする…。貰ってすぐのポケモンがもう懐いているよ。
 シズクならどんなポケモンとでも仲良くなれるかもしれないな」

 「うふふ、そうかしら」

シズクは、ユウキの言葉を素直に喜んだ。

 「じゃ、研究所に戻ろうか」

シズクは、ラムサールの頭をなでる。

 「よくやったね、ラムサール。ありがと」

 「俺、先に研究所に戻るからシズクも早く来いよな」

さっさと帰り支度を済ませたユウキは、振り向きもせずに走り去っていく。

 「ああん、待ってよ」

シズクは、ラムサールをボールに戻す。
コトキタウンの方角を見るが、ユウキの姿はもう見えない。
仕方なく、シズクは自分のペースで研究所に戻ることにした。


日暮れ近くになって、ようやくシズクは、ミシロタウンのオダマキポケモン研究所にたどり着いた。
自動ドアを抜けると、オダマキ博士の研究室に向かう。

 「こんにちは、シズクです」

中からユウキの声が応える。

 「シズクか、遅かったな。まあ、入れよ」

─なんか偉そうね。

と思いながらシズクがドアを開けると、満面笑顔のオダマキ博士が暖かく迎え入れてくれた。

 「おっ、シズクちゃん。ユウキから話は聞いたよ。初めてのバトルでユウキに勝つだなんてすごいじゃないか。
 ユウキはかなり前から私の研究を手伝っていて、トレーナー暦は結構長いんだよ」

 「そうなんですか。でも、私が勝てたのは、ラムサールが頑張ってくれたからです」

 「俺が、手加減してやったからというのが一番だけどな」

ユウキが口を挟む。

 「なんだ、ユウキ、お前全力でやらなかったのか? そんなことでは…」

 「違うよ。俺はいつでも全力さ。ただ、シズクに合わせてまだ懐いていないキモリを使ったんだ。
 でも、シズクのミズゴロウは昨日今日もらったばかりのポケモンには思えなかった。その差さ」

 「うむ。それだけシズクちゃんのポケモンに対する想いがユウキより大きかったということだな。
 そうだ、シズクちゃんにも、研究のために取り寄せたこのポケモン図鑑をあげよう」

 「ありがとうございます。でも、私がもらってもいいものなんですか?」

 「ああ、君のようなトレーナーが持っていてくれたほうが、私の研究もはかどると言うものだ」

シズクは、ポケモン図鑑を手に入れた。
 
 「そのポケモン図鑑は、君が出会ったポケモンを自動的に記録していってくれるハイテクな道具なんだ」

博士はシズクに図鑑の使い方を説明してくれた。

 「…それでな、通信機能も備えてあって製作者のオーキド博士のコンピュータと常にリンクしているんだ。
 つまり、新しく記録されたポケモンのデータは、オーキド博士のコンピュータだけでなく他の図鑑にも取り込まれるというわけだ」