コトキタウン〜なにかが かすかに はじまる ところ F
「は?…、申し訳ありませんが、そのような部屋は用意しておりません」
「そ、そうですよね。ありがとうごさいました」
あっさりと引き下がるママ。
「もしかしてと思ったんだけど、やっぱりダメよね」
「ねえ、ママ、どうしてそんな部屋が要るの?」
「万が一のためよ、万が一」
シズクは、タマゴを持たされたまま釈然とせずに立っていた。
「やっぱり、ここで出すのは危険かしら…」
「ねえ、だから何が」
「シズク、外へ行くわよ」
ママは急に振り返り、そのまま出口へ向かおうとする。
「ママ、待って。ラムサールついて来て」
「きゅい」
ママは、ポケモンセンターを出てずんずん歩いていく。
「この辺でいいかしら」
町から101番道路に少し行ったところで立ち止まると、ママは道を外れて草むらに入っていった。
ちゃんとラムサールがついて来ているか、気にしながら追いかけてきたシズクが少し遅れて到着する。
「シズク、もしかしたら…、ううん、多分危険だから少し離れて見てなさい」
シズクは、ママのポケモンってそんなに危ないのかしらと思いつつ、タマゴを注意深く抱え直す。
「ラムサール、離れちゃダメよ。それともボールに入っている?」
「きゅー」
ラムサールは、シズクの足元にまとわりつく。
「そう。じゃあ、驚いて逃げ出さないようにね」
ママが、モンスターボールを投げ上げる。
「さあ、出ておいで。ニナ」
モンスターボールがフラッシュのように光ったかと思うと、中からポケモンが現れた。
「あっ、あれは…」
出てきたのは、さすがにシズクでも知っているポケモンだった。
ねずみポケモンと呼ばれることもあるポケモンで体の色は黄色く耳は長い。
耳の先には黒いポイントが入っている。尾は稲妻型で根元の方は少し茶色がかっている。
左右のほおには赤い電気袋がある。
人気ランキングでは常にトップクラスに入るポケモンである。
「ピカチュウね」
ニナは、ゆっくりと躰を伸ばして立ち上がり、辺りを窺うように見回した。
その視線が、ママに向けられたまま止まる。
黒い瞳が、何かを思い出そうとしているかのようにくるくると動く。
「ジ、ジジジ」
ニナの電気袋の辺りで鈍い音がする。
「ニナ、あたしよ。覚えている?」
ママが声をかける。
パリ、パリ…と耳障りな音が大きくなる。ニナは、興奮してきているようだ。
「ニナ、あたしがわからないの?」
「バチッ」
ニナの周りに放電が始まった。四足になり、頭を低く、飛びかかる体勢をとろうとするニナ。
「ニナ、止めなさい」 ママの鋭い声が飛ぶ。
ニナは、びくっと体を震わせるが、いやいやをするように首を振る。
「ニナ、あなたを捨てたわけじゃないのよ。仲間と一緒か別のトレーナーのところに行ったほうがあなたのためだと思って…」
ニナが、ママに向かって飛びかかる。
ママの言葉を無視して攻撃しようとするニナ。ママは、体をひねって避けたが、その拍子に転んでしまった。
「きゃあ」
シズクの悲鳴が上がる。
ラムサールが、シズクを守ろうとするかのように前に出た。
ニナは、ママの向こう側に着地すると低く身構える。口元からはうなり声が上がり、目には怒りの色が渦巻いている。
「ニナ…」
ママは、なんとか膝をついて起き上がると、ニナのほうへ顔を向けた。
「ダメだわ。この娘、完全に頭に血が上っている。あたしがわからないんだわ」
バリ、バリバリバリ……と、ニナの体が電気に包まれる。
「ニナ、あの岩に向かって 『かみなり』 よ」
ママが、雷鳴に負けないような大きな声で指示を出す。
ニナは、はっとした様子で顔を上げる。
「ニナ、あの岩に 『アイアンテール』 」 岩を指差すママ。
不意に、ニナは岩に向かって突進すると、飛び上がって空中でくるっと回転する。
尾が鈍く光り始めたと思うと、そのまま落下して尾を岩に叩きつけた。
「どーん」
轟音とともに岩は砕け散った。
砂埃が薄れると、ニナがママを見つめて立っている。
その目から怒りの色は消えていた。
「ああ、思い出してくれたのね。ニナ」
ママが、膝をついたまま手を広げる。
「ちゃあー」
ニナが、ママに飛びついた。勢いよく頬をママの顔に擦りつける。
「寂しい思いをさせてごめんね」
ママもニナを抱きしめる。
「よかった」
シズクはラムサールと顔を見合わせると心からの笑顔で、戻ってくるママとニナを迎えた。
ピカチュウ………可愛いですよねー。^-^*
ピカナは草ポケ大好きトレーナーですが、ピカチュウはやはり別格で大好きでございます。
アニメを見ていても、飛びついてくるピカチュウが…♪…ああぁ、ピカチュウのトレーナーがとっても羨ましいですー(笑)