コトキタウン〜なにかが かすかに はじまる ところ E
「さあ、ニナに会いに行くわよ」
慌ててポケモンフーズの缶を片付けて、ラムサールを抱えるシズク。
「ニナってママのポケモンのニックネームなの?」
「そうよ。あの娘…元気かしら」 と、遠い目をするママ。
─ニナってどのポケモンかしら………
「シズク、行くわよ」
ママの声が掛かる。
考え事に気を取られていたシズクが、はっと気がつけば、ママはもう受付に向かっているところ。
シズクは、片手でリュックをつかむと慌ててママの後を追いかけた。
「ちょっと時間がかかるかもしれないから、シズクはここで待っていてね。それとも、もう出かける?」
「ううん、待ってる」
ママのポケモンを見る機会を絶対に逃すまいと、心に誓うシズクであった。
シズクは、最初にママが座っていたソファーに腰掛けて、リュックを隣に置いた。
ラムサールは彼女の腕の中で、相変わらず良く眠っている。
夢を見ているのだろうか、ときどき、ぴくっとひれが動く。
シズクは、そんなラムサールを見ていると、気持ちが安らいでいくのを感じた。
─これは、ラムサールの気持ちかしら。ううん、あたしの気持ちよね。
ママの方はと見ると、受付のお姉さんとしきりに話をしている。上手く話がつかないのだろうか。
─あたしは、ラムサールが好き。ラムサールは、あたしが好きかしら。
ママのポケモン…ニナって言ったっけ…ニナはママが好きだから逃がしても戻ってきたのよね。
きっと今でもママのこと好きよね……
そうこうするうちに、ママが受付から戻ってきた。
「説明するのに時間がかかっちゃった」
「それで送ってくれるって?」
「それは、ジョウトのポケモンセンターに連絡をとってから、ですって」
隣に腰を下ろしたママの顔を、シズクはそっと窺い見る。
「それで、ママはニナをどうするの」
「そうね、ニナがママを覚えていなかったら諦めるわ」
ほんの少しだけ、寂しそうなママの横顔。
「でも、何とかして思い出してもらうわけにはいかないの?」
「無理強いはしたくないわ。ニナにとってみれば捨てられたも同然ですものね。恨んでいるかもしれない…」
「そんなこと…」
「もし覚えていてくれたら、ペットとして一緒に暮らすわ」
「バトルはしないの?」
「しないわ。以前のあの娘は頭に血が上りやすいタイプだったけど、随分時間も経ったし落着いてると思うわ。
今までずっと寂しい想いをしていたと思うの。これからまた修業をして厳しい言葉を掛けるなんてしたくないの」
「そう、そうね」
ママとママのポケモンは絶対幸せにならなくっちゃ。シズクが妙に気合いを込めているとアナウンスが流れた。
『〜ミツコさん。ミツコさん。受付までおいでください』
「ママ」
すっと立ち上がり意を決したように頷くと、ママは受付に急いだ。
シズクも急いでその後を追う。
「ミツコです」
「はい。先程ご依頼の件ですが、ジョウトのポケモンセンターに問い合わせたところ、該当するポケモンが居るとの連絡が折り返し有りました。
ただ、本人かどうか確認したいとのことですが」
「困ったわ、私、トレーナーカードは返却してしまったし、昨日引っ越してきたばかりで他に確認できるものなんて持ってないし…」
受付のお姉さんの顔が曇る。
「ポケモンの名前を覚えていますか?」
「ええ、ニックネームならニナです」
「合っていますね」
後ろで話を聞いていたシズクが、ママを押しのけて前に出る。
「あたしが、ママの証人になります」
シズクは、カウンターに自分のカードを叩きつけるように置いた。
一瞬ひるんだお姉さんは、カードを手に取ってシズクの顔と交互に見つめた。
「トレーナーのシズクさんですね。はい、わかりました。いいでしょう」
お姉さんは、にっこり笑ってシズクにトレーナーカードを返すと、背後の転送システムを操作し始めた。
えーと、ママの名前について。
ゲームではパパの名前はセンリと決まっていますが、ママの名前は出て来ません。………出ませんよね?(ちょっと弱気)^-^;
このお話の中では、ママは昔「アロマなお姉さん」だったという設定になってます。
そこで アロマ→香り→香水→ミツコ という発想で、ママの名前を決めました。
ミツコは香水の商品名です。もちろんピカナは持ってません(笑)
ところが、先日ポケモンアニメ(2004/03/25放送「トウカジムの危機!家庭の危機!!」)を見ていたら、
ママの名前ってば「ミツコ」になってるじゃあ〜りませんかっ? ピカナダが今回の部分を書いたのは2003/07/05。 あれえ??
………調べました。
ママ初登場の回はポケモンアドバンスジェネレーション第4話「トウカジム!VSヤルキモノ!」(2002/12/05放送)
エンディングテロップを見ると………
ミツコ:冬馬由美
おぉ〜、名前が出てるじゃないかっ!-o-;
………済みません、全っ然、記憶にありませんでした………………(-"-;)
これは偶然なのかなぁ。スタッフ関係者にミツコさんがいたのかなぁ。
それともスタッフの中でもママはアロマなお姉さんなのかなぁ?
誰か教えてくれないかなぁ………^-^;
「では、送られてきたモンスターボールとタマゴです」
「タマゴ!?」 シズクが驚きの声を上げる。
「そうなのよね。このタマゴと一緒というのが理由で貰い手が着かなかったのかしら」
首をかしげるママに、受付のお姉さんが答える。
「えーと、書類では何人か引き取りたいというトレーナーが居たそうですが、ポケモンが非常に頑強に拒否したとか…頑強というところにアンダーラインが入ってます」
「あ、あら、やだ。ニナったら」 ママは思わず苦笑い。
シズクは、当然のことながら、アロマがくれの術がでるものと思って身構える。
思わずラムサールを抱える手にも力が入り、ラムサールを起こしてしまった。
「きゅうー」
床に降り立ち、何事かときょろきょろするラムサール。
「あっ、ごめんね、ラムサール。なんでもないの…」
………何の香りもしない。
「あれっ」 拍子抜けのシズク。
「シズク、タマゴを持っててね。さてと…、ああ、ここで出すのはまずいかしら」
ママは呆けているシズクにてきぱきとタマゴを持たせると、受付のお姉さんに話しかけた。
「あの、つかぬことをお尋ねしますが」
「はい?」
「ここには、耐電設備のある部屋なんてありませんか?」