コトキタウン〜なにかが かすかに はじまる ところ D
テーブルの上には既にサンドイッチとお茶が並べてある。
ほのかに林檎の香りがするところから、今回のお茶はアップルティーかな。
いったいママのお茶のレパートリーは、いくつあるんだろう。
シズクは、いっぺんにいろんな感情を抱いたことで少し疲れていた。
「はい、おしぼり。シズク、シズク、ぼうっとしてどうかしたの」 ママが問いかける。
「えっ、ううん。なんでもない」
「そう、じゃあ早く手を拭いて、食べましょう」
「はい、いただきます」
サンドイッチを一口かじる。
半ば夢を見ているような感じで、シズクはユウキとのバトルを思い出す。
─ラムサールの送ってくれる感覚は、ラムサールには便利なのよね。
あたしにはどうなのかしら。
ひょっとしてラムサールって、本当は良く目が見えないのかしら。
ううん。そんなこと無い。
だってあたしの目を、よく見ているもの。
…とすると、あたしが目で見ながら音が聞こえるみたいなものかしら。
そうね、音が見えるみたいな感じだったもの。
だとすると…、自分の見たものとラムサールが送ってくれる感覚のうち、どちらかに集中すれば混乱しないかしら…
「シズク、シズク」
「なあに、ママ」
「それ、美味しい?」
「えっ」
ママの視線はシズクの手元に釘付けだ。
シズクは、無意識のうちにサンドイッチをお茶に浸して食べていた。
「まず、見た目が麗しくないと思うの。シズクは女の子なんだから、麗しいほうがママは好き」
「あ…」
「それに、ツナサンドや卵サンドのマヨネーズは、せっかくのお茶の香りをぐちゃぐちゃにすると思うの」
「あの…」
「最後に味は…、味は好みだからまあいいか」
「ごめんなさい。味もわからないような食べ方して…」
「作った立場から言わせて貰えば、美味しく食べてもらったほうが、もちろん嬉しいわ」
シズクは、持っていたサンドイッチを口に運んで、かぷっとかじる。
「美味しいわ、ママ。…やっぱり考え事をしながらものを食べるものじゃないわね」
ママはにっこり微笑んだ。
「いろんな経験をして、人は学ぶものよ。人に迷惑を掛けない限りは、いろんなことを経験するといいわ。
で、何を考えていたの。やっぱりラムサールのこと?」
「ええ」
シズクは、ラムサールに視線を落とす。
ラムサールは、ポケモンフーズを少し残したまま、満足そうに椅子の上で丸くなって寝ている。
「でも、説明するのは難しいの」
「そう。前にも言ったけど気持ちが大切よ。気持ちで負けてたら、勝負には勝てないわ。後は、修業ね」
「ねえ、ママ」
シズクは、ラムサールを見ながらママに話しかける。ラムサールのお腹の辺りは静かに上下している。
「なあに」
「ママも以前は、ポケモンを持っていたのでしょう。そのポケモンはどうしたの?」
「…ママはトレーナーだったから、ママのポケモンはみんなバトルが好きだったわ。
まあ、そういうポケモンばかりにしていたのよね。
で、シズクが生まれると判った時、ママには、ポケモンの世話とシズクの世話を両立する自信が無かったの。
だから、ポケモンを手放すことにしたのよ」
「あたしのせいなの!? あたしのために、ママが、ポケモン…」
シズクの瞳に、急速に涙が溢れてくる。
「もう少し小さい声で話しなさい。でないと、この話はもうおしまい」
「ママの意地悪」 シズクは、涙を手で拭う。
「もちろん、シズクの所為じゃないわよ。ママの気持ちの所為かな。
だって、シズクを背負ってポケモンバトルするつもりは無かったし、ポケモン達は構ってもらえなかったら寂しがるだろうし…。
まあどちらかといえば、シズクのほうが大事だったからかな」
「そう…、でも…」
「でね、友達のトレーナーに引き取ってもらったり、後は捕まえた場所に行って逃がしたりしたの。
でも、一匹だけ、何度逃がしても戻ってきてしまう子がいたのよ」
「で、どうしたの」 シズクは、身を乗り出さんばかりに訊いた。
「仕方がないから理由を話して、ポケモンセンターに預かってもらったの。
もし、その子が気に入ったトレーナーが現れたら、引き取ってもらうという条件でね」
「そ、それで、その子は今、どうしているの?」
「少し前に聞いたところでは、まだポケセンに居るって話だったわ。
シズクがトレーナーになったことだし、ママもその子を引き取ろうかと思っているの」
「そうして、ねぇ、ママ、引き取ってあげて!」 シズクの声は、また大きくなる。
「ほら、またそんな大きな声で」
シズクはあわてて両手で自分の口を押さえる。
「でもね、ちょっと怖いのよ。あの子がまだママを覚えているかどうか判らないし、ママの所へ来たいって言わなかったら…と思うとね」
「でも、まだ誰のところへも行っていないんでしょ。きっとママのこと覚えているわ、きっと…」 シズクの声が涙で詰まる。
「あら、あら。シズクは、いつからこんな泣虫になったの」
「だって、だって…」
「わかったわ、試してみましょう。ここのポケセンにお願いして送ってもらいましょう」
「えっ、そんなことが出来るの? あたし、そのポケセンまでママが行くのかと思ったわ」
「やあね、シズクってほんとにポケモンのことに関しては知らないのね」
「だって、今までママは教えてくれなかったじゃない」 ぷくっとほおを膨らませるシズク。
「だって、今までシズクは訊かなかったじゃない」
シズクは、ママの答えを聞いていっそうほおを膨らませた。
「そろそろ、テーブルの上を片付けましょう。そのお茶は淹れ替える?」
「あ、えーと。このままでいいわ」
シズクは、残りのお茶を飲み干した。思わず顔をしかめる。
やっぱり、マヨネーズ入りのお茶は、あまり好みではなかった。
ママは、テーブルの上を片付けると立ち上がって言った。
逃がしたポケモンが戻ってくる。
ご存じの方もいるでしょうね? これは実話です。^-^*
ゲームをリセットする前に、捕まえたポケモンをパソコンから全部逃がしていたら、
そのうちの何匹かは戻ってきてしまいました。
もう一度逃がしたら、2度目はちゃんと逃げてくれましたが。
その時のメッセージ。
これは結構、じ〜んと来ますので、ここでは内緒にしておきますね。^-^@
見たい方は、ご自分で試してみてください♪
おっと、ポケモンが全然戻ってこなくても、ピカナは責任とれませんよ; 念のため。