コトキタウン〜なにかが かすかに はじまる ところ B


 「きゃあ」 シズクの口から悲鳴が上がる。

ラムサールが地面の上を転がって行くと、シズクの視界もぐるぐる回る。
シズクは立っていられなくなって地面に膝と両手をついた。
その態勢のまま顔を上げる。一度閉じてしまった目を開いて前を見据える。

 「あたしが頑張らないと、ラムサールが…」

ラムサールから送られてくる視界ではなく、自分の目に集中する。
一瞬、全方位の視界を意識の隅に追いやれた。こんなこともできるんだと思った途端、シズク本来の視界のみになった。
ラムサールは何度か地面ではねた後で、一本の木の前で態勢を立て直した。
体全体で呼吸をしており、かなり辛そうである。

 「ラムサール、大丈夫?」

 「きゅうー」 シズクの叫びにラムサールが答える。

 「まだやれるのか。それでは…キモリ、行け」 ユウキの指示が飛ぶ。

キモリがラムサールに走り寄る。ラムサールが身構える。

 「キモリ、手をついて『はたく』」

 「ラムサール、横に跳んで」

キモリが片手を地面につき、その手を中心に体を回転させる。
ラムサールの体が浮いた瞬間、キモリの地面を払うような『はたく』攻撃がヒットした。

 「きゅー」

ラムサールは倒れた。

 「戦闘不能だな」 ユウキが宣言する。

シズクの手元には戦えるポケモンがいない。シズクは目の前が真っ暗になった。


この辺、ゲームでは思うんだけれど、負けたショックで呆然としてる感じでしょうかね?^-^;
そして「はっ」と気が付くとポケモンセンターにいて、お金は半分に。
勝った相手が負けたほうのトレーナーを世話してやるシーンが浮かんじゃいます。

 勝者「ほらほら、しっかり立って」
 敗者(ぼーっとしている)

 勝者「おれの勝ちだからね、トレーナーカードに記録するぞ、いいな? 」
 敗者(ぼーっとしている)

 勝者「おまえのカードにも記録しておくからな、ちゃんとしまっておけよ」
 敗者(ぼーっとしている)

 勝者「仕方ねぇな、ポケセンまでは連れてってやるから、自分で歩けよ。はい、右足出して!」
 敗者(ふらふら歩き出す)
 勝者「まったく、どっちが得なんだか判りゃしないぜ……ふっ(ため息)」

どんなもんでしょうか?(^0^;


シズクは、頭を振って意識をはっきりさせるとラムサールに駆け寄った。

 「ラムサール、ラムサール」 シズクが呼びかけるが、ラムサールはぐったりして動かない。

ユウキは、キモリをねぎらうとモンスターボールへ戻した。そして、シズクに歩み寄る。

 「シズク、ちょっとみせてみろ」

ユウキは屈み込むとラムサールに触れる。
その様子を心配そうに見つめるシズク。

 「大丈夫だ。このくらいならポケモンセンターですぐ回復する。とりあえずボールに戻しておいた方がいいな」

 「そう」 シズクは慌ててポーチからボールを取り出すとラムサールを戻した。

 「で、俺の勝ちだな」

 「そんなのどうでもいい。ポケモンセンターに行かなきゃ」

歩き出そうとするシズクをユウキが引き留める。

 「そうはいかない。さあ握手だ」

 「え?」

ユウキはシズクの手を取る。

 「ポケモン勝負が終わったら、握手してあいさつするんだ。…ありがとうございました!」

 「あ、ありがとうございました」 つられてシズクもあいさつを返す。

 「これってきまりごとなの?」

 「別に協会が決めたことじゃないけどな。トレーナー同士の約束事みたいなものだ」

 「そ、そうなの」

 「ポケセンに行くんだろ。早く行けよ」

 「あ、うん。じゃあ…」

シズクは、モンスターボールを抱えると走り出した。

 「ユウキは大丈夫って言ったけど、ラムサール動かなかったし…」

走っているうちにシズクは段々不安になってきた。
草むらを突っ切る。
コトキタウンが見えてくる。
もう少し。
次第に息が切れてくる。

 「ラムサール、もう少しだから、頑張って…」

シズクは、必死に祈りながら走った。
赤い屋根が視界に入ってくる。

 「あそこね」


ようやくポケモンセンターにたどり着いたシズクは、自動ドアを抜けたところで動けなくなった。
なんとか息を整えようとするが、なかなか収まらない。
膝頭に手をつき、肩で大きく息をしたまま頭を巡らしてみる。
正面に受付らしいものがある。
シズクは、そちらのほうへ足を引きずるようにして歩いて行った。

 「お疲れさまです。ポケモンセンター受付です」

 「ハア、ハア…」

 「あの…、大丈夫ですか」

 「はい、ハアハア…、わたしは…」

受付の女性は、にっこり笑って言葉を続けた。

 「ここではポケモンの体力回復をします。あなたのポケモンを休ませてあげますか」

 「ハア、はい、お願い…します」

 「それではお預かりいたします」

シズクはラムサールを預けた。

 「あたしのラムサール、大丈夫でしょうか」

 「えー、大丈夫ですね。すぐに良くなりますよ」

 「よかった」 シズクは少しほっとしたが、やはり元気な姿を見るまでは安心できない、とも思う。

 「ポケモンの回復が終わったら、お名前をお呼びします。お名前は?」

 「シズクです」

 「シズクさんですね。では、しばらくお待ちください」

 「よろしくお願いします」 シズクは、思い切り真剣な表情で頭を下げた。

この頃には少し息も楽になってきたので、シズクは入り口の方に少し戻り、改めてポケモンセンター内を見回してみた。
奥の壁際には電話とコンピュータがあり、手前にはソファーが置かれている。
そのソファーでシズクのほうに向かって手を振っている人がいる。