コトキタウン〜なにかが かすかに はじまる ところ A


 「何でも売り切れらしくて、モンスターボール買えないの…。せっかくここまで来たのに…」

 「そうなの? わたしもボールを買いに来たのに…残念ね」

 「あなたも…」 少女はそう言って、またレジの店員をにらみつける。

店員は、困ったような顔をして、少し視線をそらした。

 「わたしは、他に必要なものが何かわからないから、もう行くわ」

シズクは、少女に言った。

 「そう…」 

少女は、しばらく動きそうに無い。シズクはひとりでフレンドリィショップを出た。

 「えーと、103番道路は、と…、博士はコトキタウンの向こう側って言ってたわね。
 ということは、確かあっちから引きずられてきたから、こっちかしら…」

シズクは、町の中心に向かって歩き出した。途中でポケモンセンターの前を通ったが先を急ぐことにした。
やがて町のはずれに着くと、そこから一本の道が北へ延びている。

 「こっちでいいみたいね」

ずんずん進んでいくと、また案内板があった。


 ここは 103ばん どうろ 
 ↓ コトキタウン
 

 

 「どうやら目的地に着いたみたいね」

辺りを見回してみるが、特に変わったものは何も無い。背の高い草むらがあちこちに広がっているだけだ。
シズクは、もう少し先に行ってみることにした。

しばらく進んでいくと、道は不意に川に行き当たっている。

 「変ねぇ。道がなくなっているし、橋も無いわ」

どうやらこれ以上は進めないらしい。
シズクは、仕方なく来た道を戻ることにした。今度は道だけでなく、周囲の草むらにも気を配る。

 「ガサガサ」


草むらから音がする。
シズクは、ラムサールが入ったモンスターボールをぎゅっと握りしめた。

 「そうか、あいつとあいつが103番道路にいるポケモンか…」

ぶつぶつ独り言を言いながら草むらから出てきたのは、ユウキだった。

 「ユウキ、やっと見つけたわ」

 「おや? シズク」

ユウキは、シズクがモンスターボールを握りしめているのを見た。

 「…そうか、父さんからポケモンを貰ったのか」

 「うん。トレーナーの登録もしてもらったわ」

 「じゃあ、ついでだ。ポケモン勝負してやろうか。トレーナーってどんなものか、俺が教えてやるよ」

 「えっ、いきなりなの」

ポケモントレーナーのユウキが勝負をしかけてきた。


 「しかけられた勝負は、受けるのが礼儀だぜ。心配するな。ポケモンのレベルは、そっちに合わせてやるよ」


ポケモン勝負は、いつでも問答無用。--

 「勝負を受けますか? はい/いいえ」

があってもいいんじゃないかなぁ〜、って、たまに思わないでもないですが、
現実は「待った無し」ですからねぇ(笑)

RPGゲームの基本は「こまめにセーブ」ですけど、ポケモンはセーブが1コしか出来ません。
それもまた、「人生やり直し不可」と通じるところが…
……って、これはゲームなんだから、やっぱりもう少し優しくてもいいんじゃないのぅ?^-^;


ポケモントレーナーのユウキはキモリを繰り出した。

 「ゆけ、キモリ!」

ユウキが投げたモンスターボールから、緑色の光が飛び出してきた。
キモリと呼ばれたポケモンが、シズクの目の前に着地する。
2本の足ですっくと立つそのポケモンは、何だかとても強そうな気がする。

 「お願い、ラムサール」

シズクも、モンスターボールを投げた。

 「きゅうい!」

ラムサールが元気よく飛び出す。

 「ミズゴロウか」 ユウキが呟いた。

シズクはキモリを見た。
全体が黄緑色で、おなかのあたりはオレンジ色。細い手足には3本の指がある。
丸くて黄色い目、虹彩は黒く縦に細長い。頭にはこぶのようなものが2つ並んでいる。
尾は緑でふかふかのように見えるが見た目より充実しているようだ。
根元よりも中ほどが膨らんでいて先のほうは丸まっている。

 「いくぞキモリ、『はたく』」

 「ラムサール、『たいあたり』」

ほぼ同時にふたりの指示が飛んだ。
先に動いたのはキモリのほうだ。
キモリの、尾ではたく攻撃。

 「ダメ、ラムサール、避けてー」

攻撃がラムサールの頭に届く寸前、ラムサールは横に避けた。
キモリの尾は勢い余って地面を叩く。

 「キモリ、ジャンプ」

しかしキモリは、叩きつけた尾の反動を利用して空中に舞った。

 「キモリ、『はたく』だ」

キモリは、空中で身をひねるとラムサールめがけて頭から落下してくる。
ラムサールの頭上で前転をするように回ると、尾に自分の体重を乗せた攻撃を繰り出す。

 「ラムサール、前に跳んで」

キモリは、ラムサールを飛び越える形になって着地した。
2匹は再び対峙する。
ほっとため息をつくシズク。

 「危なかった……えっ?」

その時、シズクは又、全方位の視界に襲われた。
瞬間立ちすくむシズク。

 「キモリ、ダッシュ」

隙をついたユウキの攻撃命令に、シズクはとっさに対応することが出来ない。
キモリがラムサールとの間合いを素早く詰めた。

 「キモリ、『はたく』」

 「きゅいー」

キモリの攻撃が綺麗に決まった。
ラムサールは大きく吹っ飛ばされる。