コトキタウン〜なにかが かすかに はじまる ところ @
「ああ、ラムサール、よかった。でも、これはあたしがやっているの、それともおまえなの」
「うきゅい」
わかっているのかいないのか、ラムサールが元気よく返事をする。
「どっちなの」
「きゅい?」
「て、だめね。
えーと、おまえがやっているなら、お手上げだけど、あたしの方の問題なら必要なとき…
ううん困るときは、おまえと切り離せるってことよね。寂しいけど…」
シズクは、試して見ることにした。
「ふうー」
まずは心を落ち着かせるために深呼吸をする。
腕の中のラムサールを見つめる。黒いまあるい目がきょろきょろと良く動く。
「やっぱり、あたしのラムサールはかあいい」 思わずにっこりするシズク。
「って違う、そうじゃない。…えーと、さっきはママのことを考えたら、おまえがいなくなったのよね。今は…」
シズクは目を閉じて、感じてみた。
「……うん、ちゃんといるわね。で、ママのことを考える。今ごろは…お茶の時間かしら」
シズクは、色々なことを思い浮かべて見たがどれも上手くいかなかった。
「うーん、だめかしら。やっぱり、おまえがやっているの?ラムサール」
「きゅう」
と、そこへ近づいてきた少年が、
「君、どうかしたの」
「きゃっ」
シズクは、急に話し掛けられたので驚いたように少年を見た。
少年は、シズクが悲鳴を上げたのでたじろいでいる。
「ごめんなさい。驚いたものだから…。えーと、私は大丈夫…」
「なんだ、じゃあポケモンか。ポケモンが弱ってきたら、ポケモンセンターに行くといいよ。
ポケモンセンターならすぐ近くのコトキタウンにあるからね。赤い屋根にモンスターボールのマークが目印さ。すぐわかるよ」
「ありがとう、行ってみるわ。コトキタウンはもう近くなのね」
「ああ、そこの角を曲がったらすぐさ。じゃあ気を付けてな」
「ええ、あなたも」
シズクは、少年を見送るとため息をついた。
「とにかくコトキタウンに行きましょう。……うーん、このままじゃどうしようも無いから、おまえはボールに入っていてね」
ラムサールは、少し不満そうではあったがおとなしくボールに収まった。
「さてと」
シズクは、ゆっくりと立ち上がると再び歩き始めた。
すると程なく少年の言ったとおり、コトキタウンに着いた。
コトキタウンは、ミシロタウンよりも少し大きめな町のようだ。
入り口にはミシロタウンのそれとよく似た案内板が立っていた。
シズクは、案内板の前に立ち止まる。
ここは コトキ タウン なにかが かすかに はじまる ところ |
「『何かが始まる』 か…何かってなにかしら………きゃあっ」
急に後から手を捕まれて、思わず叫ぶシズク。
「あっ、おどかしちゃったかな。ごめん。俺、フレンドリィショップの店員。キミキミ、ちょっとついて来て」
シズクの手をつかんだまま、店員と名乗る男は、さっさと歩き出す。
「えっ、ちょっと、ちょっと待ってよ」
半ば引きずられるようにして、男の後をついて行くシズク。
途中何人もの人に出会ったが、シズクを見ても誰も特に気にも止めない。無関心な住人ばかりなのだろうか。
「待って、待ってったら!」
シズクが声を上げても、男は振り向きもしないで歩いていく。
やがて彼は一軒の店の前で止まった。
ようやく手を開放されたシズクは、きっ、と男をにらみつけた。
「ほら、ここがフレンドリィショップ。青い屋根が目印なのさ。ポケモンを捕まえるボールとかいろんなグッズを売ってるよ」
「はあ?」とたんにシズクのテンションが下がる。
そうそう、ゲームの最初のほうはね、いろいろな約束事を無理やり教えてくれちゃうからね(笑)
FFシリーズの「初心者の館」とかね、知ってる人は行かなくてもいいんだけど、
逆になんにも知らない人は、いきなりイベントが入っちゃうとびっくりしちゃうよね。^-^;
今度の新作ポケモン赤・緑でも、かなり親切設計が入るらしいけど、どうかな、うっとうしいかな?
いずれにしても新しいゲームは楽しみだなぁ♪
「このお店もポケモン協会の経営かしら」
シズクは、独り言のように呟いた。
「そうさ。では、君にはサービスとしてこれをあげよう」
店員は、強引にシズクの手に何かを握らせる。
それは、キズぐすりだった。
「どんなときでも使えるキズぐすりは、場合によってはポケモンセンターより頼りになるからね」
そう言うと店員はいずこへともなく走り去った。
「なんなの」呆然と立ち尽くすシズク。
「もしかして、何かが始まるってこれのことなの…」
シズクは、しばらく店員の去った方向を見つめていたが、我に帰るとキズぐすりを道具ポケットにしまった。
その辺、しっかりしているシズクである。
振り返って店を見上げる。確かに屋根は青い。
「確か、ポケモンを捕まえるボールとか売っているって言っていたわね。ボールは幾つか持っていた方がいいわね」
シズクは、店の中に入った。棚には色々な商品が並んでいる。
「モンスターボールはどこかしら」シズクは、店内を一通り見て回った。
「へんねぇ、見当たらないわ」
店の隅で、恨めしそうに店員をにらんでいる少女がいる。
「あの、どうかしたの?」
シズクは、少女に話しかけた。