ミシロタウン〜どんな いろにも そまらない まち N


 「あのぉ、ポケモンが育つ仕組みでなければ訊いてもいい?」

 「いいけど、答えを期待しないでね」

 「野生のポケモンも、ポケモン同士でバトルするの?」

 「野生のポケモンは、バトルしなくても育つらしいわ。生きていくだけで経験になるらしいの。
 だから、『ポケモン育てやさん』は野生と同じような環境にポケモンを置くらしいわ。
 そうすると自然にレベルが上がるんですって」

 「えーと。 『ポケモンを見ていると、これこれこういうことがあるらしい。だけど理由は判っていない』 …ということなの?」

 「そうね。沢山の研究者が研究をしているけれど、
 少しずつ判りかけてきたこともあるし、皆目見当もつかないこともあるそうよ」

 「ふーん。おまえも不思議な生きものなのね」

シズクは、ラムサールの頭を軽くつつく。
気持ち良くまどろんでいたラムサールは、起こされて抗議の声をあげた。

 「あたし、この子は今のままで変わらなくてもいいわ。ポケモン勝負をすると、この子にけがをさせるかもしれないもの」

 「でも、今のその子とふたりではパパに会いにトウカシティへ行くなんて無理よ」

 「そうなの?」

 「野生のポケモンに出遭ってもあなたじゃ追い払えないでしょ。それに大抵のポケモンはバトルが嫌いではないと思うわ」

 「どうしてそう思うの」

 「だってママの経験では、ポケモンもバトルを楽しんでるところがあったもの。
 勝つと嬉しいとか負けると悔しいとか、そういう感情があるかどうかは判らないけれど、
 少なくとも勝ってトレーナーに誉められると、みんな嬉しそうだったわ」

 「ふーん。そんなものかな。まあ、とりあえずバトルもしてみないと、どんなものか判らないわね」


 「ところでシズク、出かけるならその髪、何とかしてからにしたほうがいいわよ」

 「ええ!?」

慌てて頭に手をやって見ると、あちこちつんつんしている。
昨夜、ろくに乾かさないで寝てしまったため、シズクの髪は寝癖が付いてはねていた。

 「あぁん、今日は、ユウキのところへ行くことになっているのに…」

 「ユウキくんって、オダマキ博士の息子さんだっけ?」

 「うん。ポケモン勝負をやりに行くことになっちゃったの。博士はトレーナーがどんなものか教えてもらえ、って…」

 「そう。それで今日は、どこまで行くの」

 「えーと、103番道路って言っていたわ」

 「そう…」

 「ごちそうさまでした。じゃあ、あたし出かける支度をするね。おいで、ラムサール」

 「ちょっと待って、シズク」

立ち上がって2階に向かおうとしたシズクを、ママが呼び止める。


シズクがラムサールのお皿を洗っている間に、ママは自分の部屋から何かを持って戻ってきた。

 「これが、トレーナー用のリュックよ。ママが使っていたものもあったけど、
 使いやすい新作が出ているって聞いたから、昨日買っておいたのよ。持って行きなさい」

 「あ、ありがとう。ママ」

 「ポケットがたくさんあるのよ。ここが、モンスターボール入れ、こっちが道具入れ、そっち側が大切なもの入れよ。
 まだポケットは余っているから何を入れるかは、シズクが決めなさいね」

 「ママ…」

ぎゅっ、とリュックを抱きしめるシズクの周りを、ラムサールが嬉しそうに走り回っている。

 「このリュックは、見かけよりたくさん物が入るのよ。
 さすが、ポケモン協会が推奨しているだけのことはあるわね。さ、早く支度なさい」

 「うん」


とても長かった旅立ち編ですが、ついにシズクも家を出る決心をしたようです。^-^
といっても、まだ、ようやく隣町まで行くだけなんですが(笑)


 「持っていくものは、あまり無いわよね」

シズクは、リュックにキズぐすりを入れた。

 「後は、着るものよね。これじゃバトルしにくいかしら」

普段のシズクはスカート派で、今もワンピースを着ている。

 「ママがトレーナーだったころの写真を見たけど、ミュールにフレアースカートだったわ。
 ママは、あの、『ちょっとデパートにお出かけ』 っていう格好で山とか川とか入って行ったのかしら」

別に山や川に行かなくてもトレーナーをするのには問題ないのだが、
オダマキ博士の影響か、シズクのイメージの中では野山がメインを占めているらしい。

 「ちょっと脚が出て恥ずかしいけれど、動きやすさはこれが一番よね」

シズクは、黒のスパッツに着替える。合わせて上着はゆったりとしたシャツを着た。色は赤だ。

 「それからっと、この髪よね…そうだ」

シズクは、モンスターボールをデザイン化してある赤いバンダナを取り出すと、頭にかぶって後ろで結んだ。

 「これで、はねているのは隠れたわね」

シズクは、少し悩んだが着替えも持って行くことにした。

 「ママ、行ってくるね」

 「気を付けてね、シズク、……ラムサールはボールから出したままで行くの?」

 「出したままだとだめなの? ラムサールも外が見たいかなって思ったんだけど…」

 「だって、ラムサールを連れて外に出るのは初めてなんでしょ。
 手に入れたばかりのポケモンは、驚いたり何かに興味を持ったりすると飛び出して行ってしまうことが多いものだけど…」

ママは、ラムサールを見た。
ラムサールのまあるい目がママを見上げている。

シズクは、ラムサールが自分を置いてどこかへ行ってしまう、なんていうことはとても考えられなかった。
もっとも、その自信がどこから来るのかも判らないのだが。
今、ラムサールの心は自分の心の中には感じられなかった。

 「ラムサールは、多分大丈夫だと思うけど、もしもの時のためにボールを手に持ってることにするわ」