ミシロタウン〜どんな いろにも そまらない まち L


シズクは、頭にタオルを巻いたまま寝ていた。
ママは、タオルをそっとはずした。シズクが寝返りをうつ。
枕もとのモンスターボールが見えた。

 「シズク…」

ママの顔に不安そうな影がよぎる。ママは、布団を掛けなおすと電気を消して部屋を出た。


シズクは、辺りが妙に明るくて目がさめた。

 「あれっ」

どこか違和感がある。シズクは、天井に見覚えがないことに気が付いた。

 「ここは、どこかしら」

次第に頭がはっきりとしてくる。

 「そうだわ、昨日引っ越してきたんだっけ…」

シズクは、ベッドの上に身を起こすと背伸びをした。

 「う〜ん……カーテンも閉めずに寝ちゃったのね」

電気も消さなかったことには、気付かないシズクだった。
枕元のモンスターボールを取り上げる。

 「出ておいで、ラムサール」

 「きゅい」

ラムサールは、床の上に出てくるとすぐにベッドに跳び乗り、頭をシズクの手に擦り付ける。

 「おはよう、ラムサール」

シズクは、ラムサールの頭を軽くたたく。ラムサールは尻尾を振って答えた。
と、急にシズクは、空腹を覚えた。

 「えっ、ラムサール、お腹すいているの」

そう言えば、昨日は何も食べさせていない。

 「大変、何か食べるものを探さなくっちゃ」


シズクは、ラムサールを抱えてベッドから降りるとパタパタと階段を駆け下りる。
キッチンでは、ママが朝食の支度をしていた。

 「ママ、ママ」

 「あら、シズク起きたの」

 「ラムサールの食べるもの…」

言いかけてシズクは、ママの視線に口をつぐんだ。

 「シズク、あいさつは?」

 「おはようございます。ママ、ねぇ…」

 「はい、おはよう。もうすぐご飯だから、着替えて顔を洗いなさい」

ママに言葉を遮られる。
こうなったときのママは、有無を言わさないことは承知しているのだが、
シズクもここは引き下がるわけには行かない。意を決して口を開く。

 「ママ…」

 「なあに。ラムサールのご飯も用意してあるから早くなさい」

がくっ。
完全にシズクの負けである。
シズクは、階段を駆け上ると大急ぎで着替えを済ませ、階下の洗面所に向かった。

 「ラムサール、あなたはここで待って…」

言いかけてシズクは思い直した。ラムサールを連れて洗面台に行く。
自分の顔を手早く洗うと新たに水を張り、ラムサールを洗面台のふちに置いてやる。

 「あなたも顔を洗いたいでしょ」

ラムサールは喜んで頭から水に突っ込んだ。

 「ばしゃっ」
 「きゃあ」

水がそこいら中に飛び散った。シズクは、慌てて雑巾で辺りを拭きまわる。
ラムサールは、全身を水に浸したいのだが、底が浅いので洗面台の中でもがいていた。

 「待って、ラムサール、ダメよ」
ラムサールが動く度に水しぶきがあがる。
 「もう〜」
シズクは、ラムサールを抱き上げるとタオルに包んだ。
 「シズク、ご飯よ」
ママの声がする。
 「はーい」
 「きゅー」タオルの中から不満そうな声がする。

いや〜、もう、やられちゃいましたよ、このシーンには(爆)^0^
か、かあいすぎ、ラムサールぅ♪
なんてお茶目なんだっ(笑)


シズクは、急いでキッチンに向かった。
シズクの椅子の脇に深めの皿が置いてあり、中にはペレットのようなものが入っている。

 「ママ、これがラムサールのご飯なの?」

 「そうよ。昨日、スーパーマーケットで買い物をしたときに『すいちゅうグループ』用のポケモンフーズを買っておいたのよ」

 「ママ、ありがとう」

シズクは、ラムサールを皿の前に置く。
ラムサールは、ポケモンフーズのにおいをかぐとシズクを見た。

 「食べていいのよ」

シズクが微笑むと、ラムサールは、猛烈な勢いで食べ始めた。

 「シズク、ラムサールに何も食べさせなかったの」

 「ごめんなさい。昨日は色々なことがあって忘れちゃったの」シズクは下を向く。

 「きゅーい」ラムサールが食べるのを中断してシズクを見上げる。

 「いいのよ。なんでもないの。食べなさい」

ラムサールは、又食べ始めた。その仕草に、ママの顔が一瞬曇る。

 「シズク、ポケモンの体調管理はトレーナーにとって一番大切なことなのよ。
 ポケモンの体調が悪かったらバトルどころじゃないわ」

 「そうよね。気を付けるわ、ママ」

 「分かればいいわ。さあ私たちも食事にしましょう」

シズクは、時々ラムサールの様子を気にしながら朝食を食べた。
今朝の献立はトーストにサラダと果物。それから、しゃきっと目が覚める気がするミント・ティ。
シズクは、昨夜訊けなかったことを訊きたかったが、
またママのお小言をもらうのはごめん、と思って、食事が終わるまで我慢しようと努力した。
ママはシズクがすっかり食べ終わると、お茶のおかわりにミント・ミルク・ティを淹れてくれた。

 「ママ、訊いてもいい?」

 「なあに」

ママは、自分のカップにも濃くなったミント・ティを淹れてミルクを足した。

 「昨日、ママが言っていた『ポケモンが育つ』というのは、ポケモンが大きくなることなの、それとも進化することなの?」