ミシロタウン〜どんな いろにも そまらない まち K


シズクはウエストポーチからモンスターボールを取り出すと枕元に置く。そして倒れこむようにベッドにもぐり込んだ。

 「おやすみ。ラムサール…」

ママは、カップのお茶を飲み干すと電話の前に座った。
一つため息をつくと電話をかける。呼び出し音の後、少しあって画面にセンリが出た。

 「やあ、ママ。引越しは片付いたかね」 にこやかに笑いかけるセンリ。

 「ええ、思っていたよりも楽だったわ」 ママも微笑む。

 「シズクもそこにいるのかね」

 「あの娘はもう寝たわ」 ママの顔が翳る。

 「どうしたんだ、具合でも悪いのか」 センリの顔も曇る。

 「いいえ、疲れただけだと思うわ…」

 「そうか、じゃあ心配することは無いんだな」

 「それが…」 ママは言葉を濁す。

 「どうしたんだ」

 「はっきりしたことは言えないの…」 ママは膝に目を落とす。

 「シズクのことか」 センリの顔が真剣になる。

ママは顔を上げた。

 「ええ。今日シズクがオダマキ博士からポケモンをいただいたの」

 「そうか、シズクはポケモンにはあまり興味が無いと思っていたが…。それがどうかしたのか」

ママは、シズクから聞いた話を順番に話し始めた。


 「………と言うのよ。
 それで、今日出会ったばかりのポケモンにしてはシズクになつき過ぎていると思うの。
 なんだかシズクの感情にも同調しているように見えたし…」

 「…まさか、共鳴!? …本当にそんなものがあるのか」


    昔、とてつもなく相性のいいトレーナーとポケモンのコンビがいたと云う。
    二人は出会ったときから抜群のコンビネーションを発揮し、
    程なく声に出して指示をしなくてもそのポケモンはトレーナーの思ったとおりに戦うようになったと云う。
    そのトレーナーはパートナーのポケモンとともに修業を積み、あちこちのポケモン大会で優勝を重ねた。
    人はそのトレーナーを『ポケモンマスター』と呼び以心伝心の現象を『共鳴』と呼んだと云う。


 「伝説だと思っていた…。 シズクと、シズクがラムサールと名付けたミズゴロウがそうだと言うのか。
 しかも選りによってファーストポケモンとは…。 いや、信じられない」

 「ねぇ、あなた。こちらに来てくださらない? あなたの目で確かめて欲しいの」

ママの声は微かに震えている。


    語り伝えによると、ポケモンマスターと呼ばれた男は、共鳴していたポケモンをある事故で失ってしまったと云う。
    ポケモンはトレーナーの身代わりになったとのことだった。失意の男は精神に異常をきたし、行方をくらませたと云う。
    その後の男の消息は伝わってはいない。


 「すまない。しばらくは無理だ」

 「私、シズクが心配…」

 「ポケモンロスト症候群か?まだ、そうなると決まったわけではないし、シズクはママの娘だから大丈夫だ」

 「あなたの娘でもあるのよ」 ママの声には少々とげがある。

 「許してくれ、悪かった」 素直に謝るセンリ。

 「クスッ、相変わらずね」 ママは優しく微笑む。

 「少しは落ち着いたかね」 センリも微笑む。


うにゃー、うっかりして手直しする前にアップしてしまいました〜><
運悪く(?)見てしまった方は忘れて忘れて?(願)

さて、今回会話が多いので(しかも電話だし)ピカナはあんまり手を出すところがありませんでした。
ちょっと楽屋落ちネタな会話もあったのでカットしたくらいかな(笑)

ポケモンロスト症候群というのは、ペットロスト症候群と同じです。
長い間一緒にいたペット(ここではポケモン)を失った痛手で、
それまで暮らしていた普通の生活が出来なくなってしまう、心の病ですね。


 「とにかくシズクのことは少し様子を見ておいてくれないか。私も予定が終わり次第帰れるように努力しよう」

 「わかったわ…、ああ、そう言えば、シズクが、あなたに会いに行きたいって言っていたわ」

 「そうか。トウカまでの間の野生ポケモンのレベルはそう高くないから、
 シズクがトウカに来られるようになる方が早いかもしれないな」

 「そうね。あの娘は器用だから、トレーナーとしてのレベルが上がるのも早いかもしれないわね。
 それにラムサールもあのなつきようだし…」

 「それが心配の種なんだがな」

ママは、海よりも深いため息をつくと、画面のセンリを見つめた。

 「じゃあ、あなた。無理はしない程度に最大限の努力をしてね」

 「ああ、じゃあ、近いうちに…」

ママは、電話を切った後もしばらく暗くなった画面を見つめていたが、ふと我に返ったように立ち上がると階段を上がっていった。
シズクの部屋のドアの隙間から明かりが漏れている。
ママは、ドアを軽くノックした。返事は無い。

 「シズク」 小さな声で呼びかける。

 「開けるわよ」

ママは、そうっとドアを開けてみた。
シズクは、電気も消さずにベッドの中で寝息を立てていた。
彼女を起こさないように、ママは足音を忍ばせてベッドに近づく。

 「あらあら、髪も乾かさないで…」