ミシロタウン〜どんな いろにも そまらない まち @


 「あたっ」

思わず声が出る。これでいったい何度目になるだろうか。
シズクは、トラックが走り出して数分後には早くも後悔していた。

ここは、引越しトラックの荷台の中である。
運転手のおじさんには、助手席に座るように勧められたのだが、
トラックの荷台に乗れるなんて経験はそうそう出来ないだろうと思い、無理に乗せてもらったのだ。

 「せめて、窓があればよかったのに…」

荷台はがっしりした箱型のトラックなので、扉のすきまがうっすらと光る以外はほとんど真っ暗である。
引越し用のダンボールの上に腰をかけてはみたのだが、どうにも乗り心地はよろしくない。

シズクは、荷台の乗り心地を十二分に堪能すると、ダンボール箱のつもりになってみた。
トラックの荷台にはそれが一番ふさわしいと思ったからだ。

だが、いくらもしないうちに人間に戻らざるを得なかった。
どうやら山道にさしかかったらしく、トラックが曲がるたびに体のあちこちが他の荷物とぶつかるのだ。
あらかじめ前が見えていれば、トラックがどちらに傾くか予想もつくのだが窓がないのでそれも出来ない。

 「うーん…」

しばらく考えた後、シズクは次に、何処かのお嬢さまのつもりになってみることにした。
<身代金欲しさの誘拐犯に捕まり、アジトに運ばれる途中>という設定である。
手足は固く縛られて身動きが取れない。もちろん空想の縄だけれど。
口もふさがれている方がそれらしいかなと思ったが、ただでさえトラックの荷台は息苦しいのでそれは止めることにした。

今度の想像は、荷物になっているよりも長続きしそうである。


シズクは、スクールでの成績は良い方だった。運動も抜群ではないがそこそこ出来る。
何を始めるにしても、それなりの格好がつくようになるのは早かった。
しかし世の中には、ただひとつのことをするためだけに生まれてきたような子が、必ずと言えるほど何処かにいるものだ。
そういう子たちには、シズクはどんなに頑張ってもかなわなかった。

勝てば嬉しいし、負ければ悔しい。
その気持ちはシズクにもあったが、シズクは勝ち負けに固執する方ではない。
『自分が弱いから負けた』
それを素直に認められる子だった。

そして、体を動かすことが出来て気持ちがよければ、ほぼ満足であった。
もちろん勝つに越したことはなかったが…。

そんな訳で、シズクは誘われればスポーツにも興じるが、
どちらかと言えば室内で本を読んでいるほうが好きだった。

シズクの読書は乱読である。
タイトルが気になったとか挿絵に惹かれたとか、そんな理由で本を選んだ。
そして一度手にした本は最後まで読むことにしていた。
最初はダメかなと思っても、途中で好きになることもあるからだ。

面白い本を選ぶ勘は、たまには外れることもあるけれど、大体において当たりだった。
今だって、本当はお姫さまになりたかったのだが、この時代にお姫さまなんていないのでお嬢さまで我慢しているのだ。

 「………………」

だが次第に、正義の味方が助けにきてくれるのを待つしかないお嬢さまでは、
荷物になったときとあまり変わらないような気がしてきた。

縛られたフリのまま外の気配を伺うが、トラックはまだ停まりそうにない。


ふと思いついてシズクは、捕らわれた女スパイのつもりになってみることにした。
女スパイは縄抜けだって、いとも簡単にしてしまうものだ。
シズクはベルトポーチから、小さな懐中電灯を取り出すと、あたりをぐるりと照らしてみる。
内側からドアを開ける方法はないのかしら………

 「きゃあっ」 がたたん!

と、そのときトラックがブレーキをかけ、シズクはバランスを崩しそうになって慌てて荷物にしがみついた。
ぶるるん、という音を最後にエンジンも止まったので、信号待ちでは無さそうだ。

 「はい、着きましたよー」

運転手が荷台の扉を開けてくれたが、シズクは明るさに目が慣れるまでじっとしていた。

 「お嬢ちゃん、大丈夫かい?」

運転手のおじさんが覗き込む。

 「ありがとう。大丈夫です」

心配そうなおじさんに明るく声をかけると、シズクは荷台から降りて外に出た。

新鮮な空気が気持ちいい。微かに花の香りもしている。
シズクは思わず深呼吸をしたくなった。
初めて来た町にしてはトゲトゲしさは感じられず、かといって歓迎してくれているふうでもない。

 「ここが、ミシロタウンね」

辺りを見回すと緑の樹木に囲まれた住宅街にある一軒の家の前にトラックは止まっていた。
道を挟んで向かい側には、住宅にしては少々大きめの建物がある。
案内板には「オダマキポケモン研究所」と書いてあった。

 「こんにちは、ミシロタウン。あたしはシズク、よろしくね♪」

一陣の風が舞う。シズクには町があいさつを返してくれたように思えた。


物語の主人公は、シズクという名前の女の子です。

ピカナダはとても凝り性で、ポケモンを強く育てるために、経験値が低い草むらでむちゃむちゃ歩き回るの平気だし、
キャラクターの名前を考えるのに、すっごく時間がかかるの。

最初にルビーを始めたときの、主人公の名前はシズカ。アチャモを選んだのね。
シズカはオダマキ博士の名前から、連想したんだって。

   吉野山 峰の白雪 踏みわけて
       入りにし人の あとぞ恋しき

   静や静 しずのおだ巻き くり返し
       昔を今に なすよしもがな

これは昔、静御前という女の子が、恋しい源義経を想いながら歌った詩なの。
名前はシズカでも、心の中は熱く燃えてた人だと、ピカナは思うけどね。^-^

いっぺんクリアして、次に始めたときの、主人公の名前は紫月(シヅキ)。選んだポケモンはキモリだった。

シズクは3人目の主人公なんだよ。