看護師になって二年。私は今、今までで最も厄介な患者の担当をしている。田村基樹(20)一週間前に交通事故に遭い、運び込まれてきた。両足と左腕、肋骨など数箇所を骨折していたけれど、トラックに思いっきり轢かれたわりには軽傷だった。頭も打っていなかったようだし、個室に入る必要もない。
Hospital...続きを読む
一瞬、何が起こったのかはわかりませんでした。ただ強く握られた手に、わたしの全てがかかっていたのは明確で、顔を上げると彼はとても苦しそうな顔でわたしの手を掴んでいたのです。「離すなよ」彼は苦しそうにそう呟きました。けれど、頭がぼんやりとして、手に力を込める事ができませんでした。血が流れ、冷たい風が体温を奪い、だんだんと感覚を失っていきました。「ありがとう、ございました」わたしは微笑んで彼にそう言いました。もう最後だと分かっていたのです。
掌...続きを読む
私の心をズタズタに引き裂いたあの人の言葉はいつまでもいつまでも、まるで壊れたCDプレーヤーから流れる音楽のように、何度も何度も私の頭の中で響きつづけた。あんまり唐突であんまり衝撃的だった別れの言葉に、私は目を開けたまま意識を失ったようだった。頭の中が真っ白でどこを歩いたかなんて分からない。あてもなく、それこそ糸の切れた凧のようにフラフラと冬の冷たい雨の中を彷徨っていた。
恋涙...続きを読む
歌が聞こえた。聴いた事もないメロディで、聴いた事もない透き通った冬の空気のような、透明な声だった。いつもの様に学校の近くに自転車を置いて、まだ開いていない校門をよじ登る。時刻は早朝、六時十二分。こんな時間に誰かが居た事なんて初めてだった。
秋桜並木...続きを読む
昼間は市を巡って行きかう人で賑やかな大通り。普段なら夜が更けるに従って人通りも減り、夜中ともなれば道を行くのは野良犬くらいのものだ。だが、この日は違った。都中のいたる所で松明の明かりが揺れ、鬼を探す衛士の声が響いている。「どこへ行った!?」「あの傷だ、そう遠くには行けないはずだ!」 殺気をみなぎらせた者たちが行きかう。隠しきれない焦りが大気を満たしている。鬼を探して走り回る男たちの表情には、怯えたような畏怖の念が浮かんでいた。
業...続きを読む
死んでもいいかなって思うんだよね
夏の焼け付くような太陽は屋上のコンクリートを焼き、広い空に浮かぶ入道雲はゆっくりと移動していた。遠くから聞こえる蝉の声、車の走る音、吹きぬける風。それに紛れて聞こえた声は、か細くてとても聞き取り難かった。けれどその言葉の意味は突き抜ける程潔く、耳に届いた。
涙の日に...続きを読む
楽しいはずの夏休みに、なんで物置の片付けなんかやらされなきゃならないんだ。物置なんていらない物をただ詰め込んでいるだけで、そんなに活用されているとは思えない。どれも埃だらけだし、現に片付けを始めてから一時間、出てくるのは使いもしない汚い掛け軸や壺ばかり。死んだ曾じいさんのコレクションらしいが、何が楽しくてこんな物ばかり集めたのか、俺にはさっぱり理解できない。
鏡夢...続きを読む
わたしは、幼い頃から人が近寄らない子供だった。みんなわたしを指差し何か先生に言う。みんなわたしに近寄ろうとしない。「葵ちゃん」先生がわたしの手を取ってしゃがみこむ。「どうしてみんなと仲良くできないのかしら」先生の言うコトバよりも、先生の思っていることのほうが強く聞こえる。そう、わたしは、人に触れることで、その人の考えを読むことができた。
あおいとり...続きを読む

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2012年1月1日
リニューアルしました。近況コンテンツ更新。
2011年3月18日
「錦の衣」
2011年2月20日
マイナーリニューアルしました。近況コンテンツ追加。
2010年7月25日
お題小説の移行が完了しました。
2010年7月19日
霜月の短編移行(仮)完了です。
2010年7月
リニューアルしました。
とりあえず小説移行は継続中。
とりあえず葉月さんの短編は全部移行完了です。
新規更新はできるように手配中です。

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