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『上々颱風8』聴いて 
muraoka 

「日本のビートルズ」上々颱風が本当に久々のニュー・アルバムを、発売する。前作が純粋なオリジナル・アルバムではなかったので、実質4年ぶりになる。本当に長かった。今回ソニーを離れてというかクビになって(笑)、立ち上げた自らのレーベルからのリリースとなるわけだがライブ会場での販売が中心になるだろう。いろいろな思いはあるが、まあこういうやり方も上々颱風らしくていいかなという気がする。
早速その会場で入手した『上々颱風8』を聴いた。

これは大変な傑作である!

かつて湾岸戦争の最中、上々颱風は「張り子の虎」という曲で、「お前の行くところ必ず災いが起こる」と米軍を痛烈批判した。
それは元々反基地市民運動をルーツとする上々にとって当然の流れであったが、今回でいえば「国旗の下に集まろう」という歌詞が何とも皮肉な「平和が戦車でやってくる」、あるいは「リンカイ」「チャイナ・シンドローム」という言葉が次々に出てくるコミカル・ソング「しびれMambo」。こういった曲は上々颱風の真骨頂だと思う。

ロック・バンドというのは常に新曲を出し続けていくことが最も重要でこれらのタイムリーな歌も新曲ならではだろう。
上々颱風は、現代の日本人が格好悪いものとして切り捨ててきた日本的な泥臭さを追求してきたが、今回は全体的に洗練されたポップなサウンドになっている。かつてのファンは上々もフツーのロック・バンドになったのかと嘆くだろうが、ご安心を。

にぎやかで楽しいエミ&サトのツイン・リード・ヴォーカルは「夏のバチ当たり」「ハラホロの涙」などに健在だし、お得意の洋楽カヴァー、「FANTASY」も原曲がアース・ウィンド&ファイアのあの大ヒット曲だとは信じられないほど別モノにアレンジしてある。これには参った。またライブで観ると最高なのが「恋の卍固め」。70年代B級アイドル歌謡のニオイがぷんぷん。何といっても話題は、古くからのライブでのレパートリー、「GEHETTO BLASTER」。なんとあの山下洋輔が参加、ヴォーカルのエミちゃんとドラムのマントと3人でバトルを繰り広げる。ラストの「ものみな歌に始まる」はNHKのドキュメンタリーから生まれた歌なのでご存じの方もいるだろう。

上々颱風は日本屈指のライブ・バンドである。ただここ数年間、旧作をどんなアレンジで演るかだけが興味の中心であったことは事実で、それは観客としてちょっと辛いモノがあった。しかしここで、新作を自らの手で出したことは彼らにとっての大きな決意表明だといえる。このポジティヴな意志こそがまさにロックなのであり、上々颱風がロック・バンドであることの証明なのである。これからも日本各地に上陸し、恵みの雨を降らせることを期待したい。

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