Visitor's Review

少年ロック
ふなくん mail

 あまり宣伝はされていないようですが、増井修さんのマンガ批評がこの度ようやく1冊の本となりました。タイトルは『マンガに恩返し』、版元はKKベストセラーズ。
『SPA!』誌上で93年から不定期連載されたコラムが中心であるため批評の対象となっているマンガはやや古いものではありますが、全篇とおして増井さんの「マンガに対してモノを言わずにおられるか」という熱い血潮が漲っているので対象作品が何であろうとグッと引き込まれてしまいます。今回単行本化するにあたって新たに11本のマンガ批評原稿が書き下ろされているのですが、それらにも良い意味で「相変わらず」な増井さんの熱血漢ぶりが確認でき、6月創刊を目指して鋭意準備中の新雑誌『少年ロック』には否が応でも期待してしまいます。

『少年ロック』というタイトルからはどうしても『オレモリ』あるいは『サイゾー』的な「開き直りとしてのサブカルチャー」臭が漂いますが、増井さんのプロフェッショナルとしてのバランス感覚がそんなせせこましいフィールド内に自分と読者をとどまらせることを許さないでしょう。ロックであろうがマンガであろうがまず「作品」があって、それに対する「批評」をひとつひとつキチンとやっていけば時代だとかシーンだとか何だとかの事情もおのずと浮かび上がってくるのだと増井さんは考えているはずです。そう、『スヌーザー』のようなことになることもまずないでしょう。

さてそんな『少年ロック』、おそらくというか間違いなく、誌面ではマンガ家インタビューというものが活発に行われることになるでしょう。「マンガ家とはポップ・アーティストであり、アーティストとしてのマンガ家の生の顔を我々はもっと知りたいのだ」と増井さんはつねづね言っており、それはつまりルックスもメディアへの露出の仕方もすべて表現の中に含まれるミュージシャンという人種と同じ地平にマンガ家も立たせたい、そうすることで「マンガ」はもっと面白くなるはずだという増井さんのジャーナリストとしての確信的な「読み」であると思います。私はといえばマンガ家なんて毎週毎週締め切りに追われて風呂にもロクに入らずユンケル飲みながら徹夜続きの生活を送り女にモテるどころか会話することもままならない社会的脱落者であるべきで、そういう人間からしか面白いマンガなど生まれねえんじゃねえかと心のどこかで思ってたりもするのですが、それじゃマンガに未来なんてありゃしないって話です。そう、増井さんの『少年ロック』による挑戦はマンガという文化の未来に大きく関わってくるものになると思います。そういうわけで『少年ロック』、私はかなり期待してます。ビジュアルもバッチリきめて紙質も良いものを使ってほしいです。
まあ増井さんの場合、そんなこと単なるド素人の私に言われるまでもないと思いますけど。

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