ヴィジュアル系と、それ以外のジャンルとの間に存在する溝
それまで、ユニコーンだの電気GROOVEだのオリジナルラヴだのスチャダラパーだの聴いていた私が3〜4年前、今で言うところの「ヴィジュアル系」というジャンルに入るバンドの音を聞き出すようになった。そしてライヴなどに足しげく通うようになった。とは言え、今まで聴いていたものを全て遮断したワケでは無い。それまで嫌いだったハードコア、メロコア系の音も今は好んで聴くようになった。私は「主にV系を聴きながら、かつフリーペーパーやラジオなどで、他のジャンルもチェックする音楽生活」に入った。
その内、奇妙な事に気付く。「V系は扱うには扱うがリコメンドしないレコードショップ、メディア」と、「V系を主に扱うレコードショップ、メディア」というものが存在しているのだ。もちろんV系、とそうでないもの、両方とも取り上げるメディアもある。しかし、そういう雑誌はほとんどが中高生向きの、「好きな食べ物は?」「好きな女性のタイプは?」というのが中心になる、ミーハー心満載の雑誌である。(せいぜい、まともに取り上げてるのはUVくらいか?)
「V系を扱わない(以降≠V系)」の方は、徹底的にそのジャンルを締め出す。特に外資系レコードなんてその傾向が顕著だ。たまにリコメンドする場合もあるのだが、それは百万売るようなレベルのバンドだけで、特にインディーズのバンドの場合はまずジャケ出しなんかしない。(コア系とか、テクノ系はジャケ出しするのに)雑誌の場合は、インタビュー記事が全然ないし、CDレビューも無い。で、「主に扱う」方は、店があまりにも狭く、一歩入るとその系統のポスターがベタベタと貼ってあり、V系好きが買いそうなミニコミ、音楽誌が積まれている。初めて来た人は異様な雰囲気を感じるであろう。雑誌を開くとグラビアだらけ。見事に化粧した兄ちゃん(一部、姉ちゃん)しか出て来ないんである。
「V系」「≠V系」のファンは、こういう状況の下振り分けられて行く。アイドルに飽き足らなくなってGLAYとかラルクに目を着けた思春期の少女が、「V系」に惹かれ出すと、「V系」の本を読み、「V系」のライヴに行き、「V系」のレコードショップに通う。その少女が、「≠V系」の音楽に手を出す機会というのはほとんど無くなる。彼女が手の届く範囲にそういう音楽が無いから。あるのは、テレビから流れるチャラチャラした音だけ。もし、友達に「≠V系」の子が居て、その子に強く勧められたりするような事があるなら別、だが。
ファンだけじゃなく、アーティストも「V系」はがんじがらめだ。インディーズの時から音源を事務所に管理される。「≠V系」のアーティストと対バンすることも無い。「≠V系」は本当にいろいろなジャンルがあるから、ジャンルを越えた交流がなされて音楽性も高まるが、「V系」ではそれも難しいように思われる。メジャーに出たらそういう事も可能かと思うと、メジャーに出ると、「売れセン」「アイドルに毛の生えた存在」になるよう、スイッチングされるから、音楽性も志も低くなってしまう。「V系」アーティストが本当に音楽的に自由になれるのは、だいぶ売れてからである。hideが天衣無縫の活動が出来たのも、十分に売れたからだろう。
「V系」「≠V系」両方とも好きな人間からしてみると、この奇妙な棲み分け、そして閉鎖された「V系」の世界が何とも気分悪い。誰かがこの状況に風穴を開けてくれたら、いいと思う。そういうと、ROの掲示板では「V系の賛否」というのがやっていたが、RO読む人なんかは「V系を主に聴かない人」が多いようで、(V系主に聴かない=RO読者、というのは言い過ぎだとしても、V系主に聴かない≒RO読者、くらいは言えるだろう)まぁせいぜい「GLAY、ラルク、ルナシー、ペニシリン、マリス」のような氷山の一角のバンドでもって論じているに過ぎなかった。せめて、「GUNIW TOOLS、森岡賢、Plastic Tree」くらいのレベルで討論していただけると有り難いのだが・・・。そういうV系の中でも特に音が凝ってるアーティストを何故「≠V系メディア、レコードショップ」ではリコメンドしてくれないのだろう。本当に歯痒い。
大阪のとある雑居ビルの中では、アナログレコードショップとインディーズヴィジュアルショップが隣同士に存在している。しかし、その二店舗を行き来する人間など居ない。東京のとあるインディーズショップでは、同じフロアにあったコア系とヴィジュアル系を、一階、二階と分けた。溝はどんどん広がっていく。