Visitor's Review

趙博ライブを観て
muraoka

6月20日、狛江市のシアターBeフリーという所に趙博(ちょう・ばく)さんの東京初のライブを観に行った。
趙博さんは、大阪猪飼野の唄う巨人というより怪人というべき人物で、その名からも分かるように在日朝鮮人である。
自称「ソウルフラワー・モノノケ・サミット」の準構成員(笑)という彼を僕は過去2回観ているが、モノノケのライブがらみで1、2曲唄うという程度のものであった。
それだけに今回のワンマン・ライブは本当に楽しみであった。
初めての客がほとんどであったため、冒頭自己紹介代わりに前日永六輔のラジオに出演したときのテープが流された。
そして趙博さんの登場である。
デカイ!100キロはゆうに越える巨体にサングラスとにかく威圧感たっぷりの容姿。
しかしその口調は実になめらかというか飄々としている。
大阪人がみんな落語家か漫才師みたいだというのは勝手な偏見だろうが、とにかく面白い人なのである。
基本的に新アルバム「ソリマダン」からの曲を中心に一人でギターを弾き語りするというスタイルのライブでしゃべりは三枚目、歌は二枚目という趙博さんの面目躍如といった内容のライブだった。
「ソリマダン」は趙博さんのオリジナルの他に「泣いてたまるか」「ヨイトマケの唄」「イムジン河」などのカヴァーで構成されているが、これらがまた素晴らしい。
「泣いてたまるか」は昔の渥美清主演のTVドラマの主題歌なのだがほとんどの客が知っていた、いかに客の年齢層が高いかの表れだろう(笑)。
「ヨイトマケの唄」は辛淑玉が言うように美輪明宏の匂いのしない初めてのカヴァーだ。
趙博さんによるとパンソリを日本語でやったらどうなるかという試みから生まれたものだという。
オリジナルも素晴らしい。
例えば、モノノケが全面的にバック・アップする「橋」 プロデュースは中川敬。
この歌では、朝鮮人として大阪人として誇り高く生きる趙博さんの、ここが故郷なんだという熱い思いとと同時にその故郷が変わってゆくことへの寂しさが歌われている。
趙博さんは自分のことを朝鮮人という。
韓国人という呼び方よりも差別的なニュアンスが朝鮮人にはある。
しかし趙さんはいう、「朝鮮人」でどこが悪い。
オフレコだが、かたくなに在日であることを隠し続けるある大物女性歌手の話も出た。
彼女の母親と趙博さんのお母さんは仲の良い友達だという。
「隠すなっちゅうねん(笑)。」

「イムジン河」は歌詞の一部を英語で歌った。
これがまたサマになっていて、それもそのはず、趙博さんは某大手予備校の英語の講師でもあるのだ。
かっこ良すぎる。
チャリティ活動にも熱心な趙博さんは「夢がぷくぷくわいてくる」などという実に似付かわしくない歌も歌っているが、誰かのためにいいことをしているという意識はないという。
友達だからちょっと手伝っているだけ。
どこまでもかっこ良すぎる人なのだ。
最後は「ソリマダン」のオープニングを飾る「念仏ブギ」文字通り念仏をブギにした不謹慎かつ痛快なナンバー。
アルバムではちんどん通信社がバックをつとめているが一人でどうやるのかと思っていたら、カラオケだった(笑)。
この歌を歌い踊る趙博さんがちょっと可愛かった。

公演終了後、客と歓談する趙博さんは本当に腰の低いいい人であった。
僕もあいさつしたのだが、人を外見で判断してはいけないという教訓がこれほど当てはまる人もいないだろう。
7月には同じ猪飼野出身のマルセ太郎さん作演出による「イカイノ物語」の劇中歌を歌う趙博さんだが唯一の心配はマルセさんがまた入院してしまうらしいことである。

最後に辛淑玉さんによるライナーからの一文を紹介しよう。
『「ソリマダン」には国や歴史や親子や貧富や身体や時代の 境界で生きる人間のペーソスがある。』
名盤である。

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