ここに刺したら・・・


 もう〜今回は、このコーナーを始めるときからやりたかったネタです。
 まずは下の図のシーン1を見て下さい。

シーン1 シーン2
妖しのセレス11巻 P186より 妖しのセレス7巻 P22より
妖しのセレス11巻 P186より 妖しのセレス7巻 P22より

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 首筋にぶっすりと針が刺さっていますが、刺された人は、この後ばったりと倒れています。もう1人の ガードマンさんが額を撃たれて死んでいるので、恐らく殺されたのでしょう。
 このシーンではアッサムの顔は出てきませんが、シーン1の針を刺している手の色と、シーン2から考えて 、恐らく彼の仕業だと推定されます。

 で、鍼師の私の目から見ると、これは結構おかしいシーンだったんです。

 と、いうのも、シーン1で刺している場所には基本的に厚い筋肉が存在するだけで、細い針を刺した 所で、生命を脅かすことが出来ないからです。

 シーン1で刺している場所は、イラストから推し量って、大体頸椎の4・5番目くらいの高さ です。また、イラストには胸鎖乳突筋の盛り上がりと思われる線が描かれていますから、確実に胸鎖乳突筋より も後方に刺さっていると考えられます。

 その場合、全く首の真横であれば、その奥には頸椎があって、脊髄までは針が届きませんし、位置が 多少後方なら僧坊筋の上部線維を貫いて板状筋に達し、場合によっては頸椎の後ろにある突起と突起の間を 貫いて、反対側に抜けてしまうので、重要な組織を破壊することはありません。

 さらに、実際にこの場所は、私自身が授業で刺しっこしている場所なんです(^^;)。ついでに個人的に 友人に頼んで刺してもらってた場所でもあります。
 その時は、ホントにアッサムが手に持ってる位の長さの針を使って、左から右へ頸骨の突起の間を貫いて 反対側の筋肉まで刺していたんですが、これが首の頑固なコリがスッキリと取れたんですよ(^^)。 ちょっとびっくりでした。以来病みつきになって、友達に刺してもらったり、自分で刺したりしてました。

 ただし、アッサムの持っている針は、アッサムの手(子供の手の大きさと仮定)と比較しても太い物で はありませんが、治療用の針にから考えるとかなり太めのものです。
 日本で一般的に使われる治療用の針は、太さが0.2mmですが、アッサムが持っている物は恐らく約1m m位の太さの物と思われます。
 ちなみに0.3mm位の太さの針を刺されただけでも、身体はかなりの抵抗感を感じます。
 ですが、それでも直接脳や心臓を狙わないと殺すことは難しいでしょう。

 ただし、ここでちょっと忘れていたことがありました。
 下のシーン3を見て下さい。


シーン3
妖しのセレス7巻 P22より 妖しのセレス7巻 P22より
妖しのセレス7巻 P22より

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 このシーンはアッサムが初めて登場し、沖縄で十夜を刺した時のシーンです。

 勘のいい方はもうお気付きと思いますが、アッサムは暗殺者で、しかも針に毒を塗って刺してい るんですよ。
 ですから、この場合、上のシーン1は刺された事によって死んだのではなく、針の毒によって殺され たのだと思われます。
 かなり即効性の毒のようですが、実際にアフリカの方ではヤドクガエルというカエルから抽出した毒を弓矢 に塗って、それで獲物をしとめているそうで、その毒は素早く全身に回り、筋肉を動かなくしてしまう 作用があるようです。ですから矢で射られた獲物はすぐに動きが鈍くなり、最後には呼吸が出来なくな って死んでしまいます。  沖縄で十夜を刺したときに、「身体が麻痺して動けなくなる・・・」と言うようなことをアッサムが話 しているので、恐らくは同種の毒だと思われます。

 つまり、上のシーン1は「アリ」なシーンなんですよ(^^;)。


 ですが、転んでもタダじゃ起きません(^^;)。むしろ問題なのはシーン3の方なんです。
 と、いうのもシーン3で、十夜が手で押さえている場所を見て下さい。

 腰の位置や、シャツの位置から考えて、この場所は確実に胸部で、まだ肋骨のある部分か、或いは、 横隔膜に近いような、限りなく胸部に近い場所なんです。
 これがなんでやばいかと言うと、シーン2のアッサムの手にある針は、どう見ても5cmは刺さった後に 見えるんです。つまり肋骨のあるような場所に、ぶっすりと5cmも太さが1mm近くもある針を刺されている んです。
 ちょっと医学の心得がある人なら、ここまで読んだだけでも、もう青ざめている筈です。
 肋骨と言うのは、元来肺や心臓を保護する為の物なんです。つまりは、肋骨のある場所、胸部と言うのは、 すぐ下に「肺」のある場所なんです。
 つまり、あの針は、肺まで到達している可能性があるということです。

 横隔膜は皆さんご存じだと思いますが、横隔膜は一番下の肋骨に、お腹と胸を遮るような感じで張り付いて いるんです。そして、肋骨と横隔膜で囲まれた胸の中には、肺と心臓が入ってます。

 で、大切なのが、人間は呼吸をしてますが、「肺には息を吸い込む機能は付いていない」と言うことです。

 息を吸うには、横隔膜を動かすか、肋骨を動かさないと空気は肺の中に入ってきません。
 肺は、肋骨で保護された中に、胸膜と呼ばれる膜に包まれて入ってます。そして、その胸膜と肺の間は 陰圧と呼ばれる状態で、イメージとしては真空見たいな状態になってます。
 そのお陰で肺と胸膜は密着した状態が保たれ、肋骨や横隔膜を動かしたときに起こる胸膜の動きによって 肺は膨らんだりしぼんだり出来るんです。

 ちょっと息を大きく吸ってみましょう。どうですか?胸があがってくるでしょ?
 つまり、肋骨を上にひっぱりあげて、あるいは横隔膜を下へ引き下げて、胸の中の体積を増やしてやるこ とによって、空気が入ってくるんです。
 逆に息を吐くとどうでしょうか?今度は胸が下りますね?つまり胸の中の体積が小さくなって、その分 空気が出ていくんです。
 人間は、そんな些細な運動で肺のガス交換をしているんです。
 肺に筋肉がついていて、膨らんだりしぼんだりして呼吸をしているんじゃないんですねぇ。

 ちょっと解りにくいですが、呼吸の概念図を下に上げておきます。

呼吸
からだのしくみ・はたらきがわかる事典より
からだのしくみ・はたらきがわかる事典より

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 もし、胸膜に針が刺さるとどうなるでしょう?

 なんと!胸膜に穴が空くと、肺がしぼんでしまうんです!

 で、肺には自分で膨らむ力はありませんから、呼吸が出来なくなります。
 この状態を「気胸」といいます。
 ちなみにこの状態は0.2mmしかない治療用の針でさえ起こるような現象なんです。

 だから、アッサムがあんな刺し方をすると、確実に十夜の左の肺はしぼんで呼吸が通常の1/2になって しまっている筈なんです。
 もう「毒」とか「抵抗力」の問題じゃないんですねぇ(^^;)

 ちなみに、あの太さの針だと出血もありそうですから、胸膜と肺の間に出血した血液がたまって、 さらに呼吸ができなくなります。
 まだ片方の肺は機能しますから、すぐに窒息死ということはないと思いますが、それでも格闘などは出来る 状態じゃありません。

 にも関わらず、「毒なんて効かないぜ」と言わんばかりに格闘戦始めちゃうんだから、やっぱり十夜 って普通の身体じゃないんですねぇ。

 また、毒針を使いつつも、わざわざ危険性の高い胸部を狙うアッサムもプロだなぁと感心してしまいます。

 渡瀬先生も、意識して描いてるとしたら、かなりの勉強家ってことになりますね(^^)。

 う〜ん、今回はちょっと苦しかったかなぁ(^^;)



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