あめいろの花






―――ああ、雨だ。




降り出した雨に土が香る。
何故か落ち着く匂いだ。

庭の植木は青々として、葉を伝い流れ落ちる雫は絶える事なく流れ落ちる。


祖母が好きだった花を今も世話する弟とは違い、元から植物の名など良くは知らない。

梅が終わり、桜が終わり。
白いのや、黄色いのや、紫の花が咲いて散って。


今は紫陽花の季節だ。


生まれ育った鎌倉が紫陽花で有名だった為か、この花ばかりは馴染みが深い。
近所にも名所があった。

季節になると、青や紫、ピンクと色とりどりに咲き乱れ。
それを見る為に訪れた人々で、普段は決して人通りの多くない道が人で溢れた。


この庭にも咲いている。

ただ、色は一色。
家の主がその色を好む故と言う訳ではなく、この世界にはその色しかないのだという。

流石にこの季節の花だけあって、雨が似合う。
雨が滲んだような色合いは、しっとりとした風情を漂わせている。


以前、この世界に来るまでは、雨の日なんてじめじめして鬱陶しいだけだった。
けれど、今は思う。


こんな天気の日もいい。


文字通り東奔西走の日々がつづいているためか、余計にそう思う。

比較的、だが、ゆったりと過ごせる雨の日は、身体ばかりでなく、心も休まる気がする。
雨水が大地に染み込んで潤すように、雨音が奏でる心地よい音が身体に心に染み込んでいくような感じだ。


身体の力を抜き、気負いを捨てる。
無防備に、ただ在る。


そんな僅かな心の隙にふと押し寄せるものは郷愁。

慌しさに忘れかけていた。
否、無意識に忘れた振りをしているのか。


懐かしい平和な日常、大切な人達。
溢れ出しそうになる、恋しさ。



―――帰りたい。



思わず口を突きそうになった言葉を、押し込める。

帰りたい。
それは嘘じゃない。


だけど。
だけど、此処にも大事なものがある。

絶対に失いたくない、大切なものが。


だから、その気持ちに蓋をして前を向く。
今、何より望む未来だけを見つめて。


生を。
幸せを。

俺には全てを護れる程の力はないけれど、せめてこの人達だけは。


ただそれだけを願い、記憶の中の色を封じ込める。
そう、この色だけでいい。





今は、これだけで―――





Lenさん、ハッピーバースデー!!
素敵な一年でありますようにv

晴れやかな話ではないのですが、相変わらずのグルグル将臣ですが。
誕プレとして受け取っていただけますれば幸いです。

以下はおまけの薀蓄というか、これを書かないと内容さっぱりかもしれませんので。

紫陽花の原産は日本。
青を集めたと言う意味の集真藍(あづさい)から来ていると言う名の示す通り、元々の色は青。
それが西洋に渡って品種改良されたものが逆輸入され、今の色とりどりな紫陽花があるのだそうです。
という訳で、青い紫陽花に物思う将臣です。
タイトルのあめいろは、雨の色であり天の色、青です。(造語)
ついでに、平家の存続を願う将臣の気持ちとエターナルブルーを掛けてあります。


聖亭」遠戸様より誕プレに頂きました。
ヤッフ〜イ♪
いつも素敵なお話をありがとうございます〜〜vv
グルグル将兄さん、大好きですvvな
将臣をグルグルさせ隊隊員のLenですvv

紫陽花に重ねる望郷の心と
今(京)にいる人たちへの想い…。
グッジョブ!