君に告ぐ・・・





迷宮の一件が片付き、数日。
年も明け、お節料理にも飽きた頃。


ふと、どうしても他のものが食べたくなって、コンビニに出掛けた。


流石にあの大人数での生活の中、自分のものだけなんて事はしない。
一応、他の奴等も口にするだろうものを一緒に籠に入れていく。

そして、氷を買っておこうと向かった冷凍庫の前でふと動きを止める。



・・・朔って、いちご味がお気に入りみたいなんだよね。



そう言いながら、幼馴染がいちご味の菓子を買い込んでいた事を思い出した。
その中に唯一なかったものを、思わず手に取る。

流石に、この季節にこれはあまり食べようとは思わない。

だが、折角の期間限定異世界ライフだ。
余す所なく、楽しんで欲しい。


これを口にした彼女がどういう反応をするのか。
それを想像しながら、手にしたものを籠に放り込んだ。




「おかえりなさい、将臣殿」




向こうの世界の習慣なのか。
わざわざ出迎えてくれた彼女に、好きな娘におかえりを言ってもらえる幸せを噛み締める。


「ただいま、朔。色々買ってきた」


そう言って差し出す袋を覗き込む彼女を見ていると、自然と顔が緩む。
なんだか、同棲カップルみたいな遣り取りだ。

そして、二人で仕分けしながらリビングを見回す。
随分静かだと思えば、いつもなら誰かいる筈の部屋には誰もいない。


「・・・他の奴等は?」

「皆、出掛けたわ。
今の内に、色々行ってみたい所があるみたい」


俺達の冬休みと同じく、皆の残り滞在日数も随分少なくなった。

二度とは体験できないものだ。
楽しんでいって欲しいという俺達の願いと同じく、彼等も満喫したいと思っているのだろう。


「朔は?」

「私は、昨日の初売りせえるで一寸疲れてしまって・・・」


そう。
昨日、彼女は望美に連れられてデパートの初売りに出掛けて行ったのだ。
俺も荷物持ちとして連れて行かれたのだが、人ごみと熱気でかなり疲れた。

耐性のある俺ですらこれだ。
慣れない彼女は、俺以上だっただろう。


「・・・成程。
じゃ、お疲れの朔にはこれ、な」


そう言って差し出したのは、件のもの。
彼女の為だけに買ってきたものだ、他の連中がいないのは寧ろ好都合。


「いちご味がお気に入りだって聞いたからさ。疲れた時には甘いものがいいんだぜ?
・・・って、一個だけだから他の奴等には内緒な」


片目を瞑ってみせると、一瞬の瞠目の後に笑みが零れる。
嬉しそうなその姿が、何より嬉しい。

買ってきたのは、いつもなら決して自腹で買ったりはしない、一寸上等なカップアイス。
美味いと有名な奴だ。


「・・・おいしい・・・!!」

「そっか!そりゃ良かった!」


リビングのソファに座って、笑みでアイスを口に運ぶ彼女を俺も笑みで見詰める。


「この世界にはこんなものまであるのね」

「ああ、夏場なんて最高に美味いぜ!」

「贅沢ね・・・!!」


この寒い季節に、暖かい場所で冷たいものを食べる。
それも、とても贅沢な事だと思うのは俺だけではあるまい。

思わず苦笑を零した俺に気付く事なく、しきりに感心する彼女に、もっとと言う気持ちが沸き起こる。


もっと驚かせたい。
もっと楽しませたい。
もっと喜ばせたい。

だが、せめて夏まで、なんて無理な話だ。


「・・・残念、だな」


怪訝な顔の彼女に苦笑が浮かぶ。


「いや、アイスは夏になると品数増えるからさ。
いちご以外にもマンゴーとか桃とか、他にも色々出てくるんだよ」


なんてのは、本当は口実。
俺が彼女ともっと一緒にいたいだけ。

・・・誤魔化していても仕方ない。

数日の内には元の世界に帰ってしまう彼女だ。
そうなれば、想いを伝えるどころか二度と逢う事すら叶わないだろう。

今、動かなくてどうする。


「・・・あのな、朔。
朔の気持ちはわかってる。でも聞いてくれ」


急に真面目な顔をした俺に、軽く目を見張りつつも姿勢を正す彼女。
俺も、もう後には引けない。



「俺、朔が好きだ」



驚きに見開かれた瞳が、暫しの後には哀しげに伏せられる。


「・・・・・」

「わかってる。
でもちゃんと伝えておきたかったから、さ」


笑ってみせても朔の顔は、暗い。
こうなるだろう事がわかっていたから、躊躇っていた。

だが、言ってしまったものは仕方がない。


「朔〜!!
大丈夫だって!だからそんな顔するなよ!」


そう、自分で言うのも何だが、俺は失恋程度で立ち直れなくなる程、繊細には出来ていない。
それに。


「・・・この程度でそんな反応されてちゃ困るぜ?
俺、こう見えて諦め悪いんだから」


意味を計りかねているらしい彼女に、宣戦布告。


「一回告ったからな、後は遠慮しないぜ。
・・・覚悟しとけよ?」


挑むように見つめ、口の端を上げる。

流石に彼女も言葉の意味を理解したらしい。
戸惑ったように瞳を瞬かせている。

その姿が可愛らしくて、思わず頬が緩んだ。


「・・・ま、それはおいといて、だ。
アイス、溶けるぜ?」

「え、ええ・・・」


こちらを伺いつつ、アイスを口に運ぶ彼女。
その姿を笑みで眺める。


あと数日、どう彼女と過ごそうかと考えながら。


暑中お見舞い申し上げます。


2006年 夏
聖亭 遠戸なのか


季節は真逆でも暑中見舞いです。(笑)
本当は、夏オチで締めようと思ったのですが、此処で締めた方がまとまりが良さそうなので削除。
ちなみに、夏の将朔デートin小町通に朔の付き添いとのたまう望美&
望美の付き添いとのたまう譲のお邪魔虫コンビがついてきて。
小町通の入り口にある31で将臣に集るという、相変わらず不憫な将臣で締まる予定でした。(笑)

リクは、迷宮設定の将朔。
イチゴアイスが好きな朔にそれを買って帰る将臣・・・と言う事でしたが、
一寸だけ書きやすいように変えてしまいました。
申し訳ないです・・・。
まだ、将→朔ですが、きっと朔が帰るまでには何らかの進展がある・・・筈。
頑張れ、将臣。
押して押して押し倒せ!(あれ?)
やたら積極的になった将臣に朔は翻弄されるんだろうな・・・可愛い〜vv(妄想)
ああ、可愛い朔妄想が止まらない・・・!!

2006/07/28



毎度お世話になっている「聖亭」遠戸様の暑中見舞いを強奪してきました。
やほ〜う。
将朔〜!
オーゲー!イエ〜!!
もちろんイチオシは将望ですが、将朔も好きさ!
マイナーCPだけどね!!

流石は朔好きさんが書く朔!!
つー位カワイイ朔です。
余はご満悦です。
涎垂れます♪
これからもカワイイ朔妄想で飛ばして欲しいです!!