いつもそこに君がいた






夏の熊野路。
決して楽とは言えない海辺の道を行きながら、久々に顔を合わせた幼馴染が言う。


「あっちはそろそろ江ノ島の花火大会だよな・・・」


その言葉にはどこか郷愁が漂っている。

共に時空を越えたのではあるが、その中で一人はぐれた彼は、私達より過去に飛ばされたらしい。
こちらへ来て一年にも満たない私達より、感慨深いのも当然だろう。

その心情を思いやり、敢えて明るく努める。


「そんな時期か・・・今年は出店巡り出来ないねぇ・・・」

「・・・お前、色気より食い気だよな、ホント」

「将臣君には言われたくないですよ〜っだ!!」


舌を出してみせると、宥めるように頭を軽く叩かれた。
まるっきり子供扱いだ

些かむっとして自分よりずっと背の高い彼を見上げると、優しい瞳で見詰められている事に気付いて何も言えなくなる。


「・・・そういや、望美。
お前、昔は花火苦手だったんだよな・・・?」

「だって、凄い大きな音じゃない・・・!!」


からかいを含んだ声音。

羞恥に音量を増した言い訳に、周囲の仲間達の視線が集まる。
ますます恥ずかしくなって、八つ当たりに軽く彼を小突いた。


体にまで響く、大きな破裂音。
それが恐ろしくて、昔は花火が苦手だった。
同じ理由で苦手な雷は、今でも駄目だ。


夜空に咲く大輪の華。

その美しさを堪能する余裕などなく。
ただただ、あの音に怯えて泣きじゃくっていたあの頃。


何時から平気になったのだろう。
気付けば、怖いとは思わなくなっていた。


道を行きながら、思考を巡らせる。
しかし、ぼんやりと考えに耽っていられる程、舗装されていない道は平坦ではない。


「・・・・・きゃあっ!!」


うっかり躓いた。

結構、派手に転んでしまった。
恥ずかしくて顔が上げられない。


「おい、大丈夫か・・・?」


何時までも動かない私を心配したのだろう、彼の声がした。


「うう〜っ、格好悪い・・・」

「考え事しながら歩いてるからだって・・・」


このまま突っ伏している訳にもいかない。
渋々ながら顔を上げると、少し呆れたような苦笑に迎えられる。

自業自得とは言え、面白くはない。


「大丈夫か?ほら・・・」


幾分不機嫌になりながら立ち上がろうとすると、手を差し伸べられた。
その手を取ろうとして、ふと思い当たる。


幾つの時だったのかははっきりしない。
けれど、あの時もこうしてくれたのだ。




「・・・大丈夫だって、俺がいるだろ?」




今考えれば、無駄に自信満々だったな、なんて事を思わないでもない。


だけど。

やっぱり、あの大きな音は怖かったけれど。
繋いだ手の暖かさに、涙は止まっていた。


「・・・将臣君には敵わないなあ・・・」

「はあ・・・?」

「ううん、何でもない」


言いながら手を取り立ち上がると、怪訝な表情を向けられた。
私は笑って誤魔化す。


「・・・とりあえず、怪我は?」

「ん、平気」


きっとそう遠くない未来。

私達の両親のように、彼にも大切な人が出来る。
この手を離す日が来る。

わかっている事だけれど。



けれど。






もう少し先だといいな、なんて思った本当の理由を、私はまだ知らない。





暑中お見舞い申し上げます。

2005年 夏
聖亭 遠戸なのか

無自覚な望美→将臣で。
でも多分将臣×望美。
どうも望美&将臣で書こうとすると、
望美→将臣になるかネタに走ってしまいそうになる傾向が。(爆)

花火が苦手だったのは私の従弟妹です。
奴らは手持ち花火にすら怯えるビビリでした。
あそこの兄弟は全員花火駄目だったなあ・・・。

私を含めその他の連中は、30連発の打ち上げ(注意書きに手で持ってはいけませんとある)を手持ちしたり。
ロケット花火を川?に投げ込んで妙な音をさせて喜んだり、ねずみ花火を人に投げたり。
そういうやんちゃなお子様でした。

将臣も後者タイプだな・・・。(笑)
ついでに拙宅神子もそっちだろうなあ。
望美ちゃん、女の子だ・・・v
でも最初、それは譲の役目でした。(酷)

ちなみに江ノ島の花火はまだ見に行った事がありません。
と言う訳で出店の話とかは想像です。
有名みたいだし、きっとそのくらい・・・。

2005/07/21






いつもお世話になっている聖亭様にて、配布なさっていた暑中見舞い小説を頂いてきました。
強奪〜〜♪
貰ったモン勝ち〜〜イエ〜イ!
無自覚な将臣×望美大好きさ〜〜♪
遠戸さん、エスパー??
何でワシの好み、わかるんですか??